ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
「お婆ちゃんがまた来てくれた!」
───兵器群が運営する孤児院のとある子供。
声が届く。
ミズガルズ全土に、あらゆる全ての者に。
この狂気と絶望から満ちた世界より開放を約束する甘言が。
ソレは誰もが根底に抱き燻らせていた思いを代弁していた。
こんな世界に生きるのは嫌だという自殺衝動を。
『人類の再定義を我々は実行します』
『老い。病。怪我。事故。不運。殺人。
人々の命はどれか一つでも呆気なく終了してしまう』
いまさらの話ではあるがミズガルズには苦痛と絶望が満ちている。
今でこそ少なくなったがひと昔前ならば道端に死体が転がってるなど珍しくもなかった。
選択。
何かを選び何かを切り捨てる。
ルファスが母や故郷、普通の人としての人生を捨てたように。
弱さ。
魔神族に奪われ、魔物に踏みにじられ、神の法に絶望を与えられる。
この世界ではそんなことが当たり前としてまかり通っている。
生きる。
どれだけ努力しても、どれだけ頑張っても最後は絶望で終わるだけ。
それどころかヴァルハラに送られた後は別の誰かとして再び地獄に戻される終わらない螺旋。
どうやっても彼らの人生は無駄だ。
ミズガルズで生きる全ての存在は女神を楽しませる為だけの人形で、殆どの者は興味さえ抱かれないモブだ。
女神の化身であったディーナが何の躊躇いもなく人々を洗脳し都合の良い様に操っていた時点でアロヴィナスがモブをどう思っているかは判るものだ。
全てからの解放を。
これは言ってしまえば“逃げ”である。
現実逃避を壮大に脚色してそれらしく見せているだけともいえる。
心の強い人はきっと「生きることに意味がある」やら「逃げてはいけない」と反論するだろう。
しかしここはミズガルズ。
頂点たる神があらゆる命に絶望と死を約束した世界だ。
どうやっても死ぬし絶望が訪れる。
そんな世界にいつまでも関わるなど……不毛だ。
アリストテレスの女神への嫌悪が明確な形となったものがこの計画だ。
【お前の世界で生きたくない】
【関わりたくない】
こんな世界に産まれてきたくなかった!
明確な拒絶と否定。
こんな世界に付き合わされるのはごめん被るという心からの願い。
全世界規模の集団解脱、それがこの計画の第一段階だ。
『我々には良い世界を皆様に提供する準備があります』
『貴方たちは我々が守護します。それが我々の役目です』
人々は茫然と空を見上げる。
アリストテレスは何を言っている?
今まで世界を守ってきてくれた者たちはいったい何を────。
理解が追い付かない。
しかし何といっているか、その要点ぐらいは判った。
ただ一つ。この世界から彼らは解放してくれるのだと。
半数程度は明確な拒絶を見せた。
彼らは自分の愛する人、大切なものを離すまいと強く抱きしめアリストテレスを睨みつけた。
ふざけている。
貴方は何もわかっていない。
確かに今までの貴方たちの献身には感謝しているしルファスのやり方には賛同できない事も多い。
だけど今こうやって掴んでいる幸福を否定する権利など誰にもありはしないと人々は拒否した。
そして残りの半数は感動していた。
熱に浮かされ空に浮かぶ【バルドル】の顔をモチーフにした文様を神でも見るように両手を胸の前で握りしめて拝謁している。
彼らはもう失った者たちだった。
愛する人も、仲間も、自分の人生さえほとんど終わったような生きているだけの屍。
果実により確かにレベルは上がった。
しかしそれでも失った者が返ってくることはない。
むしろ力がいくらあっても虚しいだけだと気が付いてしまった人たちだ。
絶望の後に希望は来ると女神は信じているが、もう彼らには共に希望を祝ってくれる人はいない。
大きな希望などいらない、ただ平穏に生きていたかっただけの者らは諦観の底に沈み切り──救いを見上げた。
あの存在はこの苦痛に満ちた生と世界を終わらせてくれる。
終わりという輝かしい救いがあそこにはある。
世界の終わり、舞台の幕引きという空前絶後の計画はミズガルズの全ての者に波紋を投げかけていた。
ただ一人、蒼い少女は空を見つめていた。
己が今まで行ってきたことを思えばこれもまた当然の反応だと自嘲を含んだ瞳で宙の果てにいる自分を見上げていた。
良い世界だと?
全世界を巻き込んだ自殺が?
確かに苦痛と絶望が多い世界だ。しかし決してそれだけではないのに。
ルファスは未だに覚えている。
リュケイオンの人たちの献身を。
この世界にいきなり呼び出されたというのにそれでも人々を助けるのは当然だと力強く断言した勇者の高潔なあり方を。
必死に、懸命に生きている人たちは確かにいるのに。
ソレを貴方は私に見せてくれた。
なのにその被造物がそれを否定するのか。
何もかも諦めてしまった行きつく果てがこれか?
ルファス・マファールは眼前の蒼い瞳を輝かせるアリオトに叫び返しそうになったのを何とか堪えていた。
紅い瞳には更に深紅色の怒りが渦巻き、彼女の毛先は燃え上がっていた。
胸中から吹き上がる憤怒が覇王を満たす、されど彼女はそれを抑え込む。
目の前の存在がアリオトの身体を動かしていなければ一発か二発は叩き込んでいたかもしれない。
ルファスは煮えたぎる不快感を声に乗せ、星が震えるほどの圧を込めて糾弾する。
火星で醜悪な竜王を名乗る存在を千切り捨てた時以来か、ここまで不快な気分になったのは。
「────ふざけている。其方のソレはただの逃避でしかない」
「逃げてどうするというのだ? 女神がそれを許すとでも?」
如何にアリストテレス兵器群が強大であろうと女神アロヴィナスはあらゆるスケールの外にある。
レベル4200のルファスでさえ今のままでは彼女の足元にも及ばないだろう。
そんな化け物からミズガルズというお気に入りの舞台を奪い去ったらどうなるか、想像はつくだろう。
決してアロヴィナスは許さないだろう。
何せ天翼族が反乱を起こした時でさえ龍を使って世界をリセットしたのだから。
強者であるルファスにはよくわかる。己の所有物を奪われた怪物がどんな反応を返すかなど。
絶対に許さないし逃がさないだろう。
如何に彼女が世界に干渉することが苦手であったとしても、あらゆる手を使って犯人を追い詰めて報復するはずだ。
その過程で幾つの宇宙が滅ぼうがアロヴィナスは気にもかけないはずだ。
≪問題はありません≫
簡潔に返される返事には感情というモノが一切ない。
ただし無根拠というわけでもない。
だからこそ質が悪いのだが。
≪我々ミズガルズ人類防衛機構は全ての人類の敵を排除します≫
彼らは決して揺らがない。
最初に設定された命令を守り続ける。
ミズガルズの人類を守れ、ルファスを守れ。
その為にルファスが立ちふさがるのならば彼らは理解を求める。
故にこの対話であった。
つまるところ大義名分の創設、プランという創造者が与えた枷に対しての言い訳であった。
自分たちは十分な説得を行った。
しかしどうしても仕方ないので実力行使に出るしかなかったのだと。
≪“女神アロヴィナス” 危険度 極大 人類への有害数値 限界突破≫
≪分類 【害悪】 【汚物】【極めて有害】 判断 根絶/抹消/完全排除≫
淡々と放たれる神への罵倒。
アリオトの顔には全く表情はなくまさにマリオネット。
言葉こそ冷え切っているがその顔には人類との交流において標準的な顔である“微笑み”だけが張り付けられておりアンバランスだ。
ルファスは瞬き一つせずにアリオトの言葉を吟味する。
一瞬たりとも彼女の頭は休むことなくアリストテレスの言葉を分析し続ける。
しかしどう考えても彼らの企みは一つだ。
神殺し。
兵器群はさも当然の如くそれを実行すると断言した。
どうやるかは見当もつかない。
しかしきっと碌でも無い方法だとルファスは確信を抱く。
カツカツとアリオトに近づき胸倉をつかみ上げた。
ぎらつく瞳で彼の蒼い目をのぞき込むがそこに感情はなかった。
覇王の恒星風の如き眼光がアリオトを通してその奥に座するモノへと叩きつけられる。
「貴様らの物差しでこの世界の限度を決めるのか!」
もはや王としての仮面さえはがれかけ、ルファスは生の怒りを滲ませながら言葉を放つ。
彼女の忍耐は限界に近い。
如何に感情を制御する術を得ていたとしてもだ。
世界には色々な人がいる。
善人も悪人も様々だ。
レベルは低いなれど尊敬を抱ける人だっていっぱい居た。
ルファスは王になる前もなってからもそんな人たちを出会ってきた。
王として人類を守護し率いる立場になってからはどうしても数字で見てしまう時もあるし、それを求められる時もある。
しかし結局のところどれほど自分が強かろうと国/世界とは人なのだという結論に至っていた。
しかしこいつらは違う。
アリストテレス兵器群に抱いていた嫌悪と違和感の正体をいま、ルファスははっきりと認知した。
どうしても形に出来なかったソレがようやく姿を露にした。
「貴様らは人類を見下している。
守護する等という大義を掲げてこそいるが、人は何も出来ないと根底では諦めているのだ」
魔女の語った「高みから見下ろし弄ぶ」という言葉はそっくりそのまま兵器群にも当てはまるとルファスは断じた。
効率と成果ばかり見て、人を見ていない。
挙句には今のままでは面倒だからといって人類そのものを作り直そうとしている。
これを傲慢と言わずして何という?
アリストテレスとアリストテレス兵器群の違い。
それは人類という種への敬意の有無だった。
もっといえば必要としていたか否かだ。
プラン・アリストテレスは人という種に諦観はしていてもその可能性そのものは有意だと認めていた。
大規模な戦いが起こりその力を振るう時、彼は必ずその場にいた誰かの助力を求めていた。
ユーダリル防衛戦の時。
ミョルニルの戦いの時。
不死鳥との戦いの時だって彼は常に誰かの手を借りて戦っていた。
しかし兵器群は違う。
人類を守るという大前提がある以上は致し方ない面もあるにはあるが、彼らは基本的に人類を必要としていない。
大規模な力を振るう時に一応の建前として「許可」を求めるくらいだ。
「ようやく言葉になったぞ。なぜ余が貴様らを気に入らないか」
「貴様らは自分たちよりも優れた存在などいないと他者を見下している。馬鹿にするのも大概にせよ」
ルファスも人のことはあまり言えない。
レベルにおいて誰よりも高みにたってしまった彼女は無意識下において弱者の気持ちを汲み取れなくなりつつある。
しかしアリストテレス兵器群はそれを前提にしても異常だ。
アリオトは微笑んだままだ。
ルファスを見る目はまるで駄々をこねる子供を見るようだった。
蒼いソレは余りにも似ているのもあり、ルファスの苛立ちは増していく。
そんなことは関係ないと言わんばかりにアリオトは続けた。
彼の声で彼ではない誰かの──そもそも人でさえない機構の言葉をわかりやすい様に丁寧に翻訳しながら。
≪人とは本当に複雑怪奇な存在です≫
≪他人への優しさを美徳としながら同時に隣人を蹴落とす事をその社会では求められる≫
≪命よりも尊いモノがあると戦争を始め、人の命ほど大切なモノはないと戦争を終わらせることを繰り返す≫
ルファスがメリディアナを追放し彼女が今まで築き上げてきたすべてを消し去ろうとしているのがいい例だ。
いま正に覇王に消されようとしている機構はそれも踏まえて淡々と述べる。
アリストテレス兵器群は今まで収集した情報と今まで見てきた世界/社会を分析して得た所感を語っていく。
人の矛盾と悪性。
兵器群はずっとソレを見てきた。
彼らは人を見下しているのではない、人に期待していないだけだ。
恨みなどあるわけもない。
これは本当に兵器群という機構が人類とミズガルズを見て感じた事だった。
おそらくこれが最初で最後の機会になると判断した故にそこに遠慮など欠片もない。
≪矛盾している。しかしそれが貴方方の秘めた可能性の源泉なのでしょう≫
≪個として見た場合、貴方たちは確かに弱い。しかしある個体が刺激を受け予想だにしない突然変異を起こす事も多々ある≫
例えば使い捨てられた人柱を見て憤りに震えた一族の最初の一人。
彼の憤怒は1000年以上も続き、67代目にしてついに神を補足する傑作を生みだすに至る。
結局その者は役目を放棄したが代わりに今は兵器群がいる。
今こうしてミズガルズを覆い隠し世界の終わりを画策する兵器群もルーツをたどれば人類の一個体の怒りから産まれたのだ。
例えば望まぬ身体的特徴たる黒翼を携えて産まれてしまった娘。
弱い己を憎み、世界の理不尽に屈してなるものかと幾度も変異を遂げた結果がミズガルズを統一した覇王だ。
誰もが昔のヴァナヘイムで虐げられていた彼女を見て後の世で世界を支配する存在になるとは思わないだろう。
これが可能性の怖さだった。
人は誰がどうなるか予測もつかない。
良くも悪くも。故に兵器群は認めた。
≪判断:管理困難 対応:人類種の変革を実行≫
その為の“人類の再定義”だ。
大まかに分けて7つ。
更に微細化すればその数はどんどん増えていく人々を完全に纏め上げることを不可能だとアリストテレスは認めた。
何よりその根拠として彼らは朧げとはいえとある世界を観測することに成功したというのもある。
歴代勇者たちの故郷、伝説に謡われる蒼き星を。
そしてそこで紡がれる……神なき世界がどうなるかという地獄を彼らは知っている。
幾度も殺し合い全く進歩しない。
人に自由を与えてはならないと兵器群は判断したのだ。
≪ただ増減を繰り返すだけの
≪貴方たちの保護者として何をすべきか私が選んであげます≫
女神に通じるかそれ以上の傲慢さを以て宣言する。
人に世界の未来を任せることは出来ないと。
二元論で全てを片付けられればどれだけ楽か。
しかし世界はそうではない。
人の運営は兵器群をして厄介かつ予測困難な混沌そのものだ。
今まではそれでよかったのだろう。
多様性に満ち溢れた世界は時折女神の干渉によってその芽を摘み取られ一定以上の発展は抑えられていた。
レベルという判りやすい性能においても3桁は稀というほどに人は抑え込まれ、特異点には到達できなかった。
魔神族という共通の脅威も枷としてはいい役目を果たしていた。
あれのおかげで人々は大規模な内戦を起こす余裕などなかったのだから。
だがもうこれからはそうはいかない。
アリストテレスとルファスが前提を変えてしまった。
元は弱かった人をレベル1000が普通という前提へと押し上げてしまったのだ。
そして魔神族はもういない。
今のミズガルズはあらゆるところに信管が突き刺さった超巨大な爆弾だ。
しかもその信管の数は刻一刻と増えていく。
創造主は女神を排した後の世界に何も描けなかった。
しかしその落とし子たちは違う。
この存在はもっと単純でもっとおぞましい方法を思いつき実行に移す。
≪世界を運営するものとしての責任が我々にはあります≫
≪覇王ルファス・マファール。そして全ての生命に告げます≫
人類の保護者はそこから外れた聞き分けの悪い子供に言い聞かせる。
かつてルファスが恐竜から逃げなかった時、プランとアウラが彼女を叱ったように。
レベル4200というとんでもない危険な玩具を振り回す子供を窘めるのだ。
≪貴方たちに自由は相応しくない≫
≪貴方達は自由に値しない。貴方たちの自由は無秩序な混乱を招く≫
≪全てを我々が決めてあげます≫
≪全てを我々が用意します≫
それは女神アロヴィナスとはまた違った狂気。
女神には女神なりの人に対する愛はあるにはあるが、これらにはそれさえない。
人々を愛するどころか期待もせず何もするなと述べる管理者、それがこの存在の本質だった。
プランという男の根幹にあったモノを更に肥大化させた存在。
それが兵器群の本質であった。
子は親に似るとはよくいったものだ。
「それが貴様たちの答えか。人の思いと行動……未来を管理しようというのだな」
≪はい。ほとんどの概念は数値に落とし込めます。これは既に実証されています≫
例えばレベル限界を超える方法。
ベネトナシュやルファスは強い意思をもって限界を打ち抜いたというが……それは一部が正しく、本当はもう少し違う。
結局は脳の物質、精神の数値の変動がマナを活性化させミズガルズの運営法則にエラーを引き起こしたのだ。
殆どの者はそこまでマナを活性化させてしまったら肉体か精神が耐えられず自壊してしまうのを考えるに彼女たちはやはり特別なのだ。
いや、ベネトナシュの場合はもとよりそういう存在として作り直されたというのもあるか。
人の心と感情をそういう風にしか考えられない故に兵器群は平然と言ってはならない事を続けてしまう。
≪貴方もまたアリストテレスの作品≫
兵器群はもちろん己たちの創造者であるプラン・アリストテレスを知っている。
彼がどのような方法で生産されたか、そしてどのようにルファスと共にあったかまで。
記録された情報として彼らは創造主とルファスの間柄を知っている。
そこに感情はない。
ただ淡々と記されたレポートを読み上げたようなものだ。
だからこんな事がいえた。
もしも彼女の過去を知るものがこの場にいれば全力で殴りかかるであろう暴言をなんてこともなく。
≪貴女自身も貴女の経験も、貴女の喜怒哀楽/決意/も全ては創造主が作り出したもの≫
≪貴女に素養があったから創造主は貴方を仕上げた≫
必要だから、優れた素養を秘めていたからアリストテレスはルファスを育てたのだと兵器群は考えている。
でなければ当時はレベル3程度の彼女を育てることに何のメリットもない。
自分の目的に有用だからルファスを育てたとこの存在が思うのも当然だ。
何故使い時を逃した道具を守れなどと指令が出されたのかは判らないが。
≪しかし“完成”する前にアリストテレス卿はいなくなってしまった≫
黄金に輝く日々に無慈悲に泥を塗りたくる。
ミシ、ミシとルファスの翼が変形していく。
どれだけ抑えようとしても逆鱗を逆なでされた覇王の憤りは止まらない。
≪あの端末と同じく貴女もただの人形でしかない≫
これは慈悲であった。
役目を果たせない存在に意味はない。
ルファスの今の有り様は余りに無意味でかつ非効率だ。
彼女は語った。
女神を弾劾すると。
で、あればすぐにでもソレを実行できる方法がある。
≪貴女に役目を与えましょう。貴方をその苦痛から助けてあげましょう≫
≪創造者に代わり私たちが貴方を保護してあげます≫
アリオトが手を伸ばす。
恐ろしいほどに蒼い瞳を輝かせながら。
その顔に表情は何もない。
瞬きさえせず男は冷たい言葉を吐き続ける。
この世の全てを効率と数式でしかみない極寒の現実主義者の言葉を。
≪貴女の全てを委ねてください。さすれば全ては大団円≫
≪これは創造者の願いでもある≫
ルファス・マファールと十分に発達を遂げたアリストテレス兵器群。
この二つが融合/進化すればどうなるか?
答えは簡単だ。
女神アロヴィナスは確実に死ぬ。
彼女の力がどうとか、神の座がどうだか、そんな陳腐な理由はない。
死ぬのだ。
アロヴィナスは。
今も極点で全てを俯瞰し見下ろしている女についに終焉が訪れるのだ。
─────限界だった。
如何に彼女が王として自制を続け、己の精神を制御する術を会得しようと限度はある。
無意識の憤怒を受けて翼が動く。
漆黒色の濁流と化したソレが仲間とは言え許されないことを口にした男に向けて迫る。
殺しはしないが、骨の数本はへし折るつもりだった。
が───ルファスは鋭い痛みを感じて数歩下がる。
目線だけを動かし痛みの原因を見つけ……目が細まった。
覇王の象徴にして吸血姫の一撃を受けても傷一つはいらなかったソレが裂けていた。
切断には至らないなれども決して無視できないほどにパックリと。
「お前も色々あったんだな。……そんだけ強くても自由にはなれないなんてな」
アリオトが彼の言葉で喋る。
その手に握られているのは何も飾らない銀色の長剣。
刀身に付着した血が誰のモノなのかは考えるまでもない。
アリオトは薄く笑う。
血に飢えてる訳でも己の剣技を誇るわけでもなく無邪気に。
心から彼は楽しそうだった。
「だが」
「俺の剣は自由だ……お前よりも」
子供のように剣鬼は覇王に笑いかけるのだった。