赤き星の旅路   作:月影海斗

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第6話 海賊王の子

 あの一件があって以来、エースの過保護ぶりがさらに増した。それどころかサボまで過保護になった。初対面であんなことがあったから、より記憶に残るようになったのだと思うけど、さすがに心配のしすぎだ。この前なんて、1人で狩りに行くと言ったら、危険なことがあったら心配だから一緒に行くと言い出した。なんとか説得して渋々ながらも1人で狩りに行くことに了承してくれた。

 

 2人はよくチンピラを倒して金を奪ったり食い逃げをしたりしているみたいだが、前世の記憶持ちの僕にはそんなことなど恐れ多すぎて、やっていない。だから、2人が海賊貯金を貯めに行くときは、僕が1人でエースの分までご飯のための調達に力を注いでいる。

 

ちなみに、エースたちと一緒に模擬戦も始めた。これから先、戦う力も必要だろうから、僕も参加し始めたが、2人には勝ててない。気配を読むことに長けていたとしても、体が思うように動かせなければ意味が無かった。まだまだ、特訓しなければならないだろう。

 

 

 

 

 

 

僕にとって楽しい毎日が続いていたが、ある日の出来事で変化が起きた。その日は丁度、僕が1人で狩りに行っている最中に、ふと2人のことが気になって中間の森に向かった。そこには、サボの姿がいたがエースの姿は無かった。

 

 

「あれ? シオンか。狩りに行ってたのか?」

 

「うん。エースはどうしたの?」

 

「エースとは途中で別れてな。しばらくしたら戻ってくるだろ」

 

 

 とりあえず僕はサボの言葉に納得して、エースが戻ってくるのを寝ながら待った。しばらく時間が経って、気配を感じたからその方向を見た。

 

 

「どうかしたのか?」

 

 

 起き上がった僕が気になったのかサボが聞いてきた。

 

 

「あっちの方向から気配を感じた……」

 

「なるほどな……。多分エースが戻ってきたんだろ」

 

 

 気配の主が姿を見せたら、サボが言った通りで、その正体はエースだった。ただ、明らかにいつもと様子が違った。何より、今のエースは――

 

 

「! おい、エース! どうしたんだよ! 傷だらけじゃないか」

 

「…………何でもねぇよ」

 

 

 いや、明らかに何かあっただろ、と思わず内心でツッコんだ。今のエースは腹立たしいことがあったような状態だ。何より、エースの辛そうな思いが僕には伝わってくる。サボが心配そうに聞いているが、当の本人は何でもないと言い続けている。

 

 

「……で、でもよ……、そんなに傷だらけで何もなかったって……」

 

「だから、本当に何でもねぇよ。……ともかく、今日は戻るよ」

 

 

 エースが足早に戻っていった。サボが心配そうな面持ちでエースのことを見続けていた。

 

 

「サボ……僕の方で何とかしてみるから大丈夫。心配しないで」

 

「シオン……」

 

 

 笑顔を浮かべてサボに言えば、サボの方も納得してくれたみたいだ。僕はすぐにエースの後を追った。しばらく走り続けたら、ダダンの家に着く前にエースに追いついた。近くには、動物の気配が無いから、多少は大声を出しても大丈夫と思い、大声でエースを呼んだ。

 

 

「エースーーーーー!!」

 

 

 僕の声にエースは足を止めて、振り返った。しかし、その表情はやっぱりいつもとは違う。

 息を整えながら僕は尋ねた。

 

 

「エース……今、ここには僕だけだよ。だから、何があったのか、話して」

 

「………………」

 

 

 何も話さないまま数秒が経過した。だが、エースの心が、感情が荒れているのを感じた。エースにとって辛いことがあったのはすでに分かっている。そうでないとしたら、こんな風になるはずがない。何より、初めて見たエースの様子だったから。

 

 

「エース……「お前に……」えっ?」

 

「お前に…何が分かる……!」

 

「!」

 

 

 返ってきた第一声が怒りが混じった声だった。まさか、こんな返しをされるとは思わず僕は固まってしまった。エースは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、すぐに走りだしてしまった。僕はその後を追えずしばらくの間、呆然としてしまった。

 

 

 その後、ダダンの家に戻ったが、その日はエースと一切会話できなかった。いつもとは違う状況にダダンたちも困惑していた。何があったのか聞かれたが、答えることはできなかった。

 

 

 次の日も、会話することなく過ぎてしまった。どうすればいいかわかずにいたら、1つの出来事が頭によぎった。それは、母と別れたあの日。母は、僕を危険な目に遭わせないために僕をここに預けようとした。母が海賊であることも理由の一つだと思うが、母が姿を隠さなければならない重要な何かがあったからだろう。

 

 それならば、エースは? エースも僕と似たような境遇なのかもしれない。そして、エースがあんな感情を見せたのはそれに関係しているのではないか。僕がエースに聞こうとしたことはエースにとっての地雷だったのかもしれない。思わず僕は涙を流してしまった。どうすればいいのか分からない。サボにはあんなことを言ったが、どうすればいいのか。

 

 

「どうしたんだ、シオン。そんな顔して」

 

 

 前から声が聞こえ、顔を上げたらヒロトさんがいた。僕は涙を腕で拭いて、ヒロトさんの顔を見た。

 

 

「何かあったのか……」

 

「ヒロトさん……。……………実は――」

 

 

 僕は何があったのかを話した。エースの様子がおかしくなったこと。どうしたらエースとまともに話せるようになれるのか。エースの苦しみを少しでも取り除いてあげたい。そして、エースの家族について……

 

 ヒロトさんは僕の話を静かに聞いてくれた。話が終わってから考え込んでいたが、息を吐いて僕に顔を向けた。

 

 

「確かに、俺はエースの家族については知っている。だが、それは簡単に話せるようなことではないんだ。あの子が背負うには……重すぎるものだ。あいつのことは、俺が何とか――」

 

「それって、僕と同じ事……?」

 

「!」

 

 

 ヒロトさんが驚いた顔を見せた。やっぱり、エースの過去は僕が思ったより、重いもののようだ。なら、僕も覚悟を決めなければならない。エースの過去を知りたいと願うならば、まずは自分についてのことを知らなければ。

 

 

「僕さ、実は覚えてるんだ。母さんと別れたあの日のことを……」

 

「まさか……! 全部理解していたのか……」

 

「うん……。母さんが海賊で何かを背負ってて、それを背負わせないために僕をここに預けようとしたのも、ヒロトさんと母さんのお父さん…僕のお祖父さんとの間で何かがあったことも……」

 

 

 ヒロトさんは僕の前では決して、母さんが海賊だということを口にしなかった。僕も母さんが海賊とは聞いていないからまだ理解できていなかったと思っていたんだろう。いつかは聞こうと思っていたが、今がその時だ。自分の過去を聞かずして、僕はエースと思いを交わすことはできない。僕が今から聞くことは母さんやヒロトさんの思いを無駄にするようなことだろう。でも、僕は――

 

 

「2人が僕に辛い思いをさせたくないのは理解してるよ。でも、僕は知りたいんだ! 自分のことを! それが、どんなに辛いことでも構わない。いずれ、知らなければならない時だって必ず訪れるんだ。なら…今だって構わないでしょ! 僕には知る権利だってあるんだ! だから――お願いします……! 僕に全てを教えてください! それに、僕の手でエースと話しをさせてください……!」

 

 

 僕は精一杯の自分の自分の思いを伝えた。ヒロトさんは迷っている。でも、僕はもう決めてんだ。全てを知るって。ヒロトさんは意を決したように口を開いた。

 

 

「……分かった。お前に話そう。シオンの母親…テレシアのこと、エースの家族のことを。それに……俺たちが背負うことになったものを……」

 

 

 僕は、ヒロトさんから全てを聞き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 森の中、エースは1人で歩いていた。そして、あの日のことを思い出していた。

 

 

『ゴールド・ロジャーにもし子供がいたら? そりゃ間違いなく打ち首だ!』

 

『遺言はこう言い残して欲しいねェ、生まれてきてすいませんゴミなのに~』

 

『『『ヒャハハハハハ!』』』

 

 

 アイツらの言っていたことを思い出して、不快な気持ちになった。あの時、頭に血が上ってアイツらのことをボコボコにした。人数が多かったから怪我を負ってしまったが、自分の気持ちが晴れることはなかった。それどころか、心配してくれたサボを無視し、シオンに八つ当たりしてしまった。

 

 今まで、知らない所でも似たようなことを言われていたかもしれない。アイツらも例え話だと思った上で言ったことだとは理解している。ロジャーに子供がいるなんて思いもしないだろう。でも、おれだって傷つく心はあるんだ。その言葉を黙って聞き流せられることなんてできなかった。何よりも本人が目の前で聞いたんだ。怒るなと言う方が無理がある。

 

 お袋は自分の命を犠牲にしてまで、おれを産んだ。でも、おれは本当に生まれてきてもよかったのだろうか。

 

 

 「……くそ!!」

 

 

 ムシャクシャして近くにあった木を殴りつけた。ヒロトはおれに優しくしてくれたが、すべての人がアイツみたいなハズがない。サボだってシオンだって、本当のことを知ってしまったら――

 

 

「エース」

 

 

 声が聞こえ、そこに顔を向けた。そこにいたのは――

 

 

「……シオン」

 

 

 シオンだった。八つ当たりをしてしまってから、1度もまともに話せていない。でも、今は話したくないと思って、無視しようとした。しかし、服をギュッと掴まれた。

 

 

「おれに何の用……――!」

 

 

 シオンの顔を見たら、いつもとは違っていた。真剣な表情…覚悟が決まったような顔だった。

 

 

「エース」

 

 

 もう1度名を呼ばれ、思わず息を呑んだ。

 

 

「――話したいことがあるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 僕はエースを連れてある場所に向かった。そこは池が広がっている場所だった。ここを選んだ理由はあるが、今はエースに言うべきことではないだろう。丁度、日もほとんど沈んでいるし、いい時間帯だろう。僕はあらかじめ用意しておいた焚き火を燃やした。僕はエースに座るように促し、そのそばに僕は座った。エースは先ほどから一言も喋っていない。意を決し、話しかけた。

 

 

「単刀直入に訊くよ。エースのお父さんって……ゴール・D・ロジャーでしょ?」

 

「! な、何でお前がそのことを……」

 

 

 エースの顔が驚愕に染まった。当然だろう。エース自身からは一言も言ってないのだから。

 

 

「ヒロトさんから聞いたんだよ……。でも、あの人を恨まないで。僕がどうしても聞きたいって頼んだことだから」

 

「どうして、お前が知りたいと思うんだよ」

 

「エースのこと……助けたいと思ったから」

 

 

 『助けたいと思ったから』その言葉を発した次の瞬間、僕はエースに胸ぐらを掴まれた。その顔はあの時と同じように怒りに染まっていた。

 

 

「お前に! 何が分かるんだよ! おれのこと聞いたなら、おれがどんな風に言われているのか知ってるんだろ! おれは鬼の子なんだ! アイツのクルーだったっていうお前の親とは……――!」

 

 

 エースの顔がしまったと言うような顔になった。口を滑らせたことに対してしまったと思ってしまったんだろう。そのことに対して相変わらず優しいなと思ったが、今はそのことを考えるべきではないだろう。

 

 

「そんな顔しなくても大丈夫だよ……。母さんが海賊でエースのお父さんの船にいたことも知ってるから」

 

「なら、おれとは違うだろ!? おれは世界中から否定されてるんだ。ただアイツの血を引いているってだけで……。おれは死ぬべきだって……。こんな辛い思いをするぐらいなら、おれは生まれてきちゃいけなかった――」

 

 

 頭の中でブチッと音が鳴った気がした。聞き捨てならない言葉が聞こえ、僕はエースの胸ぐらを掴み返した。

 

 

「生まれてきちゃいけないなんて、何でそんなこと言うんだよ! 他の誰が言おうと、エース自身がそんなこと言っちゃいけない! それは、エースのお母さんのルージュさんも侮辱するってことだよ!」

 

「なっ!?」

 

「ルージュさんはエースに生まれてきて欲しいって願ったから今のエースがいるんでしょ! 命を失うかもしれないって分かってた上で選んで、辛い思いをしようとも大切な、愛する子供のために耐えて、エースは生きてるんだ。なのに……エースがそんなこと思ったら……報われないじゃないか……!」

 

 

 母親が子供を産む辛さは僕には分からない。それでも、命をかけてでも産もうとしたってことは愛してくれていたからだ。生きて欲しかったからだ。それを否定するってことは、その覚悟も愛も何もかも否定することだと思う。

 

 

「……そうだとしても、お袋がおれを愛してくれたとしても、おれを愛してくれる人はもう……」

 

 

 エースが泣き顔になってきた。でも、僕は伝えなければならない。僕の思いを。

 

 

「僕たちがいるよ、兄ちゃん」

 

「えっ……」

 

「僕やサボ、ヒロトさんやじいちゃん。きっとダダンたちも。兄ちゃんのことを愛してくれる人はいるんだ……ここに」

 

 

 僕は胸ぐらからエースの手を離させ、その手を握った。

 

 

「他の誰が否定しようとも、僕たちは願ってる。兄ちゃんには生きてて欲しいって。それに、兄ちゃんのことを大切に思ってくれる人は増えるよ。絶対に」

 

「………………」

 

「それに、兄ちゃんがいなかったら今の僕はいないんだ……」

 

「は?」

 

 

 そう。ヒロトさんから話しを聞いたとき、僕はすべてを知った。そして、それは子供が背負うには重すぎるものだった。でも、その話を聞いても僕が今のままでいられるのは、僕のことを大切に思ってくれる人が……エースたちがいるからだ。

 

 エースには僕のことを伝える必要はないのかもしれない。でも、エースには……僕の家族には知ってもらいたい。血がつながっていなくとも関係ない。僕にとってエースはもう大切な家族だ。

 

 それに、エースの隠しておきたかったことを勝手に聞いて僕が話さないことはだめだと思う。ヒロトさんも話しても構わないと言っていた。僕の、僕たちの血筋が背負ってしまったものを。

 

 

 




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