負けヒロインの姉に転生した私 ~どけ! 私はお姉ちゃんだぞ!!~ 作:スーパーマンのみりん干し
堂々と道行く姿を、人々は皆見上げた。
怪物とも見紛うばかりの黒毛の巨馬、そしてそれに跨がる天を突くばかりの勇壮たる鎧武者。
人々は口々に謳う、シュレンの首狩り姫だ、と。
そして、その鎧武者に護られる様にして、同じ巨馬に横乗りする小さな姫の姿に、人々は見惚れる。
シュレンの美姫だと。そして、とうとうその日が来たのだと悟った。
お馬さんパッカパッカ、私は今とても機嫌が良く、紫翠を見る無粋な視線も気にならない。
何故なら、最近はあまり甘えてくれなくなってしまった紫翠が、久しぶりに甘えてくれたからだ。
もうお姉ちゃんシャキーン(`・ω・´)だよ……!
「(`・ω・´)」
「ふふ、姉上ったら変な顔」
「(´・ω・`)」
妹に変な顔って言われたけど、妹が可笑しそうなのでオッケーです。
「ねえ、姉上……」
「どうした? 紫翠」
「王都は恐ろしい所だと聞きます。私は……」
「大丈夫だ。その為に私が来た」
紫翠に良からぬ企みを働けば、誰が動くのか。それを頭の中身が軽い王都の連中に分からせる。その為に、私は同行している。
決して、王族全員の首をスパーンする為じゃないからな?
違うからな?
「シュレンの翡翠将軍を見たら、皆様驚くでしょうね」
「ふん、私を見た程度で腰を抜かす様な腑抜けに、お前をやる訳にはいかんな」
「姉上ったら手厳しい」
微笑む紫翠は本当に可愛い。流石は私の妹だ。
この笑顔を毎日見られなくなると思うと、やっぱり王族スパーンした方が良いのではなかろうか。
今の現状、この国は帝国からの侵攻を受けている。正確に言うなら受けていた。
侵攻自体は一昨年に結んだ停戦条約により止まり、今は諸々の戦後処理と、国家間の貿易に関する条約の締結に動いている。
それに、前回は父と二人、話題に出しはしなかったが、紫翠には想い人が居る。
隣国である帝国の第一皇子ラインハルト・ガーデンベルグ。停戦条約締結時の夜会にて、紫翠と出会い私に気付かれず、文通を始めていたと知った時は、中々に感心したものだ。
本音を言うなら、紫翠を嫁に出したくないが、敢えて、一億歩、いや二劾歩譲って認めるなら、紫翠の夫にはラインハルトを据えたい。
更なる本音を言うなら、婿入りが望ましいが、ラインハルトは帝国の皇族。辺境の大領主とは言え、一貴族の家に婿入りは不可能に近い。
ラインハルトは金も立場も有り、それを維持し更なる発展も当然、そして何よりも重要な紫翠に対する愛は、お姉ちゃんも認めるものだ。
紫翠に何不自由無い暮らしをさせられ、紫翠を愛し日々を過ごせる。そして、私に勝てないまでも一矢報いる事が出来る実力。
今から帝国へ向けて駆けてやろうか。
「……紫翠」
「姉上、どうしました?」
「もし……、今から帝国に向かうと言ったら」
「姉上、お気遣いは嬉しいのですが、私も貴族の娘、覚悟は済ませております」
「済まない」
本当に済まない。だが、お姉ちゃんは知ってるんだぞ。この話が来た時、部屋で泣いていたのを。ラインハルトの名を呼びながら、泣いていたのをお姉ちゃんは知ってるんだ。
父だって、嫁に出すならラインハルトの下が安心だと言っていたのに、最悪の横槍が入ってしまった。
まだ、ラインハルトと婚約を結んでいれば抵抗出来た。だが、婚約を結ぶ直前のタイミングでこれだ。
宰相はラインハルトとの事を知っている。帝国と話が順調に進んだのも、彼女の助けがあったからでもある。
だから、王国の大領主の娘を嫁がせる一役を担ったという、帝国に恩を売る事も出来、再びの開戦を未然に防ぐ楔ともなりうる二人の婚約を、邪魔する理由は宰相には無い。
なら、誰だ?
誰が私の大事な大事な妹に涙を流させ、義弟となる筈だった男を落胆させた?
何度でも言うが、お姉ちゃんは妹と弟を守護るのが務めだ。
候補に上がるのは、この国の王だが、帝国との停戦を一番に推し進めていたのは奴だ。
平和主義の腰抜けと血の気の多い莫迦共は、内心で舐めてかかっているが、伊達に帝国や連邦、そして異民族達からの侵攻に対し、腑抜けた対応をした事は一度も無い。
戦争は最も非効率な外交手段と判断しているだけで、戦るなら戦る王だ。
「姉姫様、妹姫様」
「どうした、瑞穂」
「日も暮れて参りました。今日の所は宿に入るべきかと」
「そうだな。瑞穂、宿の手配を」
「既に滞りなく」
「いつもありがとう。瑞穂」
幼少より仕えてくれている侍女の瑞穂が、手勢を引き連れて視界に入る町に馬を走らせていった。
先に宿に入り、安全を確認するのだろう。ゆっくりと馬を歩かせている私達が着く頃には、食事や風呂の支度も済ませている事だろう。
「紫翠、瑞穂はお前に付ける」
「姉上、宜しいのですか?」
「構わない。寧ろ、王都の訳の分からん奴がお前に付くなど、私は心配で心配で暴れ出したくなる」
「もう、姉上ったら」
瑞穂は侍女だが腕も立つ。それに紫翠と仲が良い。
帝国への嫁入りの際にも、瑞穂は紫翠に付かせるつもりだった。本当は私が付けば安全なのだが、領土の護りもあり、確実に来るラインハルトの相手もしてやらねばならない。
「姉上」
「何だ?」
「ラインハルト様は……」
「安心しろ。お姉ちゃんがちゃんと説明するし、あいつも理解しているさ」
納得はしてないだろうがな。
「それに、お前はあくまでも許嫁候補として、王都に向かうのだ。無下な扱いは受けない」
そんな事をすれば、何が起きるのか。よく理解しているだろうし、理解させるからな。
「姉上、今から着く町は確か、私達二人が初めて二人だけで遊んだ町では?」
「覚えていたか」
「忘れる筈もありませんわ。だって、あの日の姉上も強かったもの」
「ははは、照れるな」
簡潔に説明すると、紫翠と私を拐おうとした賊を、根城ごと私が潰しただけだ。
ははは、紫翠が初めてお小遣いで買った飴を、駄目にした報いだ。殺してはいない筈だから、有り難く思ってほしい。
「しかし、人とは殴ると蹴鞠の様に飛ぶのですね」
「ははは、人は軽いからな」
何やら後ろで、何か聞こえるが、今は機嫌が良いから見逃してやる。
おい、誰だ? 今、私だから出来たとか言った奴は。鍛え方が足りんだけだぞ。
人間、鍛えれば鎧ごと殴り飛ばせる。生身の人間なんぞ、紙風船だ。
「ふむ、そうだな。紫翠、宿に入る前に飴でも買っていくか? お姉ちゃんが買ってあげよう」
「あら、姉上。買い食いだなんてはしたない」
「ははは、お前も久しぶりにどうだ? あ、瑞穂には内緒だぞ」
あの町は飴も名物だが、餅菓子もそうなのだ。着いてきた部下達に労いの意も込めて、みたらし団子でも振る舞おう。
「なら、今日は少し蒸すので、何か涼やかなものか、甘いものを」
「であるなら、水まんじゅうか。甘いものなら、あの町は餅菓子が名物だ。みたらし団子でもどうだ?」
「まあ、みたらし団子は久しく口にしてませんわ」
「よし、ならみたらし団子だ」
よーし、お姉ちゃん。お店に並んでいる分のみたらし団子買い占めちゃうぞ。
金なら、私は妹と弟預金として、ちょっとした屋敷が買えるくらいには貯め込んでるからな。
この道中、紫翠にはうんと贅沢させてやる。
確か、この次の町は絹織物が有名だったから、新しく着物を仕立てても良いだろう。連中の示した期日には、まだまだ時間があるのだ。上等な着物の一つや二つ、仕立てる時間は十分にある。
恐らく、瑞穂が止めるだろうが、お姉ちゃん強権で決定事項だからな。
ふむ、そう考えると良い旅路にはなりそうだ。
「……」
「姉上?」
「紫翠、簪の新しいのはどうだ?」
「もう、この前も上等な鼈甲の物をくださったではありませんか」
「私に簪は似合わんからな。その分をお前にな」
「そんな事無いと思いますのに……」
紫翠の様子から、気付いた気配は無さそうだ。
はあ、良い旅路にはなると思ったのにな。
……残念だよ。
紫翠・シュレン
身長¦約150cm台
体重¦40kg台
髪色¦黒
容姿¦翡翠に似た和風美少女、目は少し鋭い
原作では色々あって不幸な目にしか遭わない不遇キャラかつ、ヒロインより人気のキャラ。
ユーザーも、どうにか出来ないかと四苦八苦して、漸く生存エンドを発見したと思ったら、記憶喪失&行方不明からの孤独死エンド。しかも、これが一番マシなエンディングだというから、ユーザー達は乱れに乱れた。
この世界では、お姉ちゃんが乱舞して現状のデッドエンドフラグは消滅している。
お姉ちゃんに平八以外の幼馴染み
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いる(♂)
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いる(♀)
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要らないぞ