ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
リュケイオン近郊に存在する森。
鬱蒼と生い茂る森林地帯の一角で何体もの人型ゴーレムたちが行ったりきたりを繰り返していた。
彼らがその手にもつのはスコップやクワなどであり、それらを用いて地面を掘り返したり、叩いたりを繰り返して整地をしている。
カン。カン。ドン。ドン。と作業音が鳴り渡る。
勿論彼らはゴーレムなので文句ひとつ言わず黙々と動き続けていた。
素材さえあれば無尽蔵に生産できる最高の労働力だ。
作業に邪魔な木も何本か切り倒され、それらは後々薪などに加工するために無駄な枝葉を削ぎ落して順次加工待ちの状態へと作り替えられていく。
あっという間に森の一角は完全に手の行き届いた空間……訓練場へと作り直されていく。
「…………」
そんな景色をルファスは腕を組んで黙って見つめていた。
僅かばかりの緊張と高揚と、不機嫌さをごちゃ混ぜにした顔であった。
真っ赤な瞳が晴天を仰ぎ、ふぅと彼女は深呼吸した。
この訓練所が完成次第、ルファスはプランと改めて模擬戦を行う事になっていた。
それも屋敷の庭ということで周囲への被害を意識しなくてもよい、全力の戦いを。
そうだ。彼女は
事の発端はプランがルファスに新しいプレゼントを渡そうとした所まで遡る。
アリエスが意欲を取り戻し、ルファスの憂いが消えたと判断した彼はユーダリル騒動のあと、直ぐに用意しておいた品をルファスに渡そうとしたのだ。
アウラに聞き込みを行い今の彼女に一番必要なモノを分析した彼はユーダリルの商人に依頼して一つの品を作っていた。
ノーガードの素材をふんだんに用いたソレは頑丈なブーツだ。
今まで履いていたモノは既にボロボロになっていたのをエノク夫人は憂慮していたのである。
ルファスの身体能力を考えると並大抵の靴では直ぐにダメになってしまうと考えられ、竜の素材を用いてブーツが作成された次第である。
これは牛革ならぬ竜皮のブーツだ。
軽い上に頑丈。
湿気対策もばっちり。
もちろん凍土での使用も可能。
更には足の構造を熟知した素晴らしい職人技により、長時間用いても足裏にかかる負担は最低限。
ちょっとした魔法が掛かっているため、将来ルファスの足が成長してもある程度は適応可能。
おおよそ靴に求められるあらゆるニーズを満たした拘りの逸品だ。
ちなみに足のサイズの情報はアウラの協力の元に手に入ったモノである。
しかしルファスはこれを受け取るにあたって一つの条件を出したのである。
取りつく間もなく拒絶こそしなかったが、彼女は憮然とした顔で本気の模擬戦を要求したのが事の始まりだ。
私と本気で戦え。
魔物の群れを消し去った術を使え。
竜を下した力を使え。
あの意味不明な能力の数々を見せろ。
【バルドル】を装備しろ。
銃を用いろ。
そうしたらその品を受け取ってやる。
紅い瞳を煌々と輝かせながらルファスはプランにねだった。
彼女がしたいのは今まで屋敷の庭という狭い空間で行われていたソレではなく、本当の広大な空間で行われる無制限の試合である。
プランの本気を見たいと彼女は願った。
ほぼ実戦形式の、完全武装のプランとの試合をルファスは求め、プランがそれに応える形で新しい訓練所が急ごしらえとはいえ作り上げられていく。
今まで屋敷や町への被害を考えて使えなかった多くの戦術や術が行使可能になるほどの広大な土地がここにはあった。
「メェ……ぇ」
少女の足元にアリエスが寄り添う。
彼は何とも言えぬ表情で己の主を見上げていた。
ルファスの勝利を願ってこそいるが、アリエスは顔を苦渋に歪めていた。
彼がプランの本格的に戦う所を見たのはディノレックスを相手にしている時だけだったが、あの時の意味の分からない動作は彼の脳裏に焼き付いていた。
あんなものを相手にする主を彼は心配している。
「大丈夫だ。私とて何も考えがないわけじゃない」
バサ、バサと翼を動かしルファスは自信満々に宣言する。
周囲への(主に母であるが)被害を考えなくてもよい環境であれば取れる手は増えるのだと。
自分は天翼族で、空を飛べる。この利点を最大まで生かしてやると彼女は決めていた。
「そろそろ完成しそうだ。後は……」
ゴーレムたちに適宜指示を出しながらプランは訓練所の各所を歩き回っていた。
てきぱきと彼は小規模ながらもしっかりとした作りの施設を建造していく。
アリストテレスの性なのか、こういう建造に関してはちょっとした拘りが彼にはあった。
とりあえず着替えるための小屋。
怪我などをした場合に寝かせるベッドと簡易とはいえ治療可能な保健室。
汗などの汚れを落とすための湯あみ所。
お湯を沸かすためのカマドと薪……。
水はゴーレムたちに運搬させればいいとして……。
後は小腹が空いた時に食事を取る為のテーブルに椅子に、森の食材を調理するための厨房……。
訓練所というよりは別荘を作っている様であったが、ないよりはあった方がいい施設なので問題はない。
一通りの設備を拵えた彼は腕を組んで頷いた。
よし、まずまずの出来だと納得を顔に浮かべる。
「少し休んだら始めるぞ」
整地された地面の調子を爪先で叩いて確認した後、ルファスがプランに駆け寄り話しかける。
右手が何度も腰のダガーに行ったり来たりを繰り返しており、早く思う存分に力を使いたいという欲求があふれ出ていた。
「繰り返すが……“本気”でやるんだぞ。いいか? 絶対だからな!」
念を押す様に彼女はプランに詰め寄る。
レベルとしては自分の方が上で、ステータスも接近戦のモノに関すれば彼女の方が上だ。
プランの本気を引き出した上で勝ち目は大いにあると少女は判断していた。
「判った。じゃあ30分後に始めようか」
気負う様子もなく告げる彼にルファスはむぐぐと唇を噛んで反骨心をむき出しにし、べーと舌を出してやった。
この自分が何の問題もなく勝利できると余裕を見せる男に少女は宣戦布告を突き付けてやった。
「30分後、地面を舐めるのはお前だ! 覚悟しろ!!」
堂々と胸を張り、覇王の卵は憎々しい男に少しばかり早い己の勝利宣言を叩きつけるのであった。
「…………」
ルファスはうつ伏せに倒れ込んでいた。
瞳に力はなく、彼女はこれが現実だと信じられない様子で大地の冷たい感触を味わっている。
頭がぐわんぐわんと回る。一時的に周囲の音が全く聞こえない。
手足に力は入らず、自分の呼吸さえしっかりできているか判らない状態が今のルファスである。
2フレーム。
“フレーム”とはアリストテレス家が用いる1秒を60分割した単位で、2フレームは60分の2秒である。
これは一般人からすれば一瞬だが、ある程度の実力者からすると呑気とも取れる程に長い時間だ。
2フレーム。
これはルファスが“本気”になったプランと模擬戦をし、撃破されるまでの時間である。
つまるところ、彼女は秒殺を通り越して瞬殺されたのだ。
何が起きたのかさえ彼女は判らない様子でパチパチと瞬きを繰り返していた。
そうだ、これからプランと試合をするんだと彼女は思った。
まだ始まってさえいないというのに何で自分はこんな地面を舐めているんだとさえ思った。
立ち上がらなきゃと思うも、手足はまるでいう事を聞いてくれない。
余りにあんまりなプランのやり方に少女は声にならない呻きを上げるしかなかった。
プランとルファスの試合は両者向かい合って10歩ほど距離を取った状態で始まった。
ルファスは己がプランに勝っている部分は身体能力と飛行能力であると自己分析していた。
プランの銃の腕は確かに恐ろしいが、今の自分が全力で回避すれば決して避けられないものでもないと考え、試合が始まった瞬間に飛翔しようとし……。
そこで彼女の記憶は途絶えている。
何かとてつもない衝撃と、途中で音が聞こえなくなってしまったがとんでもない爆音が身体と頭を揺らしたのが最後の記憶であった。
種明かしをすると、プランは試合が始まった直後にルファスの頭上に【錬成】と【サイコ・コンプレッション】で大気を
不可視の“箱”は多量の空気を無理やり圧縮して作られた言わば空気爆弾である。
空気圧というのも馬鹿に出来ない破壊力があるのだ。
パンパンに空気を送り込んだ風船を想像するといい。
アレがはじけた時の爆音と衝撃は大人でさえ怯むものがある。
そんなモノの中にルファスは勢いよく頭から突っ込んだ。
風船の数十倍にも及ぶ爆音と衝撃を、意識の外側から突然叩き込まれた少女がどうなったかは、今のルファスを見れば明らかだ。
頭を直接揺さぶられ、鼓膜が悲鳴を上げ、三半規管は半ば麻痺してしまっている。
結果、彼女は大地に突っ伏した状態で生気のない瞳を晒していた。
じんわりと紅い瞳が潤うが、彼女は気合でそれを引っ込めた。
代わりに口を開き、遠吠えの様にふざけた男に言葉を吐き散らす。
「ひ、ひひょうものぉ……!」
呂律が回らない舌でルファスはプランをなじった。
頭だけを何とか上げてプランを見上げて怨嗟を吐く。
酔った時にも似たふわふわとした頭であったが彼女は何とか言葉を捻り出した。
「きたない大人め! どうどうほ たたきゃえ!!」
「すまない。大人気なかった」
普通に謝られたルファスは更に惨めな気持ちになり、「んん゛んんん゛ん゛──」という少女が出してはいけない唸りを上げた。
自分の言葉が負け犬の遠吠えであることなど百も承知の彼女は、次こそは決して油断などしないと心に誓うのであった。
「……………」
ルファスは光のない瞳で空を見つめていた。
仰向けで己の翼をクッション替わりに少女は呆然とした顔をしていた。
また、である。
青空は美しく、鳥の群れが鳴きながら飛んでいた。
あ、カラスが飛んでると少女は頭の何処かで思った。
ついさっき、青空を通り越して薄暗い闇の世界にまで行ってきてしまった彼女であった。
今度は頭上に空気の“箱”は設置されなかった。
同じ手は絶対に受けないと全神経で周囲の空間を警戒しながら切りかかる為の一歩を踏み出そうとした少女であったが……。
今度は大地を勢いよく蹴りつけた瞬間、彼女の身体はあり得ない程の加速度をもって空へと“落下”したのだ。
身体にかかる負担は通常の数十倍。
瞬く間に少女が意識を失うのは当然であった。
試合が始まった直後、今度はプランはルファスの足元の地面に【錬成】を行い、反発係数を通常の10倍程度に書き換えたのだ。
結果、レベル250の超人染みた身体能力でそれを思い切り踏み込んだルファスは遥か彼方、宇宙の手前まで吹き飛んでしまったということである。
全身を乱回転しながら天翼族は大好きな星座に近づき、そのままプランの【サイコスルー】に捕まって戻ってきたというのが事の次第だ。
あ゛あ゛う゛あぁ゛ぁ───という野太い悲鳴を上げながらルファスは逆流れ星になりかかってしまった。
5フレーム。
これがこの試合で少女が保った時間であった。
さっきの倍以上に伸びたなどとは言ってはいけない。
「くそぉ……」
じんわりと眦に浮かぶ水を少女は気合で引っ込めた。
うるさい、黙れ。まだ負けていないと何度も心の底で繰り返す。
同時にプランが手加減抜きで自分と向き合っているのは間違いないと彼女は悟ってもいた。
しかし“本気”を出せと言ったのは自分だが、これはあんまりだと愚痴るだけの人間性は彼女にはあった。
これでは戦いにさえならない。そもそも勝負という概念が成立してさえいない。
それだけ彼と自分の間には隔絶した力量差があるということだが……生憎それで諦める程ルファスは素直な少女ではない。
誰よりも負けず嫌いで。
誰よりも向上心に溢れているのが彼女だ。
生きている限り、自分は負けていないと何度も立ち上がり続ける意思の強さが彼女にはあった。
「まだだ……!」
まだ終わってないと彼女は跳ねる様に起き上がって叫ぶ。
ダガーを突き付けられたプランはそんな彼女を見つめながら淡々と次の手を実行に移すのであった。
更に三戦、今までの二戦と併せて五戦。
“本気”のプランとルファスは五回ほど手合わせしたのだが、結果はいうまでもないだろう。
三戦目。
試合開始と同時にプランは瞬時に人型のゴーレムを3体ほど錬成しルファスに差し向けた。
レベルにして80程度の今の彼女からすれば雑魚としか言いようのないゴーレムであった。
ふざけてるのか? と思いながら拳でそれらをルファスは粉砕したが──。
砕けた破片に【錬成】が掛けられ、瞬時に流動体へと再変換。
液体金属を浴びせかけられたルファスが拙いと思った瞬間、更にそれらは再度個体へと【錬成】され直された。
結果、体中のあらゆる可動部を固められて完全に身動き一つとれなくなったルファスは地面に転がる事しか出来なかった。
何とか腰の動きだけで跳ねまわり、真っ赤な瞳を輝かせながら将来的にプランの頭髪を根絶してやるなどの罵倒を浴びせかけるのが彼女に出来た唯一の攻撃であった。
試合時間は3秒。フレームにして180フレームである。
これは大幅な進歩といえたが、間違っても本人に言ってはならない。
四戦目。
試合開始と同時にプランは【サイコスルー】と【瞬歩】の合わせ技を用いて一瞬でルファスの視界から消え去った。
「え?」と彼女が瞳を見開いた時には、後頭部に拳銃を突き付けられて少女は降参するしかなかった。
ぎゅぅぅぅっと唇を噛み結び、ぷるぷる震えるのがルファスにできた唯一の行為であった。
試合時間は1フレームよりも更に短い、0.5フレーム。
2分の1フレーム、または120分の1秒がタイムであった。
瞬殺という言葉さえ生ぬるいあしらわれ方である。
“たぶんこれが一番はやいと思います”等と言う戯言がルファスの頭をよぎった。
五戦目。
今度こそルファスはプランに切りかかる事が出来た。
空間に配備された“箱”もなく、地面の反発係数も弄られていない。
ゴーレムによる捕獲もなく、銃もプランは使わなかった。
ただ彼は【サイコスルー】を纏った手でルファスの攻撃を軽々といなすと、彼女の肩、腕、足に麻痺針を的確に打ち込むだけであった。
麻痺や毒をカットするアクセサリーを装備していたルファスであったが、こういったアクセサリーの防御効果を貫通されることがあると知ることになった。
ただ普通に麻痺針を打ち込むだけでは普通に無効化されてしまうだろうが、神経の集中する所にミリ、マイクロ単位で的確に針を打ち込まれれば無効化は叶わなかったのだ。
手足の感覚を喪失させられ、芋虫の様に大地に崩れ落ちかけたルファスをプランは壊れモノを扱うように抱き留めた。
覗き込んだ彼女の瞳に光はなく、唇を戦慄かせたままレベル的には己より格下の男を見つめるだけであった。
とてつもなく永い沈黙の後「もう、今日は、いい……」と何とか彼女は声を絞り出した。
ちなみに試合時間は2秒だった。
かくしてルファスはプランに連敗を喫し、模擬戦は終わりを迎えた。
「─────。」
ルファスは椅子に座ったまま心ここにあらずといった顔で青空を見つめ続けていた。
いかに負けず嫌いで心の強い彼女であってもあの5連敗は心に響いたのだろう。
アリエスを抱きしめ、無心に彼を撫で続けたまま何も喋ろうとしない。
「メェェェ! メ、メッ!」
アリエスはそんな主を必死に慰めるかのように精一杯の愛嬌を振る舞い、彼女に鳴きかけた。
彼から見ても判るほど少女は影を背負っていた。
背の黒い翼も小さくなり、力なく垂れている
「お前は暖かいな……」
何処かぼーっとした瞳でルファスはアリエスを愛でる。
傍らに置いてあった革袋からトウモロコシを取り出し、羊の口元に差し出した。
「ほら、今日は食べていいぞ……」
ははは、どうした、食えと力なく囁きかけられアリエスは仕方なくトウモロコシに口をつけた。
甘くて美味しいが、どうしても頭上の主の顔が気になって仕方ない。
「…………」
アリエスの口にトウモロコシを差し出したままルファスは再び空を見上げていた。
これは重傷だなと虹色羊でさえ思った。
ちらっと彼が原因であるプランを見れば、彼はこちらに背を向けて即席で作った屋外の厨房で何かをしているようだった。
ぱちぱちという火の音が聞こえるに、恐らく何かの調理をしているのだろうか。
香ばしい匂いさえも漂ってきていた。
プランは持ち込んでいた幾つかの塩漬けの肉や生野菜などを串に手際よく刺した後、火の上にかけられた網の上に置いているのだった。
屋外の料理の代表ともいえるバーベキューを彼は作っていた。
【バルドル】の火炎放射で上からも炙る様に火を放射ししっかりと熱を通していく。
あっという間に5本ほど完成した串焼きを皿に盛るとルファスへと運んでいく。
彼女は相変わらず力のない瞳でプランを見つめていた。
目の前に皿を置かれたルファスは、肩を落として項垂れる様に頭を下げる。
そんな少女にプランは微笑みながら声をかけた。
とりあえず、腹を満たそうかと。
「ご飯にしようか」
「……うん」
意外にもルファスは素直に頷く。
自尊心やらなにやらの諸々が砕けた結果、今の彼女は普段被っている仮面さえもないただの少女であった。
アリエスが膝から飛び降り、プランの足元にすり寄る。
「もちろんアリエスのご飯も用意してるさ」
生野菜の詰め合わせセットが盛られた皿を羊の前に置いてから頭を撫でる。
主とは違った種類の暖かさにアリエスは目を細めた。
昔、母と一緒に逃げ隠れしながらも食事を採った時を思い出した。
「……塩が、いい感じだな」
「火はちゃんと通ってるかな?」
大丈夫、と頷いて返しながら少女は食事を進める。
口の中に拡がる熱と肉汁、旨みはとても美味しかった。
ボロボロにされた心の隙間にすぅっと熱が沁み込み彼女は熱い吐息を漏らす。
「次は……これにする」
別種の肉や野菜が刺さった串を手に取りルファスは黙々と肉や野菜を口に放り込んでいく。
程よい塩加減に彼女は素直に美味しいと思った。
問題なく少女が食事を始めたことを確認してからプランは自分の分の串などを取りに厨房に戻る。
適当な串を4本ほど皿によそってから戻ると、じーっと自分を見つめてくる少女に出迎えられた。
5本あった串の3本目を食しながら彼女はもぐもぐと口を動かしつつプランを見ていた。
プランは何とも言えない気持ちになり、ちょっとだけ反省を覚えた。
“本気”でやってほしいというリクエストにできるだけ応えたとはいえ、いくら何でもやりすぎたと彼は思ったのだ。
「あやまったら怒る」
ゴクンと肉を嚥下したルファスはプランの心を読んだように先に言葉を放った。
「“本気”を出してほしいと言ったのは私だ。貴方はしっかりと応えてくれただけ」
「貴方が手加減とか、変な手心とか加えなかったのはちゃんと判ってる。
……だから、謝らないで」
4本目の串を手に取りふーと息を吹きかけて少しだけ冷ましてから噛みつく。
翼がばさばさと上下に震えた。
「それはそうと自分の不甲斐なさに苛立ちはするがな! 何なんだ、本当に!!」
豪快に肉を食いちぎり食べ漁る。
ぬぐっと声を上げる少女にプランは清水で満たされたコップを差し出すと、彼女は一気にそれを飲み干した。
「負けだ。あぁ、認めるさ! 今日は私の完全敗北だ!!」
だけどいつか超えて殺してやるからなと続けて叫ぶ。
そして5本目に遠慮なくルファスは噛みついた。
あっという間に串焼きを平らげた彼女はそれで落ち着いたのか息を漏らした。
「……ブーツ」
約束通り貰ってやると少女が言う。
プランは持ってきていたソレを袋から取り出して少女に差し出した。
しっかりした作りで質実剛健という言葉を体現したソレに少女の瞳は輝いた。
早速彼女はそれを履いて紐を締める。
今まで戦闘訓練に付き合ってくれていたボロボロの古いブーツをルファスは感慨深く見つめてから、新しい靴に目を向けた。
何度か確かめる様に周囲を歩き回ってから頷く。
初めて履いたモノだというのに恐ろしい程に馴染む。
軽い上に、しっかりと足全体を包み込んでくれた上に暖かく安定感があった。
「きつさとかは大丈夫?」
「大丈夫だ」
メーメーと鳴きながらアリエスは新しい靴に鼻を当ててピスピス鳴らした。
そして主の顔を見上げると、ルファスの顔には隠しきれない喜びがあったのを彼は見た。
バサッ、バサッと翼が幾度も羽ばたいていた。
「ちょっとだけ散歩してくる。アリエス、行くぞ」
メ! と強く頷いてくる臣下を従えルファスは羊がついてこれる程度の速度で駆けだした。
靴の性能を試す様に何度も飛び跳ね、小刻みにスキップしながら彼女は無邪気な子供の様に走り出したのだった。
負けた後の少女の図。
〃"∩ _,,_
⊂⌒(`Д´) マケテナイ! ワタシハマダマケテナイ!!
\_つ⊂ノ
ジタバタ