ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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「ヴァナヘイム」

人類発祥の地であり、最も古く尊い種である天翼族の本拠地。
少し昔までは他種族を決して受け入れることはなかったが
ジスモア卿の奮闘により少しずつ観光地としても有名となってきている。


なお、入場料はバカみたいに高いので普通の人類ではまず足を踏み入れる事は
出来ないと思ってもよい。



プランは黄昏ている

 

 

「ねぇ、あいつは死んだの?」

 

 

ヴァナヘイムを訪れていたプラン・アリストテレスに天翼族の子供はいきなりそんな質問を浴びせかけた。

久しぶりに出会ったジスモア卿との会談を一通り終えた後、特に用事はなかったがヴァナヘイムの街並みを見てみたいと思って散策していた時の事である。

プランは子供を見る。身なりのよい恰好をしたその子は、天翼族の貴族階級の子息であると推察できた。

 

 

子供の後ろには同じように仕立てのよい衣服に身を包んだ子らが何人もいて、一人を除いて全員の顔には酷薄な笑みが浮かんでいた。

プランは微笑みながら膝をつき子供と視線を合わせて言った。

 

 

 

「いきなりどうしたんだい? あいつとは?」

 

 

 

「薄汚れた翼のルファスの事さ! 

 いつの間にか見なくなったと思ってたんだけど、お兄さんが連れていったんでしょ?」

 

 

 

高揚を隠し切れない顔で少年は言葉を吐き散らす。

その顔には子供特有の無邪気な悪意がありありと宿っており、瞳は楽しそうに細められている。

 

 

 

「で、死んだの? それともお兄さんが殺しちゃった?」

 

 

「彼女なら元気にしているよ」

 

 

プランの言葉に露骨に子供の顔が歪む。

悪意と嗜虐に満ちた顔であったが、ここではコレは普通の事であった。

もしも白い翼の者にこんな言葉を吐いてしまったらいかに貴族といえど親共々叱責されるだろうが、生憎ルファス母子は人として扱われてはいない。

 

 

この少年にとっても、そしてこの子の親にとっても、更に言うならばジスモアにとってもアウラとルファスは同族ではなく、不愉快な害虫なのだ。

数万年単位で刷り込まれ続けた“常識”という名前の差別意識の最たるものがこの子供であった。

 

 

「どうして殺さないの! 

 あんなやつ生かしてちゃダメだよ。

 あいつは咎人の血だから、苦しめて殺さないとダメだってママもパパも言ってたんだよ?」

 

 

 

「……」

 

 

プランは何も答えない。

彼はいつものように微笑んでいるだけだ。

傍から見れば子供の必死の訴えに鷹揚に耳を傾ける大人の姿にしか見えない、完璧な笑顔の擬態であった。

 

 

うん、うん、と頷くだけのプランに子供は気分を良くしたのか更に言葉をまくしたてる。

まだまだ子供というのもあり、相手の都合など何も考えずに喋りたい事を喋る姿がそこにはあった。

 

 

 

「あいつを山から叩き落してやったのは僕なんだ! 頭に石をぶつけてやったんだ!!」

 

 

「うん」

 

 

胸を張り、誇らしげに子供は己の所業を語る。

そんな彼の行為に回りの子らは嫌な顔をするどころか「すごい」やら「かっこいい」等と称賛の声を上げた。

彼の後ろに佇むおかっぱ頭の少年だけが顔を顰めて不快感を露わにしていた。

 

 

「あの時のあいつの顔ときたら最高だったさ。

 そのまま山で摩り下ろされて死ねばよかったのに。……まさか、お兄さんが助けたの?」

 

 

「違うよ」

 

 

 

プランの無機質な返事にも子供は何も感じない。

あのままルファスが死んでいれば僕は英雄で、ママやパパにも褒めて貰えたのになーと唇を尖らせるだけだ。

 

 

「他にも……」

 

 

 

延々と少年とその取り巻きは己の所業をプランに語り聞かせる。

熱した油をかけてやったこと、火をつけてやったこと、あげたパンの中に毒を混ぜてやった事。

母と暮らしていた小屋にいくつもの穴を開けて夜風を防げなくしてやった事、あと少しで凍傷で指を落とせたのにと彼は心から残念がった。

 

 

友達たちと行ったそれらを子供たちは本当に心底誇っているようだった。

一通り話し終えた後、彼らは今まで自分たちの後ろで黙って佇んでいた少年に視線を向けて言った。

 

 

 

「メラク様もお喜びになられてましたよね!」

 

 

 

「……え? いや、ぼくは……」

 

 

急に話を振られるとは思っていなかったのかメラクと呼ばれた少年が目に見えて困惑する。

今までみんなの後ろで存在を消す様に立ち呆けていたおかっぱ頭の少年の名はメラクといった。

ルファスと同年齢か、少しだけ上程度の彼は視線をあちらこちらに移し、最後はプランを縋る様に見つめた。

 

 

が、プランの笑顔と目線が合うとすぐに逸らしてしまう。

まるで小動物が肉食獣の視界から逃げるように。

 

 

どうやら彼はルファスに対する仕打ちに関与していないようだとプランは冷静に判断していた。

関与はしていないが、()()()()()()()()のだろう。

それと同時にメラクという名前を頭の中で検索すれば、直ぐに結果が出る。

 

 

メラクの名は余りに有名であり、何年か前の彼の誕生日パーティには呼ばれた記憶もあった。

あの時は上座に座っていた今よりも幼い彼を遠目に眺めていただけだった。

プランは恭しくメラクに膝をつき、頭を下げた。

 

 

「こうしてお目にかかるのはお初になります、メラク様。

 自分はプラン・アリストテレスという者です」

 

 

メラクは天翼族の王の子息、それも直系だ。

雑な事を言ってしまえば彼は天翼族の王子に当たる存在である。

位階で言えばジスモアやアウラよりも上であり、将来においてはこのヴァナヘイム、ひいては天翼族を支配する立場の者だ。

 

 

更に付け加えるならばアウラの語った話によれば、もしもルファスが白い翼をもって生まれていたとしたら、彼と婚約を結んでいた可能性もあったとか。

 

 

「う、うん、こちらこそ、よろしく……ぼくは、メラク……っていうんだ」

 

 

そんな彼であるが、顔色がとても悪かった。

元よりあまり活発的とはいえない引っ込み思案な雰囲気の少年であるが、今はもう何かに怯えるように更に真っ白になっていた。

彼はプランの一挙手一投足に合わせて体を震わせ、全ての意識を後方に向けていた。

 

 

プランは目の前の少年が自分に怯えている事に気が付いた。

どうやら自分の醸し出す雰囲気は自分自身で思っているよりもかなり攻撃的な色が混ざっているのかもしれない。

どうであれ子供を怯えさせてしまったことを彼は恥じ、次に少しだけ考えた。

 

 

理由は直ぐに出た。深く考える必要もない。

あの子供の話を聞いていて、少しばかり……本当に少しだが、自分は苛ついたのだろう。

ルファスとアウラを嬉々として苛め抜いた事を語る子供に怒りを覚えたのは間違いないと彼は自己分析する。

 

 

仮に苛立ちを覚えたとしても決して表には出さない様に笑顔の仮面を浮かべる事など貴族としての基本的な能力であるはずなのだが……。

 

 

 

もしもここに彼の取り巻きがいなければメラクは王の子やら、後のヴァナヘイムの支配者の矜持やら全てを投げ捨てて逃げ出していただろう。

それほど彼の目に映るプラン・アリストテレスという男は恐ろしいものであった。

 

 

 

 

彼にあるのは笑顔だ。

完璧な、正に「張り付けられた」笑顔だ。

しかし眼が……細められた瞳の奥は全く笑っていない事をメラクは察してしまったのだ。

 

 

王の子として、後の政争を勝ち抜くための英才教育を受けていた彼だからこそ判ってしまった。

更に言うならば元より人の顔色を見て生きてきた、引っ込み思案なメラクの今までの経験と子供としての直感、更には受けた教育などの要素がかみ合った結果、プランの笑顔の下を垣間見てしまったのだ。

ヴァナヘイムの冷気よりも寒々とした、夜の闇を凝縮した底なしの深淵を少年は覗き込みかけ、プランの笑顔が更に張りなおされて深淵に蓋がされる。

 

 

 

は、は、は、と荒く深い息を吐くメラクにプランはそっと歩み寄り微笑みかけた。

少なくとも今度は目の奥も笑っている、普通の笑顔であった。

 

 

「どうやらメラク様はお疲れのようですね」

 

 

 

「あ……うん、本当に、ちょっとだけ……休みたいな」

 

 

遠回しにプランが“話を終わらせるぞ”と述べているのをメラクは察した。

少年にとってソレは正に渡りに船であった。

一刻も早くこの恐ろしいモノから離れたくてたまらない。

 

 

 

メラクの言葉に周囲の子供たちが次々に賛成の声を上げだす。

 

 

 

「じゃあ仕方ないね!」

 

 

「メラク様がお疲れなら、休まないと!」

 

 

「未来の僕たちの王様! 美しい翼のメラク様!!」

 

 

「純白のメラク様! 未来のヴァナヘイムの王様!!」

 

 

 

口々に子供たちはメラクを称える。

親からそうしろと言われたから彼らはメラクを褒め称えるのだ。

このヴァナヘイムにおいてメラクは特権階級であり、ルファスとは真逆の意味で人間扱いされていないのだ。

 

 

始祖ウラヌスの因子を濃く受け継ぎ、何よりも美しく、白く

輝く翼をもつメラクは誰からも愛され、無条件で認められ、ただ生きているだけで将来の成功は約束された最も愛される子である。

本人がそれをどう思っているかは考慮されない。彼はそう産まれ、望まれるがままに生き、決められたままに君臨するだけだ。

 

 

 

「ではメラク様。自分はこれにて失礼いたします。

 御身にあたりましては、健康に留意してお過ごしください。

 貴方様の翼が陰るようなことがありますれば、ヴァナヘイム中が悲しみに包まれてしまいましょう」

 

 

 

「ありがとう。うん、じゃあ……ぼくは行くね」

 

 

 

「はい」

 

 

 

プランが頷くとメラクはそそくさと子供たちを引き連れて屋敷に戻っていく。

そんな彼に深くプランは頭を垂らし、その気配が完全に消え去るまで強い敬意を表し続けていた。

その顔……垂直に地面を見つめる顔は何処までも無機質な無表情であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊峰ヴァナヘイムの山頂にプランはいた。

彼は手近な岩に腰を下ろし、広がる下界に背を向けてとあるモノを眺めている。

そして彼の視線の先で穏やかな寝息を立てるとてつもなく巨大な……想像を絶する存在は現実にこんなものがいるのかと思う程に巨大極まりない。

 

 

プランの眼前で眠る生物こそ“龍”と呼ばれる規格外に規格外を幾つ重ねても足りない怪物の中の怪物であった。

 

 

ヴァナヘイムの火口にすっぽりと顔だけ収め、全身は地下に埋もれさせたその存在の身体の至る所には苔や木々の枝などが張り付いており

この存在が既に途方もない年月の間ここで眠り続けている事を示唆していた。

もしも仮に目が覚めなどしたら、鼻息一つで天翼族の街はおろかヴァナヘイムの周囲数十キロは消し飛ぶだろう。

 

 

これと同じものがあと4柱、ミズガルズに存在している事を彼()は知っている。

いや、一匹は世界中のあらゆる人類が知っている有名人だなと()()()()()()()は内心で苦笑した。

 

 

これこそ女神アロヴィナスが実在する物的な証明であり、生きた証拠。

かつて神話の時代において女神の怒りを体現し暴れ狂った5つの“龍”の一角である。

あらゆるステータスが桁違いであり、これに比べれば“獅子王”や“竜王”の体躯など子供どころか羽虫にも劣るだろう。

 

 

試しに一つ上げて見せようか。

龍のHPは1千万にも及び、SPに至っては無限である。

 

 

 

とはいってもこれが起きる事はありえない。

これに目覚ましを叩きつけられるのは女神だけであり、今の所はその意思も、分身も下界には降りていないからだ。

ただ規則正しく寝息を立てるだけの龍を見つめつつ、プランは己の精神を分析し、感情を処理していた。

 

 

 

プランにとって龍を眺めるという事は人々が海を見る感覚と近い。

雄大な自然を見つめ、己の矮小さを実感することによって得られる境地というものもある。

プランにとって“龍”とは正にソレであった。

 

 

 

やろうと思えば身じろぎするだけでミズガルズを破壊し尽くせる存在を前に、己の小ささを噛み締めながらも矮小な人間は己の中の言葉に出来ない感情を整理するのだ。

 

 

 

プランがルファスと出会い2年が経とうとしていた。

もうそろそろ彼女は12歳になる。

そして誕生日を控えた彼女がまた“変異”を引き起こす可能性はとても高い。

 

 

いや、間違いなく此度も起こるだろうとプランは考えていた。

レベル3から20に、そして20から60に彼女は飛躍的な進化を遂げている。

と、なると今度の成長では恐らくだがレベル100を超えるだろう。

 

 

レベル100。

もはや人と言う生物の限界を超えた超人の域である。

ここから上のレベルの存在の戦闘力を考察するにあたって常識はかえって足手まといになる程の怪物だ。

 

 

 

そんな力を12歳の子供が手に入れたらどうなるか……年頃の子供の癇癪も相応の力が伴えば暴虐へと変わりかねない。

まだ自分の方がレベルは上とはいえ、いつか超えられるのは確実な話である。

 

 

 

──殺してやる。

 

 

ルファスがプランに対して何度か吐きつけた言葉である。

最近はあまり口にしなくなったとはいえ、内心はきっと変わっていないだろう。

十分な力を付けたと彼女が判断したら、間違いなく実行される処刑予告である。

 

 

 

「それはいいとして」

 

 

一言でプランは己の未来に待ち受けるであろうと死の未来を受け流す。

殺されるのも憎まれるのも別に構わないと彼は本気で思っていた。

恩を仇で返す云々という気持ちも全くわかない。

 

 

その結果彼女が満足を得て、前向きに生きていけるのならばそれでいいと思っている。

簡単な話である。自分はこの先生きても50年程度だが、彼女は1000年以上だ。

50年を切り捨てることによって1000年の安寧が手に入るのならば是非やるべきだろう。

 

 

何処か壊れた価値観だと自覚はしているが、アリストテレスの一族とはそういうものなのだから仕方ないと彼は諦めている。

 

 

大事なのはルファスが生きることに絶望しないことなのだ。

まずはなによりも生きる意志をもってもらうのが大事だとプランは考えていた。

自分への憤怒と憎悪が活力となるのならば大いに結構である。

 

 

そして何より……。

 

 

彼女の怒りは正当なものだ。

彼女の憎悪は当然のものだ。

彼女の味わった苦しみは理不尽としかいいようがない。

 

 

何の罪もない幼子を寄ってたかって嬲り、苦しめ、傷つけ、母さえも奪おうとした。

心ない大人の悪徳の犠牲者である彼女の心が荒むのは当然である。

 

 

「…………」

 

 

脳裏でこれまでの母子を思い起こす。

プランはルファスの事を心の底から繊細で優しい女の子だと思っていた。

あんなに心優しい子を他に知らないと思う程に。

 

 

 

───よくも おかあさんを!

 

 

泥酔し、心の底を垣間見せた彼女が叫んだ言葉はまずは母を苦しめられた事への嘆きであった。

それは大切な人を苦しめられた人が放つ、ごく当たり前の咆哮だ。

 

 

 

怒りは感情の蓋である(怒りは悲しみの裏返し)”とは正に真理であり、彼女を表すに相応しい表現といえよう。

ルファスの怒り、嘆き、憤怒、憎悪の裏には常に悲しみがあることをプランは見抜いていた。

プランがルファスをあまり叱れない理由がここにあった。

 

 

ルファスが怒りを滲ませるたびに、彼女の心に刻まれた傷が見えてしまうのだ。

本来ならば無邪気に親と手を繋いで笑っているだけでよい年齢の子がひたすら力を求める様は見ているだけで胸が痛むものがある。

 

 

はっきり言ってしまうとプランはルファスの心に触れることを恐れていた。

傷だらけで、罅だらけで、今にも壊れてしまいそうなソレにどう向き合えばいいか判らなくなる時がある。

怒りと向上心だけで無理やり自己を保っている少女との接し方は本当にこれでいいのだろうかと自問自答してしまう事もあった。

 

 

“本当にこれでいいのだろうか?”

 

 

“自分は間違っていないだろうか?”

 

 

“そもそも自分に出来るのか? 子を持つことのない自分が少女と向き合う事が出来るのか?”

 

 

 

リュケイオンでは決して見せる事のない弱音を胸中で呟く。

世界の法則を見通す【観察眼】も一族の代々受け継がれてきた諸々も傷心の少女の心の確実な治し方は教えてはくれなかった。

時間が掛かるのは覚悟の上であったが、そもそも自分のやり方が正しいかどうかさえも確信は出来ていなかった。

 

 

 

「…………」

 

 

眼前の龍を見つめる。

世界の調停者は下界の下々の苦悩など我関せずとし眠っていた。

プランは龍から視線を逸らすと、懐から取り出した紙束を広げ、中身に眼を通す。

 

 

 

──ケイナン 11

 

 

──マルドゥーク 9

 

 

──プリシラ 10

 

 

──ブーリン 9

 

 

 

ソレには人名とそのすぐ横に年齢を意味する数字が描かれている。

これはジスモアの伝手で複製してもらったヴァナヘイムにおける行方不明の人物のリストであった。

過去数百年分の行方不明者の名前がここには記されていた。

 

 

一人一人、何日間探索したまで書かれたソレに一通り眼を通してからプランはため息を吐いた。

うんざりするかのような、呆れと侮蔑が大いに混じったため息であった。

隠すつもりも元よりなかったのだろうが、それでもいくら何でもこれはあんまりだとプランは思った。

 

 

つまりルファスは最初ではないし、最後でもない。

 

 

結論から言おう。

ヴァナヘイムでは定期的に劣った翼の子供を処分している。

一応取ってつけたような2,3日のやる気のない探索だけを行った後は“行方不明”で全て済ませてしまっているようだった。

 

 

それで騒ぎなどが起こってない所を見ると子供の親までグルという可能性があった。

暗黙の了解なのだろうと彼は推察する。

むしろルファスをあそこまで必死に守り、手放さなかったアウラの方が天翼族の中では異端児なのかもしれない。

 

 

 

“アン・ブーリン”という名前を見てプランは眉を寄せた。

彼女の名前はルファスから聞いている。

“子隠し”が彼女を誘惑していた時に被っていた皮であり、ルファスと同じくらいの年の子だ。

 

 

彼女の項にはこう書かれていた。

 

 

探索日数2日。有益な手がかりなどは見つからず。

「行方不明」と認定。以降、全ての探索を打ち切る。

 

 

翼の色 マダラ色。

形状 天翼族として不適格。

 

 

 

それだけだ。

10にも満たない幼子を“不適格”と判断し、ヴァナヘイムは見捨てた。

恐らくだが、彼女の父母さえもアンを処分するのに協力したかもしれない。

 

 

 

「……………」

 

 

誰も救われない話だとプランは空を仰いだ。

彼女の両親がどうなったか等は知らないが、同じ種と腹を用いれば同じモノが産まれる可能性が高い。

二度も同じ不適格な存在を生み出したとすれば、天翼族は容赦なく排斥にかかるだろう。

 

 

もしくはこの資料に載ってないだけで“掃除”されているかもしれない。

 

 

 

そしてこれはジスモアにも言えた。

ジスモア・エノクの新しい愛がどうなるかは想像もつかないが

もしも彼の……産まれるかもしれないルファスにとっては異母弟か異母妹が同じような翼をもっていたら彼はどうなるのか。

 

 

悪趣味な思考に陥りかけたと自戒しプランは深呼吸をする。

昔ならば天翼族のこのような思考回路など気にも留めなかった。

彼らには彼らの信条があるのだと淡々と割り切れたというのに、今はどうにも不快感を覚えてしまう。

 

 

 

無言で【観察眼】を発動する。

数式の世界を観測しながら彼はヴァナヘイムの更に遥か向こう、女神が座すとする至高の極点を見上げた。

 

 

 

()()()()()()()は観た。

夥しい本数の“糸”がミズガルズのあらゆる所に垂らされているのを。

全ての人類、全ての魔物、全ての魔神族にソレは繋がり操っている。

 

 

 

この世は舞台、全ては役者でしかない。

誰もが自分の役をこなさなくてはならない。

そして人類の大半は女神の操演する芝居において悲劇を助長するための“やられ役”である。

 

 

ルファスとアウラの味わった理不尽も。

妻と娘を苦しめるしかなかったジスモアも。

生きることを許されなかったアンも。

“子隠し”に大切な我が子を奪われた親たちの嘆きも。

 

 

全ては女神を楽しませるスパイスでしかないのだ。

 

 

 

故に彼はこう言うのだ。

最初の当主が女神の聖域から袂を分かった時に当時の聖女に吐き捨てた言葉を彼もまた最後の当主として。

 

 

 

「……気持ち悪い」

 

 

 

諦観を混ぜて彼はミズガルズ、ひいては女神の世界全てに吐き気を催すのだった。

 









「ほんっと、天翼族って最低の種族だと思わない?」


───誰も探さなかった少女(ルファスのありえた可能性)
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