負けヒロインの姉に転生した私 ~どけ! 私はお姉ちゃんだぞ!!~ 作:スーパーマンのみりん干し
さて、突然だが私はお姉ちゃんだ。
お姉ちゃんであるが故に無敵最強だ。
剣も槍も刺さらないし、呪いや毒だって効かないぞ。
だけど、そんなお姉ちゃんでも苦手な事がある。
それは、明確に殴り倒せない敵との戦いだ。
「……シュレン公」
「なんだ? ユリウス」
こう、味方の筈なのに突っ掛かってくる奴は、正直殴り倒したくなるのだが、お姉ちゃんは理性的でかしこいお姉ちゃんなので、味方を殴り倒すなんて蛮族欲張りセットな行動はしない。
だが、この王国騎士団第二団長のユリウスは、何故か私を見る度に嫌味を言ってくるから、ちょっと殴り倒したくなる。
しかし、なんだ?
こいつ、いつもは美形の狐みたいな顔の眉間に皺を寄せて、私に嫌味を言うのに今日はやけに大人しいじゃないか。
なんか、気味悪いな。
「……今日はどうした?」
「それはどういう意味だ? あァ?」
「普段、貴公は夜会の類いは避けていた筈だ。今日はどういう風の吹き回しなのだ?」
「我が最愛の妹と義弟の婚約発表の場に、お姉ちゃんである私が居ない筈がないだろう。そんな事も判らないのか?」
やっぱりこいつ、私の事を馬鹿にしてるだろ。
私はお姉ちゃんだから、妹の祝事を祝うし、今回の婚約も私が認めた相手だから当然の事だ。
嫌味の言い過ぎで、頭が狂ったか?
「シュレン公」
「なんだ? 私は他に挨拶に回らねばならない。手短に話せ」
「……貴公はもう少し、淑やかに出来んのか? 先程から大股で歩く姿は淑女とは言い難いぞ」
「……私が淑女に見えていたのか。そうか、それは驚いた」
(;゚д゚)
びっくりだよ。私の事を散々、蛮族姫だの鬼将軍だの呼んでた癖に、私が淑女に見えていたのか。
(;゚д゚)
「(;゚д゚)」
「シュレン公、淑女ならその顔は辞めておけ」
「ユリウス。私を蛮族姫だの言っていた奴が、一体どうした?」
「今、この場は目出度い夜会だ。そこに蛮族姫が居るか?」
「お前、本当にどうした? 何か、変なものでも拾い食いでもしたか?」
いや、本当にどうした?
なんか、こっちの事チラチラ見てくるし、やけにソワソワしている。
お前、本当にどうした?
「シュレン公、その、なんだ?」
「いや、お前がなんだ?」
「いや、……随分、露出の激しい姿だと、な」
「ここまで話をしながら、今更それか? お前もその歳で女を知らん訳でもあるまい」
「……普段の貴公は鎧姿か軍装だけだったのでな。少々、面食らったのだ」
「む? そうか。しかし、妻の居る身で他の女にあまり目を向けるのは感心せん」
「ならば、未婚の貴族子女が露出の激しい姿をするのも、あまり感心は出来んぞ」
「これが王都のトレンドなのだろう?」
小夏が言っていたんだ。間違いない。
この恥女紛いの姿が、王都のトレンドだ。
「いや、シュレン公。流行りは……」
「よーう! ユリウス、シュレン将軍! 北部戦線以来だな!」
四角い顔に四角い体、筋肉を詰め込みに詰め込み礼服を張り詰めさせた男、ドルセンが変わらぬ様子で現れた。
相変わらず、この男は色々と遠慮が無い様で、取り皿に料理を山と積み上げていた。
お前、それ味が混ざらないか?
むしろ混ぜて楽しんでる?
それは夜会のマナーとしてどうなのだ?
「がははは、食い物を余しては色々と申し訳がないからな。胃が縮こまっとる奴らに代わり、俺が片付けてやるのよ」
「ドルセン、それはいいがもう少し、なんというか慎みを持て」
「そうは言うがな、ユリウス。俺はどうにも、このビュッフェというのが勿体ない気がしてな。民達が作った食糧、無駄にはしたくないのだ」
ドルセンは中級貴族だが三男だ。貴族の家督は長男にのみ継承される。
しかし、長男は体が弱く、次男は家督を継ぐには器が足りぬ。ドルセンはそんな二人を兄に持ち、しかし野心を持ち得なかった。
ドルセンは家族を愛し、領地と領民を愛し、体と器も領主に足る。故にこの男は家内に要らぬ争いを生まぬ為に家を出た。
兄二人からは再三、家に戻って来いと文が届いているらしいが、ドルセンは自身は家督を継ぐ器に足りぬと断っている。
これには、ドルセンの家と親交のあるユリウスも頭を悩ませているらしい。
「ドルセン、何度も言うが……」
「ああ、耳にタコが出来る話はもういいぞ。兄御達なら領地を護れる」
「だがな」
「ユリウス、俺は単純だ。単純故に騙され易い。だから、領主には足りぬのだ」
「それを言うなら、シュレン公はどうなる? 単純を極めた存在だぞ」
なんで、私に飛び火した?
私はお姉ちゃんだから、単純ではないぞ。
ただ、考えに雑音を挟まないだけだ。
「シュレン将軍の前に下手な考えは無意味だ。諸とも轢殺されて終わりだ」
「まあ、それはそうなのだが……」
「本人を目の前に、随分な言い様だな?」
まったく、下手な考えは休むに似たりという言葉を知らんのか。
敵の策を下手に考えるより、さっさと策ごと潰してしまえばよかろうに。
「シュレン公、そういう所だ」
「ああ? 私はお姉ちゃんだから下手な策は効かんぞ」
「シュレン将軍、俺が言うのもあれだが、そういう所だ」
二人してなんだ?
私はお姉ちゃんなんだぞ。お姉ちゃんは無敵だから、そんな言葉効かないからな。
「(´・ω・`)」
「しっかり効いている様だが?」
「(´・ω・`)<うるさいユリウス」
「しかし事実だろう」
「しかし、今の時分に婚約発表とはやはり帝国か?」
「そうだな。いずれ来る連邦との戦い、帝国と協商連合との連携は不可欠だ」
二人の顔が一気に騎士の顔になった。
戦争は終わったとは言え、それは一時的なものだ。
連邦が抱える問題が解決した訳でも、連邦が滅んだ訳でもない。
先送りにされた問題、これはそれに対する対策だ。
紫翠はラインハルトに嫁ぎ帝国と王国の橋渡しとなり、国王は次の代をはっきりさせる事で、国内の不和を炙り出し来る日に備えて国を安定させる。
如何に連邦が愚かと言えど、帝国という大陸最強国家が後ろにつき、情勢が安定した王国に簡単に手を出す事は無いだろう。
もしあるとすれば尻に火がついたか、後ろ楯にせっつかれたかだ。
「何も無ければ良い。我ら騎士の本分は戦ではなく、戦を起こさせない事だ。次を起こさせぬ為に精進せねばな」
「左様、戦なぞするものではない」
「ああ、その通りだ」
好き好んで戦する馬鹿は居ない。
居るとすれば、それは余程の愚か者だ。
「しかし目出度い席に変わりはない。何事も起きぬ事を願おう」
ユリウスがグラスを傾け、そう言った。
紫翠と変態の目出度い席だ。何か起きれば、私が一瞬で鎮圧してやる。
この会場なら端から端まで一秒と掛からない。
しかし幸い、何か妙な動きをしている者は見当たらない。原作ヒロイン達が忙しなく挨拶回りをして、他の貴族達もこれからの繋がりの為に話を続けている。
一時的な平和だが、為政者の手腕はこの時期にこそ試される。
各領地、民の豊かさは国の強さに繋がる。
税の見直し、新たな農地の開墾、産業の発展、全て民の為にあるものだ。
「シュレン公、そろそろ行った方がいい」
「ああ、そうだな」
そろそろ、紫翠達の出番が来る。
何も無いだろうが、それでも私が近くに居るだけで邪な考えを持つ者は萎縮する。
だって、私はお姉ちゃんだからな。
そんな一歩を踏み出した時だった。
「ん?」
なにか妙な臭いが鼻をついた。
一瞬、ドルセンの持つ料理の山からかと思ったが違う。
もっとこう、甘ったるい鼻だけでなく喉にも残る臭いだ。私はお姉ちゃんだから鼻も良い。
故にこの人と料理の匂いの中にある違和感の塊に気付ける。
だが、何処からだ?
臭い自体はするが、色々と混ざって判らん。
「……ユリウス、ドルセン」
「……警戒が必要か?」
「まだ判らん。だが、妙に甘ったるい臭いがした」
「甘ったるい臭い? ふーむ、俺には判らんが、シュレン将軍の鼻なら判るか」
悪臭という程ではない。言ってしまえば、花の蜜を強引に煮詰め濃くした様な臭いだ。
この手の香水や化粧も無くはない。
「臭い程度なら警戒には当たらん。だが、貴公の勘はよく当たる。ドルセン」
「応、要人の警備に入る。シュレン将軍、後は任せた」
「ああ」
二人が動き出した事を確認して、私も紫翠達の元へ向かう。
官兵衛や五郎兵衛、七郎次が居るから、下手な真似は出来ないだろうが、騒動を起こしてその混乱に乗じて事を起こす可能性がある以上、私という最大戦力が動くのが正解だ。
「……平八が居ればどうにでも出来たのに、あのバカ八め」
この臭いが毒の可能性もある。
急ぎ、紫翠の元へ駆けつけねば!
お姉ちゃんに平八以外の幼馴染み
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いる(♂)
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いる(♀)
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要らないぞ