混乱してしまうと思いますがそれでも楽しんで頂ければ幸いです。
あと実在の人物が出ております。何か間違いがあれば一報頂けると幸いです。
1996年2月。
「…………」
四年に一度、冬季オリンピックが開催される期間だけ目覚める
「…………」
もちろん眠っている休女に意識はない。週に一度、夢遊病に似た症状を起こす休女は自分の部屋を掃除していた。それが四年間寝続けながら部屋が片付いている理由だった。しかし部屋から一歩も出ることはなかったので休女を知らない者からは幽霊が住む部屋と噂されていた。
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「……ゴクリッ」
一人の新人婦警が休女の部屋の鍵穴に鍵を差し込む。
「……ね、ねぇ
眼鏡をかけた、いかにも気の弱そうな同僚婦警が「光子」と呼ぶボーイッシュな女性に声をかける。
そんな同僚婦警に新人婦警は「いい加減にしてよ、
「あんたが『部屋に幽霊がいると思ったら気になって眠れない!』って言うから確かめるために寮母さんの目を盗んで鍵を盗ったのよ。ここまでさせておいて『やっぱりやめようよぉ……』ってどういうつもりよ!」
「うぅ……」
痛いところを突かれて「……ごめんなさい」と小さな声で謝る同僚に
「……」
恐る恐る新人婦警は扉を開けて入室するとベッドにいる休女を見る。
「……なによ、人間じゃない!」
幽霊だと期待した新人婦警はスヤスヤと気持ちよさそうに眠る、自分よりも若く見える休女を見続けるたびに怒りが沸々と湧いていた。
「期待させておいて何なのよ、こいつは!」
そういって新人婦警は休女の頭に
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亀有公園前派出所。
中川、麗子、寺井が不在の派出所では『マリア』と呼ばれる藤色の女性警官の制服に身を包んだ、整った顔立ちで背中まである艶やかな黒髪が特徴の交通課の
「へぇ、そのような方がいらっしゃるのですか?」
四年に一度しか起きてこない日暮熟睡男の話を聞いて目を丸くするマリア。
「あぁ。そしてその日暮には日暮休女という妹がいるんだ。こいつもすごい奴でな。……あ、電話だ。はい、こちら亀有公園前派出所……何だって!?」
「どうした、両津!?」
大声を上げる両津に部長が尋ねる。
「休女の奴が目覚めて暴れているとのことです!!」
「何だとっ!?」
両津の報告に部長は驚愕する。
「……うっ、まずいことになったぞ!」
顔面蒼白になる両津だったが、このまま何もしなければ事態はより悪化することを知っていた。
「マリア、わしと一緒に来てくれ!!」
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女子寮前。
マリアを連れて女子寮にやってきた両津の目には爆撃を受けた後のように破壊した女子寮があった。
「ウウウッ、ガルルルルッ!」
「……い、いや……」
「……た、助けて……」
このままでは目の前の二人が休女に殺される。そう悟った両津は距離を取りつつ説得を試みる。
「おーい休女。わしだ! 両津だ! もうそのへんにしておけ!」
「グルルルルッ……ウガアアアァッ!」
咆哮と共に手刀から強烈な斬撃を繰り出す。
「うわあああぁぁぁっ!!」
周囲に降り注ぐ斬撃に両津は腰を抜かす。
「両さま、大丈夫ですか!?」
「こ、これは説得はムリだ……」
抱きかかえるマリアの顔を見る両津にマリアは力強く答える。
「両さま! ここは私が!」
「やめろ、マリア! いくらお前でも休女を止めるのはムリだ!!」
力づくで止めようとするマリアを両津は肩を掴んで止める。
「では、どうするのです?」
「あいつはイケメンに弱い。だからわしに代わってお前があいつを説得してくれ!」
「わ、わかりましたわ……」
複雑な顔をするマリアだったが愛する男から頼まれたのだ、と意識を変えて休女に歩み寄る。
「休女さん、初めまして。私、交通課の麻里愛と申します。お願いですから怒りを収めてください!」
「……ウゥッ?」
自身を起こした二人を殺そうとした休女がマリアの方へ振り返った瞬間
「きゃあっ!! イケメンだあああぁぁぁっっっ!!!!」
目をハートマークにさせた休女は燃えるように身体を紅潮させながら
「ぷきゅうっ~~~──」
その場に気絶した。
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「ったく、兄妹揃ってはた迷惑な奴だ」
派出所に戻った両津は奥の部屋に休女を運んだ。
「休女さんは寝られましたか?」
「なんとかな。兄貴同様、寝つきはいい方だからな」
心配そうに尋ねるマリアに両津はため息をつきながら頭をかく。
「どうします部長! あのまま2年間寝かしときますか?」
「そうもいかんだろ。……困ったな」
部長は両腕を組み今後を思案する。
「すみません。食器を取りに来ました」
「おう! ごくろう」
出前の訪問に振り返る両津。その時だった。
「あっ」
ガチャッ
皿とどんぶりが地面に接触すると思われた瞬間、目にも止まらぬ速さで両津は両手と歯で落下を阻止した。
「バカ野郎! 落として大きな音がしたらどうするんだ!?」
全員は奥に目をやる。
「ふう! 目を覚まさなかったか……」
ホッとする全員。しかしそれは一瞬だった。
ガガガガガガッッッ!!!!
地面を
「こらっ! こんな所で工事するんじゃない!!」
「い、いや……そういわれても!」
「こっちも仕事だし……」
両津の突然の文句に目を白黒にさせる土木作業員。その時だった。
「「うわあああぁぁぁっっっ!!!!」」
作業員は後ろに後ずさりながら腰を落とした。二人の間を通り過ぎるように斬撃が振り下ろされたからだ。
「ま、まさか……」
両津は恐る恐る後ろを振り返る。そこには
「私ノ眠リヲ
瞳から真っ赤な光を発光させながら歯をギリギリと鳴らす休女が立っていた。
「マリア! 休女を鎮めろ!」
「は、はい!」
マリアの説得にストンとその場で眠りに落ちる。
「しょうがない。こうなったら……」
両津は自分の席に休女を座らせる。
「うぅ~ん……」
うっすらと目を開ける休女は周囲を見渡す。
「……あ、両津センパイ。……あれ、私。何で派出所にいるの?」
「ったく。寝起きの悪い奴だな、お前は!」
「……だって寝不足で起こされるとイライラするんですもん」
疲れているのか机に崩れ落ちる休女。そんな休女に両津は頭をかく。
「どこが寝不足だ。派出所で2年間も寝てたくせに!」
「え? 2年も寝てたんですか?」
「今は平成8年、西暦で言えば1998年だぞ! ほら新聞を見ろ」
マリアが両津が作ったニセの新聞を広げて見せる。
「あ、本当だ。4年間寝ていたんですね!」
平成8年と長野オリンピック開催の文字に休女は目を輝かせる。
「じゃあ寝不足は気のせいだったんですね! そう思ったら体調がよくなってきました♪」
「そうだろ! イライラする理由なんてないぞ!」
大きく伸びをする休女にごまかすように両津は笑う。
「それじゃあ早速テレビで──」
「ああっ! テレビは壊れているんだ! だからラジオで聞こう!!」
そう言って両津は慌ててラジオを取り出すとマリアに手渡し奥へと下がる。
『こちら長野から生中継で実況しております。ここスキージャンプ場で
「ほ、ほら。今中継をしていますわ!」
奥で実況を装う両津に合わせるようにマリアがラジオを操作するフリをして休女に説明する。
「あぁ! 本当に開催されたんだ!」
パァーと満面の笑みを浮かべる休女に両津の実況を続ける。
『原田、踏み切り台から滑降。美しい姿勢を保ったまま、ジャンプ! 体勢を崩すことなくグングンと距離を伸ばす原田! そして今着地! 距離は測定不能! しかし金メダルには十分な距離なのは確実です!!』
金メダルは確実。その言葉を聞き休女は両目から涙を流す。
「うぅ……よかった! よかったです! ……前回のリレハンメルオリンピックでは『優勝確実』と言われながら成績を残せずバッシングされ色々大変だったでしょうに。あの時の雪辱が……うぅ!!」
滝のように涙を流す自分が恥ずかしくなったのか、休女は両手で顔を隠す。
「そう言えばスピードスケートはどうなったんだろう? 外国人選手が活躍しているんだろうなぁ~」
(が、外国人選手だと!? 日本人選手も何とか知っているくらいなのに外国人の名前なんて知らんぞ!!)
それでもやるしかないと両津は腹をくくる。
『こちら長野市オリンピック記念アリーナです。現在男子スピードスケートの決勝戦が行われようとしております。ピィーー!! というホイッスルと共に選手がスタート──』
「あれ? スピードスケートの合図はピストルだったはず……」
『し、失礼しました。ピストルです。ピストルの合図と共に選手がスタート!!』
(……うぅ、危ない危ない)
奥から疑問に思いつつもラジオに耳を傾ける休女の姿を見て、両津はこれ以上ボロを出さないように心掛けながら実況を続ける。
『アメリカ代表、ビル・クリントン。ロケットスタートでグングンと加速していく!!』
「えぇ!? ビル・クリントン!? 何でアメリカの42代大統領がオリンピックに出ているの!?」
(ま、まずい!!)
慌てた両津はごまかすように実況を続ける。
『アメリカ代表に追いつこうとバチカン代表ヨハネ・パウロも加速。一進一退の攻防を繰り広げております!!』
「何ですって!?」
休女が大声を上げる。
「バチカン市国がオリンピックに出場しているんですか!? というかローマ教皇が出場しているっておかしいでしょ!?」
(ま、まずい!!ごまかさなければ……あ~~~、何も思いつかん!!)
焦るあまり頭が真っ白になる両津。その時、マリアが動いた。
「あ、ラジオが!」
マリアはラジオを地面に叩きつけた後にジャンプ、天井に壁蹴りした反動を利用してラジオに向かって飛び蹴りを加えた。
「申し訳ございません。手を滑らせてしまいましたわ!」
「手を滑らせたって……本気でラジオを壊そうとしているように見えましたけど?」
疑うように自分を見る休女にマリアは「……い、いやですわ!」とごまかすように笑う。その時だった。
『今日は1996年2月7日水曜日です。大変乾燥しております。火の取り扱いには十分お気をつけてください』
消防署の車からの放送を聞いた瞬間、
「1996年?」
休女から禍々しいオーラが立ちのぼる。
「まだオリンピックが開催されていないじゃないですか!?」
ごまかそうと奥から現れた両津を休女が睨みつける。
「い、いや! オリンピックの開催年だぞ! 今年は!!」
「1996年は夏季オリンピックだ!!!!」
派出所が震えるほどの怒声と共に休女は手刀を振り回した。
斬撃で崩壊していく派出所。そんな派出所を背にして逃げ出す両津達。
「両津! お前のせいでメチャクチャになったじゃないか! どうしてくれる!?」
「わしのせいじゃないですよ! 悪いのは休女を起こした奴です!!」