ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
覇道十二星天。
ルファス・マファールの集めた彼女だけの星。
レベル1000が数多く存在する今の世であってもなお特異かつ強力な力を持つ別格の者たち。
誰もがミズガルズの歴史に永遠の名を残せるであろう特異な個体ら。
そんな彼らがいまや押しつぶされかけていた。
アリエスは死に物狂いで回避を続ける。
一撃でも当たれば死に直結する攻撃の前に反撃する余地などない。
タウルスは懸命に交戦し拳を以て千手を削り続ける。
既に飲用した【エリクサー】の本数は10を超えつつあった。
サジタリウスは己に迫りくる敵から距離をとるので精いっぱい。
もしも接近を許せばその瞬間彼はみじん切りにされると自覚している故にその動きに余裕はない。
リーブラは既に半壊し撤退していた。
左腕をもぎ取られ、身体の各所を破壊された彼女は既に大破しつつあった。
動力を失いつつあるセンサーで彼女は遠くでアリストテレス兵器群の力を誇るミザールをじっと一瞬も休まずに見つめている。
無機質な瞳の中で狂笑し兵器群の力を己のモノだと叫んでいた。
エロスは兵器群が差し向けた軍団から己の国を守っていた。
複数のギガ級と水中戦に特化したゴーレム軍団を相手に徹底抗戦を繰り広げている。
無条件降伏を迫るアリストテレス兵器群は今やゾディアックの同盟国である彼の王国をかつての竜王の如くがれきの山に変えるつもりだった。
アクアリウスは平時の余裕など欠片もなく無我夢中といった様子でスキルを連続で発動し己の仲間たちに回避能力をばら撒き続ける。
一瞬で拳の豪雨が降り注ぐ環境においては焼け石に水でしかないが、それでもないよりはましであった。
かつての四強であるレオンは再び苛立ちと憎悪を滲ませて吠えた。
この世の誰よりも巨大で強大だと自負していた彼を蟻の様に見下ろす木像の姿は余りに屈辱的だと。
そうしている間にも落ちてきた剛拳の威力に彼の100mを超える巨体は枯れ葉の如く軽々と宙を舞う。
畜生、畜生と幾度も繰り返すその怒りは誰に向けられているのだろうか。
既にゾディアックの軍は崩壊しつつある。
ルファスは兵器群の進化速度を見誤ったと言わざるを得ない。
当の昔にレベル1000程度ではどうしようもない領域に至っていたのだ。
その証明がこれだ。
その瞬間、戦場にさらなる影が走った。
木像の万の拳が大地を蹂躙し、十二星天を押し潰さんとするさなか。
空は何の予兆もなく一瞬で塗り替えられた。
予兆も歪みも音すらも存在しない。
そこにいたはずの虚空が、まるで最初から違う映像を貼り付けられたかのように変化する。
一拍すら置かず、ただ「そこにいる」という既成事実のみが世界に突きつけられる。
[SCAN] OUTLINE MATCH ........ UNKNOWN
[SCAN] ARMOR DENSITY ........ OVERLIMIT
[SCAN] THREAT LEVEL ......... CRITICAL
EL-CLASS
エル級文明殲滅用重機動ユニット
<<< UNIT ROLE : CIVILIZATION ERASURE PLATFORM >>>
その転移は、空間を渡るのではない。
アリストテレス卿の偉大なる御業を再現し自らの存在座標を世界に直接書き込み直すものだ。
故にこの恐竜は「出現した」という結果だけを強制的に成立させる。
座標を認識された時点でどこからでもこうやって現れることが出来る。
点から点に跳ぶために、前もって監視していたとしても何処に行くかは誰にも分らない完全なステルス性を併せ持つ。
そして並び立つ影、セト級・土龍再現体。
御使いの一柱「土」属性を支配した龍の神話を模して重力と斥力を操る巨兵。
彼が両腕を広げ、5つのサポートユニットが展開された瞬間、天地の均衡は狂い大地が軋む。
虚空に握りつぶされるかのような重圧が戦場を覆い、立っているだけで骨が砕ける。
空気は凍り付き、呼吸は罰となり、生きているだけで死が忍び寄る。
そう、兵器群は終わらせるつもりでこの二体を投入したのだ。
ゾディアックや十二星天とかいうルファスの自己満足にもう付き合うつもりはなかった。
セト級がその砲の様な指を掲げ、その先端に重力を収束させていく。
空間に「黒点」が生まれた。最初は小さく、指先ほど。
瞬く間に空間がレンズの如く歪み時空が引き伸ばされる不快な音が惑星に響いた。
ミズガルズの何倍もの質量が瞬間的に圧縮され形成されるブラックホール。
一瞬の空白の後、それは消えた。
そして戦場が、ミズガルズが震える。
だが、再度出現したそれらは瞬く間に拡大し、球体から円、そして壁のような面へと変化していく。
黒く塗りつぶされた領域は光を拒絶し、ただ存在するだけで周囲のエネルギーを食らい尽くす。
【ブラック・ボックス】
星を落としその無力を知らしめる力が行使される。
その数、四枚。
東西南北に黒い壁が立ち上がり、やがて天空へと伸びていく。
重力で塗り固められたそれはただの幻像でも魔法や天法の結界でもない。
現実に、物理的に、質量を持って押し寄せる暗黒の壁だ。
重力が壁を形成するなど物理法則ではありえないだろう。
しかしその不可能を可能にするのが女神アロヴィナスの力を宿すアロヴィタイトだ。
戦場をプレゼントの様に囲う「黒い箱」が形成されつつあった。
あれが完全に空で結合し黒い箱が戦場を抱擁したらどうなるか───想像もしたくない。
しかし完成したその瞬間、そうやって何かを考えることも出来なくなるだろう。
ミズガルズを吹き飛ばしはしない。
本来ならばそうなるはずだが、5つのサポート・ユニットが【サイコキネシス】を用いて重力を操作することで狙った範囲だけを正確無比に攻撃できる。
ミズガルズどころか星系を消し飛ばす破壊力をほんの数十キロ四方という極めて小規模な領域内で炸裂させることなど造作もない。
もしも完成したらどうなるか少し語ろうか。
簡単に言えばブラックホールの中心点に叩き込まれるようなことになる。
空間ごと内側を切り離し、中心の特異点へと押し込む。
無限の重力と圧力、無限の熱が同時に炸裂し、内側に存在するものを例外なく“無”に帰すだけだ。
レベル1000の軍団?
ミズガルズに名だたる特異個体たち?
ルファス・マファールの覇道を支える十二の星?
そうか───それではさようなら。
その程度の感慨でアリストテレス兵器群はこの武装を仕上げていた。
繰り返すがミズガルズに問題はない。
完ぺきな破壊力というものは無駄な損害をまき散らさない事を言う。
外壁たる世界の構造そのものを傷つけず、標的とした範囲のみを完璧に刈り取る。
だからこそ恐ろしい。そして美しい。
邪魔な存在を選択し排除する。
アリストテレスにとって不都合な一切合切を消し去る傲慢の象徴と言える武装だった。
ユグドラシル級が放っていた拳撃の雨は止んでいた。
あの千腕の巨像は、両手を合わせて祈るように動きを止め、ただ黒い箱の完成を見届けている。
兵器に慈悲はなく、ただ粛々と役割を果たす。
合掌の姿は、死を待つ者への哀悼にも似ていた。
だが、待つ側の者たちにその余裕はなかった。
十二星天は一瞬で悟る。
これが完成したら自分たちは終わりだと。
覇道の名を冠する彼らでさえ、この光景の前では息を呑むしかない。
己の攻撃が届かぬことを理解しながらも、それでも動かざるを得なかった。
「こ、の、っおおおおオオオオ!!!」
アリエスは虹色の炎【メサルティム】を噴き出し、迫る壁に焼き付ける。
その炎は神殺しとも言うべき奇跡の炎。
相手のHPに対して割合ダメージを与え続ける上限なき可能性の灯、
だが黒い壁は無慈悲にも虹を呑み込み、ただ淡々と伸び続けた。
出力の差が大きすぎる結果がこれだ。
「おおおおおおおおおおオオオオオオ!!」
タウルスは血反吐を吐きながらも壊れる身体に鞭を入れて咆哮を上げ、拳で壁を殴り続ける。
彼の打撃は山脈を砕き、大地を反転させる膂力を誇る。
かのルファスにさえ通じる程の圧倒的な腕力/破壊力を産む一撃だ。
だがその拳は「重力」によって散らされ、壁の表面に一瞬の波紋すら残さなかった。
厳密には拳による幕引きは限定的ではあるが機能はしている。
しかしそれを上回る速度で重力壁が再生成されているのだ。
「───っ! っっ!! っっっッ!!!!」
サジタリウスは半ば狂乱しながら矢を連射する。
脳裏を過ぎるのは数百年も前の男の無機質な瞳。
光速に匹敵する加速を纏い、時空を裂く矢は十二星天においてさえ並ぶものなき一矢。
だが今は、矢が届く前に軌道がねじ曲げられ、彼自身の背後へと弾き返される。
彼は必死に回避するが、矢は無情にも味方の陣営を掠め、悲鳴が上がった。
「攻撃、ぞっ……こ……ぅ……」
リーブラは半壊した身体で辛うじて砲撃を放つ。
だがセンサーが焼き切れる寸前に彼女は悟る。
重力そのものを制御する敵には、理論的に命中という概念すら存在し得ない。
無駄でしかない。それでも何とか攻撃を続ける。
彼女は無駄なことを何故か行っていた。
ちなみにドワーフの歴史においても比類なき才覚を持つミザールの傑作である彼女はアリストテレス兵器群においてはこう評されている。
“技術評価” ───
“戦力評価” ───
“総合評価” ───
「諦めんな!! まだ終わりじゃない!!」
アクアリウスは仲間に加護を与え続ける。
避けろ、動け、止まるな――だがその声は震えていた。
どれほどの加護を撒こうと、重力はすべてを等しく圧し潰す。
彼女の力は尽きかけ、身体を維持する水が崩れていきながらも行為を止めない。
「クソッ!! クソがぁっ!!!」
レオンは怒りに吠える。
その巨体は百メートルを超え、彼の咆哮は地平を揺らす。
だが、拳の雨に翻弄され続けた彼が、今やただの虫けらのように押し潰されていく。
怒りはもはや敵ではなく、自身の無力さに向けられていた。
そして、影が覆い尽くす。
黒い箱は完成しつつある。
四方を壁に囲まれ、残るは天蓋が閉じる瞬間のみ。
そのとき、内側は特異点へと落ち、全てが消し飛ぶ。
兵士たちの心は砕け、英雄たちの視線は揺らぐ。
恐怖、焦燥、そして絶望。
だがその中でただ一人、静かに息を整える影があった。
魔王アイゴケロス。
ヘルヘイムを統べ、かつてのアリストテレス卿との因縁も深い彼らの作品の一つ。
究極ともいえる魔力の使い手、マナと半ば同化した肉体を持つマナの化身。
老紳士の姿を纏う彼は、しかしその眼光は巨大な山羊頭の悪魔の本質を宿していた。
彼はゆっくりと深呼吸をし、隣に立つパルテノスに囁いた。
その声は低く、しかし確固たる決意に満ちていた。
もはや己のプライドなど不要。
此処で負けるなど断じて認められない。
天を覆う黒壁が、ついに結合した。
四方を閉ざしていた闇が、ゆっくりと天蓋を伸ばし、最後の一点で噛み合う。
その瞬間――「黒い箱」は完成した。
静寂。
だがそれは死/終端の前触れだった。
内側に閉じ込められた全てのものに、異常な現象が襲い掛かる。
圧力。
熱。
重力。
崩壊。
それらは個別の概念ではなく、一つの眼を背けられない現実として存在している。
空気が燃え、骨が砕け、血が蒸発する。
ただ立っているという行為が、自分自身を崩壊へ導く。
ゾディアックの兵士たちは一斉に膝を折った。
声を上げることすらできない。
肺が潰れ、声帯が震える前に重力に押し潰される。
叫びたいはずの口は、すでに開くことすら許されない。
アリストテレスは全てを押しつぶす。
そこに例外はない。
英雄たちですら同じだった。
アリエスの虹色の炎【メサルティム】は、立ち昇る前に空間ごと潰されて拡散し、光の帯はノイズのように弾けて消える。
タウルスの拳は振り抜かれる前に軌道を歪められ、力は自身の肉体を逆に軋ませた。
巨体を大地に伏し彼は膝をつき崩れ落ちていく。
サジタリウスの矢は射るより早く折れ曲がり、弓そのものが悲鳴を上げて弦を断ち切った。
小さく彼は嘶くような悲鳴を漏らす。
重力は万物の運命を平等に圧する。
例外は存在しない。
リーブラは半壊した身体を引きずりながら砲口を向けた。
だが放たれるはずの砲撃は砲身の内部で押し潰され、彼女の装甲を内部から破裂させた。
光も熱も、すべては黒の支配下にある。
アクアリウスは必死に仲間へ回避の加護を送る。
だが“回避”という行為そのものがもう成立しない。
身体を動かす前に、重力が動作を封じる。
ミシ、ミシと彼女の大本たる水瓶が軋んだ。
レオンは最後まで吠えた。
巨体を震わせ、己の全力を叩き込もうとした。
だが衝撃波すら生まれない。
音は空間に殺され、力は自分自身を裂く刃と化した。
その巨体が反作用で木の葉のように舞い、壁に叩きつけられる。
絶望。
黒い箱の内側にいる者たちは、全員がふと直感する。
「もう終わりだ」と。
兵士の列は糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。
英雄たちの技は発動する前に押し潰され、意志だけが虚空を叫び続ける。
誰一人、抗うことはできない。
黒い箱の中心に――“穴”が開いた。
それはブラックホールの“核”である特異点。
視認できぬはずのそれが、直感として存在を告げる。
その一点へ、すべてが吸い寄せられ、すべてが潰される。
ミズガルズは震えた。
だが破壊されない。
世界そのものは無傷のまま、内側の存在だけを刈り取る。
まさに“文明殲滅”のための兵器。
アリストテレス兵器群はここでの仕事が片付き次第、地球に向けてコレを放つつもりだった。
惑星をすっぽりと黒い箱で覆いつくし、中に有る数十億の人間もろとも消し去る計画は既に決定事項である。
人類の根絶は計画の重要な要素の一つだ。
二度とアロヴィナスの様な存在がわいてこない様に発祥の地を根絶するのは当たり前なのだ。
人間種に似たもどきたちは殲滅されなくてはならない。
80億にも上る驚異の種は抹消する。
セト級は腕を掲げ続け、揺るぎなく黒い箱を制御している。
エル級はその前に立ちふさがり、庇うように腕を広げた。
巨体の恐竜ゴーレムは絶対の防壁。
どの方向から攻撃されても、瞬時に転移し、壁となって仲間を守る。
二体の連携は完璧だった。
黒い箱の完成は、十二星天の死を意味する。
ゾディアック軍全体の消失を意味する。
そして、彼らを失うことでルファス・マファールは配下の能力を扱えなくなり、マナ・キャンサーに敗北することだろう。
つまり。
終りだ。
終わり。
そして。
次の瞬間、闇の内側で微かに裂ける音がした。
最初は誰も気づかなかった。
しかし、確かに“音”があった。
圧壊と崩壊しか存在しないはずの内部から、何かが抗っている音。
闇が揺らいだ。
見間違いかと思われた。
だが確かに、黒の表面に細い線が走った。
それは――細い腕。
人のものにも似たその腕が、闇の内側から掴み、引き裂いていく。
鋭いながらも細くしなやかな五指は掴める筈のない重力をつかみ取り、引きちぎる。
黒い箱は完全に閉じたはずだった。
内側にあるものは全て潰れ、圧し折られ、沈黙の塵と化すはずだった。
アリストテレスの計算によればこれで片がつくという結果は出ていた。
だが、裂けた。
黒の表面を、爪のように鋭い指が内側から掴み、抉る。
細いが異様にしなやかな腕だ。
押し潰されるはずの空間を逆に掴み取り、破砕する。
存在そのものを否定する重力を、更に上回り否定する意志がそこにあった。
ひび割れが走る。
蜘蛛の巣のように広がり、やがて黒壁を断ち割る。
その瞬間、光も音も戻ってきた。
沈黙の世界に、咆哮が響いた。
「■■■■――――ッッ!!」
姿を現したのは、かつての魔王アイゴケロスではなかった。
そこに立つのは――老紳士の仮面を脱ぎ捨てた真の姿。
三メートルほどの、細身でありながら筋肉を研ぎ澄ませた人型の悪魔。
その顔は山羊のもの。
しかし瞳には灼熱の意思が宿り、牙の奥からは圧縮された息吹が漏れる。
背から広がる翼――。
それは黒い羽根を持つカラスのように見えた。
だが実際には、凝縮された「月」属性のマナが吹き出し、冷たい輝きを羽根に変じていた。
一枚一枚の羽根は刃のように鋭く、夜空を思わせる銀の煌めきを帯びていた。
「……この姿は、ルファス様にもお見せしてはいない」
理由は明快。
まだ完成していないからだ。
いや、完成する目途が立っていなかったというべきか。
「魔王たる我が更なる力を求める。かつての我であれば屈辱でしかなかっただろう」
つまりそれはヘルヘイムの魔王である自分よりも強い存在がいると認める事だからだ。
自分は最強ではないという白状など魔物であれば普通はしない。
しかし、彼は愚かではない。
負けたのだ。二度も。
そして目の前にいるのはかつて自分を葬った存在の遺した異形共。
更には同胞たるアリエスが見せた少しでもルファスの役に立つために変化を続けようとする意思。
それが魔王を新しい境地へと導いた。
声は老紳士の低音を残しつつ、悪魔の咆哮が混ざり響いた。
かつての敗北。
一度はヘルヘイムでプラン・アリストテレスに打ちのめされ屈辱を味わった。
次には竜王ラードゥンに切り刻まれ、同胞の犠牲を以て生き延びた。
その二度の敗北は、深く骨の髄にまで焼き付いている。
巨大化すれば勝てると思っていた。
大きさこそ強さだと信じていた。
だが、その思い込みは何度も打ち砕かれた。
意味不明な動作で己を蹂躙したアリストテレス卿。
理不尽なまでの女神の力を以て自分たちを踏みつぶしたラードゥン。
共に表舞台から消え去った化け物どもにアイゴケロスは二度と挑むことは出来ない。
しかし備えることは出来た。
眼前の兵器群を相手に勝つための牙を研ぎ澄ませることならばできた。
故に――圧縮へと至った。
大きさではなく、凝縮。
膨張ではなく、研ぎ澄まし。
全ての力を小さな器に押し込める。
彼が信仰する至高の魔物、覇王ルファスを模した人型の姿。
その背中を追い、少しでも近づき、その覇道を支える為に選んだ形態。
しかし、それはあまりにも過剰だった。
力を凝縮しすぎた結果、魔王をして制御は難しい。
一歩間違えば自壊すらあり得る。
アイゴケロスよりもはるかに高次元かつ高密度のマナを身体に宿し平然としているルファスがおかしいのだ。
だが――十二星天にはパルテノスがいた。
天法、天力において彼女を超える術者は一人しか存在しない。
「存在するものを補強する」その力を彼女は惜しみなく注ぎ込む。
崩壊しかけた器は補強され、悪魔形態は安定する。
一人の力では無理ならば、仲間の力を借りる。
そんな当たり前のことを魔王がやった結果がこの姿だ。
アイゴケロス、新形態。
圧縮進化による人型悪魔。
その姿はまさしく「ルファスの再現」とでも呼ぶべきものだった。
「我は負けぬ。決して、決してだ!!」
「アリストテレス!! 冥府の底で見ているがいい!!!!」
「我らの力が貴様の玩具を砕く様をなッ!!!」
悪魔の咆哮が響き渡る。
翼が広がるたび、空間が震え、月光のようなマナが降り注ぐ。
それは重力すら押し返し、セト級の制御する黒い箱を内側から粉砕していった。
アリストテレスへの畏怖と恐怖と憎悪。
ルファス・マファールへの信仰。
そして、この姿を得るために助力してくれた同士への感謝を抱き彼を構築するマナが活性化していく。
瞬く間にレベル1000を超え、1400まで彼の力は跳ね上がり……更に更に上がり続けた。
あっという間に限界に到達し、二つ目の壁が彼を抑え込もうとしてくる。
だが。
彼はそれを突き抜けた。
半ば暴走しつつあるほどに活性化したマナと、それを崩れないように補強する天力をもって彼は超えた。
この瞬間、ほんの一時とはいえ彼は覇王の背に対して一歩踏み込んだ。
アリストテレスの最初の作品はこうして最新の兵器に対抗する力を得たのだ。
完全に黒壁が崩れる。
戦場に再び光が満ちる。
英雄たちが、わずかに呼吸を取り戻す。
しかし誰もが理解していた。
これは始まりだ。
この先に待つのは想像を絶する規模の戦い。
アリストテレス兵器群と新たなる地平に至った魔王の激突はもはやどうなるか誰にも予想など出来はしなかった。
原作では当然の様に1枚目の壁を越えていたので
外部からの圧や刺激があれば出来ると思ったのでこうなりました。