前半:先輩と出会えて(壬生千咲)
「3月2日は壬生千咲の日」とどこからともなく聞こえてきたので書いたものになります。今まで身近にいた人が急に遠くに行ってしまうのって、すごく心細くなると思います。
後半:記念日は彼と一緒に(二条院羽月)
こちらはRIDDLE JOKER4周年記念に書いたものになります。私事ですが、他人の誕生日を覚えるのがとても苦手です()
※キャラ崩壊や元作品の設定崩壊が起こっている可能性もあります。この点を理解できる方のみ。お読みになることを推奨します。
※誤字脱字等の指摘も受け付けています。
先輩と出会えて(壬生千咲)
3月上旬、まだ冬の寒さが残るこの日、私は学園の校舎前に広がる人ごみの中で必死にあの人を探していました。
周りには写真を撮る人、談笑している人、泣いている人、いろんな人がいますけれど、誰も私の目当ての人じゃありません。
うーん、どこにいるのでしょう。早く会いたいのに、これだけ多くの人がいたら見つけられません。今更ながら、自分の背の低さを恨んでしまいます。
そんな時、背中から私を呼ぶ声が聞こえました。後ろを見なくても分かります。先輩です。私のことを「千咲」と呼んでくれる唯一の人ですから、間違えるはずありません。
私はくるりと振り返り、名前を呼んでくれた先輩の胸に飛び込みます。先輩はしっかりと私を受け止め、そして抱きしめてくれました。
少しの間そのまま静かに抱き合っていました。いつもなら幸せに感じるはずですが、このハグはそうではありませんでした。今、腕を離してしまうと先輩とはもう会えなくなっちゃう気がして。そんなはずない、って分かってるのに、私の心は不安でいっぱいでした。
不意に先輩が私の頭を撫でてくれ、そこで私は我に返りました。どうやら私は気づかぬうちに泣いてしまっていたようです。先輩に撫でられていると、だんだんと私の心も落ち着いていくようでした。
……今日もまた、先輩に助けられてしまいました。先輩と出会ってからもう何度救われたか、数え切れません。どうやら、私は先輩なしでは生きていけなくなっちゃったみたいです。こうなった責任は一生取ってもらうんですからね、先輩……!
泣き止んだところで、私は先輩にまだあの言葉を言ってないことを思い出しました。一体何のために先輩を探していたというのでしょう。
私は先輩の胸から顔を上げて、そして先輩に告げました。
「先輩っ、ご卒業おめでとうございますっ!」
満面の笑みと共に。先輩とこの学園で出会えたことに感謝を。そして先輩の未来が輝かしいものになることを、その未来に私がいることを願って。
記念日は彼と一緒に(二条院羽月)
「ふぅ、こんなものだろうか」
休日の自室。朝から勉強をしていたワタシはシャーペンを置き、一息つく。気付けば時刻は昼少し前になっていた。
目の前にあるのは警察学校の入学試験対策問題集。試験本番まであと数か月となり、学院の勉強と並行して入試に向けた勉強も始めたのだが。
「暁は……今何をしているのだろう」
暁と全然遊べていない。暁は最近会った時に少し話すぐらいしかしてくれず、それが勉強で忙しいワタシへの彼なりの気遣いだとはわかってはいるものの、やはり寂しい。
「デートにでも行きたいものだが……って!何をつぶやいているんだワタシは!」
ぼーっとしていたら、つい自分の妄想が口から出てきてしまった。自室に一人きりだからよかったものの、誰かに聞かれていたらと考えると顔が赤くなる。
「ダメだ、少し散歩でもして頭を冷やすか……」
そう思って椅子から立ち上がり、ドアの方へ。
「おっと!?」
「ん、さ、暁!?だ、だだ、大丈夫か?」
ドアを開けると目の前に暁が。さっきまで彼のことを考えていたのもあって、すこしドギマギしてしまう。
「いや、急にドアが開いて少しびっくりしただけだ。それより羽月、勉強で忙しいところ申し訳ないが、今日はこの後時間あるか?」
「ああ、問題ない。それで、何の用だ?」
「今から一緒にデートに行かないか?」
「いいぞ、デートだな……デートぉ!?」
「ちょ、羽月!?驚きすぎじゃないか?」
暁にさっきのワタシの妄想を読まれた!?いや、そんなことはないはずだが、驚いてつい大きな声を上げてしまった。
「だって、それは暁が急にデートとか言い出すからじゃないか!!ワタシにだって心の準備が……!!」
「いや、ほんとだったら前々から計画を練って、羽月にも伝えておくべきだったんだろうけれど、羽月は勉強で忙しそうだったし、それに……」
急に暁が口ごもる。指で頬を掻きながら、少し照れくさそうに笑っている。
「さっきカレンダー見て気付いたんだ。今日って、俺たちが付き合ってちょうど一年の記念日だな」
「え……」
ワタシは慌ててスマホの電源を入れる。日付は、確かにワタシたちにとって思い入れのあるもので―
「だから、今日ぐらいはずっと羽月と一緒に居たいと思って、それに勉強の気晴らしにでもなればと思ってデートに誘ったんだが……」
「……そうか、暁はこの日のことをちゃんと覚えていたんだな。ワタシはすっかり忘れていた……申し訳ない」
「さっき言った通り、俺もつい数十分前まで忘れてたからさ。お互い様だよ。それより、デート行くか?」
「もちろんだ!ほら、連れて行ってくれ!!」
ワタシは暁の腕に思いきり飛び付く。今から彼と一緒に、今日という日を目いっぱい楽しむんだ。