ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
前々のジスモアの事を思い出しながら読んでいただけると面白いかもしれません。
───醜い翼。おぞましい咎人!
───真っ黒真っ黒! お前の翼は真っ黒!!
───何で産まれてきたの?
───地獄に墜ちなさい、醜悪なる罪人よ!
誰かが責め立てられているのをルファスは見ていた。
どうしようもない、産まれもった身体的特徴による壮絶な差別と排他の光景だ。
“誰か”はただただ、与えられる理不尽に耐えるだけ。
頭を庇い、地面に這いつくばって暴力という嵐が過ぎるのを待つだけの弱い弱い“誰か”だ。
それを見ているだけでルファスは想像を絶する怒りを覚える。
リュケイオンで過ごしていたことにより薄れだしていた憎悪と憤怒が再び増していく
石を投げつけられ、油をかけられ、衣服を破り捨てられている惨めで弱い子供を彼女は見ている。
ああ、あれは自分だなと彼女は客観的に何処か冷めきった頭で理解した。
怒りと憎悪を瞳に宿し、彼女はかつての弱い自分を見つめ続けた。
弱い己を見れば見る程ルファスは自分の考えが正しいという思いを強めていった。
つまり、弱いとは罪ということである。
弱い者は何もかもを奪われる。弱い者は、理不尽に食い物にされる。
誰も助けてなんてくれない。
誰も手を差し伸べてなんてくれない。
信じられるのは己のみ。
信じられるのは己の力のみ。
力こそこの世を司る真理である、と。
14歳を間近に控えたルファスは例年通り死を思わせる程の深く冷たい眠りについていた。
体中の細胞が一度休眠し、レベルを跳ね上げさせるための準備を始めたのだ。
言わば今の彼女は蛹である。
あらゆる構成要素が別種の生物へと進化を行い続けているという事は、当然その影響は頭にも及ぶ。
最も繊細で最も膨大な情報を秘めた頭の細胞は恐らくだが、今までの情報の整理を始めたのかもしれない。
今まで見てきたこと。体験してきたこと。抱いた感情……。
それら全てを一度整理するためにルファスは今までの半生を第三者視点で見せつけられていた。
これは言わば振り返り、走馬灯に近いモノがあった。
彼女は無意識にその事実を悟り、つまらなさそうに顔を顰めた。
今更何だというのだと。
「お久しぶりー。元気してた?」
「お前は……」
共に過ごしたのはほんの短い間だったというのに、今なお忘れられない少女の声にルファスは顔を歪めた。
彼女の隣にいつの間にか立っていたのは“子隠し”ことアン・ブーリンであった。
ルファスをして醜いと思ってしまうマダラ色の捻じれた翼と、灰色の髪、紅い瞳をした天翼族の残骸だ。
「お前はもう居ない。プランが消し去った存在だ」
ルファスは微動だにせず告げる。
彼女と同じ真っ赤な瞳で睨みつけると、アンは血の様な瞳を輝かせて笑った。
「だね。でもここは夢の中なんだよ?
貴方の記憶の中でくらい、私にも居場所があっていいと思わない?」
「……」
何処にも居場所のなかったアンの言葉にルファスは沈黙した。
ルファスはプランから“子隠し”の正体を聞いている。
打ち捨てられ、世界から排斥され、それでも消え切れなかった亡者たちの残骸だと。
自分と同じで、自分とは違った結末を迎えてしまったアン達にルファスは怒りを抱く事はできなかった。
そんな彼女にアンはくすくすと笑う。
「私なんて世界の中じゃ小物って知ってた?」
「お前より強い存在など多々いるだろう」
ヘルヘイムの魔物に“四強”にノーガード……そしてプラン・アリストテレス。
この世界には上には上がうんざりするほどにいるとルファスは知っている。
しかし違うとアンは首を横に振った。
「私はね。運がよかったに過ぎないの。
まぁ、誰も見つけてくれなかったんだけどね!
でも、ああやって何とか世界に残れただけ私達はマシなんだ」
アンはルファスに顔を近づけて残忍に笑った。
彼女の瞳の中には何人もの子供の顔があった。
誰も彼もヴァナヘイムから捨てられた者たち。
あと少しでルファスも仲間入りするかもしれなかった面々である。
「ねぇ、人が死ぬとどこに行くと思う?」
残忍にアンは口元を釣り上げた。
死んで答えを知ったモノはルファスを脅す様に己の体験を開帳する。
「ヴァルハラ? 転生? 綺麗な来世? ははは、めっちゃ笑える!!」
ミズガルズにおいて信じられているアロヴィナスの治世による死後の概念をアンはせせら笑った。
確かに一部は正しいけど、みんなは大事なことを知らないと彼女は腹を抱えて世界を嘲る。
「女神さまは綺麗なモノしかいらないんだって言ったじゃん!
そうだよ、きれいな部分はヴァルハラだよ?」
でもね、と彼女は全ての表情を消して歯をむき出しにする。
「汚い部分は捨てられるの。いらないって、誰にも見えないところに」
ルファスをしてぞっとするような顔と声であった。
凍り付いたルファスを見てアンはまた笑顔に戻った。
「ははは、ごめんごめん。脅すつもりじゃなかったんだ。
うん。だって私達“ともだち”だからね」
じゃ、一緒に続きをみよっかとアンは背後で暴力を振るわれている過去のルファスを指さした。
渋々と言った様子でルファスはアンに頷く。
このおぞましい怪物の残り香が何をしてこようと、決して好きにはさせないと強く自分に言い聞かせながら。
──どうしてお前はいつも俺のいう事を聞かないんだ!
──でも、さいしょに私をなぐってきたのは向こうで……。
──いつもいつもいつも口答えばかり!
そんなもの、お前が我慢していればいい話だろうが!!
流れているのは父に殴られた光景であった。
あの日、自分は唐突に道を歩いていたら殴り飛ばされたことを彼女は思い返す。
本当に何も悪い事はしていない。
そもそも自分を殴ってきたのは今まで見た事もない赤の他人であった。
青年の天翼族で、きっと何かムシャクシャすることがあったのだろうか。
憂さ晴らしの為だけにその天翼族はまだ十歳にもならない幼子の顔をいきなり拳で殴りつけたのだ。
もちろんルファスは「やめて」と懇願した。
当時、まだレベルが1だった自分にはそれしか出来なかった。
一度、二度、三度と顔を殴られる。
馬乗りになってその男はルファスを嘲笑しながら殴り続けた。
反応が鈍くなってきたら「つまらねぇ」と唾を吐き捨てて今度は首に手をかけてきた。
ぐっと力を込められると少女は呼吸ができなくなった。
むかついていたから、何となく目についたから、面白そうだったから、遊びのつもりだった。
そんな理屈にもなってない考えで男はルファスを殺しにかかっていた。
ちなみに仮にここでルファスを殺したとしてもこの男は罪には問われないだろう。
適当な事故として処理されてそのまま終わりだったに違いない。
ヴァナヘイムとはそういう地なのだ。
意識が遠のく寸前になって初めてルファスは無意識に抵抗をする。
首を絞めてきた男の腕に噛みついたのだ。
ただ嬲られるだけのゴミからの突然の反撃に男は驚愕し、食いちぎられた腕のキズを庇う様に悲鳴を上げながら転げまわる。
その隙にルファスは逃げ出し、母の下へと駆けこんだのである。
問題はその後だ。その男はジスモアに抗議をしてきた。
貴方の所の娘に怪我を負わされたと、自分のやったことは全て棚に上げた上で。
もちろんヴァナヘイムの貴族であるジスモアは己の面子を最優先に行動をする。
彼は和解金としてはした金を男に握らせて黙らせた上で、ルファスを呼び出して詰問したのだ。
結果、全面的にルファスが悪いという事になり、父にも殴られた。
ジスモアはルファスが理由もなく殺されそうになったというのに一言も娘を案じなかった。
本当は少しだけ期待していた。
幾ら黒い翼の自分とは言え、あんな目にあったのだから少しは心配してくれるんじゃないかと。
“大丈夫か?”
“ゆっくり休め”
“心配だ”
どれか一つでいいから父親としての言葉をルファスは求めてしまっていた。
結果は暴言と暴力。更には母さえもなじられた。
あの日をもってルファスはジスモアに期待することをやめたのだった。
「ひっどい話だね。本当にクズだよ、クズ」
アンが言う。
いつも浮かべていた笑顔さえなく、心から同情する様な声で。
ルファスは何も言えなかった。
恐らくこの世で一番自分の痛みを知っている存在だと痛い程に判っているから。
場面がまた変わる。
母が乾いた咳を始めた光景が映り出される。
運命が大きく変わる第一歩であった。
そんな母の為に奔走するルファスを見てアンは囁くように言った。
「ルファスはお母さんが本当に好きなんだね」
「でも……私のお母さんとお父さんだって凄いんだよ?」
怪物の残り香がくすくす笑う。
どれほど惨めに腐り果てても忘れられない自分の起源を彼女は語り出した。
「私の翼は
ルファスなら判ると思うけど」
過去を思い返しながら彼女はルファスの瞳をじっと見つめる。
「うーん、皆は私の事を馬鹿にしたり殴ってきてたけど、お父さんとお母さんは守ってくれてたの」
「それでね、9歳の誕生日の時にケーキ食べさせてくれたの。すっごく美味しくて、あっという間に平らげちゃった」
アン・ブーリンの笑顔が深くなる。
軽くため息を吐いてあっけらかんと彼女は言った。
「でもケーキには睡眠薬が入ってたんだ。
直ぐに眠っちゃった私を二人は縛って袋に詰めた後、夜中にヴァナヘイムから投げ捨てたの」
明かされる彼女の末路にルファスは絶句してしまった。
自分の母がいかに己を思い守ってくれていたかを彼女は思い知った。
「すごく嬉しそうな顔で私の誕生日を祝ってくれてたけど、当たり前だよね」
「だって人生をやり直せるんだもの」
その後は何の面白みもない話だ。
全身を強打しあらゆる骨が砕け、内蔵もつぶれた彼女は虫の息でヴァナヘイムの麓の森にうち捨てられ、かつてのルファスの様に思うように動かない手足を使って這いずった。
ルファスにとってのプランなど彼女には存在せず、暫く蠢いた後には力尽き、そのまま終了。
何ともまぁつまらないありふれた最期であった。
彼女の視線の先ではルファスが後頭部に石を投げつけられ、そのままヴァナヘイムを滑落する光景が流れていた。
「あ、また私と同じところみっけ!
いい感じに落ちてるね~。これは芸術点高いよ」
仲の良い友達同士が似通った部分を見つけ合って笑い合うような声で彼女は言う。
「私とお前は違う。私は強くなった!」
ルファスはたまらずアンに否定の言葉を投げかけた。
意外な事に彼女は「そうだね」と素直に頷く。
彼女の瞳は瀕死のルファスをプランが助け出す場面に向けられていた。
「本当に運がいいんだね。私とは大違い」
アン・ブーリンの亡骸は未だに見つかっていない。
ヴァナヘイムの森に埋もれ果てたままだ。
そんな彼女は見つけて貰えたルファスを隠し切れない羨望と共に見ている。
その後、プランが母子を連れてリュケイオンに引き上げる場面に続く。
そして再生される自分自身との対面。今より少し幼いルファスを外に連れ出した時の光景だ。
ルファスを誘惑し、あと一歩と言う所まで迫った“子隠し”はため息を吐いた。
“上書き”によってバラバラに砕け散っていく様を見て彼女は思わず呟いていた。
「ちぇっ、あと一歩だったのに」
今となってはどうしようもない話であるが、アンはルファスを取り込めば己の存在は更なる高みへと至れると直感していた。
当時はまだレベル3から20の間でしかなかった彼女の将来性を見抜いていたのはさすがというべきか。
事実、後に明らかとなったルファスの特異性を考えるにこれは決して間違ってはいない考えであった。
「ダメもとで言うけどさ、やっぱり私達と組まない?」
一緒に行こうよ、ミズガルズを無茶苦茶にしてやろうとアンは続けた。
彼女の望みは一切合切の破滅だ。
自分をいらないと捨てたミズガルズと女神の世界全てに不幸をばら撒いてやる事が彼女の願いだ。
当然ルファスの答えは決まっていた。
「断る」
「知ってる。本当に私とはもう違うんだね。
少し優しくされた位で絆されちゃったんだ」
侮蔑を隠さずにアンはせせら笑う。
お前の憎悪なんてその程度だと。
背後を親指で示せばそこにはプランと二人で星を見ているルファスの姿がある。
「意外とちょろいんだねルファスって。
お誕生日プレゼント、嬉しかった?」
私の貰ったよく眠れるケーキも上げようかと見え透いた挑発を行うアンにルファスは無表情で答えた。
「あいつはいずれ殺す男だ」
「あっそ」
そっけなくアンは返答し、そのままリュケイオンにおけるルファスの4年間に視線を戻した。
4年。プランと過ごしたのはたったの4年だ。
しかし恐ろしい程に密度の高い年月であった。
多くの知識を教えて貰った。
ダガーや鎧などの自分だけの所有物を手に入れた。
母に抱きしめて貰い、愛してると言って貰えた。
カルキノスのバカに振り回された。
ピオスという変わり者の神職に女神に対する独特な考えを説かれた。
アリエスという数少ない心を許せる臣下を得た。
エルフやドワーフに出会った。
ドワーフの首都に足を運び、ヘルヘイムという魔境を垣間見た。
ユーダリルの成り立ちを知り、多くの種族や人々が世界にはいると知った。
自分の知っていたヴァナヘイムなど、本当に世界のごく一部でしかないのだという事を見た。
魔物の大移動を見た。
この世には想像を絶する理不尽……“四強”と呼ばれる怪物がいることを目の当たりにした。
竜王から呼びかけられたが、プランの言葉によって帰ってくることが出来た。
「あー、胃もたれしそう。
まぁ、私には臓器なんてないんだけど」
辟易したアンがうんざりと言った声を上げた。
自分では決して手に入らない輝かしい人生を見るだけで不愉快極まりないのだろうか、マダラ色の翼が微かに震えていた。
最後に映るのはユーダリルにおけるダンスのシーンだ。
輝かしいドレスに身を包み、無意識に笑顔を浮かべて踊るルファスを見てアンは一切の表情を消し去っている。
「……ずるい」
余りに小さな呟きはルファスにさえ聞こえない。
もういいと彼女は輝かしい少女から視線を外した。
目の前にいる精神体のルファスを見れば、彼女の身体は薄くなりつつあった。
「そろそろルファスのレベルアップも終わりかもね。次は何レベルになるんだろうねー」
「お前には関係のない話だ」
「冷たいな~。私ってそんなに嫌われる事したっけかな」
主であるルファスの目覚めと同時に彼女の脳内処理が終わったのか、ただの残骸に過ぎないアンの身体も崩れ始める。
手足が落ち、翼が欠けていく中であっても“子隠し”はルファスを凝視し続け、手を軽く振った。
ルファスはそれに答えることなく消え去り、彼女の記憶領域である世界も閉じていく。
何もかも消え去る中、アンは裂けるような笑顔を浮かべた。
「あきらめないから」
どれだけの年月をかけようと、必ず。
意識が覚醒する。
最初に感じたのはとてつもない寒さであった。
心拍数や呼吸なども最低限にまで落とし込んだ仮死状態からの復活は、いわばあの世からの帰還に等しい。
故に四肢が死体の様に冷え切り固まっていたのは当然であった。
しかし、寒さと同時に……温もりをルファスは感じた。
何故か、等と疑問には思わなかった。
この柔らかい感触を彼女は良く知っている。
ゆっくりと目を開ければ、母が自分を抱きしめて眠っているのが見えた。
ヴァナヘイムで寒さに震えていた時と同じく、アウラは己の体温を娘に捧げ続けていたのだ。
「……ありがとう」
ゆっくりと起き上がり感謝を捧げる。
周囲はまだ薄暗く、月灯りが周囲を満たしていた。
夜明けまでまだ2時間はあるだろう。
そっと母の頬を撫でてから翼を大きく広げた。
周囲に散乱する羽根の中で、黒翼は更なる美しさと頑強さを以て新生していた。
ルファスはゆっくりと己の内に意識を集中させ、今の自分のレベルを確認。
ルファス・マファール
レベル 500
種族 天翼族
見れば接近戦に特化した【クラス】の数々と、幾つかの後衛【クラス】を彼女は得ていた。
もはやステータスではプランを圧倒している。
その他のステータスなども併せて確認し、ついにここまで来たとルファスは感慨深く息を吐いた。
レベル500。
もはやミズガルズにおいて誰もが認める強者の域。
彼女は14歳にして竜に匹敵する力を手に入れたのだ。
やろうと思えば一人で国を滅ぼせる力を彼女は得た。
たった14歳の少女が持つにしては大きすぎる力であった。
聞けば“四強”の一角にして紅一点である“吸血姫”ベネトナシュのレベルは600から700の間だという。
来年には恐らくベネトナシュを超える力をルファスは得るだろうと悟った。
そんな彼女は周囲を見渡し、プランを見つけた。
彼はルファスが眠っているベッドの隣に安楽椅子を置いて、その上で眠りについていた。
恐らくアウラと一緒に付きっ切りで看病していたのだろう。
「…………」
ルファスは母を起こさないように気を付けながらベッドを抜け出し、プランの目の前で腕を組んで佇む。
胸中に湧いたのは疑問であった。
彼女は先のアンとの会話をはっきりと覚えていた。
ここで過ごした4年を振り返った彼女の胸中にあったのは……表現に困る感情であった。
「あと1年だ」
ルファスはプランに語り掛ける。
聞こえていようがいまいが関係なく。
これは彼女なりの宣言であった。
「来年……私はお前を殺す。お前は、死ぬんだ」
悪意も憎悪も憤怒もなく、冷たい声で続ける。
彼にではなく自分に言い聞かせるように彼女は言葉を紡いだ。
「恨んでくれていい。だけど、そうしないと私は先に進めない」
「このままじゃ、私は弱くなる。よわい私なんてぜったいに嫌だから」
ルファス・マファールは強さを信奉している。
この世の理不尽をねじ伏せるほどの強さを求め続け、それは実現しつつある。
そして強さというのは何も身体的なものではない。
精神的な強さ、プランと一緒にいるとそれが失われてしまうと彼女は思っていた。
全てを憎み支配し、手に入れる覇者ではなく、ただの少女に堕ちてしまうと。
だから……。
心の赴くままにルファスはプランの胸元に顔を埋めた。
翼が大きく広がり彼を包み込んだ。
ドク、ドクと心臓の鼓動が聞こえた。
とても暖かい。安心する。心地いい。
全て己を弱くする毒だと思いつつ、彼女は抗えなくなりつつあった。
あれだけ湧き上がっていた黒い感情は枯渇しつつある。
このままでは、本当に、ダメになると彼女は認めた。
ジスモアを思い浮かべる。
死にかけたというのに優しい言葉一つかけてくれなかった実父。
あれには一度だって抱きしめてもらったことさえなかった。
「どうして……貴方じゃなかったの」
そもそも最初からプランが■■だったら、こんな事に悩まなくてよかったのにと彼女は吐露した。
「だいきらい」
きらい。きらい。
だいきらい。
貴方なんて、大嫌い。
空っぽの言葉を少女は繰り返し続けた。
そんな彼女を母が薄く目を開けて見ていたことに気が付けたモノは誰もいなかった。
ルファス
14歳になりレベルは500に到達。
能力値だけ見れば竜に匹敵するものがある規格外になった。
ターニング・ポイントは近づいている。
アン・ブーリン
「成仏なんて出来る訳ないじゃん」