ゆずソフトの小説   作:かんぼー

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注:元作品のネタバレ含む可能性があります!!
注:少しR18要素を含んでいる場合があります!!

かんぼーです。
長編2作目です。相変わらずの駄作ですがお読みいただけますと幸いです。

今回はRIDDLE JOKERの2年生組の修学旅行をテーマに書きました。あやせ√想定です。

SSネタが少し思いつかなくなってきたので、前々から持っていた長編ネタに手を出しましたがやっぱり長編はSSより書くのが難しいと思います…

※キャラ崩壊や元作品の設定崩壊が起こっていることがあります。この点を理解できる方のみ、お読みになることを推奨します。
※誤字脱字等の指摘も受け付けています。



RIDDLE JOKER
修学旅行


「あと必要なものは……と」

 俺はいろいろなものをボストンバッグに詰めていく。鞄に物を詰め込むなんて、普段は特班の仕事で犯人からブツを押収するときぐらいしか行わないが、今回は違う。

「……そういえば歯ブラシとか必要だっけ」

 そう、明日から俺の学年は2泊3日の修学旅行である。他の高校に比べたら少し短いかもしれないが、あやせによると橘花学園ではアストラルに関する授業が行われるため、他の主要科目の授業時間数確保のために各種行事の日程が一般的な長さよりは少し短くなるのだとか。

さて、一応しおりに書かれてある荷物は全て詰め込んだはずだが…やはり不安だ。なにせ、これまでこういった旅行前の準備は基本的には七海が行っていて、俺は手伝いしかしてこなかったから。本当に七海さまさまである。

 おそらく俺が見る感じだと準備万端なのであとは寝るだけだ。いつもなら室長と連絡を取るのだが、先日「もうすぐ修学旅行だ」と室長に伝えると、旅行期間あたりは連絡しなくてよいと言われた。おそらくだが、特班のことはしばらく忘れて学校の行事を精一杯楽しんでこいという父親なりの配慮なのだろう。

 だが、念のためスマホを確認する。画面をつけると、室長からではなく七海から連絡が入っていた。

『暁君起きてる?まだ起きてたらわたしの部屋に来て欲しい』

 もう女子の部屋がある階に行ける時間ではないので、仕方なく寮の外壁を伝って七海の部屋に向かう。窓を軽くたたくとすぐに七海が出てきて俺を部屋の中に入れてくれた。

「暁君、まだ起きてたんだ」

「ああ、ちょうど今寝るところだったけどな。で何の用だ?」

「え?あ、それは…そのぉ…」

 七海がなぜか口ごもる。そんなに言いにくい用なのだろうか。

「……?何か用があったんじゃないのか?」

「ああああああ、あの!暁君ちゃんと荷物の準備できたかな、と思って!」

「俺だって一人でそれぐらいできるぞ。まあ、多少自分でも不安な部分はあるけどな」

「わたしが確認しに行こうか?」

「いや、いい。さすがにそこまでされるとなんだか恥ずかしい」

「……ほんとに、お兄ちゃん大丈夫かなぁ」

 すごく心配そうな目で見てくる七海。心配してくれて感謝するべきなのか、兄への信頼の無さにしょげるべきなのか迷う。

「で、用はそれだけか?そろそろ寝たいから部屋に戻るぞ」

「あああああ、ちょっと待った!お兄ちゃん、手貸して?」

 七海が慌てたように俺に詰め寄ってくる。何事かと俺は右手を差し出すと、七海は両手でそれを優しく包み込んだ。

「……七海?」

「……………」

 七海は俺の手をつかんだまま目をつぶって離そうとしない。何かを念じているようだが、別にアストラル能力で治癒されるような感覚もなく、そもそも俺は今怪我をしていないのでそうされる必要もない。一体何だろう?

「おーい、なーなーみー?」

「……これで大丈夫」

「何が大丈夫なんだ?」

「なんでもない。ほらほら、もう寝るんでしょ?早く寝ないと明日から楽しめないよ?」

「まあそうだな、じゃあおやすみ七海」

「おやすみ、お兄ちゃん」

 俺は窓枠に手をかけ、ゆっくりと自分の部屋まで降りてゆく。

「(……お兄ちゃん、早く帰ってきてね……)」

 頭上で七海が何か言った気がしたが、俺にはよく聞こえなかった。

 

~~~~~~~~~~

 

 翌朝、目覚ましが鳴る前に起きてしまう。自分では冷静を保っているつもりだが、やはり修学旅行ということでどこかワクワクしてしまっているのは間違いない。

 こんな時間に起きていてもどうしようもないので、とりあえず散歩に出る。さすがに今日は朝のランニングをするつもりはなかったが部屋に閉じこもっているのもなんだか落ち着かない。

 のんびりと歩いていると、前からフラフラと女性が向かってくる。こんな朝早くに誰だろうと思っていると、その女性から声を掛けられる。

「……あれ?暁君?」

「茉優先輩じゃないですか、こんな朝早くにどうしたんですか?」

「いや、徹夜で資料作成してたらいつの間にか朝になっちゃってて…今から寝るところなんだよ。暁君はどうしたの?」

「俺は早く起きすぎちゃったから散歩してるところです」

「なるほどね……あ、もしかして今日から修学旅行だっけ?」

「そうですね。今日出発です」

「いいな~、アタシ何年前に行ったんだっけ……ふわぁ……」

茉優先輩は大あくびをしている。そういえば足取りもおぼつかなかったし、こんなところで立ち話してないで早く寝たほうがよさそうだ。

「茉優先輩、寮戻りましょう。早く寝たほうがいいですよ」

「うん……そうだね、眠い……あたまクラクラするぅ……」

「ほら、俺の肩につかまってください」

 茉優先輩を肩で支えながら寮へと戻る。なんとか寮の一階まで着いた時、ちょうど上の階から恭平が降りてきたので二人で茉優先輩を支えて部屋まで連れて帰った。

「暁、今日は早起きだったんだね」

「ああ、楽しみであまり眠れなくてな」

「わかる!なんてったって、学生生活で一番楽しみな行事だからね!あー、おいしいものいっぱい食べたいなぁ!」

「恭平らしいな…」

 恭平とそんな話をしながら食堂へ向かう。中に入ると、いつもの場所で既に壬生さんが朝食を取っていた。

「壬生さんおはよう」

「あ、おはようございます!在原先輩、周防先輩!」

「あれ?千咲ちゃん一人?七海ちゃんは?」

 いつもなら壬生さんと七海の二人で朝ご飯を食べているはずだ。だが、七海の姿はどこにも見えない。

「あー、七海ちゃんですか。七海ちゃん食欲がないみたいで、今頃部屋で休んでると思います」

「なっ…!!七海になにかあったのか!?」

「いえいえ、そんなに深刻なことではありません。それに、数日したら戻ると思いますよ」

 ……壬生さんの話し方的に七海に食欲がない理由を知ってるっぽいが、俺にはさっぱりわからない。そういえば昨晩も様子が少しおかしかった気がするが……一体なにがあったのだろう。

「まあ、先輩が修学旅行に行ってる間は私が七海ちゃんの面倒見ておきますから!何かあったらちゃんと連絡しますし!先輩は七海ちゃんのことは気にせずに修学旅行楽しんできてください!」

「ああ、よろしく頼む。とはいっても気になるけどな…」

「さすがシスコンですね~。あ、先輩、お土産買ってきてくださいね!待ってます!!」

「了解。ちゃんと買ってくるよ。あとシスコンじゃないから」

「「ふーん………」」

「恭平、壬生さん。そんな目で俺のこと見ないで」

 俺がシスコンかシスコンじゃないか論争を壬生さんや恭平と繰り広げているうちにあやせと二条院さんも食堂へやってきた。みんなでのんびりと朝食を取った後、俺たちは部屋に戻り、荷物を持って集合場所へ向かう。集合場所ではちょっとした決起集会が行われ、あやせが俺たちの前でいろいろと話をしている。

「修学旅行の思い出は私たちの宝物になると思います!みんなで楽しんでいきましょう!」

……なんて笑顔でしゃべってはいるものの、その笑顔は完全に作り物である。まあ、それに気付いているのは俺だけなのだけど。

集会が終わると俺たちはバスに乗り込む。俺はあやせの隣の座席であるため、本当なら二人でいろんな話をして幸せな時間を過ごしたいところである。けれど。

「あやせ」

「……なによ」

「そんなに怖い顔しなくても」

「だってぇ……」

 さっきからこんな調子である。自分で「楽しんでいきましょう!」とか言っておきながら本人が全く楽しんでいない。俺たちの座っている座席はバスの前の方であり、他の生徒からは見えにくくなっているので、見事な素のあやせが登場してしまっている。

「まあ、もとから人前で話したりするのは好きじゃないのは知ってるけどさ。せっかくの修学旅行なんだから」

「わかってるわよ!わかってるけどぉ…私にはこれから最大の試練が待ち受けているのよ」

「最大の試練…?このあと集会みたいなのってあったっけ?」

「もうすぐわかるわよ……」

 

~~~~~~~~~~

 

「さとるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「痛いって!爪食い込んでるって!!」

「こわいのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 あやせが俺の腕にしがみついて離れようとしない。前にホラーゲームをやったときもこんな感じだったはずだが、今は別にゲーム中というわけではない。

「なんでこんなでっかい物体が空飛ぶのよ!普通落ちるでしょ!」

「落ちないから!!落ち着いてくれ!!」

「落ち着けるわけないでしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 ……そう、あやせがこうなっている原因は飛行機である。座席に座るまではまだよかったものの、いざ飛び立つとこの有様である。まあ、俺としてはあやせの新しい一面を見ることができて嬉しいのだが。

 それにしても、俺以外に声が聞こえないよう小さな声で絞り出すように叫ぶあたり、しっかりしてるよなぁ……。

「さとるぅ、今までありがとう……」

「そういうこと言わないで!!大丈夫だから!!」

 半泣きになっているあやせの頭を撫でてやる。効果があるかどうかはさておき。

「ほら、窓の外すごい青空だぞ」

「そんなの見れないわよ!!」

「海もきれいに見えるぞ。雲少なくていい景色だな」

「だから見れないんだってばぁ!!」

「あ、遠くに別の飛行機が見えるぞ。ほら、あやせ」

「……ねえ暁、さっきから私のことからかって遊んでない?」

 涙目でじっと睨んでくるあやせ。さすがにちょっとやりすぎたか。

「ごめん。怖がってるあやせ、可愛いからつい」

「もう……なんでもかんでも可愛いって言えば許されると思ってるんでしょ……」

 あやせはさっきより俺の腕に強く抱き着いてきて、肩に頭をのせてくる。許す代わりに甘えさせろ、といったところだろうか。

「……到着するまで離さないから」

「ああ、わかった」

 

~~~~~~~~~~

 

 その後、無事に飛行機は目的地に着陸し、俺たちは再びバスに乗って移動する。移動した先は―

「うわぁ……っ!!」

「……なんだろう、すごく目が輝いてる」

「そう、ですね。二条院さんらしいですね」

「まだ入場すらしてないんだけどなぁ……」

そう、時代劇系のテーマパークである。いくつか提示された行先の中からグループごとに一つを選び、そこに行くのがこの日の行程なのだが、俺と恭平、あやせ、二条院さんの4人で構成されたグループは二条院さんの意見(というか俺たちが意見を出す前に押し切られていた気もするが)でここのテーマパークに行くことになっていた。

二条院さん情報によると割と人気なテーマパークだそうで、休日にはかなり混むのだとか。今日は平日だからそこまで人はいないものの、何かの取材なのか、大きなカメラを抱えたメディアの人なんかもいる。

「早く中に入るぞ、みんな!」

「そうだね、いろいろ見て回りたいし、早く行こう!」

 足早になっている二条院さんに続いてみんなで入場する。アトラクションはもちろんショーなどもあるらしいのだが、最初に向かったのはそういうところではなく……

「……着替え?」

「そうだとも。在原君と周防は忍者か侍の格好をすることができるぞ。やっぱりこういうところでは適切な格好をするべきだろう?」

「恭平、どうする?」

「うーん、せっかく来たんだし着替えてみようよ」

「そうだな。こんな機会めったにないしな」

「それで、ワタシと三司さんは町娘かくノ一の格好ができるらしいが……三司さんはどっちにする?」

「私はその……」

 口ごもるあやせ。こちらをチラチラとみているあたり、助けを求めているのだろうか。

「どうした?」

 あやせに近寄り小声で尋ねる。

「どうした、じゃないわよ!このまま着替えるとなると二条院さんにパ、パパパパパパパパッドがばれちゃうじゃない!」

「あー…確かに」

 それは一大事だ。話によると今回の修学旅行はあやせのパッドがばれないように理事長もいろいろと気配りをしていたようで。例えば泊まるホテルには全室に浴槽が付いていてあやせは大浴場を使わないようにするとか、さらに基本的には複数人で同じ部屋に泊まるところをあやせだけは一人部屋だとか、いろいろと裏で仕込みがあったのだが……。さすがにこのテーマパークで着替えることまでは考慮されてはいない。

「……断ったらどうだ?私は着替えませんって」

「でも、二条院さんがあれだけ乗り気なのに私だけ断るっていうのは気が引けるのよ…どうしたらいいの……」

「そうだな……」

 俺はこちらを不思議そうに見つめている恭平と二条院さんに顔を向ける。

「あー…あやせ、ちょっと体調悪いらしいんだ。俺が今からお手洗い連れて行くから、二人は先に着替えておいてくれ」

「わかったが…三司さん、大丈夫か?」

「え、あ、はい。多分大丈夫なので、先に着替えておいてください」

「そうか、わかった。ちなみに町娘とくノ一、どっちがいいとかあるか?」

「じゃあ、えーと、町娘でお願いします」

「わかった。係の人にそう伝えておこう」

 そういうと、恭平と二条院さんは建物の中に入っていった。

 

~~~~~~~~~~

 

 なんとか着替え問題(?)もクリアし、みんなでテーマパークを楽しむ。実際の手裏剣で的当てをしたり、忍者屋敷のようなところに入ったり。あとは時代劇のショーなんかも見たりした。二条院さんはもちろんのこと、あまり時代劇を見ない俺達でも十分に楽しむことができた。

 そして、なにより俺にとってはあやせの町娘姿がすごく印象的だった。あやせは普段撮影等で様々な衣装を着るので、俺もいろいろな姿のあやせを見てきたのだが着物は初見だった。

「あやせ……そのなんだ、着物、似合ってるぞ」

「え?あ、うん。ありがと。暁もお侍さん、似合ってると思う…」

なんて二人で言い合ってたら二条院さんと恭平に冷やかされたりもした。

 そんなこともありつつ、テーマパークを後にする。ちなみに帰りの着替えの時は、あやせと俺でもうちょっとお土産を見ていきたいから、とごまかしてなんとか着替えの時間をずらすことができた。

 俺たちを乗せたバスはホテルに着く。今日の行程はこれでおしまいだ。

 ホテルに着いたら温泉に入ったり夕食を食べたりしてのんびり過ごす。

「21時半まではホテルの廊下に出ることは可能だが、それ以降は一切禁止だ。わかったな?」

 寮長でもある二条院さんが夕食中にみんなの前で注意喚起をしていたが聞いている方が少数派だ。二条院さんも先生方もそれをわかっているようで、建前で注意喚起しているだけに見える。

 夕食も終わり部屋に戻ろうとしたとき、あやせが俺のところにやってきた。

「ねえ、暁」

「どうした?何かあったか?」

「ちょっとこっちきて」

 あやせに人影が少ない方に連れていかれる。そんなに聞かれたくないことなのだろうか。

「で、なんだ?」

「あのさ、今夜ってなにか用事あったりする?」

「夜か?別にないぞ。寝るだけだが……」

「じゃあ、今夜私のへy……」

「三司さん!三司さん!どこにいますか!!理事長がお呼びです!!」

 あやせが言い切る前に先生の声が聞こえる。どうやらあやせのことを探しているようだ。

「あーもう!なんなのよ!!こんな時に……」

「まあ、話はあとで聞くから先生のところに行って来たら」

「うん……わかった。また後でメッセージ送るわね」

 あやせを見送り自分の部屋に戻る。恭平と相部屋なので退屈だったいうことはないのだが……

「………」

「どうしたの暁、さっきから顔が怖いよ」

「ん、ああ、ごめん。ちょっと考え事してて」

 あやせから全く連絡がない。さっきあやせが言おうとしてたことは「今夜私の部屋に来ない?」だと思うのだが確信がないし、それにあやせから連絡がないということはまだ部屋に戻っていない可能性もある。となるとこちらから連絡するのも少々気が引ける。

 あと恭平と話をしてたり遊んでたりしたら、22時をとっくに過ぎてしまっている。もう部屋を移動できる時間でもないし、これ以上考えていてもしょうがない。

「そろそろ寝るか…」

「そうだね、明日に向けてちゃんと寝たほうがいいね」

 

~~~~~~~~~~

 

 翌朝、目を覚ましてスマホをみる。けれどあやせから連絡は来ていない。どうしたものかと思いつつ洗面所で顔を洗う。

 その間に恭平も起きていたので二人で朝食に向かう。昨晩の夕食は各々ご飯以外食べる量が決まっていたが、朝食はバイキングなので恭平は人一倍盛り上がっている。

「おい、あそこの生徒ほんとにあれだけ食べるのか?」

「私このホテルに勤めて十年以上経ちますけどあんなに食べる生徒は初めてですよ…」

と従業員の方の会話が聞こえてくる。安心してください従業員の方々、俺も恭平と出会った頃は皆さんと同じ反応してました。

 そして、俺たちが朝食を食べ終え部屋に戻ろうとホテルのロビーを通過した時―

「ん、暁。あそこにいるのって三司さんじゃない?」

「え?」

 ロビーの隅っこの方のソファに座っているあやせを見つけた。だが……

「制服じゃないね、どうしてだろう?」

「ほんとだな……朝食を食べに来るなら制服のはずだが……今日の日程であの服が必要になることなんかあったか?」

「たぶんないんじゃないかな」

「そうだよな……」

 あやせが着ていたのは制服ではなく橘花学園の広報用の衣装。一体なぜこのタイミングで…?

 直接理由を聞きたいと思いあやせの方に近づこうとしたその時、ちょうど理事長がやってきてあやせを連れてどこかへ行ってしまった。

「………」

「暁、考えていても仕方ないよ。とりあえず部屋に戻ろうよ。早く片付けしないと間に合わないよ」

 恭平にそう言われて渋々部屋へと戻る。片付けというのは荷物の整理のことだ。今夜泊まるホテルは今いるホテルとは別のところなので荷物をすべてまとめなくてはならない。俺は頭の中がほぼあやせで埋まっている状況で荷物の整理を行うしかなかった。

 ホテル出発時間に間に合うように荷物をまとめ、ロビーに集合した後観光バスに乗り込む。俺の隣の席はあやせのはずだったが、予想していた通りあやせはバスの中にはいなかった。

 

~~~~~~~~~~

 

 結局、その日の行程中にあやせが俺たちと合流することはなかった。地域の史料館に行ったり観光名所となっている異文化あふれる街並みを歩いたりしたが、係の人の説明や美しい景色も俺には何も入ってこなかった。常にあやせのことが気がかりで仕方なかった。理事長の姿もどこにも見えないし、担任の先生に聞いても「何かあったらしいが詳しい話は聞かされなかった」と何も情報を得られなかった。

 俺たちが再会したのは旅行行程を終えホテルに到着してからのこと。大広間のようなところで夜ご飯を食べていると、そこにフラフラとあやせが現れた。

「あやせ…!!」

 俺は食事中ではあったが席を離れ、あやせの元へ駆けつける。

「え…?あ、暁ぅ……」

 あやせも俺のことに気付いたみたいで、俺の名前をつぶやいている。

それにしても、今の誰が見ても分かるほどに疲労困憊状態である。いつもみんなの前ではかかさない笑顔すら作る余裕がないほどに。

「大丈夫…じゃなさそうd」

「さとるぅぅぅぅ……」

「おわっ!?」

 おれがあやせの近くに来ると、思いっきり抱き着いてきた。疲れてるように見えて抱きしめる力だけはいつもと変わらないのだから、それだけ俺に会いたかったということだろうか。

 なんて考えてる場合じゃない。ここはホテルの大広間で夜ご飯中だ。いくらみんな談笑しながら食べているとはいえ、大勢の前で抱き合うとなると都合が悪い。

「あの、あやせさん」

「なによ、急によそよそしい呼び方しないでよ」

「いやですね、あの、周りからの視線が痛いのですが」

「え?あっ……」

 あやせがようやく気付いたらしく、俺に抱き着くのをやめる。だが、手だけは俺の体に触れたままでやはり離れたくないのだろう。

「あやせ、今日はいったい何があったんだ?心配したんだぞ」

「あー、うんちょっといろいろね…それよりごはん食べていい?お腹空いてるのよね……」

 そういうとあやせは俺から離れて食事の席に向かおうとする。が、その前に俺の耳元でこう囁く。

「今日こそは……後で私の部屋来て」

 

~~~~~~~~~~

 

 夜ご飯の後あやせの部屋に向かう。今日も21時半まではホテル内の移動は自由である。

 ドアをコンコンとノックするとすぐにあやせが出てきて俺を部屋の中に招き入れてくれた。

「暁、ちゃんと鍵閉めた?」

 俺はいったんドアの方を振り返りドアノブを数回ひねる。ドアが開かないことを確認し再度あやせの方を向いたその時。

「んー……っ」

「!?」

いきなり唇に柔らかいものが当たった。それが何かわかるまでさほど時間はかからなかったが、とにかく突然すぎてびっくりしてしまう。

「ちょ…あやせ、苦し……」

「や…だ、も…っと」

 あやせがいつもより積極的に求めてくる。俺としては嬉しいのだが、いつまでも部屋の入口付近でキスしているわけにもいかないので無理矢理あやせを離す。

「あっ……」

「やけに、積極的、だな…」

「うぅ、ごめん。ほんとだったら修学旅行中はずっと一緒に居られるはずだったのに、今日一日会えなかったから……」

「いや、別にいいんだ。とりあえずどこかに腰掛けよう。あと、そうだ。なんで今日俺たちと一緒に居なかったんだ?」

 二人で並んでベッドに腰を下ろすとあやせは話し始めた。

「初日にテーマパーク行ったじゃない。あそこでマスコミの人がたくさんいたの覚えてる?」

「ああ、いたな。そういえば」

「そこで、私がこのあたりに来てるってことが地元のマスコミに広まって、それでアストラル関係の取材申し込みが殺到したらしいのよね……普段取材しようと思ってもなかなかできないらしくてね、それでいい機会だって」

「そうだったのか…修学旅行中なんだから断ればよかったんじゃないのか」

「それもそうなんだけど、でもやっぱり断れなくてね……」

 そこはあやせらしく、責任感の方が勝ってしまったといったところだろうか。もしくはマスコミに押し切られたのか……。

「それで、昨晩は取材の打ち合わせをしたり原稿を書いたりで忙しくて」

「で、今日の日中はずっと取材だったわけか」

「そう。ごめんね、連絡もせずに心配かけちゃって……」

「いや、いいんだ。本当にお疲れさまだな」

 頭をそっとなでると、あやせは俺に体を預けてきた。その細くて華奢な体をそっと抱きしめると、あやせのぬくもりがしっかりと伝わってくる。

「ねえ、暁」

「なんだ?」

「今夜は一緒に寝よ?」

「いやちょっと待て、俺は恭平と相部屋だから部屋に帰らないと一晩中一緒に居るのばれるぞ」

「うぐぅ…そうだったわね…」

 夜中に一緒に居られない分、21時半の時間ギリギリまで精一杯甘えさせてあげようと思いあやせをさらに抱き寄せたその時。

「……暁のスマホ、鳴ってるわよ」

「ん?ほんとだ」

 俺のスマホがメッセージアプリの通知を告げている。見ると恭平からだった。

『暁って部屋の鍵持ってる?』

「なんだ…?『持ってる』…っと」

 送信してから束の間、恭平から再度メッセージが来る。

『高階に部屋に遊びに来いって言われてさ。多分夜も寝させてくれないだろうから。もし暁が部屋戻ってきたときに鍵持ってなかったら面倒なことになるからね』

 なるほど、すなわち恭平は今夜部屋にはいない。すなわち俺が部屋に戻らず、一晩中あやせの部屋にいても―

「どうしたの、暁?」

「いや、恭平が別の部屋で遊ぶらしくて、それで多分先生の目を盗んで一晩中遊ぶだろうから部屋の鍵持ってるかって……」

「ふーん、じゃあ帰らなくても問題ないってことかしら?」

 そう言うと、あやせは俺に勢いよく体重を預けてくる。既にあやせがもたれかかっていたこともあり、俺は簡単にベッドに倒されて、あやせの下敷きになってしまう。

「えっと…あやせ?」

「なによ、私だってこういうことしたい気分になるのよ」

 そしてあやせがまた唇を重ねてくる。いや、今度はただ触れ合うだけじゃない。あやせが無理矢理舌を俺の口の中にねじ込ませてきた。こうなると、こちらももう止められそうにない。

 そしてその後、俺たちの夜は長く続いていくのであった……。

 

~~~~~~~~~~

 

 翌朝、目を覚ますとそこはベッドの上。一糸まとわぬあやせが目の前にいる。

 時計を見るとまだ5時。今のうちに部屋に戻ればホテルの廊下には誰もいないだろうし恭平に気付かれることもないだろう。

 昨晩適当に脱ぎ捨てた服を着て、俺が起きたことに気付かず寝ているあやせの頭をそっと撫でる。部屋のドアに近づいて一時的にアストラル能力を使い、周囲に足音がないことを確認してから廊下に出る。そのまま一直線に俺の部屋に戻ると、まだ恭平は部屋に戻ってきてなかったらしく、とりあえず一息つく。

 そして、恭平が戻ってくる前に部屋着と下着を着替えてしまう。昨日のこともあり両方とも少し汚れている。寮に帰ってから洗濯しよう。

 さっと着替えて荷物をまとめる。ついでにお土産の買い忘れがないかも確認する。今日は修学旅行最終日だから買い忘れがないようにしないといけない。

 そうして時間をつぶしていると朝食の時間の直前に恭平も部屋に戻ってきた。まだ眠そうにしているあたり、かなり夜遅くまで遊んでいたのだろうか。

「暁ぅ、朝ごはん食べに行こう?」

「そうだな、そろそろ行くか」

 

~~~~~~~~~~

 

 朝食を食べた後はバスに乗り、最後の観光地に向かう。そこできれいな景色を見たり写真を撮ったりして思い出を作る。今日はあやせも一緒であり、彼女もとてもいい笑顔をしている。

 そして、午後になると旅行の地に別れを告げ学園へと戻る。帰りの飛行機の中でもあやせは涙目で俺の腕をつかんで離そうとしなかったが、さすがに疲れがかなりたまっていたのか途中からぐっすりと眠ってしまっていた。

 学園に着き、寮の中に入ると壬生さんとばったり出会った。

「あ、先輩方!おかえりなさい!」

「ただいま壬生さん」

「千咲さん、私たちがいない間に学園内で何かあったりしませんでしたか?」

「あやせ先輩ったら、さすが学生会長ですね。学園のことをいつも気にかけてくださってありがとうございます!でも大丈夫です!平穏無事でしたよ」

「そうですか、それはよかったです」

「あ、先輩先輩っ、お土産買ってきてくれました?」

「ああ、もちろんだ。千咲君と七海君、あと式部先輩の分もあるぞ」

「あ、そうだ!あとで暁の部屋でさ、皆でお土産食べようよ!僕お腹空いちゃった」

「まあいいけど…もうすぐ夜ご飯だろ?」

「いいじゃん、ちょっとぐらい!じゃああとで暁の部屋集合ね!」

「あ、じゃあ私七海ちゃんと式部先輩呼んできますね!」

「俺たち荷物の整理をしないといけないからゆっくりでいいよ。じゃあまた後で」

 いったん俺たちはそれぞれ自分の部屋に戻り荷解きをする。数日間ぶりの自室に少し懐かしさを感じながら鞄を開け、服やらお土産やらを取り出していると、ドアがコンコンとノックされる。

「暁君。入ってもいい?」

「七海か、今開ける」

 ドアを開ける。その途端、すごい勢いで七海が入ってきて俺をぎゅっと抱きしめてきた。

「……どうした急に」

「おかえりなさい…お兄ちゃん」

「お、おう、ただいま。七海」

「千咲ちゃんから帰ってきたよって聞いて急いで来たんだから…もう、帰ってきたのなら早く連絡してよ……」

「いや、連絡するほどのことでもないだろ。それかあれか?特班で何か俺に話さなきゃならないことでも?」

「何もないよ。ほんとにお兄ちゃんったら、妹の気持ちなんて知らずに……」

 七海がなにかぼそぼそ言っているが俺にはさっぱりわからない。というかそれよりも。

「そういえば俺の部屋に皆集まってお土産食べるらしいから、早く荷物を片付けないと」

「あ、わたしも手伝う。服は全部洗濯だよね?」

「ああ、そうだな……って」

 七海が俺の鞄を漁って服を出し始める。ちょっと待て、その中には……

「……あれ?暁君、この服汚れてない?」

「き、キノセイダロ」

「ん、こっちの下着も……え?もしかして暁君、修学旅行中にまさか、ねぇ?」

 まずい。これはまずい。七海の顔色が見る見るうちに変わっていくのがわかる。

「違うんだ七海。これにはちゃんとした訳があるんだ。頼むからそんな目で見ないでくれ!」

「ふーん、じゃあその訳とやらを聞かせてもらおうかな、さとるくん?」

 俺としたことが何というミスを!正直に打ち明けようかと覚悟を決めたその時。

「暁ー入ってもいい?」

「暁君、お姉さんへのお土産って何かな?」

「楽しみですねー!お土産!」

「そんなに大したものじゃありませんよ。あまり期待しないでください」

「中には七海君もいるのかな?在原君、そろそろお土産を食べないか?」

 タイミング悪く皆が来てしまった。七海の方を見ると相変わらずこちらをジトッとした目で見つめている。

「公開処刑しようかな」

「やめてください七海さんお願いしますそれだけはぁ!!」

 結局、皆の前でバラされることはなかったが、その日は夜遅くまで七海からの尋問が続いたのであった。

 


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