水平線上のノア   作:野生のムジナは語彙力がない

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お帰りなさい! 指揮官様!

今更ですが、最近になってヘルヤの水着スキンが実装されましたが……遅いので本書き起こしには登場しません。あと真朱雀ウザイ、ハエみたいにピョンピョン飛び回りやがって雀畜生がよ……というかまた崑崙かえ

あらすじ
タコの問題も解決し、指揮官とキラスターは海を満喫しようとしますが、そう都合よくいかないもので……
まあまあまあ、それでは続きをどうぞ……


第7話:水底の亡霊

非公式夏イベント『水平線上のノア』

第7話:水底の亡霊

 

 

 

(ここは……?)

 

指揮官が意識を取り戻すと、そこは真っ暗な空間だった。

 

自分は確か、蘇瑞たちと共にダイビングをしていた筈だ。そう思い返し、指揮官が自分の体に目を向けると、自分がウェットスーツ姿であることに気づいた。

 

酸素ボンベを背負い、顔にはゴーグルと一体化したマスクを装着し、さらには足にフィンを付けていることからダイビングの最中にこの暗闇に紛れ込んでしまったのは明らかだった。

 

(蘇瑞……?)

 

指揮官はつい先ほどまで隣にいた仲間を探して暗闇の中で視線を巡らせるも、蘇瑞の姿はおろか、この空間の中には生き物の気配が全くと言っていいほどなかった。

 

それはまるで深海のような、生命の存在に適さない極限の環境だった。ウェットスーツ越しに感じられる水は恐ろしく冷たく、暗闇の中で1人心細さを感じる指揮官の心に追い打ちをかけるように体を凍りつかせていく。

 

指揮官はその場で頭上を仰ぎ見るも、そこには空虚な闇が広がるばかりで太陽の光どころか一筋の明かりすら見えなかった。

そもそも、背負った酸素ボンベも重さを感じなかったことから、指揮官は徐々に体から平衡感覚が失われ始めていることに気づいた。目印となる物もなく、まるで宇宙空間にでもいるような無重力感に苛まれる……

 

最早、自分が今見上げているのが海面なのか海底なのかすら分からなくなってしまった。暗闇に対する恐怖心から呼吸の回数が増え、ボンベに注入された酸素の消費量が増える。既に半分以下になってしまった酸素残量を確認し、指揮官が焦りを感じ始めた時だった。

 

(……?)

 

その時、どこからともなく音が響き渡った。

グジラが発する低い、それでいて海中でもよく響き渡る声にも似たそれは、突如として深淵の中から現れ、そして深淵の中へ消えていった。

 

(白い……鯨……?)

 

やがて、指揮官の目の前に巨大な白クジラが悠々と姿を現した。巨大な頭部構造が特徴的だったことから、それがアルビノのマッコウクジラであることが分かる。

特筆すべきは、その背中に誰かがしがみついていることだった。白鯨の背中に刺さった銛に必死にしがみつき、海中に引きずり込まれてもなお、白鯨の背中を銛で貫こうともがいている。

 

(あれは……!)

 

およそ30メートルもある白鯨が指揮官とすれ違う。

間近に迫った白い巨体に圧倒されながらも、指揮官はその一瞬の間に、白鯨の背に乗る人物……いや、それは指揮官だった。

指揮官はもう1人の自分と目を見合わせた。

 

「…………」

 

(…………!)

 

指揮官は、白鯨の背に乗る自分がニヤリと笑ったような気配を感じた。しかし次の瞬間、白鯨の巨大な尾ひれが……かのエセックス号ですら一撃のもとに粉砕した力強いドルフィンキックによる推進で、発生した水流により指揮官の体はさらに深淵の奥底へと飲み込まれてしまった。

 

(…………ぐっ)

 

かなりの距離を流され、闇の中で指揮官が目を開けた時には、既に白鯨の姿は見えなくなってしまっていた。

再び、深淵の中に孤独となった。

 

しかし、指揮官は闇の中から視線を感じた。

『我々が深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗き込んでいる』まるでその言葉を証明するかのように、どこからともなく深淵の中からこちらを覗き込む強烈な視線が、全身を突き刺さっているような感覚に陥った。

 

指揮官は水中ライトを取り出して、深淵の中を照らした。しかし、水中でも数十メートルは届くはずの強烈な3000ルーメンの光でも、僅か50センチ先の空間を照らし出すだけに終わった。

まるで見えない何かがライトの光を吸収しているかのようである……

 

█████████…………

 

再び、どこからともなく音が響き渡った。

しかし、先ほどの白鯨が放った低い声とは違い、水中で金属が軋むような……例えるなら、それは潜水艦が圧壊する時に発する『叫び声』にも似ていた。

 

そこで指揮官は、見えるはずのない深淵の向こう側で巨大な何かが蠢く気配を感じた。

 

視認することは出来ない。しかし、指揮官は確かにその存在を感じ取ることが出来た。それは白鯨よりも遥かに巨大な存在で、海の最果てにまで通じるのではないかと思うほどの長い体躯を横たえ、海底に擬態しながら永い眠りについていた。

 

指揮官がそれを認識した時だった。

海底に、小さな白い光が浮かび上がった。

 

突如として深淵の中に現れた一筋の光。

冷たい水に包まれた中で、その光は一層暖かな気配を放っていた。まるで誘蛾灯の明かりに吸い寄せられる夜の蝶の如く、指揮官は虚空の中に浮かび上がる白い光から目を離せなくなっていた。

 

(…………)

 

冷え切った体に温もりを欲した指揮官は、その光にすがりたい気分に陥った。何よりも、長時間たった1人で暗闇の中にいたことで、指揮官の心的疲労はピークに達していた。

 

指揮官の体が海底に向かってゆっくりと沈降していく。

 

███████…………

 

再び、機械の軋むような『叫び声』が響き渡る。それはまるで、指揮官のことを海底に誘っているかのようだった。

 

白い光に向かって、指揮官が手を伸ばした時だった。

 

(…………?)

その時、指揮官は誰かに腕を掴まれる気配を感じた。

 

「主様……」

 

(ノア……?)

 

指揮官がハッとして振り返ると、いつからそこにいたのだろうか……そこには青髪の少女『ノア』の姿があった。

 

『ノア』は指揮官の腕を引き、小さく首を横に振った。

 

「主様、こちらです」

 

水中であるにもかかわらず『ノア』の声は指揮官の耳にはっきりと届いた。指揮官が頷くと、彼女は腕を引いて海底とは真逆の方向に向かって浮上を始めた。

 

浮上する間、指揮官はふと海底に目を向けると、海底に横たわる巨大なそれの気配は感じられなくなり、光もまた忽然と姿を消していた。

 

███████…………

 

ただ、機械の軋むような『叫び声』だけは、いつまでも深淵の奥底から響き渡っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

(……ぅぅ)

 

体に優しく押し寄せてくる波の気配に、指揮官はゆっくりと目を覚ました。

 

「主様、お目覚めになられましたか?」

 

(ノア……)

 

見上げると、そこには『ノア』の姿。

波打ち際で眠る指揮官の顔に海水がかかってしまわないよう、彼女は自身の膝を枕代わりにして指揮官のことを介抱していた。

 

(ここは……?)

 

「『島』の砂浜です。もう一つ付け加えますと……主人様がポーラ様たちとダイビングの準備をしていたところの、すぐ近くです」

 

その言葉に指揮官が視線を横に向けると、彼女の言葉通り、近くにはポーラと蘇瑞が用意していた休憩用のテントと、ボンベに酸素を詰めるための機械が置かれていた。

 

また、酸素ボンベやマスク、フィンなど指揮官がつけていたダイビング装備はいつのまにか取り外され、砂浜の上に転がっていた。

 

(また、助けられたね……)

 

「いえ。主様のお役に立てることこそが、私にとっての全てですので……」

 

(助けてくれて、ありがと)

 

「……どういたしまして」

 

指揮官が礼を述べると、ノアはいつもの冷たい無表情を崩さずに小さく頷いた。しかし、指揮官の額を撫でる彼女の手はほんのりと温かく、触れられているだけでも心の底から安心感を覚えるほどだった。

 

暗い海の中に、ずっと1人でいたことも影響していたのだろう。また、ゾッとするような冷たい水に包まれ、芯から冷え切っていた筈の体はいつのまにか程よく温められていた。

 

真上には穏やかな輝きを放つ太陽、押し寄せる波は陽光をめいいっぱい吸収し、ぬるま湯に浸かっているかのような感覚を指揮官にもたらした。

極限の環境下に置かれた先ほどとは打って変わって、春先のような心地よさに包まれ、気持ち良さのあまり指揮官が思わず再び目を閉じかけた……その時だった。

 

「あ! 指揮官いたー!」

 

ちょうど海の方から聞こえてきたその声に目を開けると、そこにはダイビング用の装備に身を包んだキラスターの姿があった。

少し遅れて、同じくウェットスーツ姿のポーラが海面に姿を現わす。

 

「指揮官! よかった、無事だったんだね!」

 

(うん、なんとかね)

 

指揮官が身を起こすと、ポーラは慌てた様子で足についたフィンを脱ぎ捨てた。そうして海から上がって指揮官の前に歩み寄るなり、それから少しだけ怒ったような表情になった。

 

「もう、心配させないでよ! ダイビング中は何があっても私たちから離れないでっていつも言ってるでしょ? 私と蘇瑞が初心者のキラスターを見ている間に、いつのまにかいなくなっちゃうんだから、みんな凄く慌てたんだよ……?」

 

「そうだそうだー☆」

 

(2人とも、ごめんね……)

 

それに関しては不可抗力でもあったのだが、これ以上2人に心配をかけるわけにはいかないと、指揮官は素直に謝る事にした。

 

「全く……指揮官の身に何かが起こったとなると非常にマズイんだから、常日頃からもっと注意してよね!」

 

(ん……心配してくれてありがと)

 

「べ、別に……そもそもダイビングに誘ったのはこっちだし、だから何かあった時に責任を取らされるのは私の方だから……ああっもう! とにかく指揮官が無事で本当に良かった! うん」

 

そう言ってポーラは深いため息を吐くと共に、ホッと胸を撫で下ろした。

 

(そういえば蘇瑞は?)

 

「まだ海の中で指揮官ことを探してると思う。というわけで、もうひと泳ぎして蘇瑞を呼んで来るから少し待っててね……」

 

ポーラはそう言ってフィンを手に取り、再び海の中へ潜ろうとするのだが……その前に、レーダーを収納した『ノア』は「その必要はありません」と彼女のことを呼び止めた。

 

「え……? それってどういう……」

 

「蘇瑞様なら、今こちらに向かってきている模様です。どうやら酸素の残量が少なくなってきているようで、補充を必要としているのでしょう」

 

「え? なんでそんなこと分かるの? っていうか……今更だけど、あなた誰?」

 

「申し遅れました。私は『ノア』と申します。僭越ながら、この『島』を管理させてもらっている者です」

 

そう言って『ノア』は小さく頭を下げた。

「ああ、管理人さんね……」

それを聞いて、ポーラは納得したような表情になる。

 

「そうそう! ノアってば、凄いんだよ! なんかよく分からないけど頭にレーダーみたいなものを生やして、島にいる人や物を探すことが出来るんだよ」

 

「へー……? よく分からないけど、それは落し物をした時には便利そうね……」

 

キラスターの言葉にポーラは疑問符を浮かべた。

 

「まあ、それはいいとして……あなたが指揮官を助けてくれたってことでいい?」

 

「はい。たまたまこの近くを泳いでいたところ、深みにはまって動けなくなっている指揮官を見つけたので、救出しました」

 

「そっか……たまたまこの近くを泳いでいた……って、その格好で?」

 

「そうですが、何か……?」

 

ポーラは『ノア』を怪訝そうな目で見つめた。

というのも『ノア』は今、日ノ丸の伝統的な水着であるスクール水着(紺色)を着用しているだけで、酸素ボンベやゴーグル、フィンなどといったダイビングに必要な装備は一切しておらず、また持っている素振りすら見られなかったからだった。

 

指揮官たちはダイビングをする為に沖に出ていた。しかし、この少女はロクに装備を整えず沖に出たとでも言うのだろうか……ポーラの抱いた疑念は、その点にあった。

 

「いや、その……そんな水着1つで沖に出るなんて危なくない? 離岸流とか色々あるし、ここにちゃんと装備を整えたにもかかわらず、溺れかけた人もいるんだし……」

 

(反論の余地もありません)

 

「いえ、問題はありません。私は溺れたりしませんので……」

 

「いやいや、いくらあなたが地元の海を知り尽くしているんだとしても、その慢心が危ないんだって……いやまあ、指揮官を助けてくれたのは十分に感謝してるけど、準備は大事だよ?」

 

「……分かりました。以後、気をつけます」

 

ポーラの提案を聞き入れ、『ノア』は小さく頷いた。

 

(というか、なんでスク水?)

 

「これが私が海に出る際の標準装備というのもありますが、これ以外で他に水着を持っていないもので」

 

(そ、そっか……)

 

指揮官は『ノア』の着けている水着をざっと見返した。彼女のスク水は、何故か前側に水抜きがついているタイプの……いわゆる『旧スク』と呼ばれるものだった。

 

エル[なるほどね! これが『同士』なのね!]

フル[少し違いますが、お揃いなのです!]

 

そこで指揮官は、そういえばエルとフルも海に誘った時にはスク水を着けていたことを思い返した。あの2人はどうだったかな……と、割とどうでもいい事を一瞬だけ考えていると……

 

「似合いませんか?」

 

(いや、そんなことはないよ……けど……)

 

「けど?」

ノアはそこで小さく首を傾げた。

 

元々、子どもが着ることを前提として作られた紺色のスク水は『ノア』の小柄な体型も相まって、よく似合ってはいた。しかし、海で着るとなると話は別である。

 

どうせならもっと可愛い水着を着てもいいのに……言葉を待つ『ノア』へ、指揮官がそう言いかけた時だった。

 

「…………あ」

 

その時『ノア』はふと頭にレーダーを立て、海の方向を指差した。

 

「海坊主……」

 

「「(え!?)」」

 

3人は一斉に『ノア』が指差した方向を見つめた。

「う〜〜〜〜〜」

間も無く奇妙な呻き声と共に、毛むくじゃらの黒っぽい人型生物が海面に姿を現した。

 

「ええ!? なにあれ……クラーケン!?」

 

「ば……バケモノ!? 妖怪!? それとも深海棲艦!?」

 

(ゲームが違うから! っていうかこの声……)

 

指揮官は、その声に聞き覚えがあった。

 

「うええぇぇ……指揮官いないよ……どこ行っちゃったの〜〜〜?」

 

3人の見ている前で、黒っぽい毛むくじゃらはヨロヨロと海岸に辿り着くと、何やら人語を発してその場で泣きじゃくり始めた。

 

(やっぱり、この声……蘇瑞だ!)

 

「……って、あれ? 指揮官いる……?」

 

指揮官の姿を見るなり、蘇瑞はポカンとした表情を浮かべ……間も無く、感極まったかのように瞳をウルウルとさせ勢いよく指揮官へと抱きついた。

 

(うお!?)

 

「指揮官! 生きてたんだね〜よかった〜〜〜!」

 

(ひ、人を勝手に殺さないで……というか、なにその黒っぽいの?)

 

「ああこれ? 指揮官のこと探してたら、海藻の中に頭から突っ込んじゃって、えへへ……そんなことよりも、指揮官が無事で良かった〜」

 

その言葉通り、蘇瑞の黒髪には大量の海藻が絡み付いていた。さらに黒いウェットスーツを着用していることもあって、全身が真っ黒な怪物に見えてしまっていた。

 

「やれやれ、何はともあれこれで一件落着ね」

 

「そだね! ノアもお疲れ様☆」

 

指揮官の体に黒っぽい海藻を押しつけながらスリスリとする蘇瑞を、ポーラとキラスターは微笑ましげに見つめ、それから『ノア』へと視線を送った。

 

「あれ? 管理人さん?」

 

「あれ? いない……おかしいなー、さっきまでここに居たのに」

 

しかし、つい先ほどまでその場にいた筈の『ノア』は忽然と姿を消していた。ポーラとキラスターは周囲をキョロキョロと見回すも、彼女の姿は影も形も見えなかった。

 

「ねえねえ指揮官、ノアどこ行った?」

 

(ん……まあ、気にしなくてもいいよ)

 

キラスターにそう告げて、指揮官は相変わらずニコニコと自分の体に張り付いている蘇瑞へと視線を落とした。

 

(彼女にも、色々と事情があるから……)

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

一方その頃……

指揮官たちがいるビーチから遠く離れた島の反対側では、グルミ、アルト、シャロ、曦夜、そして高橋龍馬の5名が持参した水鉄砲で撃ち合い、めいいっぱい海を楽しんでいた。

 

「この……! 曦夜しつこい!」

 

「ええい! シャロ! さっさと死になさい!」

 

しかし、水鉄砲の撃ち合いは時間が経つにつれ徐々に白熱していった。主にライバル意識を燃やしたシャロと曦夜が壮絶な戦いを繰り広げるようになり、その様子にグルミたちは「またか……」と意気消沈してしまうのだった。

 

「そ、そうだ2人とも! あっちで競争しようよ」

 

「ん、そうだな」

 

「うん、いいよー!」

 

アルトの提案により、3人は気を取り直して水泳による競争を行うことを決めた。シャロと曦夜から距離を取って、遠く離れた岩場をゴールに決め、そして一斉に泳ぎ始めた。

 

「わっ!? 2人とも速い!?」

 

その直後、物凄いスピードでスタートダッシュを決めるグルミとアルトを前に、龍馬は驚きを隠せなかった。

 

「でも、僕だって負けてないからね!」

 

心の中でそう呟き、龍馬は2人に追いつこうと絶賛練習中のクロールを披露した。そんな彼に忍び寄る1つの影があることも知らずに……

 

「はぁ……はぁ……やった! 僕の勝ちだ!」

 

「はっ……はっ……ふぅ……速いね、アルト君」

 

タッチの差で先に岩場に辿り着いたのはアルトだった。

 

「そう言うグルミくんだって結構速かったじゃないか! スタートダッシュが上手く決まっていれば、多分、負けてたのは僕だったと思うよ?」

 

「いや、今の俺にはこれが限界だ……完敗だよ」

 

息を整えながら岩場に座り込み、2人がお互いの健闘を讃え合っていると……

 

「うわぁ!?」

 

「「っ!?」」

 

どこからどもなく響き渡った悲鳴に2人が振り返ると、そこには龍馬の姿があった。しかも、何やら水中でもがき苦しんでいる……

 

「り、龍馬くん! どうしたの!?」

 

「アルトくん……! あれを見ろ!」

 

『うじゅじゅじゅじゅ〜〜〜♪』

 

グルミが指差した方向にアルトが目を向けると、龍馬の背中にまたしてもタコが張り付いていた。

 

ダークラビットによって天高く吹き飛ばされた筈のタコだったが、どういうわけか『島』に戻ってきていた。

 

「ちょ……!? なんで僕を狙うのさ! 男! 僕は男の子だってば!」

 

『うじゅ?』

 

タコはそこで、ようやく龍馬が男性用の水着を着ていることに気づき、驚いたような表情を浮かべた。しかし、それでもなお龍馬の体から離れようとすることはなく……それどころか龍馬の海パンに触手を伸ばし始めた。

 

「えぇ!? なんで!?」

 

『うじゅじゅ!』

 

慌てる龍馬に、タコは「普通に考えて、こんなに可愛い子が男の子な訳ないじゃないか!」と説明し、さらに「上を着ていないのはヌーディストビーチの例があるから〜」と付け足した。

 

「って、説明しても何言ってるのか分からないよ!」

 

 

 

「説明してるってのは分かるのか? 龍馬くん……」

 

「それよりも、早く助けないと!」

 

龍馬を救出しようと、アルトが慌てて海に飛び込もうとした時だった。

「2人とも! 来ないで!!!」

タコに絡みつかれた龍馬は、2人に助けを求めるどころか、むしろ必死な様子でそう告げた。

 

「そ、そんな……でも……」

 

「いや、アルト君待て! 何か考えがあるみたいだ」

 

グルミに止められ、アルトは海に飛び込む寸前で岩場にとどまった。タコと格闘しながら、龍馬は2人が海から上がっていることを確認すると、そこで……

 

「いくよ! オーバーロード!!!」

 

『うじゅーーーーーーーー!!!!!????』

 

龍馬は体内に蓄積された電流を放出させた。

海中という逃げ場のない環境下で放たれた電撃は、超広範囲のMAP兵器と化し、水タイプのタコに対して効果抜群だった。

 

「いや、ゲームが違うだろ……」

 

「でも見て! すごく効いてるみたいだ!」

 

岩場の上に避難していたグルミとアルトに電撃の被害が及ぶことはなかった。しかし、指揮官との特訓で電撃の技に磨きがかけられたことにより、電撃は彼自身が思っていた以上に広範囲へと影響しており……

 

「ぐえええええええ!!!???」

 

「のわぁぁぁぁぁぁぁぉぁあ!!!??」

 

その為、海水を伝って遠く離れた場所で水鉄砲を撃ち合っていたシャロと曦夜にも電撃が及んでしまった。電撃をモロに食らった2人は絶叫し、それから目を回して仲良くプカーンと海に浮かんだ。

 

『う……うじゅ……』

電撃を至近で受け、タコは丸焦げになった。

龍馬の体や水着に張り付いていた触手は力なく垂れ下がり、やがて動かなくなったタコの体は海流によって押し流され、そのままタコは海中へと姿を消した。

 

「や……やった! ねえねえ2人とも!僕やったよ!」

 

「すごいや! やったね龍馬くん!」

 

「ああ……正直、見直したぞ」

 

見事、タコの撃退に成功し、3人は歓喜に包まれるのだった。

 

しかし、その一方で……

タコのいなくなった海中に、電撃のショックで剥がれた落ちたタコの皮膚の一部が漂っていることに気づく者はいなかった。

 

 

 

続く……




これを書いている時点で水着スキンの発売終了まであと6日……予定されていた最終話までは間に合わないですが、まあ他のソシャゲではまだ海イベントやってるところもあるのでアイサガの夏は終わらないってことで、もう少しだけ……


追記、間に合わなかったので続きは来年の夏に書きます。
(>人<;)ごめん


次回は、いよいよエレインの乳をかけてセレニティとビーチフラッグ対決です。
それでは、また……

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