ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
14歳になったルファスのレベルが500に到達したことを知り、プランは変わらず微笑んでいた。
彼は心から喜びを抱き、小さくて強い女の子を褒めたたえる。
「まずは14歳の誕生日、おめでとう!
だけど、何処か身体におかしな所があったら何でも言って欲しい」
何処か不安そうな瞳でプランはルファスを見ていた。
倍にレベルが跳ね上がった事により、無理な進化が彼女の身体に何らかの悪影響を及ぼしていないか彼は心配なのだ。
「毎年毎年、本当に飽きない男だ……気になる事は特にない。至って健康だ」
毎年繰り返されるやり取りにルファスは唇を尖らせながら努めて不快な顔をして答えた。
出会った時からずっと誕生日を迎えると彼は「おめでとう」と言ってくるのがたまらなく鬱陶しい。
翼を上下にバサバサ動かしながら少女はそっぽを向いた。
ここは以前作ったリュケイオン近郊の森の中にある訓練場だ。
あれから更に増設などを繰り返された結果、3人から4人程度の一家ならば問題なく暮らせるほどに充実した施設が設けられていた。
ちょっとした森の中の別荘といった様子である。
一通りの家具や厨房、湯あみ所、お手洗いなどがあるログハウスが一つ。
緊急時に使うベッドや薬、包帯などがある小さな医療用のログハウスが一つ。
広大な訓練場に、屋外にも広大な自然を見ながら調理ができる厨房と竈が設置されていた。
周囲を警戒するのはレベル90相当のゴーレムが複数。
これらが居る限り、並大抵の魔物ではこの施設を破壊することはできないだろう。
「早く始めろ」
青い空の下……正に青空教室といった場所にルファスたちはいた。
黒い翼の少女は木を伐り出して作った椅子に腰かけ、同じく木製のテーブルの上にノートを広げてプランを見ていた。
レベルが上がったとはいえ、未だに知識面ではプランに遥かに及ばない彼女は今は勉学に精を出しているのだ。
彼女は決して力だけの木偶になるつもりはない。
ルファスの思い描く“強い自分”というのは知識や知恵の面でも誰よりも優れているのだから。
だから今は自分の半分程度のレベルしかない男に教えを乞うているのだ。
彼女の隣の椅子にはアリエスが丸くなって眠っていた。
プランの授業は彼にとって心地よい子守歌のようなのかもしれない。
「さて。じゃあまずは“属性”についてちょっと復習してみようか」
プランは黒板に〇を七つ描く。
具体的にはそれぞれの角に〇がついた五芒星と、それを覆う上下の頂点に〇のついた円を。
判るかな? と彼はルファスに悪戯っぽく笑いかけた。
「当然だ。私を誰だと思っている?」
ルファスは立ち上がると努めて大股で黒板に近寄ってチョークをひっつかんだ。
「まずは木」
頂点に“木”と描く。正解。
次に時計回りにルファスは黙々と文字を書き込んでいく。
“火”“土”“金”“水”の文字が五芒星のそれぞれの頂点に書き込まれた。
プランは満足そうに頷く。
単純に五属性を言える者は数多くあれど、このように正確に属性ごとの関係を理解しているものは余りいないのだ。
「一つめの円は“月”だな」
五芒星を囲む円の頂点に“月”と書き込む。これも正解。
「最後は“日”だ」
二つ目の最も大きな円には“日”と書き込む。
全問正解である。
プランはパチパチと拍手をしてこの勉強家な少女の努力を称えた。
「おめでとう、博識なルファスにプレゼントだ」
懐から取り出した焼き菓子をルファスの前に差し出すと、彼女は渋々と言った様子でソレを手に取り口に頬張った。
彼女は“献上”された品を決して無駄にはしない故に、この甘ったるい菓子を食べるのである。
もぐもぐと口を動かしながら目だけは鋭く少女は男を見ていた。
ルファスが席に戻ると同時にプランは説明を続けた。
「高レベルの戦いになってくると
この属性っていうのがかなり重要になってくるんだ」
先を言えと急かされた彼は微笑みながらルファスの求める戦いにおける情報を開示していく。
「簡単な例をあげると……。
“火”属性の人物が“水”属性の者と戦うと物凄く苦戦する事になるだろうね」
簡単な話だ、燃え盛る炎であっても水を掛けられてしまえば鎮火するという事である。
“五行相克”という単語がミズガルズには存在する。
この場合だと“水剋火”となる。
「私は今は前衛系の【クラス】を取っているからな……。
正直、まだ実感はあまり湧かないというのが事実だ」
ルファスが忌憚のない本音を口にした。
プランのいうコレは主に後衛系の、魔法や天法を主な武器にした者たちが学ぶ領域の話だからだ。
そんな彼女にプランはもっと身近な領域の話をすることにした。
「ミズガルズに住まう全ての存在は
魔物、生物、人類、誰であろうと産まれた時から
“属性”を持っているのは知っているね?」
「……魂の属性ともいうべきものか。一応、知ってはいる」
プランが頷いた。
彼はルファスの答えを捕捉する。
「この生まれ持った属性でもこの五行の関係は適応されるんだ」
先に言った通り“火”が“水”と戦えばあらゆる要素にデバフが掛かるとプランはルファスに教授する。
「ちなみにある程度は性格も影響を受けるときくね」
例えば“火”属性の者はとても情熱的な性格をしている者が多いという風にと彼は続ける。
もちろん絶対ではないということも併せて付け加えておく。
「私の属性は“日”だったか‥…笑える話だな」
己の黒い翼を横目に見ながらルファスは呟いた。
全くふざけた話だと。
こんな悪魔の様な翼をもった者が、よりにもよって“光”とも称される“日”属性などとは本当に皮肉が効いていると。
「……そういえば貴方の属性は何だ?」
ふと思いついた疑問をルファスは口にした。
今まで余り気にしなかったが、そういえばこの男の属性を知らない事を彼女は思い出したのだ。
「自分は“月”になる。ルファスの“日”とは」
「最悪だな! よ~~く知ってるぞ!」
プランがしゃべり終わる前に割り込んだルファスが満面の笑みで断言した。
片手でプランを指さし「最悪だ、最悪、お前とは」と彼女は連呼する。
余りにイキイキとした様子の少女にプランは苦笑しながら補足していく。
「一応、“日”と“月”は相克の間ではあるけど
どちらかが欠けてもダメな夫婦とも謡われる関係なんだよ」
光と闇。どちだけでもダメ。
夜と昼に優劣がないようなものである。
大事なのはバランスなんだと説いてやると、ルファスは笑顔を消してじっとプランを見つめだす。
「…………そう、だな」
渋々といった様子でプランを凝視しながらルファスは頷く。
本当に、嫌々といった感じであった。
「さて、属性についてはこの位にして。
次はルファスが新しく取った【クラス】……。
【アルケミスト】について色々やっていこうか」
レベル500になったルファスは新たに【アルケミスト】を取っていたのだ。
プランとしては天翼族の能力と相性もよく色々できる【エスパー】がお勧めだったのだが、彼女が望んだのならば仕方ないと割り切っていた。
「【錬成】はもう貴方だけの技じゃないということだ!」
「よくも今までやってくれたものだ……存分に返礼してやるからな……!」
堂々と胸を張ってルファスはプランに宣言を叩きつけた。
今までやりたい放題【錬成】で好き勝手してくれた男にようやく目にモノを見せてやれると彼女は張り切っている。
少し前の模擬戦で地面の反発係数を操作されて危うく宇宙に旅立ちそうになったことをルファスは根に持っていた。
思えばプランの【錬成】にはいつも苦渋を飲まされたモノだとルファスは回顧する。
空中に空気を圧縮した隠しボックスを設置され、一撃で気絶させられたことや、身体の各部を金属で固められた事……探せばまだまだ出てくる。
だがそれも今日までの話である。
無限の応用性を持つ【錬成】を我が物にし、プラン相手にアドバンテージを握ってやると彼女は密かに決意していた。
「はははははは」
【錬成】という技術を会得したばかりの者が陥る典型的な勘違いをしているルファスを見てプランは単調に笑う。
万能の力? はははは、違うんだな、それが、と。
乾いた中身のない笑い声をプランが上げればルファスの鼻息は荒くなった。
こいつ、バカにしやがってと内心悪態を吐き散らしながら彼女は声高らかに叫んだ。
「覚悟しろ! 今日という今日こそお前を芸術品に仕立ててやる───!!」
「………………」
ルファスは光の宿らない瞳で己の【錬成】で作ったゴーレムを見つめていた。
意気揚々とプランの前でゴーレムを作成しようとした彼女が作り上げたモノは意味不明としか言いようのない存在であった。
まずは足。立派な足だ。人間の足があった。
ここだけは完璧に作成できていた。
それがくっついているのは……胴体の様なナニカとしか言いようがない。
この胴体と察する部位はまず左右のバランスがおかしい。
左に大きく膨れており、右側が極端に小さい。
まるで子供がこねくり回した粘土のようだった。
そして手。
腕ともいうべき個所も……どう控えめに見ても“独特”としか表現が出来ない。
左が異常に長く、右は殆どない。
更に付け加えるならば左の腕の先にあるのは何故か猫の手、肉球であった。
頭はなく、人で言う所の首元には目……と辛うじて判断できる●が二つ付いていた。
それはじっと自分の製作者であるルファスを見つめていた。
───どうしてぼくをこんな風に作ったの?
言葉こそ発せず、そもそも自我があるかどうかさえ不明なゴーレムもどきではあるが、そうルファスを弾劾しているようにさえ見た。
ルファスは思わず目を逸らした。
いかに彼女と言えど、自分が作ってしまった名状しがたき物体に糾弾されれば動揺してしまうのだ。
「……【錬成】は“理解できるモノを理解しているモノへと変換させる術”なんだ。
ゴーレムを作るにあたっても、例えば人型のゴーレムを作る時とかは人の関節や、骨格、筋肉がどうなっているかを知っていないとダメなんだよ」
だから優れたゴーレム職人は時に芸術家と称されるんだとプランは若気の至りでとんでもないものを作ってしまった少女に語り聞かせる。
まぁ、こういう間違いは誰にでもあるさ、と慰めればルファスは縋るような瞳でプランを見てから、怪物染みたゴーレムに視線を戻した。
「……………」
無言でルファスは頷き、ぐっと唇を噛み締めながら己の作品第一号を軽く撫でてから拳で殴って破壊した。
もう二度とこのような哀れな存在を作ってはいけないと彼女は硬く誓うのであった。
「ゴーレムというのは基本的にモンスター・テイマーの用いるモンスターの
下位交換だと言われがちだけど、実際は違うと自分は思っている」
「良くも悪くもゴーレムというのは無個性だけど
逆を言えば自分の判断に絶対に従ってくれるということでもある」
「何よりも───。
自分で試行錯誤してデザインした自分だけのゴーレムに背中を預けて
一緒に戦うっていうのは……すごくワクワクしないかい?」
いつもより饒舌になったプランがゴーレムについて語っていく。
【バルドル】という己専用の特別な装備にしてゴーレムを用いる彼は、ゴーレムなどに関して一家言あるようだった。
だが、それよりもルファスは己がプランの言葉で少しばかり高揚していることを自覚した。
「自分だけの、私の……ゴーレム」
ドキドキする胸を彼女は片手で抑えた。
プルートの時でもそうだったが、彼女の中には何処か少年の様な心があった。
綺麗なモノは好きだが、同時にかっこいいものもルファスは好きなのだ。
「もちろんゴーレムだけじゃない。
【アルケミスト】は材料と知識を用いて様々な物を創造する事ができるんだ。
家財道具はもちろん、ポーションに、武具。
もっとすごいモノになると屋敷や街の区画整理なんてことも出来るようになる」
“ルファスは何を作ってみたい?”とプランは無限の可能性を秘めた少女に優しく尋ねた。
まるでおとぎ話の中の魔法使いのようだと少女は思った。
足元の自らの過ちの残骸を見る。
決して繰り返してはならないと自分を戒める。
その上で彼女は【アルケミスト】としての第一歩を踏み出した。
まず第一歩。
それは己の不足を認める事。
そして、誰かに教えを乞う事を恥じない事だ。
「まだ、判らない……だけど作りたい……。
私も貴方みたいに色々な物を作ってみたい……」
だから、教えてとルファスが願えば、優しい魔法使いはいつもの様に微笑みながら「いいとも」と答えてくれた。
ルファスだけの、彼女だけを導いてくれる穏やかな魔法使いであった。
「じゃあまずは人型じゃなくて、動物のゴーレムを作ってみよう!
ちょうど、そこに素晴らしいモデルもいることだし……」
じっと視線をアリエスに向ければ、自分が必要とされている事に気が付いたのか、彼が目を覚ました。
きょろきょろと周囲を見渡し、ルファスとプランが自分を見ている事を悟った彼はキリリっとした顔で「め!」と力強く鳴いた。
「メメメメっ!」
ちょい、ちょい、とプランが手招きをするとアリエスは嬉しそうに瞳を輝かせて彼の胸に飛び込んだ。
二度、三度と頭を撫でてやるとお返しとして彼はプランの顔を舐めまわした。
数分ほどされるがままにし、アリエスが落ち着いた頃を見計らってからプランは言った。
「アリエス。今日は君をモチーフにゴーレムを作りたいんだけど、いいかな?」
んん? とアリエスは首を傾げる。
ぼくのゴーレム? どういうこと? と視線で彼は質問した。
プランが【錬成】を行う。
周囲の土や金属、マナなどを用いて彼はアリエスと瓜二つのゴーレムを作り出した。
輝いているモノが好きなルファスの好みを反映して、全身に薄く鍍金を施してやるのも忘れない。
結果、誕生したのは黄金色に輝くアリエスであった。
正にゴージャス。ゴールデンなアリエスである。
彼は鼻先をツン! と空に向けて何処か憎たらしい自信満々な顔をしていた。
ぴょんっとプランの上から飛び降りたアリエスは黄金色に輝く自分を見上げた後、負けじと七色に輝きだした。
黄金と七色のアリエスが並んでルファスを見つめる。
ばさっと翼が大きく虚空を打った。
もしもここにアウラがいたら耐え切れずルファスの胸に顔を埋めて悶えてしまうだろう意味不明な光景である。
「…………っっ……くくっ」
ルファスは内よりこみ上げる衝動を必死に抑え込んだ。
まて、まて、突っ込むな。
直視するな、気にするなと全力で自分に言い聞かせる。
「ふ、ざけて……るっ……ぷっ……」
じぃっとアリエスの何かを期待するような瞳に直視され、思わずルファスは顔を逸らした。
「とりあえず、まずはアリエスを元にしたゴーレムを作ってみようか。
彼を模写するようにゴーレムをデザインしてみよう」
「メっ~!」
ぴょんこぴょんことアリエスがその場で跳ねる。
自分がルファスとプランの役に立てることが嬉しいのか、キラキラと輝く瞳で二人を見上げた。
無邪気なアリエスの様子に毒気が抜かれたルファスは小さくため息を吐いた。
「何事も……最初は地味なんだな」
彼女の考える【錬成】とはプランの様に森羅万象を思うがままに書き換える正に万能にして全能の術であった。
だというのに現実は、分厚い専門書を読み漁ってノートにまとめるような作業の繰り返しときたものだ。
強くなるためには努力は惜しまない彼女だが……少しだけそういうことは苦手であった。
「千里の道も一歩からっていうしね。
確かに産まれた時から強い存在もミズガルズに多くいるけど
そういう存在は得てして向上心にかけるものさ」
プランは柔らかくルファスに語り掛けた。
人を遥かに超える寿命を持つ天翼族の彼女に。
「ルファスはこれから先、自分では想像も出来ない程に長い年月を生きる事になる」
「その中でどれだけ大きなことを成そうとしたとしても、
いきなり結果だけを求めるのはやめておくんだ」
「…………」
自分の中に燻ぶる野心を見透かす様なプランの言葉であったが、不思議とルファスの中に嫌悪は生まれなかった。
彼女が気になったのは前半の“自分でも想像できない程に長い年月”という部分であった。
彼の命は来年で奪うつもりだが……仮にだ、仮にこの男と50年の月日を過ごしたとしてもソレは自分の生涯過ごす時間と比べたら余りに短いと気づいてしまった。
どうやっても彼とは50年で……いや、もしかしたらもっと短い時間で別離してしまうという単純な現実にルファスは妙な胸騒ぎを覚えた。
「月並みな言葉になるけど基本を大事にしてほしい。
結果を求めるのは当然だとしても、結果さえよければ他は捨て置いていいというわけじゃない事は忘れないで欲しいんだ」
「……覚えておいてやる」
プランが心から自分に伝えようとしていることを悟ったルファスは素直に頷く事にした。
ざわめく心を誤魔化す様に彼女はプランに手を差し出して開く。
「……三個」
プランが困ったように苦笑し、懐からルファスのお望みである焼き菓子を取り出して掌の上に乗せた。
その数は二個であった。
金持ちの癖に、こういう時に出し惜しみしやがってとルファスは苛立った。
「ケチ!」
少女の不機嫌な声が青空に響き渡った。
太陽が地平に沈みかける時間帯。
赤焼けが眩しい夕方、ルファスは完成した己の作品を前に笑みを抑えきれなかった。
「ふっ……私にかかればこの程度」
ルファスは胸を張って眼前にある“アリエス”を誇る。
銀色の光沢ある外見のソレはルファスが仕上げたゴーレムだった。
プランによる指導の結果、彼女はアリエスの姿を基点に四足歩行のゴーレムを作り上げる技術を得たのである。
後はこれを応用していけば馬なども作れるようになるだろう。
ルファスの意思を受ければソレは生身のアリエスの様に軽々と跳ね回る。
隣にプランが置いた黄金色のアリエスを並べれば、金と銀のアリエスが揃った。
思わずオリジナルのアリエスが後ずさるほどの完成度である。
「あっという間に上達したね。
ルファスにはゴーレム製作の才能があるかもしれないな……」
「当然だ。私はあのガザドにも“特別”と言われた女だぞ?」
プランの賛辞に更に気持ち良くなったルファスはニヤリと勝ち誇るような笑みを浮かべた。
ドワーフ王の代理人に逸材と言われたエピソードと相まって彼女は自分の中に新しい才能を見出し、肯定しだす。
馬くらいならば作れる技量が今の彼女にはあった。
所々でアリエスに四肢の動かし方を見せてもらいながらソレを模倣しつつ仕上げたのだ。
プランの教え方が上手だというのもあるかもしれないが、ルファスの成長速度は正に異常の一言である。
普通の者ならば数日から一週間はかかる工程を彼女はものの半日程度で完了させてしまった。
プランから見てもこれは規格外としかいいようがない才能であった。
「感謝するぞアリエス。お前のお蔭で私は更に強くなれた」
子羊の頭を撫でながらルファスは微笑んだ。
いつも浮かべている挑戦的なものや、攻撃的なものではない年相応の喜びを宿したモノだった。
まだまだ先は長いが確かな第一歩を踏みしめた喜びを彼女は堪能し、プランに向き合った。
「【アルケミスト】というモノが私の想像以上に奥深い物なのはよく判った」
だから、と彼女は続けた。
「貴方の知識をこれからも教えて欲しい。
ゴーレムだけじゃない。
もっともっと色々なモノを作ってみたい……今年のプレゼントはそれでいい……」
つん、つんと自分が作ったアリエスをつつきながらルファスはプランを見上げて言う。
真っ赤な瞳の中には達成感があった。
自分がこれを作った、という事実が彼女を微かに満たしている。
今まで奪われてきたばかりの、何も持たなかった自分が初めて何かを作ったという事実に少女は奇妙で、それでいて嫌ではない感覚を抱いていた。
「勿論。ルファスがそれを願うなら」
プランの言葉に喜びを抱き……直ぐに気が付いてルファスは唇をつぐんだ。
自分は今、何と言った? と彼女は自問自答する。
この男は来年に死ぬ男だ。
たった一年で何を教えてもらう?
殺す男に何を乞うているのだ、自分は。
胸の中に湧いた黒い感情を直視し、ルファスは顔を歪めた。
じくじくと胸の中が痛むのを感じ、少女は男と向き合えなくなった。
一歩、二歩と彼から離れ、影の中に逃げ込んだ。
そんな彼女にプランは歩み寄る。
少女の瞳が微かに揺れたが、プランがそれに気が付いたかどうかは誰にも判らない。
「さ、総仕上げといこう。
自分のアリエスと、ルファスのアリエスを競争させてみようじゃないか」
訓練場をぐるっと一周回って、先に現在地に帰ってきた方の勝ちだよとプランは提案する。
それを聞いてオリジナルの七色アリエスが目に闘気を宿らせて跳ねた。
黄金に銀色、まがい物の自分だけが注目されるのが気に入らなかったらしい。
「メメメ゛~~~ッ!」
“ぼくも参加する”と全力で主張するアリエスを見てルファスの胸の中の感情が少しだけ軽くなった。
ルファスの顔にいつもの自信が戻る。
年不相応ではあるが、レベル500という前人未踏の怪物に相応しい不敵な笑みを浮かべてルファスは問いを投げた。
「報酬は何?」
「……何がいい?」
そこまでは考えてなかったらしいプランの言葉にルファスはアリエスと一度向き合って頷き合ってから口を開いた。
「マッサージ10回で勘弁してやろう!」
いけっ、アリエスとルファスが叫んだ。
アリエスと銀色のアリエス、どちらが勝っても彼女の勝利と言う前提条件が此処に産まれた。
言うが早いか銀色のアリエスと七色のアリエスが走り出す。
ルール無用の行いであるが、プランも負けじと自分のゴールデンなアリエスを動かす。
一歩踏み出す度にキラキラとしたエフェクトをばら撒くソレは道化染みた様相から想像できない程に素早い。
それを見て「ふざけてる!」と、ルファスは思わず叫んでしまった。
「負けるかっ! お前はもっとやれるはずだ!!」
ルファスが叫ぶ。己の中に存在するゴーレムと自分の繋がりを利用し、ありったけの魔力を送り込む。。
レベル500というステータスだけ見ればプランを圧倒する存在の加護を得たシルバーなアリエスが加速した。
メメメッメエェェとやけくそになったオリジナルのアリエスが汗と涎を撒き散らしながら何とか追いすがる。
夕暮れ時、夜の闇が周囲を覆うまでの一時ではあったが訓練場には少女の心の底から愉快そうな声が木霊するのであった。
誰が勝ったかはあえて伏せておくとしよう。
三匹のアリエス
金 銀 ゲーミング。
お好きなのをどうぞ。
もしかしたら金銀は後の時代でもマファール塔あたりに置いてあるかもしれない。
ルファス
最近2コマ落ちが持ちネタと化してきたような気がする。