ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
結構いい感じに遊べたと思います。
まだ付け足せそうですが、これ以上やるとくどいのでカット。
マナ・キャンサーという存在は単体に見えてその実は群体だ。
アリストテレス兵器群の最終兵器であり、プランが究極兵器とさえ太鼓判を押したソレは一種の集合知性染みている。
一つ一つの癌化したマナや素粒子がそれぞれの原始的な自意識を持ち、それらが“一致団結”の応用で複雑に絡み合い一個の生命体の様に振る舞っている。
マナ・キャンサーとは新しい悪性生物であると同時に八番目の人類種族でもある。
女神の様な姿も未だ不完全の象徴だ。
これはマナを完璧に理解するための過程でしかない。
そして彼女の物質世界における遺伝子配列はディーナと98%同一と言っていい。
残り2%の差異にアリストテレスの妙技が含まれている。
ディーナの中にあったエルフと人間の遺伝的要素を整理整頓し、必要だと思った部分だけを残されていた。
つまるところマナ・キャンサーは遺伝的な要素を見ればディーナの妹か娘といえよう。
もしくはアロヴィナスの劣化複製体か。
そしてアリストテレスの作品の製造ロットとしてはこの存在はアイゴケロス、ルファスに次ぐ次女だ。
ミズガルズに残った最後のアリストテレスの妄執の権化、それがこの神の癌である。
そうだ、まだ劣化でしかないのだ。
生物が必ず内包する致命的な自壊要素たるガン細胞。
アロヴィナスと極点を葬る致命的なエラー。
目的意識を持ち、感染と拡大を繰り返すFatal Errorそのもの。
その真骨頂がルファスに向けられていた。
彼女があらゆるモノを物理的に破壊するのならば、これはシステムを蝕む。
その真骨頂をお見せしようではないか。
【DAMAGE RETURN PROCESS:ACTIVATED】
MIDGARD_SYSTEM_LOG // AROVINUS_KERNEL // TERMINUS_ENDPOINT
Base=9.9999×10^5
Cell=3.28×10^37
A(Altarus)=×(2^N) B(Acubens)=×(1.5^N)
→ M≒2×3^N/N=3.28×10^37
→ log₁₀(M)=0.4771×3.28×10^37=1.56×10^37
M=10^(10^(37×1.56))≒10^(10^37.19)
MIDGARD_CORE=NULL
AROVINUS_OS=FAIL
TERMINUS=FROZEN
| ERROR CLUSTER | SYSTEM HANG | 《yellow》RESOURCE STATUS《/yellow》 | ERROR | SYSTEM_HANG | EXISTENCE / CONSUMED |
|---|
《blink:v30-100》【CRITICAL:TERMINUS_ENDPOINT】
observer lost / object lost / scene lost / memory lost / index lost / name lost / shape lost / law lost / color lost / time lost
ERR_00 ERR_01 ERR_02 ERR_03 ERR_04 ERR_05 ERR_06 ERR_07 ERR_08 ERR_09
《blink:v5-90》ERRORERRORERROR……
かつてのミョルニルの戦いで竜王が受けたダメージなど話にもならない天文学的、いや、巨大数カウンターが蠢く。
先のルファスの槍で死滅した各細胞がまずそれぞれ【アルタルス】で上限突破+2倍を与える。
さらに全細胞分の【アルタルス】倍々が段階的に重なる(×2^N)。
その後【アクベンス】の1.5倍を全細胞分重ねる(×1.5^N)。
生み出された総倍率はただ数字を並べるだけで宇宙が埋まるほどの文字が踊り狂った。
いまだ“ハンテイ”は生成されていないがそれも時間の問題。
その合計数。
M ≈ 10^(1.56×10³⁷)
観測可能な宇宙にある全原子の数は10の80乗に過ぎない。
そんなものを置き去りにするほどのダメージだった。
この宇宙を構成する粒子のすべてを砂粒に変えて積み上げてもこの数字の1桁目を埋めることすら叶わない。
もし、1秒間に1億の宇宙を創り出し、それぞれの宇宙の寿命を1億回繰り返したとしても無駄だ。
その果てしない時間の中でこの数値のカウントダウンを終えることはできないのは明らかだ。
それは、全ての賢者が全知を尽くして全宇宙の全歴史を書き留めてもなお無意味な領域の数値である。
しかしまだアロヴィナスには遠く及ばない。
だが、この処理で極点に微かな損傷が入ったのは事実だった。
99999までしか処理できない女神の世界ではまず想定されていない数値だからだ。
アロヴィナスの宇宙が始まって以来、あのミョルニルの戦いで起きたソレとは比較にならない処理負担である。
こんな狂い切った数値をダメージとして表現する事はかなわず一部で演算が停止。
想像もつかないほどの数値から何とか想像できる範囲へと数式が歪む。
明らかに宇宙一つには収まり切れない値はそのまま極点にもはみ出し、神の御座に甚大な負荷を与える。
アロヴィナスという絶対の神だからこそこの負荷にも何事もなく耐えられた。
彼女の前であったのならば、この数字が出現した時点ではじけ飛んでいてもおかしくはなかった。
既にこの時点でマナ・キャンサーは先代の神を超えているのは明らかだった。
PPP─────。
甲高い悲鳴が響く。
ありえない規模の計算に極点が揺れている。
幾つかの別宇宙の運営処理が狂い、時間が停止したり、中には逆行を開始する世界さえ現れだす。
ジジジジジという砂嵐と共にノイズが世界中のあらゆる場所に出現し、それは御座の主さえも微かに覆った。
女神の神体が一瞬だけ白黒と化しその姿がぼやけた。
────何が起きて……!
世界に対する損壊はアロヴィナスへの損壊となる。
極点で必死に世界の支配権を取り戻そうとする女が微かな違和を覚えて己の爪を見た。
─────?
女神は今の異常さえ放り投げて瞬きをした。
指先が割れていた。
今まで気づいていなかった爪先の傷より侵入した欠落は進行し、血の代わりに滲むのは彼女を構成する“力”だ。
ミシミシミシと神の身体にほんの数ミリの断裂が刻まれていく。
M ≈ 10^(1.56×10³⁷)ダメージの処理がゆっくりと女神に降りかかっている。
女神のステータスは宇宙全てを数字で埋めてもなお余るほどだ。
しかし今回発生したダメージ量はそんな彼女にも微々とはいえ損壊を与える次元であった。
─────…………。
……嘘。
絶句した女神の背筋に初めて冷たいものが走る。
息が荒くなる。
瞳孔は収縮と拡大を繰り返し、頭はふわふわとする。
「…………」
自分が受けた指先の微細な傷を凝視する。
何だこれは、何が起きている?
女神アロヴィナスとは単一の種族であり頂点種である。
彼女は誕生した時から競争などしたこともなく、己の身を侵害されたこともない。
故に彼女は当然の反応を見せた。
つまり“気持ち悪い”もしくは“恐ろしい”だ。
自分の身に危機が迫れば誰だって焦るし、それを避けるために行動をするものだ。
だからこうなった。
天が震え、女神ははじめて“恐怖”を知った。
極点の玉座に爪を立て、裂け目から滲む自身の“力”を見つめ――そして決めた。
──――加護を今すぐ、全員に。
彼女はミズガルズに張り巡らされた祈りの路に多大な力を解き放つ。
敵も味方も区別しない。
今まで利用してきたアリオトやメグレズ達にはもちろん、敵であるルファスの配下にさえ配る。
パルテノスにも、アリエスにも、挙句にはルファスにも。
蟻や蜂に囲まれた無名の兵にさえ。
天力は雪崩となって降り、世界の全呼吸が一拍ぶんだけ軽くなった。
彼女の願いは一つだった。
早く誰か何とかしてください!!
自分ではどうしようもなくなりつつある状況を誰かが解決してくれることだけだ。
この際ルファスでもいい。あの時の様に共倒れしてくれれば最高だと。
そして、その瞬間。
アリストテレス兵器群が嗤った。
どうやらこの力だけしかない女は癌という最も有名な病気が何であるかを知らないらしい。
そしてルファス。
彼女は自分に押し付けられようとしている“死”を感じ取っていた。
直接物理的に殴られるのではない。数式が己を摺りつぶそうとしている事を察した。
億や兆などといった次元を通り越した数の暴力が迫ってきている。
背筋から這い寄るのは濃厚な死の気配。
レベル4200の400万を超えるHPなど端数にもならないモノが落ちてきている。
カチ、カチ、カチと歯車が回る音がした。
空間が沈んだ。
時が止まった。
そして、計算が始まった。
【DAMAGE RESOLVE】
TERMINUS_COMBAT_UI // TARGET ANALYSIS // LETHAL OUTPUT
| TARGET | HP | INCOMING VALUE | LUFAS_MAFAR | 4,400,000 / 4,400,000 | 56×10³⁷) |
|---|
ANALYZING DAMAGE VECTOR ... RESOLVING ... APPLYING ... OVERFLOW ...
4,400,000 - 10^(1.56×10³⁷)
HP:4,400,000 → 0
SYSTEM NOTICE : VALUE EXCEEDS DISPLAY LIMIT
LETHAL DAMAGE CONFIRMED
カウントが、無限を越えた。
億兆京垓を通り越し、時間軸そのものが演算領域へと変わる。
結果の値だけが落ちてくる――“結果”だけが。
その一撃は存在するという概念を破砕した。
いや、破壊というよりは破滅の押し売りというべきか。
数式が神の構造を喰い破り、魂の階層までも数字で上書きしていく。
ルファスの瞳が、ゆっくりと閉じた。
余波で【片眼の英雄】が砂塵と化して消えていく。
「…………そうか」
彼女は理解した。
この攻撃には“殺意”も“痛み”もない。
ただの“数値”だ。
避けることも、斬ることも、砕くこともできない。
ならば――受けるしかない。
「────来い」
口角が、僅かに上がった。
覇王は逃げない。
世界は一度、真っ白になった。
脳が焼き切れ、心臓が強制的に停止する。
体内のマナは霧散し、魂の輪郭が剥がれ落ちる。
肉体だけが残った。
しかしその肉体には、もう何も宿っていない。
HP:0.00000000000000000000000000001
HP:0.00000000000000000000000000000
沈黙。死。終わり。
胸元で、淡い光が灯る。
それは黒い世界に、ただ一つだけ残った「日」の粒。
アリストテレス兵器群が量産し人類の生存率を跳ね上げた逸品。
効果は単純明快。
「所有者のHPが0になった場合、身代わりになってくれる」である。
メリディアナがエリクサーを所持していたように彼女もコレの有用性を認めて所持していた。
あの覇王が、もしかしたら死ぬかもしれないと恐れて保険を用意していたのだ。
それは誰でも扱える命の保険。
誰であろうと命を救う奇跡は設計者と敵対するルファス相手であろうと問題なく発動した。
その光が、死を欺いた。
REVIVE ITEM USED
LUFAS MAFAR HP
HP 0 / 4,400,000
0 → 4,400,000
HP 4,400,000 / 4,400,000
Revival complete / status stabilized
黒い空間の奥で、心臓が再起動する音がする。
金色の光線が胸から放たれ、四肢を走り抜ける。
焼けた血管の代わりに光が流れ出す。
パキンと音を立てて結晶が砕けて砂に帰っていく。
ゆっくりと、彼女は目を開いた。
焼けただれた空間の中で、まだ立っていた。
足下に残った灰が、彼女の影を模倣するように震える。
「今のは効いたぞ」
息を一度吸い込み、口元でわずかに笑った。
その瞳はもう、どんな損壊も恐れていない。
ルファスの声が響く。
冷たく、だが確実に生きている。
己の胸に手を当てれば心臓は動き続けている。
何より彼女は覚えた。
一度見に受けたソレを理解し、次に来たらどう対処するかを考え、思い付き始めていく。
「だが───数字で余は殺せない」
「殺したければこの身を砕くしかない」
つぅっと艶めかしく人差し指で己の身体をなぞり上げた。
細い細い女の肉体。
少し叩けば割れてしまいそうなほどに彼女の身体は外見だけは華奢だ。
だがしかし。
それはあくまでも外見の話。
実際は想像を絶する。
黒い翼に朱色の光が走る。
マナ・キャンサーというかつてない強敵を前に彼女の心身は限界知らずに活性化し続けていた。
深紅の瞳をぎらつかせてルファスは言葉を紡ぐ。
「其方に出来れば、だがな」
マナ・キャンサーの砕けた右半身が再構築していく。
引き寄せられ続ける銀河複数個が材料となり身体が瞬く間に修復する。
復元した右腕を掲げて指を開閉させながら癌は世界に流れ込み続ける莫大な天力を観測した。
癌はルファスの相手をしつつも機を待っていた。
即ち女神が自棄を起こす瞬間を。
思った通りだ。
もしも彼女が言葉を発するとすればこう言っていただろう。
アレはこうする事しか出来ないのだ。
女神の数少ない手札である龍は起動出来ない。
アレに対する起動シグナルは既にマナ・キャンサーがディーナの因子を用いて妨害し続けている。
と、なれば今現在自分の影響下にあるものに力を渡して戦わせるしかない。
……天から落ちてくる恵みは、同時に“上へ”の回路を証明する。
今、ミズガルズは最も終極点に近づきつつある。
何せほぼ全人類に女神は力を送り続けて自分とルファスを何とかさせようとしているのだから。
だがその前に、回収を始める必要がある。
【任意コード実行/座標移動】
瞬間的にマナ・キャンサーが転移を行う。
ルファスが即座に追跡の為に【エクスゲート】を発動させ何光年もの距離を追跡してくるが、数手遅い。
青いミズガルズを見渡す宙域に出現した癌は合掌しディーナの保持する人心を操るスキルを発動させる。
【ケバルライ】
宙に、光が舞った。
一瞬遅れてやってきた覇王が全力でミズガルズに腕を伸ばしたが、それよりも早く術は完成した。
黄金でも白でもなく、透き通った青の輪――無数のヘイローが互いに交差し、ゆるやかに回転していく。
その軌跡は惑星規模の曼荼羅。
どの角度から見ても正円に見えるように調整された、完璧な調和の構造体だった。
それはまるで、神が微睡みながら口ずさむ子守唄の譜面のよう。
どこまでも柔らかく、どこまでも美しい。
だが確かに世界を塗り替える音を孕んでいる。
マナ・キャンサーの複数の瞳孔が淡く揺れる。
幾重にも重なったヘイローが乱回転を始め、見えない波動が空間を撫でた。
ミズガルズが震える。
山脈は眠るように沈黙し、海はまどろみ、雲のひとつひとつがゆるやかに降りてくる。
人々は空を仰ぎ、なぜか涙を流した。
恐怖ではない。懺悔でもない。
ただ、温かな懐かしさに包まれたような感情。
人々の協力を仰ぐのに恐怖や不安を用いる必要はない。
その逆、安息と安寧、安心を約束してやればいい。
メリディアナはそうやって兵器群を育て上げた。
だからマナ・キャンサーは、アリストテレス兵器群に宿る目的意識はそれをなぞる。
やっと、終わるんだ。
もう苦しまなくていい。
産まれて来ていいことなんてなかった。
それは感染だった。
だが痛みも、恐怖も、抵抗の気配すらなかった。
マナを持つすべての存在の内側で、同じ旋律が響いている。
誰かが呟いた。
その言葉は風に溶け、この世を撫でていく。
ミズガルズという絶望に満ちていた世界にうんざりした者たちは約束が果たされる時が来たと歓喜し受け入れる。
兵器群は衆生全てからの解放と安息を約束した。
それは事実だった。
戦場にいた兵士は武器を手放し。
母は赤子を胸に抱きながら微笑み。
廃墟の中で泣いていた子供たちは、光を見上げて笑った。
【ケバルライ】の波動は、空間を、意思を、世界そのものを穏やかに撫でる。
人類に強く結びついた高濃度の“マナ”を触媒に人々に沈み込んでいった。
高濃度のマナ。
つまり高レベルであればあるほどこれは深く親和し作用する。
ルファスが果実を配布して行った人類の底上げ、それに更に兵器群は己の計画を積んだのだ。
その瞬間、ミズガルズは祈りの牢獄と化した。
絶望に満ちた女神の創った世界。
その根底には、「苦しみこそ喜びの先ぶれ」という呪われた法則が染み付いている。
天の座に座す者が微笑むたびに地上の誰かが流す血と涙が秤の上で均衡を保つ。
それがこの世界の摂理だった。
空から降りてくるのは滅びではなく、安息の音。
そしてその波動が触れた瞬間、ひとり、またひとりと光になって消えていく。
苦痛はない。
恐怖もない。
ただ――「終わりたい」という想いだけが残る。
ミズガルズに生きてきた人々の胸に浮かぶのは、不思議な郷愁。
まるで故郷の匂いに包まれているような、深い安心感。
もう、戦わなくていい。
もう、泣かなくていい。
もう、何も背負わなくていい。
そんな声が、空の彼方から優しく降り注いだ。
マナ・キャンサーの意識が世界全体に広がり、すべての生命の記憶を撫でていく。
抵抗しようとした者でさえ、その温もりに動きを止めた。
そして――その瞬間、同時に発動していた一致団結が臨界に達そうとする。
同時にアリストテレス兵器群は全人類を対象にスキルを発動させる。
仕上げだ。
【錬成】
これの効果は幾度も語られた通り“理解できるモノを理解しているモノへと変換させる術”である。
アリストテレスは人間の構造を完璧に把握している。
筋肉や血液、骨はおろかその更に奥に秘められた遺伝子構造まで。
故にそれらをマナへと変換することは難しいが可能であった。
この世の法の一つに物質をエネルギーへと変えるモノがある。
で、あるのならば物質をマナ/情報へと変換するのもしかりだ。
かつてプランがリュケイオンを守るために行った秘儀。
極限にまで高まった“一致団結”と【錬成】の合わせ技。
それを【ケバルライ】で再現する。
個が消え、輪郭が溶け、境界が失われていく。
意識は混ざり合い、世界はひとつの意志にとって変わる。
アリストテレスの誘いを受け入れた者の肉体は光となってマナ・キャンサーの中枢へと吸い込まれ、魂は静かに――彼女の中の“保護施設”に移されていった。
ほんの数瞬でミズガルズの総人口の2割が消えた。
彼らは積極的にアリストテレス兵器群の計画を支持していたものたちだった。
故に何の抵抗もなく消えた。
ミズガルズ人類の集団自決。
安楽死。
絶望しかない世界からの解脱。
それがアリストテレスの語る平和だ。
抵抗する者。
拒む者。
恐れる者。
そして混乱する者。
彼らの精神にも【ケバルライ】は浸透を続け、アリストテレスの“説得”が染み渡る。
一人、また一人と誘惑に屈しマナ・キャンサーによって回収される。
静かに街の明かりが消えていく。
それは滅亡ではなく、夜の訪れ。
子供たちが眠るように、世界は光の中で目を閉じ───起きよ。
そして、その瞬間。
人々の中で金色の光が瞬く。
ルファスの果実。
かつて人類に力を与えた、黄金の果実に刻まれていた支配権が動く。
決して使うまいと決めていたルファスだったが、こうなってしまったら致し方ない。
『負けるな』
光が走る。
それは“命令”ではなく、“呼びかけ”だった。
冷たい絶対者の号令のようでありながら、確かにそこには人の未来を信じる意志があった。
マファール塔の頂上。
玉座の間でディーナは祈る様に指を組み全身全霊で【ケバルライ】を行使し続け、マナ・キャンサーのソレを必死に中和し続けていた。
ミズガルズ全土を覆おうとしている精神操作の波は如何に無尽蔵の神の加護を受けたとはいえ彼女一人ではどうこう出来る領域ではないが、それでもわずかに遅らせる事だけは出来た。
「────ルファス様」
まだ終わっていない。
絶対に終わらせない。
私の全てを懸けて阻止して見せる。
そしてヴァナヘイムの森では一人の女が蒼に埋め尽くされた宙でも輝きを失わない朱い光を見上げ、祈っていた。
彼女が願うのは世界の安寧でもわが身の助命でもない。
ただ一人、愛する娘が無事に戻ってこれるようにという母としての祈りだった。