負けヒロインの姉に転生した私 ~どけ! 私はお姉ちゃんだぞ!!~ 作:スーパーマンのみりん干し
私は夜会という、貴族の催しが嫌いだ。
正確に言うと、王国式の夜会が嫌いなのであって、シュレン式の夜会は嫌いではない。好きかと言われると、少々微妙なところはあるがな。
まず、王国式とシュレン式の違いは立食式か着座式か、大きく分けるとこうなる。
王国式夜会の場合は、きらびやかなドレスを着飾り、派手な化粧や装飾で武装し、豪勢な料理や酒を横目に、笑顔の裏で言葉のナイフと菓子の応酬をひたすらに繰り返す。
対するシュレン式夜会は、普段より良い生地や仕立ての着物と、季節とその場を表す装飾を備え、決められた席に座り、膳に盛られた季節の料理と酒を楽しみつつ、集まった者達と近況を報告し合う。
簡単に分けると、両者の差が分かる。
王国は他者を集めて、シュレンは家人や親戚を集めて行う。
そして、王国式は度々開催されるが、シュレン式は祝いの席としての意味合いが強く、季節や祭事の時くらいにしか開催されない。
その辺は、王国とシュレン領の文化の差だな。
王国は縦、シュレン領は横の繋がりが強い。それに、異民族や連邦と最前線で争う辺境三領では、どちらが上か等と競っている暇は無い。
それと、私が王国式夜会を嫌うのは、単純に服装にある。
なんかこう、全体的に露出が多いのだ。シュレン女が肌を見せるのは、家族か良人だけで、誰とも知らぬ輩に見せるのは恥でしかない。
今はわりとそうでもなくなっているが、母上からそう教わってきた私は、やはり肌を晒す事には抵抗がある。
……森で胸元を晒したのは、本当に恥ずかしかった。あの場に居たのが、五郎兵衛達だったからまだましだったが、あの狼女はマジで許さん。
それに加えて、服装関連で私が苦手なものがもう一つある。
それが、
「……菊千代様、もっと力入れてください!」
「入れてんだよ!」
「翡翠様も、もっと力抜いてください」
「抜いて、いる」
この腹を締め付けるコルセットだ。
このコルセットは、所謂くびれを作るための矯正具だが、腹を無理矢理締め上げてくびれを作るという、人体に対する多大な負荷を掛ける。
こんなもん無くとも、私はお姉ちゃんだから立派なくびれがあるのに、小夏がどうしてもと聞かんから、仕方なく着けようとしているのだが……。
「菊千代様っ……!」
「引っ張ってんだよ!」
小夏が用意したコルセットは、一向にその機能を果たす気配が無い。
いや、うん。なんか、ごめんな?
「ああもう! 翡翠様はその筋肉をお脱ぎください!」
「脱げるか!」
「ぬあああ! 瑞穂さんよぉ、これ以上は無理だぁ!」
うん、菊千代の言う通りだな。なんか、分かるもん。
コルセットが、私の腹筋と背筋に負けていく音が聞こえてくる。
あ
「ダメだ瑞穂さん、紐が切れちまった」
「……小夏様を呼んでください。そろそろ仕上げが終わってる頃ですので」
「おう」
「……はあ……」
「ため息を吐きたいのはこちらだ」
とりあえず、夜会に出られない身分の瑞穂と菊千代に、コルセットを締めさせていたが、やはり無理だった。
瑞穂だけに頼むつもりだったが、やはり瑞穂では力が足りないから、手すきの菊千代を呼んで、二人に頼むしかなかった。
というか私、下着姿のままなんだが、小夏は何時になったらドレスの仕上げを終えるんだ?
「翡翠様も、お体を鍛えるのは良いのですが、少々いき過ぎていませんか?」
「うぅむ、私も最近少し鍛え過ぎたかなって……」
「はぁ……、このままでは婿入りの話も無くなります」
「私より弱い男はお断りだ」
「では、ギルベルト様以外居りませぬが?」
「ギルベルトは相手が居るのだろう? というか、私はギルベルトより強い」
「私は存じ上げませんが、そうなのですか?」
「確か、そんな話を聞いた覚えがある」
まあ、ギルベルトも良い男で金持ちだし、家柄も王家に次ぐ格だと言っても過言じゃない。
しかし、ギルベルトのガッセナール家には領地があり、奴は当主だ。許嫁の一人二人居るだろう。
シュレン家に婿入りなど出来んし、私もシュレン領を守る為に、嫁入りなどもっての他だ。
「はぁ……、姉姫様がこのまま一人で過ごされるかと思うと、私は心配です」
「私の身は家族、領地と領民の為にある。心配は無用だ」
戦の心配が無くなれば、適当な男を捕まえて、余生を過ごすさ。
というか、小夏は本当に遅いな。もうあまり時間が無いぞ。まさか、菊千代が急かしてキレたか?
おや、何か足音が聞こえてくるな。この足音は
「お前か、パー子」
「翡翠、貴女ね。下着姿で何やってますの?」
「小夏待ちだ」
派手という概念が、そのまま形になった様なドレスを着たパー子。こいつ、自分も金髪ドリルで派手なのに、こんなの着たらある意味テロだぞ。
ほら、お前背中の布はどうした? いや、本当に背中の布を何処へやった?
前もほぼ腹丸出しで、乳は横から丸見えじゃないか。
は、破廉恥な……!
「翡翠、私も自分の意思で、この衣装を選んだ訳ではありませんのよ?」
「いや、でもパー子だし……」
「ちょっと、それどういう意味ですの?」
「うっさい、パー子。それより、小夏はまだなのか」
「アタシならここだ」
声にパー子の背後見てみれば、菊千代の肩に乗った小夏が、菊千代にハンガーに掛けたドレスを持たせて、やけにニヤニヤしていた。
「やっぱり、コルセットは無理だったか」
「分かってやらせたのか」
「絞め上がって、内臓でもちょっと出りゃよかったんだ」
「おま……」
「ほら、さっさと着替えろ。コルセット無しでも、体のラインがきれいに見える様に細工しといた。靴はユリアナ様からだ」
うわ、ハイヒール。これ、10㎝はあるな。
これ履くのか……。余裕だな。
「菊千代は勝志郎達と合流し、会場の警備に当たれ」
「あいよ。んじゃ、姉姫さん御武運を」
「ふん、任せろ。私はお姉ちゃんだから、夜会なんぞ草刈り場だ」
「刈ったらマズイんですのよ? ……踏むくらいにしなさいな。麦の様に」
それもマズイと思うが、まあいいか。
よーし、お姉ちゃん目一杯おめかしして、暴れちゃうぞ。
お姉ちゃんに平八以外の幼馴染み
-
いる(♂)
-
いる(♀)
-
要らないぞ