ワルチャでアイデアを募った際、『フェイとブラックジャック』という意見が出たのですが、コラボキャラな上に水着すら持っていなかったので(そもそもムジナはカウボーイ知らん=書けない)、なので代わりに『帝国勢とギャンブル』的な話にしようかと思ったのですが……どちらしろ海に来てまでやる事ではないので、遺憾ながらボツとさせていただきました。
なので帝国勢についてはまた別なアプローチを考えております(後述)
指揮官たちはタコの行方を追って『ノア』の元に向かいます。
それでは、続きをどうぞ……
非公式夏イベント『水平線上のノア』
第5話:続・真夏の幼女たち
『水着を盗むタコ』の脅威を伝えるべく、依然として指揮官とキラスターは海水浴の参加者を探してビーチを進んでいた。
その後、日頃の重圧から解放され、海辺でのんびりとくつろいでいた帝国出身者たち(アナベル、アリシア、カロル、フィロ)と出会うも、特にこれといって特筆すべき点はないのでカット……
[代わりに帝国勢4人の活躍は、今後文字起こし予定の『縁日編』にてお見せする事になります。尚、『縁日編』の製作は1年後の夏を予定しております]
4人に事情を説明し、2人はビーチの奥へと進み続ける……
「ねえねえ指揮官、あそこに誰かいるよ?」
(あれは…………ノア?)
キラスターの指差した方向に目を向けた指揮官は、そこで『ノア』の姿を見つけた。波打ち際に佇む彼女は、何やら水平線の先を見据え……吹き付ける風が、美しい青色の髪を静かに揺らしている。
「え? ノアって……そんな人いたっけ?」
(そっか、キラスターは見てないんだっけ)
先程、グニエーヴルとの会話中に突然『ノア』が現れた際には、キラスターはドリスたちとの水遊びに夢中になっていたことを思い出し、指揮官は小さく頷いた。
(とにかく行ってみよう)
そうして、指揮官とキラスターは『ノア』に近寄った。
(おーい、ノア!)
「主様、先程ぶりでございますね」
指揮官たちの接近に気づいた『ノア』は2人の方に向き直ると、相変わらずの無表情で小さく頭を下げた。
「それで、そちらはヴィヴィアン様ですね」
「え? あたしの名前、何で知ってるの?」
「はい。主様が送って下さった参加者名簿に記載されているお方の顔とお名前は、全て記憶しておりますので」
「へー! あんなに沢山いる人たちの顔と名前、全部覚えてるんだ、すごーい!」
「どうも」
「えー、反応薄い! 褒められたんだからもっと喜びなよ! あ、あたしのことはキラスターでいいよ。指揮官とかみんなそう呼んでるから」
彼女の『キラスター』というのはファミリーネームだったのだが、本名である『ヴィヴィアン』で呼ぶと、喫茶店バビロンに勤務する少女『ヴィヴィアン』と勘違いされがちだった。
なおかつ、彼女自身も『キラスター』と呼ばれることを好んでいるので、指揮官を含めたほぼ全員が彼女のことを『キラスター』と呼んでいた。
さらに言えば、グレートブリテン帝国にも『ヴィヴィアン(騎士団)』が存在していたりする。
「了解です。キラスター様」
そこで『ノア』は自分の胸に手を当てた。
「……私は『ノア』と申します。僭越ながら、この『島』の管理をさせてもらっている者です」
「管理人さんかー、なるほど!宜しくね☆」
キラスターは『ノア』の空いた手を取り、ぶんぶんと激しい握手をした。そのせいで『ノア』が身に付けているマントが揺れ、マントの下に隠れたその幼い体つきが露わになる。
「…………お?」
「…………?」
『ノア』の体を見たキラスターが、何かに気づいたように声を漏らした。
その様子に『ノア』が首を傾げていると……
「ふっふっふっ……勝った!」
(……えっと、何が?)
「おっぱいの大きさ!」
(えぇ……)
そう言って高らかに胸を張ってみせるキラスターに、指揮官は呆れたような表情を浮かべた。どちらにしろ、小さい事には変わりないのだが……
(キラスター……打ち解けた相手ならまだしも、初対面の相手に胸の大きさでマウントを取るのはちょっと……ノアに失礼だよ?)
「でもさー! この島に来てる人たち、みんなおっぱいが大きい人たちばっかりなんだよね、そうなってくるとさぁ……セクシーでナイスバディーなこのあたしの魅力が薄まるっていうかー」
(『セクシーでナイスバディー(笑)』ね)
「笑うな! っていうか指揮官こそ、さっきはあたしの小さい胸に欲情して、眠っている間にお触りしてきた癖に!」
(だから触ってないって……というか、小さいって自分で言うんだ……)
「うっさい! 変態! スケベ! ロリコン!」
(それ、自分で言ってて悲しくならない……?)
もし指揮官が本当にキラスターのことを好色的な目で見ていたとして、キラスターが指揮官のことを『ロリコン』と言ってしまうということは、つまり……間接的に、キラスターは自身がロリであることを認めているようなものだった。
「主様、私にお任せ下さい」
(ノア?)
『ノア』は短くそう告げると、荒ぶるキラスターの前に立ち。
「キラスター様、落ち着いてください。古来より、よく言うではありませんか……『貧乳はステータスだ! 希少価値だ!』と」
「フォローになってないよ!」
逆効果だった。
しかし、それでも『ノア』は言葉を続ける……
「そうですか。ですが、胸の大きさといっても……所詮、女性の胸部についた脂肪の塊が大きいか否かによるものです。逆に体の動かしやすさ的な観点から言えば、キラスター様のようなツルペタの方が圧倒的に有利なのは明白でしょう」
「ツ……ツルペタ言うな! っていうか、あんただって同じでしょうが!」
「と、このように貧乳には貧乳のメリットというものがございます。先ほどの名言もあるように、ただ大きいだけが優れているというわけではない筈です」
「それは、そうだけどさぁ……」
「確かに、外見的な特徴も大事ではありますが、最終的に重要なのは人の内面……その人が持つ本質にあると思われます。いくら大きく優れたものを持っていようと、それが内面や本質の良し悪しに繋がるとは限りません……ですので、胸の大きさで人を判断したりはしませんよね、主様?」
(……え? ああ、そうだね)
突然話を振られ、少し驚きつつも指揮官がそう返すと……気のせいだろうか、指揮官は無表情だった『ノア』の表情に、僅かに安心した色が映り込むのを感じた。
「それでも、あたしはおっきいおっぱいが欲しいの! いつかバルンバルンのボヨンボヨンになって、みんなを見返してやるんだから!」
キラスターは胸の周りに円を描くようにして両手を振り回し、胸をこれくらい大きくしたいことをアピールした。
「それではお聞きしますが、キラスター様はなぜ胸を大きくしたいとお考えなのですか?」
「え?」
『ノア』の問いかけに、キラスターは意外そうな顔になって……それから少しだけ考えるそぶりを見せた。
「そういえば、何でだろうね? うーん……おっぱいが大きくなったら子どもっぽくなくなって、大人の女性として見られるようになるからとか?」
「ですがキラスター様はそもそも幼児体形なので、胸が大きくなった程度ではたかが知れてるかと……」
「幼児体形言うな! あんただってそうでしょうが!」
「指揮官様はどう思われます?」
「無視すんな!」
(え……それ聞く?)
『ノア』に尋ねられ、少しだけ考えてみた後……指揮官は『女性の象徴』『母性』『包容力』という点でいくつか仮説を立ててみたものの、指揮官としての立場からその問いに答えることはセクハラになってしまうのではないかと、発言を思い留まる事にした。
「うーん……じゃあ、大きいと色っぽく見られるから、それだけでも沢山の人たちから注目されるから……とか?」
「それですと、キラスター様は不特定多数の人から好色的な目で見られたいという事になりますが、宜しいのですか?」
「あー……そうだねぇ、好きな人からそういう目で見られるのはいいけど……別に興味ない人相手だとねぇ……ウザいだけだし」
(あのさ……この話、もう終わりにしない?)
このままでは埒があかないと、指揮官は2人の議論に割って入るようにしてそう告げた。
「そうだねぇ、このまま話しても虚しいだけだし」
「そうですね。では、最後に一つだけ宜しいでしょうか」
そう言って『ノア』は小さく手を上げた。
2人が頷くと、そこで彼女は小さく息を吐き……
「一つ付け加えますと……私のバストサイズはキラスター様よりも上だと存じます」
「はあ?」
急に、どんぐりの背比べが始まった。
キラスターは青筋を浮かべて『ノア』を見つめた。
「いやいやいや! パッと見た感じてもあたしの方が大きいって! ほら、真っ平らなそっちとは違って、あたしはそれなりに膨らみがあるから……」
「キラスター様は『着痩せ』というものをご存知ですか? 服を着ると、案外痩せて見えることを意味しています」
「そ、それは……って、それくらい知ってるよ! っていうか、そんな薄布一枚で着痩せするっていえるほどおっぱいないでしょ!」
キラスターは『ノア』が着ていたスポーツブラを指差すも、『ノア』はそれほど気にしていない様子だった。
「キラスター様。先ほど申しました通り、胸の大きさで人の本質が決まるというものではありません。なので、私より小さいからといって、そこまで悔しがる必要はありませんよ?」
「なんで大きさで勝ってる前提で話を進めるかなぁ!? っていうか、そっちこそ小さいから悔しがってるんでしょ!」
「そうですか。では、第三者による公平なジャッジによりどちらが大きいのかを確認しましょう」
「そうだよね! そっちの方が早いもん!」
そう言って『ノア』とキラスターは同時に指揮官の方へ目を向けた。2人の視線に指揮官が戸惑っていると……
「指揮官! さっき寝てる時に、セクシーギャルなあたしのおっぱい見たんでしょ!? だったら、その大きさもちゃんと分かってるよね!」
(あのね……)
つまり、キラスターは事故とはいえ胸を見せてしまったことを許す代わりに、何が何でも自分に票を入れろと言いたいのだろう。
その提案に、指揮官が脱力するものを感じていると……
「そういうことでしたら……」
(ちょ……!? 待って何してるの!?)
着ていたスポーツブラの裾に手をかけた『ノア』を見て、指揮官は慌ててそれを制止した。
「しかし、正当なジャッジをする為にはキラスター様と条件を同じにする必要があります。なので、審判である主様には、実際に私の胸を見てもらって……」
(しなくていいから! この話終わり!)
白熱した議論を無理やり終わらせ、キラスターが納得いかないというような顔をしていたものの、それを無視して指揮官は『ノア』に別の話題を振る事にした。
(ちょっと聞きたいことがあるんだけど……)
「何でしょう?」
(『ノアちゃんレーダー』って、人間以外の生き物を探すことって出来たりする?)
「対象の大きさにもよりますが、可能です。一つ付け加えると、地中の微生物などといったものを検索することは不可能ですが……」
(そっか、なら……)
指揮官は『ノア』に、
①『水着を盗むタコ』が出現し、②高橋龍馬の水着が盗まれ、③他にも被害が出たこと、そして自分たちはタコに関して、④参加者全員に注意喚起して回っているところである……ことを説明した。
「なるほど。タコですか……」
(そういうわけだから、タコを探して欲しいんだけど……)
いちいち参加者たちに説明して回るよりも、騒動の元凶であるタコを捕まえるなり何なりした方が早いと思い至った指揮官は、『ノア』のレーダーを使ってタコを探そうと考えた。
「承知しました。少々お待ち下さい……」
『ノア』はそう言って頷くと、そっと目を閉じてシェロンやグニエーヴルに披露した時と同様、自身の周囲に光のアンテナを展開し……
「ぴこーん、ぴこーん、ぴこーん……」
例によって、レーダーっぽい擬音を口にした。
「え? なになに! なんかおもしろーい!」
その様子を、キラスターは興奮した様子で見つめた。
やがて『ノア』はレーダーっぽい音を口ずさむのをやめると、頭上のアンテナを消滅させ、それから小さく息を吐いた。
「分かりました」
(それで、タコはどこに?)
ゆっくりと目を開けた『ノア』は指揮官の方へと向き直り……そして、こう続けた。
「先ほど、グニエーヴル様が年少組の方々を遊ばせていた場所の近くに潜伏している模様です」
(え……?)
『ノア』の発したその言葉に、指揮官はとてつもなく嫌な予感を覚えた。それと同時に、ある1つの可能性が生まれる。
「どしたの、指揮官?」
(これはまだ憶測の域を出ないんだけど……)
そう言って、指揮官はタコが襲う人物の傾向について自分の考えを口にした。
タコに襲われたのは最初に高橋龍馬、続いてシャロ、そしてアルト……一見すると男女問わず無差別に襲って水着を盗もうとしているのだと思われがちなのだが、実は襲われる人物の傾向について1つだけ共通することがあった。
それは『年齢の若さ』だった。
学生の高橋龍馬は勿論のこと、シャロはまだ少女と呼べる年齢であり、そしてお酒を嗜みはするものの、年齢的に言えばアルトもまた若かった。
そして先ほどの『ノア』による探知で、タコがグニエーヴルの近くに潜伏していることが明らかとなり……付け加えると、彼女は今、年少組のドリスとアイリの面倒を見ている真っ最中だった。
それが意味することはつまり……
(2人が危ない!)
「え、ちょ……待ってよ!」
最悪の事態を想定し、指揮官はすぐさま元来た道をダッシュで引き返し始めた。キラスターもそれに続き、波打ち際に『ノア』がただ1人残される形となる。
「一つ付け加えると、あのタコは……」
『ノア』は走り去る2人の背中に向かって何かを伝えようとするも、距離的に声が伝わらないことを知ると、仕方なく押し黙ることにした。
「まあ、特に問題はないかと……」
そうして、彼女は再び海の方へ目を向けるのだった。
ーーーーー
一方その頃……
グニエーヴルによって見守られる中、ドリスはウサギ型ペットのフィービーとアザラシ型ペット数種を相手に熾烈な鬼ごっこを繰り広げていた。
「あははは! にげろにげろー!」
ドリスは水鉄砲を上空に向けて威嚇射撃しながら、広い砂浜を走ってペットたちを追い回している。
「あははははーーー最初に捕まった子は、ドリスちゃんが次にする実験の、実験台になってもらうからね! だから、頑張って逃げろーーー!!!」
ペットたちは、ドリスのやる怪しげな実験に付き合いたくないが為に、必死になって砂浜を逃げ回る。中にはドリスから逃れる為に遠くの方まで行こうとするものもおり、そんなペットたちを追ってドリスの姿はどんどん遠ざかってしまう……
「ドリスさん、あまり遠くにいかないで下さい」
グニエーヴルはそう声をかけるも、ドリスはそれに気づいた様子はない。仕方なく、グニエーヴルは自分の持ち場を離れてドリスの行方を追った。
「〜♪」
砂浜にアイリが1人で残される形となる。
その傍らにはペットのモモがいたものの、1人と1匹は砂のお城を作ることに夢中で、グニエーヴルがその場から離れたことに気づくことはなかった。
『…………』
そんな彼女を遠くからじっと見つめる影があった。
海面から顔を出したそれは、砂浜の中にアイリが1人であることを確認すると静かに上陸し、8本の触手を器用に動かして音もなくアイリの元へ忍び寄り……
「あれ、グニエーヴルお姉ちゃん?」
アイリはそこでようやくグニエーヴルとドリスががいなくなっていることに気づき、顔を上げて周囲を見回し、2人の姿を探した。
その最中、身を隠そうと咄嗟に浮き輪の中に隠れていたそれと目を見合わせ……
「え……た、タコさん?」
『…………』
バレちゃしょうがない……そう言わんばかりの仕草でタコは浮き輪の中から顔を出すと、その小さな両目を光らせてアイリを見据えた。
「え……え……?」
アイリは戸惑いつつも、タコの発する奇妙な気配を感じて後ろに下がるが、それよりも早くタコは怪しげに8本の触手をくねらせ、じりじりと距離を詰め始めた。
突然の出来事に、ペットのモモはどうしていいか分からず混乱しているようだった。
「た、タコさん……なの?」
『…………』
「えっと……アイリに何か用なの?」
『…………うじゅり』
「……っ!」
法則性もなく柔軟に動く触手に恐怖を感じたアイリは、慌ててモモを抱きかかえて逃げようとするが……足がすくんでしまったのか、その場から動くことができなかった。
『…………』
その間も、タコは粘膜の張った触手を揺らめかせ、アイリめがけて接近する。
「い……いや……こ、来ないで……!」
涙目になりながらも、アイリはタコから逃れようと踏ん張るが、どうしても足腰に力が入らず、尻もちをついた状態で後ろに下がることしか出来なかった。
やがてタコとの距離がすぐ目の前にまで迫り……
「……っ!嫌、助けて、グニエーヴルお姉ちゃん……! ドリスちゃん……!」
今更ながら助けを呼ぶが、大人の女性は周りにおらず、頼れる親友の姿もない。モモはBM操縦のアシストがメインのペットであり、さらに言えば海水浴の為に護身用のオプションを外してしまっていたことから、この状況への対処は不可能だった。
「やだ! 来ないで……! 来ないで……っ!」
アイリは必死にタコへ訴えかけるも、タコは聞く耳を持たない様子で、その不気味な目を怪しく光らせた。
「助けて……!お母様! 指揮官様……っ!!!」
アイリは最も信頼する2人の名前を呼ぶが……
育ての親であるハインリヒは多忙な為『島』に来られず、そして指揮官は何やら忙しそうに『島』を歩いて回っている。
どちらとも助けに来られない身であることは、アイリ自身もしっかり理解してはいた。しかし、どうしても助けを求めずにはいられなかった……
『…………うじゅる』
次の瞬間、タコは8本の触手を使って勢いよく砂を蹴ると、空中で触手を大きく広げ、そのままアイリの小さな身体めがけて飛びかかった。
「いやああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
アイリは悲鳴をあげ、目をギュッと瞑った。
やがてタコの触手がアイリの身体に触れ……
(アイリ!!!)
「……えっ!?」
聞き馴染みのあるその声を耳にしたアイリは、思わず目を見開いた。すると、自分めがけて飛びかかったタコとの間に割って入るようにして、その人物がアイリの盾にとなってタコの前に立ちはだかった。
(ぐあああああッッッ!?)
「し、指揮官様!?」
その姿を見たアイリは驚愕し、思わず名を口にした。
それは指揮官だった。
ギリギリのところでアイリがいる砂浜にたどり着いた指揮官は、タコが飛びかかったタイミングでブーストを発動し、アイリの前に躍り出ると……そのまま、自らの身体でタコの触手を受け止めた。
(き、気持ち悪ッッッ……!?)
タコの触手に纏わり付かれ、指揮官は思わず悲鳴をあげた。ぶよぶよの肉感に粘膜のドロドロとした感触、そして冷たい吸盤が張り付き、あまりの悪寒に鳥肌が立ってしまう程の気持ち悪さを感じた。
(アイリッッッ!!! 逃げろ!!!)
それでも、指揮官はタコを掴んで引き剥がそうとはせず、纏わり付かれた状態のまま背後のアイリに向かってそう叫んだ。
「指揮官様……っ!? で、でも……!」
(いいから早く……ッ! 今の内に……ぐっ!?)
タコの触手が水着の中に入って来ようとすると感覚に、指揮官は打ち震えた。しかし、それでも指揮官はタコを引き剥がそうとはしない……
なぜなら、ここで無理に引き剥がしてしまえば、タコが再びアイリを襲いかねないからだった。そしてブーストも使い切ってしまった以上、陸上を素早く動き回るタコの素早さについて来られるか分からなかった。
(急いで、長くは持たな………え?)
『…………』
指揮官がアイリに向かって呼びかけていた、その時だった。急にタコは指揮官の体から飛び退くと、何やら不満そうな顔をして指揮官を見つめ……それから砂浜を歩き、海の方へと戻っていった。
やがてタコの姿が海中に消えた。
指揮官は呆然とそれを見送った後、後ろを振り返ってアイリの無事を確認すると、ホッと胸を撫で下ろした。
「指揮官ー! 大丈夫ー?」
(ああ、3人とも……うん。どうにかなったよ)
遠くから慌てた様子で走ってくるキラスター、ドリス、グニエーヴル、そしてペットたちの姿を見つけ、指揮官は彼女たちに向かって手を振り、無事であることをアピールした。
「で、タコは?」
(ごめん、逃げられた)
大きなパンダちゃんハンマーを手にして周囲を見回すキラスターに、指揮官は手をついて謝った。
「あの、指揮官様。一体何が……」
(ああ、実は……)
説明を求めるグニエーヴルに対し、指揮官は例の『水着を盗むタコ』がこの場所に現れ、アイリに襲いかかろうとしていたことを説明した。
「申し訳ありません、私がついていながら……」
(いいよ。でも、どうやらタコもアイリが1人になるタイミングを見計らっていたみたいだし……相当賢い個体だと思うから注意してね)
「はい、肝に命じます」
その言葉にグニエーヴルは強く頷くと、それからタコの攻撃を受けた身を案じるかのように、指揮官の体を頭のてっぺんからつま先まで凝視した。
「指揮官様……お怪我は?」
(大丈夫。タコに纏わり付かれたところがまだちょっと気持ち悪さが残ってるけど、それくらい。それよりもアイリの方を見てあげて)
「了解です」
アイリは特に何の外傷もなく、放心状態で砂浜にへたり込んでいた。しかし、万が一の場合に備えて指揮官はグニエーヴルへ指示を送った後、その場で深々とため息を吐いた。
「指揮官、お疲れ様☆」
(うん、ありがと)
ウィンクと共に指をVの字にした敬礼をしてみせるキラスターに、指揮官は小さく頷いた。
「タコ逃しちゃったねー……うーん惜しい!」
(でも収穫はあったよ。やっぱりあのタコは、男女問わず若い子の水着を盗もうとする傾向にあるんじゃないかと思う。現に、こうして自分が盾になった時は何も奪らずに離れていったし……)
「ふーん。なるほどねぇ……っていうか、そういえば指揮官って何歳だっけ?」
(うーん、それは聞かない方がいいかな)
「そう? まあいいや」
(それはいいとして……だから今後はそれを踏まえた上で、しっかりと防衛体制を構築していく必要があるなと思って……)
指揮官がそう言いかけた時だった。
「指揮官様、アイリさんが……」
アイリのことを見ていたはずのグニエーヴルが、ふと何かに気づいたように声を発した。
(どうしたの!?)
まさかまたタコが現れたのだろうか……?
そう思った指揮官は素早くアイリの方へ目を向けるも、その場にタコの姿はない。代わりに酷く項垂れた様子のアイリと、それを心配そうな眼差しで見つめるドリスとグニエーヴルの姿があった。
(アイリ……?)
「ぅぅ……うわぁぁぁぁん」
(……っ!)
次の瞬間、顔を上げたアイリの両目から大粒の涙が溢れ落ちた。これには、彼女の腕の中でギュッと抱きしめられているモモも驚いた表情を浮かべている。
「あー、長官が泣かした!」
(え?! そうなの……!?)
ドリスの言葉に指揮官は思わずギクリとなった。
そしてふと、自分の行動を思い返してみると……確かに、タコからアイリのことを守るためとはいえ、つい強い口調が出ていた。そのせいで彼女のことを驚かせてしまったのかもしれないと、指揮官は彼女に謝ることにした。
「ぅぅ……違うの、指揮官のせいじゃないの」
しかし、指揮官の謝罪に対してアイリは涙を流しながらも首を横に振った。
(え……じゃあ)
「アイリ……こわかったの」
(怖い? さっきのタコが……?)
「うん、タコさんもこわかった。でも、それよりもっとこわかったのは……指揮官様がおそわれて、くるしそうにしてたこと」
(……)
「アイリ、指揮官様がいなくなるんじゃないかって思った……でもアイリ、何もできなかった。こわくて、うごけなくて……指揮官様がおそわれてるのをただ見てるだけしか……」
(……)
「もう、いやなの……アイリの目の前からたいせつなひとがいなくなるのは……! 指揮官様、アイリの前からいなくならないで!」
(……っ)
悲痛な叫びを上げる少女のことを
指揮官は思わずギュッと抱きしめた。
育ての母親であるハインリヒに拾われる以前の記憶を全て失っているアイリは、今回の一件で失われた過去の記憶をうっすらと思い出してしまったのだろう。
(大丈夫。ここにいるよ)
指揮官はアイリ耳元にそう囁きかけると共に、怯える長い髪を優しく撫で、細かく震える背中をさすってあげると、やがて小さな彼女は安心を得たようだった。
(落ち着いた?)
「……うん。指揮官様、ありがとう」
(ごめんね。来るのが遅くなって……)
「ううん、指揮官様はなにもわるくないよ。だからあやまらないで」
アイリの小さな手が指揮官の手に触れた。
「指揮官様」
そう言って、アイリは真っ直ぐに指揮官を見据え……
「……アイリ、もっと強くなるね」
そうして、強い決意を秘めた言葉を口にした。
「指揮官様にまもられてばっかりじゃなくて、いつか指揮官様のことをまもってあげられるくらい強くなるから……だから私のことを、アイリのことを……すてないで」
(……っ)
アイリの言葉に、指揮官は思わず自分の体に力が入るのを感じた。
「指揮官様……? どうしたの?」
(大丈夫。何でもないよ)
「でも、辛そうな顔してるよ」
(ん……ちょっと、走り過ぎて疲れたのかも)
「そっか、じゃあ……よしよし……」
アイリは指揮官の胸の中に身を預けると、まるで子どもをあやすかのように指揮官の体を優しく撫で始めた。
「……指揮官様。いつもアイリのことを守ってくれて、ありがとう」
つい先ほどまで自分が大変な目に遭っていたにもかかわらず、こうして他人を気遣い、親身になって寄り添ってくれている。
その姿は、まだ十代にも満たない少女にしては珍しく、どこか大人びた雰囲気すら感じられる程だった。
しかし、指揮官は彼女の境遇を知っていた。
親を失い、日常を失い、居場所を失い、そして自分の記憶すらも失ったみなしご……その小さな体に、既に人が味わう一生分の悲しみを背負いながら生きているのだということを。
過去は変えられない、しかし未来は変えられる。
ならばこそ、彼女にしてあげられることは……
(…………)
守ってあげよう
彼女の平穏と、未来を……
アイリの安らかな表情を見つめ、指揮官は心の中で固くそう誓うのだった。
第6話へ続く……
前回(真夏の幼女)では、あまり長々と書けなかったので、その分こっちに回しました。今更ながら後半はアイリがメインの話になってしまったので、前回の遊ばせる時にはもう少しドリスを出してあげても良かったと少し後悔しています
次回はワルチャの方々の意見を取り入れて、ひと気のない『岩場で』とあるキャラとイチャつきます。タイトルは『スロぴょい』になるかと思います。
それでは、また……