ダダンは今、頭を抱えていた。4年程前からエースをガープから預かっているというのに、今度はシオンという子供をガープとヒロトの2人が連れてきたのだ。
最初こそは、また面倒事を抱えてきたのかと憤慨していたが、ヒロトの表情を見てその考えは無くなった。とにかく、ヒロトを中に入れて事情を聞いた。その話を聞いて驚いた。シオンがテレシアの子どもだということだ。
ダダンたち山賊一家とヒロトは、エースが彼女たちの元に預けられてから度々様子を見に来きていたことで知り合い始めた。生活用品や食料を分けてくれるが、「エースが世話になっているから礼がしたい」とのことだった。また、テレシアとも一度だけ面識があり、彼女の肩書きに一家揃って度肝を抜かれた。
それからしばらくして、ヒロトが妹の子を連れてきたのだ。思えば、シオンはどことなく母親に似ているように思えた。そして、ここに預ける理由も聞いて思わずため息をついた。鬼の子であるエースに続いて、――の子とは……
どうして自分はこうも厄介事を抱えなければならいないのか……。思わず自分の不運を嘆いた。そもそもガープと関わってしまった時点でこうなる運命だったのかもしれない。
ふと後ろを振り返ると、ドグラとマグラが立っていた。
「お頭、本当にあいつを預かるつもりニーか?」
「エースだけでも手一杯だっていうのに…」
「…………………………」
本音を言えば、すぐにでも追い返したいとは思っていた。しかし、ヒロトには色々と世話になっている。ダダンは2人での会話を思い出していた。
『なるほどね…。そういうことか……』
『迷惑だということは分かってる……でも、お願いします! 俺はいつも、あいつのそばにいてやれない。かといって他の誰かに簡単に目の届く場所に預けるわけにもいかない。それ以外で頼れるのはダダンだけなんだ!』
『……あんたにとって嫌なことを言わせてもらうけど、あの子が自分で選んだ道だ。その結果がこのザマなんだ。あんたと同じ道を進んでいたら、こうはならなかったかもしれないんだろ。あたしらにとっては厄介事だ。正直に言わせてもらうが迷惑だよ』
『――ッ!!』
『鬼の子だの、――の子だの、仮に世界政府にでもバレたらあたしらが何されるか分かったもんじゃない。それに『それでも……!』ん?』
『シオンは……あいつは俺の……大切な家族なんだ! ――の子だという理由であいつを責めることはあってはならないんだ。エースだってそうだ。親の罪を子供に着せることは…俺はしてほしくない。誰が何と言おうと、あいつらには生きてほしい。もう二度と、大切な家族を失いたくはないんだ……!』
『………………』
『頼む……! こうして頭を下げるしかできないけど…お願いします! あいつをここで育ててください……!』
『……はぁ、わかったよ。あんたには世話になってる。それに、こうまで頭を下げられ続けて断れるほど、あたしもそこまではできない。あんたには情が移り過ぎたみたいだね……』
『!! ありがとう、ダダン…!』
あそこまで必死に頭を下げて、土下座までしてくるヒロトの態度にダダンは断ることができなかったのだ。
「あいつと話し合って決めたことだ。シオンはうちで育てるよ」
「えぇ!? 本気かよ…」
「まーまー。お頭が決めたことだし仕方ないさ」
「そういや、シオンはどこに行った?」
「シオンなら、確かエースが部屋に連れて行っティたはずっすよ」
3人はエースがいつも寝ている部屋に向かい、扉を開けて中を覗いてみると――
そこには、一緒の布団にエースとシオンが眠っていた。よく見ると、シオンの手がエースの手に握られながらの状態だった。その様子に3人は驚いていた。
「あのエースが一緒になって寝てるなんて…」
「オイラも信じらりニーよ…」
「……エースはヒロトには懐いているようなところがあったからだろ。そのヒロトから弟みたいに接してくれと頼まれたんだ。エースにとって弟ができたようなものなんだろさ」
ため息が混じりながら呟いた言葉だったが、その顔からは不服や不快感といったような表情が見られず、珍しく穏やかな表情だった。ドグラとマグラもとりあえずはダダンの言葉に納得したようだった。
3人もそれぞれ寝る準備をしようと思い、ふと窓から空を眺めるとそこは星が広がった満天の夜空だった。まるで何かを象徴しているように……
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場所は移り変わって、ここは海軍本部があるマリンフォード。そして、ある一室に1人の男がいた。そこに1人の海兵が入ってきた。
「失礼します! センゴク大将! お連れしました!」
「ご苦労。中に入れてくれ」
海兵の案内で1人の男が入ってきた。その男は黒のコートを着ていて、背に黒の鞘に収められた剣を背負っていた。
「久しぶりだな。ヒロト。半年ぶりか」
「お久しぶりです。長い間こちらに来れずに申し訳ございません」
「いや、構わん。賞金稼ぎのお前に色々と依頼しているのはこちらなのだからな」
センゴクの元にやって来たのはヒロトだった。2人は挨拶を交わし握手をした。
「それで、今回俺を呼んだ理由は?」
「そうだ。お前に頼みたいことがあってだな――」
2人は依頼内容について話し合った。
「分かりました。お受けしますよ。すぐに向かえばいいですか?」
「ああ、頼む。ところでヒロト、ここしばらく来れなかった理由は何だ?」
「……ちょっと色々ありましてね。どうしても手が離せないことがあって…」
「ふむ…もしや、テレシアの事と何か関係があるのか?」
「いえ、そちらとは関係ありませんよ。それより、テレシアの行方は…」
「いや、未だにその行方はわかっておらんよ」
「……そうですか…」
あの日、テレシアと別れて以来、彼女の行方はわからなくなった。それらしき人を見かけたという情報すら入ってこないのだ。ヒロトはまだ捕まっていないことにホッとしながらも、不安を感じていた。
「やはり、海賊といえど、実の妹は心配か」
「……はい。生きているなら嬉しいですが、もし何かあったら…」
「あやつがそう簡単にやられるようなやつとは思えんがの……もし、海軍が彼女を捕らえたらどうするつもりだ」
「……それは……………」
センゴクの言葉にヒロトは苦しい表情を浮かべた。彼女が仮に海軍に捕まったらどのような目にあうかわからない。思わずヒロトは手を握りしめた。
「いや…無粋な質問だったな。お前が妹を心配しているのは理解しているつもりだ。だが、お前は道を踏み外すようなことはしないでくれ。今のお前は政府にとっては危険人物ではない扱いになっているのだ。それに、私にとってお前は息子のように思っているのだ。こんなことはお前の実の父の前で言えたことではないがな…」
苦笑いを浮かべながらセンゴクは言った。しかし、その様子からは慈愛に近いものを感じ取ることができる。ヒロトは一瞬キョトンとしたような表情になったが、次には笑顔を浮かべていた。
「ありがとうございます。あなたにそう言っていただけるだけで嬉しいですよ。俺もあなたのことは親のように思っていますよ。…………そろそろ行こうと思います。失礼しました」
「ああ、気をつけて行ってこい」
ヒロトは頭を下げて部屋を退出した。センゴクは椅子に深く腰掛け、ため息を吐きながら天を仰いだ。ヒロトが笑顔を浮かべる寸前、表情が一瞬だけ陰りが差したのを見逃さなかった。彼がその顔を見せてしまった理由はおそらく――
「ヒロト……やはりお前はあのことを許すことは出来ないのか。あやつとて本心ではなかっただろうに……」
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夜のコルボ山――ダダン一家の拠点である家の一室で、エースは横になりながら考えていた。自分は4年前程、ガープのジジイがここに預けた。自分は海賊王と呼ばれたゴールド・ロジャーの息子であり、鬼の子でもある。初めてそれを聞かされたときはただ不快感が募っていた。そのときは海賊のことも少なからず憎んでいたのかもしれない。
だが、そんな思いを抱えているときに出会ったあいつの存在が自分に影響を与えた。そいつの名前はヒロト。聞くところによると、ダダンとは親交があり、食料や物資をわざわざ持って来ているらしい。変な奴だと思った。ただ、エースとヒロトが話すことほとんど無かった。目が合うとこちらの顔を見て笑顔を向けてくれるだけだ。しかし、あいつとの関係が変わった日は唐突にやってきた。
その日はエースが1人で森の中を歩いている日だった。突然、自分の後ろから虎が襲いかかってきて振り返った瞬間――自分の体は浮遊感に襲われ、気がついたときには虎は気絶していて、自分は抱き上げられていた。
「大丈夫かエース?」
「……は? てかあんたは……!」
「こうして話すのは初めてだったかな。改めて……初めまして、エース。俺はヒロトだ。よろしくな」
色々とわけがわからなかった。何で急にこいつが現れて、自分を抱き上げているのか……あまりの状況に戸惑っていたが、ヒロトはそんな自分の状態を気遣ってくれたのか頭を撫でていた。再び戸惑ったが不思議と嫌な感じはしなかった。その後、ヒロトはおれを抱いたまま歩こうとしたが、さすがにそれは嫌だったので降ろしてもらった。
ダダンの家に行く道中、ヒロトの話を聞いた。自分は賞金稼ぎであり、それなりに有名な存在であるということ。1番驚いたのは海賊の妹がいるということだ。そのため、思わず彼に聞いてしまったのだ。
「……なあ、ヒロト」
「うん? どうした、エース」
「――〝海賊王〟のことをどう思ってる……」
ヒロトにとっては唐突な質問だったのだろう。足を止めて自分の方へと顔を向けてきた。何て言われるのか不安に駆られた。自分はその海賊王の子供だ。それに、こいつはおれのことを知っているんじゃないかと思えた。こいつももしかして自分のことを――
「……そうだな。俺にとって、あの人は恩人だよ」
「……………は?」
あいつが恩人? 一体どういうことだ。おれは疑問に満ちていた。
「おれと妹はあの人に命を救われた。その後、おれは賞金稼ぎの道に進んだが、妹はあの人が率いる海賊団のクルーになったんだよ」
「……てことは、海賊王と一緒に――」
「そうだ。あの人と一緒の船に乗っていたんだ。あの人の話はよく聞かされてたよ。厄介事には首を突っ込むわ、酒に酔うわ、怒られるわで、大海賊の船長がただのおじさんに思えたよ」
言っている意味がしばらくの間、理解できなかった。海賊王がただのおじさん……? しかも、こいつの妹はあいつのクルー……? あまりの情報量の多さに困惑した。
「世間からは悪く言われてるかもしれないが、それはあの人のことを知らない者からの意見さ。それだけで、あの人を悪く言われるのは許し難いな」
こいつにとってはそんな存在なのだ。海賊王とは。誰よりも身近にいた人が身内にいるからこそ、知り合いだったからこそ、こんな考えがもてるのだろう。でも、おれにとっては――
おれが顔を俯かせていると、ヒロトが腰を下げておれと目線を合わせた。
「お前が何に悩んでいるのかを俺が理解してやることはできない。その人の悩みや苦しみの重さはその人にしか分からないんだ。でもな、エース……人間は誰しも同じ人の子だ。親が誰であろうと、どんな血を引いていたとしても、生まれたからには……そいつには生きている意味があると俺は思ってるよ」
こいつはやっぱり知ってるんだ。おれが誰の子供なのかを。
「おれにも、あるのか……生きている意味が……」
「いずれそう思える日が来るよ。きっと。エースにはエースの良いところがあるんだからさ」
そう言っておれの頭を撫でてきた。おれはヒロトの言葉を静かに聞いていた。そして、こいつの笑顔を見て思った。こいつはとんでもないお人好しなんだと。でも、こいつの言葉は自分の中にあった負の感情を押し出していた。あまりのお人好しさにおれは思わず笑ってしまった。
「ぷっ……何だよそれ。とんでもないお人好しだな」
「ああ、俺はとんでもないお人好しだ。そこは肯定してもいいぞエース。でもな、そんなに笑うことはないんじゃないのか?」
おれは海賊や冒険について色々と聞いた。いい奴もいれば悪い奴もいる。たまには意気投合する奴もいる。また、妹の冒険の話も聞いた。この山で過ごしてきたおれにとってはどれもが新鮮なものだった。おれは海賊というものが羨ましくなった。もしかしたら、自分が海賊になりたいと思ったのはこれがきっかけなのかもしれない。
そうして、時間も過ぎてヒロトが帰ろうとしているときにおれは声をかけた。
「なあ、ヒロト。また話を聞かせてくれるか?」
「ああ、旅の記憶をたくさん聞かせてやるよ。だから…俺たちはもう友達だな」
ヒロトが小指を差し出してきた。おれは一瞬キョトンとしたが、すぐに笑顔を浮かべヒロトの小指に絡ませた。
「おう!」
そうしてあいつと友だちになったのが半年ほど前のことだ。次にあいつがやって来たのは、ジジイと一緒に一人のガキを連れてきたことだ。そのガキはあいつの妹の子供――つまり、あいつの甥っ子らしい。そして、自分と同じようにここに預けるというのだ。ただでさえ、しばらく会えなくて不満だったというのにガキを連れてくるとは……。最初はあまりいい気分にならなかった。でも、ヒロトに呼ばれそのガキ――シオンの頬を突っついたらそいつの笑った姿を見て思わずかわいいと思ってしまった。
ヒロトは自分に弟みたいに接してほしいと言ってきたため、友だちの頼みなら仕方ないかと思い面倒を見てやろうと思った。それに、こいつも――
そんなこんなもあって今、おれが横になっている近くにはシオンが眠っている。頬を突っつくと嫌そうに顔を歪めて、思わず笑ってしまう。
(こいつは今日からおれの弟分だ)
そう思い、シオンの手を握って、エースも眠りについた。
心情表現が難しい。書き始めたばかりだから、色々と手こずってます。まだまだ勉強しなければならないかなぁ。
ヒロトさんがもう1人の主人公ポジになっちゃいそう……
※センゴクさんの階級を元帥にしてましたが、大将に変更しました。