負けヒロインの姉に転生した私 ~どけ! 私はお姉ちゃんだぞ!!~   作:スーパーマンのみりん干し

14 / 28
お姉ちゃんの薙刀の刀身は、某アンギラスの槍みたいに野性味溢れる牙に、シュレンの刀匠集団が趣味全開で希少金属やら、秘伝の業を詰め込んで鍛えた代物です。

今回、お姉ちゃんと平八の幼馴染みがいきなり現れます。


王都ロムレシア

「でっっけー!!」

「あれがシュレン将軍か。父ちゃんよりでっけえな!」

「よく見ておけ息子よ。あの方が、ロムレシア王国の双璧の一人、翡翠・シュレン将軍だ」

「ギルベルト騎士団長とどっちが強いの?」

「う──ーん、懐に入れば双剣のギルベルト団長で、入れなかったらシュレン将軍かなあ……?」

 

 そこの親子、聴こえているぞ? 

 まったく、お姉ちゃんである私が、ただの騎士団長のギルベルトに負ける訳が無いだろう。

 三百四十戦二百二十勝百敗二十引き分けだ。私の勝ち越しだぞ。……まあ、懐に入られたら苦戦するのは間違ってない。

 しかし、相も変わらず王都の賑わいは騒がしいな。

 もう少し、なんだ? 品よく騒げないのか? 

 

「姉姫様」

「分かっている五郎兵衛。笑顔だろう?」

「左様です。シュレンの双姫の笑顔は、万民にとっての安寧に繋がります」

 

 まったく、昔から五郎兵衛は変わらない。普段は放任主義に近い癖に、要所要所で口を挟んでくる。

 

(じい)よ、お前は七本鞘の筆頭とは言え、もう七十近いのだ。あまり無理はするな」

「なんのなんの、爺は姫様方の御子を腕に抱くまでは現役ですじゃ」

 

 私の子か。紫翠の子は可愛いと決まっているが、私の子はどうだろうか。

 望みとしては、私に似てくれるな。私の様にはなるな。私はお姉ちゃんだが、血に塗れている。

 自分と大切な者は、己の力で守れる様にはなってもらいたいが、私の様な血塗れにはなってほしくない。

 いや、それより私は、私より弱い男の子を産む気はないぞ。

 だから、爺よ。お前は死ぬまで現役だ。

 最近、勝志郎に湿布を腰に貼らせたり、菊千代にマッサージをさせたりしているが、お姉ちゃんは知ってるからな。あの二人に口止めして、隠しても無駄だからな? 

 長生きしろよ。

 

「(^-^)」

「姉姫様、某の顔に何か付いてますかな?」

「いや、何でもない」

 

 本当に長生きしろよ、爺。

 しかし、本当に王都の大通りは長いな。この長い大通りが、最大の商業施設兼、最後の迎撃装置なのだろうが、長過ぎやしないか? 

 流石のお姉ちゃんも、微笑み続けるのは結構疲れる。

 

「見て、あの方がシュレンの美姫よ」

「綺麗……」

「見てよ、あの髪。本当に絹糸みたい」

 

 馬車から手を振る紫翠が褒められて、私はとても嬉しい。(●´ω`●)

 

「(●´ω`●)」

「おい、バカ」

「誰がバカだ。私はお姉ちゃんだ」

「てめえの謎理論はどうでもいい。……あの中に間者が居ねえとは限らねえんだ。用心しとけ」

 

 平八は心配性だな。しかし、平八の言葉も確かだ。

 あの後、しぶとく生きていた傭兵を問い詰めると、あの狼女は私達の動向をピタリと当てていた。

 あまり考えたくはないが、内通者が居る事は確実だろう。だがその場合、あの襲撃の後の変更したルートすら、予測していたという話が問題となる。

 未来視の宝玉、ではない。間違いなく、あの顔面包帯が黒幕だ。

 あの時、薙刀を持っていかなかった事が悔やまれる。あいつは必ず未来の禍根となる。

 

「……あー、そう言えばお前最近、〝あいつ〟に文とか出したか?」

「〝あいつ〟?」

「ああ、だからか……」

 

 ん? おい、平八。なんで、後ろに行くんだ? 

 あれ? 五郎兵衛もいつの間にか後ろに居る。

 官兵衛、官兵衛は私の近くに来るよな? あれ? なんで、首を横に振るの? 

 七郎次は、とっくに紫翠達の馬車の近くに居るし、久蔵は喋らない。

 菊千代と勝志郎は、お姉ちゃんを一人で先頭に行かせたりしないもんな? な? 

 

そうだよな? 

 

「……おい、勝の字」

「言うな菊千代。拙者も未熟だが判る」

 

 え、やだ……。菊千代と勝志郎まで、お姉ちゃんから離れるの? 

 なんでぇ? なんでなのぉ? 

 お姉ちゃん寂しい……。

 

「( ;∀;)」

「あら、あの仮面の騎士様は……」

「んあ?」

 

 町娘の言葉に前を向くと、なんか城門の前に仮面を着けた騎士が、十字槍を手に馬に跨がっている。

 髪色が黒という事は、間違いなくシュレン領か、その血を引く者だろう。

 遠目で見ても良い馬に乗り、私と似た様な感じで髪を後ろで束ねている。

 しかし、何故私を見る? 

 私のファンか? 

 この行列の前に陣取るとは過激だな。

 

「……あのバカが……」

 

 どうした平八、そんなに頭を抱えて。

 あいつはただの過激なファンだぞ? 

 ほら見てみろ。私の姿を見たら、辛抱堪らず駆け出してきたぞ。

 ん、駆け出してきたぞ? 

 あれ? 減速する気配が無い。

 

「翡翠ぃぃぃぃっ……!!」

「ん? んん? あ……」

「今気付いたのか……」

 

 平八の呆れ返った声が聞こえるが、今お前に構っている暇は無い。

 うわ、すっごい怒ってる。すっごい怒ってるぞ! 

 

「翡翠っ! あんたねえ!」

「待て! 話せば分かる」

「分かるかあっ!!」

 

 待って! 待ってよう! 

 うわ、こいつちょっと見ない間に凄い強くなってる。

 私の薙刀を逸らしたぞ! 

 

「はいはい、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。シュレン名物の馬上演武だよ。紫翠・シュレンの入学を祝っての特別講演だ。見なきゃ損だぞー」

「おお、凄いな。これが噂に聞くシュレンの馬上演武か」

「あれ? あの仮面の騎士ってもしかして……」

 

 平八ぃ!! 呼び込みをするなら、もう少しやる気を出せ! 

 ……ああもう! 妙な小技ばっかり使いよってからに。

 

「いい加減にしろ〝氷雨〟!」

「あんたがいい加減にしなさい! 翡翠!」

 

 私の幼馴染みの一人である、氷雨。元々、シュレン領の商家の娘だったのだが、何を思ったのか、ある日突然実家を出奔した。

 報せを聞いた時は、流石の私も焦った。あの時は、連邦が怪しい動きを見せ始め、異民族が彼方此方で騒ぎを起こしていた頃だったから、すわ拉致誘拐かと暴れていた異民族を片っ端から叩いて、見つけた時には王国の騎士団に見習いとして入団していた。

 昔から、異様な行動力を見せる事はあったが、あの時は本当に開いた口が塞がらなかった。

 しかし、槍の腕前に関しては、父上も認める程だったが、まさか私に肉薄してくるまでになっていたか……。

 お姉ちゃん嬉し……

 

「やっぱり、氷雨隊長だ!」

「あのシュレン将軍と張り合えるとか、やっぱり氷雨隊長は強いな」

 

 あ、イラッときた。

 あの泣き虫氷雨が私と張り合える? 

 ふふふ、久々に頭にきたぞぅ? 

 

「…………」

「翡翠、もしかして鈍った?」

「……氷雨、ちょーっとだけ本気を見せてやろう」

 

 薙刀を左手から右手に、柄は少しだけ長く持つ。

 石突きまでは持たない。ここを持つ時は、本気で確実に相手を唐竹に割る時だけだ。

 

「さて、氷雨。演武は長く続けるものではない。観客が冷めるからな」

 

 我が愛馬〝駿天〟よ、少し踏ん張れ。今からほんのちょっぴりだけ、本気で薙刀を振り下ろすからな。

 ははは、首を振りながら嘶いて、そんなに嬉しいか。

 

「……翡翠、駿天すっっごい嫌がってない?」

「はあ? 私と駿天の仲を疑うのか?」

 

 その気障ったらしい仮面、かち割ってやるからな。

 受けるか、避けるか。はっきりしろよ。

 

「おい、平八よぅ。あれ、不味くね?」

「……菊千代、今からあのバカ羽交い締めにしてこい」

「無理言うなって……。あの状態の姉姫さんは、片手で戦車を馬ごと引き摺り回すじゃねえか」

 

 昔から、あのバカの琴線はよく解らん。だが、一つだけはっきり解る事がある。

 あのバカは、自分が最強だと信じて疑っていない。

 いや、あの日にそう願われたから、信じて疑っていないだけだ。

 あの日、黒曜様が亡くなられたあの日、あの日だけあいつは泣いた。

 誰にも知られず見られず、俺らの溜まり場で泣いた。

 あの日から、あいつは涙を流さず、元々馬鹿げた剛力を更に鍛え上げ続け、五郎兵衛の叔父貴を筆頭にした俺ら七本鞘を集め、大殿が病に倒れた日に正式な初陣を飾った。

 あの涙を流した日から、あいつは自分が最強だと信じて疑わず、常に余裕を崩さない。

 ……ああ、なるほど。氷雨のアホめ、調子に乗ったな。

 

「さあ、仕舞いだ」

 

 無造作、技もへったくれも無い振り下ろし。だが、あいつの馬鹿力でそれをやると、絶対の一撃になる。それに加えて、あいつの大薙刀は刀身はあいつが殺した魔猪の牙、柄もそれの骨や腱を使い、シュレンの職人衆がその業と趣味を詰め込んだ代物。世界でも、あれを振り回せるのは翡翠か、ユリアナ様だけ。

 そんな受けるも防ぐも不可能、避けるしかない一振り。

 加減をする気配はあるから、最悪は骨折か馬が潰れるだけで済むだろう。

 そう思って、翡翠をふん縛る特注の鎖を羽織の袖から出した時、まさかの乱入者が飛び込んできた。

 空気、いや世界を叩く様な激音を響かせ、石畳を踏み割りながら、翡翠の薙刀を双剣で挟み込む様にして受け止めた男。

 

「ギルベルトか」

「……シュレン将軍よ、演武は終演だ」

「だ、団長……」

「まったく、手の掛かる部下だ。シュレン将軍」

「なんだ?」

「王がお呼びだ。同行を願おう。信頼する部下を二人同行させてな」

 

 ロムレシア王国、もう一人の最強が少し疲れた表情でそう言った。王がお呼びとは、何か動きがあったのか? 

 まあ、俺には関係無い。同行するなら五郎兵衛叔父貴か、官兵衛の旦那で決まりだ。俺の仕事は、妹姫様とラインハルト様、あとアンナ様を然るべき場所に送り届けて、沙汰があるまで護衛するだけ。 

 暇が出来たら、勝志郎と菊千代を連れて王都観光でも……

 

 

 

 

 

 ……おい、バカ。なんで俺を見てんだ?




お姉ちゃんが泣いていたのは、紫翠も五郎兵衛も父上も知らない。
平八だけが、側で煙管を吹かしていました。

お姉ちゃんに平八以外の幼馴染み

  • いる(♂)
  • いる(♀)
  • 要らないぞ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。