ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
ヴァナヘイム近郊にある小さな村。
その中にある純朴な宿にプランはいた。
慎ましいながらも夫婦と小さな子供が頑張って経営する人情に溢れた宿であった。
もう間もなく日が暮れるというのにいきなり押しかけたプランを嫌な顔一つせず受け入れてくれた者達だった。
まずは女将がねぎらいの言葉をかけてくれた。
次に主人がまるで息子が帰ってきた時の様な笑顔でプランを出迎えてくれる。
最後に小さな娘が荷物に向かって両手を伸ばしてくれた。
プランはそっと娘に己の荷物を預けた。
念のためであるが中身は大したことのないモノだ。
ちょっとしたはした金程度が入っている位である。
本当に大切なモノは【バルドル】の収納スペースに収めておくのがプランのやり方だった。
「お荷物をおもちします!」
小さな娘がぴょんぴょん跳ねながらプランの持っていたバッグを受け取る。
両手で何とか落とさない様にソレを運んでいく娘を見てプランは思わず微笑んでいた。
ルファスより一回りほど小さな少女の顔には笑顔があり、両親からとても愛されているのが伺える。
本来ならば瞬時にリュケイオンに戻る事も可能な彼であったが、少しだけ休みたくなったのだ。
彼にだって緊張していた精神を和ませたくなる時くらいはある。
混翼の者達との交渉をひとまず終えた彼は噛み締めるように回想している。
椅子に座り、とりあえず料理を待ちながら彼はため息を吐いた。
とりあえず第一歩としては上々。
だが、これは根気のいる仕事になるなと彼は思った。
結果として彼らは保留という選択を取った。
後日改めて来てほしい、いきなり過ぎるという何とも無難な回答である。
プランとしても一度で全て解決できるとは思っていなかったのでこの展開は予想通りである。
ルファスに輪をかけて迫害や差別を受けてきた彼らである。
天翼族の寿命は最大で1500年。
彼らが世界から拒絶され続けた年月はどう軽く見積もっても数百年になる。
そんな彼らの心は外界に対する猜疑心と拒絶で満ちていても仕方がない。
そんな中、いきなり見知らぬ男が現れて「君たちを自由にしたい」等とほざいて誰が信じるというのか。
そう簡単に人を信じ、嘘か本当か判らない話に飛びつく事などしないのだ。
まぁ、それはともかくとして彼らの心に種をバラまけたからよしと彼は割り切る。
行動するか、何もせずあの病んだ村の中で変わらぬ地獄を続けるかという選択肢は彼らの心を大いに悩ませることだろう。
後は何回か訪れて説得を続けていくしかない。
「おまたせしました!」
少女が小さな歩幅で歩いてくる。
両手で大きなトレイを持っており、その上には幾つもの料理が並んでいた。
とても香ばしい匂いがプランにまで漂い、彼は心から微笑んだ。
「お母さんの料理です! すごくおいしいです!」
「それは楽しみだね」
よいしょっといいながらテーブルの上に料理を並べながら少女は自慢げな顔をしてプランに笑いかけた。
彼女は「ほめられた!」と心から喜びながら宿の奥へと駆けて戻っていく。
「さて、とりあえずは……」
腹を満たそうかとプランは眼前に並べられた料理を見る。
前菜からデザートまでのフルコースであった。
テーブルを埋め尽くす程の量で、どれもがとても美味しそうだった。
カルキノスがここに居たら面白かったのにとプランは心から思った。
彼なら賛辞を述べつつ一つずつ味わいながら料理を楽しむことだろう。
思えば彼が屋敷に来てから食事の時間が楽しくなったものだ。
値段に対してとてつもないボリュームがある料理を前にプランはフォークとナイフを構えた。
全部食べきれるかな、と彼は少しだけ困りながら女神に祈りをささげた後に食事を始めた。
「すごい食べっぷりだったわね。よっぽど疲れてたの?」
女将が食べ終わった皿を片付けながらプランに話しかける。
20分にも及ぶ激闘の末、プランはフルコースを完食していた。
感想としてはとても美味しかったというのが本音であった。
食べきれるかどうかの不安があったが、一口食べるとそのまま夢中で食べ続け、気づいた時には食べ終わってしまっていた。
カルキノスに勝るとも劣らない腕前だなと彼は内心で感服していた。
何よりこの料理にはとても暖かい……言葉では表現しづらい何かがあった。
母というものを殆ど知らないプランは“母の味”という概念を知らないが、きっとこういうものの事を言うんだなと思ってしまう程であった。
思えばアウラの料理にも似たようなモノがあったかもしれないなと彼は口元を緩めた。
母の料理と聞いて喜びを隠し切れないルファスの顔が浮かんだ。
「えぇ。ちょっと交渉事の仕事を行っていたのですが、まぁ……色々と手強い相手だったのです」
プランは苦笑しながら女将に返答する。
詳細な事は決して言えないが、それでもこれくらいならば問題はないだろうと考えながら。
「ありゃ!
お兄さんったらいい顔と声してるんだから、そんなのちょちょいじゃないの!!」
女将が豪快に笑いながら言う。
そういえばリュケイオンにも似た人がいたなとプランは思い出した。
農家の女性で、よくルファスに余った野菜を分けている人だった。
……実はアリエスに渡しているトウモロコシの供給源でもある人物だ。
気付かない内にアリエスは彼女のトウモロコシの虜になってしまっているのである。
ルファスには今の所ばれていないプランの秘密の一つであった。
「はははは、ありがとうございます。
でも自分も30が近い男ですので、もうおじさんですね」
プランの年齢はもう28歳である。
ルファスと出会った時が25歳で、あれから気づけば3年が立っていた。
もう間もなく肉体が衰え始める頃合いであり、プランは感慨深げに息を吐いた。
“劣化”“堕落”“摩耗”という言葉はアリストテレスが嫌う言葉である。
このまま老いていくのは別に自分は構わないが、アリストテレスは違う。
せっかく「完成」したというのに使命を果たさない事を彼らは非常に嘆いている。
その後の未来を作れない存在に何の意味がある? と彼は心から思っていた。
「そうは見えないわねぇ……でも、その位の年なら可愛いお子さんとかいるんじゃないの?」
女将の言葉に対して一瞬脳裏に浮かんだのは誰であったか。
全く実にありえない話だ、馬鹿馬鹿しい。ありえない。
あってはいけないと彼は直ぐにそれを消し去った。
「残念ですが自分に妻子はいません。
そういった話にはとんと縁がなくて……」
「そうかい。悪かったわね。変な話なんかしちゃって」
「いいのです。こういう何てことのない話をするのは好きですから」
さすがは多くの客を見てきた歴戦の女将と言うべきか。
妻子の話を出した瞬間にプランの気配が微かに変わったことを瞬時に察し会話を打ち切った。
そんな彼女の気遣いに申し訳なさと嬉しさを感じつつプランはただのプランとして会話を楽しむことにした。
ここでは誰も彼の事を知らない。
リュケイオンの領主でも、多くの国と種族の間を取り持つバランサーでも、ルファスにどう接すればいいか悩む男でもない、ありのままのプランであれた。
少女が持ってきたドリンクで喉を潤しながら彼はある程度はぼかしつつも日常の話をしていく。
さながら酒場で客がマスターに人生相談するかの様に。
友人がとてつもない多才で、料理を始めとした多くの面で自分を支えてくれていること。
最近飼い始めた子羊がとても愛らしく、思えばついつい好物のトウモロコシを与えてしまい、うっかり肥えさせてしまったこと。
バロメッツを育てたのはいいが、大きくなりすぎてしまい食べるのを躊躇ってしまうこと。
住んでいる街で慰霊祭を行ったこと。
街の司祭が子供たちを連れてよく近場の湖に遊びに行っている事。
思えば誰かとこういう風に取り留めもない雑談をしたことなどなかったと思いながらプランは今までの思い出を語っていく。
どれもこれもルファスと出会ってから記憶し始めた事であった。
彼女と出会う前は、あらゆるモノは彼にとって“記録”であり“思い出”とは程遠い無機質な感情のないモノだった。
────?
はて、何で記録は記憶になったんだ?
彼は自問自答する。
今まで気づいていなかった変化であった。
彼は頭を傾げた。
ここで初めて彼は己の変化を微かとは言え自覚する。
他人と会話をして自分の思考の変化を実感する、という誰もが行うことを彼は初めて体験している。
困惑する彼を女将は穏やかな表情で見ていた。
隣に娘がやってきて母に抱き着く。
何度か頭を撫でてやると少女は目を細めて母の胸に顔を埋めた。
「ここにはあたし達しかいないわよ。大丈夫、口は堅い自信があるの」
「…………………」
プランは目を回した。
何もかもが自分たちで完結できる彼である。
他者に技術的な相談ならともかく、こういった愚痴の様なモノを彼は吐いた事がなかった。
だから、どうすればいいか判らなかった。
彼は誰よりも頭の中で情報を処理できる男である。
世界の法則さえも読み解き、意味の分からない事象を思うがままに支配できる頭と瞳を持つ男だ。
だがそれとは打って変わって、彼は胸の中の形のないものを処理することが苦手であった。
いや、苦手になってしまったというべきか。
今までは黙々と機械の様に出来たというのに、いつの間にかバグが発生してしまっていた。
「…………心に傷を負った子がいるのです」
長い長い沈黙の末に絞り出す様に彼は言った。
声は微かに震えており滅多に見せない怯えさえもそこには込められていた。
全くの第三者。それも今日のついさっき出会ったばかりの人にこんなことを言ってもいいのかという葛藤の末の言葉であった。
ある程度は略した上でプランはとある娘の話を口にした。
産まれながらに迫害と差別を受け続け、母しか信じられなくなったとある女の子の話を。
女将は途中一言も話さず、黙ってプランの言葉を聞き続けてくれた。
「正しいことが何なのか判らないのです。
自分のしている事は偽善といわれるものなのは自覚していますが、それでも正しいことをしないといけない」
正しい事。
とある女の子との正しい向き合い方。
時間が掛かってもいいから彼女の心に負った傷を治す方法。
彼女がこれから先、健やかに生きていくためにはどうすればいいか。
これはプランにとってどんなに頭を回して世界の法則を読み解こうと判らない問題だった。
彼女が欲しいというのならば自分の命を与えるのも吝かではないと思う程に行き詰ってしまう話である。
「お兄さんは本当にその子の事を大事に思ってるんだねぇ」
一人の娘を持つ母親は労うような顔でプランを見つめた。
今までに向けられた事のない類の視線に男は呆気に取られた顔を晒す。
称賛や畏敬、畏怖は数多く受けてきたし、そうするように仕向けていたのは自分だった。
貴族として生きるのにはそういう“面子”も大事だからだ。
だが、このようにそういった色眼鏡無しで労いを受けたのは本当に初めてであった。
いや……あまりに自然に行われすぎていて気づけなかったがカルキノスもよく口にしていた。
「その子はきっと、不安なんだろうさ。幸せってのが怖いんだろうね」
「…………」
思い当たる節を想起しプランは視線を泳がせた。
以前、事故とはいえ酒に酔って叫んだルファスの言葉を忘れた事はない。
黒い翼の自分を呪い続け、こんな自分を本当は皆で騙していると叫んだルファスを。
「その子の事、絶対に離しちゃダメよ?
思わずこんな田舎の宿であたしに質問しちゃうくらいその子のことを思ってるのなら、猶更ね」
「勿論です。最後まで責任を取るつもりです」
そうねぇ、と女将はプランを見て目を細めた。
宿を長くやっている彼女は薄々眼前の男がただの平民でないことを察していた。
きっと、恐らく、自分が考えるよりも遥かに複雑な事情を重ねている事までも。
故に彼女は無責任に、思うがままの己の意見をプランに渡した。
所詮は通りすがりの宿のつまらない女の戯言だとして。
こういうのは後で「ああ言っておけばよかった」などと後悔しないことが大事だと彼女は知っていた。
「いっそ幸せに溺れさせちゃいなさいな!
お兄さん顔がいいんだから、もっとイケイケに押さないと!!」
「……は、はぁ」
急にテンションを上げ始めた女将にプランは気おされて頷く。
「女神様だっていってるもの!
“幸せになってください”ってね!
だからその子も、お兄さんだって、別に誰に恥じることなく幸せになっていいのよ!!」
「……たしかに?」
一瞬強引極まりない理屈にプランは頷きかけた後に「?」を浮かべて頭を捻る。
うぅん? 何かとんでもない力押しをされているぞ、と彼は困惑した。
不愉快極まりない女神ではあるが、それでも確かに女神の教えの一文に堂々とその言葉は載っていた。
「は、……はは……」
最初は小さく。
次第にはっきりと、プランは微笑みじゃない普通の笑みを浮かべだす。
とんでもないごり押しではあるが女将の言葉は真理をついていると彼は認めた。
ルファスとどう向き合えばいいか判らないのは変わらないが
それでも“幸福を恐れなくてもいい”と教えてよいという発見は彼にとって僥倖であった。
少しだけ肩の荷が軽くなるのを感じた彼は手元にあった杯を一気に飲み干す。
「ちょっとくらいは役に立ちそうかい?」
えぇ、とプランは頷いた。
これからも頑張ってルファスと向き合っていこうと彼は決意を新たにするのだった。
真夜中、草木も寝静まる頃にプランは目を覚ました。
宿の二階の部屋でベッドに潜り込んでいた彼は慣れ親しんだ気配を感じて意識を急速に覚醒させたのだ。
数は……とりあえず一つ。お馴染みのモノである。
「……」
起き上がる。
手早く【バルドル】を着込み、銃を始めとした各種装備を整えた。
窓を開けて音もなく飛び降りて歩き出す。
夜の村はやはりというべきか誰も出歩いてはいない。
所々に視界を確保するための松明などが掲げられているが、それ以外は月明りのみの極めて静かな夜であった。
プランの瞳は瞬時に暗闇に適合し、昼間と同じくらい問題ない視界を提供した。
ざり、ざりっと砂利を踏みしめながら村から外に向けて歩く。
すると、道の真ん中に一人の子供が立っていた。
金色の瞳に青い肌。黒い髪。
典型的な魔神族であった。
最近は余り見ていなかったなと思いながら彼は首を傾げた。
恐らく竜王による大規模な魔物の招集の結果、空いた縄張りに入り込んできているのだろう。
魔物と魔神族もまた敵同士なのだから、これは仕方ない事であった。
「ちょうどおn──」
魔神族と相対する時に注意する事が幾つかある。
まず第一に基本的に彼らとの会話は無意味であるということを忘れてはいけない。
彼らの話すモノは言葉の様であるが、実態はただの鳴き声である。
故にプランは魔神族の少年が口を開いた瞬間にはもう動いていた。
“コレ”が何を言おうとしていたかは知った事ではないが、どうせ碌な事ではないのは確かなので問題はない。
魔神族というのは基本的に人の精神を逆なでしてくるのだ。
「ぇ」
お馴染みの【瞬歩】と【サイコスルー】のすり抜け超速移動である。
平均的なレベル1000を優に上回る速さでプランは魔神族の背後に回り込むと、後頭部を鷲掴みにした。
ビクリと魔神族が何か反応をする前に麻痺針を脊髄に打ち込んで全身を麻痺させる。
「か、はっ」
目の前にいた存在が突如として消失した上に、頭を万力の様に掴み上げられた魔神族は絶句し口をパクパクと動かした。
格下と侮っていた人間などに命を握られた魔神族は面子などを直ぐに投げ出す。
「た、だずげ」
もちろんプランは無視した。
繰り返すが、これらは鳴き声である。
魔神族の口から出る鳴き声にいちいちとりあっていたら日が暮れてしまう(今は夜だが)
【バルドル】の尻尾が蠢く。
先端がカチャンと音を立てて三本の指が現れる。
さながらこれは作業用のアームであった。
中央部には大きな針があり、月明りを反射して鈍くソレは輝いていた。
後頭部から手が離れ、代わりにアームが魔神族をがっちりと固定する。
ひんやりとした感触に魔神族の身体が跳ね上がった。
「ぎ、あが、ぎぎあいいあいああぁぁああ!!!」
音もなく針が魔神族の首と頭の連結部に突き刺さる。
血は出ない。【バルドル】の針は魔神族の一部をマナへと分解し、概念的な意味で深く突き刺さっているのだ。
【錬成】【錬成】【錬成】
かち。かち。かち。
ダイアルが回り音を発するたびに魔神族は「あっあっあっ」と痙攣しながら鳴いた。
構わず黙々と任意コードを打ち込んでいく。
魔神族を概念的に守護していた防壁を貫通しプランは【バルドル】を媒介にして魔神族の
魔神王という管理者しか入れない領域に己の意識をコード化して打ち込む。
「あ、あ、あ、ああっあっ、あ、あっあっっ…………ご用件をどうぞ、魔神族管理者■■■様」
一切の感情の抜け落ちた声で魔神族が話し出す。
ようやく鳴き声から、会話が可能になった瞬間であった。
「君の目的は?」
カチャン、カチャンと尻尾が蠢く。
針の根元にある何らかのダイアルが音を立てて回っていた。
「付近の人類の掃討です」
「君以外に誰が参加している?」
「17ユニットが参加しております。名前と現在位置を読み上げますか?」
「実行しろ」
承りましたと魔神族が返答し、淡々と仲間の情報を読み上げていく。
平均レベル150から270までの魔神族の現在位置と【クラス】構成などを淡々とプランに明かしていく。
村どころかちょっとした街ぐらいならば殲滅できるだけの戦力であった。
プランもまたゴーレムの様に無機質な声で道具に新しい指示を送り込んだ。
「新しい指示を与える。その者たちを現在位置に集結させた後、休眠状態に移行させろ」
「了解。コマンドを送信します」
魔神族を無意識化で繋げる情報網を通じてプランが掌握した存在から上位権限で命令が送られる。
1分ほど経った後、音もなく周囲に魔神族たちが現れる。
誰もが瞳の焦点があってなく、自我というものを全く感じ取れない様相である。
プランを囲む様に17人が現れ、その後は動かない。
瞬きも呼吸さえもせずに佇むだけである。
正に操演の糸が切れた人形という有様であった。
魔神族というのはただの人形。
プランことアリストテレスにとって彼らは少しばかり生物の真似がうまいゴーレムというのは周知の事実であった。
全くこりもせずに何度同じ存在を使いまわしているのだと呆れる程だった。
【観察眼】を用いて魔神族を構成するマナを完全に把握/掌握した後、彼はいつもの様に【錬成】を使った。
素晴らしい高密度のマナ集合体である魔神族は言わば原材料である。
芸術家であるアリストテレスにとって、形を整えられる前の彫像でしかない。
魔神族たちの身体が光の粒子となり崩壊する。
プルートの加工施設で行われていた行為を、彼は更なる高次元の域で行使できる。
露出したマナに手を加えて整えていけば、一個の独立した新しい生命の誕生である。
狼の群れが消えうせた魔神族の代わりに出現した。
普段用いている【狼の冬】と同じ個体であるが、プランはそれを更に強固に固定していく。
使い捨てではなく、延々と残り続ける一つの独立した存在を彼は編み上げているのだ。
数分にわたる作業の末、プランはこれらをしっかりとミズガルズに固定することに成功した。
使い潰した魔神族が保持していた“居場所”に彼らを割り込ませたのである。
「こんな所か」
10匹の狼たちが頭を垂らし命令を待っている。
プランの脳裏をよぎったのは先ほどお世話になった宿の面々であった。
実に仲のいい親子で、幸せに満ちた素晴らしい人々だ。
ミズガルズにおいてああいう者たちはよく食い物にされる。
残念ながら、幸福の後には必ず揺り返しが発生するのが女神の世界なのだ。
全く冗談みたいな、ふざけた……不愉快な話であるが、あの女は心の底からそれが正しいと考えている。
彼らは自分が今日この村に来なければこの魔神族たちに殺されていたと彼は冷静に答えを出していた。
だから置き土産をプランは残す事にした。
助けられないモノは助けられないと割り切る事の多い彼には珍しい行為であった。
自分が居なくなった後もこの地域一帯を守ってくれる守護者を彼は作ることにした。
「ヴァナヘイム周辺の村々を守れ。魔物、魔神族、心なき人々から守り続けろ」
創造主の権限で彼は命令を打ち込む。
狼たちはグルルルと唸り声で返答した後、恐ろしい程の速さで消え去っていく。
プランはそれを見送った後、村へと歩き出した。
月夜を見上げて彼はもう一眠りしようと考えるのであった。
明日の朝の食事がもしもまたあの量であったらどうしようと少しだけ不安に思いながら彼は宿に戻っていった。
200年以上後、あの狼たちが一つの悲劇を未然に防ぐことになるのはまた別の話である。
狼
ほぼ無限の稼働時間を持つ【狼の冬】である。
マナを摂取することにより成長/進化も可能であり、最終的には某バトルウルフ並みのスペックになるかもしれない。
悲劇の詳細は原作の番外編をどうぞ。
───“ヴァナヘイムを守れ”とはいっていないのがミソである。
魔神族
「魔神族だって人と同じように笑う事が出来る。泣く事が出来る。
喜びを分かち合い、他者を愛する事も出来る」
───魔神王の息子テラ。