ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
ユーダリルの騒動が一段落し、リュケイオンに戻ってきて数日、プランは執務室で椅子に座りながら困った顔を浮かべていた。
眉を「八」の形に変えて彼はうんうんと唸っていた。
「困った……」
今日の仕事は全て終わっている。
ルファスの鍛錬の予定はもう少し先の時間であり、昼食は既にカルキノスが仕上げの段階に入っている事だ。
午前の仕事は全て問題なく片付けているが、彼が考えるのはそのことではない。
「プラン様……」
傍に控えていたアウラが憂いを帯びた声を上げる。
今の彼女は執務の補佐を任されていた。
書類の整理や部屋の片づけ、必要な書類の手配や基本的な整理整頓などがアウラの仕事である。
さすがは大貴族の妻であったというべきか、聡明な彼女の補佐によってプランの仕事の効率は間違いなく上昇している。
プランが必要だと思ったものを口にする前に既に用意しているなど多々ある上に、休憩時間には美味しい紅茶を淹れてくれるのがとても嬉しいとプランは思っていた。
ミズガルズ全土を探してもこれほど有能な補佐官は存在しないんじゃないかと本気で思ってしまう程だ。
一つ問題があるとしたら、余りに朗らかな空気になると遠くからルファスが睨んでくる事くらいか。
つい先日は窓の外からじぃっと視線を向けてきていたのが印象的であった。
「どうしようか」
それはそうとプランはもう一度呟く。
彼は本気で悩んでいた。
しかも悩みは一つではなかった。
どっちも大切で、無視できない故に彼は心から困っていた。
悩みは二つあった。
アリエスに元気がない。
そして。
ルファスにプレゼントをどうやって渡すか。
の二つである。
まずはアリエスの件から詳細を述べていこう。
ユーダリルにおいて魔物の大移動が確認されてからアリエスの様子がおかしくなったというのが事の始まりだ。
彼はリュケイオンから飛び出しこそしないが、あの日を境に周囲の全てを激しく警戒するようになり、いつも何処かに隠れるようになってしまった。
彼が姿を現すのはルファスが食事を与える時と散歩に行くとき位だ。
それも前までなら普通にルファスに連れられてトコトコ歩いていたのが、今では彼女に抱きかかえられていないと震えて動けなくなってしまっている。
明らかにアリエスは何かに怯えていた。
竜王の影響力、の一言では片づけきれない程に彼は平常心を失いかけている。
根気強くそんなアリエスにルファスは寄り添い続けているが、繊細な彼女の心に不安が積もり出しているのをプランは見抜いていた。
初めての自分の臣下であるアリエスの変化に誰よりも不安を彼女は抱いていた。
ユーダリルで話しかけてきたとされる“声”の件もあって、ルファスは誰よりもアリエスの不安を理解できるのかもしれない。
そして二つ目。
少し……いや、かなり遅くなってしまったがプランはルファスに渡すプレゼントを用意していた。
そろそろ渡す品のネタも切れてきたというのが正直な話であったが、何とか今回も無事に彼女に渡す品を彼は準備していた。
しかしその前にやるべきことがある。
「とりあえずアリエスからだな」
順番を頭の中で纏め上げて立ち上がる。
何はともかくアリエスが問題だ。
彼がこのままではルファスの心労はたまるばかりでプレゼントも何もない。
「ルファスなら、庭にいると思います……」
後片付けはお任せ下さいと述べるアウラにプランは会釈して礼を述べた。
「ありがとうございます」
言葉こそないが微笑んで答えたエノク夫人にプランは頷き、部屋を後にした。
すると、部屋に向かって歩いてくるカルキノスがそこにはいた。
彼はプランを認めると快活に笑って手を挙げた。
「おや、niceなタイミングでした!
ちょうどミーもそろそろ皆さんを呼びに行こうと思ってたのですよ」
「今日のメニューは何かな?」
期待しているよ、料理人と冗談めかしてプランが言えば彼は誇らしげに胸を張って答える。
「よくぞ聞いてくれました!
本日のlunchはトウモロコシのスープに、colorfulなサラダ。
更にはミーが選別した素材をふんだんに使用したpizzaとなります」
「newな竈を使用して焼き上げたpizzaの味はもう……想像を絶することをお約束しましょう」
最高の出来栄えですよ、えぇ、我ながら恐ろしい腕前ですと空を仰ぐカルキノスにプランは楽しそうに笑う。
日に日に料理の腕とレパートリーを増やし続けるカルキノスはもはや一流の料理人である。
そんな彼の味を毎日楽しめる自分はなんて恵まれてるのだろうかと彼は思った。
「ですがlunchの前に一つ、気になる事があるようですね。
ミーの考えが正しければアリエス関連では?」
「……」
妙な所で鋭いカルキノスである。
いや、自分が判りやすいのかもしれないとプランは顔に手を当てた。
ぐねぐねと以前ルファスがやったように確かめる様に頬を弄繰り回してみる。
……少なくとも顔には出ていない筈だとプランは考える。
まさか。この自分が感情一つ隠せないわけが……。
そんな彼に笑いながらカルキノスは親指を立てた。
「実は最後の仕上げにはもうちょっとだけtimeが掛かりそうなのですよ。
レディとアリエスは庭にいるようなので、その間に少し様子を見てきたらどうでしょうか」
「判った。じゃあまた後で」
YESと笑顔を浮かべる彼に手を振ってプランは庭に向けて歩を進めた。
「めぇぇ~……」
「……本当にどうしたんだ」
ぷるぷる。ぶるぶる。がたがた。
ルファスに抱かれたアリエスはずっと震え続けていた。
ここ数日、ずっとこの調子である。
愛しくてかっこいい主であるルファスに抱きしめられれば大概の事は解決していたアリエスであったが、今回は明らかに様子が違った。
魔物の大移動から数日。
アリエスは見えないナニカに怯え続けている。
当初は警戒心をむき出しにした猫の如く屋敷中を走り回り、ずっと隠れ続けていたのに比べればこれでもかなりマシになったほうである。
ルファスの小さな手が羊の頭の上に置かれる。
少しでもこの子羊の不安を取り除くために。
基本は自他ともに弱さを許さないルファスであったが、ここまで恐怖をむき出しにした存在を前に叱責などはしなかった。
「アリエス、何を恐れている?」
屋敷の庭。空は快晴。雲一つなく、遠くで鳥の鳴き声が聞こえる平穏な昼。
木製の椅子に腰かけたルファスはアリエスを抱きしめつつ、彼の顔を覗き込んで問う。
真っ赤な瞳に覗き込まれた虹色羊は唇をつぐんだ。
脳内に一度響いた恐ろしい声の主のことを何とか伝えようとするが……かの怪物の顔を思い出すだけで羊は恐怖に支配されてしまう。
11の首。森羅万象をねじ伏せる力を放つ白蛇。
舌たらずながらも兄たちと同等以上の悪意を孕んだおぞましい声。
“竜王”ラードゥン。
ミズガルズを支配する四つの頂の一角にして母の仇。
リュケイオンに保護されて薄れ始めていた恐怖の記憶が再びアリエスを支配していた。
ぽろぽろと涙を零す。
ルファスのアウラに比べて小さな胸に顔を埋める。
「おいっ」と彼女はたじろくが、直ぐに受け入れる。
さすがの彼女もこんな様子のアリエスを拒絶はできなかった。
眉を顰めながらルファスは考える。
アリエスがここまで恐怖する理由を。
ふと脳裏に浮かんだ答えは……あの日自分も聞いた“声”であった。
自分でさえ引きずり込まれかけた呼び声。
遠いながらも微かに見えた巨大な魔物の影。
もしかしたらアリエスもアレを聞いたのかもしれないと彼女は思ったのだ。
「……お前も、あの“声”を聴いたのか?」
「っっっ! め、め、メェェ───!!」
震えながらアリエスは叫ぶ。ぼろぼろと涙を零す。
必死に何かをルファスに訴えかける様に彼は鳴き声を上げ続けた。
この世にいかに恐ろしい存在がいるか彼女に訴えかけた。
しかし悲しいことにアリエスは喋れない。
言語を理解こそできるが、こちらから話す事は出来ないのだ。
ルファスが笑う。
普段浮かべているような戦士染みた好戦的なものではなく、年下の子供を落ち着かせる姉の様な顔だった。
「大丈夫だ。あの“声”は私も聞いていたが……跳ね除けてやったぞ」
まぁ、ちょっとだけプランの奴に協力してもらったがなと語りながらルファスはアリエスを撫でた。
「アリエス。私はまだまだ強くなる。
あの“声”の主が何であるにせよ、私はいずれ全てを超えて見せる」
傲岸に少女は天に視線を向けた。
ミズガルズで一番強い奴に自分はなってみせると誓う様に。
そしてお前はそんな私の最初の臣下なんだぞ、と優しく語り掛けた。
自分を見つめ上げてくる羊にルファスは柔らかく笑ってみせた。
「お前は私があんないきなり声をかけてくる不届き者に劣ると思うか?」
「めっ! めっ! メッ!」
ぶんぶんとアリエスは首を振った。
ルファスは「よろしい」と自分を信じてくれる者を労った。
確かに今はまだ届かないだろう。
しかし主のレベルが一年ごとに跳ね上がっていくのを彼は知っている。
そして彼女の保護者であるプランもまたとてつもない強者だとアリエスは気が付いていた。
完全に成長したルファスとプラン・アリストテレス。
この両者が力を合わせればかの竜王に届きえるのでは、とアリエスは希望を抱いた。
そして思ってしまう。そんな強い二人に自分は何が出来るのだろうかと。
出会った時ルファスは宣言した。
共に強くなると。
現状、強くなっているのは彼女だけで、アリエスは何も変わっていない。
羊毛を【バルドル】の改良に提供しただけで、自分は何もしていない現実に彼は唇を噛み締めた。
自分は弱いままだ。今だって大好きな主であるルファスに抱きしめられ、守られているだけだと。
今までも、このままではこれからも。
ならばどうすればいいか弱い羊には判らなかった。
「メェェ……」
「……」
一応は回復の兆しを見せたアリエスが再びしょんぼりした顔に戻ってしまいルファスは顔を傾げた。
まさかアリエスが自分の弱さを嘆いているなど彼女は考える事が出来ない。
己の弱さを嘆く暇があるならば強くなるための努力をする、己を見下す全てを見返してやるという向上心の塊である彼女に弱者の気持ちは判らないのだ。
彼女は涙を流すことを悪だと思っている。
今のアリエスの様に大切な人の役に立てない嘆きさえも不要なモノだと考えている。
弱者の心を知らない。
知ろうとしない。
そんなもの下らないと見下す天翼族の傲慢が彼女の瞳を曇らせている。
未だ人生において取返しのつかない“失敗”や“喪失”を経験したことのないルファスには仕方ない事なのかもしれない。
ざり、っとブーツが放つ足音を耳聡く聞き分けたルファスはアリエスに向けていた顔を上げた。
やはりというべきかプランがそこにはいた。
彼はいつも通り微笑んでおり、アリエスとルファスを見ていた。
何時もの様に輝く不快な蒼い瞳をルファスは鋭く睨みつけた。
あのダンスの一件から彼女は少しだけプランから距離を取る様に心がけていた。
自分の心身を蝕むおぞましい心地よさから逃げるために。
「何か用か?」
意図して作った硬い声で糾弾する様に問う。
誰が聞いても判るほどに苛立ちの籠った声であった。
しかし、カルキノスや母が見ればこれは張りぼてだとすぐに気が付いただろう。
黒い翼はプランの姿を認めた瞬間、微かに上下に揺れている。
これはルファスの機嫌がいい時や気分が高揚した時の癖であった。
「私の所に来ても楽しい事なんて何もないぞ。時間の無駄だ。さっさと帰れ」
数年前、リュケイオンを訪れた当初に戻ったような敵意と拒絶を彼に叩き込む。
あの時は自然に出てきた敵意が、今や必死に絞り出さないと発せられない現実にルファスは内心で歯噛みしていた。
同時に自分の言葉で彼が
「アリエスの様子が気になったんだ。ここ数日、元気がなかったからね」
プランはルファスの膝の上に抱きかかえられているアリエスを認めて嬉しそうに笑った。
「数日前からかなり良くなってきているみたいで安心した」
メェェェとアリエスはプランの言葉に答える様に鳴いた。
プランの姿を見つけた瞬間、彼は耳をピコピコ動かし始め、喜んでいる様だった。
ルファスとは別種の頼れる人、というのが彼のプランへの評価であった。
少女はアリエスとプランの顔を見比べて考え込む。
この男に頼るのは非常に癪だが、本当に嫌だが、仕方ないのでちょっとだけアドバイスをもらう事にした。
「……まだ完全じゃない。一度は良くなったんだけど、直ぐにまた顔を伏せてしまって」
「なるほど」
プランは更に歩み寄り、アリエスと目線を合わせる様に膝をついた。
羊の無垢な瞳を覗き込み、暖かく笑いかけた。
「よしっ、アリエスが何を思っているか当ててみせよう」
考え込むそぶりを見せるプランにルファスは白い目を向けた。
彼女の瞳は深紅色であるが、それはそれで白い目だ。
こいつは何をやってるんだと頭の上に「?」を浮かべつつ、一応は好きにさせてやる。
「ルファスの為に何をすればいいか判らない、とかかな?」
「ッッッッ! めめめめ゛め゛───!!」
凄い、どうして判ったのと言わんばかりにアリエスは顔を跳ね上げて声を上げる。
前足でプランの顔をカシカシと引っかきながら彼は何度も首を縦に振った。
「アリエスがいつだってルファスの為に何かしたいと思ってるのはよく知っているさ」
アリエスはルファスが大好きだよね? と聞けば羊は涙を零しながら肯定した。
大好きな主に何も返せず、怯えているだけの自分の惨めさに対する涙であった。
この先一緒にい続けても、自分では足手まといになって、いずれ捨てられるのではという恐怖さえそこにはあった。
「アリエス。君は勘違いしている」
間違っているよ、とアリエスにプランは微笑みかけた。
きょとんとした顔を浮かべる羊に彼は続ける。
「十分に君はルファスの役に立っているよ」
むぐっとルファスが息を呑んで顔を逸らした。
それはプランが恥ずかしいながらも真実を語り始めたからであった。
拾ってから今まで、一度だってルファスはアリエスを鬱陶しいや役立たずなどと思ったことはない。
好きや嫌い、等という次元はもう通り越している。
今の彼女にとってアリエスが己の傍にいるというのは当然の状態なのだ。
散歩に遊びに、マッサージ。時にはアリエスに愚痴をこぼす事だってあった。
まぁ、殆どはプラン関連の愚痴で、余りに延々と続く為にアリエスが寝落ちしてしまうのが大半であったが。
それはともかく、余りに近すぎて自覚さえしていなかったがルファスはアリエスを母に次ぐ家族だと思っていた。
「君の考える“強い”や“必要”っていうのは強い力を得て、ルファスの敵を倒す事かな?」
うん、と羊が頷く。
プランはそれを否定こそしなかったが、言葉を続ける。
「確かにルファスと一緒に戦って、彼女の敵を倒すってのも重要な役割さ。
でもアリエスにはもっとすごい事が出来るって自分は知ってる」
ルファスは顔を背ける。
プランの蒼い瞳から逃げていた。
こいつは何でこんな恥ずかしいことを平然と言えるのか判らないと思いながら。
「アリエス。君はルファスの心を守ってあげられる存在だと自分は思っている」
羊は男の言葉に頭を傾げた。
ルファス様の心を守る? 僕が?
こんな弱くて何も取柄がなくて、レベルもステータスも見所のない僕が? と。
「ルファスはきっと誰よりも強くなるだろう。
だけどその分、誰もが彼女の“強さ”だけを見る様になると思う」
レベル1000というのはもはや生きる自然災害の様なモノだ。
そこに至る力を彼女が得たら、彼女の周りには多くの人が否応なしに集まってくるだろう。
……その中の一体どれだけの人が、レベルや強さという色眼鏡を抜きにルファスを見てくれるのだろうか。
繊細で心優しい女の子である彼女をしっかりと見つめてくれる人がこの子には必要だと彼は思っていた。
プランは考える。
このままもしもルファスがレベル1000の世界に到達し、長い年月を生きる様になったら、と。
それは自分が居なくなった後の世界だ。
もう彼女を守ってあげられない世界において、彼はアリエスにならルファスを託せると思っていた。
カルキノスも頼りになるが、そこまで彼に付き合ってもらうつもりはなかった。
今だって十分以上にお世話になっているというのに、これ以上を望むのは我儘というものだ。
だから彼は言うのだ。丁度いい機会だと思って。
もしかしたらあと数年でルファスと別れるかもしれない可能性さえも含めて。
「アリエスは変わらず彼女の傍にいてあげて欲しい。
ルファスは頑張り屋さんで、表には余り出さないけど……」
「 や・め・ろ ! 」
“繊細で優しい子なんだ”と、続けようとしたプランの口をルファスが両手で押さえつけた。
プルートの時の様に怒り出しこそしなかったが、代わりに紅い瞳は揺れていた。
翼が何度も上下に羽ばたいて羽を撒き散らしている。
「……そこから先は私が言う。だから、もう、やめろ」
不満そうな蒼い瞳を見つめながら少女は呟くように言った。
以前は怒りしか感じなかったが、今度は別種の“熱”を感じる様になってしまい少女は必死にプランを黙らせた。
こいつはこう、何でふざけた事ばかり言うんだと内心でため息を吐いた。
必死に怒りと苛立ちを湧き上がらせ、内心の熱を全て押しつぶした。
これ以上燃え広がらない様に。
この男のふざけた言葉を必死に頭の中から追い出す。
その上で自分を見上げてくるアリエスを真っ向から見つめ返した。
プランのいう事は実に馬鹿馬鹿しい話であったが、完全には否定しないのがルファスと言う少女である。
しかしながら、己の心がまるでか弱い卵の様に扱われているのは気に入らなかった。
ルファスは真っ赤な瞳を輝かせる。
アリエスの前と言うのもあり己の心を奮起させた。
マナが体内で循環し、翼がざわめいた。
少女は仮面をかぶった。
父と同じように。いずれ全てを支配せんと目論む覇者の仮面を。
思考を切り返す。弱い少女から傲慢な覇王へと。
────。
彼女は胸中でプランの心配を蔑んだ。
あと数年で死ぬ男が偉そうに何をと。
私の心を守るだと? 馬鹿げてる。
私の心が弱いだと? ふざけてる。
誰も彼もが私の強さだけを見る様になるだと? 実に素晴らしい事ではないか。
彼女は内心鼻で笑った。
こいつは何も判っていない。
このルファス・マファールをそこらへんの子供と同じか何かと考えている勘違いだらけのバカだと。
その前提で彼女はプランの言葉を都合のいいように書き換え、解釈を歪めた。
彼女の心に言葉は届きこそすれど、未だに少女はそれをそのまま受け入れる事が出来ないのである。
……つまり彼は信頼できる臣下を見つけろと言っているのだと頭の中で変換が終了した。
ルファスは自信に溢れた笑顔を顔に浮かべ、翼を大きく広げてアリエスに言った。
「アリエス。私はいずれ何者さえ及びつかない強者になってみせる。
その時、多くの有象無象が私に跪くだろう。
不遜にも私の座を狙うモノも多く現れることだろう」
ルファスは燃えるような笑顔を浮かべた。
へたくそな笑顔であった。
アリエスをして、無理やり作ったものだと判るような笑顔だ。
プランの顔が少しだけ陰っているのも少女は無視して彼女は言葉を続ける。
「絶対に裏切らない配下が必要だ。アリエス、お前だけは私を裏切らずついてこい」
「強さじゃない。私はお前を信用できると思ったから配下にしたんだ」
ルファスの宣言を聞き終えたアリエスはルファスの顔を凝視した後にプランを見た。
彼は……頷くだけであった。
曖昧な、困ったような微笑みをアリエスはきっと忘れないだろう。
あぁ、この人は本気でルファス様のことを考えているんだなとアリエスは彼の心を汲んだ。
長くてもあと50年程度しか生きられない存在が、1000年を生きる少女を憂いているのだと。
そしてアリエスは理解した。
自分の役割を。彼は幼く弱いが、決して愚かではない。
プランの言葉の意味を今のルファスの姿を見て理解したのだ。
ルファスの真意……ではない。
プランの言葉の正しさ、をだ。
今までルファスの強さだけを見ていた虹色羊はこの時はじめて彼女の危うさに気づいたのである。
「メ!」
羊は強く頷き、ルファスの手に己の鼻をくっつけた。
まるで騎士が主に忠誠を誓う様な動作であった。
ルファスの顔が綻ぶ。自分に忠義を誓う臣下の頭を優しく撫でて笑った。
「よしっ、自分の立ち位置が判ったようだな。
案ずるなアリエス、私は決してお前を捨てなどせんよ」
嬉しそうに語る少女を前に羊は決意を固めた。
自分に出来るかどうかという不安はあったが、彼はやると決めた。
───お供しますルファス様。いつまでも。
ルファス様には自分が付いてあげなくちゃいけないと彼は決意したのだ。
自分がどんなに弱かろうと、取柄がなかろうと、この方を決して一人にしてはいけないとアリエスは決心した。
そんな彼をプランは嬉しそうに眺めていた。
プラン
着々と自分のいなくなった後の準備を進めだしている。
アリエス
ぼくが守らなくちゃ……!
ルファス
見えているのに見えないふりをしている。