ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
定期的に行われる曇らせタイムとなります。
0。
無情な数値をゴーレムは表示していた。
ピーというドワーフが使う心拍を測るゴーレムが耳障りなエラーを発している。
この如何にもなアラーム音は患者の心臓が停止した際に発生する警告音であり、つまるところコレが稼働しているという事は対象の心臓が動いていないということだ。
周囲のドワーフ達は手短かつ淡々と状況を報告し合い、黙々と蘇生作業を実施している。
さすがはモリア王とその助手たちであるというべきか。
こんな状況であっても誰も焦りを少なくとも表面には出さずにテキパキと処置を行っていた。
ルファスはただその光景を見ていた。
彼女には何も出来ない。一人の男が死んで冷たくなっていく様を何もできずに見ている事しか。
知識を蓄えたといえど、所詮は付け焼刃でしかなく天力の出力こそ比類なきものではあるが、その技量はお世辞にも高いとは言えない。
瞬き一つせずルファスはプランを見ていた。
翼を縮めこさせ、誰の邪魔にもならない様に部屋の片隅で小さくなりながらじっと。
レベル800? 勇者と共闘した? あのフェニックスを打倒した?
ルファスが今まで築き上げてきた成果と強さ。
そんなもの、ここでは何の役にも立たない。
今の状況において彼女は役立たずであった。
「…………」
背筋が凍り付くほどの恐怖と何もできない己への憎悪を燃やしながらルファスはただ佇んでいる。
そして視線を向ける。あらゆる所に散らばった血痕を。
血、血、血。
夥しい鮮血が部屋を満たしている。
一人の人間の中にはこれほどの量の血液が詰まっているとは知識では知っていても見た者は殆どいないことだろう。
どうしてこんなことに。
何で、どうして。
呆然と反芻する疑問にいつも答えてくれる人は何も返す事はなかった。
最初は順調であった。
丸みを帯びた切断面を差し出し、身体を様々な拘束具で押さえつけられたプラン。
男の身体には幾つもの管が突き刺さっており、必要な栄養素やら輸血用の血液などが注入されるのを待っていた。
そんな彼をモリア王と複数のドワーフ達は無機質に見つめいてたのをルファスは覚えている。
「では、お願いします」
モリアが頷く。
王が直々に作業を行うという行為を人間ならばありえないというかもしれないが、ドワーフの常識は違う。
彼らの王というのは即ち最も優れた技術者であるということなのだ。
更に言うと歴代の王の中でもモリア王は更に頭一つ以上飛びぬけた天才である。
ゴーレム作成の腕前は言うに及ばず、医術の知識も豊富である彼ほど今回の件に最適な人物はいない。
全く新しい概念の義手製作という難題に対し、ドワーフとしての血が滾っているというのもあるかもしれない。
何せコレが上手くいけばプルートは新しい商いを始められるかもしれないのだから。
まず最初に蠍系の魔物から抽出/精製された麻痺毒を患部に注射。
適切に処置されたコレは用法用量を守って使えば対象の痛覚のみを麻痺させる麻酔として運用できるのだ。
ペタペタと何回か腕を触りモリア王がプランを見ていった。
「麻酔んききはどうだ? 眠うはなかか?」
「問題ありません。局所麻酔は成功ですね」
蒼く瞳を輝かせながらプランが淡々と答える。
そして彼はルファスを見た。
ほんの少しだけ感情がもれ出ている瞳で。
ルファスも彼を見た。
プランが何を言いたいかなど判り切っている。
だが彼女は決して譲らない。
ここで逃げたら、ルファスはルファスではなくなってしまう気がしたから。
どんな惨状が始まろうと、それの発端は自分なのだ。
しっかりと見届けなくてはいけない。
そして手術が始まる。
痛い程に少女は拳を握りしめてその光景を見守るのであった。
まずはキィィィィィンと高速回転する小さな鋸がプランの右腕を切り開く。
骨が削られるガリガリという音と共に血が噴き出るが手際よく助手のドワーフたちが吸引して回収していく。
減った分の血液が直ぐに輸血されるが、それでもルファスの身体は震えそうになった。
血を見た事は初めてではない。
ホース・イーター達を薙ぎ払った時は拳で彼らの骨を砕き、血反吐をばら撒きもした。
オークたちを切り捨てた時も骨まで切断した感覚があった。
だがこれはその全てと全く違う。
椅子に固定され、何人ものドワーフの手で解体される彼を見るのとは全く。
ルファスの鋭敏な感覚はプランの肉が切り開かれる音、骨が削られる音、彼の微かに激しくなった動悸までしっかりと認識してしまう。
大丈夫、大丈夫だ。
モリア王はすごい方だ。
きっと何の問題もない。
そう自分に言い聞かせても不安は消えない。
(血があんなに……)
輸血のパックが一袋、完全に消費された。
すぐさま用意されていた新しいモノが補充される。
それは逆説的にプランの血液がそれだけ消耗したということだ。
思い出すのはあの時の光景。
彼の腕を奪ってしまった時の夥しい出血。
込み上げる甘酸っぱいモノをルファスは抑え込み、胃へと押し戻す。
ルファスが何を思っていようと手術は進んでいく。
骨を削り、血管や神経、筋肉を露出させた上で義手との接続部分の為の準備を整えていく。
王の助手を任される程の手練れたドワーフ達でさえ言葉を失う程の絶技はマイクロ単位で行われていた。
神経一つ一つどころか血管さえ全く傷つけない神業を見た者はきっと「自分には永遠に無理だ」と思ったことだろう。
どれだけ経験を積んでも決して届かない領域というものは残念だが存在する。
途中からはあのルファスでさえ息を呑んでこの光景に見入っていた。
この先何百年生きようと二度と見られないであろう技量をルファスは瞬きさえせずに脳裏に焼き付けようとしている。
時折プランが痛みによって顔を顰める度に少女の背にある翼は嘆く様に震える。
今の彼女に出来たのはそれだけであった。
※ 今の所は順調だな。
プランは蒼い瞳を煌々と輝かさせ、モリアに深く【一致団結】を接続して己の身体を弄りまわしながらそう思っていた。
文字通り第三者の視点を借りて自分を見つめるのは普通ならば奇怪なことかもしれないが、彼にとってはいつもの事である。
モリア王は実に素晴らしい実行端末として動いてくれている。
プランのやりたい動作を完璧に再現してくれる彼は正しくドワーフの中のドワーフであり、王に相応しい技量を持っていた。
アリストテレスは素直に彼の技量を称賛しつつ、自分の腕を着々と作り込んでいく。
まずは物理的な接続端子を形成するための下準備。
これは後に行う概念的な魂レベルの融合に比べれば非常に簡単であり、あっと言う間に片付ける事が出来た。
彫刻家が形を整えるようにプランの腕は削られ、削ぎ落され、形成されていく。
肉と骨の残骸をドワーフ達がトレーで回収するたびにルファスの唇は震えた。
血が流れる度にルファスの翼はまるで親に怒られる子供の様に縮んだ。
輸血パックが空になり、新しいモノが補填されるのを見る度にルファスは手を痙攣させた。
神経接続部位───完了。
筋肉繊境界────完了。
骨格調整─────完了。
ゴリゴリという自分の骨を削る音を聞きながらプラン・アリストテレスは新しい義手を接続するための下準備を片付けた。
一応は麻酔が掛かっているとはいえ、ソレでも最低限でしかないソレではジクジクとした痛みを感じてしまうがそれでも彼は顔色一つ変えない。
むしろ自分の心配よりも泣きそうな顔で自分を見つめてくるルファスの方が気になってしまうのが彼である。
やはり見せるべきではなかった。
プランの考えは変わらない。
ルファスには血生臭い光景を見せたくないという方針は徹頭徹尾変わらない。
ゴリ、ゴリ、ゴリ……。
骨を削り終えた後、露出させた神経をモリア王は液体の金属で覆っていく。
ミスリルとマナ・クリスタルを適切な割合で溶かし合わせたコレはこれから接続される義手と生身の部分を概念的に接続する際にハブの役目を果たす。
純粋なマナ結晶と魔力を帯びたコレは魂レベルで義手と本物の肉体を接着させてくれるだろう。
「繋げるぞ。何かおかしいったら直ぐに言えが」
モリア王が取り出したのは人工の右腕。
オリハルコンで形成されたソレは寸法などはしっかり合わせられているが、結局のところは試作品だ。
人の皮も筋肉もついてない腕はまるで鈍く輝く金属の骨のようであった。
実際、今はただの骨格である。
先ずはコレを装着し、ちゃんと稼働するかどうかなどを確認してから更に詰めていくのだ。
キュィィンという精密ドリルが硬質な物体を削るような音と共にプランの腕に設けられた端子と義手のソレが接続される。
「っ……」
一瞬だけ焼けるような痛みを覚えたプランは顔を顰めた。
幻肢痛には既に慣れているが、こうして本物の腕を装着したことで肉体はこのむき出しの骨の様な右腕の疑似的な痛覚神経を認識したらしい。
結果としてあの日ルファスに吹き飛ばされた時に感じた苦痛の続きが再生される。
腕がバラバラに吹き飛ぶ痛み、一言で言われても誰も想像できないだろう。
余りに欠損が大きすぎて脳がどう処理すればいいか悩むほどのソレを味わいながらアリストテレスは考えていた。
※ 痛覚は正常。工程は問題なし。
※ 素晴らしい。ただの道具とこれは根本的に違いますね。
※ “義手”というには余りにリアルなもんだ。
しかし喜ばしい事だとアリストテレスは語った。
生きていながら死んでいると評される事もあったプランであったが、脊髄を通して頭蓋に送り込まれる痛みは紛れもなく彼がまだ生きていると伝えてくれる。
彼らは一心同体である故に当代に訪れている変化を理解している。
蒼い瞳が部屋の片隅でやることもなく、ただ眺めている事しか出来ない少女に向けられた。
彼女こそが全ての鍵であると誰もが確信している。
ルファスの身体性能は素晴らしいが、それ以上に彼女の存在そのものがプランを変えうる鍵であると。
このままいけば問題なく終わるだろうとアリストテレスの大勢は予見し……何人かがそれはどうか、とプランの腹部に意識を向けた。
オリハルコン製の義手は既に物理的にはプランの肉体と繋がっている。
今は概念的な接続、俗にいう魂レベルでラインを結んでいる最中であった。
つまり中途半端な状態であり、この義手の使用権は完全にプランには移行していない。
故にこれは必然だったのかもしれない。
ミシ、と臓器が軋んだ。
外部から接続された不明な端末を認識し、アンタレスと呪詛のバランスが傾く。
常に【観察眼】で見られ続けているソレの変異をプランはいち早く気が付き、声を上げようとして───。
P────。
プランの容態を観測し、数値として出力する役目を与えられたゴーレムがエラーを吐く。
ERROR 500:Internal Server Error………。
“不明な接続が確認されました”
“直ちに使用を停止してください”
モリア王がハっと顔を上げ、義手を強制的に引き抜こうとするが遅かった。
「ぉぉぉおッ!??」
右腕が勝手に動いた。
指が無茶苦茶に関節を無視する様に蠢き、力の限りモリアを弾き飛ばす。
プランの意思を無視する様にグネグネと蠢きずっしりとした体型のモリアを跳ね飛ばしたのだ。
彼はとてつもない力で吹き飛ばされ、何体かゴーレムを押し倒しながら床を転がる。
何が起こったとドワーフ達が王を助け起こしながらプランを見て固まった。
「なんじゃぁ、ありゃ……?」
誰かが呟いた言葉はこの場の全員の意見の総意であった。
オリハルコンの義手はどす黒い煙を放ち、痙攣する様に指を開閉しながら蛇の様にのたうち回っている。
プラン本体の負荷など考えてもいない無茶苦茶な動きは接続部位から流血という形で表れていた。
ルファスの呪詛はもはや彼女でさえ認識できないナニカと化している。
9年間世界に否定され続けた少女の怨嗟はルファスから別たれてなお活動を続ける一種の魔物である。
P────PPPPPP!!!
ゴーレムが悲鳴を上げるように警告音を吐く。
大量の出血を確認、直ちに輸血を……とまで言葉を続けた所で義手によって叩き壊される。
真っ黒な影が膨れ上がる。ソレは義手を包み込んだかと思えば一回りも二回りも巨大な腕を形成した。
プランの内部で残留し、アンタレスとせめぎ合いながらも全く薄まる事のない呪は義手の操作を奪い取り、当初の目的を果たそうとしていた。
わたしは、どうやってもこういう存在なんだってわかったの。
もういいや、全部こわれちゃえ。
ドワーフ達は確かに少女の声を聴いた。
虚無的で何もかもを諦めた上に己の存在さえも呪った少女の声を。
あの夜のまま一秒も先に進めていない呪詛の声だった。
腕はまるで目でもあるかの様にきょろきょろと周囲を確認するような動作をしたあと、そっとプランへ指を伸ばした。
焼死体の如く暗黒色の指がプランの首にかけられた。
まるで処刑台のロープの様に。
手術の為に身体を固定されたプランは抵抗できない。
いや、それどころか彼はまるで指を受け入れているようでさえあった。
実験失敗による死など、アリストテレスとして生きてきた彼にとってはあって当然の事なのだから。
彼の光のない瞳をルファスは見てしまった。
一瞬、助けなくてはという考えが停止してしまう程に疲れ切った眼を。
「っっ……!」
プランの首を真っ黒な指が締め上げる。
あの晩、ルファスが出来なかった事を完遂するために。
プラン・アリストテレスを殺す。その為だけにこの呪は存在する。
必死に死から遠ざけようとするルファスをせせら笑うように腕はプランを死へと向けて引きずっていき、叩き落そうとしていた。
そして当然、そんなことをルファスが許す訳もない。
彼女は全身を焼かれる程の怒りを抱きながら動いた。
「やめろッッ!!!」
ルファスが絶叫しながら腕に飛びかかった。
奥歯を砕ける程に噛み締め、憎悪と憤怒に満ちた表情で彼女は彼の右腕をつかみ取り、引き剥がすべく全力を込めた。
しかしレベル800の全力であっても腕は中々離れない。
この呪詛を放った時の彼女のレベルは1000。
出力だけ見れば今のルファスよりも上だったのだから、当然である。
しかし、そんな事など知った事じゃないルファスはありったけの罵声を腕に向けて放った。
「何処まで愚かなんだお前は!!!」
それは己に向けた怨嗟であった。
彼の命を奪おうとしていたこの世で最も憎い存在への罵倒。
自分を特別だと勘違いし、結局のところ父親と同じことしか出来なかった無能への糾弾。
ルファス・マファールをこの世で最も恨んでいるのはルファスに他ならない。
「彼を傷つけるなッ!! この人がお前に何をしたッッ!!??」
「何もかも逆恨みだ!! お前のやっている事は父と同じだと何故気が付けないんだっっ───!!」
指を一本一本引き剥がす。
それでも右腕は渾身の力を込めて抵抗した。
絶対に何としてでもプランを殺すという意思だけを感じ取ってしまい、ルファスは目の前が真っ赤に染まるほどの怒りを抱いた。
これ以上の怒りはないと思っていた限界点が次々と更新されていく。
もはや単語を考える事さえ忘れてルファスは無我夢中で叫んだ。
悲痛な、血を吐くような声はソレを聞いた全ての者に哀れみを誘う様な悲痛なモノで……。
「消えてしまえ!!!
「
どうしてこんな事になった? という疑問はたった一つの返答で全て回答できる。
『全てルファス・マファールの自業自得だ』と。
その現実は彼女の心をどうしようもなく内側から焼いてしまう。
そんな現実を否定する様にルファスはありったけの力と憎悪を込めて指をプランの首から退けると、引きちぎる様に義手を引っこ抜き、投げ捨てた。
無理やりに引き剥がされた接続部位から血が噴き出てしまい、プランは痙攣する。
がくがくと身体を震わせた後、彼は虚空を見つめながら動きを止める。
死んだように彼は動かない。
最も彼女の恐れた光景がいま、目の前にある。
まるで糸が切れた人形の様なソレを見てルファスは硬直し、肩を叩かれた。
モリア王だ。
彼は橋の上で出会った時と同じような人懐っこい笑顔をルファスに向け、親指を立てながら言った。
「ありがとうさ。たすかったばい。後は任しぇとけ!」
「…………おねがい、します」
数瞬の葛藤の後、ルファスは今の己に出来る事はないと悟り、深く頭を下げた。
大切な人なんです、どうか助けて下さい、と声を絞り出せばモリア王はルファスの頭を軽く撫でてから作業に戻る。
10分間、ルファスは修復されたゴーレムの放つ耳障りな警告音を聞き続けていた。
P───という音は心肺停止の音であり、即ち死亡を知らせる音。
彼の死は、そんなつまらない音だけで表現されているという現実にルファスは狂いそうで狂えない。
そんな逃げる事は許されない。決して。
モリア王とその仲間たちは必死に蘇生措置を行ってくれている。
しかし決定的に血が足りず、一度意思を失った彼を死から呼び戻すことは未だに叶わない。
また一つ、空になった輸血パックが取り外された。
プルート中の在庫を投入しているというのに、彼はよくならない。
腹部に宿るアンタレスが部外者の血に反応し、猛烈に活性化しているのが原因であった。
更に呪詛が毒に呼応して活性化し、この機会にプランを殺すべく猛っていた。
彼女の頭は凍るほどという表現が陳腐に思える程に冷え切っており、全力で回転を続けていた。
諦めてなるモノかという執念だけが彼女を支えていた。
彼女はルファス・マファールである。
普通の子供ならば泣き叫ぶ状況においてもなお、何か、何かないかと懸命に考え続けていた。
当たり前だ。ここで諦める事は彼の命を諦めるのも同じ、そんなことをするくらいならばルファスは死んだ方がマシだと思っている。
しかし彼女はルファス・マファールである。
ただの15歳の少女である。
つまり、何も出来ない。
膝から崩れ落ちそうになる身体を必死に支える。
モリア王の顔に微かに諦めがよぎったのを見て、ルファスは僅かばかり芽を出してきたその感情を必死にもみ消した。
(嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)
嫌だ。諦めるものか。
しかし願いだけでひっくり返せるほどに“死”は優しくはない。
が、この場では一つだけ方法が存在した。
当代が意識を失ったことにより、アリストテレスは微かに己に課している縛りを緩めた。
当代が己の意思で幕を下ろすのならば受け入れるだろうが、こんなつまらない事故で終わるなど彼らとしても不本意なのだから。
※ こんにちは。早速で悪いが───彼を助けたくはないかな?
「ぇ……」
脳裏に響いた声にルファスは周りを見渡す。
モリアたちは作業中。
ゴーレムもルファスを見てはいない。
※ こっちこっち。
また声がした。
まるで幼子を扱うが如き口調であった。
人が一人死にかけている場には全く相応しくない、雑談でもしているかの様な。
翼がざわめき、ルファスは直感的に声の主がいるであろう方向を向く。
そこに居たのは死に瀕しているプランだ。
勿論、彼が口を開くわけもない。
だがしかし、ルファスの勘はそこから声がすると告げていた。
※ やぁ。マナは見れるんだったね。
※ 瞬きでもしてピントを調整しな。当代の血が散乱している今なら見えるかもな。
まるで何人もの人間が代わる代わる喋っているように口調は安定しない。
だが敵意は感じなかった。
言われた通り、何度か“見る”と意識して瞬きを繰り返せばルファスの身体は適応した。
そして彼女は見た。
プラン・アリストテレスに纏わりつくマナ───いや、もっと根源的な何かを。
彼の中に綺麗に格納された誰かたちを。
顔は見えないが、確かに誰かがいる。
それも一人や二人ではなく、何十人も。
P───というゴーレムの警告音が遠くなっていく。
ルファスは喉を鳴らし、問う。
まるで底なしの深淵を覗き込まんとする探究者の様に。
「貴方は……誰だ?」
※ 我々はアリストテレス。
※ 時間がないので色々と省略させてもらうぜ。
※ 貴女……彼を助けたい?
100を超える蒼い瞳に覗き返され、ルファスは後ずさりそうになった。
が、プランの生気のない顔を見て踏みとどまる。
こんなことで怯えたりしている時間など自分にはない事を思い出したのだ。
彼を助けたいだと? そんなこと、聞かれるまでもない。
「助けたい。例え───何を支払う事になろうと」
ルファス・マファールは躊躇うことなくアリストテレスの手を取るのであった。
100話まであと少し、頑張っていきます。