水平線上のノア   作:野生のムジナは語彙力がない

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お帰りなさい、指揮官様!

今回の話は、前回に出てきたタコの捜索をしつつヴァルハラ出身者たちと一緒にスイカ割りをして楽しみます。


それでは、続きをどうぞ……


第2話:ヴァルハラ勢と魔のスイカ割り

非公式夏イベント『水平線上のノア』

第2話:ヴァルハラ勢と魔のスイカ割り

 

 

 

突如として出現したタコに龍馬の水着が盗まれてから数分後……指揮官は他の参加者たちを探してビーチを進んでいた。

 

 

 

(ん……この声は……)

 

しばらく歩いていると、どこからともなくテンション高めな女の子の声が聞こえてくることに気づき、指揮官はその場所へと足を向けた。

 

(やっぱり、キラスターだ……おーい)

 

「んぅ? あ、指揮官だー、やっほーーー☆」

 

海から少し離れた木陰にキラスターの姿があった。指揮官が手を振って呼びかけると、キラスターはブンブンと手を振り回して返事をした。

 

「指揮官……?」

 

しかも、木陰にいるのはキラスターだけではないようで……指揮官の声に反応して、キラスターの隣で涼んでいた4人の参加者たちも一斉に視線を向けた。

 

(ああ……トリスタ様にレイア様、アルセール様にリンダまで、ご一緒でしたか)

 

そこには、ヴァルハラ同盟に所属する3人の女大公と魔剣使いの姿があった。5人ともつい先ほどまで海水浴を楽しんでいたのだろう、水着姿の彼女たちの体は海水で濡れていた。

 

「君か。よもやこんなところで出会うとは」

 

急ぎ足で5人の元へ駆け寄った指揮官のことを、ヴァルハラ同盟を代表するかのようにしてグラン公国の女大公・トリスタが出迎えた。

 

(トリスタ様、ご気分のほどはいかがです?)

指揮官はトリスタの前に膝をつき、そう尋ねた。

 

「いや、悪くはないな。雪国のヴァルハラとは違って、ここは日差しが強い分、風がとても心地よく感じられる……それにこの景色だって、ヴァルハラに居るだけでは到底見ることの出来ないものだ」

 

トリスタはそう言って、目の前に広がる大海原を示した。

 

「穏やかに押し寄せる波の音色が、これ程まで心地よいと思ったのはこれが初めてだ。それもこれも、君がわたくしたちをここに連れて来てくれたからこそ感じる事が出来たのだろう……君には本当に感謝しているよ」

 

(光栄です)

 

「うん、楽にしてくれ」

砂浜に膝をついた状態で頭を下げる指揮官へ、トリスタはそう告げた。

 

「その、ごめんなさいね……押しかけるような形になっちゃったと思うんだけど」

 

指揮官が立ち上がると、イビルング公国の女大公・レイアが少しだけ申し訳なさそうな顔をしてそう言ってきた。

 

(いえ、そんなことはありません。むしろお忙しい中、来て下さっただけでも身に余る光栄と言いますか……何もないですが、ごゆるりとお過ごし頂ければ幸いです)

 

「そう、なら良かったわ。良い気晴らしをありがとう、君の心遣いを無下にしてしまわないよう精一杯楽しませて貰うわね」

 

レイアは親しみのこもった笑みを浮かべた。

 

「指揮官、私からも礼を言わせてくれ」

続いて、グングニル公国の女大公・アルセールがそう言ってきた。

 

「此度は、このような場にお招きいただき感謝いたします。慣れ親しんだグングニルの寒さもいいですが、暖かな気候というのも偶にはいいものですね!」

 

(そう言って頂けると、ご招待した甲斐があります)

 

「ああ、それと……ミョルニルから1つ言伝がある」

 

(言伝? アン様から?)

 

アルセールがミョルニルと呼ぶ、ミョルニル公国の女大公・アンは、諸事情により今回の海水浴に来れなかった内の1人だった。

最も、国の主であり多忙な日々に追われる彼女たちをヴァルハラの外へ連れ出すことが出来る機会など、指揮官の力を持ってしても難しい話なのだが……

 

「そうだ。『話は聞いている、ウチのキラスターが迷惑をかけたようね。今回、私は行けないから、代わりにキラスターをしばらくの間、貴方の下につけたいと思う。迷惑をかけたお詫びと思って、彼女のことをこき使ってあげて頂戴』……とのことです」

 

「ええ!?」

すると、すぐ近くにいたキラスターが反応した。

 

「……というわけだ。君は元々メイドなんだろう? ミョルニル直々の命令なんだから、指揮官の役に立てるよう精一杯頑張るといい」

 

「姫様、なんでぇ……?」

キラスターは納得がいかないような顔になった。

 

(……えっと、よろしくね?)

 

ミョルニル公国の女大公が、自分の為を思ってわざわざ申し出てくれたこともあり、流石に断る訳にはいかなかった。

とりあえずキラスターへ手を差し伸べた指揮官だったが、彼女は何故か指揮官の前から素早く飛び退いた。

 

「あたしのこと油断させようったって、そうはいかないんだから!」

 

(え? 油断……?)

 

「そうやってあたしを油断させて、いつかエッチなことする気でしょ!? 姫様の命令だから逆らえないのをいいことに、あたしに変な服とか着せたり、あられもないポーズを取らせたりして……」

 

(それって、いつも自分でやってることでは?)

 

指揮官はそこでキラスターとの出来事を振り返った。

浴衣を着ければ大きく着崩し、しかも大股開きでパンツを丸見えにし……ハロウィンの仮装ではサキュバスという色々とアレな格好をして指揮官を慌てさせ、極め付けはクリスマスにリボン(略)という……

 

「うっさい! そうして、あたしの熟れたナイスバディーを好き勝手お触りして、汚れた欲望を膨らませてあたしのこと傷物にする気なんでしょう!? エロ同人みたいに!」

 

(しないから!)

 

 

 

 

 

ーーー

 

[キラスターがパーティに加わった!]

 

ーーー

 

 

 

 

 

(それで、リンダも一緒だったんだ)

 

「……ん」

 

最後に、指揮官はヴァルハラ一行の陰に隠れるようにして後ろの方にいたリンダへと声をかけた。彼女は、今は亡きティルヴィング公国唯一の生き残りである。

 

(どう? 少しは楽しめてる?)

 

「……うん。楽しい」

 

(そっか)

 

視線を逸らしてボソボソと呟くように話すリンダだったが、レイアとの距離が前に見た時よりも少し縮まっていることに気づき、指揮官は心の中で安心するものを感じた。

 

「実は、去年のクリスマス以来……少しずつ会うようになっているの」

 

指揮官の視線に気づいたのか、レイアがそう答えた。

レイアが治めるイビルング公国は過去、リンダの属していたティルヴィング公国から激しい侵攻を受けており……その為、ティルヴィングが滅亡した後も、つい最近までこの2人の仲は険悪だった。

 

しかし、それも昔の話……

指揮官の仲介もあり、少しずつだがお互いを理解し合えるようになって、今ではレイアの方からリンダをイビルングの晩餐会に誘うようになってきたのだという……

 

「レイア、私に優しくしてくれる……」

 

レイアの言葉を肯定するかのように、リンダは指先同士をチョンチョンとしつつ、そう呟いた。

 

(レイア様……)

 

「ん……そう大したことじゃないわ」

 

指揮官の視線に、レイアは小さく微笑んだ。

 

「彼女を晩餐会に誘ったのは……ただ、私の祖国がどういうところなのかを知って貰いたかったからなの。その地に生きる人々の暮らし、穫れる農作物、見える景色、巡る風、似ているようで違う空の色、貴方の隣にいるのはこういう存在なのだと伝えたかったの…………かつての敵としてではなく、今を生きる1人の友人として」

 

「レイア……」

 

「勿論、クリスマスのお返しという意味もあるけどね♪」

 

少しだけ表情の和らいだリンダに、レイアはお茶目に微笑んで見せた。

 

「フッ……甘いな」

 

そんな中で、1人嘲笑を浮かべる者がいた。

それはトリスタだった。

 

「レイア。君の掲げる立派な平和主義的思想にはわたしくも思わず脱帽するよ。だが、過度な馴れ合いが必ずしも平和に繋がるとは考えないことだ。自国の状態をオープンにすることは……それは時に、自国の弱みを相手に教えるということを意味している。それにつけ込んで敵国に攻め込むのは、戦いの常套手段であり常識なのだよ」

 

そう言ってリンダに鋭い視線を向けた。

 

「特に、ここにいる彼女は同盟の中でただ1人、祖国を滅ぼされた身であり、しかも魔剣の呪縛に囚われていると聞く。いつ寝首をかかれるか分からないゆえ、深入りしすぎないのが最良だと思うが?」

 

「……っ」

 

トリスタの言葉に何も言えず、リンダは項垂れかけるも……だが、そんな彼女を庇うようにレイアはトリスタの前へ立ちはだかった。

 

「確かに、貴方の言葉は間違っていない」

 

「うん?」

首を捻るトリスタに、レイアは静かに続ける。

 

「貴方も知っての通り……同盟の中でも、私の祖国は最も弱小よ。強大な武力を持つグランやミョルニルとは違って、次に大規模な戦争があれば、私たちもティルヴィングの後を追うことになるのは明らか……そんな状態で、自分の弱みを見せるということは自殺行為と思われても仕方ないわ」

 

レイアの瞳に強い光が映った。

「だからこそ……!」

強い意志を込めて、彼女は続ける……

 

「力を持たないなりに、私は別の手段で故郷を守ってみせるわ! 脅威を取り除くには、武力だけが手段ではない……これからの時代に必要なのは、これまでの武力に頼り切ったやり方ではなく、戦わずして祖国を守る方法なのよ」

 

「それでは、これまでのヴァルハラは間違っていたと……レイア、君はそう言いたいのか?」

 

「いいえ、間違ってはいないわ。何故なら、これまでは生き残る為に武力が必要だったからよ。でも、これから先の時代は必ずしもそうとは言い切れない。この世界は常に変化し続けている……その時流に惑わされないようにするのに必要なのは武力ではないわ」

 

「では教えてくれ、変化する世界の荒波に呑まれないようにする為には……一体何が必要なのかを……!」

 

「彼女よ!」

 

そう言って、レイアはリンダを示した。

 

「わ、私……?」

 

「そう。いえ、正確に言えば貴方のような存在が必要と言った方が正しいわね。ヴァルハラの中の一国という立場では、世界の時流を見極める事は出来ない……ならば、様々な角度から見れば良いということ。その為に私は祖国の民の立場になって考えるだけではなく、この世界に生ける多くの人を知り、考えを知り、思想を知り、そして境遇を知る必要があるの。だからこそ私は、その内の1人であるリンダのことを必要としている……言い換えれば、彼女は祖国を守るための『鍵』になるから」

 

「私が……守る……『鍵』……?」

レイアの言葉に、リンダは少し戸惑った。

無理もない、祖国を滅ぼされてからというもの……目につくものを片っ端から破壊してきた彼女にとって、まさか自分がそんな役割を持っていたとは思ってもみなかったのだろう。

 

「多面的に見ることの重要さは、国同士の争いが起きた時にもその真価を発揮するわ。これまでのように、迫り来る脅威を武力を用いて排除するのではなく、逆に相手の立場に立って世界を様々な角度から俯瞰する……そうする事が出来れば、武力に頼らずとも解決策を見い出す事が出来る」

 

「甘いな。そんなことができるものか!」

 

「それはやってみないと分からなくて?」

 

「自信があるようだな。ならば刮目させて貰おうか」

 

間に鋭いものを走らせ、

トリスタとレイアは無言で見つめ合った。

 

「……まあまあ、2人ともそこまでです」

 

すると、一触即発な2人の間に、落ち着いたような表情でアルセールが割って入った。

 

「せっかく指揮官が用意してくださった憩いの場です。このようなところで、わざわざ小難しい討論をする必要もありませんし、ヴァルハラに戻ってからでも良いではないですか」

 

「「…………」」

 

涼しげな笑みを伴ったアルセールの言葉に、トリスタとレイアは改めて顔を見合わせ……

 

「少し熱くなり過ぎたか」

 

「そうね。頭を冷やしましょう……」

 

高まっていた緊張を解すかのように小さく息を吐く2人を見て、指揮官も思わず安堵のため息を漏らすのだった。

 

「ねぇ、リンダ」

レイアはリンダへと振り返った。

 

「私はもう、ティルヴィングの悲劇を繰り返したくはないの。争いはもう沢山……だから、これからの世界を生き残る為に、共に生きる未来を作るために、私に力を貸して欲しい」

 

「…………」

 

レイアの言葉に、リンダは少しだけ考え……

 

「今まで、私のこと……必要だって、言ってくれたの…………指揮官と、レイア…………だけ。だから……嬉しい…………少しだけ」

 

「じゃあ……!」

 

「……っ…………レイアの、イビルング、いいところ…………守りたい…………わ、私で……よければ」

 

「……ありがとう、リンダ」

 

 

 

祖国を侵略された者

そして、祖国を滅ぼされた者

 

どう取り繕っても、2人の間にあるその現実が消えることはない。だが、それでも前に進み続けなければならない……それが、多くの犠牲を経て得られたものであるのなら、尚更。

 

いつの日か、2人が心の底から分かり合える日が来ることを……指揮官は密かに願うのだった。

 

 

 

「ところで指揮官殿。何か私たちに用があったのではないですか?」

 

(ああ、そうだった……!)

 

アルセールに言われ、指揮官はハッとなった。

レイアたちの言葉に耳を傾け、思わず『水着を盗むタコ』のことを失念していた指揮官は、そこで改めて、ヴァルハラ出身の5人にそれを伝えるのだった。

 

「タコ……ですか」

 

(ええ。水着を盗もうとする以外に特に危険性はないとは思いますが、念のため警戒していて下さい)

 

首を傾げるアルセールたちへ、指揮官は警戒を促した。

 

「なるほどね! 水着を盗むことで、このあたしの熟れたナイスバディーをポロリさせるつもりなのね! なんて卑劣な……」

 

「まあ、それはいいとして……何故、そのタコは水着を盗もうとするのです? まさか水着を食べるためというわけでもないでしょう」

 

キラスターの言葉を遮ってそう聞いてきたアルセールに、指揮官は短く調査中だということを説明した。

 

(それでは、他のみんなにも伝えに行くので)

 

「あ、待ってください! もう1つだけ……」

 

(どうかしました?)

 

「実は、これですが……」

 

そう言ってアルセールが木の陰から取り出したのは……1本の木の棒と、大きなスイカだった。

 

「つい先程、参加者の1人だろうか……黒猫のような印象を受ける水着姿の少女から譲り受けたものなのですが……これをどうすればいいのか分からない。指揮官殿は何かご存知ですか?」

 

(黒猫……七瀬汐月? 何故これを?)

 

「いや、理由を聞こうとしたのですが……喋っている言葉が難しくて私には理解できませんでした。そこで指揮官殿は何か心当たりがないかと思いまして……」

 

黒猫、水着姿、スイカ、そして難しい言葉……

アルセールの言葉から、それが七瀬汐月で間違いないことに気づいた指揮官は……念のためにアルセールからスイカを受け取ると、ドアをノックする要領でコンコンと叩いてみた。

そして反対側に伝わる振動と音の反響具合から、それが身のぎっしり詰まった最高級のスイカであることに気づいた。

 

食べて欲しいのなら素直にそう言えばいいのに……汐月のヴァルハラ出身者たちに対する遠回しな好意に、指揮官は苦笑した。

 

「どうしました、指揮官殿?」

 

(いえ……何でもありません。それで、ヴァルハラの皆様はスイカ割りをしたことがないようですね)

 

「スイカ割り?」

 

 

 

指揮官はスイカ割りについて簡単に説明した。

 

 

 

「へぇ……これは食べ物なのね」

 

「グランにはない植物だ……」

 

指揮官の説明を聞くなり、レイアとトリスタは不思議そうな目でスイカを見つめた。本来、スイカやキュウリなどウリ科の植物は熱帯の植物でもあるため、北国出身の彼女たちにとっては物珍しいようだった。

 

「で……このスイカとやらを、一緒に渡された木の棒で叩き割れば良いと?」

 

「剣で切る方が……早そう……」

 

「そうだな。わざわざこんなもので叩かずとも、斬ったほうが……」

 

(まあまあ。手間だとは思いますが、それがスイカ割りの醍醐味ですので……まずはこれを使ってスイカ割りをしてみましょう)

 

それぞれ剣を取り出そうとしたアルセールとリンダを止め、指揮官はスイカ割りをする為に準備を始めた。少し離れた砂浜にスイカを設置し、キラスターから目隠し用のタオルを借りて、スイカ割りのルールを説明しつつ、お手本として木の棒をスイカに軽く叩きつけてみせた。

 

(……とまあ、こんな感じです)

 

「何でもいいから早くやってみようよ! さっきはあたしも色々考えすぎちゃって、すっかりお腹へったー」

 

(それでは、順番を……あ)

 

そこで指揮官は、スイカ割りについて熱心に説明するあまり、ついタコのことを忘れてしまっていることに気づいた。

何が起こるか分からないこともあり、急いで他の参加者たちのところへ向かおうと一瞬だけ思うも、先ほどのトリスタとレイアのやり取りから、もう少しだけ2人の様子を見守っておきたいと考えるようになり、そのままスイカ割りに参加することにした。

 

6人でスイカ割りの順番を決めた結果……

最初にレイア、続いて指揮官、トリスタ、キラスター、リンダ、最後にアルセールという順番になった。

 

「まずは私ね!」

 

木の棒を手にし、目隠しを巻いたレイアが勇んでスイカの前に立った。

 

(レイア様、頑張って下さい)

 

「こういう暴力的なのは苦手だけど、やってみるわ!」

 

指揮官たちの指示もあって、スイカに向かってゆっくりと歩き始めたレイアは、木の棒の間合いにスイカを捉えると、勢いよく振り下ろした。

 

「はあ!」

 

見事、レイアはスイカの芯にヒットさせるも……

しかし、スイカが割れることはなかった。

 

「うーん、やっぱり私の力では駄目ね」

 

(ですがダメージは入ったと思います。そもそも、一回で割れるようなものでもないので……お見事でした)

 

指揮官はレイアから目隠しと木の棒を受け取って、先ほどと同じくスイカの前に立った。そして背後から聞こえてくる指示を頼りに、スイカに向かい始めた指揮官だったが……

 

「右だ」

 

「えっと……1時の方向、目標まで約2メートル」

 

「違う、右に20度旋回だ」

 

「右、左…………えっと、どっちが右だっけ?」

 

「もっと右! 次は左! 上下上下ABAB! 一回転! はい、そこで大きくジャンプっ☆」

 

背後から聞こえてくる指示は微妙に違いがあり、指揮官は頭の中でそれらを統合しようとするも……その内の1つは、明らかに惑わそうとしているのが目に見えていた。

 

(そこか!)

 

なんとかスイカの位置を特定した指揮官は、勢いよく木の棒を振り下ろすも……スイカは思った以上に耐久性が高く、直撃したにも関わらず無傷だった。

 

(まあ、こんなもんかな)

 

「では、次はわたくしだな…………はっ! やったか? …………むぅ、駄目か」

続いてトリスタが挑戦するも、スイカは割れず……

 

「こんなもの! あたしのパワーで一撃よっ☆ たぁぁぁぁぁぁぁあ!!!…………どうだー……って、全然割れてない!?」

自信満々だったキラスターですら、スイカを割ることができなかった。

 

……スイカ割り用に汐月が改造したのかな?

キラスターの剛腕を持ってしても中々割れないスイカを見て、指揮官がそんな分析をしていると……ついにリンダの番がやってきた。

 

「リンダ、頑張って!」

 

「…………うん」

 

レイアの声援を受けて、リンダはゆっくりとスイカへ接近する。木の棒をしっかりと構えたリンダの体からは強烈なアトモスフィアが放たれ……

その場にいた一同は、それだけでもスイカを切り裂いてしまうのではないかと思うほどの、鋭いプレッシャーを感じることができた。

 

「どうやら私の出番はなさそうですね」

 

それを見て、スイカ割りを楽しみにしていたのだろう……ラストバッターのアルセールは残念そうに呟いた。

 

「そこだー! 思いっきり、いっちゃえーーー!!!」

 

「思いっきり……? うん……分かった……」

 

リンダは背後から聞こえてきたキラスターの言葉に頷くと「痛みは……一瞬…………」そう呟いて、彼女は魔剣の力を解放させた……

 

(……って! ちょっ待……)

 

指揮官が止める間もなく……リンダの持つ小さな木の棒が、全長60メートルの巨大な『大樹』へと変化した。もっとも、枝も葉もないのだが……

 

(えぇ、そんなユグドラシルじゃあるまいし……)

 

 

「切るッッッ!!!」

リンダは『大樹』を大きく振りかぶり……

 

 

「まずい! みんな避けろ!」

 

トリスタは絶叫した。

いつもの調子で大きく振りかぶってしまったことにより、リンダの背後にいた全員の真上に『大樹』が振り下ろされる形となった。

いち早くそれに気づくことができたトリスタ、アルセール、キラスターは迫り来る『大樹』から素早く飛び退くことが出来たものの……

 

「え?」

 

リンダの活躍を間近で見守っていたレイアだけは反応しきれず、その頭上に『大樹』の影が映り込み……

 

(レイア様! 間に合え……ッ!)

 

指揮官は自身にブーストをかけた。

そして、たった一瞬だけの超高速を発揮した指揮官はレイアを抱きしめると、勢いそのまま『大樹』の落下範囲から離脱することに成功……

 

まもなく猛烈な地響きと共に、『大樹』がつい先ほどまで2人のいた空間を押し潰した。

 

 

 

「……あああああああああッッッッ!!!!」

 

 

 

次の瞬間……張り裂けそうな絶叫と共に、リンダは目の前のスイカめがけて『大樹』を思いっきり振り下ろした。

砂浜に衝突したその一撃は大地を抉り、前方に巨大な衝撃波を発生させ、衝撃波は砂浜を通って海の向こう側へと消えていった。

 

(レイア様、ご無事ですか?)

 

「は、はい……」

 

砂浜の上に倒れこむ形となった指揮官は、腕の中で丸くなっているレイアの無事を確認し、安堵のため息を吐いた。

これでもし、彼女がどこか怪我でも負っているのであれば、国際問題に発展しかねなかった。

 

「あ、あの……」

 

(どうかしましたか!? どこか痛みが……)

 

「その……ち、近くて……顔が…………」

 

レイアの顔は真っ赤に染まっていた。

しかも、2人とも水着姿で密着している形となっている事もあり、お互いの温もりと肌の感触を直に感じられるようになっている。

 

(……失礼しました)

 

「い、いえ……その……ありがとう……」

 

お互いに気まずくなり、体を離した後も、2人は視線を合わせることが出来なかった。

 

「指揮官、レイア、無事か!」

 

(トリスタ様……はい、大丈夫です)

 

「私も無事よ。心配かけたわね……そっちは」

 

「大丈夫。全員生きてます」

 

「生きてるよぉ☆」

 

リンダのスイカ割りによって生じた砂煙が一帯を包み込む中、お互いに生存を報告し終えると、ちょうど海側から吹いてきた風が煙を森の方へと押し流し始めた。

 

そして、目の前に広がる光景を見て……

指揮官たちは言葉を失った。

 

「……レイア」

 

「な、なに……トリスタ……」

 

「君はこの光景を見ても、彼女が祖国を守る為の『鍵』になると言えるのか?」

 

「…………ごめん、ちょっと自信なくなってきた」

 

リンダのスイカ割りによって放たれた衝撃波は、先の砂浜を横断するようにして大きな亀裂を生み出し、遠くの方に見える海は真っ二つに割れていた。

 

「……? ……?」

 

しかし、その当事者のリンダは目隠しをしていた事もあり、自分がやった事を理解できていないようである。

 

「なるほど。生身の体でこれだけの威力を発揮することができるのは、良い抑止効果が期待できるな」

 

「違う……こんな筈では……」

 

目の前に広がる惨状を見て、リンダに対する考えを改めるトリスタに対し、レイアは複雑な気分になるのだった。

 

「うぅ……スイカぁ……食べてみたかったのに」

 

「大丈夫ですよ、キラスター。皆さん、スイカは無事です! これでまたスイカ割りを再開できますよ!」

 

魔剣の能力により木の棒の当たり判定が大きくなった事で、逆に当たらなかったのだろう。砂浜に転がっていた無傷のスイカを拾い上げ、アルセールは嬉しそうな声をあげた。

 

(いや、今そんな気分では……というか、他の参加者たちに被害がないか心配なんだけど……)

 

被害状況を確認しようと、指揮官が動き始めた時だった。

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ ヒルダぁああ!!!」

 

「髪が……私の髪がぁぁぁぁぁ…………」

 

 

 

(…………)

遠くから聞こえてきたその悲鳴に、指揮官は気が遠くなるのを感じるのだった。

 

 

 

 

 

リンダの放った衝撃波は、遠くの砂浜で相棒のケリーと共に砂風呂を楽しんでいたヒルダ(の頭頂部)を掠めるに至った。

 

命に別状はなかったものの、その結果、

ヒルダの頭髪はサイドを残して全て消失……

 

被害状況を確認すべく、慌てて駆けつけた指揮官が見たのは、頭頂部がハゲスキンヘッドになってしまったヒルダの輝かしい()姿だった。

 

ハイライトの消えたヒルダの瞳

変わり果てた同僚の姿に怯えるケリー

無理もない、女性の命とも呼べる髪がなくなってしまったのだ。あまりの惨劇に見ていられなくなった指揮官は、とりあえず好感度アイテム『育毛剤』(ブラドレイ用)をヒルダの頭に塗ってあげることにした。

 

製造元がオスカー製薬(仮)だった事もあり『育毛剤』がヒルダにもたらした育毛効果は凄まじく、彼女は一瞬にしてハゲからアフロヘアーへの変貌を遂げ、どうにか事なきを得るのだった。

 

伸び過ぎた髪を切るべく、ヒルダはケリー共に洋館へ戻って行った。その後、(アルセールの手によって普通に割れた)極上のスイカをみんなで味わい、そうして指揮官はキラスターを引き連れ、他の参加者を探してまた歩き始めるのだった。

 

 

 

第3話へ続く……




というわけでスイカ割りの回でした。
ワルチャの方々からは砂の中に生き埋めにした上でやって欲しいっていう意見がありましたが、指揮官様のところはブラック企業じゃないのでそれは流石に……
小説のストックがないので第3話は2日後以内に投稿します。

まあまあまあ
次回はアザラシをもふりつつサンオイルします
あるいはBBQ?
それでは、また……
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