赤き星の旅路   作:月影海斗

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UAが5000越えました。改めてこの作品を見てくださってる方々、ありがとうございます。


第8話 生まれてきてくれてありがとう

 

 どれくらいの時間、沈黙が続いていたのだろうか。僕は頭を悩ませていた。呪われた力だと呼ばれるようになった経緯は理解した。でも、スバルさんはその後どうなったのか。スバルさんは既に死んでいるとヒロトさんは言った。なら、それを聞いてもいいのだろうか……。

 僕は不安に思いながら顔を上げ、ヒロトさんに聞いた。

 

 

「……ヒロト……さん。その……逃げ出した後、どうなったの……」

 

「……俺たちは、船にあった物を頼りに、ひたすら船を進ませ続けた。だが、海軍本部を抜け出してから数日後……俺にとって、忘れられない出来事が起こった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 その日は天候が悪く、海も荒れていた。海にいるのだから当たり前だったのかもしれないが、俺にとっては何かが起こる前兆のように思えた。

 

 そして、その時は唐突に訪れた。遙か彼方から一隻の船のようなものが見え、それが軍艦だと分かったのは数秒後のことだった。進む速さは明らかに向こう側の軍艦の方が速く、追いつかれるのも時間の問題だった。

 

 兄さんは舵を切るのを止めて軍艦の方を見据えると、手に光が集まりだし、次の瞬間には弓矢が出来上がった。あまりのことに俺は瞠目してしまった。

 距離が近くなり、恐らく射程距離に入ると、兄さんは矢を放った。しかし、その矢は当たる直前に消えた。まるで、存在そのものがかき消されたようだった。すると兄さんは、「あの人の仕業か」と言っていた。あの人というのが誰か分からなかったが、兄さんは俺とテレシアを抱いて船室へと駆け込んだ。

 

 

「いいか。よく聞くんだ2人とも。俺がこの部屋から出たら2人はこの部屋から出るなよ」

「兄さん!? まさか1人で……」

 

「俺にはやらなければならないことがあるからな。2人に怖い思いをさせるかもしれないが、ここで隠れてて合図をしたら逃げ――」

 

「嫌だ!!」

 

 

 俺は兄さんの言葉を遮るように叫んだ。今の兄さんの言葉からは命を捨てるような覚悟が感じられた。そんなのは嫌だ。母さんに続いて兄さんまで失うなんて……。

 

 

「どうして!? 3人で逃げればいいじゃないか! なんで兄さんがそんなことをする必要があるの!?」

 

「誰かがあの人を抑えないとダメなんだ。あの人の見聞色は強いが2人なら大丈夫だ。お前たちが無事に逃げるにはこの方法しかない」

 

「兄さん……。なら、どうやって私たちは逃げるの……」

 

 

 確かに見聞色を持っているのなら、俺たちの気配も感じ取ることができると思うのに何故そんな風に言うのだろうか。俺はテレシアが言ったことに同意するように頷いて兄さんを見た。

 兄さんは近くにあった2つの箱をそれぞれ俺たちの前に差し出した。その箱を開けるとそこには不思議な実――悪魔の実が入っていた。

 

 

「これって……」

 

「どうして悪魔の実がここに?」

 

 

 俺たちが疑問に思っていると、その答えは兄さんが教えてくれた。

 

 

「――母さんだ」

「「え?」」

「この船も、ここにあった物も、この2つの悪魔の実も、母さんが用意してくれていたものだ。それに、この悪魔の実は〝アマツミカ王国〟にあったものらしい」

 

 

 母さんはこの事態を予想していたってことなの? という顔を兄さんに見せたら、兄さんは頷くことで応えた。思えば、母さんは何かと先のことを見据えるような人だったなと思った。今回のこともその一つだったのだろうか。

 

 

「この2つの能力を駆使すれば、2人は気配を消しながらここを脱出できる。だが、さっきも言ったように誰かが囮になってあの人を抑えないと無理だ」

 

「そんな……」

 

「俺たちに、兄さんを見捨てて逃げろってこと……?」

 

 

 俺の発した言葉に兄さんはしばしの間黙り込んだ。だが、兄さんが発した言葉は――

 

 

「いや、違う。俺は2人に希望を託したい」

 

「「え?」」

 

「俺たちが受け継いできた力は決して呪われた力なんかじゃない。今思えば、俺の力は悪魔の実を食べたことによってその能力と一つになったんだと思う。悪魔の実を食べたとき、俺の中の何かが混ざり合うような感覚があった。この力は悪魔の実をより引き出す力にもなるんだ。母さんが言っていた、一人一人違う力にもなるってことにも当てはまるしな。ともかく、俺はそのおかげで強くなれたんだ。――いつか俺が星に願った、大切なものを守れるようになりたいという願いに俺の中の受け継がれた力……願いの力(・・・・)は応えてくれたんだ。この願いの力は誰かを守るためにあるんだ。この力を、希望を……途絶えさせるわけにはいかない」

 

 

 願いの力。兄さんはそう呼んだ。それと同時にどこかしっくりくるように思えた。呪われた力と呼ばれようと、兄さんは決してそれを認めようとしないだろう。なぜなら、兄さんはその力のおかげで、今までも多くの人々を守ってきたのだから。それを俺はよく知っている。

 

 

「まぁ、その力がいつ覚醒するかは忘れたけどな!」

 

「なんだよ……それ。兄さんってば変なところでうっかりさんなんだから」

 

「でも、兄さんらしいわね」

 

 

 俺とテレシア互いに見つめ合ったあと頷き合って、それぞれ悪魔の実を食べた。食べるとその想像を絶する不味さに「ウグッ」と声に出してしまった。何とか飲み込むと確かに、自分の中の何かが混ざり合うような感覚があった。

 落ち着いた後、兄さんは俺たちを抱きしめてそれぞれに能力の説明をして、あることを告げた。

 

 

「信頼できる人に会えるまではその力は隠しておくんだぞ。この先、何が起こっても、誰が襲いかかってこようともその人を恨むなよ」

 

「兄さん? それってどういう……」

 

 

 俺は兄さんの指に口を押されたことで、それ以上の言葉を発することはできなかった。テレシアは兄さんの言葉に同意したが、俺はもう一度聞こうと思った直後――

 

 

 ドカーン!と音が鳴り、船が大きく揺れた。兄さんはすぐに立ち上がって部屋の扉に手をかけた。しかし、すぐには出ようとせずに振り返ると、笑顔を浮かべ、部屋を出た。

 

 

 俺たちは言われた通りに能力を使い、自分たちの気配を遮断した。どれほどの時間が経ったのだろうか。兄さんからの合図はまだかと思い、外に耳を傾けると聞いたことのある声が響いた。俺はその声に驚き、扉の隙間から覗くとそこは信じられない光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 辺りに炎が広がっている中、2人の男が向かい合ったいた。

 その男は光り輝く剣を携えながら、銀髪の男を睨んでいた。

 

 

「あの2人はどうしたのだ、スバル。気配が感じられないようだが」

「2人ならとっくに逃がしましたよ。今ここにいるのは俺だけです。――ラグナ中将(・・・・・)

 

 

 その言葉に銀髪の男――ラグナは目を細めた。

 

 

「なるほど。であれば、少々荒っぽい手段を取る必要が…あるようだな!」

 

 

 ラグナは駆け出し、スバルは迎え撃つように剣を振るった。その剣の一撃を、両手から出したビームのようなブレードを交差させて受け止めた。

 互いに後ろに下がって距離を取り、スバルは横薙ぎに剣を振るった。その斬撃は光を纏い、まるで流星のようにラグナへと放たれた。

 しかし、その斬撃は相手の体に届く前にかき消えた。そのお返しとばかりに、ブレードを交差させながら振るうと、X字の斬撃が放たれた。

 スバルは剣を消し、前方に光り輝く盾を出現させ、受け止めた。しばらくの間拮抗したが、盾に亀裂が入り、盾は消滅。ラグナの攻撃をスバルは胸に喰らってしまった。

 

 

「ぐ……!」

 

 

 スバルの胸からは血が流れ、あまりの痛みに膝をついた。

 ラグナはブレードを下げながらスバルへと近づいた。

 

 

「私の力はお前が一番理解しているはずだ。お前では、私に勝つことはできん。潔く負けを「母さんは」なんだ?」

 

 

 血を流しながらも痛みを堪え、何とか立ち上がりラグナを睨み付けた。だが、その瞳からは強い怒りは感じられなかった。あるのは、真っ直ぐな瞳、真実を知りたいという視線を送った。

 

 

「母さんは誰に殺されたんだ……」

 

「………………」

 

「船に乗っている最中に、母さんのビブルカードは消えて無くなった。それは、母さんは死んだということだ。答えてよ父さん! 母さんは誰が殺したんだ!?」

 

 

 スバルの強い物言いにラグナは黙り込んだ。沈黙が続いたが、目を伏せながらラグナは答えた。

 

 

「――私が殺した」

 

「!」

 

「彼女もまた、殺さねばならぬ対象となっていた。なればこそ、私自身の手でと。そう思ったまでだ」

 

 

 父の手によって母は殺された。その衝撃の事実は辺りの空気を一層重くした。スバルは気配を感じることはできないが、自分の後ろの部屋で弟妹が衝撃を受けているように思えた。

 だが、対照的にスバルの顔は怒りにも、憎しみにも染まってはいなかった。

 

 

「……そうか。そんな気がしてたよ。母さんもきっと、殺されるなら父さんの手でって思ったのかな……」

 

「スバル……」

 

「なら、俺は俺の役目を果たさないとな……!」

 

 

 船が揺れ始めたかと思えば、スバルの体を中心に大量の光が溢れだし始めた。

 ラグナは驚愕に染まった顔を浮かべ、すぐさま両手をかざしはじめた。

 

 

「止めようとしても無駄だよ。父さんの力じゃ、俺の切り札を抑えることはできない」

 

「お前……! 命を捨てる気か!? その技を使えば、お前は――」

 

「確かに、この技を使えば俺は死ぬだろうな。……でも、後悔は無いよ。父さんと母さんの子供として生まれ、弟と妹ができて、俺は幸せだった。俺はここで死ぬけど、父さんは長生きしてね」

 

 

 スバルは片手を父に向け、衝撃波を放った。ラグナは離れていた軍艦に飛ばされ、軍艦もすぐさまこの辺りから撤退を始めた。

 

 

(悔いは無い。でも……………。やっぱりあいつらの子供の顔を見れない(・・・・・・・・・・・・・・)ことは心残りだったかな……)

 

 

 広がっていた光はついに限界に達し、今にも爆発しようとしていた。後ろを振り返り、合図となっている頷きをヒロトに示した。

 ヒロトが涙ながらも頷いたような気がして、思わず笑ってしまった。

 

 

(お前たちはこの世界を生き続けるんだ。愛してるよ、2人とも。幸せになってくれ。)

 

 

 スバルの視界は白くなり、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 「――超新星爆発(スーパーノヴァ)

 

 

 一隻の船を中心に大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 俺は自分の能力を使い、無人島の浜辺に瞬間移動していた。兄さんの最後は悔いのないようなものだった。それは俺にも分かる。でも――

 

 

「なんで……父さんが……なんでなんだよ!!」

 

 

 俺は認めたくはなかった。母さんは父さんに殺され、兄さんも父さんの手で殺されたようなものだった。俺の中に父さんへの怒りが、憎しみが広がっていった。

 

 

「兄さん……」

 

 

 テレシアが俺を抱きしめてくれたが、俺の気持ちが落ち着くことはなかった。能力を使ってしまったせいか俺は意識を保てなくなりそうだった。

 すると、離れた方から誰かの声が聞こえた。

 

 

「船長!? レイリーさん!? どうしたんだそんなに慌てて!?」

 

「こっちの方から人の気配がするんだよ! 誰かがいるみてェだ!」

 

「それに片方は明らかに弱ってる! すぐに船医を連れてこい!」

 

 

 2人の男が近づいてきたが、テレシアは俺を庇うように両手を広げた。だが、2人は大丈夫だと声をかけ、俺の方へ近づいた。

 

 

「ひでェな。随分と衰弱してんじゃねェか」

 

「ああ。だが、まだ助かる。安心するんだ。君は必ず助けるよ」

 

 

 俺はその言葉に安心したのか、意識を手放した。

 

 

 この2人こそが俺たちにとっての恩人であるとともに、師匠となってくれたロジャー船長とレイリーさんとの出会いだった。俺たちは数年間、レイリーさんに修行をつけてもらった後、俺は賞金稼ぎの道に、テレシアはそのままロジャー海賊団の船員としての道を進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「これが、僕が知ったことだよ」

 

 

 すべてを話し終えたが、エースは僕の顔を見つめ続けたままで黙り込んでいた。

 母さんたちの過去の話を聞き終えた後にエースの家族について聞き、僕はエースの元に行き、今に至る。

 

 

「お前は……お前は、何とも思わないのか。望んでもいないことを背負わされて、命を狙われるって事に……」

 

「そう……だね」

 

 

 政府は今、アマツミカの血を引く者に対してどのように扱っているかは母さんの現状を見れば分かった。生き残りの人間がいることは既に知られている。だが、あくまでも2人だけということだ。生き残りの人間に子供がいると知られたら、どんなことをされるかは想像に難くない。処刑されるか、利用されるかのどちらかだろう。

 

 ヒロトさんは――賞金稼ぎであるということ、センゴクさんやガープさんを始め多くの海兵の助力など、多くの要因が重なった結果、命を奪うということは避けられている。その代わりに定期的に海軍側から依頼を引き受けるということになったそうだ。本人の意思は尊重されているらしい。

 

 だが、母さんは海賊だ。ロジャー海賊団という大海賊に所属し、その後も力のある海賊団に所属していたために、うかつに手が出せなかったみたいだ。しかし、今はどこにも所属していない。故に捕らえたとしても危険があるわけではないということだ。

 

 僕を隠したのは、僕を人質に母さんはおびき出すことを回避するという意図もあったのだろう。ガープさんは家族に対しては情がある人だ。ましてや、あの悲劇は本人も心苦しく思っていたのだろう。だからこそ、母さんたちに力を貸してくれたのだ。

 

 

「僕も……思わなかったと言えば、嘘になるよ。生まれたときから自分の運命が決まっているなんて嫌に思うし、何でこんな思いをしなくちゃならないんだ、ってね……」

 

「シオン……」

 

「でも、今はそうは思ってないよ」

 

「どうしてだ?」

 

「……僕を、愛してくれる人(・・・・・・・)がいるから。それに気づいたら、そんな風に後ろ向きに考えるのが馬鹿馬鹿しく思えてきちゃったよ」

 

 

 母さん、ヒロトさん、ガープさん、ダダンたち山賊一家、サボ、そしてエース。僕には多くの人たちがいる。僕を支えてくれる人が。

 運命が決まっているなんて、そんなこと知ったもんか。運命は、未来は、自分で切り開くものだ。誰かにそれを決めさせられるなんて、真っ平ごめんだ。だから僕は……

 

 

「僕はこの力を、誰かを助けるために使いたい。誰かの夢を叶えるために。僕の大切な、家族の力になれるように……」

 

 

 僕はそう言って、エースの手を握った。

 

 

「お前はおれに……生きてて欲しいのか?」

 

「「当たり前じゃないか」」

 

 

 僕以外の声がして、振り返ればそこにはサボがいた。ゆっくりと近づいてきて僕たちの側に座り、僕とエースの手にサボは自分の手を重ねた。

 

 

「話は聞かせてもらったよ。エース――お前がいなかったら、おれは夢をもつことはできなかったかもしれない。今のおれがいるのは、毎日が楽しいと思えるようになったのはエースのおかげさ!」

 

「サボ……」

 

「僕もエースが兄ちゃんになってくれて嬉しかった。僕にとって兄ちゃんは大切な存在だよ。今の僕がいるのはエース兄ちゃんのおかげなんだ!」

 

「シオン……」

 

 

 言いたいことを言った後、サボと顔を見合わせ頷いた。今から言うことはもちろん決まってる。

 

 

 

 

「「エース。生まれてきてくれてありがとう」」

 

 

 

 

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