ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

73 / 221
ルファスの“決意”!

 

 

「もう大丈夫かい?」

 

 

 

人の好さそうな青年が心配そうに言う。

あの夜、アウラの腹を塞ぐために使う糸を提供した人物であった。

彼がいなければ天法の治療だけでは傷口を塞ぎきれなかったのもあり、アウラは失血死していたかもしれない。

 

 

「ほら! お母さんと一緒にしっかり食べるんだよ」

 

 

 

彼は手に持っていたピチピチ跳ね回る魚をルファスに差し出した。

少女は大きく頭を下げて礼を言ってからそれを受け取る。

ベチベチと尾っぽで頬をはたかれて少女は苦笑した。

 

 

「領主様」

 

 

青年はプランを一度だけ見てから頷く。

プランも視線で謝意を伝えて答えた。

彼らは何があったのか等は聞かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「無理しちゃだめよ?」

 

 

 

恰幅のいい女性がルファスの肩を叩く。

あの夜、出血が中々止まらなかったアウラにピオスが手こずる中、産婆としての経験もある彼女は夥しい量の血にも怯むことなく彼の助手を務めていたのだった。

止血の手当などを適切にこなした彼女がいなければ如何にアリエスの羊毛があったとはいえアウラ・エノクは亡くなっていたかもしれなかった。

 

 

 

彼女はプランの右腕を見た。

それに対してプランは微笑んで答えた。

先代、父の時代からの付き合いである故に言葉はいらなかった。

 

 

 

「野菜もしっかり食べなさいな!」

 

 

 

瑞々しい野菜の数々を詰めた箱をルファスに渡す。

少女は心からの敬意を込めて頭を深く下げた。

彼女は「気にしないで!」と豪快に笑ってからプランに紙袋を渡す。

 

 

ずいっとプランに顔を近づけて耳元で囁く。

まるでいけないブツを取引しているようなやり取りであった。

中に入っているのは何てことはない、ただのトウモロコシである。

 

 

 

「これはアリエスちゃんの分……」

 

 

 

「凄く喜ぶと思う。ありがとう」

 

 

 

頭の中で狂ったように身体を捻って喜びを露わにするアリエスを思い浮かべ、プランは微笑んだ。

アリエスを肥えさせるブツの供給先を知ってしまったルファスだけが「ぐぬぬ」と歯がゆい顔でプランを睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ! 本当に良かったぜ!!」

 

 

 

肉屋の男は心からの笑顔を浮かべていた。

あの夜において腕っぷしに自信のあった彼は、リュケイオンの人々から次々と供給される物資を休むことなく屋敷に搬入し続けていたのだ。

もちろん作業をしていたのは彼だけではないが、それでも彼の活躍がなければ包帯やポーションの供給は追いつかなかったかもしれない。

 

 

 

「あ~~、まだ腹の調子が良くないんだっけか……。

 じゃあ、肉は別の機会にしたほうがいいな。

 血の増えるレバーとかを渡そうと思ってたんだが……」

 

 

 

彼はぶら下げていた新鮮な肉を手に取ろうとしたが、直ぐにプランとアウラが腹部に重傷を負ったことを思い出して、手を止めた。

最高の肉を遠慮なく楽しんでもらうためには、今は間が悪いと彼は悟ったのだ。

快復祝いにまた来てくれと彼は優しくルファスに言う。

 

 

 

「マファールちゃん、お母さんと領主様が治ったらまた来てくれ。

 とっておきの肉とハーブを用意しておくからな」

 

 

 

ハハハハと豪快に笑う男にルファスは苦笑した。

思えばリュケイオンに来てからずっと、この人物とは縁があるなと思ったのだ。

あの時は気にも留めなかったが、こんなにも自分を気にかけてくれる、それが嬉しかった。

 

 

憎悪という曇りが晴れた今、ルファスの瞳に映る世界は変わりつつある。

 

 

 

「うん。楽しみにしてるね」

 

 

15歳という年齢相応の、無邪気な笑顔でルファスは答える。

そして最後に一礼してからプランと共にその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーダリルから物資が届いた後、ルファスとプランはリュケイオンの人々にポーションを始めとする品を配り歩いていた。

あの夜、人々が提供してくれた品を補填する目的とルファスが改めて皆に礼をしたいと言ったからだ。

 

 

勿論アウラもついていくと最初は中々に譲ろうとしなかったのだが、ピオスによるストップがかかった結果、娘であるルファスが代理も兼ねて行うことになった。

 

 

ピオスに「いいですか? いま貴女がすべきことは傷を完全に治す事です」と断じられ、小さくなっていた母の姿をルファスはしっかり覚えていた。

シュンとした顔でルファスを見つめてくる彼女の顔を思い出すと彼女はどうしてか笑ってしまうのだ。

夫(不愉快な事実ではある)に殺されかけた筈の母であるが、今の彼女は……何か憑き物が落ちたようにさっぱりしてさえいる。

 

 

アウラ・エノクは変わった。

いや、もう今の彼女はエノクではなく、ただのアウラである。

彼女は前よりも明らかに笑う回数が増えている上に、今まであった陰が失せていると誰もが気が付いており、当然ルファスが最も敏感にソレを感じ取っていた。

 

 

 

実を言うと彼女がジスモアとどんな話をしたか、どうして刺されたかなどは誰も聞いてはいない。

もう、そんなことに意味はないのだろうと誰もが思っていた。

残酷な話になってしまうが、ジスモアとアウラの関係は完全に終わったのだと誰もが気が付いている。

 

 

そう、ジスモアは全てを無くした。

いまだに愛してくれていた人も、友誼を結んだ人間との関係も。

彼の結婚式にプランは何食わぬ顔で出るかもしれないが、もう前の様な気楽な会話はないだろう。

 

 

(……………)

 

 

あの夜、ルファスは父を殺し損ねた。

変異が不完全で何もかもが不調だというのもあったが、もしかしたらまだ、何処かに情が残っていたのかもしれない。

いや、生かして帰した方が苦しみが増すという残忍な思考の果ての可能性もあった。

 

 

しかし、もうどうでもいいとルファスは思っている。

それどころか、父に哀れみさえ抱いていた。

 

 

“ざまぁみろ”や“いい気味だ”等という感情は不思議と湧いてこなかった。

今のルファスにとってあの男は……本当に不愉快な話ではあるが自分の産みの親なのだから。

自分の中にはジスモアの血が流れており、自分と彼は様々な点で似通っていると自覚した彼女は、まずは他人の不幸を笑う事をやめることにしたのだ。

 

 

許しはしない。だけど、自分は皆と未来に行く。

貴方はずっとそこに居ればいい。

それがルファスの出した結論であった。

 

 

 

あの夜は間違いなく運命の分岐点であった。

そしてその転換点をルファスとアウラは乗り越えた。

犠牲もあったが、それでも朝日を迎える事が出来たのだ。

 

 

 

(だから私が守るんだ。やっと、何が大切なのか判ったから)

 

 

5年もかかっちゃったけど、多くの人に迷惑をかけてしまったけど。

それでもやり直したいとルファスは思った。

短く隣を歩くプランに視線を向ける。

 

 

 

生きている。生きていてくれる。

母と彼は生きていて、カルキノスがいて、アリエスがいて、ピオスがいて、リュケイオンの人々がいる。

皆が会うたびに「大丈夫?」や「良かった」と声を掛けてくれて、その度にルファスの心は温かくなった。

 

 

 

 

 

2時間ほどかけてルファスとプランはリュケイオンを歩き回り、全てのお世話になった人たちに謝礼をし、ポーション類を配って回るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「疲れてないかい?」

 

 

 

「大丈夫……貴方こそ無理してない?」

 

 

一通りのあいさつ回りを済ませ、屋敷に戻った二人は庭でテーブルを挟んで休憩を取っていた。

太陽も真上に昇り、ぽかぽかした陽気が射す平穏な昼下がりである。

カルキノスが用意してくれていた冷たい茶を飲んで一息ついた後に切り出されたプランの言葉にルファスは頭を振ってそう答えた。

 

 

 

「ありがとう、自分は大丈夫さ」

 

 

 

「本当に無理するのはダメだからな。もしそんなことをしたら……」

 

 

バサっと翼が羽ばたき、ルファスはそーっとそこに手を伸ばした。

何枚か羽根に触れて抜けるかどうかぐいぐいと引っ張って確かめる。

艶やかで柔らかい羽根は肌に触れると物凄く擽ったい事を判らされたプランは「うっ」と怯む様に首を縮めた。

 

 

 

逃げるだけならば簡単なのだが、ルファスの物凄く楽しそうな顔を見るとどうしても付き合いたくなってしまうのだ。

更に言うと朝のアレは自分の翼に絶対のプライドを持つ普通の天翼族ではまずしない行為である故に不意を衝かれたというのが正直な所であった。

 

 

 

「……さすがにこれは止めておこう。あの意味の判らない動きは見たくないからな」

 

 

 

ほっとした様子を見せるプランにルファスは追い打ちをかけた。

 

 

 

「だが、もしかしたらピオス司祭に報告するかもしれんな」

 

 

 

それはつまりルファスの悪戯などとは桁の違うお説教フルコースである。

三十代になったいい年をした大人が項垂れながら説教を受けるという苦行である。

しかも完全に自分が悪い故に言い訳も何もできないという地獄である。

 

 

肩を落としプランは頷いた。

 

 

 

「肝に銘じておくよ……」

 

 

 

「ん……判ればよろしい」

 

 

 

 

満足したのかルファスは茶の入った杯を呷る。

程よく苦くて冷たいソレを飲み干してからほぅと息を吐く。

 

 

 

「………」

 

 

 

無言の空間。

プランは腹の上で指を組み、背もたれに深く身体を預けてリラックスの体勢を取る。

ルファスは机の上に突っ伏し、翼を何回か震わせてから何も考えずにただ青空を見続けた。

 

 

(きれいだな……)

 

 

透き通るような青空。

ぽつぽつと小さな雲が幾つか浮かんでおり、遠くには鳥の群れが飛んでいる。

何の変哲もない平和な空……ルファスにはそれがとても綺麗に見えた。

 

 

気付けばアリエスが草花の上で仰向けになって寝ている。

全身で太陽光を浴び、時折足を動かしたり、左右に身体を揺すったりしている。

スピィーという寝息がここまで聞こえてしまいルファスは笑ってしまった。

 

 

幾らリュケイオンの人々が狙わないとはいえ、さすがに脱力しすぎだと。

 

 

 

遠くからは子供たちの喧騒が響いている。

ルファスの聴覚はそれを正確に聞き分けることが出来た。

どうやら子供たちは数年前にプランがディノレックスを倒した事件を参考にしたごっこ遊びをしているようだった。

 

 

うぉーくらえー、とディノレックスを模した人形か何かに木刀で切りかかっている声をルファスは聞いて内心で「違うぞ」と微笑んだ。

あの時に彼が使ったのは銃で、剣の類は使ってなかった。

それにディノレックスは10頭以上いたのを1分以内で全滅させたんだぞ、凄いだろ、と。

 

 

 

…………。

 

 

 

思えばこんな時間は初めてかもしれないとルファスは頭の何処かで思い当たった。

今までは常に何かに急かされるように強さを求め続けていた。

ただ自分の力を高めることだけに夢中で、周りの景色など見もしなかった。

 

 

 

 

「あぁ……そういうことだったんだ」

 

 

 

プランにさえ聞こえない程、囁くように呟く。

それはまだ彼女がリュケイオンに来た当初の話───“子隠し”の被害者たちが我が子を送る慰霊祭を行った時の事。

ルファスはピオス司祭に怒りをぶつけた事がある。

 

 

 

どうしてこの世界は悲劇しかないんだ?

どうして我々を救おうとしない女神を信仰するんだ?

どうして誰も彼もこんなちっぽけな祭りで“けじめ”をつけた気になってるんだ?

 

 

 

 

とんでもない暴言を吐いた記憶を思い出し、ルファスは目を伏せた。

何て酷い言葉だ。大切な人を奪われた者に間違ってもこんな事を吐き捨ててはいけない。

自分にとって母と同じくらい大切な我が子を奪われた彼/彼女たちの苦しみはきっと想像を絶するだろうというのに。

 

 

 

そしてそんな彼女にピオスは何と言ったか。

 

 

 

 

 

貴女はこのミズガルズに、何の救いも、美しいモノも……。

 

貴女が“好きだ”と思えるモノは存在しないと言えますか?

 

 

 

ルファスは彼の問いに5年越しに頷いた。

“あったよ”と。

ただ見えていなかった、見ようとしなかっただけで、ずっとそこにあったんだと今の彼女なら答えるだろう。

 

 

 

ルファスは暫し瞑目する。

ふと思い出す。

様々な物資と同時に多くの手紙を彼が受け取っていたことを。

 

 

 

中には請求書などもあるのだろうが、殆どは各国のシンボルが張り付けられた、明らかに重要な書類の数々。

自分には天上の世界である上流階級たちのやり取りが納められた手紙だろうと彼女は推察した。

実際、それは正鵠を射ている。

 

 

(今更だけど、プランは貴族……)

 

 

貴族……貴族。

ルファスは考える。

プラン・アリストテレスは貴族でありお金持ちだ。

 

 

(間違いなくとんでもない額だろうな……)

 

 

プルートの件やユーダリルのノーガードの騒動で多量のエルを得ているのは間違いない。

今回の母を治す際に用いられた医療用品を彼が補填したのは周知の事実である。

 

 

 

(……幾らかかったんだ?)

 

 

ここで彼女は頭を傾げた。

俗な話になるが、母を助けるにあたって幾らかかったのだろうと。

正直に聞いたところで彼は「気にしなくていいよ」とはぐらかすのは目に見えている。

 

 

 

だがそれでも彼女は気になってしまった。

何より思えば自分はポーションに深い縁があることに少女は気が付く。

5年前のあの日、彼に助けてもらった時にも飲まされたことを彼女は覚えている。

 

人の命に値段はつけられないとよく言われるが、それを助ける事の出来るポーションには値札が張ってある。

そこに何と言う数字が書かれているか気になるのは仕方ない事であった。

 

 

更に言うと母と自分の命を救ったアイテムであるポーションに興味を持つことは至って自然と言えよう。

ルファスはプランの腹部を彼に気付かれない程度に見た。

自分の愚かさの象徴、罪がまだ彼の中には残っている。

 

 

 

 

アレを除去するにはどんな天法/回復アイテムが必要になる?

助けると決めたというのに、自分は何の知識もないことに彼女は思い当たった。

【アルケミスト】のクラスを所持しているのにゴーレムの製作ばかりに熱中していた自分を彼女は恥じた。

 

 

人の命を救える道具と誰でも基礎を学べばある程度は作れるゴーレム、どちらが優れているかは考えるまでもない。

 

 

だが、しかし。知らないのならば学べばいい。

幸いなことに、彼女の隣には物知りで聞けば何でも教えてくれる先生がいるのだから。

 

 

 

 

「ねぇ……ちょっといい?」

 

 

 

ルファスの何処か遠慮したような声にプランは背もたれに深く身を預けるのをやめて少女と向き合う。

蒼い瞳は変わらず優し気で、視線で「何かな?」と聞いていた。

 

 

 

「ポーションとか回復アイテムについて教えて欲しいんだ」

 

 

 

プランの表情は変わらない。

彼は黙ってルファスの言葉に耳を傾けていた。

 

 

 

「5年前、貴方が助けてくれた時に飲ませてもらったのを私は覚えている」

 

 

「そして今回も……」

 

 

 

勿論母が助かったのはポーションだけの力ではない。

多くの意思と協力があったからであり、回復アイテムはその一因に過ぎないことを彼女は骨身に染みて理解している。

 

 

 

 

うまく言葉が出てこず顔を俯かせる。

何といえばいいかよくわからない。

だから彼女は心の赴くままに言い切ってみた。

 

 

 

「私も、誰かの命を救うアイテムを作ってみたい」

 

 

 

「私も、貴方達みたいに誰かを助けたいんだ……」

 

 

 

少女の言葉にプランは心から嬉しそうな笑顔を見せた。

また一つ、重しが取れたような笑顔を。

彼は何度も頷き【観察眼】を発動させてルファスを見た。

 

 

まずは15歳になった彼女の能力がどんなものか確認しておく必要がある。

 

 

ルファス・マファール。

 

 

レベル 800

 

 

種族  天翼族

 

 

クラスレベル

 

 

【ソード・ファイター】 100

 

【グラップラー】    100

 

【チャンピオン】    100

 

【アルケミスト】    100 

 

【モンスターテイマー】 100

 

【アコライト】     100

 

【プリースト】     100

 

【メイジ】        50

 

【エスパー】       50

 

 

 

 

HP 88000

 

SP 9700

 

STR(攻撃力) 6400

 

DEX(器用度) 5300

 

VIT(生命力) 5700

 

INT(知力)  6200

 

AGI(素早さ) 7700

 

MND(精神力) 7900

 

LUK(幸運)  6600

 

 

 

 

次にざっとステータス類を流し見してプランが思ったのは「万能選手だな」というものであった。

豊富なSPと天法を使える【クラス】を得た事により、彼女はある程度の傷ならば自分で治しつつさらにバフを掛けながら戦う事が可能だ。

【アルケミスト】の能力で更に回復アイテムを作って持ち歩けば、そうそう倒れる事はないだろう。

 

 

パーティに一人いれば便利な、前衛も後衛も出来るオールマイティーな存在、それが今のルファスである。

だが同時に……万能と言えば聞こえはいいが少しばかり器用貧乏になりつつあるなともプランは思った。

全体的に高水準なのは間違いないが、特化型の魔物とやりあえばかなり手こずるだろうなと。

 

 

綺麗に半分ずつ後方支援の為のクラスと前衛系統のクラスを取った事により、彼女の能力値の伸びはどっち付かずになりつつある。

もしも今まで通り接近戦の技能を高めていたら攻撃力と生命力は1万を超えていただろう。

 

 

まぁ、レベル800の彼女の前では多少の特化型などステータスの暴力でねじ伏せられるだろうが。

現にもはや彼女のステータスはプランを圧倒している。

普通にやり合えば相手にもならないだろう。

 

 

と、いうよりもはや彼女のステータスは伝説の勇者の域に近い。

やろうと思えば国の一つや二つ軽々と落とせるだろう。

 

 

だが何よりも彼の目を引いたのが【メイジ】である。

普通の天翼族ならばまず会得しないし出来ない高濃度の魔力を操る魔法使いのクラスをルファスは手に入れていた。

つまり、今の彼女は魔力と天力、両方を扱えるのだ。

 

 

 

プランは一瞬だけ眉を動かす。

と、なれば……アレを教えるべきか、否か。

一応技術だけは知っているが、おいそれと使うべきではない術……【エクスゲート】を。

 

 

脳裏に浮かぶのはミョルニルの上空に巨大な回廊を開いた竜王の姿。

彼はそこからさらに発展させて女神の座にさえ繋げて見せた。

暴発などしたら普通は粉々になるが、あれは竜王が無敵と評していい程の耐久力を持っていたから出来たのだ。

 

 

 

習得すればこの先の人生において、かなりの強みとなるのは間違いない。

更に15歳のプレゼントの用意もある。

その上で彼はルファスの申し出を……。

 

 

 

 

「判った。自分の知識で良ければ是非使って欲しい」

 

 

受けるに決まっていた。

未来に目を向け、命を助けたいと願う少女の言葉に頷かない訳がなかった。

現金な話になるが、ルファスがこういった技能を覚えれば将来的にそれで収入を得る事も可能になるだろうという思惑もそこにはあった。

 

 

そう、彼女に必要なのは収入を得るための技術だ。

ルファスのレベルであれば戦いの中で名を挙げる事など容易いだろうがプランはそれを望まない。

彼女とアウラには自分たちの様な血生臭い世界には入ってきてほしくないのだ。

 

 

誰かを殺して金を得るのと、誰かを救って金を得る。

どちらが素晴らしい事かなど考えるまでもない。

 

 

そんな彼の考えを知ってか知らずかルファスは笑った。

はにかむ様に、噛み締める様に。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

眼を細めた後、彼女は真正面からプランを見た。

真っすぐな瞳であった。彼女はもう彼から眼を逸らさない。

真っ赤な瞳は宝石の様で、それでいて太陽を思わせる程の活力に満ちている。

 

 

一瞬、プランはルファスの瞳に見惚れてしまいそうになった。

 

 

 

「今回だけじゃない……貴方はいつも私に知識をわけてくれた────助けてくれた」

 

 

 

どんな時であっても彼は嫌な顔一つせず自分の言葉に答えてくれたことを思い返し、ルファスは胸が暖かくなった。

それがどれほど素晴らしい事か、ようやく気付いた彼女が発する言葉は一つだ。

 

 

 

「だから、ありがとう」

 

 

 

続く言葉が胸の中で響く。

断固とした決意と、燃え上がるような高揚を混ぜ込んだ何よりも熱い意思がそこにはあった。

 

 

 

絶対に貴方を助けて見せるから。

 

 




ヒロイン力はともかくヒーロー力まで上がり始めた模様。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。