赤き星の旅路   作:月影海斗

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エースと彼の旅立ち。幼少期編もラストです。


第17話 それぞれの旅立ち

 

 

 エース出航の前日。シオンとエースは2人で秘密基地を見上げながら話をしていた。

 

 

「とうとう明日か……少し寂しくなるかな」

 

「そう言うなよ。おれだってお前らと離れるのは寂しくなるが、いつか会えると信じてるからな」

 

「……そうか。そうだよな」

 

 

 この場所で過ごした懐かしい思い出に一頻り浸り続け、それを終えると2人で森の中を歩いていた。

 

 お互いが初めて会ったのは13年前になる。あれから色んなことがあった。

 シオンにとってエースとの出会いは掛け替えのないものになっている。友達ができ、己の血筋の秘密を知り、能力者となり、兄弟ができたなど、どれも忘れることが出来ない大切なものだろう。決して忘れられない不幸もあったが、それを乗り越えてここまでの年月を過ごせた。

 

 2人もすっかり声変わりして身長も伸び、エースは青年らしさが滲み出ている。さらに彼の頭には2人の弟が自分の誕生日にとプレゼントしてくれたオレンジのテンガロンハットが被られている。

 残りの時間をルフィを含めた3人は思い切り楽しんで過ごした。

 

 

 

 

 

 

 出航の日。

 エースの出航を見送りに来ていたのは、シオンとルフィ。マキノさんに村長。ダダンを除いた山賊たちだ。

 

 

「気をつけろよ、エース!」

 

「ああ! じゃあな、ルフィ。シオンも元気でな。おれは先に行くぞ!」

 

「うん! おれだって3年経って海に出るときは、もっと強くなってるからな!」

 

「俺も兄さんに必ず追いついてみせるからな!」

 

 

 2人の弟の言葉に笑顔を浮かべ、エースは出航した。見送りに来ていた者達は手を振りながら送り出し、エースも手を振りながらそれに応えた。

 

 この日、人知れず成長した海賊王の息子――エースはコルボ山の海岸から静かに海へと旅立ったのだ。

 

 

「行っちまったな、シオン」

 

「ああ。次は2年後、俺の番だな」

 

「にしし! それまでに、俺の修行にも付き合ってくれよな!」

 

「俺が暇なときにだけどな!」

 

 

 見送りも終わり、シオンはルフィと別れ、先にダダンの家に帰っていた。彼女は玄関に背を向けながら。壁により掛かり、いつものようにタバコをふかしていた。

 

 

「お頭、エースの奴行っちまいましたよ」

 

 

 シオンの近くにいた山賊が彼女にエースの旅立ちを伝えたが、彼女は素っ気なかった。

 

 

「ああそうかい……結局ガープの野郎にどやされるのはアタシなんだよ……」

 

 

 そう言いながらもダダンの背からは寂しさが漂っている。憎まれ口を叩きながらも結局のところは寂しいと思っているのだろう。彼女にとってはエースは息子のような存在だからだとシオンは思っていた。

 シオンはエースから預かっていた伝言を伝えようとした。

 

 

「そういえば、エースから伝言だよ」

 

「何だよ! 最後の最後までアタシに文句でもあるのかい!?」

 

 

 あまりに的外れなことに笑みを浮かべてしまった。周りの山賊たちも同じように笑みを浮かべている。近くにいた山賊が肘でシオンの背を押して、早く言うように催促した。

 

 

「『世話になった、ありがとう』だって」

 

 

 それを聞いたダダンのダムは決壊した。

 

 

「ふざけんじゃねぇよ、あのバカがぁーーーー!」

 

 

 ハンカチを片手に目を押さえ、涙を流すその姿にシオンは苦笑いをしながら家を離れ、森の中を歩いた。

 辿り着いたのは、いつかエースとサボと星を見上げた場所だった。そこには彼の伯父であるヒロトが目を閉じて腕を組みながら佇んでいた。

 

 

「良かったのか? 見送らなくて」

 

「俺がアイツに伝えられることも、送り出した言葉も伝えたつもりだ。後はアイツ次第だ」

 

 

 自分は既に見送ったと伝えたヒロトはシオンと向き合った。

 

 

「さて、ここから残り2年だ。六式はほぼ良いと言って良いだろう。能力の方も制御は出来てる。これから先でも能力は向上できるさ。残りの期間は――」

 

「――覇気を身につけることだね」

 

 

 ああ、と頷いて話を進めた。

 

 

「本来なら、もう少し厳しい環境で行いたいところだが、俺が少し本気を出すことで妥協しよう。言っておくが、大怪我をすることを覚悟しておけよ」

 

「分かってる。覚悟なら出来てるよ」

 

 

 そうか、とヒロトは口元を緩め、2人は場所を変えた。海に近い砂浜に辿り着き、2人はすぐに修行へと入った。ここなら周りのことを考えずに修行が出来るからだ。

 

 シオンがヒロトから教わった覇気には見聞色・武装色・覇王色の3つがあるが、彼が言うことには、シオンは見聞色はほぼ生まれつきと言ってもいい。シオンが今まで気配が感じられたのも、心の声を聞くことも出来たのも見聞色があったからのようだった。

 だが、鍛えればさらに強くなるとのことなので、見聞色の鍛錬を疎かにする気は毛頭無い。武装色の覇気を身につけつつ、見聞色も鍛える。これらが優先事項だ。

 覇王色に関しては、素質があると言われている。ルフィが攫われたときにエースを助けた際に放ったモノが覇王色の覇気だった。

 これは制御は出来ても2つの覇気と違って鍛錬による強化は不可能で、当人自身の成長でしか強化されない。そのため、制御の方は後回しにするそうだ。最悪、これが出来なくても……というより、16歳でシオンがヒロトの旅に同行することは決まっているようなものだ

 

 ヒロト曰く、「あの時は今よりも強くなってもらう必要があった。だから少し、脅かしてみたつもりだった」とシオンは聞いている。それに関してシオンは何も言わなかった。自分の事を思ってくれていたことにシオンは修行中に気づいていた。

 

 

 

 

 

 

 シオンの修行はエースやルフィとの模擬戦に比べて厳しいモノだった。だが、そこで得た戦いの技術を活かしながら、ルフィにアドバイスをすることもあった。当の本人は中々理解することも出来ず、「とにかくスゲェんだな」の一声で済ませていた。その様子にシオンは何度もため息を吐き、天を仰ぐこともしばしばだった。

 

 

 また、エースが旅立ってから数ヶ月後のとき。

 朝からの修行帰りのシオンと独立国家にいたルフィの元にドグラが新聞を持って来た。そこにはエースのこと掲載されており、海賊として名を上げていた。それに目を通したルフィは負けるかとより鍛錬に力を入れ、シオンもまた覇気の体得に力を注いだ。

 

 そして、数日、数週間、数ヶ月と経過していき2年が経過しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 夜の中、俺はお気に入りの場所で星空を眺めていた。

 

 

(この場所で星を眺められるのも最後になるかもな)

 

 

 明日、俺はこの島を旅立つ。ヒロトさんは先に出発しており、先にローグタウンで待っていると言っていた。

 その間、俺が遭難しないようにと、2人ほど乗れる頑丈な小型船を預けておいてくれた。

 武装色の覇気も身につけ、見聞色も鍛えた。覇王色の制御はまだダメだ。俺としてはそんなに急いで出来るようになりたいというわけじゃないのであまり気にしていない。

 

 そろそろ戻って明日の準備をするかと思い、傍らに置いてあった花束を先に旅立った兄と遠いところに行った兄を想いながら池の近くに置いていった。――俺と同じ名前の花を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、俺はダダンの家の玄関にいた。服装はヒロトさんから貰った赤色の襟付きのコートを身に纏い、首飾りを着け、懐には素顔を隠すための仮面を持っている。曰く、カッコイイ服装をして欲しいとのこと、素顔を隠しておくとそれなりに楽だ、とのことだ。いい大人が厨二病のような格好を進めてきたことに気落ちしていたが、ルフィにその姿を褒められると気分は良くなった。

 はっきり言うと、シオンはシオンでルフィに厳しい一面があるが、サボのブラコン気質を受け継いだのか、変なところで甘い一面もある。

 

 それは置いておいて、今この家にいるのはダダンだけだ。他の山賊たちは先に出航する場所に向かっていてくれている。

 

 

「ダダン。今までお世話になりました」

 

 

 しっかりお辞儀をして感謝を伝えると、俺に背を向けていた彼女の背がピクリと動いた。あれは多分、涙を堪えているのだろう。

 

 

「うるせぇな……とっとと行きやがれ」

 

 

 エースの旅立ちを伝えたときのように憎まれ口を叩いているが、感情を押し殺そうとしているのはバレバレだ。見聞色を使わずとも、ルフィでも恐らく分かるだろう。

 

 

「ダダン、行く前に1つ言いたいことがあるんだ」

 

 

 俺は息を吐き、今まで抱いていた事を伝えた。もしあの人に聞かれたら怒られるかも知れないが……

 

 

「俺にとっては、ダダンはもう一人の母さんみたいな人だったよ。ここまで育ててくれてありがとう!」

 

 

 突然の告白にダダンは振り向きしばし呆気にとられたが、すぐに元の体勢に戻ると、ハンカチを片手に泣き出した。

 

 

「余計なお世話だよ、コンチキショウーーーー!」

 

 

 再び頭を下げ、荷物を片手に慣れ親しんだ“流星”を使用して、皆が待っている場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「とうとうシオンも海に出るのかー。おれだけになっちまったな」

 

「そう言うなよ。あと1年もすればルフィだって旅立てるだろ」

 

「おう! おれだってすぐに追いついて、お前を必ず仲間にしてやる!」

 

「エースに会えて、お前にも会えたら考えるよ」

 

 

 俺の見送りには、エースの見送りにきた同じメンバーが来ている。1人1人にしっかりと感謝を伝え、再びルフィに向き合うと拳を突き出した。ルフィはしばし首を傾げていたが、俺が何をしたいのか理解したのか、拳を突き出して、お互いの拳を交わした。

 

 

 挨拶も終わり、小型船に乗り込んでエースが出航した場所から俺も旅立った。

 

 

「元気でな、シオン!」

 

「ああ! ルフィも気をつけて来いよ!」

 

 

 手を振り続ける皆に見送られながら、片手を挙げて一頻り振り続けてから手を下ろした。目の前には海が広がっている。目指すはローグタウンだが、少しはこの東の海を旅したいと考えていたため、ある程度回ってから向かうつもりだ。

 

 

 この先に待つ、未知なる冒険に俺は心を躍らせていた。きっと、楽しいことばかりだけで無く、脅威も襲ってくるだろう。でも、今だけはこの思いに浸っているとしよう。

 

 

「ここから始まるんだ。見ていてくれ、サボ。俺は必ず自由に生きてみせるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 ローグタウン近くの沖

 

 先にドーン島を出発していたヒロトは一足早くにローグタウンに到着しており、同じく先に彼を待っていた仲間たちと合流し、船に乗っている。

 彼は今、シオンが島を出たとの連絡を受け、その到着を待っていた。そんな彼に本を読みながらリオが近くに寄ってきた。

 

 

「今の連絡はシオンの事ですか?」

 

「ああ。島を出たとのことだ」

 

「そうですか。俺としても彼に会うのは初めてですからね、どんな人物か楽しみですよ」

 

「アイツは優しい奴だよ。アイツを見てると……誰かを思い出すんだ」

 

 

 そう言いながら、空を見上げるヒロト。リオが彼に視線を向けると、彼の頬に一粒の涙が流れるのを見た。その様子に、彼の過去を知っているリオは察した。

 自分から聞いておいて悪いことをしてしまったのかと思ったリオは話を変えようとした。

 

 

「そういえば、ローグタウンに降りた際に煙の男と会ったのですが……」

 

「せめて名前で呼んでやれよ……。はぁ……それで、スモーカーがどうかしたのか?」

 

「いえ、大したことでは無いのですが……『テメェらの船が近くにあるだけで目障りだ。とっとと失せろ』との事です」

 

 

 リオの話を聞いたヒロトは目を丸くしていたが、途端に笑い出した。

 

 

「なるほどな。アイツがそんなことを言っていたとは」

 

「こちらの用事に口を出さないでいただきたいと言っておきましたよ。それでもしつこく噛みついてくるようなら……」

 

「止めておけ、リオ。むやみに能力を使用するもんじゃないぞ」

 

 

 ヒロトの制止にリオの周囲で揺らいでいた風が止まった。リオは息を吐くと本に目を向け、再び読み始めた。他人に対しては厳しいリオだが、ヒロトに対しては甘くなる。そして、彼が貶されるようなことがあればいの一番に噛みつこうとする。

 全く、相変わらずだなと口に出したヒロトは肩をすくめた。

 

 彼は船から降りると、ローグタウンを歩き回った。シオンが来るまでは自分たちは暇なのだ。時間はあると思った彼は、この町に来たのなら見ておきたかった場所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 彼が向かった場所は彼の記憶に根強く残っている所だった。あの日、同じ場所で目撃した彼の最期。その場には、彼の妹も、友人もいた。自らの恩人とも言える人が言い残した言葉は時代を動かすものとなり、1つの伝説を生み出したと思った。

 

 そして、この場所で自分は一時的に妹と別れ、再び別々の道を歩み始めた。ここから自分の新たなる旅が始まったのだ。かつては一匹狼とも呼ばれていた自分も随分変わったものだと、それでも嬉しそうな表情を浮かべていた。

 今の自分には掛け替えのない仲間たちがいる。どれだけ絶望に陥ろうとも支えてくれる仲間たちがいる。それに、己の大切な家族もいるのだと。

 

 そんな風に自分の世界に入り、声を掛けられていることに気づかなかったヒロトは肩を叩かれたことによってようやく現実に戻った。

 

 

「全く、ボクの呼びかけを無視するなんてちょっと酷いんじゃないの? ヒロト」

 

「悪い悪い、考え事してたからさ。ラゼル、そういえば他の奴らは?」

 

「シノンとセレナは物資の調達。シローなら近くの海を散策中。マークとルティナは観光中で、ゲツガとツキカゲの2人が護衛してるよ。その他大勢はさすがのボクでも知らない。まぁ、ヒロトに迷惑掛けるってわけじゃ無いから大丈夫じゃないかな」

 

 

 恐らく自分の船に乗っている中で迷惑を掛けるのは誰かの筆頭に出る人物が言っても説得力がない。自分が一体どれだけ手を焼かされているのか知っててやっているのかと聞きたくなる。

 それでも、やるときは真面目にやるのだからあまり文句は言えない。そこら辺は他の仲間がカバーしてくれるからヒロトとしてはありがたいのだ。

 

 

「お前の用事は終わったのか?」

 

「そうだね。可愛い女の子たちもいたことだし、満足だよ。これから行く先々でも楽しみだなぁ」

 

「…………はぁ、お前は先に戻ってろ。俺も、もう少ししたら戻る」

 

 

 ラゼルを先に戻らせたヒロトはローグタウンを歩き回り、途中で自分の仲間に遭遇したら声を掛け、再び文句を言ってきそうな海軍の知り合いを黙らせておいた。

 

 降り立つ前まで明るかった空もすっかり日が暮れていた。夕日と共に己の目に映る自分の船の姿を見ながら彼はこの先のことに思いを巡らせていた。

 

 

「ここから、また始まることになるのか。これもまた運命なのかもな。船長」

 

 

 




次回からは新章に突入予定です。

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