ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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ベネトナシュの魅力をイイ感じに引き出せたと思うお話です。


それと一カ所「いつまで最強を気取ってんだ」の個所ですが
どうやっても青色に出来なかったのでそのままにしています。



ベネトナシュはコンティニューした!

 

 

 

(負けたのか、私は……。)

 

 

 

 

身体の感覚もなく、意識さえ定かではない中、ベネトナシュは微睡みながら己の敗北と死を何処か客観的に観ていた。

彼女は己の人生に後悔などない。また未練もなく、執着さえない。

何の意味もない、本当につまらない無価値なものだと彼女は自嘲していた。

 

 

 

全力で竜王と戦い、敗れた。

その事実だけがあり、どうあっても覆す事など出来ない。

負けた者は潔く消え去るだけ。

 

 

 

その真理を以て今まで他者に死を押し付けてきた自分が、どうして今更後悔などできようか。

 

 

 

(……走馬灯か?)

 

 

 

瞼を閉ざしてもなお再生される光景があった。

10になるとき、ロイと共に他の兄妹らと一緒に狩りに出かけた時の記憶だ。

自分と他者は違う、という子供の幻想染みた感覚が現実へと変わり、父母が父母でなくなってしまった時の話だ。

 

 

玉座に退屈そうに座る自分。

従者として控える大勢の吸血鬼たち。

先代の王である父が跪き、己に王冠を献上してくる。

 

 

その瞳には狂信的な忠誠だけがある。

断じて娘を見る父のソレではなかった。

 

 

「ベネトナシュ陛下。我らの偉大なる王、常夜の姫君。

 貴女様こそ真なる祖、かのブラッド王をも超える偉大なる夜の権化でございます」

 

 

 

違う、私が聞きたいのはそんな言葉じゃないとベネトナシュは思ったが口には出さなかった。

ただでさえ“薄い”彼を親とは余り見ていなかったというのに、そんなことを言われたらますますそうなってしまうじゃないか。

 

 

 

もっと普通の話をしてほしいと彼女は常々思っていた。

ブラッド王がどうの、狩りがどうの、真祖を超える神祖だのと、そういう難しい話ではない普通の事を。

いついつの月は美しかったや、どの魔法を組み合わせると効率的や、ミョルニルのあの店は甘い菓子を売っているなど、もっと普通の話がしたかったのだ。

 

 

(まぁ……もう意味はないがな。私も、ミョルニルも終わりだ)

 

 

 

諦めた彼女はため息をついた。

竜王が自分を殺した後、どう行動するかなど判り切っている。

嬉々として己の軍勢に合流し、吸血鬼の帝国を蹂躙する事だろう。

 

 

憎々しく、いまだに顔を思い出すだけで不快感が湧き上がる化け物だが、強さだけは本物だと彼女は認めていた。

アレは、自分よりも格上だ。

それどころか、他の獅子王らと比較してさえ飛びぬけている、異次元としかいいようがない。

 

 

 

誰もあの怪物を止める事など出来はしない。

誰が101本ある頭を同時に66666回も殺せるというのか。

自分でさえ一回が限度だったというのに、そんな存在いるはずもない。

 

 

もう少しすればこの曖昧な世界にミョルニル中の吸血鬼がこぞって押し寄せてくるのだろうかと彼女は思いあたり、うんざりした。

もういいだろう、100年だぞ、100年も私はお前たちの王をやってやったんだぞと彼女は思った。

死んでもなお集られるなど悪夢でしかない。

 

 

 

うんざりであった王など。

うんざりであった生きることが。

うんざりであった、一人で生きていくのは。

 

 

 

ベネトナシュの人生というものは常に灰色であった。

やりたくもないことをやり続け、ストレス発散の為にミズガルズ中を飛びまわり闘争に明け暮れる日々は楽しくもなんともなかった。

強者と戦っていた時だけは己の中にある空虚さを忘れることが出来たが、レベルが上がっていくにつれ戦いは作業へと変わっていき、刺激も何もないものへと変わってしまった。

 

 

 

その結果がこれだ。

散々好き勝手やった挙句、当然の報いとして竜王に目をつけられて襲撃され、返り討ちにあい死亡……。

何ともまぁ、下らない人生だったなとベネトナシュは自分を笑った。

 

 

 

 

────ベ……シュ……。

 

 

 

 

うるさい声が聞こえる。

確か父であった筈の男の声だ。

もう何十年も呼ばれたことのなかった己の名前である。

 

 

───ベネト……。

 

 

 

畏怖でもなく、信仰でもなく、畏れでもない。

普通に、ただの家族がそうするように。

 

 

 

(あぁ、うるさい。黙ってくれ)

 

 

 

 

彼女は耳と心を閉ざした。

話しかけるな、最期の時くらいは静かにしてくれと。

 

 

ただ一つ、彼女の誤算があるとしたらそれは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢の続きを見たいというのならば、貴方は何を差し出せますか?

 

 

 

 

 

アリストテレスの問いかけは簡潔でありながら、恐ろしい程の圧があるものであった。

彼は試している。“死”という世界において絶対的な理に挑むことを望むモノに、それの対価を払えるのかと。

アウストラリス先王は一瞬だけ怯んだが、直ぐに虚空を睨みつけて答えた。

 

 

 

「我に何を望む?」

 

 

 

全てを。

 

 

 

 

とたん【一致団結】を用いてアウストラリスの頭に直接情報が送り込まれた。

彼の望みを叶えるために何をすればいいか、その為には何を必要とするのか、それら全てを余さずアリストテレスは彼に伝えた。

 

 

アリストテレスは詐欺師ではない。

適当に力だけを与えて自己満足に浸る不愉快な女神とは違う。

彼は発生するであろうリスクや、失敗の可能性の方が高いということも含めて先王に全てを教えた。

 

 

 

アリストテレスの提案とは言葉にすれば簡単なものであった。

彼は、ベネトナシュを作り直すと言っている。

より強く、優れた存在へと昇華させた上でベネトナシュを再構築すると。

 

 

 

既に彼女の肉体は竜王によって砕かれ、亡骸は灰にかわり消え去ってしまった。

例え伝説に謳われる最高峰の【水】の天法を以てしても彼女を蘇生することは叶わないだろう。

仮に可能であったとしても、竜王よりも弱い彼女を呼び戻したところでもう一度殺されるのが目に見えている。

 

 

 

だからこその作り直し(アップグレード)

アリストテレスの秘法がもしも成功した場合、ベネトナシュは更なる力を得た上で蘇る事だろう。

もしも失敗したら、残念ながら何もかもが失われる。

 

 

そしてベネトナシュを作り直す上で当然の事として材料が必要になる。

空気中に霧散した彼女の灰の一部と、彼女を構築していた大本……。

つまり、ベネトナシュの父母である。

 

 

文字通り彼は“全て”を吸血鬼の男に要求したのだ。

アリストテレスはアウストラリスとその妻、ベネトナシュの母親を材料に彼女を作り直そうと提案したのだった。

それでも足りない場合を考えて、数多くいる彼女の兄妹も少々拝借しても構わないだろうかと彼は淡々と続けた。

 

 

 

二つに一つの賭けとさえいえた。

普通ならばふざけるなと糾弾される倫理観の欠片もない提案である。

 

 

 

 

「…………っ」

 

 

 

アウストラリスの頬を汗が伝う。

決してはったりではない事を彼は長い生涯からくる経験で悟っていた。

この男は、アリストテレスは、命を作品を作る材料か何かと思っていると彼は理解し……。

 

 

 

「ッッ! いいだろう! くれてやるッッ!! 

 それで陛下が、あの御方がお戻りになられるというのならば!!!」

 

 

 

悪魔の手を彼は取った。

はっきりと、絶対に聞き間違いなど起こらない様に断言する。

彼は彼の意思で、ベネトナシュの材料になると決めた。

 

 

確率は万に一つ。

こちらが十全に成功したとしても、ベネトナシュの意思が戻るかどうかはあくまでも彼女次第。

前代未聞の儀式にはミョルニル中の存在の力を結集させる必要がある。

それだけやっても徒労に終わる可能性の方が遥かに高い。

 

 

とんでもない話であった。

悪魔だってもっとましな契約を持ち掛けるだろう。

しかし、しかし、彼にとっては那由他の果てであろうと十分すぎる程であった。

 

 

それでベネトナシュ()が帰ってくるのならば喜んで差し出してやると彼は声を張り上げて宣言した。

 

 

 

アリストテレスは次いで確認しようとする前に、彼の妻からも同じ内容の思念が届いた。

彼の妻もまたベネトナシュの再生計画に“了承”したのだ。

それは己の娘を思う気持ちか、はたまた至高の吸血姫という存在への信仰か、判断に困る所であった。

 

 

 

 

承りました。では、玉座の間にお越しください。儀式を始めます。

 

 

 

淡々と、まるで人間の熱を感じさせない口調でアリストテレスは吸血鬼に行動を促すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

概念的な繋がりを齎す【一致団結】を通してミョルニル中の力が集められていく。

ズタズタに裂かれたとはいえ、一部はまだ残っていた大通りの魔力の通り道を応用し、あらゆるスキルが整理/再編され来る最大最高の儀式に備えていた。

竜王軍は撤退し、吸血鬼たちは【バルドル】を纏ったミョルニルは恐ろしい程の静けさに覆われているが、街そのものは微かに発光を始めていた。

 

 

 

蒼い、青い瞳が街の全てを瞬時に見渡し、必要な量の出力を備えているかのチェックを開始した。

 

 

 

 

【ネクロマンサー】 保持者 4555人。スキル行使の為の出力……問題なし。

【エスパー】    保持者 449人。出力……問題なし。

【アルケミスト】  保持者 3321人。錬成出力、要求値をクリア。

【プリースト】   保持者 1121人。天力精製出力……問題なし。

【ソーサラー】   保持者 112人。 魔力精製出力……問題なし。

 

 

 

必要マナ、問題なし。

不足分は果実を使用。

最低レベル1000達成は確実。

さらに能力値の補正の為、アンタレスを使用。

 

 

 

 

 

ミョルニル中の血液が蠢いていた。

竜王軍と吸血鬼たち、この街で死したものすべてが等しく流した膨大な量の血液の表面が鼓動する様にさざ波を立たせていた。

矢印の形へと変わった血が、まるで己の意思を持つかの様に動き出していく……。

 

 

 

 

半ば崩れかけながらも健在たる玉座の間。

ロイ率いる親衛隊たちが死に物狂いで守り切ったミョルニルの中枢たる部屋にはプランとアウストラリス王がいた。

王の背後には彼の妻───ベネトナシュの母───と吸血姫のきょうだい達が集結している。

 

 

 

誰も彼もがプランを見ていた。

もはや「出来るのか?」や「本当に?」等と言うたわごとを誰も口にはしなかった。

【一致団結】によって脳髄の奥という奥まで情報を叩き込まれた彼らはアリストテレスがどうやってベネトナシュを復活させようとしているか完全に理解しているのだ。

 

 

成功しようがしまいが死ぬ。

自分たちはここで終わりだ。

しかし、ベネトナシュを黄泉の淵より連れ戻す可能性は確かに在る。

 

 

 

ならばやろう、というのが彼らの決意であった。

根底にあるのは家族への愛か、はたまた先を征く者への狂信か。

 

 

 

 

「繰り返しますが、これは賭けです。

 成功しない確率の方が遥かに高く、皆様が割に合わないと思うのでしたら──」

 

 

プランは最終通達を発しようとするが、それを先王、いや今は一時的に王に戻っているアウストラリスが遮った。

静かでありながら燃えるような紅い目がプランを射抜き、重々しく彼は一言だけ発した。

 

 

 

「アリストテレス。始めろ」

 

 

 

「───畏まりました」

 

 

 

 

プランは恭しく礼をする。

もはやこれ以上の問答は無用だと彼は悟ったのだ。

貴重な時間は消費され続けている。

 

 

 

竜王の軍こそ撤退したが、竜王そのものはミョルニルからほんの数十キロの地点に健在ということを忘れてはいない。

ベネトナシュを下した彼は今はもしかしたら勝利の余韻に浸っているのかもしれないがどちらにせよソレも長くは続かない。

彼がこちらに来て暴れてしまったら……まぁ、面倒くさいことになるだろう。

 

 

 

 

アウストラリスが玉座に歩み寄り手を翳すと部屋中が薄く光を放ち始めた。

膨大な量のマナが循環を開始し、それはミョルニルに張り巡らされている大通りを伝っていく。

幾つかは断線しているが、それでも国そのものを魔方陣に作り替えるという仕掛けは生きていた。

 

 

 

「ブリーキンダ・ベル最後の王として

 プラン・アリストテレスに国土魔法陣を下賜することを宣言する」

 

 

 

先王の権限によりミョルニルという国一つを用いて作られた魔方陣が活性化され、その使用権利がプランへと移譲される。

これで準備は完了であった。

 

 

 

「謹んでお受けいたします」

 

 

 

 

アリストテレスは心からの敬意を込めたように頭を下げると直ぐに一つのスキルを発動させた。

 

 

 

 

【マネーゲッター】

 

 

 

【直感】

 

 

 

 

かつてアリエスを探す際に用いられた誰にも所有権がなく、かつプランが必要とするものを手元に取り寄せる組み合わせだ。

これを使って彼は掌の中に一握りの灰を出現させた。

余りに軽く、銀色に光り輝くソレはベネトナシュの遺灰であった。

 

 

遺灰を大きくばら撒くと同時に【錬成】や【クリエイト・アンデッド】などを代表とした命に干渉するスキルを次々と発動させていく。

アウストラリスを始めとした吸血姫の親族たちの身体が崩れていく。

幾度も繰り返し発動される【錬成】によって分解されているのだ。

 

 

肉体、魂、精神、保持するマナに記憶に記録。

その他あらゆる要素がバラバラに解かれていく中であっても誰も声一つ上げなかった。

全てを受け入れ、ベネトナシュの蘇生の為であると望んでさえいた。

 

 

 

「感謝する、アリストテレス卿」

 

 

 

アウストラリスが笑った。

彼の隣に妻が寄り添い、ベネトナシュのきょうだいたちが集まった。

誰の顔にも笑顔があった。

 

 

 

「……此度の件は元をたどれば我に責があるのだ」

 

 

 

 

崩壊しながら男が言った。

死さえも生ぬるい消滅が迫っているというのに何処までも穏やかな顔であった。

 

 

 

「あの子に全てを押し付けてしまった。

 そうだ、我はベネトナシュ陛下を一人荒野の中に放り出してしまったのだ」

 

 

 

 

「歓喜だったのだ。我の種より至高の吸血姫が降臨してくれたことが。

 ……我は、あの子の強さしか見ていなかった」

 

 

 

 

アウストラリスは自嘲するように笑った。

彼の妻もまた目を伏せた。

 

 

 

「我の手助けなど必要ないと思っていた」

 

 

 

「あの子が生きる事に飽いていると知りつつ、何もしてやれなかった」

 

 

 

 

玉座に君臨する娘が何もかも諦めているような瞳をしていたと彼は知っていた。

知っていて、何もしなかった。

必要ないと彼は思っていたのだ。強いのだから、何でも出来ると。

 

 

 

最強の力をもった少女。

誰も彼もが彼女の力だけを見て、何もかもを押し付けた。

その結果がベネトナシュの無秩序な暴走と、竜王の報復である。

 

 

ミョルニルが砕かれたのは自分のせいだと彼は懺悔した。

 

 

「娘が死んだと聞いて……我は……驚愕したのだ」

 

 

 

「ベネトナシュ陛下は、死ぬ存在なのだと、な」

 

 

 

「そして……あの方が死ぬことなどありえないとさえ思っていた自分がいることに気が付いた」

 

 

 

笑える話だろう? と彼はアリストテレスに同意を求めた。

親が子を失って最初に覚えるのが悲しみではないなどと。

 

 

 

「だから、これはせめてもの罪滅ぼしだ。

 あの子がもしもあの瞳のまま、生きる事に何の悦も見出せぬまま果てたというのならば、そんな最後を我は認められない」

 

 

 

 

「……どうしようもない愚か者の我であったが、せめて一つくらいは親らしいことをしてやりたい」

 

 

 

 

 

アウストラリス王はプランに笑いかけた。

何の気負いもない純粋で、朗らかな笑顔だった。

 

 

 

「礼を言うアリストテレス卿」

 

 

「失敗した我が口にするのは愚かであろうが……貴様にも子が出来た時には……間違えるなよ」

 

 

 

アリストテレスはプランの顔に戻り、一瞬だけ瞳を揺らした。

脳裏をよぎったのはルファスであった。

常に彼女との付き合い方を間違っていないか考えている彼にとって、ベネトナシュとの関係構築に失敗した男の忠告は突き刺さるものだった。

 

 

 

 

アウストラリスが崩れる。

最期に彼は妻と寄り添い合いながら消え去った。

また、彼の周りにいたきょうだい達も崩壊し、極小単位のマナにまで分解された。

 

 

 

 

────女神さえも出来ない奇跡を以て貴方たちの献身にお応えしましょう。

 

 

 

 

プラン・アリストテレスは深い敬意を抱きながら全身全霊を発揮することを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血液が集まっていく。

矢印の様な形に変化したミョルニル中の膨大な量の血が、まるで川の様に流れつつ蠢きながら都市の中心に収束していく。

 

 

 

これこそ【錬成】の極致。

アリストテレスが女神を葬ると決めた時、自分たちには何が出来ると考えて見出した奇跡。

純粋なるマナを用いた創造である【狼の冬】を更に拡大発展させた生命への干渉技術であった。

 

 

女神さえも不可能な、純粋なる命の創造を彼らは行っていた。

当然奇跡は奇跡であり、普通ならば彼らの力をもってしても成功確率など那由他の果てであるが、そこにプランの瞳が加われば話は別であった。

 

 

彼の瞳は世界を動かす法則を直に読みとり、一瞬一瞬ごとに変わり続ける乱数を観測可能なのだ。

故に天文学的な分岐を見出す世界の中で、失敗する可能性だけを回避/排除/無視を繰り返すことにより不可能を可能へと落とし込んでいく。

 

 

 

人体の錬成。

ここではルファスの羽根を研究して得た知見が役に立った。

ベネトナシュ程ではないが、彼女は先祖返りと突然変異を同時に起こした存在であり、吸血姫と非常に近しい身体構造をしていた。

彼女の灰を基軸に、両親、きょうだい、無数の血液という素材を湯水の如く消費し編み込んでいく。

 

 

 

 

生命の創造。

概念的な世界になるが、ここではヘルヘイムで得た魔王の知見が役に立った。

ルファスとは別種の超高濃度のマナ生命体である彼の身体構造は、ベネトナシュの肉体に多量のマナを宿らせた上で安定させるのに非常に素晴らしい教本となった。

果実を2つ、ミョルニル中のあらゆるマナ、彼女に落とされたアイガイオンから発せられるものまで全てを吸引し叩き込んでいく。

 

 

 

レベル1000をダース単位で作れるだけのマナを打ち込んでいきながらとあるアリストテレス卿は微笑みながら仲間たちに提案した。

 

 

 

 

レベル上限……何とかしたいですよね?

 

 

 

 

当然、と歴代たちは頷き、ベネトナシュの存在に手を加えていく。

作り直すと決めた時点で、アリストテレス達は妥協するつもりなどなかった。

何より当代がやる気に満ちていた。

娘の為に、一方的とはいえ究極の献身を見せた先王への敬意が彼を突き動かしている。

 

 

 

仮想敵は同じく力を増した竜王と龍を想定し、彼女の能力を決めていく。

とりあえず、レベル上限を500ほど越えさせてみようかと結論が下された。

 

 

 

 

 

 

国一つを埋め尽くす血液が収束し真っ赤な月のような形状へと変わった。

ミョルニルの中心部から500メートルほどの高度に形成されたソレは時折脈打つように輝いている。

さながら繭の様であると吸血鬼たちは感想を抱いた。

 

 

肉体の創造は問題なく進んでいた。

ベネトナシュの150センチにも満たない小柄な体の中には想像を絶する量のマナが詰め込まれ、それらは肉体を常に活性化させ続けていた。

このままいけば前人未踏のレベル限界突破を許されるだけの素養が彼女には与えられることだろう。

 

 

しかし……問題は中身の方であった。

此方の方が遥かに面倒で、大変で、複雑だ。

いかに優れた肉体の素養があったとして、それを使いこなせるかどうかは中身にかかっている。

 

 

 

【一致団結】により全ての情報を共有している民たちは、先王たちがベネトナシュを蘇らせるために全てを捧げたという事を既に知っていた。

されど誰も悲しむ者はいない。彼らの胸の中にあったのは誇りであった。

ミョルニルは崩壊しかけているが、それでも何もかも失われたわけではないと彼らは思い、誰もが黙って成り行きを見届けるという選択を取った。

 

 

 

 

 

 

蒼い光が灯る。

ベネトナシュは己の名を呼ぶ声を無視し続けていたが、ふと、瞼を閉じていてもなお煌めく青光りを認識し、鬱陶しく思いながら目を開けた。

 

 

誰かが自分を見ている。

父でも母でも、ましてや数多く居たきょうだい達でもない。

ベネトナシュはその名前を知らなかったが、彼女の前にいたのは【バルドル】であった。

蒼い光を眼窩から零しながら不気味な佇まいの存在は彼女を見ている。

 

 

 

頭の中に声が響いてきた。

つい最近聞いた事があるような、若い男の声であった。

淡々とした薄ら寒い響きであった。

 

 

 

おめでとうございます。貴女の肉体の再構築は問題なく完了いたします。

 

 

あとは貴女様が肉体に還れば全ては元通り。

 

 

貴女は竜王を打ち倒す力を得て現世に帰還することが叶いましょう。

 

 

 

(失せろ)

 

 

 

 

たった一声だけ彼女は告げた。

不快感を隠そうともしない。

縦に裂けたおぞましい瞳孔で【バルドル】を睨みつける。

 

 

 

 

(うんざりだ。

 私は敗北した。父上たちに対する義理は果たした。

 もう、貴様らの遊戯に付き合うつもりなどない)

 

 

 

 

こいつが誰かなど知らないが、また私を利用する気かとベネトナシュは吐き捨てた。

100年も下等で劣る者の為に戦ったのだ。

もう茶番に付き合う気などないと断言してやる。

 

 

 

 

(いつ私が貴様に助けてほしい等と願った? そんなことをされて私が喜ぶとでも思ったか?)

 

 

 

 

常人どころか竜さえも震える程の殺気を込めてベネトナシュは拒絶を紡いだ。

こいつは何を勘違いしてるのだ? 横からいきなりわいてきて、好き勝手するふざけたクズがと罵る。

自分の戦いは自分だけのモノ。勝利も此度の敗北も、全て己だけのモノ。

 

 

全身全霊で戦った。

その上で竜王に敗れた。

不満こそあれど後悔などベネトナシュにはなかった。

 

 

 

命を得てたどり着いた結末に茶々をいれてくるこの存在が不愉快極まりなかった。

何様のつもりだ? 神様気取りで「助けてやった」等と自己満足にでも浸るつもりか?

 

 

 

(貴様など必要ない……何度も言わせるな、失せろっ!)

 

 

 

(私の戦いも、命も!! 

 敗北さえも私だけのモノだ!!! 貴様の出る幕などないッ!!!)

 

 

 

空間が震える程の憎悪と憤怒を叩きつけてやる。

が……【バルドル】はベネトナシュの全霊の怒りをぶつけられて小動もしなかった。

彼は目を細めて吟味する様に吸血姫を見ている。

 

 

 

 

蒼い光が笑うように陰った。

【バルドル】から幾つもの声が零れる。

まるで閉ざしていた蓋が少しだけ開いた様に、多くの意識がこぼれ出る。

 

 

男の声があった。

笑い声がまず吐き出される。

 

 

はっはっはっはっ……私達を拒絶するか。

 

 

 

女の声が次に出た。

美しい澄んだ声であり、無邪気な童女の様であった。

 

 

 

あれ? まさか自分に何かを決める権利があるって思ってたの? 

 

 

 

次は男の声であった。

何処か荒々しい口調の男の声でベネトナシュの精神を逆なでする嘲りが放たれた。

おおよそ100年生きてきた彼女でさえ聞いた事のない不快で、見下しに満ちた声だった。

 

 

 

いつまで最強を気取ってんだ?

竜王にやられた役立たずが。

 

 

 

 

お前は黙って「はい、ありがとうございましゅぅ」って言ってりゃいいんだよ。

 

 

 

 

老人の声が次に現れる。

厳粛で、あらゆるモノを平等に秤った上で裁く断罪者の様な声音であった。

 

 

 

返答を受諾した。無理強いした所で我々の与えてやる肉体を使いこなす事は出来ないだろう。

 

 

 

安心したまえ。君の肉体と名前はアリストテレスが最大限に活用してやろう。

 

 

 

 

余りの物言いにベネトナシュの額に青筋が浮かぶが、そんな彼女の様子など知った事ではないとアリストテレスは続けていく。

彼女の矜持、魂、心に決定的な打撃を与える事実を彼は何でもない様に告げた。

 

 

 

 

※そうだ。これだけは伝えておこうか。

 

 

※君の肉体を再構築するにあたって、君の両親ときょうだい達13人を消費させてもらったよ。

 

 

 

 

え……? と明かされた事実にベネトナシュは目を見開き、一瞬だけ思考を停止させる。

そんな彼女に更にアリストテレスは無慈悲に追い打ちをかけた。

これで奮起するならばよし、しないのならば、まあ、アウストラリスとの契約は守ったから問題ないかと思いながら。

 

 

そちらの世で再会できたのなら、犠牲を無駄にして申し訳ないと謝罪しておきたまえ。

 

 

 

たまらずベネトナシュは怒りに突き動かされて叫んでいた。

憎悪を滾らせつつ竜王に見せたモノ以上の憤怒を以て声を張り上げる。

 

 

 

ふざけるなっ! 貴様ッッ!! 誰がそんなことを許可したッッ!!

 

 

 

 

彼女の怒りなど知った事ではないとアリストテレスは最初の青年の声に戻り、心からの労いの言葉を発する。

【バルドル】の姿が薄くなっていく、話はもう終わりだと彼らは次の仕事に取り掛かろうとしていた。

 

 

 

よい旅を、ベネトナシュ陛下。後はお任せください。

 

 

 

アリストテレス、アリストテレス、アリストテレス……ベネトナシュは幾度もその名を繰り返した。

名前を憶えたぞ、アリストテレス……と彼女は憎悪を込めた瞳で彼がいた個所を睨みつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

『continue』  ……完了。

 

 

 

 

 

 

 

月が、割れた。

真っ赤な、国にあった全ての血を以て作り上げられた深紅の繭にひびが入り、内側より少女がその姿を露わにした。

光の反射で紫にも見える長い銀髪。恐ろしい程に白い肌。

小柄で華奢な身体ではあるが、その実だれよりも強く素早い四肢。

 

 

 

そして、瞼を開けば鮮やかな()()()がそこにはあった。

彼女の名前は吸血姫ベネトナシュというモノ。

ベネトナシュの身体は死の淵より戻ってきたのだ。

 

 

 

 

ミョルニル中の吸血鬼たちが歓喜の声を上げた。

還ってきた、我らの支配者が彼岸より帰ってきたと誰もが狂乱した。

ごく一部、ベネトナシュの姿に違和感を覚えたモノもいたがそれらは本当に一部だけであった。

 

 

恐ろしい程に蒼い月を従え、ベネトナシュは竜王を無機質に見つめている。まるで人形の様に。

中身のない彼女に【一致団結】が伸ばされ、かつてルファスの前でバルドルを動かしたようにアリストテレスは操演を始めた。

 

 

 

吸血姫ベネトナシュ(アリストテレス実行端末)

 

 レベル 1500

 

 種族:吸血姫

 

 クラスレベル

 

 グラップラー 「200」

 

 チャンピオン 「200」

 

 アサシン   「100」

  

 アーチャー  「100」

 

 ストライダー 「300」

 

 アルケミスト 「100」

 

 メイジ    「200」

 

 ソーサラー  「200」

 

 ネクロマンサー「100」

 

 

 

 

 

()()()が細められる。

彼女の視線の先……10キロほど彼方には竜王の巨躯が映っていた。

彼もまたベネトナシュを見て、本当に訳が分からないと頭を傾げている。

 

 

 

『あれれれ? たしかに死んだよね?』

 

 

 

うーんと竜王の101個ある顔が顰められた。

確かに消した筈の存在がどうやったかは不明だが目の前に戻ってきているという現実に彼は本当に困惑しているようだった。

 

 

 

『ま、いっか! もういっかい こんどはしっかり 殺してあげるっ!』

 

 

 

歓喜を浮かべながら迫る竜王にベネトナシュは無表情で佇みスキルを発動させる。

既に彼らの脳内では竜王を殺すための算段が高速で組み立てられていた。

 

 

 

【ターゲティング】を101回ほど同時に発動させ、竜王の全ての頭にターゲット集中をかけた上で【アステラ】と言うスキルも発動させておく。

次に【スキル・エクスコアレス】を用いてお馴染みの【瞬歩】と【瞬歩】を融合。

新しく作成されたスキルの名前はさしづめ【ブースト】とでも名付けようか。

 

 

【ブースト】は【瞬歩】よりも早く、的確で、小回りの利く素晴らしいスキルであった。

そして何より、このスキルは一度発動させると優先度は6に設定されているため、あらゆる行動を無視して行う事が出来る。

他のスキルを発動時に攻撃モーションに入っていようが、何なら相手の攻撃を受けている時であっても高速で前進を可能にするスキルだった。

 

 

 

 

 

『は?』

 

 

ラードゥンが思わず間抜けな声を上げたのも仕方ない事であった。

一瞬で竜王の巨体に接近したベネトナシュが、声も上げずに彼の頭部に踵落としを叩き込んだのだ。

しかしただ目視できない程の速度で殴られたのだったならば竜王もこんな声はあげない。

 

 

 

ベネトナシュの攻撃動作は一回だけだった。

殴ったのは竜王から伸ばされた蛇竜の一匹。

だというのに、竜王の身体にある全ての首が同時に衝撃を受け、損傷を負ったからだ。

 

 

ミシミシ、という意味不明なアタリハンテイだけが竜王の身体を襲い、一瞬で全ての頭部のHPを半分ほど削り取った。

どういう原理かは全く判らないが、ベネトナシュの攻撃は全ての首に対してアタリハンテイを発生させている。

【アステラ】という本来ならば個人に掛ける魔法や天法を広域化させる術と【ターゲティング】を組み合わせると、攻撃の判定は注視した存在全てに対する全体攻撃として扱われるのだ。

 

 

 

『あ、あばっばばばばばばっばばあぁぁ!?』

 

 

 

竜王が意味不明の現象に目を白黒させながら、まるでボールの様に跳ね飛んだ。

彼の落下地点の大地の反発係数は既に書き換えられていた。

ルファスとの模擬戦にも使用された反発係数操作である。

 

 

此度の係数は「3000倍」に変化させられていた。

一瞬で101回の攻撃を受けた竜王は高速で地面に叩きつけられ、勢いを殺すどころか更なる速さを以てベネトナシュの下に還り、当然の様に地面へと殴り返される……。

 

 

 

ラードゥンの100メートルを超える巨体は、もはや暴風に弄ばれる花弁の様であった。

3000倍の感度で叩きつけられ、戻る、叩かれるを繰り返され続け、命が猛烈な勢いで吹き飛んでいく。

 

 

 

『あぎゃがががっ!?』

 

 

 

地面に衝突、戻る、ベネトナシュに叩き返される。

全ての頭部が一度潰され、竜王の命の数が一つ減った。

しかし受け継がれる魂(ソウル・サクセッション)は不発に終わる。

 

 

HPの回復とバフこそかかるものの、デバフが発動しない。

世界による判定では竜王を殺したのは“地面”であり、自分と敵対する対象を取って発動するこのスキルは、デバフをかける相手を取れない為に不発になってしまっている。

 

 

秒間3400回、竜王は地面に叩きつけては戻るを繰り返す。

遠目から見るモノは内心「まるでボール遊びの様だ」と思う事だろう。

 

 

 

『な!? なにがっががっがあっ!!』

 

 

 

『ホワァアアアアアあああああ!!??』

 

 

 

 

叩きつけられ、係数を掛けられてバウンド。

またベネトナシュの下に還り……叩きつけられる。

遠い世界における『バスケットボール』の様に竜王は弄ばれ、彼は5秒間の内に30個ほどの命を失うのであった。

 

 

 

 

 

蒼い瞳だけが無機質に輝き続け、竜王を殺すべくベネトナシュは動き続けるのだ。

 

 






ベネトナシュ



『彼女は普通に説得してもまず応じてくれません』

『なので一度怒らせる必要があるんですね』

『彼女には恨まれてしまいますがミョルニルは救えたので問題ありません』


───アリストテレス卿

原作においてもベジータ系女子といわれるだけあって、ボコボコにされてる時の彼女が一番輝いていると思う。


ラードゥン

感度3000倍バスケ中。


主人公

バ美肉などとは言ってはいけない。




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