前回に引き続き、タコを捜索してビーチを歩いていた指揮官とキラスターは、浅瀬の方でウサギやアザラシのペットたちと遊ぶ小さな影を見つけた。
語尾に☆をつければなんでもキラスターのセリフっぽく聞こえる説
それでは、続きをどうぞ……
非公式夏イベント『水平線上のノア』
第3話:真夏の幼女たち
ヴァルハラ出身者たちと別れてから数分後……
『水着を盗むタコ』の脅威を伝えるべく、指揮官とキラスターは参加者の姿を探してビーチを進んでいた。
「ねーねー指揮官、あそこに誰かいるよー?」
(あれは……グニエーヴルたちだ。行ってみよう)
海辺で遊ぶ複数の人影を見つけた2人は、彼女たちの元へと足を運んだ。指揮官が近寄ると、そのうちの1人……グニエーヴルもそれに気づいたようで、小さく頭を下げた。
「指揮官」
(グニエーヴル。どう、楽しめてる?)
「はい、お陰様で楽しませて貰っています」
(それは良かった。あの子たちも楽しそうで何よりだよ)
指揮官は海側へと視線を向けた。
浅瀬のところで基地の年少組であるアイリとドリスが楽しそうに水かけっこをしており、さらに2人の周りにはウサギ型ペットのフィービーとモモ、そして数種類のアザラシ型ペットたちがそれに参加していた。
グニエーヴルはそれを見守っているのだろう。
水着姿ではあったものの、その体が濡れていないところを見ると、海に入るつもりはないようだった。
「あ! 指揮官様!」
(やあドリス、ペットは海水につけても平気?)
「大丈夫だよー! このドリスちゃんが作った超高性能防水機能なら、海だけじゃなく汚い泥水の中に沈めたって平気なんだからー! なんなら試してみよっかー?」
(いや、いいよ)
ドリスの言葉を聞いたフィービーが露骨に嫌そうな顔をしていたのを見て、指揮官はその提案をやんわりと断ることにした。
「そう? まあいっか、それよりも水かけっこ楽しいよ! 指揮官様も一緒にやろ!」
(あー……そうしたいのは山々なんだけど……)
『水着を盗むタコ』の脅威を伝えるべくビーチを回っていた指揮官は、今は遊んでいる場合じゃないと小さく首を振るも……
「水かけっこね! やるやる!!!」
隣にいたキラスターが嬉々として手を上げ、そのままジャブジャブと海の中へ入って行った。
(ん……まあ、少しだけね)
きゃっきゃっ、と楽しそうに水かけっこをする3人を見て小さく微笑みつつ、指揮官はグニエーヴルへと振り返った。
「指揮官、どうかしましたか?」
(ごめん、楽しんでるところちょっといいかな)
指揮官はそこで、当初の予定通り『水着を盗むタコ』についてグニエーヴルに説明した。
「なるほど……それは怖いですね」
(うん。今のところ水着を盗もうとする以外に悪さをすることはないみたいだけど……念のためにね)
「了解です」
指揮官の言葉を不思議そうな顔をして聞きつつ、グニエーヴルはそこで何かを思い出したかのようにハッとした表情を浮かべた。
「あの、私からも1つ聞きたいことが……」
(何かな?)
「ベカスを見ませんでしたか? 洋館に入って、男女別に部屋を案内される直前まではいたのですが……それ以来、ずっと姿が見えなくて」
(ベカスが? ん……そういえば見てないね)
そこで指揮官は、ベカスが高橋龍馬と一緒にいるところを見て以来、自分も彼の姿を見かけていないことを話した。
「はい……ですのでベカスと仲の良いウッドさんに聞いてみようと思ったのですが、あの人もまた姿が見えなくて……」
(そっか……まあ、小さい島だけど歩くには広過ぎるからね。せめてノアがいてくれれば分かるかもしれないけど……)
「ノア?」
(いや、何でもないよ……)
指揮官が笑って誤魔化そうとした時だった。
「主様、お呼びですか?」
ふと、背後に気配を感じて指揮官が振り返ると……いつからそこにいたのだろうか、指揮官の背中にぴったりと張り付くようにして『ノア』が佇んでいた。
「ふはぁああああ!?」
何の前触れもなく、いきなり指揮官の背後に現れた小柄な少女を見て、グニエーヴルは思わず悲鳴をあげた。
「あ……貴方、いつからそこにいらっしゃったんです?」
「ついさっきです。それよりも、グニエーヴル様ですね」
「え……あ、はい……」
「申し遅れました。私は『ノア』と申します。僭越ながら、この『島』を管理させてもらっている者です」
「あ……これはどうも、ご丁寧に……」
未だ戸惑いを隠しきれないグニエーヴルに対し『ノア』は簡潔に自己紹介を終えた後、改めて指揮官へと振り返った。
「それで主様、どういったご用件でしょう」
(人探しをお願いできるかな。名前はベカス・シャーナムっていう人なんだけど……あ、ついでにウッドっていう軍人のことも頼めるかな?)
「分かりました。少々お待ちください……」
そう言って『ノア』は洋館でシェロンに見せた時と同様に光のアンテナを展開し、例によって「ぴこーん、ぴこーん」とレーダーっぽい擬音をわざわざ口で再現してみせた。
「!?」
彼女のそんな様子を見て、グニエーヴルは驚きのあまり何も言うことができなかった。
やがて『ノア』はレーダーっぽい音を再現するのをやめると、頭上のアンテナを消滅させ、それから小さく息を吐いた。
(どう、分かった?)
「……はい、分かりました。ノアちゃんレーダーによりますと、お2人とも今は同じところにいるようです」
「それで、ベカスたちはいったいどこに?」
その言葉を聞くや否や『ノア』に向かってグニエーヴルはそう聞き返すも、相変わらずの無表情で『ノア』はグニエーヴルを見つめ返し……
「一つだけ言わせてもらいますと……グニエーヴル様。世の中には知らない方が幸せなこともあるというものです」
「え……えっと…………それはどういう……」
「お2人のプライバシーに関することですので」
「ああ……それなら仕方ないですね」
そう言ってグニエーヴルは引き下がった。
自分はベカスにとって仲間以上の存在ではないのだから、彼のやる事なす事をとやかく言える立場ではない……その気持ちがどうしても出てしまい、なかなか前に進めないのだった。
(寂しい?)
「え……ええ、まあ……」
グニエーヴルは苦笑いを浮かべつつ、小さく頷いた。
「せっかくの休みなので、少しだけでも一緒にいられたらなって思いまして……欲を言えば、水着姿も見てもらいたかったですし……でも、私はあの子達の見守りをしないといけないから、どっちにしろずっと一緒にはいられないと思っていましたから」
グニエーヴルの視線の先には、浅瀬で楽しそうに水遊びをしているアイリとドリスの姿があった。2人とも、基地にいる時以上に楽しそうにしてくれている。
(ありがと、2人の見守り役を買って出てくれて)
「いえ、大したことではありません……ただ、そうですね。あの子達がとても楽しそうにしているところを見ていると、そこまで苦ではなくて……いえ、今ではむしろ、やってよかったなって思っています」
(そっか……それは何より。それじゃあ、みんなにタコのことを伝えて回るついでにベカスを見かけたら、ベカスにそれとなく伝えておくよ)
「お心遣い、感謝します」
グニエーヴルは優しげに微笑むと、それから背後へと振り返った。
「あ、そうそう…………先程はお手数を……え?」
(どうかした?)
「いえ……その……そういえばベカスのことを探してもらったお礼をまだ言えていなかったと思って、先程の方の姿を探しているのですが……」
(ノアのこと?)
「はい。ですが……いつのまにか、いなくなってしまって……」
2人は周囲を見回してみるも、つい先ほどまでそこにいたはずの『ノア』の姿が忽然と姿を消していた。この辺り一帯は砂浜で、隠れられる場所などないというのに……
(……ん、大丈夫だと思うよ。グニエーヴルのその気持ちは、きっとあの子にも伝わってると思うから)
「でも、せめてひとことお礼を言いたかったのですが……」
(ここにいればまた会えると思うから、その時にね)
「はい、そうします」
2人がそんな会話を交わしていると……
(……ん?)
不意に、誰かから背中をつつかれる気配を感じて指揮官が振り返ると、目の前にアイリがいた。その手には、小さなアザラシのペットを持っている。
「抱っこ……する?」
(抱っこ? 別にいいけど……)
「抱っこ、してみて」
(それじゃあ……よっと)
アイリに言われるがまま、指揮官は小さな彼女のことを抱き上げた。
「ひゃあああああああ!?」
(え……)
すると、アイリはびっくりしたような声をあげた。
少し勢いが強すぎたかな……指揮官がそう思っていると
「し、指揮官様……抱っこするのはアイリじゃなくて、アザラシさんのことだよ……」
(あ、そっち!? ご、ごめんね……)
勘違いしていたことに気づいた指揮官は、小さく謝ってアイリを砂浜に下ろそうとするのだが、なぜか片膝立ちの状態になってもアイリは指揮官の体から離れようとしなかった。
(どうしたの?)
「うん……やっぱり、このままがいい」
(そう? じゃあ少しだけね)
「うん……♪」
改めてアイリのことを抱っこした指揮官は、いつもより少しだけ高い視線を満喫させた後、さらに彼女を喜ばせるために砂浜の上でクルクルと回り始めた。
「きゃ〜〜〜ぐるぐるだ〜〜〜♪」
すると、アイリは指揮官の耳元でテーマパークのアトラクションに乗った時のような、可愛い悲鳴をあげた。
「きゅー……目の前がぐるぐるだよぉ……」
(大丈夫?)
「うん! あ、指揮官様の顔が変に見える……」
(あはは、まだ目が回ってるみたいだね)
指揮官は小さく笑いつつ、アイリを砂浜に下ろそうとするが……それでもまだ遊び足りないのか、アイリはぶんぶんと首を横に振った。
「指揮官様……アイリ、まだ目が回ってるみたい」
(ん……じゃあ、今度は目が回らないように)
指揮官はそこで自身にブーストをかけ、アイリを抱っこしたままの状態で砂浜の上を超高速で駆け回り始めた。
「わー! はやーい!!」
特殊な環境下で育ったこともあってBMの操縦技術を持つアイリは、そのため普通の子どもと比べると肝が据わっているのか、ジェットコースターの如き超高速の中でもご機嫌だった。
「アイアンヘッドよりもはやーい!!!」
(あはは……なんでアイへ?)
鈍足なアイアンヘッドと比べられることに苦笑いを浮かべた指揮官だったが、まあアイリが楽しそうにしていればそれでいいか……と、最後はウォータースライダーの如く海の中に突っ込み、3回目のブーストを終了させた。
(どう? 楽しかった?)
「うん! 指揮官様、ありがとう」
巻き上げられた水しぶきの中で、2人は微笑み合った。満足げに笑うアイリを見ていると、指揮官もまた充実した気分になるのだった。
「指揮官様! ドリスちゃんにもやってやって!」
「あたしもあたしもーーー!!!」
片膝をついてアイリを浅瀬に下ろしたところで、ドリスとキラスターが同時に指揮官の胸に飛び込んできた。
(ちょっ……2人同時は…………ぐはっ!?)
小柄とはいえ勢いのついた2人の体を受け止める事はできず、指揮官は2人を抱えたまま後ろ側へと倒れ、盛大な水しぶきを上げるのだった。
「し、指揮官様……!?」
それを見て、アイリは目を丸くする。
「ぶへっ……口の中に塩水が……」
「もー、ちゃんと受け止めてよー!」
(あのね……)
浅瀬に倒れながらも、指揮官は自らがクッションになることでドリスとキラスターが怪我をしてしまうのを防いでいた。
しかし、指揮官のそんな気も知らず……2人は頭から海水を被りつつも、どこか楽しげな様子ではあった。
「あらあら……2人とも、指揮官様をあんまり困らせてはいけませんよー」
砂浜の方からグニエーヴルの声が聞こえた。
しかし、2人はまるで聞く耳を持たない。
「指揮官様! さっきのグルグルやってよ!」
「そんじゃあ、あたしは速いやつね☆」
(ごめん、少し休ませて……)
先程のアトラクションに興味があるのか、2人は倒れた指揮官の腕を引っ張って起き上がらせようとするも……ブーストの最大連続使用によって生じた疲労感で、指揮官は動けなくなってしまっていた。
押し寄せる波が優しく体に打ち付けられる感覚、海面から出た皮膚に吹き付ける暖かな風、それらに身を委ねながら指揮官がふと空を見上げると、目の前には一面の青が広がっていた。まるで青いペンキの入ったバケツを、白いキャンバスの上にぶちまけたかのように……
「空って、こんなに青かったっけ……?」
「綺麗だねー。この青さは姫様のところじゃ見られないから、今の内に心の中に刻んでおくよ!」
指揮官が空の景色を見るよう勧めると、2人はそう言って、まるで指揮官の腕を枕にするようにして浅瀬に寝転がり、空を見上げ始めた。
しばらく3人で青空を見上げていると、指揮官の耳元に腰を下ろしたアイリが、何やら指揮官の頭の下に柔らかいものを差し込んできた。
当初、枕か何かだと思っていたそれは大きなアザラシだった。そのふわふわなお腹で指揮官の頭を包み込むと、アザラシは可愛らしく『きゅ〜』と鳴いた。
「指揮官様、いつもアイリたちと一緒に遊んでくれてありがとう」
そう言ってアイリは、その小さな手で指揮官の頭を優しく撫でた。
「いつも頑張ってえらいえらい……」
(…………)
アイリの長い髪が、指揮官の頬を優しくくすぐった。
指揮官の顔を覗き込んでくる彼女の笑顔は、
真夏の太陽よりも眩しかった。
第3話へ続く……
アザラシをモフるって言っておきながらなんでアイリ?
→ヒント:アザラシスキン(ついでにキラスター)
ワルチャでアザラシをもふりたいっていうアイデアが出たので、代わりにアイリを可愛がるっていう話(?)にしました。本来であればBBQまでやりたかったのですが、長くなりそうだったので切りました。なので次回はそれやります。
続きはストックがないので2日以内に……
それでは、また……