水平線上のノア   作:野生のムジナは語彙力がない

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あらすじを読み飛ばした方へ、本小説の楽しみ方をもう一度説明させていただきます。

◯楽しみ方
・あなたは指揮官です。(主人公)
・性別は指定していないので男女問わず楽しめます。
・指揮官のセリフは()で示されています。必ずしも()内のセリフを言っているのではなく、あくまでも()内のセリフは「こういう感じのことを言った」という意味なので、あなた様の口調に合わせてセリフを脳内で変換して下さい。


戦いばかりの日常に、たまにはたっぷりめな癒しを……
それでは……


プロローグ1

 

 

昔々、あるところにひとりの少女がいました。

 

 

少女は特別な力を持ってました。

それは一度使えば、人を幸せにも不幸せにも出来る強力な力でした。

 

その頃、世界は戦争ばかりが起きていました。

そんな中で、少女という存在は村人たちの希望でもありました。村人たちは力を持つ少女のことをもてはやし、少女は村人たちからの期待を一身に受けて成長していきました。

 

長い長い戦いの末に、

やがて戦争は終わりを迎えました。

 

村人たちは、昔に戦争があったことも忘れて平和な日々を楽しみ始めました。その一方で、存在意義がなくなり無用の長物になった少女のことを、村人たちは邪魔者扱いし始めました。

 

いつの時代もそうです。

人間とは、かつて世界に平和をもたらしたはずの存在であっても、ただ強大な力を持っているというだけで危険なものと見なし、遠くに追いやりたくなってしまう生き物なのです。

 

 

争いのなくなった世界に、

少女はいらなかったのです。

 

 

少女は旅立つことを決めました。

誰にも見送られることなく、生まれ故郷に永遠の別れを告げ、それから少女の長い長い旅が始まりました。

 

しかし、少女は寂しくはありませんでした。

 

その道中、少女は『傷だらけの大きな魚』と出会いました。少女は魚の力を借りて、村人たちの目の届かない暗闇に向かうことにしました。

 

やがて暗闇の底に辿り着くと、魚は力尽きて死んだように眠ってしまいました。

 

それからというもの、

魚の上で、少女はずっと待ち続けました。

 

この広い暗闇の中から

誰かが、いつか自分のことを見つけ出してくれることを信じて……少女はたった1人で、来る日も来る日も待ち続けました。

 

自分が必要とされる、その日が来るまで

自分を必要としてくれる人が現れるまで……

 

 

 

それから数百年の月日が流れました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンサーガ

非公式夏イベント『水平線上のノア』

プロローグ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新暦██(AD25██)年8月3日

エリア████ベース████

 

 

 

「ねー!ねー! 指揮官! 海行こう海!!!」

 

 

 

夏真っ盛りなその日……

程よく冷房の効いた執務室で、シェロンと共に書類作業を行っていた指揮官の元に、1人の来客があった。

 

(キラスター……急にどうしたの?)

 

指揮官はペンを握る手を止め、デスクの正面に身を乗り出すようにしている小柄な少女のことを見やった。

赤毛の短いツインテール、大きな瞳の奥には彼女のチャームポイントである星のマークが浮かび、元気いっぱいといったような表情で指揮官のことを見つめていた。

 

その少女……キラスター

かなり幼く見えるが、その中身は世界中を旅する凄腕賞金ハンターで、手にしたパンダちゃんハンマーでこれまで多くの賞金首を『ぶっ飛ばしてきた☆』のだと言う。

 

どういうわけかキラスターは水着姿だった。

基地内であるにも関わらず、大きく着崩した薄手のパーカー(ピンク色)の下にはビキニを着用しており、上下ともにセクシーな黒色ではあったものの、貧相な体つきの為それほど色っぽくはなかった。

 

「おい……今なんか、失礼なこと考えたでしょ」

 

(いや、そんなことないよ)

 

「本当に〜? 胸が小さいからって……」

 

(本当本当。それで、なんで水着姿なの?)

 

「それは勿論、海に行く為に決まってるでしょ☆」

 

そう言ってキラスターは『ばちこーん☆』という擬音が聞こえてきそうなウィンクをして見せた。

 

(もしかして、今から?)

 

「そう! 今から☆」

 

(あー……それなら1人で行ってきたら……)

 

「むー、1人じゃつまんないの!」

 

(じゃあ他の誰かを誘って……)

 

「誘ったよ! でも、姫様やヴァルハラのみんなどころか、基地のスタッフたちもみんな忙しいって言って、誰も話に乗らなかったんだ……もう、つまんないの!」

 

基地のスタッフはともかく、ヴァルハラの面々は流石に無理があるだろう……指揮官がそう思っていると、キラスターは可愛らしい上目遣いで指揮官のことを見つめてきた。

 

「指揮官は一緒に行ってくれるよね?」

 

(……それは)

 

指揮官はデスクの上に積み上がった大量の書類を見て、みんなと同じく自分も忙しい身であると、首を横に振った。

 

「ええー、そんなぁ……」

途端に、キラスターは悲しそうな表情になった。

 

「どうしても?」

 

(ごめんね)

 

「そんなぁ……しょんぼり」

 

(というか、何でそんなに海に行きたいの? ヴァルハラには海水浴の文化はそれほど浸透してはいなかったよね?)

 

「だって去年、みんなで海に行った時はすっごい楽しかったんだもん! だから今年もみんなで楽しくやりたいなって……」

 

(ああ、そっか……)

キラスターの言葉に、指揮官は去年のことを思い出した。

 

去年はそれほど忙しくなかったことに加えて、時間的にも余裕があったこともあり、普段お世話になっている基地スタッフたちを連れて、指揮官は海に行っていた。

 

事前にビーチを貸し切っていた甲斐もあってか、他の誰にも邪魔されず、ゆったりと楽しい時間を過ごす事ができたと、参加したスタッフたちの間では好評となっていた。

それは海水浴の文化がないヴァルハラ同盟出身のキラスターも同様だったようで、最初は水着を着ることにすら抵抗があったものの、終わってみると大変満足げな表情を浮かべているという有様だった。

 

「だから今年も楽しみにしてたんだー」

 

頑張って準備した甲斐あって出来た海水浴。

キラスターがこうして水着姿で基地内を歩き回るほど心待ちにしてくれていると思うと、指揮官はやってよかったと心の底から思えた。

 

(そういえば、もう夏なんだね……)

 

去年の夏がつい最近のことのように思える……季節が巡る早さに、指揮官は感慨深いものを感じるのだった。

 

(ん……分かった)

 

そこで指揮官は、自分でよければ付き合うという旨のことをキラスターに伝えた。すると、キラスターは顔を上げて瞳を輝かせた。

 

「え!? いいの! 本当に!?」

 

(うん……と言っても、準備とかしないといけないから今からってのは流石無理だけど、そのかわり明日だったらいいよ。それまでにここにある仕事を全部終わらせるから……それでどう?)

 

「明日ね! やったー☆」

 

(≧∇≦)

こんな感じで、キラスターはとびっきりの笑顔を浮かべ、喜びを露わにした。

 

(あ、それとさ……)

 

「んー? 何ー?」

 

(水着、相変わらずよく似合ってる)

 

「むー……それってつまり……あたしの体が去年と比べると全然成長してないって言いたいわけ?」

 

(いや、そんなつもりは……)

 

「なーんてね。えへへ……指揮官にそう言ってもらえると、なんか嬉しいなって。それじゃあまた後でね!」

 

元気よく走り去っていくキラスターを見送った後、指揮官は書類作業を再開した。

 

(シェロン、どう思う?)

 

指揮官はペンを握る手を動かしつつ、隣のデスクで黙々と書類整理をしているシェロンへと尋ねた。

 

「んー……シーズンだし、今から海行くってなると、どこも混んでるでしょ」

 

(そうだよね。予約するにしても今からじゃ無理だろうし……まあ、比較的人の少ない小さなビーチくらいだったらなんとか大丈夫そうかな)

 

「というか、明日の分の仕事はどうするわけ?」

 

(今日の内にやれるところはやっておくよ。それに海に行くって言っても、去年と比べると今年は規模もそんなに大きくないから……ん、少し遊んで帰った後にちゃんとやるよ)

 

「それはそれで大変じゃない?」

 

(それはそうだけど……やっぱりスタッフ達にも息抜きは必要だし、それに自分が必要だって言うんだったら、それくらい付き合うさ。というわけで、ついでに何人か誘ってみようかな。シェロンも行く?)

 

「やだ。外は暑いから」

 

(だよねー)

 

いつもと変わらないシェロンに小さく苦笑しつつ、指揮官はペンを机の上に置き、考える素振りを見せた。

 

(インターンシップで来てるA.C.E.学園の生徒たちは林間学校があるそうだから除外して、それ以外で連れて行けそうな人は……)

 

指揮官が誰を誘おうかと考え始めた時だった。

 

 

 

『あー、あー、マイクのテスト中〜』

 

 

 

ん……?

突然、天井の隅に設置されたスピーカーからそんな声が響き渡った。声の反響具合から、それが基地内全域を対象にした全館放送であることが分かる。

 

「指揮官、この声……キラスター?」

 

(そうだね。でも、なんか凄く嫌な予感が……)

 

 

 

 

 

『みんな〜! 指揮官が海に連れて行ってくれるんだってさ! というわけで、指揮官と一緒に海に行きたい人は明日の朝、司令部の前に集合ね〜☆』

 

 

 

 

 

ガタッ

放送を聞くなり、指揮官は勢いよく立ち上がった。

 

「んー……アニキ、どうしたん?」

 

(ちょっと……行ってくる)

 

「そう、行ってら〜」

 

執務室を飛び出した指揮官は、そのまま何処かへと走り去ってしまった。その間も、キラスターによる全館放送は続く……

 

 

 

『繰り返すよっ☆ 指揮官が海に連れて行ってくれるんだって……』

 

『(キラスター!!!)』

 

『ん? ああ、指揮官どうしたの?』

 

『(なにしてんの……)』

 

『あー、これ? どうせ行くんだったら、みんなで行った方が楽しいでしょって思って、いやいや、絶対そっちの方がいいでしょ! というわけで、こうして全館放送で基地のみんなに海行こうって呼びかけているの☆』

 

『(それはそうかもしれないけど……でも、大人数を連れて行くのはちょっと無理だから! ビーチだって予約してないからね?)』

 

『えー、指揮官だから何とか出来るでしょ』

 

『(指揮官だって出来ることと出来ないことが……とにかく一旦落ち着いて、今すぐ放送をやめようか!)』

 

『ちょっ……ひゃん! ど、どこ触ってんのよ! この変態!』

 

『(人聞きの悪いことを……そもそも基地内を水着姿で歩き回る人に言われたくない!)』

 

『離せー、おっぱい触んな!』

 

『(触ってない!)』

 

『今すぐ離さないと████燃やすぞ☆』

 

『(女の子がそんな言葉遣い……いけません!)』

 

 

 

「なにこれ……」

 

執務室に1人残されたシェロンは、スピーカーから聞こえてくる2人の喚き声を聞き、ため息と共に肩をすくめて見せた。

 

 

 

こうして、一時的にとはいえキラスターによって発信されてしまった『指揮官主催の海水浴』の情報は、基地のネットワークを通じて瞬く間に世界へと拡散されてしまい……

 

 

 

翌日の朝……

司令部前

 

 

 

(嘘ぉ……)

 

『指揮官の主催する海水浴』を目当てに、司令部の前に集まった基地スタッフ、パイロット、そして各国要人達……その数およそ60名の姿を見て、指揮官は途方に暮れることとなった。

 

その中には、どこでこの話を知ったのか……ヴァルハラの女大公であるトリスタとレイア、そしてアルセールの姿があった。極め付けは、機械教廷の教皇・スロカイと、彼女に仕える騎士達である。

 

最早、団体旅行である。

せいぜい5〜6人くらいで行く息抜きを想定していた指揮官にとって、この人数はあまりにも多すぎた。

 

「あちゃ〜、たくさん集まっちゃったねぇ」

 

司令室の中で指揮官が頭を抱えていると、窓から下の様子を覗き込んでいたシェロンがのんびりとした様子でそう言った。

 

「どうすんの? 指揮官」

 

(今考えてるところ……)

 

指揮官が行こうと考えていた穴場スポットのビーチは小さく、60名も押しかければパンクしてしまうのは明らかだった。

 

ならば大きなところに行けば良いと考えるかもしれないが、夏真っ盛りの今、海水浴シーズンであるためどこの海も混雑している。そんな中へ身分も国籍もバラバラなメンバーが60名も押しかけるのだ、他の海水浴客との間で何かしらのトラブルが起こらないとは言い切れなかった。

さらに言えば、トリスタやスロカイなど一国の主人も参加しようとしていることから、それはVIPである彼女達の身を指揮官が預かると言うことを意味しており、十分に安全が確保出来なければとても実行に移すことができなかった。

本来であれば、その場所が安全かどうか十分な下調べを行なった上で貸切状態にし、最悪の事態を想定して海上封鎖や航空管制を行うことでようやく実現可能な話だった。

 

去年は実に2ヶ月もの期間を費やし、そうすることで何とか各国の要人達を誘うことが出来た。しかし、今からそれをやるとなると時間が圧倒的に足りず、どうやっても不可能なように思われた。

 

(複数の場所に参加者を分散させるか……いや、それだと何かあった時に対処できないし)

 

「どうするアニキ? 事情を話して帰らす?」

 

(いや、参加者達の中には機械教廷やヴァルハラから遠路はるばるお越し頂いた方もいる……身分が身分だけに、手ぶらで帰すわけにはいかない)

 

「じゃあどうすんのさ」

 

(……今考えてるとこ)

 

「早くした方がいいよ? みんな待ってるっぽいし」

考える指揮官を見て、シェロンはため息を吐いた。

 

(ちょっと待って……後もう少し)

 

「んじゃあ、無人島にでも行ったら?」

 

(ん……それはちょっと、安全面で怖いかな)

 

無人島だと、他の海水浴客とのトラブルはなくなるが、その代わりに毒を持つ生物やサメとの遭遇など、別の問題が生じる恐れがあった。

 

(あ…………!)

 

1つだけあった。

ビーチを貸切状態にできて、60名もの参加者を収容できる広さがあり、さらに安全性も十分に確保された場所……いや『島』が

 

「どったの?」

 

(シェロン…………ナイス!)

 

指揮官はシェロンへそう告げると、服のポケットから個人用端末を取り出し、そして世界各地に派遣した機動部隊の状況を確認し始めた。

 

(この近くにいて今すぐ動ける機動部隊は……これだ! シェロン、悪いけど『ビッグ・キャリアー』に召集をかけて! それと多分、泊りがけになると思うから後お願い)

 

「ちょっ……!? それじゃあ仕事はどうすんのさ、言っとくけどあたしは代わりにやんないからね!」

 

(大丈夫、あっちでやってくるから)

 

「あっち……?」

 

指揮官は司令室にある自分専用の椅子へ向かい、椅子の側面にあった隠し扉からホットライン用の特別な受話器を取り出し、その番号へダイヤルを回した。

 

(……久しぶり、ちょっといいかな?)

 

 

 

プロローグ2へ続く……




初見の方は初めまして
作者のムジナ(略)と申します。

今回、ダッチーの代わりに夏イベントを作らせていただきました。それに当たって沢山のネタ提供をして下さったワルチャの方々には、本当に感謝申し上げます。皆様から頂いた貴重な意見は、すべて執筆の参考にさせていただいております。

ご意見ご感想等などがありましたら是非コメントへどうぞ
まだまだネタ提供も受け付けておりますので……
続きは明日投稿します。では、また…
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