ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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やりたい放題開始となります。
思いっきり特殊タグで遊んでみました。


ミョルニルの“一致団結”!

 

 

『こんにちは諸君。私はアリストテレスというモノです』

 

 

 

『時間がないので端的に提案します。───勝ちたくはないかな?』

 

 

 

平坦な、戦場だというのに何処か冷めていて無機質な声がミョルニル中に木霊する。

この夜の国に存在する全ての吸血鬼/ゾンビ/グールなどなど、竜王軍に襲われている全ての者がその声を聴いていた。

 

 

 

 

 

“竜王”とベネトナシュがミョルニル近郊の荒野にて激戦を繰り広げている最中にまで話は巻き戻る。

月を閉ざす様に鎮座するアイガイオンから降り注ぐ竜王軍により焼け落ちていくミョルニルの民は、唐突に脳内に響いた声に戸惑っていた。

 

 

 

 

「誰だ!」とある者は吸血鬼として誇りを露わにしながら、不敵な声に怒鳴りつけた。

このミョルニルが堕ちる筈がない、偉大なる吸血姫に統治されし我々に敗北などないと声高らかに叫ぶ。

しかしいくら吠えようと現実は変わらない。

 

 

空を支配するアイガイオンの巨躯は見るモノの心を不気味に揺さぶるモノがあった。

彼の身体には本物の竜王と同じように幾つもの竜の顔が張り付けられており、その瞳がぎょろぎょろ蠢く様は根源的な恐怖を放っている。

劣化複製とはいえ元は竜王である故に、超越的な魔の気配は吸血鬼の心に恐怖として根ざしていくのだ。

 

 

 

怖い、怖い。

こんな化け物がこの世にいるなんて知らなかった/知りたくなかった。

吸血鬼として恵まれた生を歩んでいたが、そんなものは所詮は井の中の蛙に過ぎなかった。

 

 

 

“竜王”は自分たちよりも遥か高みより見下ろし、まるで玩具で遊ぶようにミョルニルを滅亡させようとしている。

その現実は彼の精神を狂う程に燃え上がらせ、屈辱と恐怖で震わせた。

 

 

「力を寄越せ! 奴に一矢報いる事ができるならば、何だってくれてやるッ!!」

 

 

空に向かって吠える様に男は叫んで“同意”した。

彼は歯ぎしりしながらアリストテレスの問いかけに頷き、吸血鬼の頭の中に莫大な情報が流し込まれた。

 

 

 

 

 

「誰なの?」と、ある女吸血鬼は問いかけた。

彼女は吸血鬼にしては珍しい温厚な人物であった。

兵士として戦う夫を心配しながら、自分は子らと共に避難施設に逃げ込んでいた女性であった。

 

 

震える子供たちを抱きしめ、耳元で「大丈夫よ」と繰り返しながらも彼女は薄々気が付いていた。

他者と比べて吸血鬼の持つ傲慢が少ない彼女は客観的に、かつ冷静に戦況を分析し、ミョルニルの敗色は濃厚だと悟っていたのだ。

せめて最後の時まで子供たちと共にいようと強く我が子を抱きしめていた彼女にとってアリストテレスの声は……微かな希望であった。

 

 

ヒソヒソと施設に逃げ込んでいた者達の間でその名が何度か囁かれていたのを彼女は知っていた。

何人かはそのアリストテレスなる人間族の男に命を救われたという話を彼女は聞いたのだ。

 

 

 

もしかしたら───と考え、彼女は頷いていた。

貴方が誰なのかは知らないが、この子たちを守ってくれるならば喜んで協力しましょうと彼女はその声に“同意”した。

 

 

彼女もまた、膨大な情報を濁流の様に流し込まれ、一時的に意識を失うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

とんでもないことになってしまったと吸血鬼は項垂れていた。

レベル60の、そこそこ強い部類に位置する彼の名前はラガート。

ミョルニルの警備兵でありながらも、最近頭角を現しだしていた才能ある吸血鬼であった。

 

 

 

彼の任務は時計塔の警備の任務であった。

そう、竜王軍が攻撃目標に掲げていたあの時計塔である。

彼の上官と同僚たちもまた押し寄せる夥しい数のワイバーンや魔物たちと戦闘を行っていたのだが多勢に無勢であり、時計塔は陥落し崩壊。

 

 

部隊の半数は偽竜に生きたまま貪られ、その断末魔から逃げる様に彼の部隊は撤退したのだ。

その後、ロイが吸血姫の宮殿を守ることを最優先目標に設定したため、彼の部隊もまたミョルニルに張り巡らされた地下トンネルを用いて宮殿に移動していたのだった。

 

 

「なんだ、この声……」

 

 

そんな折、聞こえてきた声にラガートは思わず周りを見ていた。

遂に自分の頭がおかしくなったのか、こんな極限状態において幻聴幻覚でもいいから救いを求めてしまったのだと思ったのだ。

しかしどうやら彼の同僚や上官たちも怪訝そうな顔を浮かべ、しきりに頷くあたり自分だけではないと理解してほっと一息をつく。

 

 

 

誰かは判らないが“勝ちたいか?”等と問われれば彼の答えは決まっている。

 

 

 

「勝ちたいに決まってる……」

 

 

 

絞り出すような声に周りの者らの顔が苦渋に歪んだ。

吸血鬼としてもっていた矜持をほんの数時間でズタズタにされた彼らは、無力感に苛まれている。

勝ちたい、だけどどうすればいいか判らない。

 

 

 

空は奪われた。

既に展開していたドラゴンゾンビは壊滅し、文字通りに骸へと還っている。

 

 

兵の数でも負けている。

アイガイオンがある限り、レベル200オーバーの竜の群れは永遠に補充され続ける。

しかも時間が経つにつれ、それらはどんどん戦闘経験を重ねていき強化されるというおまけつき。

 

 

 

 

士気でも吸血鬼は劣っている。

突然の完璧な奇襲攻撃に、殆どの兵はあたふたと逃げ惑うばかりでどうすればいいかなど判っていない。

彼らにとって戦争などは架空のモノなのだ。

 

 

吸血姫がこの地に座す限り、攻撃を仕掛けてくるものなどいないという慢心と依存がそこにはあった。

力によって支えられていた平穏は、それを上回る暴力が現れた瞬間に砕かれるなど当然の話だというのに。

 

 

 

 

対して竜王軍の魔物や亜人たちは奪いたい放題、殺したい放題、やりたい放題だ。

特に亜人たちの士気はすさまじかった。

今まで迫害を受け、人類として受け入れて貰えずにいた彼らは仲間の魔物たちでさえたじろぐ程の殺意を以て吸血鬼たちを殺しまわっていた。

 

 

何百年とたまったうっ憤が吸血鬼相手に爆発しているのだ。

 

 

どうしてお前たちは人類扱いしてもらえる?

我々とお前たちと何が違う?

お前たちだけ国家をもっているなんてズルイ。

 

 

死ね死ね死ね死ね、死んでしまえ!

この裏切り者!! 俺たちと殆ど変わらないくせに人類扱いされているお前たちなど裏切り者だ!!

 

 

 

 

バラバラにされた吸血鬼たちをラガート一行は見た。

首をもぎ取られ、目の前で身体を砕かれて絶望している吸血鬼を見た。

吸血鬼の赤子を串刺しに空へと掲げている亜人を見た。

生きたまま焼かれ、転がり回る吸血鬼を見た。

 

 

 

“狂化”が掛かっていると思う程に彼の軍勢の士気はたかく、ミョルニルを舞台に殺戮劇を繰り広げている。

誰も彼もが竜王ラードゥンと、彼が信仰する女神アロヴィナスの名を叫びながら暴れ回っている。

 

 

 

 

 

地獄を見た。

地獄を見た。

ミョルニルと言う国の終わりを彼らは認識した。

 

 

 

その上で、小さな“救いの糸”が垂らされてきた。

まるでミョルニル壊滅と言う悲劇を上座で見学しているような、何処か傲慢ささえも感じさせる声であった。

アリストテレスは判り切った事を聞き、それに対してのラガートの言葉は当然のモノと言えた。

 

 

重低音がトンネルを揺らす。

おぞましいワイバーンの鳴き声と、亜人たちの哄笑が聞こえてくる。

肉を引き裂く音、人々の断末魔。

 

 

こうしている間にもミョルニルの住民はどんどん減っていく。

全部わかっているというのにラガートたちには何もできない。

 

 

堪えきれずに彼は叫んでいた。

 

 

 

「そんなことっ、いちいち聞かなくてもわかるだろうが! 

 勝ちたいに決まってるッッ!!」

 

 

 

「勝たせて見せろよ!! 

 吸血姫様さえいらっしゃらないこの状況で

 どうやったら勝てるか知ってるならやってみろよ!!

 

 

 

「なんだって協力してやる! 勝つ為なら何だって従ってやる!! 

 だから……俺たちを助けてくれ……」

 

 

 

 

彼らは“同意”し契約は成立した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次々とミョルニル各地から返答が帰ってくる。

その度に『一致団結』は双方向で発動され、組み合わされる。

一人、また一人と吸血鬼が同じ志を持ち、同じ目的を共有することによってプラン・アリストテレスの処理能力は上がっていく。

 

 

 

不明な入力が実行されました。

 

 

女神が垂らす“糸”を世界から奪い取り、それを自分につなげる。

心を理解し、記憶を網羅し、そして繋ぎ合わせる。

ミョルニルに在住する数万の吸血鬼たちは、文字通り一心同体となったのだ。

 

 

誰もが願っていた。「勝ちたい」と。

契約を持ち掛けたからには、プラン・アリストテレスには彼らを勝利させる責務がある。

故に彼は、最高効率でその願いを叶え始めた。

 

 

システムに深刻な障害が発生しています。

 

 

ミズガルズの上げる悲鳴を当然の様にアリストテレスは無視した。

 

 

現状、吸血鬼たちはやる気は十分だが絶望的にレベルが足りない、技術が足りない、無知で蒙昧だ。

ならばその差を自分が埋めてやる必要があった。

 

 

─直ちに実行を終了/停止/排除してください。

 

 

 

 

だから彼はソレを実行した。

何のためらいもなく、国一つ分の思念を繋ぎ合わせ出した。

自分と他人の間にある境界線が不安定になるが決して崩壊はしない。

『一致団結』とは、自分と相手がいるからこそ成り立つのだから。

 

 

実行中実行中実行中実行中

 

 

しかしそれでも莫大な思念の渦が流れ込んでくるが、プランは顔色一つ変えなかった。

元より彼は、そういうモノであり、こういう風に運用されるために設計されたのだ。

アリストテレスの目指す極点に比べれば、こんなモノ負荷にも入らない。

 

 

 

ERROR! ERROR! ERROR! ERROR!

 

 

そして吸血鬼という種の頭脳はエルフや天翼族に決して見劣りしない素晴らしいモノがある。

アリストテレスにとって大事なのは頭と心であった。

それぞれの吸血鬼たちが『一致団結』によって繋ぎ合わされていく。

 

 

 

接続接続、接続、接続……。

マルチコアの連結を確認。

処理能力の向上を確認。

思念の方向性、問題なし。

 

 

 

『一致団結』 出力上昇。

 

 

 

人心と言う道具(tool)を用いてアリストテレスはその力を強めていく(assisted)

その上で新しい概念(system )を作り出すのだ。

 

 

これこそ、彼の能力(TAS)の神髄であった。

 

 

吸血鬼たちが一度動きを止める。

全員の思念の中にアリストテレスが打ち込まれた(install)

 

 

その瞬間、ミョルニルの全兵力は一つの意思で完全に統率され動く全にして一となる。

途方もない速度で全ての【クラス】とスキルが混ぜ合わされ、アリストテレスの意思の下一つへと再編されていく。

 

 

 

 

まずは二人の吸血鬼が居た。

片方は【モンスターテイマー】のクラスを持っていた。

残りは【アルケミスト】のクラスを持っている。

 

 

それぞれクラスレベルは40と30。

まぁ、ミズガルズに存在する人類の中ではそこそこといった所だ。

ふむ、まぁ悪くない。彼らを基点にしようとアリストテレスは決めた。

 

 

 

吸血鬼たちの目の色が文字通りに変わる。

夜の貴族としての紅色から恐ろしい程に輝きを放つ蒼に。

その瞬間、彼らのミズガルズにおける法則上の名前が変わった。

 

 

 

アリストテレス実行端末

 

 

ゲシュタルト・パターン ミョルニル01

 

 

ゲシュタルト・パターン ミョルニル02

 

 

身体さえも変わっていく。

相応しい軍勢には相応しい装いが必要と判断され即席で作り上げられた【バルドル】が彼らの身体を覆った。

本物に比べればマナ蒐集能力などがカットされた鎧であるが、それでも不気味さは変わらない。

 

 

そして、次の瞬間彼らはレベルさえも失った。

ミズガルズの法則は意味不明な事を繰り返すアリストテレスに匙を投げ、彼らを描写することをやめたのだ。

 

 

つまり、存在しているけど存在していないあやふやな状態だ。

一時的に彼らにかかっている筈のガードが解除され、あらゆる概念的な攻撃からむき出しになった。

 

 

 

【ターゲティング】

 

 

 

【錬成】

 

 

 

アリストテレスはすかさず【錬成】をかける。

対象は、彼らの【クラス】にである。

物理的に存在しないモノを対象にするなど本来は不可能であるが、今の彼らは()()()()であり、可能であった。

 

 

さらに【ターゲティング】を行うことによって対象を取る事さえもできるのだ。

つまり、今、アリストテレスは女神世界の根幹に対して【錬成】をかけ、隠しスキルを掘り出したのだ。

 

 

 

 

【アルケミスト】

 

 

【モンスターテイマー】

 

 

この二つのクラスを所持こそしているが、それぞれレベル200であるべしという前提が無視され、とあるスキルが発現する。

女神の穴だらけの不具合極まりない法則など、星を見る者たちは無視している。

こんなふざけた世界を作り、多くの悲劇を看過して運営している奴にどうして従わなければならない?

 

 

【skill EX Coreless】(スキル・エクスコアレス)

 

 

それはスキルとスキルを混ぜ合わせる禁忌の能力。

アリストテレスにとって実に都合のいい玩具だ。

もはやスキルやレベルという概念が意味を持たないアリストテレスにとってこれは最高と言える程に相性がいい。

 

 

国一つ分のスキルが融合していく。

 

 

【レンジャー】【グラップラー】【ネクロマンサー】などなど、それぞれ互換性のない筈だった能力が融合を繰り返す。

 

 

 

 

『アイアンフィスト』『弱所突き』

『リベンジ』『流星脚』『シャインブロウ』

『閃き』『ダブルブロウ』『フォースブロウ』

『エクスカウンター』『ソニックフィスト』

『スマッシュ』『アーマーブレイク』

『パワーブレイク』『スピードブレイク』

『バスターインパクト』『ファイアーボール』

『アサルトアタック』『プラズマ・ボール』『ダイダルウェイブ』

『パワーアタック』『パワーソード』『流星剣』

『ジャイアントスイング』『ムーンソルトキック』

 

 

などなどなど、キリがない程のスキルが塗り固められ最終的に完成したのは簡潔極まりないスキルであった。

 

 

 

その名も……。

 

 

『攻撃』

 

 

である。

 

 

数百の能力を塗り固められ、発動と同時にあらゆる能力が完全同時に発動するコレに対しミズガルズの処理は完全に狂ってしまい、命名を付けることさえ拒絶した結果だ。

こんなもの認めないと誰が、たとえ女神が叫ぼうと実際完成してしまったものは仕方ない。

 

 

 

ミョルニルの至る所に【バルドル】が現れる。

全てがアリストテレスであり、吸血鬼たちである。

【一致団結】が真髄を発揮し始めた現状、彼らは一心同体なのだ。

 

 

直立不動のまま魔物をただ見つめる姿は不気味な幽鬼の様であった。

もしもここにルファスが居たら「ついに増え始めた」などと叫んで泡を吹く事だろう。

 

 

 

魔物の一体が佇む【バルドル】……アリストテレス実行端末 ミョルニル5564に攻撃を加えた。

巨大な爪をむき出しにし、思いっきり横薙ぎに引っ掻く。

レベル345の魔物の一撃は周囲の建物を切り裂くが【バルドル】には当たらなかった。

 

 

すり抜けた、というよりは蜃気楼を攻撃しているような手ごたえであった。

この世界に姿こそあれど、実体は存在していないような、外れたとしか表現できない現象である。

 

 

 

ドゥエドゥエドゥエドゥエ…………。

 

 

 

【バルドル】の姿がブレていく。

【サイコスルー】を上下に展開し、その間を超高速で弾かれ続ける事によってこの存在は速度を貯めていく。

貯蔵、貯蔵、貯蔵、加速、加速……。

 

 

 

あっという間に音速を超え、雷速を超え、亜光速に突入したソレはもはやベネトナシュと同等の速さを得ていた。

ヘルヘイムを蹂躙し、魔王を踏みにじった【アリストテレス執行体】と同じ動きを彼は、彼らは行っていた。

ミョルニル中に存在する実行端末は全てがヘルヘイムをズタズタにしたアリストテレスと同等の力をもっているのだ。

 

 

 

「へ?」

 

 

 

魔物が間抜けな声を上げたのも無理はないだろう。

今まで悲鳴を上げて逃げ回っていた吸血鬼たちがいきなり悪趣味な鎧に覆われ、訳のわからない動きをし始めたら誰だって困惑する。

 

 

 

「ぁ」

 

 

 

【バルドル】の姿が視界から消え、彼は“攻撃”を受けた。

とたん発動するのは混ぜ込まれ圧縮されたスキル432種だ。

既に攻撃モーションは終了したというのに、何もない所からエフェクトが次々と出現し魔物を襲った。

 

 

 

稲妻。

焔。

上空からの衝撃。

何もない所から発生した斬撃。

複数の拳圧。

 

 

 

魔物は「無」から攻撃を受けていた。

 

 

 

432種の内、11種のスキルが発動を終えた時点で魔物は跡形もなく消し飛んでいた。

攻撃相手が消えてしまった結果、残りの421種のスキルがキャンセル……されてしまうわけもない。

“攻撃”は続行される。既に“当たっている”という結果が出た以上、ミズガルズの法則はその攻撃対象を強制的に当てはめた。

 

 

周囲の魔物や亜人、竜たちが意味も判らないといった顔で消し飛んでいく。

肉片だけが飛び散り、十数の魔物は一瞬で消え去った。

全てレベル300オーバーであり、普通に戦えば吸血鬼100人でも手に負えない怪物の群れだというのに、たった一回の“戦う”で全滅したのだ。

 

 

「なんだ! 何がおこっ……」

 

 

狂乱しながら叫び声をあげていた魔物が上から押しつぶされるようにはじけ飛んだ。

さながら【流星脚】が命中したように。

誰も蹴りなど行っていないのに、彼は上から落ちてきたアタリハンテイに踏みつぶされてしまったのだ。

 

 

「…………」

 

 

【バルドル】は自分の手をじっと見つめた。

自分でも何が何だか判らないというのが正直な所である。

頭の奥底から呼びかけてきた勧誘に頷いたら、これだ。

 

 

 

何が起きているのか吸血鬼たちにも判ってはいなかった。

そしてもはや彼らの瞳には通常の世界は映ってはいない。

 

 

意識さえも巨大なナニカと繋ぎ合わされた吸血鬼たちは言わば一つの大樹の枝葉、もしくは葉である。

そして無茶苦茶な数式と意味不明な術式が絡み合って混雑する世界を彼らは観測していた。

だというのに彼らはこれをどういう風に読み取ればいいか判らされている。

 

 

 

この隙間にこの操作を実行するとオブジェクトを通り抜けられる。

この瞬間にこのスキルとスキルを組み合わせて使うと全く予想もしない結果が得られる。

例えば【瞬歩】と【サイコスルー】を器用に使いこなせば、直立したままミズガルズに定められている限界を超えた速度で世界を滑っていくことができる……。

 

 

 

 

教えられた通りに吸血鬼たちは動き出す。

【バルドル】に身を包んだ彼らは文字通りアリストテレスの使者となった。

ミョルニルの保持する約1万の戦闘員、それら全てがアリストテレスの端末なのである。

 

 

 

ミョルニルの戦いが、転換を迎えようとしていた。

 

 




ACで例えると竜王軍は粗製のMT相手に無双していたら
いきなり相手が全員ラインの乙女に変わったようなモノです。


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