負けヒロインの姉に転生した私 ~どけ! 私はお姉ちゃんだぞ!!~ 作:スーパーマンのみりん干し
「して、此度の事はどういったものか」
普段は軍義や機密事項を話し合う王城で最も安全な部屋の一つで、王は若干の苛立ちの色が声から滲んでいた。
まあ、それも仕方ない。未遂に終わり、婚約発表は恙無く終わったにしろ、殿下の婚約発表にケチがついた形になってしまったのだ。
ついでに言うと、お姉ちゃんも同じだ。
我が最愛の妹と義弟の婚約発表の日に、まさかこんな真似をしてくる輩が居たとは……。
あの森の気配も矢だけが残っていたというし、もう一回、本気で暴れて私に逆らうとどうなるかを、しっっっっっっっかりと流布すべきだろうか。
「陛下、発言を」
「アンナ、許可する」
「はい、今回の内容ですが恐らくはかなり長く練られた計画かと」
「ほう?」
「今回使用された香水、香水自体に害はありません。問題は香水に混ぜられた魔術物質、これが問題なのです」
アンナが語るには、あの花の蜜を煮詰めた様な臭いがその魔術物質とやららしい。
この物質は一回二回の使用では効果を発揮しないが、長く使っていると次第に感情的になったり、ある事に執着する様になったりと、情緒を不安定にさせる様だ。
「そして、シュレン将軍に頼み射貫いた魔術陣。あれは王国のものでも帝国でも、連邦でもありません」
「それは伺っております。では、一体どこのものと?」
んー、お姉ちゃんはお姉ちゃんだから完璧だが、魔術に関しては本当に分からん。
第一、私は魔術が使えないし、魔術を使う為の魔術具すら使えない。使うと火が出る刀とかカッコいいと思うけど、私が振るとただの刀になる。
だから、魔術陣がどっか違う国のそれとか言われても、それがどうかしたのか程度だ。
紫翠はなんか判るか?
あ、ちょっと判らない?
そっかぁ。
しかしまあ結局、壊せるのだから片っ端から壊してしまえばいいし。
「七郎次様、ミリア・ボーデンツィア嬢は確かに昆崙の名を出したのですよね」
「はっ、拙者の聞き間違えで無ければ確かに昆崙からの渡来品であると」
「アンナよ、そなたは此度の事は昆崙が絡んでいると申すか」
昆崙、昆崙か。確か原作だとテキストだけ出てきた隣の大陸の覇者だった。
名前から中華系の国なんだろうな。
回鍋肉食べたいな。でもこの世界に味噌はあるけど、中華味噌無いんだよな。
あるのはシュレンの米味噌か麦味噌、そしてシュレン家侍女頭の瑞穂の手前味噌。
瑞穂の猪肉の唐辛子味噌炒めは旨いが、あれは回鍋肉じゃないしなぁ……。
そう考えたら麻婆豆腐も食べたい。シュレンの新米と一緒にかきこみたい。
でも、仮に作れても食べるのは私か食い意地の塊の菊千代くらいだろうな。
官兵衛、七郎次と久蔵辺りは文句言わずに食うだろうけど、生粋のシュレン人の五郎兵衛と勝史郎は辛いもの、というか刺激物自体が苦手だ。
平八? 平八は無理矢理食わす。
「これは私の先読による情報を、今の現状に当て嵌めただけの私見に過ぎません。しかし、昆崙からもたらされたという品に、今回の魔術物質が含まれており、そしてシュレン将軍に頼み射貫いた魔術陣。ここまで情報が揃うと、その様に考えてしまうのです」
「アンナ様、お言葉では御座いますが、些か時期尚早では?」
「確かにそうかもしれません。ですが、どうしても嫌な予感が拭えないのです」
「ふぅむ、そなたの言い分も解る。だが、昆崙はいまだにその姿も分からぬ国。下手に事を構える事は出来ん。レイズ宰相よ、何かあるか」
「……畏れながら申し上げます。私としては今はまだ表立っての動きを見せるべきではないかと。しかし、アンナ様のお考えも視野に入れるべきかと。それよりも……、シュレン将軍」
「なにかあったか? 宰相殿」
紫翠の嫁入りの件から文を交わしたり、何かと交流はしていたが、相変わらずヌメッとした印象の女だ。
陰湿陰険、そう言った陰の表現を詰め込んだ外見。長い金髪はくすみ、野暮ったいローブと共に顔を隠していて表情は見えない。
初対面ではよもや怪異かと斬り捨てそうになったが、涙と洟、おおよそ顔面から出る液体全部撒き散らしながら、這いつくばって謝ってきたので止めた。
「情報も何も無い現状、如何に将軍と言えど答えが無いかも知れませんが、将軍は如何お考えで?」
「はっきり言って狙いが分からん」
原作の強制力で紫翠を狙ったとしても、今回の事は無差別が過ぎる。
未遂に終わったが、大方件の薬か何かで操った連中でアンナか殿下、紫翠とラインハルトの誰かを殺すか害せれば良し。
そうでなくても、王族の婚約発表を台無しにしたという負い目を王国に背負わせられる。
だが、これでどうなるのか。
アンナか殿下を害した場合、一番に疑われるのは間違いなく連邦だ。というか、現状の第一容疑者は連邦だ。
そして、紫翠とラインハルトを害した場合、そうなると王国内か協商連合内の不穏分子か、やはり連邦となる。
つまり、あの場で誰を害そうが第一に疑われるのは連邦で、次点で王国自身となる。
喧嘩を売るにしてもあからさま過ぎるし、宣戦布告代わりにしても回りくど過ぎる。
つまり、何がしたいのか理解出来ん。
「そうなのです。相手が何をしたかったのか。それが判らない。アンナ様が言う様にこちらに問題を起こさせたい、という風にも考えられますが、それにしてもやり方が理解出来ない」
「では、他に目的があると?」
「恐らくは、こちらに理解出来ない目的があるのかと」
宰相の言葉にアンナを見ると、何か考えている様だ。
今回の事は全て、この世界の元になったであろう原作にあった事だ。
つまり、原作の内容を現実に起こそうとしている。とも考えられる。
だが、それでどうなる?
仮に世界を原作通りにして、誰が利益を得る。
連邦が原作通り進んでも敵として討たれるか、結局は欠片も利を得られない立場になる。
王国や帝国、協商連合も原作通りより今の方が利益を得られる。
そうなると、誰だ。今回の事で利益を得られる。もしくはこれが利益に繋がるであろう立場の者は。
「ぬ?」
瞬間だった。
( ・`д・´)お姉ちゃんの灰色の脳細胞に黒閃走る。
居たじゃないか。推定連邦ながら、謎しかない奴等が。
そして、それにアンナや紫翠、ラインハルトも気付いた様だ。
「マクレガー陛下」
「どうした? ラインハルト殿下」
「我々は王都に来る途上、襲撃を受けていた。そして、その勢力は連邦所属と見られ、神に我々を捧げるといった旨の発言をしていた」
「……つまり」
「ええ、連邦もしくは連邦内の勢力。恐らくは報告にあった先読の巫女候補の令嬢を襲撃した者達。それが黒幕である可能性が高い」
「シュレン将軍ですら逃がしてしまったという輩か。……レイズ宰相」
「はっ、急ぎ触れを出し対策を練ります」
はてさて、どうなるのか。
この世界はゲームではない。現実だ。原作通りなどという世迷い言は通用しない。
否、通用させてはいけない。
この世界の事はこの世界に生きる者達が決め、その未来に向かい邁進するべきなのだ。
それをねじ曲げるというのなら、我々は徹底的に抵抗するべきだ。
「……まったく、余計な真似をしてくれる者が居たものだ」
「陛下……」
陛下が頭を抱え、テーブルに肘をつく。
これはかなりキテるな。
「マクシミリアンの婚姻が決まり、愛らしい義娘まで出来た。後は隠居決め込んで、孫を愛でる人生設計が台無しではないか……!!」
「陛下ぁっ……!! 素!? 素が出ております!!」
「えぇい! 放せ! 放せ宰相! こうなれば余自ら動くぞ!」
「あ、ちょっ!? ギルベルト団長!」
「陛下、お気を確かに!」
……久々に見たな。陛下の素。
この人、こうなると止まらんのだよなぁ……。
「くそっ! 悠々自適に趣味に生きて、時折孫にお爺ちゃんカッコいいと言われる余の晩年を汚しおって! ……シュレン将軍、ギルベルト!!」
「「はっ!」」
「余が許可する! 徹底的にやれ! 二人で主導し練兵を始めろ! 宰相は学園の守りを見直し、これ以上の狼藉を許すな!」
「あ、マクレガー陛下。その事で少しいいだろうか」
ラインハルトがスンッとした顔で手を上げた。
「例の学園の件だが、紫翠が入学するとなるとその期間、俺は紫翠に会い難くなる。正直、辛抱出来んのでなんとかならないだろうか」
「ラインハルト?」
「まあ! ラインハルト様ったら……」
「すまない、義姉上。だが、俺は三年以上待ったのだ! もうこれ以上はちょっともう限界だ! 紫翠と手を繋いでデートとかしたい……!!」
「ならば、そなたも入学するといい! 宰相、願書ぉ!」
「陛下ぁっ……!?」
「やったああああああああああああっっっ!!」
陛下がキレて、ラインハルトが限界を吐露し、アンナがガッツポーズで立ち上がり、宰相とギルベルトが遠い目をした。
まともなのはお姉ちゃんと紫翠だけか。
「ラインハルト様、では明日にでもデートと参りましょう」
「紫翠!」
「紫翠???!」
え、待って。ちょっといきなり過ぎる。
え、ちょっ待てよ!!
お姉ちゃんまだ覚悟完了してない!
そういえば、ファンタジーと恋愛タグあったなって
お姉ちゃんに平八以外の幼馴染み
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いる(♂)
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いる(♀)
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要らないぞ