水平線上のノア   作:野生のムジナは語彙力がない

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お帰りなさい! 指揮官様!

今回は前半にお仕事をして、後半に遊ぶ回です。
シャロやアルトたち賞金ハンター組とビーチバレー
しかし、そこへ謎の生物が現れて…?

それでは、続きをどうぞ……


第1話:ビーチバレーと謎の生物

非公式夏イベント『水平線上のノア』

第1話:ビーチバレーと謎の生物

 

 

 

島に到着してから約1時間後……

 

 

 

(ふぅ……これくらいでいいかな)

 

「指揮官、こっちはこれでいい?」

 

(見せて……ん、よく書けてると思う)

 

「オッケー? ならこれで終わりねー」

 

指揮官とシェロンは『島』の奥底にあるコントロールルームの設備を借りて、基地から持ってきた仕事を一通り終わらせることができた。

 

「あ〜、疲れたぁ……」

 

(シェロン、お疲れさま)

 

「そっちもね〜、ふわぁ……」

 

小さく息を吐いて背伸びをするシェロンに指揮官が労いの言葉を送ると、シェロンは欠伸交じりにそんな返事をした。

 

「お疲れ様です。主様」

 

指揮官が周囲に広がる電子スクリーンを解除すると、ちょうど目の前に『ノア』の姿が現れた。その手には、冷たいドリンクの入ったボトルが握られている。

 

(ノアも、手伝ってくれてありがとう)

 

「いえ、お安い御用です」

 

指揮官がボトルを受け取ってお礼を述べると、『ノア』そう言って小さく頭を下げた後、続いてはシェロンの方へ歩み寄った。

 

「シェロン様も、お疲れ様です」

 

「お、サンキュー」

 

ドリンクを受け取ったシェロンは、さっそくボトルを煽って一息つくと、すぐさま『ノア』の方へと振り向いた。

 

「それにしても、あんた優秀じゃん」

 

「優秀? 私がですか……?」

 

シェロンの言葉に、ノアは小さく首を傾げた。

 

「そうそう。情報処理のスピードも精度もあたしより上みたいだし、いっそのこと、あたしと立場代わってくんないかな?」

 

「?」

 

「そんでもって、あたしは仕事せずに一日中ごろごろと過ごして、指揮官の脛をかじってのんびり定年を迎えたいなって……なんて、どうよ?」

 

(んー……それはちょっと)

 

相手に何のメリットも示さず、シェロンは『ノア』にそんな提案をしてみせた。というか半世紀近くだらけるつもりなのだろうか……シェロンの話す人生設計に、指揮官は苦笑した。

 

「指揮官には聞いてないよ。あ、じゃあいっそのこと……あたしにこの島の管理を任せてみない?」

 

「私の代わりに……ですか?」

 

「そうそう。で、どうよ?」

 

「申し訳ありませんが、それは出来かねます」

 

「まあまあ、そこを何とか!」

 

「…………」

シェロンの言葉に、『ノア』は小さく息を吐いた。

 

「残念ですが、この箱……いえ『島』は、私なしで管理することは出来ません。そのように設計されているので……それに、私にはこの『島』を離れられない事情がありますので」

 

「あ、そう。まあ、そんなに上手い話はないよねー」

 

シェロンはがっくりと肩を落とした。

どうやら割と本気なようだった。

 

(というか、ここにはシェロンの好きなジュースもないけどいいの? お菓子にマンガやゲームの新作だってそうだし、海のど真ん中だから配達も無理だし……)

 

「あ、そういやそうだったね〜」

 

指揮官の言葉に、シェロンはハッとなった。

 

「もう一つ付け加えると、この『島』は地下から特殊な磁場が放出されていますので、特殊な回線でも使わない限り、通信環境が非常に悪いです。なのでインターネットにも繋がりません」

 

「え、マジで?」

 

「まじです」

 

「そっか、じゃあいいや」

 

さらに『ノア』が付け加えると、シェロンは『島』の管理に対して完全に興味を失ったように、その場で肩をすくめてみせた。

 

(というか、今の職場に何か不満が?)

 

「いやー? 指揮官のところで適当にやるだけでお金が貰えるっていうんだったら、特に不満はないかなー。管理人になりたいって言ったのは、ちょっと言ってみただけー」

 

(さいですか)

小さく咳をして、指揮官は『ノア』に視線を移した。

 

(まあとにかく、ノアが居てくれたおかげで本当に助かったよ。仕事がかなり捗ったというか……)

 

「そうでしょうか」

 

(本当本当。2人だけじゃ、2〜3時間くらいかかってもおかしくなかった量だったし……浮いた時間の分、ゆっくり出来そうだよ。ありがとう)

 

「そうですか、それは何よりです。ただ……」

 

(ただ?)

 

「一つ言わせてもらいますと……先程から、シェロン様が主様をお手伝いしている場面を拝見させていただきましたが、シェロン様も十分に優秀なお方だとお見受けしました」

 

「え? あたしが?」

それを聞いてシェロンが反応する。

 

「いやー、そんな事ないってー。あたしはただ、テキトーに指揮官の手伝いをしてるだけでさぁ、これくらい誰にだって出来ると思うよー?」

 

(確かに、シェロンは優秀だよ)

 

「むー、指揮官までそう言う……おだてても何も出ないんだからね?」

 

自分が優秀であることを軽く否定するシェロンに、指揮官は「おだててる訳じゃない」……と、続けた。

 

 

 

一見すると、パイロットの傭兵ランクや撃墜数、そして能力がものを言うこの業界だが、無論、それだけが全てではなかった。優秀なパイロットたちが多大な戦果をあげる裏側には、それを後押しする者たちの努力があってこそのことなのだ。

 

どんなに高性能な機体であっても、それを扱うものが未熟では意味がない。それは逆もまた然りである。

どんなに優秀なパイロットでも、使う機体がボロボロでは意味がない。故に、多くのパイロットは機体を修理する整備士を必要としている。

そして整備士は修理に必要な資源を得る為に、それらの調達役の存在が必要不可欠であり、その調達役もまた、仕事を取り仕切る上の人間を必要としている。

 

そんな彼らを統率する最上位の存在である指揮官もまた、彼らの存在があって始めて指揮官であることが出来た。それは傭兵業に限った話ではなく、このように『他の誰かを必要とする』サイクルがあってこそ、世界は回り続けることが出来るのだ。

 

ベカスや黒騎士など、高い戦闘能力や強力なスキル・ステータスを持った者たちだけが優秀という訳ではない。

 

肝要なのは、このサイクルの中で自分に何が出来るかということだ。

その中で誰かに必要とされ、自分の力をしっかりと把握し、自分に出来ることやっている……そういう意味でも、シェロンもまた優秀な人材であると言えた。

 

 

 

(シェロンには常日頃から仕事を手伝って貰ってるし、たまに基地司令代理を任せる事があっても、何だかんだ言いつつもしっかりと代理の役割を果たしてくれる辺り、優秀だなって……)

 

「それは、押し付けられたから仕方なく……」

 

(それに……せっかくのバカンスなんだから、いつもみたく部屋でゲームしたり、みんなと一緒に海で遊んでてもいいのにさ。押し付けた訳でもなく、こうして仕事に付き合ってくれるところもね。だからシェロンがウチに来てくれて、本当に良かったって思ってる)

 

「それは……だって、指揮官のことほっとけなかったっていうか……ただの気まぐれでやってただけだし……」

 

(その気まぐれがとっても嬉しいよ。シェロン、ありがと)

 

「ッッッ……ど、どういたしまして!」

 

気恥ずかしそうにしながら、そう言ってシェロンは指揮官から視線を逸らすようにして顔を背けた。

 

「なるほど。一つ宜しいでしょうか」

 

(何かな、ノア?)

 

「先程から主様とシェロン様のやり取りを見ていて気づいたのですが、お2人の相性は大変宜しいようにお見受けしました」

 

「〜〜〜っ!?」

『ノア』の言葉に、シェロンは珍しく赤くなった。

 

(まあ、長い付き合いだからね)

指揮官は最初の頃を懐かしむようにそう告げた。

 

「べっ……別に、指揮官の為にやってる訳じゃないから! あたしはただ、自分が楽をしたいから指揮官のところにいるだけで、相性が良いって言われても全然嬉しくなんて……」

 

「なるほど、これがつんでれというものですか」

 

「っ!?」

 

最早、何を言ってもボロが出るだけということに気づいたシェロンは咳払いを一つして、気を取り直したかのように指揮官へと視線を送った。

 

「ほんっと、調子狂う……こんなんあたしのキャラじゃないから! あーもうッ! 指揮官、仕事終わったんならさっさと遊びに行くよ!」

 

(そうだね、水着に着替えたら行こうか)

 

シェロンの言葉に頷き、指揮官はコントロールルームを出ようと椅子から立ち上がった。

 

(ノア、みんなが今どうしてるか分かる?)

 

「お調べしますか?」

 

(お願い)

 

「分かりました。」

 

ビーチへ行く前に、みんなの状況が知りたかった指揮官が『ノア』にそう尋ねると、彼女は小さく頷いて目を瞑った。

すると、彼女の周囲に青白い光で形成されたアンテナのようなものが浮かび上がり、そこから目に見えない何かが放出され始めた。

 

「レーダーを使ってお調べします。少々お待ちを……」

 

「え、すごーい。そんな事もできんだ」

『ノア』の体が不思議な光に包まれ、神秘的とも呼べるその光景を、すぐ隣で見ていたシェロンが感心したような声をあげるが……

 

 

 

「ぴこーん、ぴこーん、ぴこーん」

 

 

 

突然、『ノア』の口から間の抜けたような声が出た。

 

「え?」

シェロンは思わず疑問符を浮かべた。

 

「ぴこーん、ぴこーん……」

 

その間も『ノア』は、あたかも自分はレーダーであるかのように振る舞い、いかにもレーダーっぽい擬音を口にし続けている。その光景は……本人は至って真面目な顔をしているが、その分とてもシュールなものだった。

 

「え、何……ちょっと怖いんだけど……」

 

「お気になさらず。ぴこーん、ぴこーん……」

 

「あー……なるほど。その『ぴこーんぴこーん』ってので人の居場所を探り当ててるってことね。音を反響させるなりして……」

 

「いえ、こうすればレーダーっぽいかと思いまして、気分的に……」

 

「えぇ……? 意味ないんかーい」

 

それから少しして、例の『ぴこーんぴこーん』というレーダーっぽい擬音が聞こえなくなると、『ノア』の周囲からアンテナがフッとかき消え、彼女は指揮官の前でゆっくりと目を開けた。

 

(どう、分かった?)

 

「はい。ノアちゃんレーダーによりますと、皆さま勢力ごとに分かれて身内同士で遊ばれているようです。見た限りではありますが、特に争っているような雰囲気は感じられませんでした」

 

「ノアちゃんて」

シェロンは小さくツッコミを入れた。

 

(そっか、ありがと)

 

「それでは主様、ごゆるりとお過ごし下さいませ」

 

指揮官がお礼を告げると、『ノア』はいつも通りの無表情で小さく頭を下げた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

その後、水着に着替えた指揮官は改めてシェロンを海に誘いに行くも、彼女は持ってきた携帯ゲーム機をいじり始めて止まらなくなっていたので、仕方なく、1人でビーチに向かうこととなった。

 

洋館からビーチへと続く森の小道に入ると、木々の間をすり抜ける涼しげな風と、独特な静謐さが指揮官の体を包み込んだ。さらに歩みを進めると、海側に近づいているのか、涼しげな風の中に潮の香りが入り混じるようになり、静謐さの奥に波の音が聞こえてくるようになった。

 

森の小道を通り抜けてビーチへと辿り着くと、指揮官の目の前に、碧い輝きを放つ大海原が現れた。

 

白い砂浜、穏やかに押し寄せる白波、どこまでも続く水平線、遠くの方には巨大な積乱雲が立ち込め、その一方で『島』の周囲は晴れきっており、蒼く澄んだ美しい空が広がっていた。

 

砂は踏みしめるたびに心地よい音が鳴り、波の音と合わさると夏らしいハーモニーを奏でられているようだった。さらに海側から吹き付ける涼しげな風は心地よく、夏特有の強烈な日差しも気にならない程である。

 

(…………ん)

 

海に出た指揮官は、しばらく周囲の情景を楽しんでいると、波や海風の音に混じって、遠くから少年少女たちの楽しそうな声が聞こえてくることに気づいた。

指揮官がその場所に目を向けると、すぐ近くでビーチバレーが行われているのが見えた。

 

「シャロ、お願い!」

 

「分かった! ちょいさ!」

 

「龍馬、そっち行ったわ!」

 

「任せて! やっ!」

 

簡易的なものではあるものの、砂浜にポールを立ててネットを取り付け、アルトとシャロ、龍馬と曦夜……と、チームに分かれて試合が行われていた。

審判はグルミが務めているようで、コートの外に置かれた椅子に座り、真剣そうな眼差しで試合の行く末を見守っていた。

 

「あ、先生! おーい!」

 

そんな5人の元へ指揮官が近づくと、試合をやっていた内の1人……高橋龍馬が指揮官の存在に気付き、試合中であるにもかかわらず手を振り始めた。

 

「先生! こっちこっちー! うわっ!?」

 

だが、よそ見をしてしまったことで、龍馬は自分の方に向かってきたボールの存在に気づかず、龍馬の肩に当たったボールは勢いよく跳ね、そのまま海の方へ転がってしまった。

 

「赤チーム、ポイント」

 

「やった!」

 

「シャロ、ナイスだよ!」

 

グルミが得点を告げると、赤チームのシャロとアルトは嬉しそうにハイタッチし合った。

 

「ちょっと! 何よそ見してんのよ!」

 

「あはは……ごめんね」

 

「もう! あんたのせいなんだから、さっさとボール取ってきなさいよね!」

 

「うん、わかったー」

 

青チームの曦夜は龍馬のミスに小さく怒りつつ、海まで転がったボールを取ってくるよう言い放った。

 

(龍馬くん、邪魔してごめんね)

 

「ううん、先生のせいじゃないよー。そういう訳だから、ボール取ってくるねー」

 

(うん、気をつけてね)

 

龍馬の後ろ姿を見送ってから、指揮官は続けてバレーボールをしていた4人へと振り返った。

 

(4人とも、楽しんでる?)

 

「指揮官! とっても楽しんでるよぅ♪」

 

指揮官の問いに、まず始めに応えたのはシャロだった。表情と声色からして、とても機嫌が良さそうだった。

 

「指揮官もやらない? 楽しいよ!」

 

「どうせデスクワークばかりで運動不足なんでしょ、だったら少しくらい参加しなさいよ!」

 

続いて、アルトと曦夜が指揮官をバレーボールに誘ってきた。それを聞いて、指揮官はシェロンに運動不足を言えた口じゃないなと改めて実感するのだった。

 

(ん……そうだね、じゃあ一試合だけ)

 

少しだけ参加することを決めた指揮官は、ひとまず今行われている試合が終わるまで待っていようと、コートの外にいるグルミの隣に移動した。

 

(グルミ、副審はご入り用?)

 

「いや、1人でも大丈夫そうだ。この試合が終わるまでその辺りでゆっくりしていてくれ」

 

そんな言葉を交わし、指揮官が砂浜に腰を落ち着けると……何やらコートの方で騒がしくなっていることに気づいた。

 

「っていうかシャロ! あんた卑怯なマネしてポイント稼いだ癖に、何そんなに喜んでるのよ」

 

「いやいやいや! 卑怯なんかじゃない! これは作戦なの!」

 

見ると、シャロと曦夜が言い争いをしていた。

 

「作戦? 人の隙をつくことのどこが作戦って言いたいわけ? それとも何、普通にやってちゃ勝てないからって、こんな卑怯なやり方でポイントを稼ぐのがあんたの作戦って訳なの?」

 

「はぁ!? ポイント取られたのはそっちのミスが原因でしょうが! 弱いからって変ないちゃもん付けないでよ!」

 

「何よ、シャロの癖に!」

 

「何よ! 曦夜!」

 

……なんでこの2人はしょっちゅう喧嘩するかなー

そう思いながら指揮官がコートの中を見ていると、言い争いを止めるべく、勇敢にもアルトが2人の間に入っていった。

 

「ま、まあまあ……2人とも落ち着いて……」

 

「「うっさい!!!」」

 

「…………すみません」

 

……こういう時は息ぴったりなんだけどなー

2人の激しい剣幕に、思わず引き下がってしまったアルトは、指揮官へと目配せして助けを求めてきた。

2人の争いを止めるべく、立ち上がろうとした指揮官だったが、その途中でグルミに腕を掴まれて止められる。

 

「僕が行こう、こういう時のための審判なんだろ」

 

(ん……じゃあ、お願いね)

 

「了解だ。おい……2人とも、そこまでだ」

 

審判の席を立ったグルミは、そのまま言い争いをする2人の元へと駆け寄った。そんなグルミの後ろ姿に頼もしいものを感じつつ、指揮官はふと海の方へ視線を向けた。

 

(そういえば龍馬くん、遅いな……)

 

海側に転がったボールを追いかけて行ったまま、なかなか帰ってこない龍馬の姿を探すと、すぐに彼の姿を見つけることが出来た。

 

彼はちょうど、プカプカと波間を漂うボールに泳ぎ着いたところだった。掴み損ねないようボールを大事そうに抱えた龍馬は、それをビート板がわりにして浜辺側へ泳ぎ始め……

 

(…………え?)

 

次の瞬間、指揮官の視界から龍馬の姿が消えた。

少し遅れて、浮力を持ったボールが海の中から飛び出してくるのが見えた。

 

(龍馬くん!)

 

最悪の事態を想定した指揮官の動きは早かった。

上着を脱ぎ捨て、それから自身にブーストをかけ、一瞬にして龍馬の姿が消えた地点まで移動すると、そのまま海中へ身を投じた。

 

海中で何やらもがくようにしている龍馬を見つけると、指揮官はその体を抱きしめるようにして掴み、海面に顔を出した。

 

「ぷはっ……」

 

(龍馬くん、大丈夫!?)

 

「はぁ……はぁ……僕は大丈…………ひゃあああ!?」

 

(……!?)

 

溺れかけた龍馬を救出して、指揮官がほっと息をつこうとした時だった。突然、指揮官の腕の中で龍馬は悲鳴をあげた。

その只ならぬ様子に戸惑った指揮官だったが、何やら海中に龍馬以外の何者かの存在を感じて下を見ると、うっすらと彼の下半身に何かが張り付いているのが見えた。

 

「え……え?」

 

それは龍馬の体からゆっくりと離れ、まもなく2人の目の前に浮かび上がった。赤い皮膚、柔軟な8本の脚、そして吸盤……

 

「あ……僕の水着……」

 

(タコ……?)

 

それは…………大きなタコだった。

波間に漂うその姿は、まるで赤いボールが浮かんでいるかのようで……さらに、どういうわけか龍馬がつい先ほどまで着ていた水着を抱えるようにして、8本の触手で大事そうに保持していた。

 

その場でしばらく見つめ合うようにしていた2人と1匹だったが、やがてタコは指揮官たちに興味をなくしたかのように潜水し、まもなく海中に消えてしまった。

 

(龍馬くん……立てる?)

 

「うん……って、足ついたんだ」

 

龍馬はきょとんとしたように海底を見つめた。どうやら先ほどのタコに襲われたことでパニックに陥ってしまい、正常な判断が出来なかったのだろう。

 

「先生、ごめんね……」

 

(いや、いいよ…………それよりも、前隠してね)

 

「うん…………うぅ、恥ずかしいよぉ……」

 

龍馬は顔を赤くして、丸出しになってしまった部分を手で隠した。

 

(というか、その……なんで女の子用の水着を?)

 

「えぇ!? 先生、今更……?」

 

(……とりあえず、陸に上がろうか)

 

タコに水着を持っていかれ、生まれたままの姿になってしまった龍馬を引き連れて、指揮官が浜辺に辿り着いた時だった……

 

「きゃああああああああああ!!!!!???」

 

どこからともなく少女の悲鳴が響き渡った。

指揮官が声のする方に目をやると、悲鳴はちょうど5人がビーチバレーをやっていたところから聞こえていた。

 

「な……何よ、これ!?」

 

シャロがタコに絡まれていた。

しかも、タコの触手には龍馬の水着が挟まっており、その個体が先ほどの龍馬を襲ったものと同一のものであることが分かる。

 

触手についた吸盤を利用して、タコはシャロの上半身まで上った。シャロはタコを振るい落とそうと必死にもがくも、吸盤の力は凄まじく、1人の力では振り払えないようだった。

 

「し……シャロ!?」

 

「なんだこれ……タコ?」

 

「うえっ……デビルフィッシュとか気持ち悪……」

 

海から離れた砂浜に突如として姿を現した大きなタコを、アルト、グルミ、曦夜の3人は怪訝そうな目で見つめた。

 

「い……いいからさっさと助けてよ! ひゃああ!?」

 

「あ……ごめん!」

 

シャロの叫び声にハッと我に帰ったアルトは、慌てて彼女の元へ駆け寄ると、タコを掴んで引き剥がしにかかった。しかし、タコのヌメヌメとした皮膚はいくら掴んでも滑ってしまうようで、なかなか引き剥がせないでいる。

 

「ア……アルト! 早く引き剥がしてよ!」

 

「そ……そう言われても、コイツ滑って……」

 

「変なとこ見るな! 変態アルト! スケベ!」

 

「み、見るなんてそんなこと……」

 

「早くしてよ! そうしないと……ひゃん! こ……このタコ、触手の感触が気持ち悪くて、しかも水着の中に入って……うぇぇ……なんか水着脱がそうとしてるんだけど!?」

 

「もう少し……もう少しで…………やっ!」

 

やっとの事で、シャロの水着に絡みついていた触手を引き剥がすことに成功したアルトだったが……

 

「うわっ!」

 

勢い余って、アルトは後ろから砂浜に転倒してしまった。しかも、彼の災難はそれだけに留まらず……チラリとアルトの顔を見たタコは、今度はアルトの体に纏わりつき始め……

 

「うぐっ……触手が、気持ち悪い……」

 

タコの触手が胸板に張り付き、そのあまりの気持ち悪さにアルトの口からくぐもった悲鳴が漏れる。アルトの体に触手を這わせるタコの動きは、まるでアルトの体から水着を探しているかのようだった。

 

「アルトくん!? まずい……助けないと!」

 

「ちょっと!? あいつ何やってのよ!」

 

それを見たグルミと曦夜は、慌ててアルトの元へと駆け寄った。

 

「この……アルトくんから離れろ!」

 

「離れなさい! このエロタコ!」

 

 

 

「え……なんかあたしの時と反応違くない……?」

 

 

 

「何……!?」

 

「こいつ、逃げた……!?」

 

グルミと曦夜がタコに掴みかかろうとしたその時……どういうわけか、タコは自分からアルトの元を離れると、3人から距離を置くようにしてサッと飛び退いた。

 

それからタコは、急いで水着のズレを直すシャロと、砂浜に倒れたアルト、そして臨戦態勢を取るグルミと曦夜を見回し……まるでため息を吐くかのように触手を動かすと、砂浜を走り去ってそのまま海の中へ消えてしまった。

 

「えっと………」

 

「今の……何なのよ?」

 

シャロと曦夜は、つい先ほどまでの言い争いなど、まるでなかったかのようにお互いに目を見合わせた。

 

「アルトくん、大丈夫かい?」

 

「うん、なんとかね……」

 

グルミの手を借りるようにしてアルトは身を起こした。それから親切なことに、グルミはアルトの体についた砂を手で払い落とし始める……

 

(4人とも、大丈夫!?)

そこへ、指揮官が駆けつけた。

 

「指揮官。見ての通り、犠牲はシャロだけよ」

 

「生きてるよ!」

 

曦夜の言葉にシャロがツッコミを入れる。

 

(そっか……惜しい人を亡くしたね)

 

「指揮官まで!?」

 

(まあ冗談はこれくらいにして……こっちは龍馬くんがやられたよ)

 

4人の視線が指揮官の隣に立つ龍馬に向けられた。つい先ほどまで丸裸だったものの、流石にこのままという訳にもいかなかった為、指揮官は自身の上着を彼に羽織らせ、大切な部分が見えないようにしてあげていた。

 

「うぅ……僕なんかの為に、せっかくベカスが用意してくれた水着だったのに……」

 

「り……龍馬くんの水着が取られた……? あ、そういえば、さっきシャロはタコに水着を脱がされそうになってるって言ってたような……」

 

「う、うん……確かに水着を凄い力で引っ張ってきてたから、そんな風に感じたんだけど……」

 

「そういえばさっきアルトの体にタコが絡みついた時も、何となくだけどアルトの水着を探しているような感じではあったわね……」

 

(あのタコ……なんなんだろうね?)

 

先ほどのタコについて話し合っている時だった。

「ん…………」

指揮官はそこで、グルミが何か言いたげな表情をしていることに気づいた。

 

(グルミ、どうかした?)

 

「いや、ちょっと思い出したことがあってな……」

 

(思い出したこと?)

 

「ああ。僕は以前、シーギガント号の船員から勧められて『超弩級少女』(実際にあります)っていう日ノ丸の漫画を読んだことがあって。その中で、これと似たような話があったのを思い出してね……」

 

(それは……?)

 

「要約するとだな……ある日、主人公たちが海に遊びに行くんだが……そこへ海から巨大なタコが現れて、襲いかかるかと思いきや、何故かヒロインや他の海水浴客たち(女性)から水着を奪って持ち去るという展開の話があってだな……」

 

「それって……今の状況と似てるわ!?」

 

グルミの説明を聞き、曦夜はハッとなった。

 

「だから……まさかとは思うが、今回のこれもつまりそういうことなんじゃないかと思ってな……いや、あまりにもナンセンスな話だってことは僕自身、重々承知してはいるが……」

 

(だけど、現に龍馬くんの水着が奪われちゃったことだし……その可能性はないとは言い切れないよね。多分……)

 

グルミの言葉に指揮官は頷きを返すも、水着を盗むタコなんて……そんな事ある? と、内心は疑問符でいっぱいになっていた。

 

「あの……僕、女の子じゃないんだけど……」

 

「ぼ、僕もだよ……」

 

龍馬とアルトが控え気味に声を上げる。

 

(ん、知ってる。だからつまり、グルミが読んだ漫画とは少し違ってて、男の子の水着を盗もうとするタコなんだと……いや、シャロも襲われてたことを考えると、無差別ということになるのかな?)

 

「趣味の悪いエロタコね」

 

「一刻も早く捕まえないと!」

 

曦夜とシャロは不快感を示しながら頷きあった。

 

(だったら……)

 

指揮官はタコが消えた方向に視線を送った。

それはビーチの奥へと続いており、その先には機械教廷の面々やヴァルハラ一行など、タコの存在を知らない参加者たちがいるはずだった。

 

いくらタコが俊敏とはいえ、精鋭や武人揃いの参加者たちが遅れを取るとは思えなかったものの……龍馬が溺れかけたという前例があるため、油断はできなかった。

 

(グルミ、龍馬くんのことお願い)

 

「ん……ああ。それは構わないが、指揮官はどうするんだ?」

 

(とりあえず他のみんなに注意喚起をしてくる。今のところ、水着を盗むってだけで危険性はあまりないみたいだけど……一応、念の為にね)

 

「分かった。ここは僕に任せてくれ」

 

グルミとそんな言葉を交わした後、指揮官はその場の少年少女たちにビーチでは集団行動をするように義務付けると、他の参加者たちの姿を探してビーチの奥へと進んた。

 

 

 

第2話へ続く……




補足
オリジナルキャラクター:ノア
たったひとりで『島』の管理をする、子どもっぽい見た目の少女。ですが、それなりに歳はいってる(それなりに)。常に何事に対しても淡々としているが、ユーモアのセンスが皆無という事はなく、真面目に天然ぶりを披露する事も。そんな彼女は『島』の重要な秘密を握っているようで……
指揮官とは運命的な出会いをしており、それ以来、信頼を寄せている。

指揮官はブーストという能力を使えます。
なんの話かって……そりゃ、指揮官様がストーリーのバトル画面で機体の位置を変える時とかに使ってるあの機能のことです。

続きは明日投稿します。
次回はヴァルハラ勢と遊びます。
それでは、また……
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