再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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ちょっとした気分転換で、活動報告に載せた内容を書いてみました。


もしも隆誠が誰かの家族だったら 一条家①

 一条将輝には兄がいる。『隆誠』と呼ばれる兄が。

 

 本来の歴史だと将輝は長男であるが、神の悪戯によるものかは不明だが次男となっていた。

 

 その隆誠は、一条剛毅の息子でありながらも一条家の秘術『爆裂』を扱う事が出来ない。それどころか現代魔法すらまともに扱う事が出来ないと言う、致命的な欠陥が周囲に知れ渡り、そして蔑まれる日々を送る。

 

 魔法師の頂点である十師族が魔法を使えないのは致命的な欠陥である。それを知った他の十師族や百家の魔法師達が知れば、どのような行動に出るかは分かり切っていた。隆誠を『一条家の恥』や『無能魔法師』などの蔑称し、挙句の果てには敬遠される始末。

 

 父親の剛毅としては当然、大事な息子を侮辱する相手を決して許さない。だがそれ以上に、魔法の才能を受け継がせる事が出来なかった自分の不甲斐無さを何よりも許せなかった。

 

 その結果、『爆裂』を扱う事が出来て、魔法師としての才能が非常に溢れてる次男の将輝を次期当主にせざるを得なかった。魔法を重視する魔法師として当然の流れであるが、剛毅にとっては苦渋の決断である。

 

 だが、肝心の当人は――

 

『良いよ』

 

 弟の将輝が次期当主になる事を反対しないどころか、あっさりと承諾したのだ。

 

 これには剛毅だけでなく、一緒に聞いていた将輝も驚いていた。

 

 普通であれば、家督を継ぐのが次男になると知れば長男は反発を抱く。けれど隆誠はそうしないどころか、弟の将輝が次期当主になる事を快く受け入れていた。

 

 

 

 

 

 2092年6月

 

 

 

「ねぇ母さん、折角だから今日は俺が夕飯作るよ」

 

「ダメよ」

 

 日曜日の夕方前。

 

 平和な日々を過ごしてる一条家のリビングで、隆誠が頼み込むも、母親の美登里が笑顔のままキッパリ断っていた。

 

「いつも言ってるでしょ? 私が風邪を引いた時に頼むって」

 

「そんな固いこと言わないでさぁ。偶には息子が作った手料理を食べてよ」

 

「いくら隆誠でも、こればかりは流石に譲れないわ」

 

 普段は物腰が柔らかい美登里であるのだが、いつもと雰囲気が違う。笑顔でありながらも途轍もない威圧感を漂わせている。

 

 隆誠と美登里のやり取りに、剛毅、将輝、茜、瑠璃は内心嘆息する。『また始まった』と思いながらも、会話に入ろうとせずに見守っていた。

 

 彼女が頑なに断ろうとしてるのには理由がある。息子の作った料理が母親の自分より美味しかった事でショックを受けたのだ。

 

 以前に隆誠が料理を披露したいと言われた際、美登里は苦笑しながらも了承した。どんな夕飯になるのかと楽しみに待ってリビングへ来た瞬間、彼女だけでなく、剛毅達すらも目を見開いた。まるで一流の料理人が作った美味しそうな料理が並んでいたから。

 

 余りの料理の出来栄えであった為、剛毅達は最初、本当に隆誠が作ったのかと疑う程だった。けれど、隆誠が台所で調理してる所を美登里が見ているから、本当に息子が作ったと証明されている。

 

 疑いが晴れた後、父親の剛毅が代表する様に隆誠の手料理を口にした途端、美味いと言いながら食べ続け、母親の美登里や子供の将輝達も同様の事をしていた。

 

 隆誠が前世(むかし)――兵藤隆誠の頃、料理スキルが上達していた事もあり、その経験を活かして新たな転生先である一条家に披露した。腕は落ちていないと思いながらも、隆誠は家族が自身の手料理を美味しく食べてる事を微笑ましく見ていた。

 

 しかし、そこで状況が一変した。一条家の末娘である瑠璃の一言によって。

 

『お母さんの料理よりおいしかった』

 

 その瞬間、美登里はあっと言う間にショックを受けてしまった。まるで現実と向き合ってるかのように。

 

 愛娘からの台詞に、母親である美登里が凄く口惜しい顔となって、以降は隆誠を料理を作らせないようにした。『自分が風邪を引いた時にだけ作っても良い』と言って。

 

 そう言う理由で、今日も至って健康である美登里は隆誠に料理を作らせようとしない。

 

「なぁ親父、兄貴と母さんに何か言ったらどうだ? あのままだと喧嘩になりそうだぞ」

 

「……生憎だが、料理については口出し出来ん」

 

 将輝が父親として二人を宥めるよう頼むが、剛毅は少しばかり言い訳染みた理由で断っていた。

 

「全く。リューセー兄さんったら、母さんを困らせるんだから」

 

「私はお兄ちゃんの料理が食べたい」

 

 娘の茜と瑠璃は思った事を口にしながらも、剛毅と同様に口出しをする気は無いようだ。

 

 もし下手に関わってしまえば――

 

「だったらこうしない? 父さんが俺か母さん、どっちの手料理を食べたいかを」

 

「あら、それは名案ね」

 

 ああして自分達にどちらの料理が食べたいかを選択されてしまうから。だが今回は残念ながら、父親である剛毅となってしまったが。

 

 二人の会話を聞いていた剛毅は、ビクッと体を震わせ、ギギギッと振り向く。

 

「なぁ父さん、今日は俺が作ろうと思ってるんだけど、どうかな?」

 

「あなた、隆誠に言って下さらない? 料理を作るのは母親の役目だって事を」

 

「あ、いや、それは……」

 

 大事な息子と妻からの頼みに、剛毅はどうにか平和的解決を図ろうと考えるが、すぐには思い浮かぶ事が出来ず、しどろもどろになっている。

 

 思わず別の方へ視線を向けるも、息子の将輝達は巻き込まれたくないと言わんばかりに、剛毅からの視線を咄嗟に逸らした。

 

 十師族に連なる者とは思えないほど、平穏な日常を送ってる一条家。

 

 しかし、二ヶ月後に起きる佐渡侵攻事件で、隆誠が途轍もない実力者である事を判明するのであった。




今回は一条家の日常話でした。

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