ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

32 / 221
「ついにぼくの活躍がはじまるよ!」


竜王の“よびごえ”

 

 

馬車に揺られる事しばらくして、プランとルファスの両名はユーダリルに到着した。

さすがは貴族向けの馬車というべきか、2時間程度でリュケイオンとユーダリルを結ぶ程の駿馬が用意されていた。

微かにマナを取り込みレベルアップを果たしていた馬は疲れ知らずで、普通の馬の何倍もの速度を休むことなく駆け抜ける事ができるのだ。

 

 

 

もちろん御者の腕がいいというのもある。

ユーダリルから派遣された彼はアリストテレスという上客に相応しい腕前であった。

 

 

 

「……やっとか!」

 

 

外から到着を知らせる声が響いた時のルファスの反応は劇的なものがあった。

こねくり回して遊んでいたプランの顔から手を離し、大きく息を吸って目を輝かせた。

よほど自由になれるのが嬉しいのか、何回も翼が羽ばたいていた。

 

 

 

彼女は馬車が停止した瞬間に窓から周囲の様子を伺い、自分たちが市街地の中にいると悟り身を固くする。

周囲に人が集まってくるのを優れた感知能力で把握した彼女はプランを見た。

人嫌いで人間不信な面もある彼女は、周囲の見知らぬ者らに強い警戒心を抱いているのだ。

 

 

 

彼女は自分の翼を見る。真っ黒な翼を。

深呼吸を繰り返す。今の自分は強い。レベルだけ見ればプランよりも上だ。

力と言う後ろ盾をもって彼女は自分を落ち着かせた。

 

 

もうヴァナヘイムで嬲られていた弱者ではなく、仮定の話ではあるが自分がやろうと思えば周りの奴らを一瞬で叩きのめすなど造作もないことだ。

もしもまた何か言われたら、プランの言葉を破って【威圧】を使ってやると彼女は決めた。

 

 

それはそうと踏ん切りがつかないのも事実であり、ルファスは窓の外を鋭く睨み続ける。

何てことはない話である。彼女は見知らぬ人の前に姿を現すことに緊張しているだけであった。

そんな彼女を目にしたプランはゆっくりと立ち上がると、ちょっとだけ乱れていた衣装を正す。

 

 

しっかりと背筋を伸ばし佇むその姿は正に貴族といえた。

 

 

 

「じゃあ行こうか」

 

 

 

少女に手を差し出す。

ルファスはお前の手など借りないと言いそうになったが、今の自分は外見通りの“普通の”少女を演じなくてはならない事を思い出した。

本当に不愉快な話であるが、母にまで事が及ぶかもしれないとなればルファスは従わざるを得なかった。

 

 

 

今の自分は普通の子供。

今だけは普通。

とりあえず、不快極まりないが普通を演じようと彼女は考えて気が付いた。

 

 

 

(普通……“()()() ()少女”とはなんだ?)

 

 

 

判らない自分がいることに気づく。

だから必死に頭の中を検索しヴァナヘイムやリュケイオンで見た親子の姿を想起する。

とりあえず、普通に手を繋いでいたなと考える。

 

 

 

改めてプランを見た。

彼が差し出してくる手を見た。

プルートに向かう時も繋いだことはあるが、あの時は渋々であった。

 

 

 

もちろん今だって渋々だ。

できればこの男となれ合うことなどしたくはない。

こいつの父親気取りの偽善者ごっこ遊びに振り回されるなどうんざりする。

 

 

 

だが自分がもっと強くなる前に魔神族に察知されて潰されるのは問題だ。

母さえも荒事に巻き込まれるのは何としても阻止しなくてはならない。

それに先ほど聞かされたユーダリルの“強さ”は彼女も同意するところがあったのも事実だ。

 

 

これは演技だ。

仕方ないからやってやる。

断じてこの男に絆された訳ではないと彼女は決めた。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

細い指を彼の掌に乗せた。

プランはそれをしっかりと握り返してくれた。

 

 

馬車の扉が開き、外から歓迎の声が響いてくる。

有力者であるアリストテレス卿を出迎える為に何人も人が集まっていた。

ルファスは意を決してプランに手を引かれ、大勢の前に姿を晒した。

 

 

 

「お会いできて光栄です、アリストテレス卿」

 

 

出迎えたのは初老の男であった。

作りのいいスーツに身を包み、白い手袋をつけた人間族の男である。

彼は人当たりのいい笑顔を浮かべてプランとルファスを迎えた。

 

 

 

 

「こちらこそ」

 

 

 

綺麗すぎる微笑みを張り付けたプランの顔を見てルファスは「また中身のない笑顔だ」と思った。

他の奴らはどうしてプランのこの空虚な笑顔に気づかないのだろうかと彼女は本気で疑問だった。

いや、もしかしたらガザドが気が付いていたように誰もが知っていてどうでもいいと流しているのかもしれない。

 

 

誰もが上辺だけ笑顔を浮かべ、耳障りのいい言葉を投げつけ合う世界。

それが貴族の世界だとするなら、何て窮屈なんだろうとルファスは思った。

 

 

「そちらのお嬢さんがルファス様ですね」

 

 

 

男の視線が自分に向いた時、ルファスは一瞬だけ身を固くした。

しかし直ぐに今の自分は何処にでもいるただの少女だと自己暗示を繰り返し、頷いて返した。

 

 

じっと紅い瞳で男を見つめた。傍から見たら少しだけ引っ込み思案な少女が見慣れない人にそうするように。

睨まない様にするのに多大な精神力を使ったが、何とかできた。

 

 

 

さて、何が来る? とルファスは警戒を続ける。

「おぞましい黒い翼」かはたまた「穢れた血筋」か?

故郷の大人たちは初対面の自分にそういう言葉を投げつけてきた。

 

 

 

何なら言葉だけではなく拳や足だって飛んできた。

酷い時は熱湯に、油とかもあった。

よくもまぁ、出会ったばかりの自分をああまで殴れたものだと今更ながら少女は感心さえ抱いた。

 

 

 

「可愛らしい方ですね。伺っていた通り……いや、想像以上に愛らしいお方だ」

 

 

男性は微笑みながら告げた。彼が吐いたのは少女の予想外の言葉であった。

一瞬だけ「は?」と漏れそうになったのをルファスは何とか精神力で抑え込んだ。

そんなことあるはずがないと叫びそうになったが、今の自分はただの少女だという前提を思い出して堪えた。

 

 

 

「ありがとうございます。仰る通りリュケイオンでも彼女は人気者なんですよ」

 

 

 

プランの笑顔の質が変わった事をルファスは目ざとく見抜いた。

先ほどまであった作り物ではない、人の血が通ったモノであると。

つまり、誰がどう見ても彼は上機嫌になっていた。

 

 

「天翼族とは職業柄、出会う機会も多々ありますが彼女ほどに見目麗しい方は見た事がありません」

 

 

 

その言葉に気を良くしたのかプランはますます自慢を始めていく。

前にガザドに語っていたルファスが如何に今まで頑張っていたかの自慢だ。

あの時は大人げなく叫んでしまった彼女だが、今は自分が普通の少女だということもあって何も言えない。

 

 

 

それを良いことにプランはまるで自分の娘を誇る様に延々とルファスを褒めたたえ続けた。

最初は何とか耐えていた彼女だが、次第に堪えきれなくなり始める。

こいつは、いったい、いつまで喋り続けるんだと内心で叫んだ。

 

 

流れる様に吐き出され続ける褒め殺しの数々にルファスは頬に熱を帯びて顔を伏せた。

ぎゅっとプランの手を握りしめ、力なく顔を振った。

どうしてどいつもこいつもこういうことをするんだと悶える。

 

 

今の強くなったルファスはどんな悪意や罵倒にも真っ向から立ち向かえる。

しかし、こういう絡め手は本当に苦手であった。

 

 

やめろ、やめろ、頼むから、やめろ。

早く先に行け、いつまで続けるんだこの馬鹿がと内心で吠えたてた。

 

 

 

結局、ルファスがこの羞恥地獄から解放されたのは5分後であった。

こいつ、私が不自由な事を良いことに言いたい放題やりやがってとルファスのプランへの恨みが一つ増えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交易都市ユーダリル。

 

 

 

その名前をルファスは幾度も聞いた事はあったが、詳細は余り知らなかったというのが実態だ。

多くの種が集まる交流の中心地点。かつてのユーダリルが礎を築いた彼の夢の具現。

そしてあらゆる王国との摩擦が発生するあらゆる意味での激戦区、それがユーダリルである。

 

 

 

人種のサラダボールとは本当に巧い表現だとルファスは思った。

今の彼女たちは複数の護衛に囲まれ、少しばかり早く到着した事もあってユーダリルを観光していた。

 

 

人、人、人。

多くの人を彼女は見た。

余りに混沌とした空間にルファスは少しだけ面食らっていた。

 

 

プランから話は聞いていたが、まさかここまでとは思わなかったのだ。

人間は当然としてエルフにドワーフ、獣人に余り見た事のない小人まで。

更には何故か天翼族までいるという混沌ぶりに少女はこの街、本当に大丈夫なのかとさえ思った。

 

 

 

天翼族、恐らくは冒険者であろう人物はルファスをちらっと見た後、直ぐに興味ないのか視線を外す。

純白と言う程ではないにせよ、立派な白い翼をもつ彼がなぜヴァナヘイムではなくここに居たのか彼女には判らなかった。

世の中には変わり者が多いモノだと思いながらルファスは買ってもらったクラティーナという菓子に噛り付いた。

 

 

 

柔らかい生地の中に甘いクリームと、一口サイズの果物を詰められたソレは噛むたびに蕩けるような甘さを齎してくれた。

思わず紅い瞳を細めてルファスは味を堪能する。

 

 

まぁ、そこそこ美味いなと彼女は胸中で評価を下す。

さっき食べた焼き菓子の方が……ちょっとだけ美味しいと彼女は思った。

 

 

 

「ユーダリルはさっき解説した通り、本当に多くの種族がひしめき合っている。

 いわば文化の中心ともいえる街なんだ」

 

 

 

始まったなとルファスは思った。

この解説男めとうんざりしながら、知識もまた力である故にルファスは耳を傾けだし、プランの声が続かない事に疑問を抱いた。

一度口を開けば延々と続く彼の言葉であるが、ないとなるとソレはそれでつまらないものがあった。

 

 

 

どうしたんだ? と疑問に思い彼を見上げればプランはルファスに向けて困ったような笑みを浮かべ、次に視線を人垣の中の一点に向けた。

視線で「あっちを見なさい」と告げてくる。何だと思いつつルファスは視線を向けて……。

 

 

 

「……あ!」

 

 

お前! と叫びそうになるのをルファスは何とか堪えた。

プランの目線の先にいたのはエルフの男……リュケイオンでふざけた事をしてくれたアラニアであった。

しかも今の彼は傍らに少年のエルフを連れており、こちらを見て少しだけ顔を傾げていた。

 

 

 

「アラニア卿! まさかお会い出来るなんて」

 

 

プランの笑顔の種類が瞬時に切り替わるのをルファスは見た。

人のモノから無機質な張り付けたモノへと瞬間的に変わるソレを察知して少女は顔を顰めた。

この男は恐らく気づいてないだろうが、今の私にはお見通しだぞと内心胸を張った。

 

 

 

「此方こそ。息災なようで何よりだアリストテレス卿。

 ルファス嬢も変わらずのようだな」

 

 

 

「勿論ですよ。本当に彼女の元気にはいつも驚かされます」

 

 

 

余計なことを言うんじゃないと抗議の視線を送るが、プランは気が付いていない様だった。

いつもは理不尽な程に鋭い癖に、こういう時だけノロマになるふざけた男である。

 

 

 

 

「……その子は?」

 

 

これ以上プランの口から恥ずかしい己の話を吐き出されることを阻止するべく、ルファスは先ほどから無言でアラニアとプランを交互に見比べている少年を指さした。

いきなり話を振られた彼には悪いが、自分の為に犠牲になってもらおうと少女は画策したのだ。

悪いな名も知らぬ少年よ、お前にはこのルファス・マファールの為の礎になってもらおうと少女は内心で堂々と告げた。

 

 

アラニアはルファスを感情の伺えない瞳で一瞬だけ見つめた後、傍らの少年の肩に手を置いて口を開く。

 

 

 

「この子はメグレズという。有力氏族長の子でね。

 幼いながらも優れた先見性を持っている故に私に同伴させている」

 

 

 

見聞を広めてもらい、ゆくゆくは我々エルフの大きな力になってもらうつもりだとアラニアが続ければメグレズは顔を少しだけ赤らめて答えた。

 

 

 

「そんな……言い過ぎですよ」

 

 

 

「そうは思わないがね。君の将来に陛下も期待を抱いているのは確かだ」

 

 

 

もちろん私もだと告げればメグレズははにかむ様に笑った。

ルファスは紅い瞳で少年を観察していく。

 

 

線の細い身体は自分と比べて貧弱である。腕など枯れ枝の様に細い。

というかエルフ全員がそうかもしれないが、余りに細すぎる。

きけばエルフは肉類を食べないとされるが、そのせいなのかもしれないと少女は考えた。

 

 

 

先端の尖った耳はエルフ特有のものであり、優れた聴覚を持つとされる。

白銀の髪は自分の金髪とは違った種類の美しさを感じた。

 

 

そしてマナの気配はとても薄い。

レベル的には自分よりも遥かに下だと彼女は確信した。

しかし、このメグレズという子供の瞳には何処かプランに似たものがある事を彼女は瞬時に見抜いた。

 

 

 

これは……いうなれば研究者の瞳というべきか。

多くの物事を理論的に考え、閃きや頭の中に浮かんだ“何故”を大事にするタイプの人種かもしれないと。

ちょうどユーダリルの話を聞いたばかりなのもあり、この少年にはレベル云々とは別種の強さがあるのかもしれないとルファスは判断する。

 

 

 

初対面の人間を使えるかどうかと吟味する少女の肩にプランは手を置いた。

「ぇ?」と間の抜けた顔でプランを見上げると、彼は頷いてからメグレズを示した。

 

 

 

「ほら、ルファスも」

 

 

“挨拶しようか”と告げる彼に少女はそういえばまだ自分が名乗ってない事を思い出した。

相手に一方的に自己紹介させるのは確かに公平ではないとルファスは考え、メグレズを凝視しながら淡々と名乗る。

 

 

 

「……ルファス・マファール」

 

 

 

思えば自分の名前をこうしてしっかりと誰かに話すのはプランと出会った時以来初めてだなと彼女は思い出した。

彼女のソレは呪われた名前。ジスモアの悪意が満ちた呪である。

誇り高き家名たるエノクどころか、古き時代に伝わる悪魔の名前を掛け合わせて作られたおぞましい魔名である。

 

 

 

自分の名前を口にするだけで苦々しいモノを感じつつも、ルファスはメグレズの反応を鋭い目で伺う。

彼女は己の心を固い殻で覆い尽くす。どんな罵倒や悪意が飛んで来ようと全く動じない様にするために。

 

 

 

「よろしく! 改めて、ぼくはメグレズ」

 

 

にっこりと少年は笑顔を浮かべた。

何の悪意もない顔だった。

エルフである彼にはルファスの翼の件などどうでもいいことにしか映ってない様であった。

それどころか他種族ではあるが、同年代の見目麗しい少女に対して好意さえ抱いているようだった。

 

 

 

当たり前の話ではある。

普通は初対面の人間にいきなり悪意をぶつけるものなどいない。

それも相手が自分の保護者にとって大切な取引相手であるなら猶更だ。

 

 

 

だがルファスはそんな普通さえ知らない環境で過ごしたと思うと、プランの中に不快感が広がった。

全く、本当に、度し難い、と。

しかして彼はそんな感情をちらとも表に出さず、張り付けた微笑みでアラニアと向かい合った。

 

 

 

「さて、会合の時間まではもう暫し猶予がある。それまでは共に見聞を広めるなどどうかね?」

 

 

 

「素晴らしいお考えです。ユーダリルの文化は子供たちにとってもよい刺激となるでしょう」

 

 

 

 

大人二人がとんとん拍子で話を進めていくのをルファスは苦々しく思いつつメグレズを見る。

彼はとても今の状況を楽しんでいるようであった。

本当に好奇心が強いのか、道行くあらゆるモノをキラキラと輝いた瞳で見つめていた。

 

 

ガキめ、私みたいに落ち着けないのかとルファスはうんざりしながら

今の自分は普通の少女であると再三に自分に言い聞かせ、大人たちの下らない提案に乗ってやるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、皆々様にはお忙しい中……」

 

 

 

時間つぶしを終えた一行はユーダリルの中心部に建築された議会にて一堂に会し、ユーダリルの代表者が重々しく口を開くのを見ていた。

白髪交じりの老人こそユーダリル商会の代表である男であり、彼の口からは当たり障りのない挨拶の言葉が淡々と吐き出されている。

 

 

 

円筒状のホールに集まった面子は錚々たるものがあった。

まずはユーダリルに隣する都市リュケイオンの代表者プラン・アリストテレス。

商人ユーダリルに最も早く援助を行い、この都市の建築そのものにも携わったアリストテレス家の当主だ。

 

 

 

彼の品は言うまでもなく“リンゴ”である。

アリストテレス一族の秘伝によって作り出されたソレは一口齧るだけで大いなる力を得る事ができる大いなる一品であり、至高の一品だ。

この果実の存在は本当に一欠けらのものしか認知しておらず、ここに居る面々は貴重な“一握り”たちであった。

 

 

 

そして人類最大の国家でもあるクラウン帝国にさえもその名を知られる彼は(本人は否定するだろうが)押しも押されもしない大物だった。

レベル221という前代未聞の存在がこの付近を拠点にしているというだけで抑止力となりうる程である。

その隣で子供用の背の高い椅子に腰かけているルファスもまた、一部を除いて誰も知らないがレベル250というプランさえ超える怪物だ。

 

 

 

次にアラニア。

エルフの商品である魔法の籠ったアイテムや特殊な木の実、ポーションなどの取引を一任されている男だ。

 

 

彼はエルフ王ロードスの代理人であり、彼の立ち振る舞い、言動と行動、その全てが王の意思と受け取っても問題ないとされるほどの特権存在である。

保守的で己の森から外に中々出ようとしなかったエルフ族は天翼族の齎した交易網により、少しずつ外界との交流を始めだした故に、彼は様々な場所に出向き、エルフの為にパイプを作り続けている。

人間種よりも遥かに高身長である彼は座っているだけだというのに、作り物染みた美しい顔と相まって強い存在感を発していた。

 

 

 

 

後はドワーフ。

ガザドはプルートにおけるヘルヘイム騒動の後始末と、例の件によって遅れた進捗の仕事を片付ける必要がある為ここにはいない。

ドワーフ族のゴーレムや金属、鉱石、生活品の輸出を始めとした管理を任されたのは代理の代理という奇妙な立ち位置のドワーフの男であった。

 

 

彼はヘルヘイムの騒動を解決したプランに対し、輝くような瞳を向けている。

余りに呆気なく終結した事件であったが、あれは正しくプルートの存亡の危機であったことを忘れてはいけない。

故に自分たちの故郷を救ってくれたプランに憧れを抱く者が出てきても何もおかしくはなかった。

 

 

ドワーフは職人気質であると同時に、夢や理想、おとぎ話に対して強い思い入れを持つ存在が多い。

そんな彼らが救国の英雄であるプランに憧れるのは何もおかしい話ではない。

 

 

会議が始まる前に彼がプランに「サインをくれ!」と子供の様にねだったのをルファスは知っていた。

本当に驚いた様子を見せつつ、差し出された羊皮紙に自分の名前を照れ交じりに執筆するプランの姿を見るとルファスは笑いがこみあげてくる。

成果を上げた者が正当に評価される姿は彼女の中の満足感を刺激するものであった。

 

 

 

天翼族は欠席。

彼らがこのような下賤な種の集まりに顔を出すわけがない。

そも、彼らの提供するモノは品でなく空路による交易網である故に商人たちとの顔合わせに顔を出すわけがない。

 

 

 

吸血鬼もなし。

天翼族といい勝負である傲慢を持つ彼らは弱者の集まりであるこんな会議に興味を持つわけはなかった。

ベネトナシュという絶大な力を持つ指導者の下、彼らは彼らの帝国のみにしか関心を持たない。

 

 

 

他には獣人なども席に座っていた。

特に完全に犬そのものの姿をしている人……犬物が服を着て着席している光景はさしものルファスもぎょっとしたものだ。

獣人たちもまた森や草原の民であり、エルフの民との親和性が高い故に、アラニアの伝手でここに出席する機会を得たのである。

 

 

 

彼らの出荷物は加工肉や野菜などの食料品が主である。

元は草食種、肉食種が自分たちの為に飼育していた家畜や穀物などであるが

食料というものは何処においても需要があるために立派な商品として成立している。

 

 

 

 

勿論当然の事としてプラン以外の人間種もここにはいる。

ミズガルズ最大の人類国家であるクラウン帝国の使節だ。

若者と初老の男といういかにもな組み合わせの二人組は慣れた様子で議場を見渡していた。

 

 

 

彼らの提供できるものは“職”と金だ。

余った人間を雇うための雇用といっていい。

クラウン帝国という大帝国はいつでも優れた人材を募集しており、その為には有力と見れば冒険者からさえも引き抜く事は多々ある。

 

 

元は最底辺の冒険者が今や大帝国で一部隊を率いる騎士……等と言う話もそこそこある程だ。

故に一部の冒険者たちは少しでも帝国の目に留まる様に活躍を急ぎ、その多くが無様に死んでいく。

 

 

 

一通りの面々が軽く自己紹介と挨拶を行い終えると、議長であるユーダリル商会の男が言った。

 

 

 

「本日お集まり頂いた理由は商談はもちろんの事ですが、ミズガルズに現在起きている異変についての認識のすり合わせを行いたいからです」

 

 

 

アラニア殿と男が名を呼べば、エルフが立ち上がる。

彼は多くの視線を浴びながらも何食わぬ顔だった。

さすが王の代理に選ばれるだけあって、堂々と背筋を伸ばし、良く通る声で発言する。

 

 

 

 

「此度は発言の機会をいただき深く感謝する。

 さて、既にアリストテレス卿には懸念を伝えているが、近々“四強”が大きく動く事が予見された」

 

 

 

 

会議に参加する全員の顔に緊張が走る。

“四強”という誰もが知っている怪物の名を出され、何も思わない者などいなかった。

 

 

「“竜王ラードゥン” 

 最も残忍な魔物である奴に大きな動きが見受けられる。

 各々、手元に配った書類を見てほしい」

 

 

 

 

プランを始めとした全員が書類に目を通し……我が目を疑った。

そこに書かれていた内容があまりにも突拍子なく、そして極めて恐ろしいものだったからだ。

 

 

 

───各地で魔物たちが次々と失踪している。戦いの後などはなく、恐らく自主的に立ち去ったと思われる。

 

 

───大規模な魔物の群れが北を目指して移動を開始。それも一つや二つではない。

 

 

───亜人たちが竜王の庇護を求めて次々と北へと向けて移動を始めた。

 

 

───ミズガルズ各地で偽竜、恐竜などの竜種が活性化している。

  大規模なワイバーンの群れが北へと飛び去る様を多くの人が見かけている。

 

 

───もしもこれらすべてに竜王が関わっているとするならば

 奴の配下は最低でも100万を超え

  下手をすればミズガルズ中の魔物や竜種が奴の軍団に加わることとなる。

 

 

 

 

「これらの情報の精度は我々クラウン帝国が保証します。───全て事実です」

 

 

 

苦渋に満ちた顔でクラウン帝国の代表者が太鼓判を押す。

人類最大の国家がその国力を駆使して調べ上げ、全て正しいと認めたというのはこれ以上ない程の後ろ盾であった。

 

 

唖然とした感情をルファスは抱いた。

以前に話を聞いた事のある“四強”だが、まさかここまでスケールの違う存在とは思わなかったというのが正直な所であった。

 

 

 

「奴の目的は推察ではあるが魔物による文明の創造だ。

 ゆくゆくは魔神族や海洋国家群にとって代わるつもりなのだろうな」

 

 

 

「そんなことをしたら他の“四強”の逆鱗に触れるのでは?」

 

 

 

獣人の男が発言する。

彼の言葉は多くの者が内心にとどめていた言葉だった。

出すぎた杭は打たれるという言葉の通り、そんな目立つ動きをしたら他の“魔神王”や“獅子王”などに攻撃されるのでは、と言う話だ。

 

 

 

「まとめて返り討ちにできる自信があるんだろうぜ。

 とんでもねぇ傲慢の気配がしやがる。

 “てめぇら全員かかってきやがれ”ってな」

 

 

 

ドワーフが髭を撫でつつ言う。

彼は魔物ではないが、竜王の考えを僅かとは言え読めたようだった。

レベル1000という誰もが仰ぎ見る力を持つ故の傲慢を。

 

 

 

「我々人類はこの脅威に対抗しなくてはならない。

 何としても人類最強と名高い吸血姫ベネトナシュの協力を得る必要があるだろう……彼女が殺される前に」

 

 

アラニアの言葉に多くの者が頷く。

ベネトナシュは桁違いの力を持つとはいえ、一応は人類に分類される存在だ。

故に他の“四強”と違い、問答無用で人類の敵というわけではないのだ。

 

 

 

ただ問題として……彼女は人類など眼中にないということだ。

生まれつき突然変異、先祖返りと称してもなお生ぬるい力の持ち主であった彼女の目には人類など弱すぎて映っていない。

魔神族に始まり、強いとされるあらゆる種、それこそ竜種にさえも喧嘩を売り続け、築いた屍の数は万を優に超えるのがベネトナシュだ。

 

 

 

 

だから彼女が竜王の縄張りを侵し、かの怪物の目に留まったのも当然と言えた。

このままではベネトナシュは竜王に殺されると誰もが思っている。

だからこそ、そうなる前に彼女を説得し人類が一丸となる為の礎を作る必要があった。

 

 

 

その為にはベネトナシュの今はミョルニルと呼ばれる吸血鬼の国。

かつては『ブリーキンダ・ベル』と謡われし国に誰かが訪問し、彼女を説得する必要がある。

あの戦闘欲求という言葉が服を着て歩いているような怪物吸血鬼相手に、である。

 

 

「このままでは貴女が殺されてしまうので、我々の仲間になってください」なんて言われて大人しくベネトナシュが従うわけがない。

うるさいの一言と同時にそんなふざけた事を言う奴の頭が消し飛ぶ未来しかない。

そもそも普通の人類種では興味さえ持たれないだろう。

 

 

下手するとミョルニルに入国さえ許されない。

 

 

 

故に必要とされる人材は最低限彼女の攻撃をいなせるだけの強さがあり、彼女の癇癪に付き合える程の精神的な我慢強さがあり

更には限りなく魔物に近い吸血鬼たち相手に物怖じしない図太い性根をもった存在である。

もっと付け加えるならば様々な魔法や天法に精通する知識をもっているとなお良い。

 

 

そんなご都合主義染みた人材は……残念ながら居る。

本当に悲しい事だが。

 

 

 

議場の誰もがプランを見つめていた。

憐れみと懇願がこもった瞳であった。

“頼む”という強い意思がありありと宿っていた。

 

 

 

ルファスだけが不機嫌に顔を歪めていた。またか、と。

どうしてこう、誰も彼もがこの男に面倒ごとを投げつけるんだと内心苛立っていた。

プランは貴族で、私のモノで、リュケイオンの支配者だぞ、断じて冒険者のような都合のいい人材ではない。

 

 

更に話に聞く限り吸血姫はとんでもないじゃじゃ馬だと彼女は判断していた。

世界でもトップクラスの力をもっている癖に落ち着きのない奴め。

少しは私みたいに大人の落ち着きをもったらどうだ、と彼女は会ったこともない存在に悪態をついた。

 

 

 

何より……見知らぬ女にプランが会いに行くというのが気に入らなかった。

何故かは判らないが無性にイライラする。腹が立つ。今すぐにやめろと叫びたい程だ。

プランはそんなルファスの肩に手を置いて軽く撫でた。

 

 

微笑みながら彼は立ち上がり頷く。

 

 

 

「人類存亡の危機とあれば自分に異論はありません。全霊を───」

 

 

 

言葉を言い終える前に彼は明後日の方を見た。

蒼い瞳が輝く。【観察眼】を使用した証であった。

 

 

 

何だ、と誰もがその異質な様子に顔を傾げた。

アラニアだけがメグレズの肩を抱き寄せ、自分の隣に引き寄せた。

いつ、何があっても守れるように。

 

 

 

(なん、だ──これ)

 

 

ルファスもまた、彼の纏う気配が変わった瞬間、背筋が凍り付くような感触を覚えた。

何時のまにか周囲の音の全てが消え去っている。

それと打って変わって頭の中から、本当に微かな囁きが聞こえた。

 

 

 

 

───おいで、おいで、ぼくの所においで。

 

 

 

 

一度意識してしまえばもう止まらない。

ナニカはずっと呼び続けている。

 

 

ルファスは直感した。

わたしは、よばれている。

北に、きたに、きたにこい、と。

 

 

 

───おいで、おいで……。

 

 

 

「やめろっ……!」

 

 

 

唇を噛み切りその痛みで自分を取り戻す。

しかし声は未だ止まらない。

胸を押さえて彼女はうずくまってしまう。

 

 

うるさい、うるさい、黙れと何度も声に対して叩きつける。

 

 

 

 

プランが動く。

彼は足早に議場の窓に近づき、ソレに手をかけて勢いよく開けた。

今の時間は昼と夕方の中間。

 

 

普通ならば眩しいまでの太陽光が入ってくるはずなのに、外は雨雲にでも覆われたように薄暗い。

しかし本日の天気は快晴。雲一つない爽やかな日であった筈だった。

 

 

真っ黒な霧が太陽光を遮っていた。

途方もなく分厚い黒霧が空を埋め尽くし、移動している。

好奇心に突き動かされてプランの隣にまで来たメグレズが空を見上げて……絶句した。

 

 

「そんな……」

 

 

少年の瞳には絶望だけがあった。

なまじ賢いばかりに、ソレが何なのかを理解してしまったから。

 

 

小さな粒……あまりに多すぎて数えきれないソレの正体は、一つ一つが魔物だった。

飛行可能な魔物たちが前代未聞の規模で群れを形成し、一目散に北へと向けて飛翔していた。

 

 

 

竜さえもそこにはいた。

偽竜と呼ばれるワイバーン種に、中には数さえ少ないが本物の竜さえも混ざっている。

眼下にある人間の都など無視し、魔物たちは何者かに統率されたように動いていた。

 

 

 

「なるほど。これは問題だな」

 

 

アラニアが淡々と呟いた。

彼は既に幾つもの魔法を準備していた。

最悪、あの魔物たちがいきなりここを攻撃してきてもこの部屋の中の者たちだけは助かるような準備を。

 

 

 

カーン、カーンとあちらこちらから危機を告げる鐘の音が響く。

全て非常時にならされる警報である。ユーダリルの至る所で人々が走り回る。

ノックもなく議場の扉が開かれ、慌てた様子で兵士が駆け込んでくる。

 

 

「か、会議中に失礼します! 至急お伝えすべきことがっ!!」

 

 

 

息も絶え絶えの彼は絞り出すような声で絶望を告げた。

涙を浮かべ、自分の伝える言葉がどうか間違いでありますようにと祈るような顔だった。

 

 

 

「魔竜ノーガードが、こちらに! 

 ユーダリルを目指している姿が確認されたとのことです!!」

 

 

 

更に悪いことに竜の動きに連動するかの如く魔物の群れの幾つかが同時に接近しているというどうしようもない絶望を彼は叫ぶのだった。

 

 






【急募! 未経験者大歓迎!!】



採用人数 1~∞

年間休日 相談

業歴、経験不問。

幹部候補生としての採用もあり。


ミズガルズ最強の竜王の下で一緒に働きませんか?
ラードゥン陛下の作る新しい未来に貴方も是非参加しましょう!
レベルが低いという方でも竜王の力をもってすれば安全/簡単なレベリング(副作用あり)が可能です!


ノルマは一日二回女神アロヴィナス様に心からお祈りを捧げるだけ(女神様最高って言え)
さぁ、アットホームなラードゥン様の国を目指して貴方も北上しましょう!



「ぼくは誰でもかんげいするよ! そこの黒い翼をした魔物のお姉ちゃんもこっちおいでよ!」


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。