ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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→竜王▂▅▇█▓▒░(#゚Д゚)░▒▓█▇▅▂アリストテレス←
           ↑ベネトナシュ



ミョルニル編を簡単に表すとこうなります。


ベネトナシュのダメージチャレンジ!

 

 

“吸血姫”と“竜王”の戦いは第三ラウンドにまでもつれ込んでいた。

ミョルニルの長い一日は、ようやく最終局面に突入したのだ。

対峙するのは異形極まりない竜王と、不気味な鎧に身を包んだベネトナシュの両名。

 

 

 

どちらも現状単体でミズガルズを消し飛ばしえる力を誇る天上の超越者である。

 

 

 

 

『ははははは!』

 

 

 

最初に動いたのはやはり竜王であった。

彼は悪意に満ちた無邪気な笑い声を上げて、6本の腕を器用に動かす。

上右腕と上左腕が拳を握りしめられ、不気味な輝きを放った。

 

 

 

“四強”を名乗るに相応しい怪物から、まずは軽い挨拶が放たれる。

 

 

 

【スマッシュ】

 

 

 

ソレは必ず着弾時にクリティカルを発生させる必殺の拳。

ラードゥンがもしもミズガルズにこの拳を叩きつけていたら、彼を中心に惑星に破局的な大衝撃が走り、地殻津波が発生しかねない威力がある。

そんな大絶滅を引き起こす攻撃をラードゥンは秒間2億発ほど放つことが出来た。

 

 

しかもただ拳を無造作に動かすのではなく、腕を構築する竜たちが独自に考え、あらゆる技術を練り込んでいく。

異なる角度、異なる速さ、異なるタイミングに異なる軌道。

決して力任せではなく、ラードゥンはあらゆる技巧を駆使してベネトナシュを殺しにかかっている。

 

 

 

威力に換算して一発受ければ120万ダメージほどを受けかねない破局の乱打攻撃である。

これを前にすれば“獅子王”の膨大極まる体力でさえ瞬時に削り取られかねない程だった。

彼にはダメージ限界値など意味はない。

皮肉なことに女神を最も信奉する彼こそが、女神の法より最も外れてしまっている。

 

 

 

竜王の“れんぞくパンチ”を差し向けられたベネトナシュの視界には恐ろしい数の流星が見えていた。

既に物理法則など凌駕しているレベル1350の怪物の拳は光を超えており、その結果、世界が彼の動作を描写しきれず、彼の拳圧は輝く白い光の線となってしまっていた。

光よりも早く迫る2億の流れ星、一つでも当たれば120万ダメージ。

 

 

 

今のベネトナシュのHPは170万ほどであるから、一撃は耐えられるが、もしも微かにでも掠りなどして足を止めたら……説明しなくてもわかる結果が待っている。

 

 

 

【観察眼】が恐ろしい精度でラードゥンの拳を見ていた。

ベネトナシュの瞳は竜王の拳と、その中に蠢く数値を観察している。

彼女は【ネクロマンサー】と【ソーサラー】のクラスを併せ持つことにより所持していた【バジリスク】という魔法を瞬時に使用する。

 

 

これは名前から察せられるように、対象を石化させる魔法だ。

本来のベネトナシュは見向きもしないつまらない魔法だった。

 

 

 

対象は竜王の拳である。

もちろん規格外の魔法に対する耐性を持つ彼にそんなことをしても何の意味もない。

精々、一立方ミリメートル程度の面積が微かにパキンと石化する程度だ。

 

 

 

竜王のオリハルコンさえ上回る強度の鱗と装甲に包まれた拳で殴られるのと、それより少しばかり有情な金剛石以上の硬度の石の拳で殴られるの、どちらがマシか、という話ではない。

ラードゥンの身体は101体の竜が絡み合い融合しながらも、独立しているという点が大事だった。

ミズガルズの法則は【バジリスク】が竜王の拳を形成している竜に通った以上、彼の拳は生物ではない/石である/動かないと法則を処理した。

 

 

しかし現実として竜王の【スマッシュ】はベネトナシュに迫り、その威力は恐ろしいモノであるが───ただ一つ、そこに内包されていたクリティカル判定だけが消えうせた。

ゴーレムでもない石は動かない→石は攻撃できない→石はクリティカルを出せないという三段階に及ぶ理論がここにはある。

結果、彼の腕を通してラードゥンからは永遠にクリティカルを発生させる能力が失われる。

 

 

 

彼は今後一切、クリティカルを出せなくなったのだ。

そして【スマッシュ】とは発動した時点でクリティカルを必ず発生させるスキルである。

しかし竜王はクリティカルを出せないという矛盾が発生する。

 

 

 

 

つまり……【スマッシュ】は()()()()()される。

ラードゥンのスキル欄からもクリティカルに関連する全ての技が消え去った。

結果、彼の放った2億の拳は対象を見失い、空中に漂う光の塊となって薄れていく。

 

 

 

【マネーゲッター】

 

 

 

ベネトナシュは“所持者のいないアイテムを己のモノにする”スキルを瞬時に計算式に割り込ませる。

結果、彼女は“120万ダメージ”を“2億個”獲得した(ストレージ保存)

攻撃をストレージすることに成功した彼女はそれでも顔色一つ変えない。

 

 

 

 

『………』

 

 

 

竜王は次に中右腕と左腕を動かす。

ナニカとても気持ち悪い気分だった。

己の根幹を弄りまわされたかのような不気味さを噛み締めながら、彼は容赦なく攻撃の手を続ける。

 

 

腕一本を形成する3~5匹の竜×2が魔力を充填。

瞬時に上位の魔法を発動させる。

先の【スマッシュ】の乱打に比べれば少しはマシかもしれないが、それでもミズガルズの表層を根絶させかねない力を女神からの加護と勇者のスキルにより強化された身で行使。

 

 

 

【フォトンスマッシャー】

 

【フォトンレイ】

 

【フォトンバスター】

 

【フォトンシューター】

 

 

 

 

「日」属性の魔法が無尽蔵の魔力を以て豪雨の如く放たれる。先の【スマッシュ】よりも更に多い。

一発一発が都市を消し飛ばし、星に十字架を突き立てる光の乱舞であった。

どれだけSPを使おうと次の瞬間には女神の加護により瞬時に全快するラードゥンにはSP切れという概念は存在しない。

 

 

 

煌めく細い線は恐ろしい程の殺意が秘められている。

レベル900のベネトナシュであったのならば、これを避ける事も出来ずに瞬間的に蒸発していたであろう破壊の暴風雨だ。

 

 

 

ここでベネトナシュが初めて動いた。

彼女はマスクの後頭部から流している銀色の長髪を美しくたなびかせ、ワルツを踊る様にタン、タタンと軽やかに踏み出す。

 

 

そして、彼女の姿は竜王の視界から消え去った。

レベル1500、女神の法より外れた肉体がその性能を十全に使いこなされた結果である。

竜王の眼は時間を圧縮し、周囲の景色全てを停止させるほどの能力がある。

 

 

そんな彼であっても、今のベネトナシュの姿は追えない。

202個の瞳が必死に全方位をギョロギョロと見渡すが、今度は影さえ踏めない。

右に左に、乱雑に動いているように見えてアリストテレスはミョルニル中の吸血鬼の頭脳を補助演算装置として活用し、これまでにない精度でベネトナシュを運用していた。

 

 

視界を埋め尽くす魔法の雨をみて、ベネトナシュは可愛らしく頭を傾げた。

まさか、これで自分を狙っているつもりなのか? と。

 

 

銀の閃光が、無尽蔵に放たれる竜王の弾幕を軽々と掻い潜った。

ハエの通る隙間もない猛攻撃であったが、吸血姫を捉えるには余りにお粗末だった。

 

 

 

 

【ブースト】を小刻みに活用し、瞬間的に竜王の懐に飛び込んだベネトナシュは、彼の首が反応するよりも早くスキルを発動させる。

マズイ、と竜王の眼が見開かれるが既に遅い。

ラードゥンが本気を見せたように、彼女もまたこの身体に馴染んで来た結果、先ほどとは段違いの精度で世界の陥穽を利用した技を活用できるのだ。

 

 

 

まずは手はじめに、これを受けて貰おうかとアリストテレスは最強の肉体を動かしながら愉しんだ。

ベネトナシュが拳を握りしめ【グラップラー】の有するスキル中でも有数の火力を誇る力を解放した。

 

 

 

【バスターインパクト】

 

 

 

同時にスキルの発動に合わせて【任意コード実行】処理を走らせる。

 

 

 

“~A+C>923E→/←C”

 

 

 

訳のわからない文字列であったが、アリストテレスはこれの意味を完全に理解していた。

ベネトナシュの小さな握りこぶしが天を割る様に突き出される。

それはラードゥンの燃え上がっている腹部に着弾し、光の柱が彼の背中から突き抜け……突き抜け続ける。

 

 

攻撃処理が、途切れる事無く彼の中に残り続ける。

無限に続く昇竜拳が彼の命のみぞに突き刺さったのだ。

本来ならば一瞬で終わる筈の当たり判定処理が、永続し続ける。

 

 

もはや何発当たっているのかさえ世界は理解できず悲鳴の様に意味不明な処理を続ける。

 

 

202HIT!

 

 

432HIT!

 

 

998HIT!

 

 

1020208い09HIT!

 

 

 

 

 

 

HITHITHIT……ERROR……COIN ERROR!!

 

 

 

 

 

 

終らない。終わりのないのが終りという言葉が存在するが、これはまさにそれを体現している。

ラードゥンは永遠に続く【バスターインパクト】の破壊を味わい続けることになった。

既にベネトナシュは彼の腹部から離れたというのに、永遠に衝撃が波及し、身体が再生と破壊を繰り返す。

 

 

 

 

『ぐっっが!』『あおぐがぁ!!』

 

『ひぎっがぁ!?』『イギイイアイァ!!』

 

 

 

 

竜王の頭がまた同時に吹き飛びと再生のループに陥った。

相変わらず【ターゲティング】は全ての頭を捉え続けており、攻撃の全体化は有効なのだ。

つまり、彼は永遠に死に続ける目に合う。

 

 

文字通り、彼は“インパクト”を死ぬほど味わうことになった。

 

 

 

先の“バスケ”や【キルムーブ・アタック】による嵌めを受けた時と同じか、それ以上の速度で竜王の命が削り取られる。

しかしそれでもなお竜王の命は3つ失われる度に1つ回復するという異常な速さで補充を続けており、彼の生命力の底は見えない。

破壊の衝撃でドンドン空へと打ち上げられ、成層圏を越え、宇宙へと射出されながらも未だに【バスターインパクト】を受け続ける彼は血走った目で更に強く女神から力を引き出した。

 

 

 

『こっのぉぉぉおぉぉ───!!』

 

 

 

ここにきて初めてラードゥンが焦りを滲ませた声を上げる。

幾ら彼と言えど、永遠に打撃を打ち込まれ続けるような怪奇現象を目の当たりにし、その被害に合えば平常ではいられない。

地道に、しかし確実に再生と破壊の天秤は傾きつつある。

 

 

 

さらにさらに、竜王に強化が入る。

彼の竜という超越種を基準にしても異次元の耐久性能を誇る肉体が軋む。

女神の力により体内で爆発し続ける【バスターインパクト】の衝撃を抑え込んだ。

 

 

 

体内で音叉に触れた音波の様に衝撃が暴れ狂い、身体を壊していく感覚を不快に思いながら竜王は背から生やした蛇竜4匹の口からブレスを発射し、それを推進剤としてミズガルズへと帰還しようと試みた。

 

 

 

しかし……視界が一瞬だけ遮られる。

蒼い光だけが竜王の本体たる白蛇の視界を埋め尽くした。

余りに一瞬の変化だった故に、残り100本の頭は白蛇の動揺のせいか一瞬だけ動作を停止するほどだった。

 

 

『ッ!?』

 

 

 

【ブースト】を使用し、瞬時に距離を詰めてきたベネトナシュが、竜王を覗き込んでいる。

やはり彼女の速さは今の竜王では見切れない。

ただでさえ速い上に【ブースト】のせいで彼女には“加速”という概念がないのだ。

 

 

初動も何もあったもんじゃない。

普通どれだけ高レベルの存在になろうと、動く前に一歩を踏み出すという動作が必要になる。

大地にせよ空気にせよ、空間にせよ、何かに足をかけて力を込め、身体を動かすという動作が普通は必要だ。

 

 

それが彼女にはない。

彼女の一挙手一投足には予備動作が存在せず、これから何をするかが全く読めない。

今の彼女は何なら直立したまま、足も何も動かさずに滑るように【ブースト】で飛びまわることが出来た。

 

 

 

 

瞬間的に最高速度に達し、瞬時に0に戻り、もう一度瞬間加速を行う彼女の動きは

生物というよりは超高性能なゴーレム染みた無機質さがあった。

 

 

 

そんな彼女は100本ある竜頭たちの警戒網をすり抜け、石膏像の顔の鼻に足をかけて、竜王の目を見ていた。

 

 

 

まるで吟味する様に、研究するように、虫かごの中の虫を見ているように……。

コテン、と右に少女の頭が傾けられた。

 

 

 

 

反射的に腕4本が動く。

結合されていた竜たちが解け、数十の竜へと変わる。

そしてそれらは同時に接近戦用のスキルを幾つも発動させ、かつてのベネトナシュと全く同じ動きで今の彼女に迫った。

 

 

疾風怒涛という言葉さえ及ばない、息もつかせぬ超光速の連撃。

かつての彼女が編み出し、それ以外を学ぶ必要のなかった防御を考えない超攻撃特化の戦闘スタイル。

竜さえも下し、かつてのベネトナシュをミズガルズの頂にまで上り詰めさせた戦い方だ。

 

 

『ちぃぃぃいぃっ!!』

 

 

 

竜王の口から苛立ちが漏れた。

思うようにいかない現実に幼い所のある彼は憤りを隠し切れない。

 

 

 

竜王の攻撃は当たらない。竜さえも一瞬でミンチになる連撃が、全て無意味であった。

彼女は回避スキルも何も使っていないというのに、あらゆる攻撃を紙一重で躱していく。

右に左に、見事な重心移動と、最小限の動作による回避行動はまるで踊っている様だった。

 

 

 

 

無 駄 だ ら け

 

 

 

竜王と吸血姫が今いるのは月とミズガルズの狭間という宇宙空間である故に、声は発せられない。

しかし唇だけ動かしてベネトナシュは誰かに言い聞かせるように昔の己の動きを酷評した。

この程度の動きで最強を名乗っていたの? と彼の中にいる誰かがベネトナシュを嘲る。

 

 

 

竜王の一部がレベル900だった頃のベネトナシュを模倣し、かつての彼女の様に迫るが、全てあしらわれる。

繰り返すが、今の彼女は何のスキルも使用しておらず、回避行動は全て彼女の技量によるものだった。

圧倒的、という言葉さえ通り越し、芸術染みた曲芸をベネトナシュは披露していた。

 

 

 

隙を狙う……当たらない。

数を頼りに全方位から隙間なく拳を叩き込む……ベネトナシュの影さえ踏めない。

今度の彼女は決して早すぎるわけではない。むしろ目視できるほどに凄く遅い。

 

 

早すぎず、遅すぎない。

正に“適切”な速力でベネトナシュは竜王の攻撃を避け続けていた。

完璧な無駄のない動き、効率を極限まで極めるとこうなるのだろうという理想がここにはある。

 

 

 

 

こ の 動 き は 何 ?

 

 

 

問いかける。

まるで詰問する様に、嘲笑うように。

まさか……これを“攻撃”と思っていたの? と。

 

 

 

この程度だから竜王に負けるんだよ、と続けてやればとてつもない圧をベネトナシュは受けた……が、気にも留めない。

アリストテレスは負け犬の癇癪になどいちいち付き合ってやるつもりは無いからだ。

ミシ、ミシという実際には存在しないが、概念的には確かにある“音”をアリストテレスは聞いていた。

 

 

 

それは歯ぎしりか、もしくは青筋が臨界点を超えかけている為のものか。

どちらにせよ爆発の時は近い。

 

 

 

『うごくと!! あたらないだろぉっ!!?』

 

 

 

遂に我慢の限界を迎えた竜王が喚きだす。

彼の声は無酸素の宇宙でも聞き取ることが出来た。

あと少し、あともうちょっとで命中させられそうだというのにそれが叶わない光景は彼の怒りを加速させるものだった。

ミシミシと彼の怒りに呼応して身体が軋む不気味な音が木霊する。

 

 

 

竜王の攻撃がさらに加速する。

さらに2本の腕が解けそれらもこの不愉快な虫けらを踏みつぶす為に動き出した。

それどころか体中の竜たちが次々と補助の天法を発動し続け、ラードゥンの攻撃の速度は天井知らずに激しく、恐ろしくなっていく。

 

 

限界を超えたベネトナシュでさえ目視が難しい速さで無尽蔵の殺意が襲い掛かる。

数十の竜たちが暴れ狂う。

それら全てがスキルを混ぜ込んだ超高速戦闘をベネトナシュに仕掛けているのだ。

 

 

 

しかし……あろうことか、ベネトナシュは攻撃を見ていなかった。

彼女は竜たちの動きを見てはいない。もっと違う、この世の根底を回す奇怪な法則だけを見ていた。

法則には全てが書かれている。これから何処にどのような攻撃が飛んでくるのか、竜王がこれから何をするか。

 

 

 

 

乱数という不確定要素さえ取り除くことが出来れば、この理を読み取れるものはこの世の未来を掌握するに等しい。

そして今のアリストテレスはミョルニルという国一つを補助装置として、更にソレを外付けすることによって、限りなくその域に近づいている。

マスクの中で蒼過ぎる瞳が微かに動く。

 

 

竜王の拳が鼻先を掠める。

髪の毛が揺れる。

黒を基調としたゴシックな衣服にちょっとだけ皺が出来た。

マントが少し靡いた。

 

 

竜王の猛攻がベネトナシュに与えられた影響は以上の通りである。

 

 

 

何十億、何兆という数式を瞬時に把握し、竜王を殺しつくす手を並べていく。

66666の命。101の首を同時に吹き飛ばして1カウント。

つまり実質666万以上の竜を殺さないと彼は滅びない。

 

 

 

まぁ、今更になるが……容易い話だなとベネトナシュは自分の中で木霊した。

色々な手段がある。馬鹿正直に高速移動からの連撃しか出来ない愚者とは違うのだ。

世の中には“四強”などと称されておきながら一回殺すだけで精いっぱいの小娘がいたらしい、何とも惨めな話だ。

 

 

 

 

───いい加減にしろ……。

 

 

 

内心で響く少女の怨嗟に満ちた呟きをベネトナシュは無視する。

いいから負け犬は黙っていろ、貴女は復活を拒んだ敗北者じゃないですかと宥めすかす様にいえば更に憤怒が積もっていく。

右手が彼女の意思とは無関係に震え、血管が浮かぶが直ぐに黙らせた。

 

 

 

 

【スキル・エクスコアレス】を用いて更に能力の再編/融合/統合処理が行われる。

ベネトナシュの優れた接近戦闘用の能力が幾つか混ぜ合わされた。

スキルとはこう使うのだと幼い少女に見せつける様にアリストテレスは力を巧みに使いこなす。

 

 

 

【エクスカウンター】

 

 

相手の攻撃にタイミングよく発動することで攻撃を無効化した上で

倍化ダメージを相手に与える能力。

 

 

 

【リベンジ】

 

 

受けたダメージを自分の攻撃力に上乗せして跳ね返し、なおかつソレを永続させるスキル。

 

 

 

さらにそこに先にストレージした“120万ダメージ”を用いる。

“120万ダメージ”はアイテムであり、やろうと思えば『装備』出来るのは当然だった。

そして同じアイテムを“整理”することにより“120万ダメージ”は圧縮されて240000000000000……240兆ダメージというアイテムへと纏められる。

 

 

 

 

240兆ダメージを装備することで、一時的にベネトナシュの攻撃能力にこのダメージの数値が上乗せされる。

攻撃時の判定は“贈与”となるため限界の壁をすり抜ける裏技であった。

こうして全ての準備は整った。

あとは実行処理するだけである。

 

 

 

迫るのは竜王の身体を構築する30ほどの頭。

蛇にも似たそれらは腹から生やした三本指の“手”を握りしめ【グラップラー】の格闘スキルを発動させながら迫ってきていた。

 

 

 

猶予は3フレーム。

数は30。

それぞれ別々の判定があり、一度でも間違えると面倒なことになる。

 

 

 

ベネトナシュは自分の顔に竜の拳が触れる本当に直前に、一瞬だけ構え、戻る、構え、戻るを繰り返した。

チリッとマスクに拳が掠る。世界としては竜王の攻撃がベネトナシュを捉えたと認識した。

その上で【エクスカウンター】の処理が走り、攻撃が無力化され、ダメージ数値が倍化される。

 

 

さらに【リベンジ】の効果が上乗せされる。

ちょんっと、竜の拳が離れる瞬間に指先でベネトナシュは硬い鱗を撫でた。

 

 

 

 

一瞬でそれを30回繰り返し……ミズガルズの処理が軋んだ。

余りにありえない数値のダメージを認識し、その発動処理に僅かな時間が掛かった。

この瞬間、ベネトナシュが竜王に押し付けたダメージはミズガルズが、いや女神の世界が誕生して数十億年以来、最大の数値であった。

 

 

ミズガルズと言う狭い星系では収まり切れない、それこそ宇宙の耐久数値の23%ほどに迫るダメージ量である。

故に、余りに膨大なダメージ処理が重すぎた結果、この日、ミズガルズの全ての存在はダメージを受けなくなった。

 

 

 

発生したのはラグである。

膨大極まりないこの攻撃を捌くため、一時的に他の者に対する実行が停止されたのだ。

 

 

 

ある者は獣に噛まれたというのに傷一つない自分の身体を見て頭を傾げた。

ある者は魔神族に襲われている中でこの現象が発生し、九死に一生を得た。

またある者は狩りの最中、動物に矢を当てたというのに弾かれてしまい愕然とした。

ミズガルズに生きるあらゆるものが不可解な現象に遭遇し、その答えを知ることなく残りの生涯を過ごすだろう。

 

 

 

ただ一人、リュケイオンで留守を任された少女だけが世界に走る奇妙な変動を感じ取っていた。

 

 

 

 

処理実行……終了。

ダメージ計算、および被弾処理に入ります。

ミズガルズの方式が5秒ほどの演算の後、ラードゥンが受けなくてはならない数値を計測し終わり、彼の肉体に負荷を与え始める。

 

 

 

 

その総ダメージ量、約1京4400兆である。

参考までに語るならば四強の一角“獅子王”のHPは150万である。

獅子王を96億回殺せるダメージを彼は受けてしまった。

 

 

 

これは彼のストックしている全ての命を消し飛ばしてなお余りある数値であった。

 

 

 

 

『え……?』

 

 

 

困惑するような声をラードゥンはあげていた。

身体が、消えていく。

圧倒的な破壊を受けた結果、体内で抑えていた【バスターインパクト】の枷が外れ、無限昇竜が彼を襲いだす。

 

 

 

ド、ドドドドドドドドド────。

 

 

 

1京を超える損傷に比べれば大したことはないが、それでも決して無視できない痛打が解放される。

 

 

 

痛みはなかった。

今までの様な意味不明な破裂も断裂もなかった。

何一つ、派手な爆発や閃光などもない。

 

 

ただ、身体が崩れ出すだけだ。

 

 

『あぁ……嫌になってきたよ。なんなのさ、きみ』

 

 

 

心底うんざりといった様子で竜王は呟いていた。

残忍で残酷で、おぞましい悪意の塊である彼をして付き合いきれないと思うほどだった。

 

 

竜王の身体が軋んでいく。

余りに突拍子もない破壊力が彼の中で幾度も反芻され、頭が砕けるを通り越し、サラサラと砂の様に変わっていく。

1京を超えるダメージを受けた場合の破壊モーションをどうすればいいか判らない世界は“消滅”という形で竜王に終わりを与えようとして……。

 

 

『いぃぃぃいやだぁぁぁねぇぇぇ!!』

 

 

竜王が叫ぶ。

全身から血を噴き出しながら、まだだと。

彼はしぶとく、諦めが悪いのだ。

 

 

 

ラードゥンの意地に呼応する様に最後の『勇者』のスキルが発動を迎える。

その名を【リバーサル】といった。

 

 

これはHPが0になるほどの猛烈な攻撃を受けた際、一度だけHPを1だけ残した上で

全能力にとてつもないバフと、HPの全回復を行うスキルであった。

66665の命が消し飛び、それに付随するように強化を繰り返した肉体は未だに損傷を癒しきれていないが、死ぬことだけは避けた。

 

 

命の補充を始めようとする竜王の復元能力と未だに残る1京4400兆ダメージの余り分が拮抗する。

彼が存在し続ける限り、この負債は払い終わるまで永遠に残るのだ。

 

 

 

今の竜王は死ぬことこそないが、無敵とも思われた無尽蔵の命を殆ど失った状態であり、今なら殺せる。

問題は数万回にも及ぶ強化を受けた竜王の身体能力は龍を超える域にあるということだけだった。

 

 

 

『女神さま、女神さま! あぁ、偉大なる女神アロヴィナスさま!!』

 

 

ラードゥンが祈りを捧げる。

可愛らしい少年の声であるが、それを吐き出しているのがおぞましい竜という齟齬だけが不気味だった。

【エクスゲート】より流れ込む力が勢いを増していく。

 

 

 

 

存在するモノを補強する力……天力が彼の最後の命をこれ以上ない程に補強し、ラードゥンの全身の竜たちが血走った瞳でベネトナシュを見た。

散々好き勝手やってくれた鬱陶しい小娘を絶対に許す気など彼にはない。

ラードゥンの身体が一度解け、次いで先に吸血姫と戦っていた時の様な巨人形態へと編みなおす。

 

 

 

 

まずは軽いジャブ。

脇を固め、握りこぶしを鋭く突きだす。

ただのけん制であり、竜王でさえ当たるとは思っていない威嚇のようなものだ。

 

 

蒼い瞳がそれを認識し、ベネトナシュは呼吸よりも容易く……避けられなかった。

ガードをすることも出来ずに、小さな身体を竜王の拳が捉え、ミズガルズへと叩き落される。

全身を白熱化させながら大気圏に突入し、あっと言う間に彼女はミョルニルの近郊へと墜落した。

 

 

 

『……ありゃ?』

 

 

 

今まであれだけやって何一つ当てられなかったというのに、いきなりの命中に竜王は頭を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

地面に叩きつけられ、仰向けで空を見つめるベネトナシュの右腕が動き出す。

吸血姫は己の顔に右手を当てると、マスクの左半分を勢いよく引き剥がした。

露出した左目の色は鮮やかな赤色、かつてのベネトナシュと同じ色彩だ。

 

 

 

唇が動く。

零れたのはとてつもない憤怒に満ちた呟きだった。

 

 

 

「好き勝手してくれたな……!」

 

 

 

竜王にさえ見せない怒りをベネトナシュは吐き捨てる。

彼女の自我は内面の深くに沈み込んでいたとはいえ、健在であった。

その上で、散々に嘲笑を浴びせかけられ続けていた彼女の怒りは既に臨界をとうに超えている。

 

 

100年以上生きてきた彼女であるが、今日という日は今までの全てに勝るほどに濃厚で、苛立つものでしかない。

 

 

 

竜王とアリストテレス卿。

狂信と狂気の狭間にいた彼女を襲ったのは筆舌に尽くしがたい屈辱だった。

まずは己の国と命を一方的に奪い去った竜王。

そこに更に最も触れられたくない部分に土足で踏み込み、親族を勝手に“材料”にした上で自分を勝手に作り直したアリストテレス。

 

 

 

どいつもこいつも醜悪極まりない怪物である。

冗談じゃなかった。確かに己は数多くの命を奪い去り、殺し、戦いに明け暮れたロクデナシだ。

だが、それでも、これはあんまりだと思う程の仕打ちであった。

 

 

 

 

───おはようございます。身体の調子はどうですか?

 

 

 

変わらず脳内で響くのはプラン・アリストテレスの淡々とした声だった。

彼はベネトナシュの怒りさえも受け流し、平常心のまま彼女に心から調子を尋ねていた。

ベネトナシュは奥歯を食いしばり、あらんかぎりの憎悪を以て己の赤い左目で蒼い右目を見た。

 

 

眼前の竜王とこの忌まわしい怪物。

どちらを先に片づけるか順序だてて考えるだけの理性が彼女にはあった。

 

 

 

「……貴様、後で話がある───いいな?」

 

 

 

逃げても無駄だ。

何処までも追いかけて殺してやる。

絶対に、貴様を、許さないと強く願ってもプランは全く動揺さえしなかった。

 

 

 

まるで何もかも全て織り込み済みとでもいわんばかりの態度にベネトナシュの苛立ちは募るばかりだった。

立ち上がり、マントや衣服についた埃をはたき落とす。

宙から降ってくるのは【流星脚】を利用したラードゥンであった。

 

 

 

 

数十万トンにも及ぶ質量をもつ彼が、真っすぐにベネトナシュに向けて堕ちてくる。

【瞬歩】を連続で使用し続け、加速を得た彼の身体は限りなく光速に迫っていた。

もしも地面にアレが着弾すればレベル1500のベネトナシュでさえタダでは済まない。

 

 

 

いや、ベネトナシュは生き延びるかもしれないが、衝撃で間違いなくミョルニルが消し飛ぶだろう。

さらに言うなら、被害は大陸中に拡散し、下手すると惑星の自転さえ歪むかもしれない。

 

 

 

“吸血姫”はミョルニルの方角を見た。

【一致団結】で繋ぎ合わされた民たちを見た。

そして、その内心を少しだけ読み取る。

 

 

 

感謝があった。

今まで自分たちを導いて守ってくれた事への礼だった。

 

 

謝罪があった。

100年以上も王に祭り上げて、やりたくもないことをやらせ続けた事への謝罪だった。

 

 

ベネトナシュは鼻を鳴らす。弱いくせに何を言ってるんだと。

相変わらず吸血鬼という種は“薄い”ままであり、全く自分と同族であるとは思えない程に弱弱しい奴らだった。

都合のいいように自分の力に縋り、自分が与えてやった繁栄を疑いもせず謳歌していた愚か者たちだった。

 

 

 

「……今更、何だというんだ」

 

 

 

遅い。遅すぎる。もう、半ば諦めてしまっていた。

自分はこの世で独りぼっち。誰も隣にはいない、誰も自分をここから救い出してなんてくれないと。

 

 

 

 

『ギャハハッハハハ!! はははハハハは~~!!』

 

 

 

 

哄笑と共に堕ちてくる竜王を睨む。

そして己の内側に勝手に巣食い、やりたい放題してくれた化け物を恨む。

どちらも決して許さない。さしあたり、まずは竜王を葬ると彼女は決意した。

 

 

 

 

そして、そして……。

 

 

 

ベネト……済まなかった。愛している。

 

 

 

何もかもが手遅れになってから謝罪を述べる父の残留思念を見た。

自分に組み込まれた男の願いを彼女は感じ取り、苛立ちを得た。

ベネトナシュの視界が真っ赤に染まった。

 

 

「遅いっ!! どうして───!!」

 

 

 

いまさらそんなことを言うの?

どうして、私と向き合ってくれなかったの?

どうして、私を一人で放り出したんだ。

 

 

許さない、許さない。

決して、私は父上を許さない。

そしてアリストテレス、私の逆鱗を踏みにじったお前を決して逃がさない。

 

 

 

「大嫌いだ!! どいつもこいつも!! ふざけた事ばかりッ!!」

 

 

 

怒りと悲嘆を巻き上げる。

勝手に崇めて、勝手に従って、あげく勝手に死んでしまった父親への怒りであった。

 

 

手を翳す。純粋な魔力をかき集め、一本の光輝く槍を形成した。

 

 

【銀の矢放つ乙女】

 

 

ベネトナシュの保持する最強の魔法であり、技である。

膨大な「月」属性の魔力を練り込まれて作られたソレは、先にラードゥンを一回殺した時よりも大きさこそ劣るが、密度はスポンジと鉛程の差がある。

 

 

 

純粋な魔力の塊の穂先を、膨大な天力の補給を受けている竜王へと向ける。

キィィィィィんという甲高い鳴き声を魔法は発した。

 

 

 

何をすればいいか、全てわかっている。

視界に映る不気味な法則が何故か読み取れる。

ソレが何をすればいいか教えてくれた。

 

 

「二度と────」

 

 

 

大きく槍を振りかぶる。

竜王に父母の顔を思い浮かべ並べる。

もう二度と出会えない、己の一部を。

 

 

 

尖った犬歯の隙間より恐ろしく低い声が出た。

 

 

 

「────その顔を見せるなッっ!!」

 

 

 

 

瞬間、魔法は落下する竜王の胸へと深々突き刺さり、一瞬の拮抗の後で彼を空高く打ち上げた。

しかし彼もまた竜の王。

残り一つの命は最も強化されたものであり、この程度では滅ぶことはない。

 

 

 

 

【サイコスルー】

 

 

 

本来ならば。

 

 

 

プラン・アリストテレスは確実に竜王を殺す為に、己の切り札を切った。

それはかつて“子隠し”を消し去った時に用いられた御業である。

 

 

【銀の矢放つ乙女】が崩れる。

内部に圧縮されていた魔力が、ラードゥンに流れ込む無尽蔵の天力に極めて雑多に()()()()()た───。

 

 

 

────ピーPPPPPP…… C0000022!  C0000022!  C0000022!!

 

 

 

致命的な破損を確認。復旧不可能。復旧不可能。

破壊、破壊、破壊、運営不可能。

 

 

世界が、大きく蠢く。

砂嵐が巻き起こり、幾度も繰り返されてきたバグは遂に復旧不可能領域へと墜ちてしまった。

 

 

 

とたん、世界にノイズが走る。

それは世界の根底に位置する法を利用した埋葬式。

どれほど強かろうと、どれだけ強大な存在であろうと、どんな能力をもっていようと、決まった時点で終わりの業である。

 

 

これにダメージは存在しない。そんな領域の話ではないからだ。

これに回復方法は存在しない。直せないからこそ致命的な破損なのだ。

 

 

もう、おしまいである。

 

 

 

『……なに、これれれれれれ』

 

 

 

竜王が狂ったように「れ」を繰り返す。

決してふざけているわけでも、何かの儀式を行っているわけでもない。

もはや、彼はそれしか言えないのだ。

 

 

 

竜王の存在は、致命的に壊れて(クラッシュ)しまったのだから。

 

 

彼の顔に浮かんでいるのは驚愕であった。

何が起きているかは全く判らない。

しかし竜の直感として“もう終わった”ということだけは理解してしまった。

 

 

 

 

ラードゥンは、強制的に“無”を取得させられたのだ。

またの名を破壊(クラッシュ) 、受けたら最後の強制排除である。

 

 

 

 

 

C0190019 C0190019

 

C0000022! C0000022!  

 

 

ミズガルズに致命的なエラーが発生しました。

 

 

その対応の為、該当存在をデリートします。

 

 

ID□■■■??●△ 固体名“ラードゥン複製体”を排除いたします。

 

 

本日はミズガルズをお楽しみいただき誠にありがとうございます。

 

 

ミズガルズは女神アロヴィナスにより今後も適切に運営/処理されます。

 

 

 

それでは皆さん、よい明日を。

 

 

 

 

 

 

 

 

世界に穴が開き、古いモノは新しく存在する情報によって押しつぶされた。

あれだけ強大な生命力を誇った肉体が、何の抵抗も許されず崩れ落ちた。

101の頭が力を失い、粒子となって消えていく。

 

 

 

身体のあちらこちらに黒い虫食いの様な穴が開く。

“無”が竜王の身体を蝕み、消していく。

世界のあらゆる要素、あらゆる概念、あらゆる情報から消去が進む。

 

 

 

変わらず「レレレレレ」と繰り返すラードゥンであったが、頭脳は問題なく動いていた。

彼はベネトナシュを見つめている。

もはや抵抗は無意味だと悟った彼は、足掻くようなことをしなかった。

 

 

もはや己の敗北は確定である。

しかし、多くを得られたと彼は思っていた。

 

 

 

(本当にこのからだで きて良かったね)

 

 

 

 

種を明かしてしまうと、このラードゥンは偽物だ。

分身、複製体といってもいい。

見所のある己の複製に様々な手を加えた結果として作られた肉体に精神を転写した人形、いわば竜王の影武者が今のラードゥンの正体だった。

 

 

とてつもない初見殺しを本体で受けずに済んだことを彼は安堵し、同時にコレへの対策を考えている。

天力と魔力の運用に鍵があるなと瞬時に悟った彼は、出力だけではなく技量も磨くべきかーと思っていた。

 

 

 

(ベネトナシュちゃんは……そっかぁ超えちゃったかぁ……)

 

 

 

厄介だねーと呑気に考える。

自分と同じく、愛する女神の法から外れた吸血姫を最大の難敵とラードゥンは認識した。

今はまだ1枚だけで、自分がどのような状態になっているかもわかっていないようだが、自覚されたら一気に伸びる危うさがある。

 

 

 

何なら魔神王とその兄弟たちよりも厄介だと彼はベネトナシュを評し、もはや分身では下手に刺激を与えるだけだと判断する。

次に戦う時はしっかり本体で完膚なきまでに復活できない様に念入りに殺すと彼は決意した。

 

 

 

(あとは……“だれ”なんだろうね)

 

 

 

 

当然ラードゥンはベネトナシュに力を貸した存在がいることにも気が付いていた。

彼女一人だけならばたとえ100人いようと勝てる自信があったが、とんでもない番狂わせの立役者がいるな、と。

ある意味ではベネトナシュよりも遥かに厄介な存在の影を竜王は認識した。

 

 

 

まだ名前も顔も何も判らない。

だから探す。見つける。殺す。

晴れやかな己の軍のデビュー戦に水を差した存在、明らかに放っておいてはいけないナニカ。

 

 

 

(“おめめ”だれがいたかな……?)

 

 

 

哀れな人形たち。

自分が人形だということにさえ気が付いていない玩具。

まるで女神さまが用意した■■■のように。

 

 

あれらはラードゥンが己の血を本当に僅かに母胎に混ぜて作り出した一族。

殆どは自分がそうだということにさえ気づかず一生を終えるだけの道化たち。

 

 

 

それらを久々に用いるべきだと彼は考え……ミョルニルを見た。

 

 

そして───ため息を吐く。かなり“薄い”あれは動かせるかな、と不安を抱いたのだ。

消滅が迫る、身体は既に9割以上が抹消され、残った最後の頭もまた無くなっていく。

 

 

 

消え去る直前、眼窩の光が細められ、ベネトナシュを見た。

 

 

 

またね。

 

 

 

 

そうしてラードゥンは消え去り、ミョルニルの長い一日が終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラードゥンの消滅した場所を暫く見つめて残心していたベネトナシュであったが、今度こそあのおぞましい竜王が完全に消え去ったと確信すると仰向けに倒れ込んだ。

長い銀髪が大地に拡がり、衣服が泥などで汚れるが彼女は気にも留めなかった。

 

 

 

 

「………………疲れた」

 

 

 

 

深いため息を吐き、息を吸う。

今まで味わったことのない苦みを彼女は胸いっぱいに吸い込み、顔の右半分に残っていた【バルドル】のマスクを完全にはぎ取った。

こんな醜悪で設計者のセンスを疑う鎧とマスクを着こまされたのはベネトナシュ生涯の屈辱で、恥になるだろう。

 

 

 

露わになった両目は完全に赤色であり、アリストテレスの影響から彼女は完全に解放されていた。

 

 

 

 

──────。

 

 

 

 

 

唇だけが微かに動き“父上”“母上”と音もなく呟いた。

生みの親ではあったが、触れ合った記憶などなかった。

そもそも、自分自身でさえ本当にこの両親から自分が産まれたのかと疑問に思っていたほどだった。

 

 

 

しかしもう居ない。

二人とも、勝手に自分の為の生贄になり消えてしまった。

己の中を流れる血肉へと文字通り変り果て、もはや残留思念さえ感じ取れない。

 

 

 

もう二度と、顔を見ることはできない。

その事実を確かめると、ベネトナシュの胸中には今まで味わったことのない苦みが満ちるのであった。

 

 

 

 






とりあえずラードゥン戦はこれで終わりとなります。
自分で書いておいて、本当にしぶとい奴だった……。
とりあえず竜王のヤバさはいい感じに表現できたかなと。



ちょっとしたバグ技紹介。



無限昇竜拳。


みんな大好きAC北斗の拳において誰もが知る有名なバグ技。相手に延々と昇竜拳を浴びせ続けるお手軽無限嵌め。
入力も非常に簡単ではあるが、この技の恐ろしい所は一度発動させてしまうとゲーム機が落ちてしまうことである。




石化→クリティカル消滅バグ


元ネタはFFにおけるバグ。
戦闘開始時から戦闘不能・石化・イベント戦で不参加状態のキャラは以降、二度とクリティカルを発生させられなくなるという恐ろしいモノである。



クラッシュ誘発攻撃。


子隠しを消滅させるのに使った上書きの完成形。
相手が天力を纏っている時に同一でありながらも相反する力である魔力を相手の天力に混ぜ込むことで
対象の存在そのものをあえて不安定な【エクスゲート】に変化させることにより崩壊させる。



技の特性上、相手が天法を用いて自分にバフを掛ければかける程に成功確率が上昇する。
対処するには天力/魔力を適切に運用し、分離させるか不安定なエクスゲートを安定させればいい。
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