負けヒロインの姉に転生した私 ~どけ! 私はお姉ちゃんだぞ!!~   作:スーパーマンのみりん干し

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未確認お姉ちゃん

「はい、という訳で妹姫様の逢い引きです」

「はー、ラインハルト殿下もやるもんだ。まさか、あのバカの目の前で約束取り付けるたぁな」

「ええ、平八。流石は姉姫様の監視を潜り抜けたラインハルト殿下と言うべきでしょう。しかし、問題はそこではありません」

「問題と申されると、何かあるのですか?」

「ガイウス様、あれです」

 

 どうも、ラインハルト殿下の側近のガイウスと申します。

 ラインハルト殿下とは旧知の仲で、転生者という立場で昔から殿下の悪ノリと無茶振りに応えてきました。

 今回は帝都での殿下の引き継ぎで遅れて王都入りし、殿下の回収に来たのですが少々問題が発生した様で、今はシュレン家侍女頭の瑞穂さんと翡翠将軍の側近である七本鞘の平八殿と、王都にあるカフェの窓から様子を窺っているのですが……。

 

「調子乗ってんなあのヤロウ……」

 

 ええ、ものの見事に調子乗ってやがるなあのアホ殿下。

 元よりアホ……。もとい、殿下の紫翠様に対する変態めいた感情は理解していましたが、意中の相手と手繋いでアホ面晒す上司の姿は見たくなかったですね。

 あのヤロウ許さねぇ……。何処ぞの犬臭い忍者と同じ目に会わせてやろうか。

 

「だが、紫翠の奴もお気に入り中のお気に入りの着物引っ張り出してご機嫌じゃねえか。俺、報告に行っていいか?」

「もう既に報告は終わっているでしょう? 妹姫様の魔術で引き摺り出された平八」

「やめろ。紫翠のあの魔術はやられた方は嫌な酔い方するんだよ」

 

 若干顔色の悪い平八殿が、葉が入っていない煙管を咥えながら答えてますが、仕方ないですね。紫翠様の魔術はちょっと規格外で、今回平八殿がやられたのは影渡しと、シュレンでは言われる所謂転移魔術。

 影と影を結んで、対象を移動させるというもの。シンプルですが、その分縛りも多い魔術で影渡しが可能なのは術者が知っている場所と物や人のみ、影から影へ転移可能という帝国の転移魔術より自由度は低いものになっています。

 そして、一番ネックなのが消費する魔力量です。

 帝国も転移魔術が使える魔術師は五人抱えていますが、転移魔術を行使するには転移魔術師一人と距離に合わせた人数が必要になります。

 仮に帝都の端から端までを転移するなら、最低でも転移魔術師一人と魔力補助十人が必要になります。

 はい、勘のいいあなたは気付きましたね。

 今回、紫翠様は一人で転移魔術を行使しました。もうこの時点で、普通なら魔力枯渇で死んでます。

 それに加え、一番魔力を消費する人を転移させています。

 すごく雑に計算するなら、仮に平八殿の体重を60kgとした場合、今回の転移距離から魔力補助の魔術師が五人は必要になります。

 車や飛行機の類いが存在しないこの世界で、あの青タヌキの便利ドア代わりになる転移魔術が普及しないのは、その莫大な魔力を簡単に賄えないという事と、単純に転移魔術を使える魔術師が産まれ難い。この二点に尽きます。

 さて、紫翠様はその転移魔術を一人で行使しました。一回の転移で魔術師数人の魔力が尽きかける転移魔術を、一人で当たり前に使ったのです。

 宮廷魔術師数千人分の魔力を持つという噂通り、出鱈目な魔力量ですよ。

 

「で、俺はその護衛か?」

「いえ、あなたは単純に妹姫様が平八兄と将棋で遊びたいと、久々の我が儘を炸裂させて引き摺り出されただけですが?」

「だけですが? じゃねえ! 護衛はどうす……。ああ、成る程な……」

「ええ、最大最強の護衛が着いていますので、あなたは頃合いを見て、将棋の準備を」

「あの、最大最強の護衛とは?」

「あれだよ、ガイウス殿」

 

 そう言って、瑞穂さんが誇らしげに、平八殿が疲れた顔で指し示した先は、民家の間の路地。そこの壁でした。

 ええ、なんと言いましょうか。人型のヒ○ドランが民家の壁に貼り付いて、二人を見張っていました。

 

「いや、ヒード○ンというより暴走初号機だあれ……」

「ヒードラ○? ボウソウショゴウキ? んだそりゃ?」

「ああ、私の前世での、あー、戯曲というか絵巻物というか、まあ物語に出てくる生物と巨人? みたいなやつです」

「四つん這いで壁に貼り付く生きもんが出る物語か……」

 

 もしくは地獄からの使者と言いましょうか。

 四つん這いで民家の壁に貼り付いて、顔は完全な黒塗りなのに、目だけは白抜きで爛々と光り、口からは白い息が漏れ出てる化物。

 ええ、私が知る限りで最強の将軍の翡翠・シュレン様が、そこに居ました。

 

「でも、あれ……」

「放っとけ。あれの奇行に突っ込んでたら日が暮れる」

「ええ……?」

「あ、移動します。行きますよ」

 

 うわ、殿下と紫翠様の死角でカサカサ動いて、壁から壁へ移動してる……。

 え、なんで誰も気付いてないの? 

 

「……あれで奥方様の特訓から逃げてたんだよ」

「黒曜様だけでしたからね。翡翠様にダメージ与えられたの」

「はい? あの、私も戦場で見た事はありますが、あの方、重弩を額に受けて無傷でしたよね?」

「ああ、破城槌を顔面に受けても無傷だったが、奥方様の木刀だと瘤は出来たし額も割れてた」

「黒曜様には手も足も出ませんでしたからね。翡翠様」

「まあ、結局は屋敷の外で待ち構えてた奥方様に連れ戻された訳だがな」

 

 怪物の親はまた怪物。

 シュレン領と交流を得てから、多少は耳にしていた話でしたが、まさかあの翡翠将軍に傷を負わせる事が可能だったとは。

 

「お? ありゃパフェって食いもんか? はー、はいからな食いもんだな」

「餡蜜みたいな感じですね」

「いやぁ、あの白いの氷菓だろ。この季節に氷菓を出せるとは金があんな」

「うわ、あーんしやがったあのヤロウ」

 

 カフェテリアで紫翠様にパフェのアイスをあーんしやがった。

 あのヤロウ、帝国に戻ったら容赦しねえ。只でさえ、あのシュレンの美姫である紫翠様を射止めたって、帝国軍内でクーデター計画が進んでるってのによぉ! レオニール殿下に説教してもらわねえと。

 というか、あーんを目撃した翡翠将軍がすごい顔になってる。具体的にはファ○ード編の復活清麿みたいな感じになってる。

 服装がはいからさんのそれだから、謎の破壊力が生まれてやがる。

 正直怖いです。

 

「ガイウス様、慣れです」

「ガイウス殿、慣れろ。こう言っちゃなんだが、紫翠がそっち嫁入りしたら、あれが気付いたら居るなんて事はざらに起きるぞ」

「止めてくださいよ。帝都の魔力感知システムは翡翠将軍には無力なんですから、本当に居そうじゃないですか」

 

 帝都の防衛システムの魔力感知センサーは、帝国の登録と申請の無い魔力パターンを検知して、警報を鳴らすというものなんですが、魔力を一切持たない超特異体質の翡翠将軍には完全に無力なんですよ? 

 しかも、言われるまで気付けない気配遮断もおまけでついてきたら、暗殺とか防げねえ。

 いや、殿下ならパン一で帝都を駆け回るくらいやって逃げるか。

 あのヤロウ、爆発する砦から何故かアフロになった以外の被害無しで、手勢引き連れて脱出してくるし、昔の暗殺騒ぎだと暗殺者相手に何故かオイルレスリングして意気投合したりするし、ちょっと意味判らん強運で生き残ってきたから大丈夫か。

 

「ん、次はケーキか」

「ここぞとばかりにシュレン領じゃ中々食えんもん食ってんな」

「というか、紫翠様って結構な健啖家で?」

「ああ、紫翠の奴は一日に三合は食うぞ。あ、あそこで貼り付いてるバカは八合食う」

「姉妹で米だけでも一日大体2kgは食うって事ですか」

 

 これは嫁入り後は結構な事になりそうだ。後で話を詰めて、シュレン米の輸入を増やした方がよさそうな気配がする。

 

「まあ、紫翠の奴も気付いてるだろうし、俺は仕事に戻るぞ」

「ええ、後の妹姫様の世話の準備も抜かりなくお願いします」

「へいへい」

「あ、じゃあ私も……」

 

 と、そう言って席を立とうとした時でした。

 

「む、平八殿に瑞穂殿。それにガイウス殿までどうしたのだ? それにあそこの壁に貼り付いているのはシュレン将軍か?」

 

 ロムレシア王国騎士団長のギルベルト殿が現れた。

 格好から完全にオフだと分かるが、何故こんな路地裏に現れたんだこの要人。

 

「ふむ、日課の見回り兼散歩でな。貴公らは、成る程……」

 

 壁に貼り付いた翡翠将軍と、キャッキャウフフしてる二人を見て納得した。

 そして、

 

「……もし、あれだったらシュレン将軍は私が受け持とう」

 

 おい、ちょっと面白くなってきたか。




ガイウスが便利

お姉ちゃんに平八以外の幼馴染み

  • いる(♂)
  • いる(♀)
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