ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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不死鳥の“じこさいせい”!

 

 

煌々と輝きを放ちながら新生した【不死鳥】は先とは違う透き通った瞳で奈々子、メグレズ、ルファスを順々に見ていく。

視線を向けられただけで熱気が押し寄せ、奈々子たちの装備品が全力で熱をレジストする。

その上でなお、肌が焼かれるように熱いと感じたのはきっと気のせいではないだろう。

 

 

 

『“勇者”に“エルフ”……さらには“変わり種”ときたか』

 

 

 

最後にプランを見つめ、不死鳥は哀れむような声音で言う。

何万という月日を重ねてきた翁の眼は彼の中身を見透かしたようであった。

 

 

 

『そして……人とは侮れぬ物じゃの。そのような外法を己が血族に施すとはな』

 

 

 

たかが千年でよくやるわい、と喉を鳴らして笑う。

彼の視線はプランの腹部に固定されていた。

恐ろしい年月を生きてきた魔物だけあり、色々と気が付いているのは間違いない。

 

 

「…………」

 

 

 

蒼い瞳を輝かせながらプランは佇み何も答えない。

さすがは最古の魔物だなと感嘆さえしていた。

数多くという程ではないが一応は種族として認識される程度は存在する不死鳥の中でも、この個体は最古であり、最強だなと彼は瞬時に判断していた。

 

 

魔物の社会とは一言でいえば弱肉強食であり、絶えない生存競争が続く修羅道である。

そんな世界の中で枯れ果てる老域まで生きながらえていることから如何にこの怪物が規格外なのか判るというものだ。

 

 

 

アイネイアースの名前を出した上でポルクスの性格を言い当てている辺り

この個体は人類が枝分かれする前か、もしくは人類が誕生する前から存在していてもおかしくはない。

 

 

奈々子が熱に炙られながら一歩前に踏み出す。

不死鳥と相対した彼女はもう一度、先と同じことを口にしようとしたがその前に不死鳥が遮った。

大きく翼を広げ、火の粉を撒き散らしながらフェニックスは勇者を見下ろす。

 

 

 

『立ち退く気はないぞ。何故、オレが貴様らの言い分を聞かにゃならんのだ』

 

 

 

ククと喉が鳴る。

まるで人間の様に彼は笑っていた。

認知症が治った結果として彼は魔物の王としての傲慢/残忍さも取り戻していた。

 

 

 

『マルクトと言ったかの?  

 そこに美味そうな餌がワラワラおるのは知っておるわ───全て平らげてやろうぞ』

 

 

 

「っ!」

 

 

楽しそうに不死鳥は言葉を弾ませる。勇者が絶句したが、気にも留めない。

何処までも喜悦を燃やしながら悪い魔物として彼はミズガルズにやってきたばかりであろう勇者に教えを授けていくのだ。

折れるならばよし、それでもと立ち上がるのならば手折ってやるつもりであった。

 

 

 

『異邦の地より招かれし旅人よ。これがミズガルズなのじゃ』

 

 

 

真っ赤に燃え上がる翼が火山をも超える色彩と熱を噴き出す。

天と地を深紅に染め潰しながら不死鳥は数万年を超える年月の中で培った世界の真理を宣言した。

 

 

 

『強き者が思うがままに振る舞い全てを得る。弱者はただ頭を垂らして死ぬのみ!』

 

 

 

『オレをここから追い出したければこう言うのじゃな。“邪魔だ、叩きだしてやる”とな』

 

 

 

『守らねばならぬ民? 知らんわ! 弱者に何故配慮する必要がある!?』

 

 

 

ハハハハハと魔物は笑う。

傲慢で傲岸。力でこの世の全てを思い通りにしようとする悪がここにはある。

そして薄々感づいていた事実を列挙され、奈々子の顔が苦渋に染まる中───ルファスは表情を完全に消し去っていた。

 

 

 

彼女は、静かに怒っていた。

 

 

 

たった今、この魔物が宣言した言葉を彼女は知っている。

5年前、リュケイオンに来た当初の自分は全く同じことを考えていたのだから。

おぞましいまでの傲慢、自分も他者からこう見えていたのかと思うと吐き気がしそうであった。

 

 

 

これを受け入れてはならない。

確かに力があれば色々できる。

だが、決してそれが全てではない事を彼女は知っている。

 

 

 

ザリっと砂を踏みしめてブーツを一歩前に。

奈々子の隣に並び剣を構える。

 

 

 

「ナナコ。アレはあくまでもあいつの理屈だ。

 まさか“正論だ”なんて思ってないだろうな?」

 

 

 

 

「いいえ! まさか!!」

 

 

 

病に侵されていようといまいと話が通じない相手だと理解した奈々子もまたルファスと並び剣を構える。

プランが一歩分だけ前に進み、メグレズもまた距離を取る。

 

 

前衛──ルファスと奈々子。どちらも超がつくほどに攻撃的な戦闘スタイルの少女たちだ。

 

 

中衛──プラン・アリストテレス。彼は全体を俯瞰し己の手札と魔物の能力を検証していた。

 

 

後衛──メグレズ。魔法を発動するために彼は精神を研ぎ澄ます。

 

 

 

 

と綺麗に役割分担が完成された面々である。

 

 

 

『おぉぉぉぉぉ……久しぶりじゃなぁ……』

 

 

不死鳥が歓喜と戦意を混ぜ合わせた呻きを上げる。

燃え盛る身体の奥にある深紅の瞳は不遜にも王たる己を害さんと立ちはだかる者達を見て細められていた。

 

 

 

『最後にオレを殺そうとしてきたのは誰であったか。もう思い出せんわい』

 

 

 

 

ははは、と笑い……フェニックスは己の視界が上下逆さまになる。

「はて?」と頭を傾げようとしたが動かせない。

ソレもそのはず、彼の頭は再び刎ねられていたのだから。

 

 

ただ素早く近づいて首を落とす。

たったそれだけの単純な動作でも勇者としての暴力的なステータスで実行すれば必殺になる。

ぐるんぐるんと回り続ける視界の中で見えたのは恐らく己の首を落としたであろう勇者の少女。

 

先まであった何とか交渉で終わらせようとする平和主義者の顔はそこにはない。

あるのは標的を抹消し勇者としての使命を果たさんとする戦闘者の様相である。

凍り付いたような無表情で、まるでゴーレムの様に的確に斬首を実行した奈々子の顔は……魔物である彼からすれば最高であった。

 

 

 

 

『だからこそ惜しいんじゃがな』

 

 

 

哀れみを込めて小さく呟く。

聞くに彼女の住まう世界は……まぁ少なくとも彼女の産まれた国は平和なのだろう。

わざわざ異世界まで連れてこられて、馬車馬の如く働かされる哀れな人形。

 

 

彼女には希望があるのかもしれない。

平和な世界では決して叶わなかった自分が主人公になれるという希望が。

もしくは一人では空も飛べない世界からこちらにやってきて空想を楽しんでいるのかもしれない。

 

 

 

『哀れな奴よ』

 

 

 

しかし結局最後は何も変わらない。

誰一人。何一つ。どうあっても彼女たちは本当の意味で勝利することはできないのだ。

 

 

彼は多くの勇者を知っている。

その末路がどうなったかも含めて全部。

故に彼はポルクスが大嫌いなのだ。

 

 

 

 

『然れば』

 

 

 

ここで死んでおくのがきっと“勇者”にとって最も幸福な終わりである。

故にフェニックスは彼女を殺してやると決めた。

 

 

 

 

崩れ落ちた身体が灰へと変わり、黒ずんだ山の中から新しいフェニックスが生まれる。

これは再生ではない。

正真正銘の“復活”であり、種も仕掛けもない不死性の発露であった。

 

 

プランは先に不死鳥を『不死身と思う程にタフ』と称したが、間違っていたのかもしれない。

これは“思う程に”でなく“正しく”と言うべきだろう。

 

 

【フェニックス 壮年期】

 

 

レベル 600

 

 

 

更に一段階不死鳥は時間を逆行させながら蘇る。

もはやルファスでさえ一瞬で切り伏せるのは難しい程の難敵であり、これでもまだ全盛期ではないという事実があった。

 

 

『準備運動はこの程度でよかろうて』

 

 

知的かつ淀みなくフェニックスは喋る。

もはや老いによる弊害はなく、深い知性だけがあった。

 

 

まずは軽い小手調べ。

どうせ蘇るからとはいえ、空の王たる自分が幾度も首を刎ねられるのは少々沽券にかかわる。

彼は全身から恐ろしい勢いで炎を噴き出し、再び己の首を刎ねようとする奈々子を跳ねのけた。

 

 

 

一瞬で不死鳥の周囲の温度は鉄さえも溶解する次元に変わり、ソレは勇者に後退を判断させるものであった。

 

 

 

「っッツ!」

 

 

 

ジリリと己の肌が焼ける音を聞いた勇者が後方へと跳躍し、赤熱した剣を見やる。

ミスリルを原材料とし、クラウン帝国でも有数の鍛冶師が鍛え上げたソレはさすがというべきか溶け堕ちてはいなかった。

製造工程のガラス細工の様な色彩のソレを見て少女の顔は引きつり……直ぐに感情は沈静化される。

 

 

 

カチ、と頭の中で何かが切り替わると彼女の思考は恐ろしい程に冷え切っていく。

平和な日本では決して芽を出す事はなかった戦闘者としての才能がミズガルズにおいて開花しつつある結果であった。

 

 

そんな彼女を不死鳥は鳥の顔でも判るほどにニヤつきながら眺めていた。

フクロウの様に「ん?」「ん?」と顔を何度も傾げあらゆる角度から挑戦者たちを観察している。

 

 

 

 

「もう先の様にはいかないようだな。ここからが本番だ」

 

 

 

「みたいですね」

 

 

 

隣にルファスが並び同時に剣を構える。

更に【一致団結】が発動され、二人の瞳は蒼く不気味に輝く。

 

 

 

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迚ケ諤ァ縲?雜??溷?逕溘??蠕ゥ豢サ蠑キ蛹悶??蟷エ鮨「荳肴?

 

 

 

(ぇ……?)

 

 

どういうことだとルファスは目を見開く。

 

 

何時もは意味不明極まりなかったソレ。

いつの日か知りたいと思っていたプランの秘密の一端。

だが今この瞬間……視界いっぱいに映り込む不気味な数式や法則をルファスは理解させられた。

 

 

かつてのミョルニルの吸血鬼たちが国一つ繋ぎ合わされてようやく至った域へと彼女はたった一人で落ちてしまったのだ。

 

 

これは一種の事故であった。

プランとしては勝利するために行った【一致団結】であり、決してそんなつもりではなかった。

彼に誤算があったとしたらそれは彼が思っていた以上にルファスが【一致団結】を強く受け入れてしまい、深層領域規模で接続されてしまったことだろうか。

 

 

 

隣の奈々子を見る。

彼女も眉を顰めているがどうやら自分ほど深く彼と繋がってはおらず、本質には到達していないようだった。

 

 

ルファスは理解させられてしまった。

この世界がいかに脆いか。

そしてこの数字の羅列こそが世界の根底であり、ミズガルズの本質なのだと。

 

 

 

頭を振る。今は強敵を前にしているのだ。

気になる事は多々あれど、全ては後回しである。

 

 

 

 

 

二人は構え、魔物は翼を広げて迎撃の体勢を取り……。

 

 

 

───フェニックスは胴を消し飛ばされた。

 

 

 

『クァっ』と無様に彼は息を吐く。

彼が受けたダメージ量は推定でも100万を超え、余りの数値に彼は白目を剥いていた。

誰もが意味不明な光景に硬直する。ただ一人、プランだけが黙々と作業を続けている。

 

 

オェェェ! と許容量を超えるダメージを叩き込まれた彼はシェイクされた内臓を吐き出しつつ灰に還った。

 

 

 

 

は?

 

 

果たしてそれは誰の言葉だったか。

身体に大穴を穿たれたフェニックスのモノだったかもしれないし、何なら後方で幾つもの魔法をいつでも発射できるように準備していたメグレズの言葉だったかもしれない。

 

 

 

 

使ったスキルは一つ。

【エクスカウンター】である。

ルファスが会得していたスキルを【一致団結】による繋がりを辿って使用したのだ。

 

 

 

これは相手の攻撃にタイミングよく発動することで攻撃を無効化した上で倍化ダメージを相手に与える能力だ。

彼はこのスキルをフェニックスが発する炎熱を対象にとって発動したのである。

カルキノスの【アクベンス】にも言える事だがこの手のスキルはスリップダメージには適応されないと思われているが実際は違う。

 

 

 

単純にタイミングの問題なだけである。

ダメージ処理が走る瞬間にスキルを使えば問題なく対象に取る事ができるのを知っている者は少ない。

超高速でカクカクと全身を震わせ、踊る様に手を交叉させてガードの体勢を取っては戻す事により熱波によるスリップダメージ相手に処理を走らせ、こうなったのだ。

 

 

 

「炎」属性によるダメージを無効化する装備品を身に着けているとはいえフェニックスの発する熱波はそれさえも貫通し、微量のダメージをプランに与える事が出来る。

最低保証は「1」だとして、それを20回ほど【エクスカウンター】による処理で倍々計算を走らせれば1,048,576ダメージという数字になる。

 

 

一秒間に20回彼は腕で「×」を作っては消すという傍から見れば珍妙な動作を行う。

その度にタイミングよく【マネーゲッター】を発動することによりカウンターダメージを取得し続け、ソレを不死鳥相手に押し付けた結果がこれだ。

 

 

 

「何……ソレ……」

 

 

 

眼を白黒させたメグレズがプランを指さして言う。

この場で最年長の彼からしても理解できない光景だったのだろう。

何せ彼から見ればいきなりプランは滑稽なダンスを踊りだした上に、何故か次の瞬間にはフェニックスの胴体に大穴が空いていたのだから。

 

 

 

カサカサカサカサカサと衣服が擦れる音と合わさって非常に……気持ち悪いとしか言えない動作であった。

奈々子が眼を泳がせ、メグレズが小刻みに震え、ルファスがため息を吐く。

が、プランは鋭い目でフェニックスであった灰の山を見つめる。

 

 

 

「まだ終わってない。油断はしないで」

 

 

 

「とりあえずこれで長期戦に持ち込まれるのは避ける事が出来たけど……彼も油断を捨てると思う」

 

 

 

殺せば殺す程に若返っていくのならばさっさと複数回死ぬほどのダメージを叩き込んで全盛期へと戻してしまおうというのがプランの考えだ。

そうすればこちらの手札を出来るだけ晒さずに済む上に体力も温存できる。

装備によって遮断しているとはいえここは火山のど真ん中であり、ただいるだけでダメージが入ってしまう魔境なのを忘れてはいけない。

 

 

そして……これは一種の実験でもあった。

この火山に彼が拠点を作った理由を知るためのテストと言える。

もしも自分の考えが正しければこの戦いは当初思っていたよりも厄介な事になってしまうだろう。

 

 

 

如何に白痴に陥っていたとしてもフェニックスは最高位の魔物である。

そんな彼が何の考えもなくクリフォ火山を根城にするとは考えづらかった。

 

 

 

……得てしてそういう当たってほしくない予測ほど的中してしまうのが現実というものである。

 

 

莫大なマナの循環が発生。

「火」属性のソレは赤とオレンジ色を混ぜ合わせたような、眼を焼く色彩の粒子として存在していた。

渦を巻きながらそれらは周囲を覆い尽くし、フェニックスの灰へと流れ込んでいく。

 

 

 

不死鳥は最高位の魔物であり、不死身とも思える程にタフな存在である。

しかし決してソレも無限ではない。普通ならば。

どれほど彼が凄まじい存在であろうとマナがなければ幾度も生と死をひっくり返す事など出来る筈はない。

 

 

 

そう、普通ならば。

だがミズガルズには限りなく無限に近しい力を誇る存在がいる。

全長1万キロを超えるかの怪物の頭は別の大陸にあるが、どうやら尻尾はここであったようだ。

 

 

いや、もしかしたらこの火山そのものがかの者の身体から漏れ出たエネルギーの排出口の可能性さえある。

 

 

【観察眼】でフェニックスを見た。

そして彼に流れ込むマナを見る。

途方もなく莫大な「火」属性のマナは周囲一帯を埋め尽くし飽和するほどであった。

 

 

余りの高密度のマナはヘルヘイムさえ部分的に超える濃度であり、正しく湯水の様にだくだくとフェニックスへと流れ込んでいく。

何処からソレが来ているかを見た上で全員と共有。

最初に反応したのはエルフのメグレズだ。

 

 

 

「何てことだ……」

 

 

愕然としながらも戦意を失ってはいない。

ミズガルズ最高の魔法使いを目指すエルフはむしろ眼前の光景を好奇心をもって見ている。

プランに次いで理解できたのはさすがというべきか。

 

 

 

「フェニックスはこの火山そのものからマナを吸収しています。

 ソレを何とかしなければ彼は永遠に復活し続ける事でしょう」

 

 

 

説明しろと視線でルファスが促すとプランは手短に告げた。

絶望としか言いようのない情報であったがルファスと奈々子、それにメグレズの顔色は変わらない。

魔物の拠点で戦うと決めた時点でそういう仕掛けがあるかもしれないなどとは誰もが思っていたのだから。

 

 

 

灰にマナが収束していく。

今までとはけた違いの密度で「火」という概念が収束し、ソレはもう一つの属性「日」さえも帯びて輝く。

余りの生命力の発露に灰の中より植物が芽を出しては熱で焼かれて死ぬを繰り返している。

 

 

そして──黄金色に輝きながら全盛期まで時間を巻き戻した空の王が立ち上がる。

真っ赤な炎が渦を巻き鳥を形成しているとしか言いようがない、正に炎の化身といった出で立ちで。

赤熱したガラスを思わせる瞳で不死鳥はプランを愉快気に見やった。

 

 

 

『奇怪な術だ……今のは効いたぞ?』

 

 

 

『お前たちはオレに比べりゃ瞬きしか生きられない命だが

 時折お前さんたちの様なイイ線行ってる奴が出てくるんだなこれが』

 

 

 

『楽しみだ。直ぐに燃え尽きるんじゃねえぞ』

 

 

 

不遜なる人間の一撃に怒るどころか不死鳥は称賛さえ抱いているようだった。

何千年、何万年、いやもっともっと長い時間を怠惰に過ごし認知の病にさえ侵されていたフェニックスは己の錆を吹き飛ばしてくれた一撃に心から感謝を抱いている。

 

 

 

───ギギギギ、ガアアアァァァアァ!!!

 

 

 

新生し最強の状態へと逆行を果たした炎の化身は翼を広げ、大きく嘶く。

人の耳では聞き取れない領域の高音は風に乗り世界中の魔物全てに空の王が帰ってきたと宣言する役目を果たした。

更に気分が高揚した結果、彼の表面温度が更に上昇を開始。

 

 

 

本来ならば炎という形状さえ保てない熱エネルギーが生きる炎という不死鳥の特性により火炎の形態を維持させられる。

圧倒的という言葉さえ生ぬるい「火」は魔法的な要素で形成されているために彼の周囲にしか影響を齎さないのが唯一の救いでもあった。

 

 

もしもそうでなければ、彼はただその場にいるだけで周囲数百キロの生命を絶滅に追い込んでしまうことだろう。

 

 

 

3000度。

 

 

4000度。

 

 

5500度。

 

 

まだ上がる。恒星の表面温度という理解不能の域へと彼は至る。

不死鳥の名に恥じぬどころか、想定さえ遥かに上回っていく。

この世で「火」という概念で彼を上回るモノはたった一つしかない。

 

 

 

【フェニックス 全盛期】

 

 

レベル 

 

 

950

 

 

960

 

 

970

 

 

1000

 

 

不死鳥、堂々と降臨す。

かつてのベネトナシュを超え、歴代の勇者の域にさえ及ぶ怪物は熱量の増幅と共にレベルを上げ続け、やげては頭打ちへと至る。

 

 

そのレベルたるは堂々たる1000。

ミズガルズにおいて頂点と位置付けられた領域であり、一つの時代に一つだけ存在するのが常たる天上の存在。

 

 

原初の時代に産まれ、あらゆる文明の隆盛を見てきた彼は正しく最古の最強の一つだ。

 

 

 

フェニックスが翼を広げる。

それだけで星が震えた。

新たなレベル1000の誕生に惑星中の誰もが不死鳥の座す方角を見た。

 

 

 

 

 

 

(私、何で……?)

 

 

伝説どころか神話で語られる魔物を前にルファスは自分の心に戸惑っていた。

かつてのベネトナシュを超え、ミズガルズにおいて許される限界域に上り詰めた不死鳥を前にしてルファスは……不思議と笑っていた。

怖くない。それどころか高揚している。バクバクと心臓がろっ骨を響かせるほどに高鳴っており、止まらない。

 

 

 

レベルにおいて超えられ、自分では殺しきれるかどうかも判らない不死性を見せられたルファスは間違いなく挑戦者側である。

だというのに、彼女は現状を喜んでいた。

 

 

負けて死ぬかもしれない。

誰であっても考える事をルファスもまた考えていた。

今まで何処か楽観的に見ていたのは間違いない。

 

 

 

不死鳥が如何に強かろうと自分たちの敵ではない。

さっさと打ち倒して素材をはぎ取ってやると侮っていたのだ。

しかし現実は自分のレベルを遥かに上回る1000である。

 

 

 

レベル1000。

この世界における頂点の数値であり、理屈上はこれより上は存在しない。

あのベネトナシュさえ超えるレベルであり、この存在がどうして“四強”に数えられていないのか不思議でしょうがない程だ。

 

 

普通ならば勝てない。

単純な数値の話をするならばルファスは800で、奈々子はもう少しだけリンゴを齧った結果700。

メグレズも普通からすればかなり高いがそれでも200にも満たない。

 

 

出会った時にはあれだけ高みに思えたプランでさえ221。

 

 

 

だがプランがいる。

自分の背を守ってくれており、彼はこんな時でも全く諦めていない。

それどころか自分たちを気遣ってくれてさえいた。

 

 

心臓がどくんと肋骨を叩くように一つ打った。

 

 

更に深く【一致団結】が接続され、効果を増していく。

ステータスが上がり続ける。

勇者を超え、獅子王の域に指をかけるほどに。

 

 

 

紅い瞳の中に微かに蒼がちらついた。

 

 

 

(…………)

 

 

 

気付けばルファスは剣の柄をつぶしかねない程に強く握っていた。

ギチチチと嫌な音がして、指の関節が微かに鳴く。

 

 

フェニックスの様にルファスは己の心臓が熱を帯びだしているのを感じていた。

とてつもなく熱くて、それでいて鋭利で、冷たいナニカが身体の奥から溢れてきそうであった。

 

 

 

 

「ナナコ───勝つぞ」

 

 

 

低い声で隣に立つ勇者に告げれば少女は無言で頷く。

自分より相手の方が強いと理解しながらも奈々子は逃げるわけがない。

その必要がないからだ。隣にはルファス、後ろにはプランとメグレズ。

 

 

 

これの何処に負ける要素がある? 

と、彼女の戦闘における嗅覚は囁いていた。

 

 

「皆さん、これを!」

 

 

 

メグレズが叫び、彼は一つのバフを全体に掛ける。

 

 

【ウンディーネ・カーテン】

 

 

メグレズが天法を発動させ、ルファスと奈々子、そしてプランに薄い青光がまとわりつく。

「水」属性の天法の効果は単純明快な「火」属性からの攻撃を軽減するモノだ。

フェニックスの放つ熱量を考えれば無いよりはマシ、焼け石に水程度ではあるがそれでも一瞬は守ってくれる。

 

 

 

たかが一瞬。されど一瞬である。

この領域の戦においてソレがどれほど重要な事か。

 

 

メグレズがプランに囁く様に告げる。

彼のレベルは170。

この次元の戦いにおいては足手まといでしかない程に低レベルである。

 

 

 

「アリストテレス卿。あえて何も聞きません」

 

 

アラニアに付き従って多くを見てきたメグレズはルファスとは違った視点でプランの異質さにとっくに気が付いている。

身一つで多くの国を渡り歩き、誰もが決して無視できない発言力を持つアリストテレス卿には自分たちにはない“何か”があることに勘づいているのだ。

 

 

既に遺書は書き終えており、アラニアが所持している。

相手は神話にその名を響かせる不死鳥、ここで死のうと名誉は残る。

 

 

 

「この身、如何様にもお使いください」

 

 

彼は確かにそう断言した。

つまり、同意したのだ。

 

 

余計な事は言わずにただ告げる。

彼は己の意思で己の全てをアリストテレスに明け渡した。

しかし決してこれは気高い奉仕の心から生じた言葉ではなかった。

 

 

(凄いぞ……!! これが何であるかは判らない! 

 だけど、コレは間違いなくこの世の真理の一端に違いない……っっ!!)

 

 

表には決して出さないがその実、彼の内心は興奮と魔法使いとしての欲に満ち溢れていた。

長命種たるエルフの異端児、長き年月の全てを魔法/天法の探究者として捧げる事を決意する彼はアリストテレスが齎す未知の世界に魂を惹かれていた。

 

 

【一致団結】を施されてから観測が可能になった数式に満ちた世界。

この世の裏側にして運営機構を可視化した様なソレにメグレズは恐ろしいまでの興味を抱いている。

ルファスには到底及ばないとはいえ「もっと見せろ」という彼の願いにアリストテレスは答えてやる形で【一致団結】の出力が上がり続けていく。

 

 

 

 

 

(────)

 

 

 

そして最後……“勇者”たる奈々子はもはや人としての思考をしていない。

天力が身体の奥底から溢れて……溢れ続ける。

尽きぬソレは正に無限の加護。女神の代行者に相応しい無尽蔵の力である。

 

 

 

数値が見える。

数式が見える。

そうか、ではこれを用いて仲間たちと共に不死鳥を殺そう。

 

 

 

 

勇者の思考は戦いを如何に効率的に進めるか、それだけであった。

 

 

 

 

『作戦会議は終わったか? 

 いいぞ、オレは寛大だ。ここまで戻してくれた礼に幾らでも待ってやる』

 

 

 

 

炎の鳥が遥か彼方、レベル1000の高みから見下ろしながら言い放つ。

 

 

『が……灰に戻るのもいい加減飽きた。次はお前たちが成ってみるがいい』

 

 

 

最強の時代に戻った彼の胸の内側では比喩でも何でもなく恒星が存在している。

太陽がそうであるように彼は内側で核融合を行うことが出来るのだ。

外部に漏れる摂氏6000度の熱など子供だまし。

 

 

彼の胸中に存在する核融合炉の温度は───1億2000万度である。

フェニックスはその熱量を好きに活用した上で幾度死しても復活を可能とする超生命体なのだ。

 

 

 

 

全盛期まで巻き戻った肉体の調子を確かめるように翼を開閉したり、首をコキ、コキと鳴らしながら動かしていたフェニックスが動く。

しかし彼は目の前で武器を構えるルファスでも奈々子でもなく───プランを見た。

 

 

このレベル221の、普通に考えれば相手にさえならない人間種の男こそが最も警戒すべき対象だと彼は見抜いていた。

残りの3人を綺麗に纏め上げる司令塔であると同時に油断ならぬ力を備えた男だと。

そして同時に腹部に奇妙な『爆弾』を抱えている事も。

 

 

 

『厄介なのは貴様だな』

 

 

 

さすがは万年を超える年月を生きる不死の王。

経験と言うアドバンテージにおいて彼を超える存在はミズガルズには存在しないかもしれない。

 

 

 

『そおら、祝福を下賜してやろう』

 

 

 

 

フェニックスは死と滅びたる象徴である「火」を司ると同時に再生と生命力の象徴たる「日」を司る存在でもある。

そして生命力を活性化させる「日」には数多くの天法が属しており、これはその応用の様なモノだ。

 

 

 

フェニックスの全身から太陽光の如き閃光が発せられる。

とてつもない生命力の外部照射であった。

咄嗟に顔を腕で庇うルファス達であるが、次の瞬間には頭を傾げていた。

 

 

 

身体が軽い。

先よりも呼吸が楽だ。

何なら体力が回復している。

 

 

 

 

不死鳥は敵対者一向にバフをかけていた。

効果は単純明快。生命力の増幅、体力の回復である。

普通ならば何の意味もない回復天法の付与……が、プランの体内には呪詛とアンタレスの毒素が宿っている。

 

 

かつてルファスが打ち込んだこの世の全てを拒絶する呪いと絶えず細胞を変異させ続ける劇毒。

ピオスが警告していた事が現実になろうとしていた。

 

 

 

「…………!」

 

 

 

【バルドル】のマスクの下でプランは顔を顰めた。

膨大な天力を浴びた呪詛/毒が蠢く。

それらは複雑に混ざり合い、彼を内側から溶かし始めた。

 

 

横隔膜が痙攣し、溶解した内臓が込み上げてくる。

咄嗟に【錬成】を己に施し、身体の内側を整えるが、それでも一部は止まらなかった。

 

 

 

マスクの内側で彼は吐血する。

苦い鉄の味が口いっぱいに広がった。

冷や汗が止まらない。手が震える。

 

 

 

ふらつきかけるのを堪えようとして彼は膝を突きフェニックスを蒼い瞳で見上げた。

 

 

『哀れな奴よ』

 

 

 

敵に天法をかける等と言った常識の外の行為を平然と行える不死鳥が相手でなければこうはならなかったというのにと魔物は嘲笑った。

今のプランと不死鳥の相性は最悪と誰もが断言できる。

腹部の爆弾をフェニックスは造作もなく刺激することが可能で、プランはソレの対処をしながら仲間たちとの【一致団結】を切らす訳にもいかないのだから。

 

 

 

マルチタスクは平時の彼ならば何の問題もなく可能な行為であった。

いや、かつての彼であったのならば、というべきか。

 

 

 

もはやプラン・アリストテレスは無敵ではない。

ルファス・マファールの与えた傷が彼にどうしようもない弱点を付与してしまったのだ。

 

 

 

 

───だが同時にソレは黒翼の魔物の逆鱗でもある。

 

 

フェニックスが世界最古の魔物であるならばここにいるのは最新の魔物だ。

古き怪物と新しき化け物がクリフォ火山にて対峙している。

 

 

 

 

「─────」

 

 

 

チリ、とフェニックスの発する熱波とは別種の熱が空間を焦がす。

彼女の髪は燃え上がっていた。朱色が眩しい程に発光し、とてつもない熱量を発しているのだ。

深紅の瞳を残忍に輝かせたルファスは犬歯をむき出しにし、憎悪の表情でフェニックスを食い殺さんとばかりに睨みつけていた。

 

 

 

 

カカカと不死の王は幼気な魔物の眼光を受けて笑うのだった。

 




フェニックス。
火と日の複合属性。

原作においてルファスの配下にいた彼とは別個体。
クリフォ火山より直に火龍のエネルギーを吸い取っているため事実上無限に再生可能となっており、今の彼は獅子王でも殺しきれない程にタフである。


配下の魔物が呆けて隙だらけだった彼に下剋上しなかったのは下手に殺傷すると若返って暴れ出すためである。

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