論文コンペ。正式名称は「全国高校生魔法学論文コンペティション」。
開催日となった当日、俺は途中で中条と合流した後に会場に着いた。
来て早々、中条は審査員としての打ち合わせがある為、俺は彼女に「何かあれば連絡してください」と言って一旦別れた。
「あ、兵藤君!」
すると、移動してる俺を見付けた壬生が慌てた感じで此方へ駆け付けてくる。恋人の桐原も一緒に。
「おはようございます、壬生主将。そんなに慌てて、どうしました?」
「どうしました、じゃないわよ! 修哉君と佐伯さんが倒れたって本当なの!?」
壬生が慌ててる理由が分かった俺はすぐに納得した。
確かに大事な弟分である修哉が倒れたとなれば、姉分の壬生としては黙っていられないだろう。
と言っても、倒れたと言うのは少々大袈裟だった。三人で一緒に帰ってる途中、修哉と紫苑が突然フラフラし始めたところを俺がすぐに支えたのだ。
もし重病であれば
「医者の診断によると軽い風邪らしく、安静にしてれば大丈夫だと言ってましたよ」
俺が診断したとは言っても、一応は病院に連れてって診察させてる。その後には二人の家族が迎えに来て、家に帰らせたから心配はない。
医者の診断結果や家族が連れ帰った事を聞いて安心したのか、壬生は安堵の息を吐いていた。
「そうだったの。なら明日は修哉君の家に行ってお見舞いに行かないと」
「…………」
ははは。相変わらず壬生は修哉を大事な弟のように見ているなぁ~。
彼女の恋人である桐原も当然理解してるだろうが、それでもチョッとばかり面白くなさそうな
「桐原先輩、思う所はあるでしょうが、ここは寛容な心で向き合った方が宜しいかと」
「な、なに訳の分からねぇこと言ってんだお前は!?」
桐原は俺の言ってる意味が分かっていながらも、敢えて分からないみたいに少々慌てた感じで言い返してきた。
壬生と恋人同士になって半年近く経つも、未だ修哉に対して油断出来ない相手と見ているようだ。肝心の修哉は紫苑の事が好きだから別に問題無いのだが、恋人以上に仲が良い雰囲気を見せられると、桐原としては気が気じゃないってところか。
これも青春だと我ながら爺臭い事を考えてると――
「だから、部外者の貴方達は大人しくしてなさい!」
「あたし達が警備に参加するくらい、別に良いじゃないですか」
俺達から少し離れたところから、言い争いらしき会話が聞こえた。
振り向く先には、エリカと千代田が険悪な表情で睨み合っている。エリカの後ろにはレオ、千代田の後ろには五十里がいるも、どちらも止めようとする気配が見受けられない。
「エリちゃん……」
「千葉の奴、またかよ……」
以前の光景を思い出してるかのように、壬生と桐原は溜息を漏らしていた。
そう言えば確か、エリカとレオはこの前のプレゼン準備中で騒ぎを起こしていたな。その翌日に俺が注意しようにも休んでいたから、司波に『周囲に迷惑を掛ける行動は慎むように』と伝言を頼んだが、エリカ達の様子を見る限りではそんな気は全然無いようだ。
レオはともかくとして、出来れば五十里が止めて欲しい。まぁ、あんな険悪な雰囲気で止めようとしても、エリカが簡単に引き下がるとは思えないが。
例え壬生と桐原が諫めたところで、エリカは聞き入れようとしないだろう。であれば、エリカの友人である司波ならと思いきや、丁度良いタイミングで会場に到着した。
その後に司波が諦めたかのように二人の間に割って入り、ある程度の会話が終わった後、エリカとレオを引き連れてロビーの隅に向かっていく。
穏便に済んだとは言えないが、千代田はエリカの後姿を不愉快そうに見ている。
「やれやれ、司波兄のお陰で何とかなったが……」
「もう。どうしてエリちゃん達は何であそこまでして……」
桐原と壬生は安堵しながらも、エリカ達の行動に疑問を抱いているようだ。
「全く、本当に癪に障るわね……!」
「まぁまぁ花音、落ち着いて……」
歩きながらもエリカに対する怒りが抑えきれないように愚痴を零す千代田を、婚約者の五十里が宥めていた。
すると、俺がいる事に気付いた千代田が此方へ視線を向けてきた。
「あっ、兵藤君じゃない!」
「おはようございます、千代田委員長。朝から災難でしたね」
「全くよ!」
俺が挨拶した後に気遣うように言った直後、千代田はエリカに対する不満を俺にぶつけてきた。
これには五十里だけでなく、壬生と桐原も一緒になって宥めようとしている。エリカの知り合いだけあって、二人も非常に申し訳ない気分になっているのだろう。
俺達と話してある程度落ち着いたみたいで、千代田はある事を思い出したかのように尋ねようとして来た。
「そう言えば兵藤君、さっきそっちの会話がチョッと聞こえたんだけど、紫苑が倒れたってどういう事?」
「あ、それはですね」
紫苑を大事な後輩と見てる千代田が心配そうに問うてくるので、俺は先程壬生に教えた内容を言う。
「――ってな訳で、今日は欠席です」
「そうだったの」
休んでいれば大丈夫と分かったのか、途端に千代田は安堵の息を吐く。
「前から気になってましたが、千代田委員長は随分と紫苑の事を目にかけてますね」
「当たり前じゃない。あの子は大事な後輩なんだから、心配するのは当然よ」
紫苑は本当に愛されているな。俺の思い過ごしなのか分からんが、何だか千代田が摩利に見えてしまう。
摩利が千代田を可愛がってるように、今度は千代田が紫苑を可愛がってるって……想像しただけで凄い光景だ。もしかすれば、千代田が風紀委員長を引退したら次は紫苑に引き継がせるんじゃないかと予想してしまう。二科生のままでも風紀委員長になれるかは分からんが。
「花音、そろそろ行かなきゃ」
五十里が声を掛けると、千代田は風紀委員長としての仕事を専念しようと、俺達と別れる事になった。
開幕時間が間近になってきて、会場全体が段々賑やかになってきた。
中条はメインホールにある審査員席の方へ向かってるが、俺は未だ客席に行かずロビーにいた。
前にも言った通り、俺は論文コンペに大して興味が無いから、プレゼンを見たいとも思っていない。見るとするなら一高だけで充分だ。
なので今日の俺は、一高が万全な状態でプレゼンが出来るよう裏方に徹する予定だ。当然それは中条に前以て話してある。彼女としても、プレゼンに出る市原達には是非とも優勝して欲しいから、是非ともサポートして欲しいそうだ。
それはそうと、見慣れない妙齢の女性が一高の控え室に入ったのを目撃した。俺の記憶が正しければ、以前の九校戦で俺と『ジェネレーター』の後を追っていた三人の内の一人だった。
学校の関係者ではないのに、あそこに迷いなく入ったとなれば、あの中にいる筈の司波兄妹に用があったのだろう。そう考えると、司波兄妹とは顔見知りと言う事になる。もしくはあの女性も、司波兄の所属先である独立魔装大隊の軍人、という可能性もあり得るだろう。
軍と言えば、大亜連合が送り込んだスパイはどうなったんだろうか。全員拘束されて解決して欲しい事を願うしかないが、それでもどうなったか知りたいものだ。論文コンペ終了後、九島烈に訊くのもいいかもしれない。向こうも何かあれば連絡しても構わないと言ってる事だし。
「あら、兵藤君」
突如名前を呼ばれた事に俺は反応した。
声を掛けて来たのは、久しぶりに見る相手だ。
「おう、一色に十七夜じゃないか。久しぶりだな」
「ええ、貴方が三高に来て以来ね」
「お久しぶり、兵藤君」
第三高校の
それに四十九院沓子も……あれ? この場面なら間違いなく、あの子は即行で俺に引っ付いてくる筈なんだが……。
「なぁ、沓子がいないけど別行動中か?」
「違うわ。今は留学してるのよ」
「え? 留学?」
俺の問いに一色が返答するも、思わず鸚鵡返しをしてしまった。
聞いた話によると、以前の九校戦で刺激され、武者修行をする為に二学期から留学をしてるそうだ。
金沢にいた時にそんな話を全く聞いてなかったから、寝耳に水も同然だった。
まぁ、本人が望んでやっているから、俺がああだこうだと口出しする事じゃない。それに強くなろうとしてるなら、ディーネの主に相応しくなるやも――
――主、私にそんな気は……。
分かった分かった。だからそんな訴える様な念話をしないでくれ。今は一色達と話してる最中なんだからさ。
「? どうかしたの?」
ディーネに念話してる事は気付いてないが、十七夜が不審そうに訊いてきた。
「いや、何でもない。にしても沓子が留学ねぇ。となると、茶碗の件は聞けないか」
「茶碗?」
「沓子と茶碗に何の関係があるの?」
俺の台詞に、一色と十七夜が気になる様に質問してきた。
今度は俺が教えようと、二人に俺が金沢で一条家で泊まった翌日以降に観光をした事を教えた。修哉と紫苑と一旦別れ、沓子と一緒に陶芸店に行って焼き物の体験教室をやった事も含めて。
直後、一色と十七夜は途端に意味深な笑みを浮かべ始めようとする。
「ふ~ん、そう言う事だったのね」
「うん、納得した。沓子は私達に内緒で、兵藤君と二人っきりのデートを楽しんでいたのね」
「は? デートって……」
何言ってるんだこの二人は。俺は単に沓子と観光を楽しんでただけで、デートをしていたのは修哉と紫苑なんだけどなぁ。
前にも言ったが、俺はあの子に対して恋愛感情は抱いてない。可愛い孫みたいな感じ程度だ。それを口にすれば最後、二人から絶対何か言われるだろうから伏せておく。
「ところで、天城君と佐伯さんはホールにいるのかしら?」
この場にいない沓子と似たように、いつも俺と一緒にいる筈の修哉と紫苑がいないのを見て、一色は二人の事を訊いてきた。
「いや、二人はチョッと病欠でな」
俺が病欠と言った瞬間、一色と十七夜は心配そうな表情となった。けど、俺が軽い風邪だと教えると、すぐに安心する。
短い時間だったとは言え、修哉と紫苑は彼女達と三高でそれなりに話した間柄だから、心配するのは当然だろう。
『間もなく九時より開会式を行います。関係者、ご参加の皆様はメインホールへお越しください』
すると、開始前のアナウンスがロビーに流れた。それを聞いた周囲の多くは少々急ぐようにメインホールへ向かおうとする。
一色と十七夜は一緒にホールへ向かおうと言われたが、俺は裏方の仕事があるからと体裁よく断った。言っておくが嘘は吐いていない。
俺の言葉に一切疑う事なく、二人は「また後で」と言って別れようとするも――
「あ、兵藤君。言い忘れてたけど、警備として参加してる一条君が貴方に用があるみたいよ」
一色がそう言った後、理由を尋ねる前にいなくなってしまった。
俺に用があるとは一体……?
まぁ、本人に聞けば良いだけの事だ。警備に来てるって言ってたから、どこかでバッタリ会う可能性は充分あるだろう。
如何でも良いが、司波兄妹と会った女性をどうしようか。もしも彼女が独立魔装大隊の軍人であったとしたら、探りを入れてみるのも良いかもしれない。
未だに確証が無いとは言え、独立魔装大隊が司波を使って密かに俺の調査をさせているのであれば、此方も相応の反撃をしようと思っている。
手段としては……今も俺の傍にいるレイとディーネのどちらかに、あの女性に貼り付かせて、気になる情報があれば、視覚と聴覚の共有をして頂く、というやり方だ。
非常識な手段ではあるが、こっちは散々司波に調べられている身なので、そんな事はもう気にしてられない。
彼女に貼り付かせるのに最適なのは――
――はいは~い! ご主人様、レイがやるの!
――主、是非とも、私に、やらせて下さい!
俺の目の前には、凄く張り切っているレイとディーネが揃ってアピールしていた。
一応言っておくが、この子達は今も透明化してる為、(
まぁ取り敢えず、もう少し経ってから実行するとしよう。別に焦って動く必要は無い。俺が対象を調べようと認識した瞬間、あの女性はその時点で目に見えぬ
感想お待ちしています。