ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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祝! コミカライズ版連載再開!! 
これはいい流れが来てますね。




ルファスはアリエスを捕まえた!

 

 

リュケイオンの人々に挨拶回りをした翌日、ルファスはピオスの下を訪れていた。

朝のミサが終り、子供たちがきゃきゃ叫びながら教会から出ていくのと入れ替わりに彼女は足を運んだのだ。

彼はいつも通り古びた木製の椅子に座り、何かの書類を書いていたがルファスの姿を認めると手を止めた。

 

 

 

 

「ごきげんよう」

 

 

 

「ようこそ教会へ。私に何か用ですか?」

 

 

 

「お礼を言いに来たんだ。

 それと……ちょっと聞きたい事が……今は忙しい?」

 

 

 

ピオスは立ち上がるとルファスの近くまで歩く。

彼はミサの時と同じ顔で少女に微笑んだ。

ピオスは黒翼であろうと罪人であろうと、何なら魔物であろうと己の下を訪れる者には等しく接する度量があった。

 

 

 

「とんでもない。何時でも私達は貴方を歓迎しますよ」

 

 

ピオスという男は変わらない。

プランやカルキノスとは別種の変わり者であり、それでいて、精神の強さという意味では両者を超えているかもしれない。

女神に仕え、彼女の教えを本当の意味で忠実に守る初老の男をルファスは眩しそうに見つめた。

 

 

 

彼もまた自分にはない“強さ”を持つ男だとルファスは思っている。

何が有ろうと揺らがない信仰心。

間違っていることを堂々と間違っていると宣言し、他者を救うために奔走する姿はレベルという概念の外にある強さそのものだ。

 

 

 

(……ヴァナヘイムの者達も見習ってほしいものだな)

 

 

 

ヴァナヘイムにあった教会と比べてルファスは内心で苦笑した。

助けを求めた時に門前払いされたことを彼女は決して忘れはしない。

だがもしもあそこにいたのがこの男だったら、もしかしたら自分も女神の信徒になっていたかも、と冗談めいたもしもを考えてしまう。

 

 

 

世界中の全ての信徒が彼であったらなら、間違いなく世界はもっといい方向に変わっているだろうと思ってしまう程にルファスはピオスに憧憬を抱いている。

 

 

 

 

「立ち話もなんです、こちらにどうぞ」

 

 

 

椅子を勧められ、ルファスはそこに腰を下ろした。

対面する様に彼も座るとピオスは微笑んだまま何も言わない。

彼はルファスが好きなタイミングで話を切り出すのを待っているのだ。

 

 

 

 

(……告解でもしている様だ)

 

 

 

告解どころか教会に入った事も殆どないルファスにとって、今の状況は未知に溢れており、とても新鮮味のあるものであった。

視線をあちこちに巡らせ、更にはレベル800の優れた探知能力で周囲をざっと警戒する。

誰もいない。しいて言うなら教会から離れていく子供たちと迎えに来た大人たちの気配を遠くから感じる程度だ。

 

 

 

…………。

 

 

 

一息吐いて、吸う。

ルファスはピオスの皺が深く刻まれた顔を真正面から見た。

5年間お世話になりっぱなしで、幾度も母と自分を助けてくれた命の恩人の顔を。

 

 

 

ルファスは背筋を伸ばして深く頭を下げた。

既にプランに告げた言葉を彼にも紡ぐ。

 

 

「5年も遅くなったけど……母と私を助けてくれてありがとうございます」

 

 

 

ピオスは微笑み続けたままルファスの肩にそっと手を置いた。

 

 

 

「どういたしまして。───ですが、そこまで気負う必要はありません」

 

 

ピオスは既に全盛から下り坂に入った初老の男だ。

今のルファスならば腕どころか指一本で倒せてしまえる程に格下の存在でもある。

だが、次に彼が発した言葉はルファスの心を酷く揺さぶり、頭を真っ白にしてしまった。

 

 

一生忘れないかもしれない程に彼の言葉は衝撃的で、ありふれたものであった。

 

 

 

「誰かが困っていたら、助けるのは当たり前なのですから」

 

 

 

「だから私は元気にアウラ氏と過ごす貴女を見ているだけで、満足ですよ」

 

 

 

それは女神の教え云々よりもっと大前提の、人としての当たり前の話。

他者の不幸を憎み、他者の幸福を我がことのように喜ぶこと。

我よりも人という慈しみの心だ。

 

 

 

この混沌としたミズガルズにおいて余りに哀れな建前であり、誰もが大切だと理解しながらも貫けないモノである。

もはや一種の狂気ともいえる濃度でピオスはそれを実践していた。

 

 

 

女神を称え、信仰心からルファス母子を苦しめた者たち。

女神を称え、彼女への敬意と憐憫からルファスたちを救ったピオス。

女神を称え、彼女への狂信から絶望を振りまくラードゥン。

 

 

これらは正に一つの宗教の光と闇であった。

 

 

 

「────」

 

 

 

……あぁ、本当に。

どうしてヴァナヘイムの教会に彼がいなかったのかとルファスは心から思ってしまった。

同時に彼がここにいてくれてよかったとも思った。

 

 

ピオスからはきっと、プランとは違った種類の強さを学べる。

それは自分のこの先の長い人生において、何物にも代えがたい価値を生むとルファスは思った。

 

 

「うん……」

 

 

少女に出来たのは頷く事だけであった。

真っ白になった頭ではそれくらいしか出来なかった。

老司祭はルファスの顔を見て……彼女の顔に今まであった憎悪が綺麗さっぱりなくなっていることを察する。

 

 

また一つ、彼女が本来あるべき姿────ただの愛される子供に戻りつつあるのを彼は察し、感慨深く思った。

 

 

 

「さて。少々お待ちください。

 私としたことが、客人をもてなす菓子の一つも用意しないとは……」

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

一度席を立ち、奥の部屋に戻ってごそごそと音を立てる。

ルファスは脱力して背もたれに身体を預け、翼を左右に大きく伸ばして待つことにした。

まだまだ彼とは話したい事が多くある。

 

 

ピオスはレベルこそ低いモノの天法のエキスパートである。

そんな彼に学びを受けたいとルファスは考えていた。

 

 

ルファスは【プリースト】や【アコライト】のクラスを取ったが、正直な所、これを最大に活用する方法が判っていない。

あの時は咄嗟にプランを助けたい一心で天力/天法を主にし、回復などを扱うクラスを取っただけであり、彼の腕を治療した時も高レベルに任せた力任せであった。

それでは恐らく天法という概念を真に理解できていないと彼女は思っている。

 

 

 

技術的な面や精神的な心構えでもいい。

とにかく学べる所は全て学んでプランを助ける一助にしたいのだ。

 

 

 

 

ただ…………。

 

 

 

(女神への信仰心が強さになる、とか言われたら困るな……)

 

 

 

僅かばかりの不安を滲ませて苦笑する。

信仰心と言われたら、いきなり計画がとん挫する可能性さえあるのだから。

 

 

ルファスは女神の事を欠片も信じてはいない。

今までアロヴィナス関連でいい思いをしたことなど……まぁ、ピオスやリュケイオン関連以外ではないからだ。

何なら関わりたくないとさえ思っている。

 

 

そう、関わりたくない。

彼女は知らぬことだが、それはプランが女神に対して抱いている感情と同じであった。

 

 

 

もしも女神が実在するというのならば放っておいてくれ。

私は皆と穏やかに生きていきたいだけなんだ。

変な気遣いやら神様の試練やらはいらない、こっちを見るな。

 

 

ようやく手に入れた自分たちの居場所で、幸せになりたいだけ。

それが今のルファスの願いである。

 

 

 

茶菓子を用意したピオスが戻ってくる。

ルファスは背筋を伸ばし、彼に教えを乞うために気合を入れなおすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メメメメメメ!!」

 

 

青い空に響かせるようにアリエスは大きく鳴き声を上げている。

眼と身体をキラキラさせ、息も荒く跳ね回る。

5年経とうと今だに子羊である彼はピョンピョンと跳ね回り喜びを露わにしていた。

 

 

 

リュケイオン近郊にある訓練所。

もはやレベル800となった彼女にとっては狭すぎるそこにプラン、ルファス、カルキノス、アリエスの三人と一匹はいた。

レベル800が二人、221が一人という豪華なパーティーである。

 

 

「yes……ついにこの日が来ましたね」

 

 

 

ごくりとカルキノスが喉を鳴らし、跳ね回るアリエスを神妙な顔つきで見つめていた。

普段は基本的にリュケイオンで街を見守っているカルキノスまで出向いているのには理由がある。

 

 

 

ルファスは遂に【モンスターテイマー】のクラスを得た。

つまり、ようやく正式にアリエスと契約を結び、彼を名実ともに自分のモノにすることが出来る様になったのだ。

言わばアリエスにとっての一種の誕生日とさえいた。

 

 

 

故に彼と仲のいいカルキノスがその決定的な瞬間を見届ける為に二人に同行したというわけだ。

 

 

 

 

「思えば5年か……アリエスには不自由をさせてしまった」

 

 

 

虹色羊の毛を隠す為に夏だろうと何だろうとずっとシャツを着せ続けたことにルファスは少しばかりの申し訳なさを抱いていた。

 

 

本当ならばもっと早くに【モンスターテイマー】のクラスを得るべきだったのだ。

が、今までの彼女は自分の力を強くすることにしか興味がなく

アリエスについては二の次にしていた節があった。

 

 

自分の臣下。

自分だけのモノだと言っておきながら自分はアリエスに対して配慮など全くしていなかったという事実を彼女は苦く噛み締めた。

 

 

それなのに彼は自分の正体を明かしてまで母を助けるのに力を貸してくれたのだ。

かつてプランとした約束をしっかりと守った虹色羊は

その羊毛以上に美しい有様を見せてくれた。

 

 

それを思うだけでルファスは己の愚かさを改めて突き付けられ少しばかり視線を落としてしまう。

 

 

しかしカルキノスがルファスに気付かれぬようにアリエスを見て目線だけで合図する。

虹色羊は友達のサインをしっかりと受け取り動いた。

 

 

 

「メェ!」

 

 

「ん……ありがとう。お前はいつも暖かいな」

 

 

シュンっと翼を垂れさせたルファスに近寄り、慰める様に手を舐めるアリエスにルファスは微笑む。

パチンと自分の頬を叩いて気合を入れなおす。

まだまだこれからだ、アリエスにとっても、自分にとっても記念となる日に辛気臭い顔をしているわけにはいかないと。

 

 

 

自分はリュケイオンのルファスだ。

今はまだあらゆる面で足りていないけど、きっと変わって見せると彼女は決意を新たにした。

 

 

「よしっ! 始めるぞ……!!」

 

 

 

翼を広げ、少しばかり緊張した面持ちでルファスはアリエスを見据える。

既に【モンスターテイマー】のスキルの使い方と概要を予習した上にプランからも意見を聞いているので何も問題はない……筈だ。

それでも本当の意味でアリエスを己のモノにするという行為に緊張は消えない。

 

 

何の問題もない筈だというのに、やはりちょっとだけ不安があった。

 

 

 

「やり方は先に説明した通りになる。

【モンスターテイマー】の【キャプチャー】というスキルを

 アリエスに向けて使うんだ」

 

 

 

【キャプチャー】とはモンスターテイマーの基礎スキルである。

効果は名前の通り、標的にした対象を捕獲し、自分の配下に加えるというものだ。

 

 

 

「アリエスがルファスの仲間になると同意すれば【キャプチャー】は成立さ。

 大丈夫、もう成功しているようなものだね」

 

 

ルファスの仲間になりたいよね? 

とプランが聞けばアリエスは首が取れるのではないかと思う程に激しく頭を上下させた。

 

 

 

「メメッ!!」

 

 

 

早く、早くと急かすアリエスを見てプランは微笑むと、落ち着かせるためにしゃがみ込んで彼の頭を撫でてやった。

耳の裏を優しく掻いてやると羊は口角を吊り上げ、うっとりとした顔を見せる。

追撃を入れる様にこそこそとプランはアリエスに囁きかけてやった。

 

 

「これが終ったら後でトウモロコシを上げる。それも三本」

 

 

 

「ファッ!?」

 

 

トウモロコシ、それも三本と聞いてアリエスの口からぽたぽたと涎が零れ落ちる。

最低でも週に一本は食べないと禁断症状が出てしまう程に羊はトウモロコシの虜になっているのだ。

それが三本、アリエスの瞳には大好物の姿だけが浮かび上がってしまった。

 

 

ジュルリと涎を零すアリエスを見て当然ルファスは叫んだ。

レベル800ということもあり、相応に耳も良い彼女はプランの囁きも聞こえている。

バサバサと翼を振り回し、毛先の朱色を輝かせながら少女は汚い大人に抗議の声を上げた。

 

 

「 や め て ! 」

 

 

 

両手を腰に当ててふんふん荒い息を吐きプランを見下ろす。

茶番でもしているのかプランはアリエスを抱きしめて二人で怒れる少女を見上げた。

アリエスも即興で彼の肩に前足をやって涙を浮かべた瞳をしている。

 

 

まるで母親に怒られる兄弟の様な仕草にルファスは吹き出しそうになったが何とか堪え、飼い主として当然の抗議を送る。

後ろでカルキノスが「ブフッ」と吐息を漏らし、つられて自分も笑いそうになるのをルファスは必死にこらえた。

 

 

 

「アリエスを肥えさせるのはやめてもらおうか!!」 

 

 

「三本は多すぎる!! せめて二本にしろ!!」

 

 

「それと、後でアリエスの散歩を手伝うように!!」

 

 

 

判ったと一人と一匹が頷くのを見て、ルファスはとりあえずの満足を得る。

しょうもない茶番劇が入ったせいで先ほどまで抱いていた緊張感も何もかもが台無しであり……妙な気負いも消えていた

まさか、と思ってプランを見れば彼はいつもの様に微笑んでいる。

 

 

ルファスもまた脱力して笑い返した。

また乗せられた。だが、嫌な気持ちはしなかった。

彼女はアリエスに手を翳し、スキルを発動させる。

 

 

 

「“キャプチャー”」

 

 

 

脳内でピロリンという奇妙な音が流れると、同時にアリエスが自分のモノになったと本能で彼女は理解した。

何の面白みもない成功だ。

あれだけ緊張していたのが嘘の様に、一秒たらずで彼女はアリエスを本当の意味で手に入れることに成功した。

 

 

 

「おめでとう! これでアリエスは正式にルファスにテイムされたよ」

 

 

「……呆気ない。もっとこう、何かあると思ってた」

 

 

 

そんなものさとプランが言うとルファスは小さく頷いてからアリエスを抱き上げた。

初めての臣下であり、大切な仲間でもある羊の頭を優しく撫でながら言う。

 

 

 

「これからもよろしく頼む。まだまだ弱い私を支えてくれ」

 

 

 

「メェ!」

 

 

 

暖かくて柔らかいアリエスを暫し堪能してから降ろし、微笑む。

5年間一緒だったとはいえ、今日からまた新しい関係が始まると思うとルファスの胸は躍った。

 

 

 

「YSE! アリエスとのAgreementも無事に終わったようで何よりです!!」

 

 

 

「ありがとう。

 ……だけど全てはここからだと思う。

 私も今より精進してアリエスに相応しい主にならなくちゃ」

 

 

 

ひらひらと踊りながら、どこか道化師の様な態度で褒めたたえるカルキノスにはにかむ様に笑いながら答える。

以前までなら彼の軽薄な動きに苛つきを見せていただろうが、今はもう違う。

 

 

 

そんな少女の様子を見たカルキノスは嬉しそうに笑った。

本当に、強くなりましたね、と心の中で呟いた。

 

 

プランとルファス。

どちらも守り通した男は少しだけ自分の肩が軽くなったのを感じた。

彼もまたルファスを見守ってきた男である。故に彼女の成長を心から喜ぶと同時に少しだけ寂しさを覚えた。

 

 

彼女が将来どんな道を行くかはまだ判らない。

だが、どんな選択をしようともカルキノスはルファスとアウラを守ろうと決めている。

魔物として無駄に長い寿命をもっているのだから、それくらい訳ない事だと。

 

 

 

「なれますとも。レディならきっと」

 

 

 

「その時はうんっと楽をさせてやるからな! 楽しみにしているといい!」

 

 

 

「HAHAHAHA! 是非お願いしますよ!」

 

 

パチンと手を叩き合い、二人は笑い合う。

そんな様を見ていたプランはまた一つ、心が軽くなるのを感じていた。

きっとカルキノスならば遥か未来までルファス達を守ってくれる。

 

 

ならば自分は自分のやるべきことをやってルファスの未来を創ろうと彼は思って……。

 

 

 

「ほらっ! いつもの!!」

 

 

 

“いつもの”と唐突に言われて一瞬だけプランは固まりルファスを見た。

彼女の真っ赤な瞳はキラキラと輝いており、しきりに“アレだ、アレ”と訴えかけている。

2秒ほど考えた後……彼女の求めるモノを悟って笑った。

 

 

そういうことか、と呟く。

確かに今まで色んなことを彼女に教えては来たが、ルファスの中ではもはや自分の説明は風物詩と化してるのかもしれないと思いつつ口を開く。

教えを乞われたら答えるのはアリストテレスとして当然なのだ。

 

 

 

「……テイムした魔物はルファスと概念的な繋がりを得ているんだ。

 ある程度の距離までは何処にいるか大まかな位置が判る様になっているはずさ」

 

 

 

さすがに何百キロも離れたりしたら判らなくなるから注意だよ、と付け加えておくことも忘れない。

中には空から急降下してきて、アリエス位の体重なら攫って行く魔物などもいるのだから。

生物の渡り鳥でさえ何千キロも旅をするのだ。

マナによって変異した魔物ならば数百キロの移動など散歩でもするようなものだろう。

 

 

 

「油断は禁物というわけだな。

 ……ちゃんと聞いておくんだぞアリエス」

 

 

ふむふむと頷きながらルファスはアリエスを撫でてやる。

今はまだごく少数の者しか知らないが、仮に虹色羊の件がリュケイオンの外部に漏れたら厄介な事になる可能性があり、そういった時にはありがたい能力だと彼女は思った。

「メッ!」とアリエスは真剣な様子でプランの言葉に頷いて答える。

 

 

 

「後はアリエスのレベルについての説明をするよ。

 テイムした魔物のレベル上限の計算式は

 ルファスの総合レベル÷2+[モンスターテイマーのクラスレベル×3]になるんだ」

 

 

 

「この場合、ルファスのレベルは800で

 【モンスターテイマー】のクラスレベルが100だから……。

 400と300を足して700になる」

 

 

 

「レベル700か……早く強くなりたいな?」

 

 

顔を覗き込んでやるとアリエスはブンブンと顔を振って肯定する。

彼もまた男の子である。

大好きな主や仲間の為に強くなって活躍したいという思いは当然あった。

 

 

 

「後は基本的な事として主のレベルを超える事は出来ないというのもあるから注意してね。

 仮にアリエスがレベル1000の力を手に入れたとしても

 さっき言ったレベル上限である700の枠に固定されちゃうんだ」

 

 

 

「OH……それでもレベル1000のアリエスはちょっと見てみたいですね」

 

 

 

「メメメメメメェ~~!!」

 

 

 

「待ってて! いつかきっとなって見せるから」

と叫ぶようにアリエスは鳴き声を上げ、三人は微笑んだ。

 

 

 

「勿論、楽しみにしているぞ。我が最初の臣下よ」

 

 

 

誰もアリエスを馬鹿にはしなかった。

むしろ彼ならばできるという確信だけがある。

レベル1000という頂きにきっと行けると。

 

 

 

 

「後はスキルについて……」

 

 

 

次に朗々とテイムした魔物のスキルについてプランは語っていく。

テイムした魔物のスキルの個数は決まっていること。

そしてある程度はテイマーが何を覚えさせるか決められることや、魔物が種族として覚えるスキルなどがある事などなど。

 

 

一通り話した後、彼は友を見てからルファスに言った。

 

 

 

「ちなみにカルキノスはかなり特殊な例になる。

 彼は一度、魔物としての力の殆どを捨てて代わりに

 “人化”のスキルを手に入れたんだ」

 

 

 

「まぁ……普通ではないだろうとは思ってた」

 

 

 

 

明らかに魔物というには人間味がありすぎる男をルファスは訝しむ様に見つめた。

余りに自然に人として振舞っているせいで、時折彼が魔物であることを忘れる程、というのが彼女の寸評である。

 

 

カルキノスは優雅に一礼し、そういえばルファスには正式に名乗った事がないと思いながら自己紹介を始めた。

出会って5年目の挨拶というのも変な話ではあるが、節目と思えば問題はない。

 

 

 

「ご紹介に預かりましたミーことカルキノスです。

 出身はただの深海……あー、アトランティスではないのでご注意下さいね? 

 あんなboredな国には住んでいられません」

 

 

 

「彼の種族はキングクラブ。

 文字通り甲殻類の王者として君臨する手強い魔物なんだ」

 

 

 

「今はただのカルキノスですよ。

 それにしても魔物としての力の殆どは

 【人化】をgetする為に捨てたのですがねぇ……」

 

 

あの“果実”によって力を取り戻し……否、深海に居た時よりも更に強くなった彼は世の中は判らないものですと頭を振った。

 

 

 

キングクラブは防御に特化した魔物である。

苛烈な生存競争を生き残るため、とにかく身体を頑丈に定向進化させた存在であり、成体ともなるとかの獅子王でさえ手こずる程に頑強とさえ言われる。

主に深海の砂の中に身を潜め、獲物が通りかかった所を鋏で襲い掛かり丸のみにする恐ろしい魔物である。

 

 

 

巨大な口で獲物を丸のみにするため、マナを逃さず吸収可能であり高レベルになりやすい怪物、それがキングクラブだ。

仮に地上に成体が上がってきたら国の一つや二つは成すすべなく蹂躙されるだろう。

何せ竜よりも頑強なその身体を傷つける事など人類にはほぼ不可能なのだから。

 

 

 

ちなみに海水であろうと淡水であろうと問題なく活動可能だ。

 

 

 

「……どうして地上に来たんだ?」

 

 

それは当然の疑問であった。

そんなとんでもない力をもっている存在がどうしてわざわざ力を捨ててまで地上に? と。

 

 

 

「つまらなかったんですよ。

 ずーっとdarkな水と砂の中。ただ餌を待つだけの日々が本当に」

 

 

 

魔物時代にいい思いはなかったとカルキノスは遠い眼をした。

ただじっと待つだけの日々。

時折通りかかる獲物を食べるだけの毎日。

 

 

そんな彼の楽しみは潮の流れによって海流が変わる節目に、ほんの僅かな時間の間だけ深海に差し込む太陽光を見る事だけであった。

 

 

「いつもミーは上を見ていました。

 時折差し込んでくる仄かな光を見ていて……あそこに行きたいなと思ったのです」

 

 

 

「……判る気がする。私も昔はずっと星空を見ていたから」

 

 

 

ヴァナヘイムに居た時、星を見る事しか娯楽がなかった少女はカルキノスの言葉に共感を得て頷く。

何の楽しみもない人生を過ごしながら、遥か遠くに輝く星を見つめて「いつかあそこに行きたい」と思う気持ちは彼女も抱いた事があるから。

 

 

 

 

「というわけで、ミーはこうなったわけです! 今は最高にhappyですよ!!」

 

 

 

「やっぱり人生は行動あるのみですね!!」

 

 

 

にっこりと人懐っこい笑みを浮かべてカルキノスは宣言する。

今が最高に幸福だと。何せ友がいて、居場所がある。

毎日毎日刺激に溢れており、未知はひっきりなしにやってくる。

 

 

彼にとってこれ以上望むモノはない程に素晴らしい環境であった。

 

 

 

「そうだな……」

 

 

カルキノスの言葉を聞きながらルファスはプランを見た。

その次にカルキノスを見て、アリエスを見る。

そして最後に自分の翼を見た。

 

 

胸を張って彼女は思えた。

まだ口にするには少し恥ずかしいから言えないけど、はっきりと今の環境を少女は表現できる。

 

 

 

 

“私は今、とても■■だ”と。

 

 

 

ここでは誰も翼の色など気にしない。

もちろんここが特別だという事を彼女は知っている。

お人よしばかりで、こんなに暖かい場所は滅多にないことを。

 

 

むしろミズガルズにおいてはヴァナヘイムの様な場所や

他者の痛みなど何とも思わない者が跋扈している地の方が多いかもしれない。

ようやく自分がどれほどの奇跡を得ていたか気が付けた少女は噛み締める様に同意するのであった。

 

 

 

 

「私も本当にそう思う」

 

 

 

 

だから……と思いつつ気が付く。

 

 

 

 

(“キャプチャー”……。

 これってもしかして、相手が同意さえしていれば何でもいけるのか?)

 

 

 

 

プランは「捕獲できるのは魔物だけ」とは言わなかった。

そして彼女の本能は直感でコレは魔物以外の誰であろうと理論上はテイムできると訴えている。

 

 

 

プランの背中を見る。

彼はカルキノスと共にバーベキューの準備を始めていた。

そして本当に魔が差しただけであった。

 

 

 

もしも彼をテイム(私のモノに)出来たらそれは何て───。

 

 

 

「っ!」

 

 

想像するだけで身震いするほどの恐ろしい考えであった。

背筋が寒いのに心胆の底より生暖かいナニカが込み上げてくるような、甘美な誘惑でもあった。

根元から先っぽまで翼が痙攣する。

 

 

(なんだ……コレ……?)

 

 

駄目だと本能的に悟り拒絶する。

誰にも気が付かれない様に恐ろしく熱のこもったため息を吐き、奇妙な高ぶりをルファスは抑え込むのだった。

 

 




コミカライズ版は3月に更にもう一話更新予定だそうです!

今から楽しみです。



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