秘剣・燕返しでイキりたい人生だった   作:ツバメの巣

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第1話

『お主、死んだので次の世界に転生ね。特典は…『秘剣・燕返し』じゃな。では頑張れよ~』

「え?」

 

 真っ白な世界で、俺は白いローブに草の冠という神様みたいな格好をした老人と出会い、そして次の瞬間に意識を失い…

 

 

 

 

「…え?」

 

 気がつけば、俺は次の生を受けていた。

 

 見知らぬ森の中で、俺は最初、ぽかんとアホ面のまま、唖然と突っ立っていたと思う。

 

 バカみたいな話だと思うが、これが俺が話せる唯一の真実だ。更に具体的に言うとするならば、家の数km遠くのチーズ生産工場が謎の大爆発を引き起こし、飛んできた硬いチーズホールが天文学的な確率で俺の頭に突き刺さり即死。そして死後の世界で転生が決まり今ここに至るという感じ。

 

 いや、まさかあんな事で死ぬなんて普通にマジで悲しくなっちゃうくらい悔しいんだが。俺、今まさに生きてるって感じの花の男子高校生だったんだぜ?まだやりたいことも知りたいことも…って言うほど殊勝に生きてはいなかったが、それでも悔いや未練はある。

 

「あぁんまりだぁぁぁあああああ!」

 

 そういう訳で今生が始まってすぐ俺はまず産声を大声量で上げた。泣き止んだ頃には、ふ~スッとしたぜぇ~…となっていたのでやはり先人の知恵というものは大事だと思いました、まる。

 

 ちなみに産声と言っても、赤ちゃんスタートというわけではなく、目を覚ました時には俺の身体は大体6,7歳程度の黒髪のショタになっていたんですけどね。当然前世の俺の姿というわけでもない、完全別人の姿なので、これは異世界転生というよりも異世界憑依なのではないだろうか、という疑問が湧いて出てくる訳だが、まあどちらにしろ転生するのに違いはないし、細かいことは気にしないことにした。

 

 それよりも、問題は神()が言っていた、『特典は燕返し』という言葉と、そしてご丁寧に左手に握らされていたさや入りの刀のほうだ。

 

 刀は全体的に黒で統一された、装飾の一つもついていないシンプルな刀だった。抜いてみても銘は掘られておらず、ただただ濡れたような艶やかな表面と波打つ刃がそこにあっただけだった。

 

「…秘剣、燕返し」

 

 フェイトは俺だって知っている。ただ、有名なネタだとかいくつかのキャラ、宝具を知っているくらいで。そして秘剣・燕返しは、俺が中二病を患っていた頃に刀に執着するようになり、その時に知った技だった。

 

 何でも理屈としては平行世界の自分の斬撃を呼び寄せる、多重次元屈折現象を引き起こすらしく、一振りを行うその一瞬に、連撃ではなく、言葉通りの意味で複数の刃が現れるという、必中の技なのだ。

 

 …まさかゾンビの方の燕返しでは無かろう。俺、そっちは全くと言っていい程知らないし。

 

 使えるとすれば確かにかっこいい。かっこいいが…。

 

「…全然駄目じゃねえか!」

 

 いくら振っても使えない。彼のアサシンと同じように振ってみても尚駄目だった。一体何がダメなんだと何度も何度も何度も何度も試したが、ついぞ刃が増える兆しは見えなかった。

 

「はあ…はあ…畜生、何故だ!?やり方も使い方も分かるのに…!」

 

 そう、俺は刀の振るい方…すなわち術理を完璧に理解できていた。物凄く気持ち悪くて不思議な感覚なのだが、知らないはずのそうした知識、経験が頭の中にぎちぎちに詰まっているような感覚だ。この時はこう振ればいい、というのが感覚的に分かるのだ。

 

 だが、それでも秘剣は打てない。

 

 何故だ…と頭に疑問が渦巻くものの…少し考えてみればすぐにその理由は分かった。

 

 何故も何も、そもそも俺には決定的に足りぬものがある。

 

 それすなわち、身長である。俺にはガタイが足りない。加えて筋力も。そして技術の使い方さえも。

 

 いくら技術があろうが、それが他人に植え付けられた偽物であり、加えて肉体もヒョロヒョロのショタともなれば、秘剣など打てようはずがないのだ。

 

「あの自称神め…言ってる事とやってる事がちぐはぐじゃないか…!」

 

 完全に適当な、やっつけ工事みたいなものだ。

 

 だが、ぶっちゃけそんなことに文句をつける意味はない。こうして次の生に生かしてもらったことだけで俺にとっては嬉しい事なのだ。死んだ後も自分が自分のまま生きていけるというのは、本当に心の底から安心できることだった。

 

 ちなみに、この世界は当然ながら普通じゃなかった。

 

 森にはゴブリンがいるし、空には鳥の魔物がいる。

 

 そう、生きる力が必要だった。戦い、自分を殺そうとする奴らを殺す力と覚悟が必要だ。

 

 故に秘剣を目指す。素地を用意され、そして答えも示されているのなら、俺はそうする。そうすることが、この先俺の武器となり、俺の生きる為の資格となるのだから。

 

 その日から、俺の修業の日々が始まった。

 

 

 

1日目 晴れ

 

 最初から来ていた服のポケットに日記とペンが入れてあったので、折角だから日記を書いてみることにする。と言っても、今日何をしたかを適当に箇条書きにするだけのメモみたいなものだ。人に見せる予定もないし、自分が分かる程度の走り書きになるだろうが、そこはご愛敬である。

 

 まず、俺は修行するための拠点作りを行うことにした。

 

 それも当然で、何もされていない森の中は危険でいっぱいだし、雨が降れば体温が奪われ、風に吹き曝しになれば体力が消耗していく。屋根のある拠点が必須だ。

 

 生活に必須な水源は割と簡単に見つかった。というのも、俺がこの世界に来た場所のすぐ近くに綺麗な小川があったのだ。そこから少し離れたなるべく平らな場所に、刀と術理を使い木を斬って集め、そして蔦を使って傘のように重ねて骨格とした。

 

 火は、近くにいるゴブリンの集落を修行程度にぶっ飛ばし、使っていた焚火から火種を拝借することで何とかした。ゴブリン共は切った後黒い煙となって消えたのだが、そこに枝豆程度の大きさの紫色の結晶が落ちていたのに気が付いたので、一応だが全部拾い集めている。

 

 綺麗なので、売れば多分金にはなるだろう。いつか人里に行った時に見せてみよう。

 

 ちなみに、飯は兎を斬って食べた。あっ、ここユー〇ューブのサバイバル動画で見たところだ!とか一人で遊んでた。

 

 ちゃんとその後、命に感謝していただきました。

 

 

 

2日目 晴れ

 

 拠点が何とか出来たので、早速修行に移る。

 

 まず素振りを行う。基礎は大事である。

 

 刀を構え、そして型を意識しつつ…振る。これを繰り返す。

 

 何度も、何度も何度も何度も何度も…そして、気が付けば既に空は茜色。

 

 集中しすぎだ馬鹿、と自分を罵倒しながら、急いで飯のタネを確保しに行くことになった。

 

 

〇日目 晴れ

 

 今日も素振りだ。

 

 素振りを始めて早一カ月とちょいが経過したか…少しずつだが術理が身に沁みついてきていることが分かる。

 

 だが、身に着けるだけでは駄目だ。ちゃんとその本質を理解し、そして自分の技として昇華させなければ。それがゴールなのだと術理自体が俺に教えてくれるのだ。

 

 故に今日も刀を振るう。たまに気分転換に魔物の群れを探しに行って腕試しをしつつも、基本は素振りだ。

 

 あ、ただしゴブリンは見つけ次第なんとなく滅ぼすことにしている。ゴブリンは皆殺しだ。

 

 

▼日目 雨

 

 雨の中素振りをしていると、ついに俺は開眼してしまった。

 

 分かるのだ。刀の振り方が。逆に今までの俺の素振りはてんでダメで不細工だったのだと痛感させられた。これこそが完成形、これこそが彼のアサシンの術理の本質なのだと魂で感じ取る。

 

 だが、同時に理解してしまった。この術理は俺には合わない。まず刀の長さが違うし、俺の身長も全く違う。というか、この世界に来て早1年が経過し、最初の拠点だったあばら家が今や立派なツリーハウスに進化したというのに、俺の身長は少ししか伸びていない。

 

 この状態で、このままなぞるだけで成長してしまうと、俺はいずれ必ず頭打ちになってしまうだろう。それはよくないし、秘剣にも届かない。

 

 故に、ここから先は俺の独自の術理を悟らねばならない。その為にも…素振りだ。俺はこの刀を振り続けよう。

 

 …というか、最近すぐ近くに燕の巣ができ始めたのだが、俺には関係ないと思いたい。

 

 

■日目 晴れ

 

 素振りをしていると、一羽の燕に物凄く邪魔をされた。振っていると俺の意識の穴からフンを落してくるし、俺の太刀筋に合うように硬い木の実を落してきて、俺に切らせてその中身を自分で食うという中々ふざけた行為を度々繰り返してきた。

 

 流石に邪魔なので意趣返しに羽の一本でも切ってやろうと刀を振るうが、奴は未来予知でもしているのかスルスルと俺の放つ刃の軌跡の間を縫うように掻い潜っていってしまう。

 

 今こそ燕返しの本領発揮だオラァ!…と言いたいところだが、俺の今の技術じゃ逆立ちしたって出せないので今はキ~!とハンカチを噛んで地団太する他ない。

 

 いつか必ず斬ってチキンステーキにして食ってやるからな此畜生!

 

 

 

 

 

 

●日目 晴れ

 

 奴が現れて、どれくらいの月日が経過しただろう。冬を6回巡ったので、俺がこの世に出てきて大体6年程度が経過しただろうか。

 

 燕は切れないし秘剣にも至れないし多少成長して中学生レベルになったとはいえ未だにショタのままだしで、特に最後のとか、流石におかしいだろうと思わなくもない今日この頃。

 

 今日、俺はようやっと秘剣に至った。

 

 まだ一本しか増やせないが、それでも秘剣は秘剣。燕の奴の羽の先っぽも斬る事に成功したし、初めて奴の悔しそうな顔を見ることができた。

 

 彼のアサシンには未だ届かず。それどころか、自分の矮小さをこれでもかという程見せつけられて、身の程を知る毎日だ。

 

 だが、それでも確かに一歩ずつ進んでいる。それが俺にはどうしようもない程嬉しい。

 

 自分の成長にいちいち心を動かされるなど、まだまだ未熟者である。その日、イノシシを狩ってきて豪勢な宴を1人で開きつつ自家製の酒も飲みつつ、俺は謙虚な姿勢でそう自嘲したのだった。

 

 何故か燕に突かれまくった。何故。

 

 

 

 

 

 

 

?日目 晴れ

 

 ここでできる事に限界を感じてきた。

 

 秘剣・燕返しも三本に増え、やっと彼のアサシンの足元が見えてきたかもしれない可能性も無きにしも非ずという所まで来たとは言え、もっと強くなる為にはどうするかを俺は考えた。

 

 そういう訳で、俺は人里に行くことにした。やはり成長には外部からの刺激も必要不可欠。月並みな表現で言えば、強い奴に会いに行く、という奴である。

 

 それにいい加減、一人での生活も飽きたというものだ。燕の奴は知らん。あんな奴知り合いではない。人の酒好き放題飲みやがって。作るのに時間かかるんだぞアレ。

 

 そういう訳で、まだ見ぬ強敵たちを夢想しつつ、今日はこの辺で眠りにつこうと思う。

 

 ああ…旅立ちが楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

「ふんふふーん…こっちの転生者はそろそろ安定してきそうじゃな。ん?おお、こっちの転生者は死んでしまっておるではないか…死んでしまうとはなんと情けない。もう一度生き返らせてやろう」

 

 天界にて、神が並行世界を見渡しながらぶつぶつと呟いていた。その目には情は一切見えず、ただゲームの盤上の駒を動かしているだけのような、冷たい目をしていた。

 

「おっと、そう言えばこれゾンの『秘剣・燕返し』を特典としたあの転生者は今何をしておるのかのう」

 

 ふと思い出したかのように、手を挙げて対象の世界線が映るレンズをこちらに寄せる。

 

「…えっなにこれ。なんでfateの燕返しが使えるようになっとんのじゃこいつ…?」

 

 神はそのあり得ぬ所業を成し遂げた転生者に心底引いて、「…気持ちわるぅ~」とそのレンズをそっと脇に避けたのだった。

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