ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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ルファスの“とおせんぼ”!

 

 

その日、プランは困っていた。

腕を組み、うーんと頭を捻るが何も解決策が浮かばない厄介な問題に彼は直面していた。

この問題が解決しないと、大げさかもしれないが人類存亡の危機に発展する恐れがあるほどの問題だった。

 

 

 

「どうしようか……」

 

 

 

彼は本当に困ったように呟いた。

眉を「八」の字にしてしょんぼりした顔をしてしまう程の難題である。

 

 

彼がここまで悩んでしまう問題……それは。

 

 

 

───ルファスがミョルニルに行くのを妨害してくる、という問題だった。

 

 

 

 

以前ユーダリルで話題になった通り、人類を団結させるための組織を作るためにプランが吸血鬼の帝国に交渉に赴く事になったのだが

ルファスがそれをしきりに妨害してくるのだ。

それはもう、ありとあらゆる方法で。

 

 

よし、行くぞと気持ちを固めて荷物の準備をしようとすると的確なタイミングで彼女はプランに何かしらの話題を振ってくるのである。

 

 

 

時にはゴーレム作成の授業をねだってきた。

器用に図面まで書いてきて「意見が欲しい」と。

ルファスの全力のおねだりにプランが勝てるわけもなく、丸一日を費やして彼女の【アルケミスト】としての発展に寄与することになった。

 

 

ちなみに完成した騎士甲冑のような姿のゴーレムは以前のシルバー&ゴールデンなアリエスと並んで屋敷の一角に飾られている。

 

 

 

時には勉学で判らなかった所を纏めたノートを渡してきた上で「教えて」と乞われた。

勉学について妥協など出来ないアリストテレスである彼は、時間の許す限りルファスに講義を行うことになった。

ルファスの知能の高さはとても素晴らしいものがあり、もう少し学を積めば大人が学ぶ様な専門的な公式を用いる世界に足を踏み入れることになるだろう。

 

 

 

時にはアリエスや近所の子供たちと組んできて「相手して」と頼んでくる。

もちろん領主であるプランが己の街の未来を担う子供たちを粗末にできるはずもなく、その日は子供たちに街の周囲の危険な所などを教授することになり、出発の準備は出来なかった。

子供たちの年長者として振舞うルファスの姿はとても頼もしかったとプランは思った。

 

 

 

などなど……ここに挙げた例など全体から見たらほんの僅かな数でしかない。

ここ半月の間、毎日の様にルファスはプランに要件を宛がい続けている。

一度や二度なら偶然で済まされるだろうが、ここまで来ると明らかに懇意的なものだと言わざるを得ない。

 

 

 

いったいルファスの何がミョルニルに対してそこまで拒絶を感じさせるのかはプランには判らなかった。

 

 

 

……とにかく。

問題はこのままではいつまでたってもミョルニルにいけないということだ。

 

 

 

 

一応プランはミョルニルへの入国許可を得ていた。

かの国の統治者はベネトナシュではあるが、実務的な政治を行っているのは何代もの王に仕えたロイという吸血鬼だ。

恐らく現存する人類の中で最も高齢な人物であり、その齢は恐らく誇張ぬきで万に届くかもしれない男である。

 

 

 

性格は吸血鬼たちに見られる傲慢さこそあれど、過ごしてきた年月による経験によって多少は丸い所もある人物だ。

しっかりと丁寧に、貴族や上位種に対する敬意を忘れず接すればしっかりと礼節をもって返してくれる、貴族としては普通ともいえる老人であった。

そんな彼にプランは何枚かの挨拶や社交辞令の手紙を送り、文通をし、何とかミョルニルへの入国許可を取り付けたのだった。

 

 

 

ミョルニルの周囲には夥しい量のブラック・ドッグを始めとした吸血鬼の眷属の魔物たちが闊歩しており、もしもこの許可がなければ、それらに総攻撃されることになってしまうのだ。

もしもこの許可がなければ、それらに総攻撃されることになってしまうのだ。

【ネクロマンサー】や【モンスター・テイマー】を取る事の多い吸血鬼たちにとって魔物というのはドワーフで言うゴーレムの様なモノである。

 

 

 

 

そして“吸血姫”は最近では以前ガザドが述べた通り、積極的に、まるで挑発をするかのように“竜王”の縄張りを荒らし続けているということをプランは知っていた。

血を媒介に高濃度のマナを取り込むことが出来る吸血鬼の更に極限ともいえる変異種である彼女のレベルは以前の600から700の間という数値を大きく上回っているだろうというのがプランの推察であった。

 

 

 

だからこそ何としても彼女を説得し、対ラードゥン、ひいては対魔神族などの人類の脅威に対して団結するための同盟に加入してもらわないといけないのだ。

 

 

 

だが、その為にはある意味ベネトナシュを上回る難敵でもあるルファスを説得する必要があった。

執務室の椅子から立ち上がり、ミョルニルに行くための準備をしようとすると……やはりというべきか部屋の扉が開かれた。

入室してきたのはやはりというべきか、語るまでもなくルファスである。

 

 

いったいぜんたい、ルファスはどうやって自分の心を読んでいるのだろうかとプランは本気で疑問に思った。

 

 

彼女は真っ赤な瞳に警戒と妙な敵愾心を滾らせてプランに向かって歩いてくる。

最近の彼女はよくこの顔をする。この、警戒心に満ち満ちた猫の様な顔を。

特にユーダリルの一件から、竜殺しであるプランに対して婚約の申し込みが数多く来ていると知ってからは特に。

 

 

 

「……ん」

 

 

 

ぐいっとノートを差し出してくる。

そこにはプランがルファスに出していた宿題に対する回答が書き込まれていた。

時間稼ぎのつもりで、普通の子供なら一か月はかかる量の問題を出した筈なのだが、ルファスは2日も経たずに全て解いてしまったようだ。

 

 

 

パラパラと軽く読んでみる。

どの問題もしっかりと考えて解いてあった。

何問か間違っているのもあったが、それでもとてつもない熱意をもって真剣に取り組んでいた痕跡が確かにある。

 

 

 

「すごいね。まさかもう終わらせちゃうなんて……」

 

 

 

心から感嘆の声を上げると、少女は挑戦的に微笑んだ。

ギラギラと目を輝かせて彼女は言う。

 

 

 

「報酬を貰おうか」

 

 

 

ルファスにしては珍しい直球の要求であった。

彼から“献上”されることを良しとしても、物乞いの様にねだることを滅多にしない彼女である。

 

 

 

「ミョルニルに行くのを延期してもらおう」

 

 

 

これまた単刀直入な言い様であった。

誤魔化しや遠回しな皮肉を用いないのは実にルファスらしいといえる。

 

 

 

 

「……すまない、それだけは出来ないんだ」

 

 

 

しかしプランもこれだけは譲れない。

これは彼一人の問題ではなく、多くの種族に関わる事なのだから。

何よりルファスには言ってない事だが、混翼の者らへの編成などで各国に己の要望を通した以上は、自分も務めを果たさなくてはならない。

 

 

 

「そういうと思った」

 

 

 

ルファスはプランの手を取って、彼を引っ張る。

男は少女の行為に何の敵意もないことを悟り、されるがままに何時も執務で使っている椅子へと誘導され腰を下ろした。

机を挟んで目の前にルファスが座り、対面する形となった。

 

 

 

 

少女は目を細めこそしたが、あからさまな不機嫌な様子は見せていない。

むしろ大人びた理性が色濃く宿った瞳でプランを見つめている。

 

 

 

「ミョルニルで“吸血姫”と会って説得するのだろう?」

 

 

 

“四強”の一角にして、人類種においては誰もが認める最強の存在。

それこそ“吸血姫”ベネトナシュである。

推定されるレベルは600から700であったが、それは彼女が竜王の縄張りに本格的にちょっかいをかける前の話。

 

 

 

ラードゥンの配下である強力な竜たちを多数狩っているとなると、そのレベルは更に跳ね上がっている可能性もありえた。

もしかしたらヘルヘイムで遭遇した魔王よりも上の可能性さえある。

そんな戦闘狂に会いにいくのはやめておけとルファスは口にする。

 

 

 

 

「プルートではヘルヘイム騒動。

 ユーダリルでは魔竜に魔物の群れ……もういいだろう。

 ぜっっったいに今回も何かあるぞ。

 間違いない、貴方はそういう問題ごとを引っ張り寄せる才能があるからな!」

 

 

 

今度は何だ? “四強”とやり合うつもりか? と少女は不機嫌な様子で続ける。

 

 

 

今まで起きた騒動を列挙しルファスは「やめておけ」と心からアドバイスをしていた。

翼が大きく広がりプランの視界を遮る。

絶対にリュケイオンから出さないぞという強い意思がそこにはあった。

 

 

 

「聞けばベネトナシュとかいう奴は戦闘狂らしいな。

 貴方が狙われる可能性だって否定できないだろう」

 

 

 

わざわざミズガルズ中を飛び回り、強い相手を探し求める様な奴の所に行くなど、虹色羊が魔物の前を呑気に散歩するようなものだと少女は続けた。

確かにアリエスがメーメー鳴きながら魔物の前を歩いたりなどしたら、即胃袋送りだろう。

 

 

 

「自分なんて弱すぎて相手にもされないさ」

 

 

 

ははは、と笑いながら答えるとルファスの顔に苛立ちが浮かんだ。

頭に浮かんだのはあの屈辱的な5連敗の記憶であった。

余りにふざけた敗北の記憶であるが……自分にあんなに容易く勝っておきながら自分を卑下するプランの発言に苛立ちを覚えた。

 

 

 

「とにかく、私は反対だ! 

 私の目が黒い限りは絶対にリュケイオンから出さないからな」

 

 

 

 

「うーん……」

 

 

 

困ったとプランは呻いた。

どうやらルファスは本気らしい。

彼女がこうまで言うとなると、絶対にリュケイオンから出れないだろう。

 

 

【任意コード実行】によってミョルニルに一瞬で飛んだとしても、最悪連れ戻しに飛んでくる可能性さえあった。

確かにレベル500の彼女の飛行速度ならばここから吸血鬼たちの帝国まで30分もあれば移動可能だろう。

もしもそうなったらあとは最悪だ。レベル500の彼女をかのベネトナシュが見逃すはず等ない。

 

 

ベネトナシュとルファスの全力の抵抗によって最悪ミョルニルが崩れることさえ考えられる。

どうやってこのお嬢さんを説得するか考えていると、ぽつりとルファスは呟いた。

 

 

 

「……何か、嫌な予感がするんだ」

 

 

 

それはレベル500に至ったルファスの本能、かもしれなかった。

彼女とてプランに任された役目が重いことなど理解している。

空を埋め尽くす魔物の群れを見て、更には自分に語り掛けてきた余りに巨大な存在の影を知っているのだから。

 

 

 

あの時はまだレベル250であったが、今の500になった自分でさえ比較にならない程に膨大な悪意。

ミズガルズを押しつぶしかねない竜王の影を彼女は見たのだ。

 

 

正に理不尽。

正に絶望。

この世の人類全てを地獄に引きずり込まんとする最も邪悪にして最悪の“四強”である。

 

 

 

かの存在を前に人類を団結させて対抗しよう、というプランたちの考えは最もだとルファスは判断していた。

というよりそれしかないだろうとさえ思っていた。

だが彼女が気に入らない事は……。

 

 

 

 

「そもそもどうして貴方だけが行くんだ? 

 確かに貴方はこの地の領主だけど……王じゃないだろう」

 

 

 

ベネトナシュは吸血鬼の帝国であるミョルニルの絶対の王である。

ならばそれと話をつけるならば同等の位を持つ王が出張るべきではないか。

これは本当ならばクラウン帝国を始めとした各種族の王がやるべき仕事で、どれだけ強い力をもっていても一地方の領主に任せるのはおかしいとルファスは言う。

 

 

 

「それが自分の役目だからさ。

 求められたことを求められるようにやる必要があるんだ。

 そうすれば、自分の求めることを他人もやってくれるから」

 

 

 

絶対に混翼の事を言う気はプランにはなかった。

だからこういう言い回しになるのは当然と言えた。

間違っても「ルファスと同じ翼の人たちを助けるために各国に恩を売ってるんだよ」なんて言えるはずもない。

 

 

 

 

「ならば私の求めることを叶えてもらおうか。絶対に行くんじゃない」

 

 

 

「むぅ、そう来たかぁ……」

 

 

 

ルファスの返しにプランは一本取られたと椅子に身を委ねて大きく頭を仰け反らせた。

ふぅと息を吐いてから、とりあえず話題を変えることを思いついた。

とりあえず、このままでは絶対にルファスは折れないと判った故の決断であった。

 

 

 

「……とりあえず、行く、行かないは置いておいて……。

 ミョルニルとベネトナシュについて話をしてもいいかい?」

 

 

 

「……いいだろう」

 

 

 

“始まったぞ”と思いながらルファスは付き合うことにしてやった。

“四強”の一角にして現状最強の人類である“吸血姫”について彼女も勿論調べた事はあるが、どの書類にも余り詳細な内容がなかったからだ。

幾らなんでも両親の記述さえないというのは余りに不自然であり、意図的な経歴の抹消の痕跡があったのだ。

 

 

隠された歴史の裏をプランが知っているのならば、是非とも教授してもらいたいとルファスは思った。

 

 

 

「まずは“ミョルニル”という国名だけど。

 実はこれはとある国を前身とした国家なんだ」

 

 

「ミョルニルの建国はミズガルズ歴2410年。

 今から100年とちょっと前くらいになるけど

 実際は建国というよりは改名に近かった」

 

 

「元の名は“ブリーキンダ・ベル” 

 かつて存在したとされる吸血鬼の真祖が作り上げたモノさ」

 

 

 

遠い過去を見つめながらプランは語り出す。

さすがに1000年と少し位の歴史しかないアリストテレス家ではそこまで深く歴史を掘り下げる事は出来ないが、ある程度の推察は出来た。

 

 

 

「驚いたものさ。

 当時の王……アウストラリス王がいきなり退位を宣言し、

 後釜に座ったのは僅か10歳になるかならないか程度の王女だったのだから」

 

 

 

まるで見て来たかの様にプランは言葉を紡ぐ。

ベネトナシュの戴冠式に参列したかの様に。

 

 

 

「ベネトナシュの王位継承権は決して高くはなかった。

 むしろ下から数えた方が早い位だった……。

 強さ、その一点だけで彼女は吸血鬼たちの王位を勝ち取ったんだ」

 

 

「そして彼女の即位をもって吸血鬼の国は生まれ変わった。

 古き伝統に敬意を払いつつも、新たな王と共に未来を築くという願いを込められて国の名前は変わったのさ」

 

 

 

蒼い瞳が煌々と輝きだす。

サファイアなど比べ物にならない澄んだ光がそこにはあった。

この世にあるどのような宝石よりも不気味で怪しい光をソレは放っていた。

 

 

 

 

「彼女については“突然変異”と言うのがしっくり来るね。

 彼女の力は明らかに真祖と呼ばれたブラッド王を凌駕している。

 厳密には彼女は吸血鬼とさえ呼べない単独種族と言った方がいいかもしれない」

 

 

 

故に彼女は“吸血姫”なのだ。

この名は彼女の異名にして種族名といったほうがいい。

吸血鬼という種から生まれ、その先を往くモノ、それがベネトナシュだ。

 

 

 

「単独種族……」

 

 

 

たった一人の種。

後にも先にもない独りぼっち。

ルファスは彼女に思いを馳せてみてから聞いた。

 

 

彼女の暴走とも称せる無軌道な戦闘行動はこの世の何処かにいるかもしれない同族を求める幼子の叫びなのかもしれないと思ったのだ。

 

 

 

「彼女は……強くなって、満たされたのだろうか……」

 

 

 

「それは本人に聞いて見ないと判らないね」

 

 

 

プランの【記録】に映ったのは玉座に座った一人の少女。

何の輝きもなく、情緒さえない瞳をもった銀髪の娘であった。

世界全てに興味がなく、つまらないと思っている眼をプランは何処かで見た事があった。

 

 

 

 

「と、いうわけでルファスの質問を聞いてくるから……」

 

 

 

「ダメだ! その手には乗らないからな!!」

 

 

プランはここぞとばかりに提案してみた。

世界最強の少女に質問してくるから、行ってもいいかな、と。

そうはさせないとルファスが声を張り上げる。

 

 

 

むぐぐぐとプランは唇をつぐんだ。

手強いぞ、これはと彼は気を取り直す。

 

 

 

「大丈夫。二、三日滞在して彼女を説得して帰ってくるだけさ」

 

 

 

「何処に大丈夫と言える要素があるか判らないぞ。

 話を聞く限りただの情緒不安定な危険物でしかないじゃないか」

 

 

 

ジトっとした瞳でルファスはプランを見る。

妙な威圧感のあるソレを見て苦笑しつつプランはどうしようかと頭を悩ませる。

 

 

 

「そもそもの話だ。

 どうやって弱くて眼中にも入らない貴方がそんな奴を説得するんだ」

 

 

 

無駄だぞ、無駄とルファスは矢継ぎ早に繰り返す。

少し話を聞いただけで判る程に面倒くさい性格をした彼女の心をどうやって動かすんだと。

 

 

 

「うるさい、黙れ。出ていけ。の一言で終わるのが関の山だろう。

 それならリュケイオンで書類仕事をしていたほうがずっと生産的だ」

 

 

 

 

「策はあるさ」

 

 

 

 

自信満々に言うプランにルファスは「ほぉ」と漏らした。

そこまで自信があるなら聞かせて貰おうかと考えた彼女にプランは考えに考え抜いた最強の計画を説いた。

 

 

 

「聞けば彼女は甘いモノが好物らしくてね……。

 ユーダリルから仕入れたメロンとかを手土産に……」

 

 

 

 

「バカっ! お前はバカだっ!! 何を考えてるんだ!!」

 

 

まさかの贈り物作戦にルファスは青筋を浮かべて声を張り上げた。

何でこの男はこんなに数多くの知識を持っているのに、こういう所では抜けてるんだと呆れかえりながら叫ぶ。

翼が大きく動き回り羽を撒き散らし、少女はふーふーと肩で息をした。

 

 

 

「ダメだったら普通に帰ってくる。そんなに命の危険性があるわけじゃないよ」

 

 

 

いくら吸血鬼たちと言っても正式な手続きを済ませた来訪者を害することはないんだよと訴えかけた。

彼らは魔物ではなく、国家を作り法を以て国を運営する人類種の一角なんだよ、と。

 

 

 

「もう一度言うぞ。嫌な予感がするんだ。本当に」

 

 

 

ルファスは真摯にプランを見据えて断言する。

ただの少女の我儘では片づけられない程の圧と説得力がそこにはあった。

 

 

 

「貴方の命は私が貰うんだから、勝手なことをするのは許さない」

 

 

 

「────ヘルヘイムの時みたいなことになったら、二度目はないぞ」

 

 

 

少女が発したとは思えない程に深い念の籠った声であった。

竜の唸り声の如く、聞く者の背筋を凍り付かせてしまう程に重い声音である。

 

 

 

紅い瞳が輝く。

独占欲と執着。

そして殺意と憎悪の入り混じった瞳だった。

 

 

プランは真正面からそれを見返しながら言った。

 

 

 

 

「それでも自分は行かないといけないんだ。判ってほしい」

 

 

 

今度はルファスが唇を噛み締める番であった。

どういう風に説得してもこの男がミョルニルに行くのは止められないと悟ってしまったから。

 

 

 

「……自分がリュケイオンを安心して留守にできるのは、ルファスがいるからなんだよ」

 

 

 

「なに……?」

 

 

プランの唐突な言葉にルファスは顔を傾げた。

 

 

 

「ルファスになら安心して留守を任せられるから、自分は遠い地に行けるんだ」

 

 

 

「…………」

 

 

 

男の言葉に少女はどう返答してやればいいか判らなかった。

頭の中では「どうして私がリュケイオンを守る必要があるんだ」と言おうとしたルファスであったが、口は動いてくれなかった。

ぐっと拳を握りしめ深呼吸をする。

 

 

自分を慕ってくれる子供たち。

いつも野菜を分けてくれる女性。

とてもいい腕をしている肉屋の男。

しきりに魚を勧めてくる漁師の男。

隙あらば頭を撫でようとしてくる女。

 

 

 

どいつもこいつもおせっかい焼きのバカばっかりだ。

ヴァナヘイムでは考えられないバカどもだ。

プランを筆頭に、この街にはバカしかいない。

 

 

 

 

 

「……母を守るついでだ。

 あくまでもオマケだ、こんな街……」

 

 

 

「それでいいさ。ありがとう、ルファス」

 

 

 

男の言葉に胸が少しだけ暖かくなってしまった少女は顔を逸らした。

口を何度か震わせた後、本当に渋々といった様子で彼女は言った。

自分が聞き分けのない子供だと思われるのが嫌だから仕方なく彼女は妥協したのだ。

 

 

 

「……3日だ。3日以内に帰ってこい。

 それ以上かかるようだったら押しかけてやるからな」

 

 

 

「ありがとう。頑張るよ」

 

 

 

ふんっと腕を組んだ少女が鼻を鳴らす。

とりあえず話はまとまったが、彼女の中の言語化できない感情はまだ収まっていない。

 

次に彼女が標的にしたのはベネトナシュであった。

あったことも見た事もないが、噂を聞くだけで判る無節操な暴れっぷりにルファスは苛立ち紛れに叫んだ。

 

 

「そもそも何なんだその“吸血姫”とやらは。

 落ち着きというものが全くない、ふざけた奴だな!」

 

 

「強いのならばもっと堂々と構えていればいいモノを! 

 何で無闇に突っ込んで敵を増やすような真似をするんだ!!」

 

 

 

翼が大きく振れた。

元より感情的な部分のあるルファスである、一度零れだした不平不満はそう簡単には止まってくれない。

 

 

 

「ガキなんだな! 100年以上生きてるらしいが、中身は私の様な大人とは大違いだ!」

 

 

 

「決めたぞ! 

 今よりもっと強くなったら、そいつから“四強”の座を奪い取ってやる!!」

 

 

 

世界最強の座を奪ってやるなどと大きく出たルファスにプランは苦笑いするだけであった。

 

 

 

「そして王になったら凄い塔を建てるんだ! 

 ミズガルズの何よりも高く、巨大で、かっこいい塔をな!!」

 

 

 

「……うーん」

 

 

 

少女が語る未来の夢にしては余りに物騒な内容であったが、こうして未来への展望を抱き始めたのはいい傾向だとプランは思いながらルファスの言葉に頷き続けた。

ちなみにこの後、建造する塔の名前に対する意見を求められたプランが無難に「マファール塔」と答えたせいで、ルファスの機嫌が悪くなった事は余談であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ルファスはとりあえずお留守番です。
大人時代ならばともかく、今の彼女とベネトナシュの相性は最悪ですので。


ようやくベネトナシュの話にたどり着きそうです。
彼女の活躍を描くのが今から楽しみですね。
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