『おれはモンキー・D・ルフィだ! おまえ面白そうだな。友達になろう!』
『よろしくな、おれはシャンクスだ』
あの日、会った2人は自分にとって印象に残る出会いだった。
ルフィは一目見て、真っ直ぐな奴だと思った。でも、エースやサボとは違った一面が、僕の興味をよりかき立てた。聞くと、ルフィはガープさんの実の孫ということだ。それに、年齢も僕と同じ。
フーシャ村を訪れたとき、ルフィに連れ回されてばっかりだった。でも、楽しいのは事実だった。彼といると毎日が退屈しないで済みそうだ。
一方、シャンクスさんの初対面のイメージは不思議な感じだった。何というかうまく言葉では表せないけど、心に何かが引っかかるようなものだった。ルフィに対してはからかってるような場面を多く見かけたが、僕に対してはそんなことはなかった。
色々と話をしたが、ルフィは海賊に対して強い憧れを抱いている。対して僕はどうだろうか。母親は海賊だが海賊にどうしてもなりたいという思いはあまりない。僕は将来どうしたらいいのだろか。
「……オン。おい、シオン」
「! な、何? どうしたの、エース?」
「どうしたって、さっきからボーッとしてたじゃねぇか。何か悩み事か?」
どうやら上の空みたいだった。エースの呼びかけにも気づいていなかったし。
僕は今悩んでいることをエースに聞いてみた。
「ねぇ、エース。僕って将来どうすればいいかな……」
「どうすればって……」
「母さんは海賊だけど、僕が仮に海賊になったら、母さんの想いを無駄にしちゃうことになるのかな……」
あの時、エースに僕の決意を伝えたが、それをどの立場で実行するかを悩んでいる。母さんは僕を守るためにここに預けたのに、自分から危険なところへ飛び出そうとすれば自殺行為だ。それこそ、母さんの苦労が水の泡だ。
それでも、僕は悩んでいる。誰かを守るためにこの力を使いたいとは思っているし、この世界を旅してみたいと考えている。だが、海賊としてか賞金稼ぎとしての二つの道。どちらが自分にとって良いのか……
「そういうのはさ、自分で考えるもんだろ」
「自分で?」
「誰かに言われたとおりの生き方なんて、おれにはできねぇ。おれは自分で海賊になりたいと思ってるんだ。お前の母さんがどう思おうと、お前の生き方を誰も否定することはできないんじゃないのか?」
そう言って僕の頭を乱暴に撫でてきた。エースはニッと笑ってる。エースは自分なりに前に進もうとしている。親が海賊王だろうと自分の道を進もうとしてるんだ。なら僕は――
「うん。ありがとうエース。ところでさ、急で悪いけどフーシャ村に行ってくるよ」
「またかよ。この前ヒロトと行っただろ。それに道は分かってるのか?」
「道なら大丈夫だよ。どうしても行きたい用事ができたから」
「……はぁ、そこまで言うなら構わねぇよ。ただ、暗くなる前に帰って来いよ」
うん、と頷いてエースと別れた。海賊のことをもっと知りたい。それなら海賊であるシャンクスさんに聞いてみようと思った。また、彼は母さんとも知り合いのはずだ。シャンクスさんにしか知らない母さんのことも聞けるかもしれない。物は試しだ。そう思いながら、僕はフーシャ村に走って行った。
時間は掛かったが、何とかたどり着けた。息を整えながら歩こうとしたが、不意に嫌な気配を感じた。僕はその方向に向かって走って行った。この感じは何か嫌な出来事が起こっているに違いない。そう思えた。
走った先には2人の男女が見えた。いたのは、村長さんと確かマキノさんという女性だったはずだ。
「待ってくれ! その子を離してくれ!」
2人の先には男たちの集団がいた。明らかにガラが悪そうな男たちだ。そう思っていたが、そこに押さえつけられていた1人の少年の姿を見た瞬間、僕は駆け出していた。
男たちの集団のボスと思われる奴が剣を抜いていた。明らかに少年を殺そうとしている。僕は警戒心も何もかも投げ出して飛び出していた。
「ルフィを離せぇぇぇぇぇ!!」
叫び声と同時に右手に光り輝く槍を作り出して片手に持ち、2人の前を通り抜けた。村長さんやルフィが「シオン!?」と驚いていたが、気にせずに槍を投げつけた。
だが、相手は間一髪でそれを躱した。相手の鋭い眼光が僕に向けられていた。
「くそっ! こうなったら……っ!? ぐっ! あああぁ!! 頭が!」
しまった!? 腕輪を外して能力を使ったところまでは良かったけど、冷静さを失っていたのか、がむしゃらに技を使ってしまったために頭痛が襲ってきた。まだ制御もできておらず、小規模の技なら大丈夫だが、人に致命傷を負わせるような技は威力が大きいからその反動がきてしまう。能力に慣れれば反動は襲ってこないと言われたが無茶をしてしまった。
「貴様……! お前ら! そのガキを押さえつけておけ!」
「くそっ! 離せよ!」
「安心しろ。このガキを殺したら次は貴様だ」
頭痛に襲われている間に僕は他の奴らに押さえつけられてしまった。どうにかしようと思っても頭痛が邪魔をして能力が使えなかった。マキノさんと村長さんが僕とルフィの名前を叫んでいたが、どうにもならなかった。ルフィは再び剣を向けられていた。何とか抜け出そうともがいていたら、
「店に誰もいないから何事かと思えば、いつかの山賊じゃないか」
聞き覚えのある声が響いた。マキノさんたちの後方から出てきたのはシャンクスと彼が率いる海賊団の面々だった。
「ルフィ。お前のパンチは銃のように強いんじゃなかったのか?」
「うるさい!!」
「貴様何しに来たか知らんが怪我せんうちに逃げ出しな。それ以上近づくと頭ぶち抜くぞ腰抜け」
山賊の言葉を気にせずにシャンクスは近づいてきた。山賊の1人が彼の頭に銃をつきつけて脅し、他の山賊たちも下劣に笑っていた。しかし、シャンクスには一切の動揺も無かった。
「命懸けろよ」
「あァ?」
シャンクスの声色はいつもと同じだったが、何かが違うと感じた。
「銃抜いたからには命懸けろよ」
「あァ? 何言ってやがんだテメェ」
「そいつは脅しの道具じゃないって言ってんだ」
その直後に銃声が鳴り響いた。シャンクスに銃を突き付けていた山賊がゆっくりと倒れていった。銃を撃ったのは、骨付き肉を咥えているラッキー・ルゥだった。
突然のことにルフィやマキノさんたちは唖然としていたが、山賊たちは卑怯な奴だと声を上げた。しかし、赤髪海賊団の面々は淡々としていた。
「お前らの前にいるのは海賊だぞ」
「うるせぇ! 大体、テメェらに用はねぇぞ!」
「いいか山賊。おれは酒や食い物を頭からぶっかけられようが、つばを吐きかけられようが、たいていの事は笑って見過ごしてやる。だがな……」
彼の目が怒りを、殺気を帯びているのが僕でも分かった。
「どんな理由があろうと! おれは友達を傷つける奴は許さない!!」
山賊の頭が侮蔑の笑い声を上げ、手下たちに始末するように命令を下した。
動いたのは、副船長であるベン・ベックマンだった。彼は銃の持ち手部分を鈍器代わりに山賊たちを次々と殴り飛ばした。あまりの強さに僕もルフィも「つぇぇ…」と声に出してしまった。
山賊は悪いのはルフィだと声を上げるが、シャンクスは「どの道賞金首だろ」と言い、手加減する気は無いようだった。
山賊頭は目に見えた焦った様子で、黒い球を地面に打ち付けた。そこから煙が上がったことから煙幕だとわかった。煙が晴れると、ルフィや山賊かしらの姿は消えていた。
「しまった! 油断してた、ルフィが! どうしようみんな!」
「狼狽えんじゃねぇお頭! この野郎! みんなで探せばすぐ見つかる」
「まったく……この人は……」
いや待て、さっきとのギャップがあり過ぎんだろ、と内心でツッコんだ。さっきまでのカッコイイと思ってたのに一瞬で崩壊したわ……ってそんなことを考えている場合じゃない。早くルフィを見つけなければ。頭痛も治まり立ち上がった。
「シオン! ケガはないか!?」
「大丈夫! それよりもルフィが……!」
「ああ、分かってる。ここからそう遠くまでは行けないだろう。となれば、海に逃げたか」
「海……っ!? ぐっ!?」
僕を心配したシャンクスが駆け寄ってくれたが、ルフィのことで頭が一杯だった。しかし、シャンクスの言葉を聞いて突如、頭に不思議な映像が浮かび上がった。あの時の夢に似ていた。
ルフィが巨大な生物に襲われそうになっている。それは僕を駆り立てた。すぐさま僕は海に駆け出した。
桟橋の近くまで来て、そのまま海に飛び込もうとしたが、誰かに腕を掴まれた。
「お前、何考えてんだ! 能力者だろ!」
腕を掴んでいたのはシャンクスだった。冷静さを失ってから自分が泳げない体になっていたことをすっかり忘れていた。それでもじっとしていることはできなかった。
「でも、早くしないとルフィが!」
「一先ずは落ち着け。何を視たんだ」
見抜いたことに驚いたが、彼に僕が見たことを伝えた。それを聞いてシャンクスは瞠目していた。だが、僕が慌てていた様子には納得してくれたみたいだ。
ふと、ルフィに追いつく方法を思い浮かべた。しかし、ある意味賭けだ。まだコントロールできているとは言い難いものだ。でも、なりふり構ってなんていられない。僕は思いついた方法をシャンクスに伝えた。
「お前バカか! そんなことしたらどうなるか分からないんだろ!」
「このままシャンクスさんが泳いで行くよりかは早いでしょ! それに今こうやって話している時間にもルフィに危険が!」
危険なのは重々承知だ。でも、僕の友達を失いたくなんて無かった。僕たちを追いかけてきたのか、ベックマンとヤソップが近づいてきた。シャンクスは息を吐くと、2人に言った。
「お前ら、迎えの船を頼む」
「お頭。どうする気なんだ」
シャンクスは僕の手を握り、頼むぞと言ってくれた。僕は頷き集中し始めた。僕の体から光が発し始め、ベックマンとヤソップが驚いていたが、気にせずに集中し続けた。光が僕だけでなく、シャンクスの体にもまとわせるように光を発し続けた。
「――ッ!」
2人分の体に光をまとわせるのが初めてだったのか、遙かに大きい力を使ってしまったからなのか、さっきよりも強い頭痛が襲ってきた。それでも僕は歯を食いしばり何とか、今できる限界の光をシャンクスにまとわせた。
この技は本来自分の身体能力を上げるものだが、僕以外に使うのは想定してはいない。もし誰かにもこの技を使うには自分にまとっていないと無理だったみたいだ。
結果的に2人分の力を使い、今の自分の限界を超えてしまったために、体にダメージを受けてしまった。僕が食べた悪魔の実はどうやら諸刃の剣に近いもののようだ。
「すまないシオン。後はおれに任せておけ」
僕を離し、シャンクスが勢いを付けて跳躍して海に飛び込んだ。遠目から見ても、泳ぐスピードは速くなっているように感じた。ルフィが助けられるまでは、と思いながら僕は技が途切れないようにし続けた。
それからしばらくして、シャンクスがルフィを何とか助けたことを聞き、僕は2人分の技を解除した。その瞬間、再び強い頭痛が襲い、疲労感までも襲ってきた。僕はそのまま意識を失った。
目を開けるとそこは知らない天井だった。ダダンの家ではないことは明らかだ。ベッドに寝かされていた体を起こそうとすると、部屋の扉が開いた。そこに立っていたのは、
「目が覚めたみたいだな」
「!! シャンクスさん…腕が……!」
彼の左腕が無くなっていた。あまりに突然のことに僕は呆然としてしまった。そんな僕を気遣ったのか、近くまで来て大丈夫だと言ってくれた。
「お前のおかげでルフィを助けられたんだ。そう落ち込むな」
「でも、僕は……結局、何の役にも……」
悔しさのあまり、歯を食いしばり、涙を流し始めた。
「お前がいなかったらおれはルフィを助けられなかった。お前がルフィを助けたんだ。それに、安いもんさ。腕の一本ぐらい」
「っ……シャン、クス、さん…………」
涙を流し続ける僕を、落ち着くまでこの人はずっと一緒にいてくれた。
あの後、僕は聞いたところによると、数日間意識を失っていたらしい。ヒロトさんも来てくれたが、知らせを聞いてすっ飛んできたようだ。それも、エースやサボを連れてだ。2人とも随分と心配していたらしい。エースに至ってはこのまま目覚めなかったらどうしようかと慌てふためいていた程らしい。それをサボが宥めるようにしていたと聞いた。
心配を掛けたのは悪いと思っている。でも、相変わらずのブラコンっぷりに何だか安心してしまった。ヒロトさんには起きてから拳骨を喰らった。心配させたからだろう。
それと、ルフィの方も後で来てくれた。赤髪海賊団の面々からの情報によると、シャンクスに助けられたときに号泣していたらしいが、僕が意識を失っている様子を見たときにも号泣したらしい。シャンクスはまだ分かるが、なぜ僕に対してもと聞いたところ、『おれのせいでシオンが死んじまう~』と本気で思い込んでいたようだ。どうしてそんなにぶっ飛んだ発想になるのか疑問に思ったが、シャンクスに『ルフィだからな』と言われ、納得してしまう自分がいた。当の本人は『しっけいだな!』と言っていたが。
そして、シャンクスたちがこの村を離れる日がきた。見送りにはルフィや僕だけでなく、ヒロトさんも来ていた。
「ヒロト。あまりこいつに無茶させるなよ。無茶させるとどうなるか分からないからな」
「分かってる。俺がいない間にそんなことがあったなんて聞いたときは寿命が縮むかと思ったよ」
大人2人に好き放題言われ居たたまれなくなった。シャンクスさんにニヤニヤとした顔を向けられさらに恥ずかしくなった。僕は調子を整え彼に聞いた。
「シャンクスさん。また、会えるかな」
「いつか、この海を旅していれば会えるさ」
「……そっか。……なら、僕も将来この島を出て、いつか必ず母さんやシャンクスさんに会いに行くよ」
「そうか。なら、お前にはこれを預けておくよ」
そう言って、シャンクスさんは懐から首飾りを出して僕に付けてくれた。その首飾りは真珠の形をしており、赤く輝く宝石が埋め込まれていた。
「そいつは、お前の母さんから預かった物だ。お前の手で、アイツに届けてやってくれ」
「どうして母さんの物を?」
「いいのかシャンクス。テレシアから預かった物を…」
「いいさ、ヒロト。それに、おれよりもシオンが届けてくれた方がアイツにとっても良いことだ」
説明はしてくれなかったが、僕は頷いた。
「そっか。分かったよ。約束するよ」
満足そうに頷いてシャンクスはルフィがいる所に向かった。ルフィは彼らに向かってこの海賊団に負けない仲間を集めて〝海賊王〟になる宣言をしていた。ルフィらしいなと思いながら、僕は微笑んだ。
シャンクスはその言葉を聞くと、自分が被っていた麦わら帽子をルフィに「いつか立派な海賊になって返しに来い」と言って預けた。その後、彼らは船に乗って出航した。その様子を僕とルフィは並んで見送っていた。
僕たちは彼から大切な物を預かった。そして、約束をした。
――いつか必ず会いに行くと
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お頭。シオンに預けて良かったのか?」
「構わねぇさ、ベックマン。それに、アイツと初めて会った日、一目見て気づいたよ。アイツがテレシアの子だってな」
「――だからか?」
「さぁな。だがな、アイツはルフィと一緒の道に進む。新しい時代を切り開くと思えたんだ。」
「そうか」
「いや……やっぱり――として期待しているのかもな」
この小説では、シオンが能力を使ったおかげでルフィを助けられたという設定にしています。
原作では泳いでルフィを助けたのかもしれませんし、他の方法もあったのかもしれませんが……
次回からはようやくルフィとエースを会わせられそうです。