めざめよ! 冬眠婦警   作:筆先文十郎

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めざめよ!冬眠婦警(後編)

 麗子に身支度を手伝わした両津は派出所に戻った。

「部長。休女を連れてきました」

「……お久し振りです大原部長。……あ、まだ巡査部長だったんですね」

「……はぁ、兄妹揃って失礼なやつだ」

 まだ完全に覚醒しきっていない半目の休女を予想していたのか、部長はそっぽを向いて軽くため息をつく。その時だった。

「ただ今パトロールから戻りました。あれ、そちらの方は?」

 世界規模の財力を誇る中川財閥の御曹司でありながら警官業の傍ら社長業もこなす、物腰柔らかな長身イケメンの中川(なかがわ)圭一(けいいち)が姿を現す。

「ッ!? ピカーンッ! シャキーンッ!」

 振り返った休女が中川を見た瞬間、半目だった瞳が発光と共に完全に見開かれ、丸まった背中がピーンと伸びる。

「はじめまして! 私は日暮休女と申します! 以後お見知りおきを!」

「な、中川圭一です……こちらこそ」

 目をギラギラと輝かせながら手を差し出す休女に動揺しながらも握手に応じる中川。

「おお、休女が目覚めた」

「美人に弱い兄貴同様、イケメンに弱いからな」

 休女をよく知る両津と部長は覚醒した休女に笑みを浮かべる。

「ハッ!」

 バッと休女は振り返り両耳に手を当てる。

「聞こえる、聞こえる!!」

 休女が耳に全精神を集中する。その姿を固唾を飲んで見守る派出所メンバー達。

「……『ブゥゥゥンッ!!』、『え? キァアッ!! 誰か、ひったくりよ!! 返して!!』、『へへっ、わざわざ盗ってくださいって言わんばかりにカバン引っ提げてるお前が悪いんだよ。クソババア!!』」

「何なの、これ?」

「休女は普通の人間の何十倍の聴力を持っているんだ」

 麗子の疑問に両津が答える。派出所メンバーが見守る中で休女は続ける。

「犯人はこちらに向かって逃走中。その距離100m…………50m……30m、20m、10m!」

 休女が「10m」と言った時点で両津は外へと飛び出した。

「ビンゴ!! ひったくり犯、おとなしくお縄につけ!!」

 両津は高級なバッグを握りしめたスクーターに乗った男に飛びかかった。

「う、うわぁっ!? な、何で警察が最初から俺を犯人だと気づいているんだよ!?」

 自分がひったくり犯だと両津に知られ、飛びかかってこられたことに驚きを隠せない犯人は為す術もなく逮捕される。

 犯人に手錠をかけ、連行する人間に引き渡すと両津は中川の耳元で囁く。

「中川。至急現在未解決事件のニュースをテレビやラジオで流すようにしてくれ」

「えぇ!? いきなりそんな!?」

 突然の両津のお願いという命令に中川は困惑する。

「いいか! これは日本の平和と治安を守るためだ! 大至急各メディアに未解決事件の特番を組ませるんだ!!」

「……わ、わかりました!!」

 両津の迫力に()され、中川は中川財閥の力で各方面に至急に未解決事件を行うよう働きかけた。

 その効果はすぐに表れた。

「……『あら、この写真ってこの間引っ越してきた中武(なかたけ)さんに似てない?』、『確かに似ているかも。口元にあるホクロとか……』」

「……『ふふふ、まさか養女誘拐殺人事件の犯人がまさか虫を殺さない顔をしたメイドの私だなんて夢にも思わないでしょうね』」

「……『だ、大丈夫なはずだ。警察は何度も俺の所に聞き込みにきたが捕まえる様子はなかった。まだ俺が犯人だと気づかれてはいまい』」

 休女は聞こえる多くの声から事件に関連する声を拾い上げ、その声を漏らした人間の位置を的確に伝えていく。

 そうして各メディアで取り上げられた数件の未解決事件は休女の活躍で一気に解決へと動くことになった。

「……うぅ。もうダメ……」

 休女は机に顔を預けてぐったりと倒れる。

「こらっ、休むな休女! まだ四年分の働きはしてないぞ!」

「……そう言われても疲れるものは疲れますよぉ~……」

「仕方がない。中川、ちょっと頭を撫でてやれ」

「は、はい。わかりました」

 中川休女の頭に優しく手を置いて撫でる。

「休女さんって日暮さんに負けず劣らず凄い方なんですね」

「キラーンッ!」

 中川に褒められた瞬間、死んだ魚の眼をした休女の目に光が灯る。

「聞こえます、聞こえます! 事件の声が、私の耳に!!」

 そう言うと休女は猛スピードで外へと駆け出した。

「何なの、あれ!?」

「休女は脚力もとてつもなく凄いんだ。追うぞ中川、車を出せ!」

「は、はい!」

 両津は中川の真っ赤なフェラーリに乗り込むと豆粒大になった休女を追った。

 

 ====================================================

 

 数分後。某パチンコ店駐車場

「……」

 休女は一台の軽自動車の前にいた。彼女の視線の先にはぐったりとした5~6歳の幼児の姿があった。

「てりゃあぁぁぁっっっ!!」

 休女は手刀を真横に降り下ろし、弁当のフタを外すように車の上半分を外すと車内にいた幼児を抱えて身体を確認する。

「息はある。でも脱水症状と疑われる症状が!」

 休女は幼児を車に置くと、近くの自動販売機でジュースを買って車にいる幼児の口に運ぶ。

「大丈夫? 飲めそう?」

 休女の心配そうな声に抱えられた幼児は微かに反応すると、差し出したジュースを少しずつ飲み始めた。

「……よかった」

 その姿に安堵する休女。その時だった。

「いやぁ~、大量大量♪」

 タバコを吸いながら紙袋を抱えた柄の悪い男が幼児を抱える休女の前に姿を現した。

「お、おい!? 何で俺の車が!!」

 上半分が無くなった愛車に声をあげた男は休女にガンを飛ばす。

「おい、婦警! 俺の車をこうしたのはテメェか?」

 ドスの効いた声に休女は「そうよ」と肯定する。

「このアマが!」

 怒りに駆られた男が休女を殴ろうとした。しかし休女の鉄すらも溶かしそうな憤怒の炎が灯った鋭い眼差しに固まった。

「貴方は置き去りにした子どもの安否より、自分の車が大切なわけ?」

 子どもを車に置いた休女は一歩ずつ男に歩み寄る。

「……ひ、ひぃぃぃっ!!」

 自分よりも小さい、中学生くらいの女性から発せられる圧迫感に、腰を抜かしてしまった男は持っていた紙袋をぶちまけて後ずさる。

「親失格ね。死になさい」

 冷たく言い放った休女は手刀を降り下ろす。

「……ひ、ひぃぃぃっ!!」

 男は本能で横に転がるように飛んだ。男がいた場所には手刀で出来た真空波によってスパッと穴ができていた。もしその場にいたら、男は左右に半身が別れた身体になっていただろう。

「……ご、ご、ご……ごめんなさい婦警さん!! もう二度と子どもを置き去りにしてパチンコに行くなんてしません!! ……だから命だけは!!」

 ズボンから大量の黄色い水溜まりを作り、涙を流しながら手を合わせて許しをこう男。

「……」

 そんな男に顔色一つ変えず手刀をゆっくりと振り上げる休女。

「しょ、しょんな!! ふるしへふしゃしゃい!! (そ、そんな!! 許してください!!)」

 恐怖で舌が回らない男に

「死ね」

 休女が手刀を降り下ろそうとした。その時

「休女!!」

 フェラーリから降りた両津は即座にホルダーから拳銃を抜き

 

 バンッ!! 

 

 休女の顔に向けて発砲した。

 

 ====================================================

 

「このバカ者がぁぁぁっっっ!!!!」

 

 派出所が揺れるほどの部長の怒声に両津と休女は耳を塞ぐ。

「国民を守る警察官ともあろうものが怒りに任せて人を殺害しようとし、その上発砲するとは……何を考えているんだ!!」

「お言葉ながら部長。わしは休女を止めようとしただけで殺そうとはしてません!!」

「発砲したのは両津センパイで私は発砲してません。そもそも私の顔の(つら)が他人より厚いとはいえ躊躇(ちゅうちょ)することなく発砲したセンパイの方がどうかしてますよ!!」

 

「言い訳無用だ、この大バカ二人がぁぁぁっっっ!!!!」

 

 再び派出所が揺れるほどの怒声と共に降り下ろされた拳骨(げんこつ)に、二人は殴られた箇所を押さえてうずくまる。

「ま、まぁ……子どもも無事に助かったから良かったじゃないですか部長。あと少し遅ければ命を落とす可能性もあったわけですし!」

「そ、そうですよ! 父親の方も反省しているそうですし!」

 怒りの収まらない部長を中川と麗子が間に入ってなだめる。

「……まぁ、いいだろう」

 そう言って部長は「……ふぅっ」と軽く息を吐くと痛みでまだうずくまる二人に厳命する。

「日暮。結果として子どもを救ったことで今回の件は不問とする。両津も日暮を止めたのだから不問だ。だが日暮、オリンピックが終わるまで休みはないと思っておけ! 両津も日暮が仕事をサボらないようしっかりと監視するんだ!!」

 

「「えええぇぇぇっっっ!!!!」」

 

 部長の命令に、二人は派出所が揺れるほどの大声をあげる。

「そんな! わしにはプラモや競馬などやることがいっぱいあるんですよ!! そんなわしにオリンピック中は休女の監視をしていろって言うんですか!? ──」

「私だって冗談じゃないですよ! 四年に一度のオリンピックに四六時中仕事ですって!? 冗談じゃないですよ!! ──」

 反論する二人だったが、部長の火が出るような拳骨に再びうずくまる。

「わかったな?」

「「……は、はい。わかりました……」」

 こうしてオリンピック期間中、休女は並外れた聴力で次々と事件を解決し、両津はサボらないように電気ショックや爆音が流れるイヤホンを活用し能率が下がらないように尽力した。

 

 

 

 その後無事にオリンピックが終わり、兄の日暮熟睡男と同じように儀式を済ませた休女が女子寮に戻ったのは言うまでもない。

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