負けヒロインの姉に転生した私 ~どけ! 私はお姉ちゃんだぞ!!~ 作:スーパーマンのみりん干し
Qお姉ちゃんは魔術が使えない?
Aはい、お姉ちゃんには魔力が欠片も無いので使えません。
「お前、今なんと言った? 連邦訛りは聞き取り難くてな」
聞こえなかったなー、お姉ちゃん耳は良いんだけど、連邦訛りは聞き取り難いし、なんだか森もざわめいていて、距離もちょーっとあるから聞こえなかったなー。
おかしいなー、お姉ちゃん耳も目も良いんだけどなー。
「我らの崇高な言語を解せぬとは、憐れなものだな」
「んー? すまんな。やはり、よく聞こえん。おかしいな、私は隣町の針が落ちる音も聞こえるんだが、連邦の田舎言葉は、針の音以下の音みたいだな」
「貴様ぁ……!」
ははは、やはり聞こえんな。うむ、先程の妄言もきっと言い間違いだろう。私はかしこく優しい慈悲深いお姉ちゃんだから、どうしようもないミスは許せる。
ほら、言ってみるといい。私は寛大だから、言い間違いの一つや二つ笑って赦すとも。
「やはり、主の祝福を受けていない野蛮な民。その魂が主の復活に必要だとは……。何とも皮肉な」
……( -_・)んー?
おかしいな? お姉ちゃんは言い間違いと信じているのに、なんで魂がなんとかの復活に必要だなんて、物騒なワードが出てくるのかな?
おかしいなー、誰の魂が必要なのかなー?
パー子かな? それともアンナかな?
ははは、どうした平八。何故、私から距離を取るんだ?
ああ、紫翠とラインハルトは危ないから下がってなさい。
はっはっはっ、心配は要らないぞ紫翠。私はお姉ちゃんだから、こういう悪い奴を言葉で説得するのは得意なんだぞ。
そうだな。何事も暴力で解決するのは良くない。良い子の紫翠には、後で飴を買ってあげよう。
さあ、連邦女よ。何をどう言い間違えたのかな?
「……しかし、紫翠・シュレンだけでなく、アンナ・ファレス。それにラインハルト・ガーデンベルグまで連れて来ていたとは。出来損ないにしては上出来だ。これも我が主の思し召し、三人纏めて主の贄となれ……!」
よし、殺す。暴力は最大効率の万国共通言語だ。
なんだか、体が重く感じるが、どうせこの女が何かしているのだろう。
だが、私はお姉ちゃんだから、こんなものちょっと動き難いだけだ。
「とりあえず死ね」
ニコニコした顔で、翡翠様がそう言うのと、隣に生えていた木を引き抜いて投げたのは同時でした。
自分で言ってて、ちょっと意味が分からない私こと、アンナ・ファレスです。
いやもう、おーいキャッチボールしようぜ的な軽さで、4、5mはある木を根っこごと引き抜いて、あの狼女に投げたんですよ?
木って、そんな雑草みたいに抜けましたっけ? 抜けない? 当たり前? ですよね、平八さん。
「というか、〝あれ〟大丈夫なんですか?」
「ああ、気にすんな。あのバカが歩兵やってる時は、基本〝あれ〟だから」
大丈夫だって言われても、あくまでも魔力の強い一般人でしかない私には、異常な光景でしかない。
私が見ている光景は、翡翠様が現れては消えて、消えては現れてを繰り返し、狼女がそれを避けている。
意味が分からない。翡翠様が消えると、森の木々が薙ぎ倒され、岩が粉々に砕けていく。
そして、それを繰り返している翡翠様には、傷一つ見当たらない。
え? 矢が刺さらないだけじゃないのあの人。
「戦場だと、あれに専用の具足とあの大薙刀付きで、敵陣であれをやる。離れて見ると中々に壮観だぞ? あのデカブツが突っ込むだけで、敵の陣が三つ四つ簡単に吹っ飛ぶ」
「うむ、あれは中々に壮観よな」
平八さんの言葉に、常識人と信じていた官兵衛さんがからからと笑う。
翡翠様のやっている事は、簡単に言ってしまうとピンボールの玉だ。
何かに当たっては止まり、また跳ね飛ぶ。
ピンボールと違うのは、玉を弾くバーが森の木々と岩で、跳ね飛ぶ玉があの翡翠様だという事。
そして、玉を弾く筈のバーが粉砕されて、森がどんどん更地になっていく様を眺めていると、ふと気付いた事がある。
「……なんか、変じゃないですか?」
「ええ、アンナ様。姉上が攻めあぐねています。父上との組み手以外で、あの様な姿は見た事がありません。……というより、動きが遅い様な?」
攻め、あぐねている……?
私の目には、ばっかんばっかん森林破壊をしている様にしか見えませぬが? 動きが遅い様なと言われても、私にはよく見えませぬが?
しかし、森林破壊が続いているという事は、あの狼女を仕留められていないという事だ。
「何か仕掛けがあるな。あの連邦女に、あのデカブツをいなせる実力があるとは思えん」
「だが、実際に義姉上は攻めあぐねている。義姉上の動きは直線で読み易い。しかし、それにしてもおかしい」
「……まるで、未来でも見てるかの様だな」
「先見の魔術か? あれは先読みの巫女だけだろ」
よし、動きが遅い云々は置いて、思い出せ私。原作では私こと、アンナ・ファレスが物語の鍵となる先読みの巫女で、先見の魔術は私だけが使えるものだった。
事実、私は先見の魔術を使える。だから、翡翠様達があの町で泊まるという未来を知れて、先回りが出来た。
だが、この先見の魔術は視野が狭い。確かに未来を知れるが、その未来が何時なのかは分からないし、見れる時間も限られている。
特定の人物の未来を見た場合、その人が何日後の何時ぐらいに何をしていたかを知るには、とにかく見た光景から情報を探りだして予測するしかない。
翡翠様達の動向を予測出来たのは、王様が出したあの指示と、シュレン領から王都までの道のり、そして一瞬見えた町の風景の情報を得られたからだ。
先見の魔術は万能チートではない。だから、あの狼女の様に翡翠様の動きを読んで回避する事は不可能。
なら、何が考えられるか。
答えはある。
原作ゲームでは、テキストのみだがDLCで追加されたものがあった。
未来視の宝玉、遥か遠く崑崙から伝来したという、持ち主に一瞬先の未来を見せる宝玉。
冗談めかしたテキストだけで、ストーリーに出てきた時も偽物だと見抜かれて、あっさりと捨てられて終わったイベントアイテムだったが、この世界はゲームじゃない。
あのゲームにそっくりな現実で、だから存在する可能性はある。
「はははははは、流石は蛮族の猪姫。力はあっても頭は無い様だな!」
狼女が腰に提げた剣、あれは見覚えがある。ゲームであの剣には何度も泣かされた。
卑怯千万のチート装備、当たれば死ぬとかいう即死効果付与の魔剣。
「翡翠様!! その剣を抜かせず折ってください……!」
「……よく分からんが分かった……!!」
ドップラー現象を起こしながら、いまだピンボールを続けて森を更地にしている翡翠様が、更に加速した。
もう本当に意味が分からない。
翡翠様、今貴女が激突してへし折った樹木は、この世界で最も硬い材質の樹木で、一本切り出すのに木こりが三日かかるもので、今粉砕した岩は錬金術の触媒や、城や砦の城壁にも使われるやつです。
「さて、平八殿」
「ああ、そろそろだな」
はい、そこの人達もさも普通の事の様に、狼女を拘束する縄の準備をしない。
え? もしかして私がおかしいの?
紫翠様、紫翠様は分かりますよね私の気持ち。
あれ? どうして悩んでるか分からない?
嘘やろ……。
「ははは、どうした? 動きが鈍くなってきたぞ? まさか、もう疲れたのか?」
「この、蛮族が……!!」
「久蔵さん……」
「アンナ様。……慣れです」
「慣れ……」
シュレン領怖い。
だけど、確かに決着は近い。
さっきより狼女の動きは、明らかに鈍り始めている。
それでも、ピンボール翡翠様を避け続けているから、未来視の宝玉は確実に存在している。
だから問題は、あの腰の剣が本当にあの魔剣かどうかだ。
「義姉上……!!」
まずい! 狼女が剣を抜いた!
「散れ! そして、主の贄となれ!」
「翡翠様……!!」
ああ……、そんな……。
そんな事が、あり得るのか。
「…………?」
「………………はあ?」
魔剣が、あの泣かされ続けた魔剣が、根元からぱっきり折れちゃった。
え? あの人、矢が刺さらないだけじゃなくて、剣も効かないの?
え?
え????
「あー、なんだ? その済まんな」
「この、化け物が……!!」
「誰が化け物だ! 私はお姉ちゃんだぞ!!」
そう言った翡翠様の拳骨で、狼女は沈んだ。
我が推しながら、本当に意味が分からないよ。
お姉ちゃんに平八以外の幼馴染み
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いる(♂)
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いる(♀)
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要らないぞ