再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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横浜騒乱編 襲撃

(今のところは問題無さそうだな)

 

 時刻は午後三時を過ぎており、既にホールにいる俺は出入り口付近で一高のプレゼンを立ち見している。

 

 加重系魔法の技術的三大難問の一つ「重力制御型熱核融合炉」を発表のテーマに掲げた一高のプレゼンは大きな注目を浴びていた。ホールにある席をざっと見ただけで、学校の職員・生徒以外に、研究者と思わしき人達も大勢集まっており、熱の籠った視線を壇上に向けている。

 

 その壇上にはライトが照らされ、市原の抑制が効いた濁りの無い声が流れていた。

 

 彼女の説明に合わせるように五十里がデモンストレーション機器を操作し、司波は舞台袖でCADのモニターと起動式の切り替えを行っている。

 

 見ていて思ったのは、やはりこう言うのはアザゼルを含めた『神の子を見張る者(グリゴリ)』の堕天使達が好みそうな内容だ。魔法に関する研究であれば、元『禍の団(カオス・ブリゲード)』の英雄派――ゲオルクも好んでいるかもしれない。

 

 聖書の神(わたし)も一応研究者であるが、この世界の魔法の研究に然して興味無い。自分が使えなければ意味が無いから。だが、それでもある程度の知識を得たいと思っている。一応自分もこの世界の魔法師であるから、知っていて損は無い。

 

 市原達のプレゼンは(つつが)()く進み、とっておきのように新技術「ループ・キャスト」によって実現したアイデアの素晴らしさに、観客達は惜しみない称賛を送る事となった。

 

 

 

 

 

 

(残りのプレゼンは三高、か)

 

 一高の発表が終わり、休憩時間となった俺は外の空気を吸おうと会場の出入り口付近に佇んでいた。

 

 最後に行われる三高では吉祥寺も出る予定である。確か内容(テーマ)は「基本(カーディナル)コード魔法の重複限界」、だったか。カーディナル・ジョージと呼ばれてる吉祥寺真紅郎の為にやるような内容に、思わず苦笑してしまう。

 

 アイツの相棒である一条としては是非ともプレゼンを観に行きたいだろうが、警備中の為にそれは叶わない。十文字から防弾チョッキ着用を命じられ、厳戒態勢を敷かれてる今の状況では猶更に、な。

 

 厳戒態勢と言えば、大亜連合からの襲撃は何時になったら起きるのやら。出来ればこのまま何事も無く終わって欲しいのだが。

 

 

 ――ご主人様、あそこを見てなの!

 

 

 すると、(俺だけしか見えない)レイが慌てるように指しながら言ってきた。

 

「アレは……!」

 

 その方向へ視線を向けた先には、此処から少し離れた所で黒い煙が立ち上っている。火災、もしくは何かが爆発したかのように見受けられた。

 

 確かあそこに山下埠頭の出入港管制ビルがあった筈。まさかもう既に襲撃が始まって――

 

 

 ――主、向こうから、来ます!

 

 

 今度はディーネが正面の方を見ながら叫んだ。

 

「やはり此処にも来たか」

 

 方向を変えた正面には、見慣れない格好をした集団が現れた。

 

 色が不統一のハイネックのセーターにジャンパーとカーゴパンツみたいな余裕のあるズボンを身に纏っており、いかにもゲリラ兵と思わしき集団だった。

 

 その集団の何人かが擲弾発射器(グレネードランチャー)と思わしきモノを此方へ向け、そして発射してきた。

 

「やらせるかよ」

 

 擲弾(グレネード)が会場に当たる寸前、俺が咄嗟に左手を前に出し、防御結界を張った事で防いだ。

 

 会場に着弾しなかったとは言っても、流石に爆発音までは防げない。この音は当然周囲全体に響き渡り、会場にいる者達にも当然聞こえている。これによって会場内が大騒ぎとなるのは時間の問題だった。

 

 何度も攻撃を防いでいるのが俺だと分かったのか、ゲリラ兵の連中は標的を変更しようと、突撃銃(アサルトライフル)と思わしき武器を此方へ向けてきた。加えて突撃銃(アサルトライフル)を大型にした物もある。

 

 それで確実に仕留める事が出来ると思っているのだろうが、生憎と俺はそんな玩具(オモチャ)の面倒まで見切れない。使う前に壊させてもらう。

 

 銃口を向けられるも、俺が右手でパチンッと指を鳴らした瞬間、ゲリラ兵共が構えてるライフルが突如ボンッと小さな爆発が起きる。それによって相手側は困惑の表情となっていた。

 

 アレは以前「ブランシュ」が一高を襲撃した際、図書館に潜入した連中の一部がデータを吸い出す為の記録キューブと、ハッキング用の携帯端末を壊した時に使った聖書の神(わたし)能力(ちから)の一つ。視界に映る距離であれば、道具や武器を破壊する技でもある。聖書の神(わたし)がその気になれば、人間ごと爆発させる事も可能だが、個人的にやりたくないので控えている。

 

 さてさて、擲弾(グレネード)を平然とぶっ放してくれたゲリラ兵共には、俺から相応の持て成しをしてやろうじゃないか。

 

 そう考えた俺は防御結界を解除した後、右手の人差し指で自分の正面に光の軌跡を生み出し、直後に軌跡は割れガラスの雨のように前方に向かって高速で降り注いでいく。

 

『うわぁぁぁぁあああ!!!』

 

『ぎゃぁぁあああ!!!!』

 

 割れガラスの光弾に直撃しているゲリラ兵共から、聞くに堪えない悲鳴を上げながら次々に倒れていく。アレには聖書の神(わたし)の光も含まれてるから、直撃すれば倦怠感に襲われて動けなくなってしまう。

 

 今使ったのは、『ドラグ・ソボール』劇場版に出る極悪人キャラのオンネンバが使う技――『シャイニングシャワーレイン』。さっき説明したように、指で光の軌跡を作り、それを破裂させて割れたガラス片のように敵へと襲いかかる拡散系の光弾技。俺としても個人的に気に入っており、前世(むかし)(イッセー)も凄くカッコいいと高評価してる技でもある。

 

 俺がその気になれば、割れガラス状の光弾はゲリラ兵共を簡単に貫いて穴だらけにする事も可能だが、敢えて加減しておいた。平然と破壊行為をする連中には、相応の激痛を味わってもらいたいから。

 

 殺しはしないが、相応の報いは受けてもらう。尤も、生き永らえたところで、聖書の神(わたし)の光を受けた以上タダでは済まない。今回はチョッと強めの光だから、暫くまともに身体を動かす事が出来なくなる。場合によっては後遺症になるかもしれないが、生憎とそこまでの面倒は見切れない。聖書の神(わたし)からの罰だと思って諦めてくれ。

 

「なっ、こ、これは……!」

 

 ゲリラ兵共が俺の技によって倒れて動けなくなった直後、会場内にいる警備の魔法師達が此方へ駆け付けてきた。

 

「申し訳ありません。奴等が重火器を使って此方を襲撃してきたので、勝手ながら俺の方で片付けておきました。後の事はお任せしてもよろしいですか?」

 

「わ、分かった……。協力に感謝する」

 

 三十人ほどいるゲリラ兵共が無残な姿となってるのを見て、警備の魔法師達は困惑しながらも、俺に感謝の言葉を述べて直ぐ対処しようと動き出した。

 

 

 

 ゲリラ兵共の対処を警備の魔法師達に任せた俺は、会場に入って早々にホールへ向かおうとしている。

 

 奴等が堂々と正面から襲ってきたと言う事は、恐らく裏からも侵入している筈。そう考えると、ホールにいる観客達を人質にとってもおかしくない。

 

 襲撃して既に数分経ってるから、ゲリラ兵共がホールを占領しても――

 

「兵藤、何故お前が此処にいる?」

 

「それはこっちの台詞だ、司波」

 

 と思いきや、ホールにいる筈の司波達也と鉢合わせる事になった。

 

 だが、今回は司波だけじゃない。当然のように同行してる司波妹、エリカ、レオ、幹比古だけでなく、柴田、光井、北山までもいた。完全に司波一行の勢揃いだ。

 

 前半の四人はともかく、戦闘向き魔法師じゃない後半の三人が何故来たのかが分からない。恐らく司波の手助けをする為に来たんだろうが、俺からすれば却って邪魔なだけだ。

 

 まぁ、それを俺が口出しする事じゃない。此処でそんな事を口にしてしまえば、覚悟を決めて戦場に来た彼女達の気を悪くして、今後の友好関係に大きく影響してしまうから。

 

「お前達が移動してるって事は、ホールはもう大丈夫なのか?」

 

「ああ。つい先ほどゲリラ兵と思われる侵入者達に襲われたが、既に共同警備隊によって取り押さえられている。俺達は正面入り口の敵を片付けようと来たんだが……」

 

 司波は簡単に状況を教えた後、ロビーにいる俺を見て気付いたようだ。

 

「お前が此処にいると言う事はもしや、正面から襲撃してきた敵はもう片付けたのか?」

 

「ああ。今は警備の魔法師達に任せてるよ」

 

 既に終わらせた事を答えた瞬間、エリカとレオが途端に反応を示した。

 

「え~~!? もう片付けちゃったの!?」

 

「そりゃないぜ、リューセー!」

 

 まるで出番を奪われたかのように文句を言ってくる二人に、俺は内心少しばかり不快な気分になった。

 

 コイツ等、この状況で一体何を考えているんだ? 命の遣り取りをする危険な戦場と化してるのに……まぁ、それだけ自分の実力に自信があると言う意味合いにしておくか。

 

「まぁ片付けたとは言え、まだまだ敵は沢山いるだろうな。外で戦う前、他の場所でも襲撃されていたのが見えた」

 

「やはりそうか」

 

 会場以外にも襲撃をされてる事を教えると、司波は納得するように頷いた。

 

「だとすれば、情報が欲しい。兵藤が言った通り、これは予想外に大規模で深刻な事態が進行してるようだ。下手に動けば泥沼に嵌り込むかもしれない」

 

「そうだよなぁ」

 

 確かに司波の言う通りだ。何の情報も無いまま動いてしまえば、知らずに敵と遭遇して予想外の戦闘になる可能性だって充分あり得る。

 

 安全ルートを確保する措置として、俺が進路先にいる敵を一掃する手段を取れるが、それは却って面倒な事になってしまう。俺一人で大亜連合の連中を全て片付けるのは可能であっても、そうしたら司波だけでなく軍からも警戒される破目になる。更には家族にも迷惑が掛かってしまう為、出来れば最終手段にしたい。

 

 司波が何か考えているとは別に、俺も俺で周囲に迷惑が掛からない為の対処法が無いか画策してる中――

 

「だったら、VIP会議室を使ったら?」

 

 突如、北山が提案した事に俺と司波だけでなく、エリカ達も一斉に彼女へ視線を送った。

 

「あそこは政治家や経済団体の会合に使われる部屋だから、大抵の情報にアクセス出来るはず」

 

 予想外の情報だったと言わんばかりに、司波が意外にも面を喰らったかのような表情となっていた。

 

「何で北山が知ってるんだ?」

 

 俺も思わず疑問を口にした。北山の言ってる事が本当であれば、それは一般人が知り得ない情報だ。

 

「父に連れてきてもらった事があるから。暗証キーもアクセスコードも知ってるよ」

 

 あっさりと理由を教えた北山に、俺は少しばかり呆れた。当然北山にではなく、彼女の父親に対してだ。

 

 大体、そんな重要な部屋に娘を連れてくること自体おかしい。もしもそれが明るみになれば、重要情報漏洩として問題視されてしまうだろう。

 

 とは言え、今の俺にそれを指摘する事は出来ない。確かな情報が必要である現状としては、例え違法手段であっても、それに頼らざるを得ない。

 

「雫、案内してくれ」

 

 司波も理解してるみたいで、すぐにVIP会議室へ連れてって欲しいと頼んでいる。

 

 その言葉を聞いた北山も、珍しくオーバーアクションで大きく頷いた。


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