ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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女神などを除けば現時点で最強なのは竜王となります。
超強化の名に恥じない表現を頑張ります。


ラードゥンの “角でつく” “かみつく”!

 

“竜王”の放つ圧迫感が跳ね上がる。

彼の放つ圧に耐え切れず、大地にひび割れが広がっていく。

ぎらついた11本目の瞳の中に狂気的なまでの害意と悪意が漲ったのを見て取って

ベネトナシュは「始まる」と悟った。

 

 

 

『あっはぁぁぁ~~♪』

 

 

 

竜王の口が幾つか大きく開かれる。

一本は切り落とされ、残り10本となった頭の内、7本がその凶悪極まりない顎を開いたのだ。

喉の奥に燻ぶるのはとてつもない密度のマナ……竜の主力武器ともいえるブレスがそこにはあった。

 

 

チリリとベネトナシュは己の額が焦げ付く音を聞いた。

 

 

発射。

巨大な光球が幾つも吸血姫を消し飛ばすべく放たれた。

もしも直撃すればベネトナシュといえど跡形も残らない威力の攻撃だった。

 

 

そう、当たればの話だ。

 

 

ベネトナシュは無表情で自らに迫る破壊を見つめていた。

彼女の頭にあったのは「遅い」という純粋な感想であった。

そうだ、遅い。遅すぎる。

 

 

大地を蹴り、銀の流星となった吸血姫はラードゥンの放った攻撃を軽々と回避する

2秒という余りに長い時間の後に彼女がいた個所をブレスが抉り取った。

ぽっかりと直系数キロのクレーターが生成され、その中にあったあらゆる存在は跡形も残っていない。

 

 

地面は溶解し、一部はガラス化していた。

もしも当たっていたら、ベネトナシュは丸焦げを通り越した有様であっただろう。

 

 

「ふざけているのか……?」

 

 

しかし思わず口を出たのは呆れであった。

こいつは、本当に私を殺す気があるのかとまで思った。

ベネトナシュからすればラードゥンの動作は全てが苛立つ程に遅いとしか言いようがなかった。

2秒という猶予時間は常人からすれば短いかもしれないが、超高速戦闘を可能にする彼女からすれば余りに悠長なモノであった。

 

 

 

ベネトナシュは限りなく光速に近づいて動くことが出来る。

結果、体感時間を圧縮時間に調整した彼女にとっての一秒は半年ほどの長さとなるのだ。

つまり、二秒とはベネトナシュにとって一年である。

 

 

 

攻撃するよ! と宣言してから一年後に自分が居た場所を殴りつけているようなモノであった。

“ナマケモノ”と呼ばれる動物でもまだやる気があると彼女が思うのも無理はない話だ。

 

 

『はははははハハハハハ!!』

 

 

 

次々と竜王の口から炎弾が放たれた。

一撃一撃が数メガトンに匹敵する破壊力を秘めた、戦略規模の攻撃が乱射されるのだ。

国一つが吹き飛ぶ破壊をたった一人を殺す為に彼は行使していた。

 

 

着弾個所を抉り取り、瞬間的に放出される温度は10万度にも及ぶ熱量であった。

 

 

 

しかしどれもこれも遅い。

炎弾の速さは稲妻と同じくらいはあったが、ベネトナシュからすると止まっているようなモノであった。

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

零れたのは落胆のため息であった。

そうか、こいつもか、という諦めであった。

吸血姫は竜王の攻撃の隙間を容易く掻い潜り、爪を振るう。

 

 

竜王はベネトナシュの影さえも追えない。

何の自我もない黒い頭を彼女は見て、こいつよりまだゴーレムの方がマシとさえ思った。

 

 

二本、竜王の首が切断されて落下し……喉元までこみあげていたブレスが暴発してしまい吹き飛んだ。

断末魔一つ上げずに竜王の頭は更に減少し、残りは八本にまで減った。

両腕に装備された『収奪者の爪』が性能を発揮し、竜王の生命力を根こそぎ吸い取った上で彼女に還元。

 

 

頭を三本失い、攻撃を碌に当てる事も出来ない竜王と一方的に首を狩り落す吸血姫。

どちらが優勢なのかは誰が見ても明らかだった。

 

 

白蛇は兄たちを失ったことに気が付くと、一度ブレスを止めて切断された断面を見て言った。

 

 

『あらら。お兄ちゃんがへっちゃった』

 

 

痛苦もないのか彼は何処か他人事の様にケタケタ笑っている。

一応は同じ身体を共有する兄が死んだというのに何とも思っていない様だった。

 

 

「貴様、本当に“四強”か?」

 

 

 

『んー?』

 

 

 

竜王の巨躯が自分を見降ろす中、ベネトナシュは嘲るように声を上げた。

真っ赤な瞳が爛々と輝き彼女は素直な所感を口にする。

 

 

 

「弱すぎる。所詮、貴様も下等なトカゲということか」

 

 

 

『うん? ぼくは竜だよ?』

 

 

 

ベネトナシュは強者である。

強者であり、弱者の事など考えもしない傲慢な者でもある。

それが許されるだけの強さが彼女にはあるからだ。

 

 

 

「貴様の様なトカゲなど、私は10の頃に200は狩ったぞ」

 

 

『それはきっと“偽竜”ってやつだね! 

 よく混同されちゃってさ、こまるよねー』

 

 

“竜王”は世間話でもするかのようにベネトナシュの言葉に答えた。

事実、偽竜と真なる竜は誤認されやすいのだ。

困った風評被害だねーと彼はベネトナシュに笑いかけた。

 

 

戦いの中だというのに、彼は遊びの延長上の様な態度を崩さない。

まるで自分を愛玩するような振る舞いにベネトナシュの眼が鋭くなった。

 

 

(こいつ、ふざけてるのか……)

 

 

まるで自分の事を脅威と思っていない竜王の態度にベネトナシュの中で苛立ちが募る。

自分の下にふざけた使者を送り付けてきた上に、一方的に従属まで要求してきた怪物の正体がこんな不愉快な奴だったとは知りたくもない事実であった。

 

 

だから短気な側面もある彼女が思わずソレを吐き捨ててしまったのは当然と言えた。

 

 

 

「何が竜王だ、何が女神アロヴィナスだ。

 所詮は下らないモノを信奉するトカゲか……」

 

 

 

ベネトナシュとしては特に煽る気もない、純粋な悪態だった。

それが自分の処刑書にサインする様なものだとは全く思いもしなかったのだ。

 

 

 

『……あ゛?』

 

 

 

正にソレは、竜の逆鱗であった。

狂信者は己の神への侮蔑を決して許しはしない。

 

 

絶対に。

 

 

『…………』

 

 

 

竜王の纏う空気が変わった。

何処か緩い遊びが入り混じったモノから、絶対的な処刑者の様なモノへと変わったのだ。

 

 

その瞬間、世界が凍った。

ベネトナシュでさえ無意識にヒュッと息を飲んでいた。

ドクン、と心臓が跳ね上がり、背筋が凍り付いたような感覚を彼女は覚えた。

 

 

思わず彼女は後方に飛び、竜王を注視する。

 

 

『もうちょっと遊ぼうとおもってたけど、やーめた』

 

 

竜王の全身が燃え上がる。

もはや炎を超えてプラズマを身体の各所から放出し、空気を沸騰させていた。

 

 

ゴボゴボと泡を吐きながら切断されていた首が瞬時に生えそろう。

体内に保持されていた星系にも匹敵する膨大なマナが活性化を開始。

 

 

 

『ちょっと“おいた”がすぎるね。

 女神さま(ママ)への侮辱だけはぜったいにゆるさないって決めてるんだ』

 

 

全身の皮膚が泡立つ。

水ぶくれの様な発疹が至る所に発生し、パシャンと音を立てて割れた。

中から甲高い鳴き声を上げて現れたのは新しい“首”であった。

 

 

 

竜王の身体が溶ける様に崩れていく。

一応は11の頭を持つ怪物として整えられていた体裁を脱ぎ捨て、彼は凄まじい速度で自分を作り替えているのだ。

マナによって生物は魔物に変異するとされるが……。

 

 

『すこし“お仕置き”してあげる』

 

 

ニタァと笑いながら白蛇の顔は内側よりこみ上げる熱によって溶け堕ちた。

彼は既に魔物でありながら、更にマナを用いて己の変異を自由自在に操ることが出来た。

次々と新しく生み出された頭が産声を上げながら竜王の身体の至る所から生えそろい蠢いている。

 

 

 

更におぞましく。

更に強く。

更に禍々しく。

 

 

ミズガルズ全土、そして女神の歴史全てを見てもこれほどに狂気的な造形の怪物は存在しないと言える程の怪物へと彼は変わっていく。

瞬く間に百にも及ぶ頭を揃えた彼は、今度はソレを編み込んでいく。

蛇竜の様な細長い形状をしている首がまるで筋肉繊維の様に幾重にも巻き込まれ、絡み合い、身体を整えていくのだ。

 

 

 

 

まずは胴体。

腕と脚。

尻尾。

さいごに石膏像染みた無機質な顔。

 

 

“竜王”は、気が付けば全長100メートル程の巨人の如き様相へと変貌していた。

身体の至る所に竜の顔を張り付け、頭部には雄々しい角を王冠の様に戴く巨人、それが今のラードゥンの姿であった。

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 

ベネトナシュは頬に流れる汗を理解しつつ、厳しい眼でラードゥンを凝視していた。

もはや、違うと彼女は悟っていた。

先ほどまでにあった甘さがなくなった、ここからがこの怪物の真骨頂なのだと彼女は理解したのだ。

 

 

 

ピクリと、角の内の一本が震えた瞬間……ベネトナシュは全力で横に飛んでいた。

瞬間、彼女の圧縮された体感時間の中でも平時と変わらない程の、目視が難しい速度で“ナニカ”がラードゥンの頭から彼女めがけて発射された。

それは一瞬前まで彼女が居た個所を貫き、岩盤に孔をあけていた。

 

 

(角かっ……!)

 

 

ベネトナシュは瞬時に攻撃の正体を見極めた。

この異常な速さで蠢くモノは竜王の角が延長されたものであると。

それは角という言葉から想像されるような硬質さもあるが、何より柔軟であった。

 

 

 

 

 

その速さ、実にマッハ10万にも及ぶ。

光速の9分の1という速さはベネトナシュから見てもかなりの速さである。

そして厄介なのは、この角はただ突くだけのモノではないという所だ。

 

 

 

「このっ……!」

 

 

ベネトナシュが初めて歯ぎしりしながら声を上げた。

今までの戦いに塗れた人生において、一度も出した事のない焦燥に塗れたモノである。

 

 

地面に突き刺さった角は、引き抜かれることなく、大地の一部を抉り取りながらベネトナシュに向けて軌道を曲げて、その先端を迫らせたのだ。

まるでこれ自体が一種の魔物であるかのように、縦横無尽に角は少女の命を求めて蠢きまわった。

 

 

 

重く、早く、柔軟で、精確。

リーチもあり、変則的なフェイントさえ入り混じって迫る角はラードゥンにとっては人間で言う手に値する器官であった。

竜を狩る前の、レベル600程度のベネトナシュであったのならば秒にも満たない速さで全身を穴だらけにされ、竜王に捕食されていただろう。

 

 

 

「舐めるなッ!」

 

 

しかしさすがの吸血姫、レベル900というべきか、

ミョルニルによる補正もあって彼女はレベル1000の怪物を相手に食い下がる。

咄嗟に足から魔力を噴射し、無理やり空中で自分を射出することによって角を何とか回避したのだ。

 

 

ゴロゴロと大地を転がりながら彼女は片手で地面を削り取ってブレーキをかけ、片膝をついた状態でラードゥンを睨みつけた。

竜王は変わらず不気味に佇み、角だけで彼女を狙っている。

 

 

 

彼女は本気で大地を蹴った。

結果、それによって発生した衝撃がミズガルズに叩きつけられ、マントルが少しだけ歪んだ。

大陸プレートの位置がずれるほどの脚力で彼女は限りなく光速にまで加速する。

 

 

圧縮された時間の中、みるみる間に竜王の不気味な顔が迫り……ソレはニィっと不気味にほくそ笑んだ。

 

 

 

『そうこなくっちゃ。すぐに死んじゃだめだよ?』

 

 

パキキキと木が軋むような音と共にラードゥンの眼が輝く。

あんぐりと石膏像の下の口が開き、炎の様な吐息が漏れた。

更に12本、角が動き出す。

 

 

合計13本の角がベネトナシュに迫った。

 

 

ベネトナシュは冷静に、かつ本気で考えた。

このまま突っ込むか、回避するか、どうするべきかと。

今まで直ぐに終わってしまっていた戦いの中では起こりえなかった、戦術を練るという事を彼女は初めて行っていた。

 

 

出す前に戦いが終わってしまい、使ったことのない全力を彼女は此処で出すべきだと決めていた。

彼女は歯を食いしばり、目の前から押し寄せる膨大な殺意を前に行動する。

 

 

【瞬歩】

 

 

 

【ストライダー】のスキルを連続で行使し、彼女は迫りくる角を前に回避を選んだ。

まずはこの厄介な角の行動パターンを見切るべきだと彼女は決めたのだ。

 

 

 

「簡単に私を殺せると思うな……!」

 

 

吸血種族としての尖った犬歯をむき出しにし、ベネトナシュは怒り交じりに竜王に吠え、その姿を銀色の閃光へと変えた。

それに追いすがる様に竜王の角は更に勢いを増して襲い掛かる。

 

 

 

ここに光の線による芸術が産まれた。

ミョルニル近郊、荒野の荒れ地上空に光の幾何学模様が誕生したのだ。

さながらソレは満天の星空か、はたまた生物の脳内に存在するとされる神経伝達のパルスの様であった。

 

 

 

秒間数億にも及ぶ攻防がここにあった。

迫る竜王の角をベネトナシュは回避し、弾き、時には足蹴にしながら竜王だけを見ていた。

たった13本の角による縦横無尽の三次元的な攻撃に彼女は苛立ちを露わにしつつ考え続ける。

 

 

 

(もう少し、もう少しだ……)

 

 

もう少しで、慣れる、と彼女は怒涛の勢いで追撃を続ける角を捌きながら思った。

彼女の瞳は、少しずつ竜王の攻撃の速度に馴染みつつある。

最初は直感を駆使しなくては躱せなかったソレも、今では残影を捉えられるようになりつつあった。

 

 

 

(必ず、何処かに突破口が出来る)

 

 

 

ベネトナシュの瞳は不気味な仮面の様な顔をした竜王にだけ向けられている。

あの顔に一発、何が何でも叩き込んでやると彼女は決意していた。

 

 

 

 

角が蠢く。

空をかきむしる様に空中で何度も直角に折り曲げられフェイントを幾度も混ぜ込みながら吸血姫に迫る。

しかしそのどれもが彼女の命はおろか、身体に届かない。

 

 

辛うじてマントに穴を開けるか、銀色の髪の一部を噛み切る程度が精々であった。

 

 

判るぞ、と彼女は内心で呟いた。

全く意味が判らないが、どうやら自分はこいつの攻撃が何処に来るか判る、と。

 

 

もはや見るまでもない。

ベネトナシュの身体は竜王の攻撃が来る前に、何処に来るか正確に予知し、当たる前に回避をしていた。

 

 

 

ベネトナシュに今まで蓄えられていた戦闘経験が芽を出しつつあるのを彼女は自覚していない。

今まで一方的なものばかりだったとはいえ、それでも何万と言う戦いを経験し、ため込んだソレが竜王と言う難敵を前にし身体に定着しつつあるのだ。

 

 

 

「そこだ!」

 

 

 

角が交差し、一瞬だけ竜王の顔面までへの空間が空白になったのを彼女は見逃さない。

両足の裏から魔力を瞬間的に放出した上で【瞬歩】まで利用し、瞬時に竜王まで距離を詰める。

 

 

角が音を立てて巻き戻っていくが、それでもベネトナシュの方が早い。

握りしめられた腕に膨大な月属性の魔力が宿る。

最上位月属性魔法【カタストロフィ】が発動の準備を終え、後は破壊を放つだけとなって……。

 

 

 

竜王とベネトナシュの視線が交差した。

眼窩の奥に宿る蒼い光が彼女をじっと見つめていた。

 

 

 

獲った、と確信し……吸血姫の本能は全力で危機を告げた。

 

 

 

「!!!!」

 

 

 

竜王の口が開き、ベネトナシュは声にならない叫びを上げ、全力で怪物の顔から距離を取った。

次の瞬間、竜王の口の中からまた違う口が現れ、更にその中から一回り小さな口が飛び出し、ベネトナシュのいた空間を削り取った。

ガオン、という音ともに空気が渦を巻き、噛みつかれた空間は文字通り何一つ無くなってしまった。

 

 

「何だっ!」

 

 

自分の身体が勝手に動いた事に驚愕を浮かべ、次いでベネトナシュは竜王を見て固まった。

数多くの魔物を見てきた彼女からしてもおぞましいとしか言えない姿をラードゥンは晒していた。

 

 

 

口、口、口、口。

ラードゥンの口は入れ子構造のようであった。

合計六つの口が彼の中より現れ、ガチガチと歯を噛み締めていた。

 

 

食べる筈だった吸血姫の美味しくて柔らかい肉を求める様に口は開閉を繰り返し、涎を垂らしている。

 

 

『きめた。ベネットちゃんはまず足からシャクシャクしてあげる』

 

 

にんまりと笑いながら竜王はベネトナシュに対し残忍な処刑を提示し、その身体が解れた。

全身を編み込んでいた竜の一部が解け、自由自在に飛び回る蛇竜となったのだ。

 

 

その数、10本。

もちろんレベルは全て1000。

()()ラードゥンは本体である白蛇も含めて、全てがレベル1000なのだ。

 

 

つまり、彼と戦うという事は完全に統率され、全ての情報を瞬時に共有するレベル1000の竜101体を相手取るということなのだ。

そして、ベネトナシュは未だ知らぬことであるが彼と彼の頭全ては【クラス】さえ保持している……。

 

 

 

竜王の体勢が変わる。

身体を水平にし、彼の祖先である恐竜───ティラノサウルス等と呼ばれる者たちがするような体勢を取ったのである。

巨大な口と、周囲を飛び交う蛇竜たちが同時にベネトナシュを見た。

 

 

喉の奥にあったのは、先の様なブレスの予兆であった。

 

 

「次から次へとっ!」

 

 

思わず愚痴を吐きながらベネトナシュは急いで回避行動を取った。

刹那、先の様な炎ではなく更にマナを圧縮した精製された光線が吸血姫に襲い掛かった。

当然ながらこれも凄まじく早い。

限りなく光速である竜王の収束ブレスは高密度の光の槍となって彼の口からミズガルズに突き刺さった。

 

 

大地が溶け堕ちていく。

“槍”の当たった個所は音を立てる事さえなく溶解し、ガラス化させている。

大地を貫き、外殻を撃ち抜き、マントルにまで達する穴がミズガルズにいくつも空いた。

 

 

もう少し竜王が出力を上げて撃っていたら、ミズガルズの反対側にブレスは貫通していたことだろう。

本来、レベル1000であっても惑星規模の破壊は不可能の筈であったが、彼は既にそんな制約など超えていた。

明らかな異常、明らかな異変がここにはあるが、彼は誰よりも女神に忠実な駒である。

 

 

女神の為に、女神の為に、偉大なる女神の箱庭を乱す可能性のある存在を排除する。

それが竜王が己に課した使命であり、現在実行中の命令であった。

 

 

『んー……ふわふわとびまわってて、血をすうのってなんて言ったっけかなー』

 

 

不気味な顔から発せられるとは思えない可愛らしい声で彼は呟く。

もちろん彼の周りを蠢く十を優に超える蛇竜たちは各々が全自動でベネトナシュを攻撃していた。

 

 

ミョルニルの固定された夜空を、ラードゥンの放つブレスの弾幕が真っ赤に染め上げている。

更には彼が発した熱量のせいで夕暮れの様な明るさになってしまっている。

 

 

ベネトナシュは超高速で竜王から距離を取るが、更に解けた幾つかの蛇竜が彼女めがけて口を大きく開く。

一撃、一撃ごとにブレスの精度は高まっていた。

躱す、躱す、躱し続けるが、徐々に竜王の弾幕は彼女の動きを学習し、効率的な射撃方法を完成しつつあった。

 

 

 

美しい銀の閃光を竜王の放つ真っ赤な光の槍が追いすがり、少しずつであるがその身に痛打を与え始めていく。

彼女が躱した結果、背後にまで飛んで行ったブレスの一部は月に新しいクレーターを刻み、ミズガルズからでも視認できるほどの火柱を上げていた。

 

 

 

「ぐっ……」

 

 

思わず少女が呻く。

戦いの中で傷を負う事など殆どなかった故に、慣れない痛みに彼女は少しだけ顔を顰めた。

 

 

足が掠る、彼女の恐ろしい程に白い脛の一部が一瞬で炭化し、ボロリと表皮が崩れ落ちた。

もちろん吸血姫の凄まじい再生能力はこの程度ならば直ぐに治った。

 

 

マントに穴が開く。

ミスリルを編み込んで作らせたお気に入りの逸品で、並の武具を遥かに凌駕する防御力があったはずだが竜王の攻撃の前では紙切れの様であった。

 

 

躱し損ねて左のわき腹を大きく削り取られる。

ぽっかりと食いちぎられたように彼女の胴体の形が少しだけ変わった。

直ぐに治るが、ベネトナシュの体力は再生した分だけ消耗する。

 

 

 

 

竜王が身体を少しだけ右に傾ける。

5本の蛇竜が螺旋を描きながらシュルシュルと絡み合い、左腕が改めて形成された。

竜の顔が浮かび上がっているソレを握り込んだ後、ラードゥンは緩慢な動作で振りかぶり……亜光速で飛び回るベネトナシュをじっと見つめて狙いを定めた。

 

 

同時に彼は考え事に答えを見出し、ぞっとするような声を上げた。

 

 

 

『お も い だ し た ぁ “虫けら” だ ぁ !』

 

 

 

そして、それは光速の99,9999%にも及ぶ速度で振りぬかれた。

何てことはない左ストレートであるが、それの齎す余波は絶大としか言いようがなかった。

瞬間、ミズガルズ全土に轟音が響いた。雲がちぎれ飛び、海面がざわめく。

発生した衝撃波は惑星を7周半し、比較的近場であったミョルニルの都市を膨大な衝撃と突風が襲った。

 

 

 

余りに早すぎた拳は大気との摩擦によって真っ赤に燃え上がっており、一部はプラズマの様に輝いてさえいた。

 

 

その上で狙いは完璧であった。

ラードゥンのなんて事はないパンチは亜光速で動き回るベネトナシュを完璧に捉えていた。

握りこぶしの中指の付け根が吸血姫に衝突し、彼女は自分の全身の骨が粉々に砕ける音を聞いた。

 

 

咄嗟に両腕を交差し【テクニカルガード】というスキルを発動させてダメージを軽減させていなければ彼女の四肢は血煙の様に四散していたはずだった。

亜光速同士の衝突であったが、さすがはレベル900というべきか、吸血姫はまだ生きていた。

全身の骨折が瞬く間に修復され、割れた臓器も全てがあっという間に元通りになる。

 

 

全身を貫く鈍痛を味わいながら、彼女は考えていた。

どうやって勝つか、ではない。

いや、勝つことを欠片もあきらめたわけではないが……それでも今の彼女は違う事を考えていた。

 

 

「違う…………」

 

 

ベネトナシュは防御の姿勢を保ったままラードゥンの拳の勢いに逆らわず、吹き飛ばされた。

超速で視界が過ぎ去っていく。

何十、何百キロも吹き飛ばされ、彼女は星の重力を振り切ってミズガルズという惑星から少しだけ離れた暗黒の世界にまで跳ね飛ばされた。

 

 

吸血姫は、短時間であれば宇宙空間で活動可能な肉体をもっていた。

呼吸も、空気圧の変化もレベル900の身であれば多少は耐えられる。

 

 

さっきよりは少しだけ近くで見える月を見れば活力が湧いてくる。

しかし同時に太陽の光に直に焼かれた肌からは小さな煙が出ていた。

 

 

 

「お前は、違う……」

 

 

 

幾度も「違う」と繰り返す。

胸の中にあった何かを形にするかのように。

器用に無重力世界で身体を動かし、遥か下にあるミズガルズ……ミョルニル……いや、竜王を見た。

 

 

 

彼もまたベネトナシュを見ていた。

形成した左腕が「おいでおいで」と動いているのを彼女は見て、苛立つ。

足裏から魔力を噴き出し、ベネトナシュは亜光速……つまり一瞬で大気圏に突入し竜王の前に帰還する。

 

 

 

『おかえり~♪』

 

 

 

死にに戻ってくるなんて偉いんだねーと竜王は相変わらずであった。

 

 

 

『そろそろ諦めたくなった?』

 

 

 

傲慢に、傲岸に竜王は見下す。

100メートルを超える怪物は、僅か150センチとちょっと位しかない少女を楽しそうに眺めていた。

この瞳をベネトナシュは良く知っていた。

 

 

 

闘技場に囚われて殺し合わされる魔物や犯罪者を見る吸血鬼たちと同じ眼であった。

嗜虐に満ちた「いつ死ぬかな?」という残酷な期待の宿った目だ。

つまり、自分が絶対的な上位者であると確信しきった強者の顔である。

 

 

 

「……確かに貴様は強い」

 

 

 

『やっとわかったんだ。

 こんなにかかるなんて、もしかしてベネットちゃんって……バカ、なのかな?』

 

 

 

凍るような冷たい声で喋り出す少女に竜王は呆れたような声を上げた。

よほど偽竜と同類扱いされたのが苛ついていたのか、ようやく解けた誤解に彼はニコニコと笑い出す。

 

 

 

「だが、貴様は強いだけだ。……全然、貴様との戦いは心が躍らん」

 

 

 

違うんだとベネトナシュは言葉にしづらい心をありのまま吐き出した。

竜王の強さを認めつつも、何処か自分の望んでいたモノじゃないと。

 

 

 

「お前じゃない……私を殺していいのは、お前じゃない……!」

 

 

 

もっと楽しい戦いがあるはずだ。

もっと夢中になれるモノがあるはずだ。

もっと心が躍る相手がいるはずだ。

 

 

 

ベネトナシュの心の奥底は孤独を嘆く気持ちで凝り固まっている。

故に彼女は吠えた。

私を迎えに来てくれる存在は、私をこの独りぼっちから救い出してくれる運命の相手は……。

 

 

 

「貴様じゃない! お前などに、殺されてやるモノか!!」

 

 

 

にっこりと竜王の不気味な仮面の眼窩が笑うように輝いた。

ラードゥンはこういう意思の強い子が大好きであった。

ズタズタにし、踏みにじってやりたくてたまらくなる。

 

 

兄たちに倣い、彼もまた魔物として当然でありながら行き過ぎた悪意をもっているのだ。

 

 

 

『そうかぁ~~~♪』

 

 

 

 

右腕が形成される。

背骨が音を立てて姿勢を変え、彼は恐竜の様な水平に等しい前かがみから、直立姿勢へと変化した。

数万の歳月をかけて行う生物の歩行進化を彼は秒にも満たない時間で終わらせた。

 

 

 

ドォンという音を立てて彼はしっかりと両足で直立し……少しだけ腰を落とし、拳を胸の前で構えた。

さながら【グラップラー】のクラスを主軸に戦う拳闘士の様に竜王は構えたのだ。

 

 

 

一瞬で彼の気配が切り替わる。

暴力をただ振りまくだけの魔物から、歴戦の戦士のモノへと。

断じて彼のソレは見よう見真似の張りぼてなどではなく、正しく達人の技量が伴っていた。

 

 

呼吸を整え、目線を鋭くし、前後に軽く体を揺らしてタイミングを計る姿は大きさを除けば正しく人間のソレと同一であった。

 

 

 

『おのぞみどおり、殺してあげる!』

 

 

 

 

ハハハハ、と竜王の哄笑が響き渡り、ベネトナシュはたった一人絶望的な戦いに身を躍らせるのであった。

 

 




竜王と吸血姫の比較コーナー!




ラードゥン

常に笑っており人生を楽しんでいる。
未来への展望、夢がある。
社交的。
新しい事への挑戦を忘れない。
頭が101本あるから普通の100倍賢い。
デカくて強そう。


ベネトナシュ

常に無表情。
夢も希望もなく惰性で生きている。
不愛想でいきなり襲い掛かってくる。
頭が一個しかない。
小さくてまな板みたいな体型で弱そう。



どっちがすぐれたおうさまか いちもくりょうぜんだね!

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