負けヒロインの姉に転生した私 ~どけ! 私はお姉ちゃんだぞ!!~ 作:スーパーマンのみりん干し
次回から妹メインの学園編スタートの予定です
「で、何をしているのだろうか」
「……あ? 見て分かるだろう」
「見ても分からんから聞いているんだが……」
壁に貼り付いたシュレン将軍を見ながら、俺は答えた。
どう見てもどうやって貼り付いているのか、まったく検討もつかない。手は素手だが、足はヒールのついたブーツを履いている。
吸盤がある訳ではあるまい。まさか握力だけであの体を支えているのか。
「……┐(´д`)┌未来の義弟がいき過ぎないか見張っているだけだ」
「それで何故、壁に貼り付くという方法に?」
「これが母上を出し抜いた唯一の方法だからだ」
聞いても判らんかった。
……申し遅れた。俺の名はギルベルト・ガッセナール。このロムレシア王国の騎士団団長であり武門の誉れと呼ばれる家の当主、代理だ。
何故代理かと言われると、俺が所謂分家筋の出だからだ。正統な当主は本家の兄と言える者なのだが、兄は病床に臥せっており、今は俺が及ばずながら当主代理という形でいる。
まったく面倒な話で、早く兄が快癒してくれれば良いのだが、奴は奴でガッセナールの当主を降りて悠々自適に暮らそうとしている節がある。
このせいで、俺がガッセナール家当主という認識が広がっているが、許さん。そして逃がさん。
兄よ、貴方にはさっさと病を治してもらって、当主の座に返り咲いてもらわねば困るのだ。
そうでなければ、シュレン将軍に想いを伝えられぬ。
あの日、まだ十代だった頃に参加する事になった展覧試合。そこで俺はシュレン将軍と出会った。
皆嗤っていたよ。女が騎士の真似事とは、精強無比のシュレン領も墜ちたものだと。
だが、その嘲りも一瞬で終わった。
第一試合で王国随一の怪力を誇るドルセンを、シュレン将軍は力で降した。
圧倒的とはまさにあの事だろう。たった一撃で、盾ごと叩き潰してみせたのだ。ドルセンに油断が無かったとは言わないが、奴も全力だった。まさかこれ程とはと、驚いていたよ。
続く第二第三試合も全て一撃、武力とはこういうものだと、嘲りを一笑に付す。そんな試合を目の当たりにし、俺はどんどんと惹かれていった。
剣の名門、王国の武門の誉れ、そのガッセナール家の端くれとしての自分と、ただ一人の剣士としての自分。
そして、ただ一人の男として翡翠・シュレンという女に惹かれていったのだ。
嘲りの対象となる体躯も、嫉妬に焦がれる武力、そして戦場にて美しさを失わない美貌。
何もかもが、俺の理想だった。
……決してあの胸や尻に惹かれた訳ではないぞ? いや、あれは男なら見るけど、俺はどちらかというとふともも派だ。
そして、最後は俺との試合。決着は異民族急襲の報を受けた事で流れたが、あのまま続けば俺は負けていた。
そうだ。ロムレシア王国騎士団長の俺が負けていた。
もうこれが決定打だ。そして、追い討ちで異民族との戦場で魅せた武者姿。
俺より強く美しい女、もうダメだった。
この国最強の男はこの国最強の女に恋い焦がれている。
あの戦の後、すぐにでも婚姻を結ぼうと動き出したが、問題が発生した。
ガッセナール家当主とシュレン家筆頭の将、家柄と立場的にも婚姻を結ぶには申し分ない。
だが、俺達の立場が問題となる。俺はガッセナール家当主、シュレン将軍はシュレン家筆頭にしてこの国最強の一角。
妹である紫翠殿が帝国へ嫁ぐとなると、シュレン将軍がガッセナール家に嫁ぐ形になった場合、家の後を継げる者が居なくなってしまう。
そうなればシュレン家は存続の危機となり、ガッセナール家は力を更に強め、王国内でのパワーバランスが狂ってしまう。
将来的にシュレン将軍との子を、シュレン家に養子に出すという手もあるが、ガッセナールの血が入る形になり、これもあまりパワーバランス的には宜しくない。
なので、兄に正式に当主に戻ってもらい、俺が婿入りする形が望ましい。
そう、望ましいのだが……
「シュレン将軍」
「なんだ?」
「跡継ぎに興味は?」
「私より強く立場と金が有り、シュレン領を護る気概がある奴以外は要らんぞ。それに今の情勢と私の立場で婚姻などと浮かれている暇は無いし、紫翠の輿入れが終わり、それを見届けるまで私は一人で居る」
「ふむ」
これなのだ。
シュレン将軍は一に妹御、二にシュレン領、次に自分でこの手の話題には食いついてこない。
恐らく、というか確実にシュレン将軍は妹御が嫁ぎ子を産み、その子の立場が確立されるまで一人身を貫くつもりだろう。
それは少し困る。シュレン家、そしてシュレン将軍を身内引き入れようとする動きは王国貴族だけでなく、帝国や協商連合の貴族達にもあるのだ。
その内容はシュレン将軍の目に叶うものではないが、爵位だけならシュレン家と同等か以上の者も居る。
下手に策略を巡らせても、最終的にシュレン将軍本人が認めなかったり、シュレン領民に認められなかったりで婚約は無くなりそうだが、シュレン領の稲作や産業を支える豊富な湧水地や、小人族の優れた技術はどの国や領主も喉から手が出る程欲しいものだ。
「む、移動するか。逃さん」
「一応聞くが、ラインハルト殿下との婚姻は認めたのでは?」
「……逢い引きは許そう。手を繋ぐ事も許そう。あーんも、まあ許そう。だが、それ以上はまだ許さん。ギルベルト、行くぞ」
「俺もか。まあ、行くが」
「……何をしている? 私についてこい」
「壁に貼り付けと?」
「は? これしき出来んのか?」
「は? 出来るが?」
我が友にして恋愛マスターのユリウスに聞くところによると、シュレン将軍の様なタイプは自身と同等か以上の相手を好むと言う。
つまり、こうだ!
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「おい」
「なんでヒードラ○が増えてんだよ……。つか、なんで出来るんだよ……」
「ですが、姉姫様はちょっと嬉しそうですよ」
「あいつホントさあ……」
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「ほお? やるじゃないか。お姉ちゃん式隠密術二段の称号をやろう」
「光栄だ」
やはり既婚者の言う事は聞くものだな!
しかし成る程、握力で自身を支えながら、靴の縁で壁の僅かな窪みや傷を足場にしながら進むのか。
これは隠密行動に使えるかもしれん。次の隠密行動訓練で内容に加えてみるか。
しかし、
「どうした?」
「いや、なんでもない」
……どうしてこう、シュレン将軍の尻は丸くてエロいのだろうか。
丸くてエロい、……この感動をまロいと名付けよう。
シュレン独自の服、袴の奥にあるこの感動はそれ以外では言い表せんだろう。
「……( ゚皿゚)なにやら不埒な視線を感じるな?」
「…………気のせいだろう。それより、シュレン将軍。その着物、中々に良いな」
「ふむ、お前にも分かるか。今シュレンでの流行りの柄で、矢絣柄という柄だ」
「そうか、凛々しくも愛らしい。貴殿によく似合う」
「(・∀・)当然だろう。私はお姉ちゃんだからな」
四つん這いで壁に貼り付く姿すら愛しい。
恋は盲目とは、先人はよく言ったものだ。
「む? あれはなんだ?」
「あそこは確か宿だな」
「宿だと? (`Δ´)あいつ……」
「いや、あそこは確かランチが有名は店が入っていた。ほら、一階のあそこ」
「ふむ、ギリギリだが許そう。しかし宿に店か」
「最近増えているぞ。なんでもアンナ様の発案らしいな」
「よく考えるものだ。しかし、あれで紫翠の奴は足りるのか? 普段の半分も皿に乗ってないぞ」
「ふむ、どうやら単品で頼んでいる様だな」
「私ならテーブル二つ分は要るな」
良い情報だ。
シュレン将軍が健啖家という話はよく耳にする。妹御も同様とは初耳だが、姉妹とあればありうるか。
「であるならば、どうだ? 今晩の夕食でも」
「お前とか?」
「そうだ。最近、シュレン料理を出す店が出来た。これより練兵の任もある。英気を養う意味でもどうだろうか」
「ふむ……」
ただ誘っただけなら乗らぬだろうが、これからの予定を話し合う意味もあれば、シュレン将軍は乗ってくる筈だ。
「まあ、今日ならいいか」
「では、その様に準備をしよう。ああ、ドレスコードは必要ない店だ」
「それは助かるな。ドレスの裾を汚して、小夏に膝を顔面にぶちこまれたばかりなんだ」
「それはまた……」
やはりシュレンの女性は強い。
その中でも彼女は特筆して強い。肉体、精神だけでなく、その在り方全てが強い。
俺は強い女が好きだ。俺よりも強く気高い女に恋い焦がれている。
ああ、そうだ。この国最強の男はこの国最強の女に恋い焦がれている。
何度でも何時までも、この気持ちは変わらないだろう。
「む、帰るのか」
「ふむ、明後日からは入学の準備ではなかったか?」
「ならば、我々も戻るとしよう」
いつか、いつの日か、貴女を敬称ではなく名で呼べる日が来るまで、名で呼べる日が来た後も俺は貴女を愛し続けよう。
お姉ちゃんに平八以外の幼馴染み
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いる(♂)
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いる(♀)
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要らないぞ