ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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中途半端な長さになりましたが
次の話で大きく物語が動くのでとりあえず繋ぎとして投稿します。


ラードゥンの“メガトンキック”!

 

 

「虚仮脅しだな。グラップラーにでもなったつもりか?」

 

 

吸血姫はまるで闘士の様に構えるラードゥンに対して皮肉気に笑っていた。

まるで自分の中に湧き上がる“ナニカ”を誤魔化す様に彼女は虚勢を張ったのだ。

額がチリチリするが……竜王から発する圧はむしろ減少していた。

 

 

 

そうだ、圧ではない。

今のラードゥンから感じるのはとてつもない“鋭さ”であった。

喉元、心臓に剣を突き立てられる様な気配を彼は放っていた。

 

 

“竜王”が構えた瞬間、ベネトナシュもまた全身に活力を漲らせて油断なくこの怪物を見つめていた。

 

 

 

『“つもり”じゃないよ? 

 ぼくはね【グラップラー】とか【チャンピオン】のクラスをもってるんだ!』

 

 

魔物は【クラス】をもてない。

そんな常識を竜王は簡単に否定したがベネトナシュは一瞬彼の言っている意味が分からず首を傾げていた。

 

 

 

“みたほうが早いね”と呟き、シュッと竜王の左の拳が小さく振るわれた。

格闘技術など知らないベネトナシュから見ても無駄のない洗練された動作であった。

そしてラードゥンの拳は光を纏い、ミズガルズの地表を削り取る。

 

 

あえて彼はベネトナシュを狙わず、明後日の方角を破壊していた。

遅れて膨大な破砕音が響き渡り、巨大な土砂が巻き上がった。

 

 

ベネトナシュでさえ辛うじて残像を捉えられる速度で拳が動いていた。

そして吸血姫はこの現象を知っていた。

彼女もまた近接戦闘の【クラス】を取っているのだから。

 

 

 

 

「【シャインブロウ】……」

 

 

ベネトナシュが呆然と竜王の使ったスキルの名前を呟いた。

それは彼女も使えるスキルで、よく知っている。

光速で拳を動かすことで、相手に回避を許さない絶対命中スキルであった。

 

 

便利な技であり、彼女もまたよく使っている技だ。

 

 

「……」

 

 

 

ありえない現象を見てしまった彼女はラードゥンを睨みつけた。

魔物が【クラス】を持って、スキルを使う? 何の冗談だと彼女は思い、顔を顰めた。

ふざけた醜い化け物め、何処まで私を舐めているのだと。

 

 

“竜王”が自分を嬲っていることに彼女はもう気が付いていた。

最初から使えばいいスキルを出し惜しみにし、少しずつ力の段階を上げて戦っているのがその証拠だ。

 

 

 

──こいつは私を舐めている。

 

 

 

その事実はなによりもベネトナシュを苛つかせる。

彼女は心底より強者だ。

産まれた時から奪う事はあっても奪われた事などない。

 

 

戦いにおいても彼女はいつだって勝利してきた。

全く感慨のない乾燥しきった勝利ではあったが、ベネトナシュはいつでも勝ち続けてきた。

自分が負ける側に回る日など来ない、と思う程に自惚れてはいないが、それでも仮に負けるとしたら激戦の末に満足したものであろうと彼女は考えていた。

 

 

 

ベネトナシュは“運命”を信じている。

まるで無垢な少女の様に。

いつか誰かが、自分をこの孤独から救い出してくれるかもしれないという運命を彼女は望んでいた。

きっと負ける日がきたら、それは自分の隣に誰かが来てくれる日に違いないのだと。

 

 

ソレが現実はどうだ?

目の前の怪物は子供の様な声で耳障りに囀り続け、まるで籠の中の虫を甚振る様に力を出し惜しみにし、不愉快な行動ばかりだ。

 

 

 

 

断じて違う。

お前じゃない。

お前になど負けてやるものか。

 

 

 

鋭い目でラードゥンを睨みつければ、彼の仮面の眼窩の光が笑うように揺れた。

事実彼はベネトナシュを嘲っている。

井の中の小さな虫けらを巨竜は見下しているのだ。

 

 

 

『すごいのは自分だけとおもった? 

 ぼくは君よりずっとずっと、ずぅぅぅっとすごいのさ!』

 

 

 

『今からそれをいっぱい、いーーぱい、わからせてあげる』

 

 

それは処刑宣告であった。

彼にとっては子供の戯れであってもベネトナシュに取っては致命となるであろう行為だった。

 

 

 

ラードゥンが跳ねた。ステップを刻みながらベネトナシュに迫る。

ドン、ドン、ドンと地響きが巻き起こり、ミズガルズは怪物の戦意によって震える。

100メートルを超えた巨体が想像を超える程の軽やかさで舞い、拳を振りかざした。

 

 

(────!)

 

 

瞬間、濃厚な「死」をベネトナシュは感じた。

この拳をまともに受けたら自分は死ぬと彼女は理解した。

 

 

 

腰を捻り、体重を移動させ、重心をコントロール。腕だけではなく全身を使って拳を打ち出す。

【グラップラー】のクラスを取ったモノが最初に覚えるであろう基本中の基本。

拳を相手に叩きつける際に行う身体捌きを竜王は当然の様に高次元で行う。

 

 

幼い言動から想像できない程にラードゥンの動きは洗練されており、一種の芸術性さえ感じさせた。

 

 

そしてベネトナシュは此処まで来て認めざるを得なかった。

竜王は、己より強いのだと。

自分の“順番”が来た……奪うだけの人生が、遂に奪われる側に回ってしまったのだと。

 

 

 

が、それで「はいそうですか」と素直に奪われる彼女ではない。

吸血姫ベネトナシュもまた構えた。

竜王への怒りを頭の片隅に追いやり、少女もまた思考を戦闘に特化させるものへと切り替えた。

 

 

 

 

迫る拳を彼女は全神経を駆使して注視した。

本能のままにただ動き回るのではなく、この後どうするかという先の先まで考えを巡らせる。

 

 

 

「ぐっっ!」

 

 

 

右か、左か。

否、ベネトナシュはラードゥンに向けて飛び込んだ。

腕の内側、熱を噴き出し続けている竜王の胸元めがけて彼女は飛んだ。

 

 

ジジジジと拳圧だけで少女の皮膚が泡立ち、微かに残っていたマントがバラバラに破れて散った。

 

 

(懐に飛び込み続けろ……! 距離を取ったら、マズイ……!!)

 

 

 

この巨体を相手に距離を取るのはやめるべきだと彼女は本能で理解していた。

ラードゥンの全身を構築する竜頭によるブレスの乱打の脅威を彼女は身をもって知っている。

 

 

 

彼の身体に張り付けられた無数の竜頭が目線で少女を追う。

仮面の顔が少しだけ驚いたような気配を発していた。

 

 

数億分の1秒後、ベネトナシュが居た個所に竜王の拳が落ちた。

余りの破壊力に大地が脈打ち、そこを中心に発生した破壊の“波”が波及し深さ1キロ、直系5キロにもなるクレーターを生成する。

ミズガルズにもしも意思があったのならば、この痛打によって悲鳴を上げていたかもしれない。

 

 

 

『ほんとうに虫けらみたいだね!』

 

 

 

「虫一匹潰せない貴様はそれ以下と聞こえるが?」

 

 

 

相変わらず嘲り続ける竜王にベネトナシュは冷酷に返す。

彼女の瞳は既に色を認識していない。

色は今はいらない。竜王の行動の次を考え続けることに彼女は脳の全てを動員しているのだ。

 

 

「まずは右っ! 貰うぞ!!」

 

 

一回、先よりも早く、鋭く腕を動かす。

狙いは竜王の右腕の奥、人で言う二の腕だ。

先に顔を狙い手痛い反撃を受けた経験から、彼女はまずは何処でもいいから竜王の肉体を削るべきだと判断している。

 

 

 

吸血姫の爪──『収奪者の爪』はミスリルどころかオリハルコンにも匹敵する強度と柔軟性を持つ最高の武器だ。

今まで大陸一つ分の魔物、魔神族、竜を引き裂き彼女の糧へと変えてきた恐ろしい武器だった。

 

 

ソレは今まで通り振るわれ、今までとは違う結果を齎した。

ベネトナシュの爪は竜王の二の腕にめり込み、柔軟かつ硬質な筋肉を引き裂き……両断は出来なかった。

 

 

 

メキ、メキ、メキという耳障りな音がする。

ラードゥンの右腕に半分ほどめり込んだ吸血姫の爪は盛り上がる肉に押し返されていた。

傷を負った瞬間から竜王の身体は再生を始めている。

 

 

 

『収奪者の爪』から送り込まれてくるのは過去に感じた事がない程に膨大な生命力。

竜王の力を一部とはいえ取り込んだベネトナシュの傷が完全に癒え、体力さえ全快に巻き戻る。

竜王にとっては細胞一つ程度の生命力であってもベネトナシュを完全に満たす程の力の差がそこにはあった。

 

 

 

「まだだ! 受け取れ!!」

 

 

 

ベネトナシュが掌を握りしめ、瞬時に膨大な魔力を収束させる。

放たれたのは「月」属性の上位魔法である【ルナ・シューター】であった。

渾身の力を込めて放たれたソレは一発一発が街を消し飛ばして余りある威力を込められている。

 

 

 

そんな戦略級の魔法攻撃を10発。

ベネトナシュは瞬時に解き放つことが出来た。

【ルナ・シューター】は変わらずニヤケている竜王の顔面に叩き込まれ、爆砕させた。

 

 

発生した爆風に乗り、ベネトナシュは竜王から距離を取る。

彼の身体からいつ新しい蛇竜が生えてきてもいい様に最高の注意を払う事ももちろん忘れない。

 

 

爆音と衝撃が少女の銀髪を揺らした。

巻き上がる破片と焦げた肉の臭いが確かな手ごたえを感じさせた。

普通の魔物ならばコレで片が付いている。

 

 

 

今までベネトナシュが倒した最高レベルの存在は700の竜であった。

その竜はこの魔法で翼の半分を消し飛ばされ、地に落ち、後はベネトナシュに切り刻まれて終わったのだ。

いかに竜王と言えど、これならばと少女は小さな期待を抱きながら竜王の顔を見上げた。

 

 

 

『あぁぁハァアあァァぁアアあ~~♪』

 

 

 

すこしだけ欠けた竜王の顔が爆炎の中より現れる。

彼は顔を微かに斜めに傾け、笑っている。

パキんという木が軋むような音がするが、それだけだ。

 

 

 

盛り上がる肉が直ぐに修復を終え、竜王の損傷はあっという間に消え去った。

 

 

竜ならば強弱の差はあれど絶対に持っている再生能力。

だが竜王のソレは次元違いに高いのだ。

並の竜どころか限りなく不死身に近いベネトナシュと比較してさえ理解不能なほどに壊れた再生能力である。

 

 

彼は自分を睨みつけてくる少女をからかうように言った。

 

 

 

『あきらめた? 後悔してる? ぼくとたたかったことをさ!』

 

 

 

「うるさい。さっさと構えたらどうだ? 続けるぞ」

 

 

 

『ほんとうに何処からくるんだろうね、その自信はさ』

 

 

 

ま、別にどうでもいいんだけどと竜王は述べると拳を構える。

幾つもある心臓が同時に力強く脈打つ。

カ、ハァァァと開いた口より炎交じりの息を漏らし、コキコキと首を鳴らした。

 

 

『そろそろ終わらせよっか! 

 うん、ぜんぜんきたい外れだった! まぁったく、虫けらちゃんはよわかった!』

 

 

 

『こんなんじゃ“実験”もできないよ! ほんとうにこまったなァ!』

 

 

 

屈辱極まりない侮蔑であった。

吸血姫の100年を超える生涯において初めて言われた言葉であった。

 

 

 

ベネトナシュはそれでも諦めない。

元より彼女の中に誰かに屈するという概念は存在しない。

が、意思だけで勝てるならば誰も苦労はしないのだ。

 

 

竜王が動く。

ベネトナシュは気づけなかったが、補助の天法を幾らか自分に付与した上で。

 

 

その名を『スピード・オブ・ライト』

効果は単純でありながら強力なモノである。

即ち、速度を倍に加速させるというものだ。

 

 

 

さらにダメ押しするように全能力を向上させる『オーラ・バースト』も竜王は使用していた。

 

 

結果、ベネトナシュとラードゥンのステータスは倍近く開いた。

唯一彼女が竜王に食らいついていた速度でさえもう及ばない。

あらゆる点で少女は竜に追い抜かれ、先を越されたのだ。

 

 

もう彼女は先を征く者ではない。

置いていかれ、朽ち果てるだけの弱者である。

 

 

 

ミズガルズは残酷な世界だ。

どれだけ高尚な理屈を語ろうと、力がないと何もできない。

これはその代表的な一例といえよう。

 

 

 

 

竜王が動き、決着は刹那にも満たない間についた。

 

 

間違わないで欲しいのは、ベネトナシュに油断はなかったという点だ。

彼女は一切の余裕を捨て、完全なる注意をラードゥンに向けていたのだ。

 

 

竜王が何か動くと察した瞬間、少女は身構え、回避するために全力を使っていたのに何も出来なかった。

 

 

 

吸血姫としての極まった直感───捉えられない。

数多くの魔物を殺してきた経験──竜王はあらゆる意味で規格外であった。

強者として君臨していた意地───もはや彼女は弱者である。

 

 

 

 

 

(───きえ)

 

 

 

 

竜王の背中に出現した竜頭。

そこから彼は推進剤の様にブレスを放出し、同時に【瞬歩】というスキルを使ったのだ。

結果、彼の100メートルを超える巨体はベネトナシュでさえ見落とす程の速度で彼女に迫り、無防備を晒す彼女に拳を叩きつけていた。

 

 

 

何の反応も出来なかった。

“回避する”という思考より早くラードゥンは動いていた。

右腕の拳、その中指の付け根当たりが彼女に叩きつけられ、ベネトナシュを亜光速で背後にあった山に叩きつけた。

 

 

爆音と破砕が発生し、標高3391メートルあったとある山はその形を抉り取られた。

 

 

 

「~~~っ……ぁがっっっ!!」

 

 

 

全身の骨が粉砕され、内臓がシェイクされたカクテルへと変わった少女は血反吐を吐いた。

心臓だけは辛うじて動いているために即死だけは免れていたが、身体は動かない。

いつもは戦いの邪魔としか思っていなかった己の再生能力をこの時ばかりは当てにした。

 

 

はやく、はやく、早く治れと祈る少女の上空から影が落ちてくる。

それはラードゥンの足であった。

鉤爪があり、所々に顔が浮かんでいる蛇竜で構成された足だ。

 

 

それが超高速で落下してきていた。

さながらそれは超巨大隕石の如く。

どちらも絶対に逃れられない滅亡という点では同じだ。

 

 

 

彼は上空10キロ程度まで跳躍してから、彼女を踏みつける様に蹴りを叩き込んだ。

更に【チャンピオン】のスキルである【極・発勁】を発動させ、彼女の体内そのものにとてつもない超振動破砕を叩き込む。

 

 

 

一瞬でベネトナシュを構築する全ての分子が超振動/破砕し、彼女の腹部、両足、右腕は文字通り“粉”へと変わった。

 

 

山の形が変わる。

火口から順に木っ端みじんに消し飛んでいく。

凸が凹に変わり、地下にあったマグマだまりを吹き飛ばし、岩盤を叩き割り、それでもベネトナシュは止まらず更に沈んでいく。

 

 

 

優れた格闘家が己の力量を誇示するためにやるような「瓦割り」を竜王は山で行っていた。

 

 

地層の一部に刻む様に竜王はダメ押しとして体重をかけた。

さらにさらに、少女が奈落の底に埋め込まれる。

もはや胸と頭部、左腕だけしか残っていない少女は更にその身を砕かれていく。

 

 

 

 

彼女を中心にクレーターが形成される。

深さ4キロ、直系10キロを超えるかつては山であったクレーターだ。

吹き飛んだ破片が成層圏にまで巻き上げられ、太陽光が遮られた結果ミズガルズの平均気温は3度ほど下がった。

 

 

 

更に更に竜王の【極・発勁】の振動はミズガルズという惑星全土に伝播し、惑星の反対側の海面に宇宙空間から観測できるほどの水柱が発生した。

そればかりかミズガルズの形が撓む。

その結果、世界の四季の長さは変動することになるだろう。

 

 

 

 

『しんだ~? しんでなぁぁ~い!』

 

 

 

竜王が足を退かすと、血だまりに沈み込んだベネトナシュが現れた。

驚く事に彼女はまだ生きている。それは彼女の執念のたまもの……ではない。

ラードゥンが手加減したのだ。

 

 

彼は【峰うち】というスキルを使って、どれだけの攻撃力で攻撃しても彼女が死なない様にしていたのだ。

立ち上がろうと蠢くベネトナシュの姿は正しく彼の言う“虫けら”であった。

今までに受けた事のない程の痛打の結果、彼女の再生能力は混乱していた。

 

 

まずは腹部、粉々にされた臓器が戻る。しかし血が足りない。

次に両足、最後に右腕。

形だけは直ぐに戻るが、蓄積したダメージはそう簡単には消えない。

 

 

 

何とか再生した足を震わせながら少女は立ち上がった。

無茶苦茶に折れ曲がった腕を力任せに戻そうとし、再び崩れ落ちる。

しかし眼だけは欠片も絶望せずに竜王を睨みつけていた。

 

 

「っ……う、ご……けぇ……!」

 

 

 

圧倒的な力で蹂躙されながらも彼女は戦意を失わない。

ずるずると這いずりながら大地を握りしめ必死に立ち上がろうともがく。

その様を見たラードゥンの顔には笑顔があった。

 

 

これは諦めないモノへの敬意……などではない。

 

 

『がんばれ♪ がんばれ♪ もうちょっとで立てるよ!』

 

 

 

それは壊れない玩具に対する残忍な欲望であった。

兄もそうであったように、彼は最も魔物らしい魔物であり、残忍にして狡猾な怪物でもあるのだ。

ベネトナシュにとっては幸運なのかどうかは判らない事であるが、彼はまだ止めを刺す気はないようであった。

 

 

ラードゥンには悪意がある。

どんな魔物よりも強く、ミズガルズ全土をすり潰しかねない程に巨大な悪意が。

 

 

この気丈で誇り高い少女の心が折れる所を見てみたい。

無様に死ぬ所がみたい。痛めつけてやりたい、苦しめたい。

徹底的にあらゆる尊厳を踏みにじってやりたい。

 

 

ラードゥンにとってベネトナシュはまだ遊べる玩具なのだ。

 

 

 

『ほぉら、てつだってあげる』

 

 

 

竜王は【ヒール】をベネトナシュに向けて行使する。

瞬く間に少女の手足が治るが、同時に彼女の心と矜持に傷が残った。

 

 

 

「貴様っ……!」

 

 

 

『“ありがとう”は~? 

 パパとママにおそわらなかったのかな?』

 

 

 

家族の話題を出され少女の脳裏をよぎったのは従者の列に並ぶ父母の姿であった。

多くの兄弟たちがいた、父と母が居た。

しかし彼女に家族と呼べるものはいない。

 

 

 

誰も彼も自分を神聖視し、誰も彼もが崇めてくる。

母は自分を崇拝している。父は自分を信仰している。

間違ってもソレは家族と呼べる関係ではない。

 

 

 

少女の微かな気配の変化を敏感にかぎ取った竜王が少女を覗き込んだ。

 

 

『ごめんね! ふくざつな“かてい事情”があるみたいなんだね! 

 やっぱりパパとママに嫌われちゃってるのかな~? 

 ベネトちゃんって“わるいこ”みたいだし!!』

 

 

 

 

「────。」

 

 

 

ブチ、っと自分の中の何かが切れた音をベネトナシュは聞いた。

奥歯にヒビが走るほどに噛み締める。

歯茎をむき出しにし、幼いながらも気品ある顔を野獣の様に怒りで歪めた。

 

 

 

「ころす……!」

 

『はははははは!!  

 “わるいこ”“わるいこ!”ベネットちゃんは“わるい子”なんだ!!』

 

 

『いままで独りぼっちだったんだね! かわいそう! かわいそう!!』

 

心の最も触れてほしくない部分を踏みにじられ、狂い怒る少女を前に竜王は変わらず悪意の籠った囁きを飛ばし、受けて立つように構えていた。

 




そろそろ竜王くんの判らせを始める予定ですのでご安心ください。
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