再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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横浜騒乱編 避難

「大丈夫。この後に避難する予定で、軍の人達が護衛してくれるから」

 

 司波がいなくなって軍人の藤林達が真由美と十文字に出発前の打ち合わせをしてる中、俺の携帯端末から着信音が響いた。電話してきたのは母さんからだった。

 

 通話をONにして早々、物凄い心配してる声で無事を確認してくる母さんに、俺は安心させるように話している。

 

 何故知っているかについてだが、どうやら横浜が襲撃された事は緊急速報ニュースとして日本中に知れ渡っているようだ。それを見た母さんは俺が論文コンペの会場に行ったのを即座に思い出し、不安な気持ちになりながら電話してきたのだ。

 

 本当に大丈夫なのかと何度も尋ねてくる母さんからの質問に、俺は無事だとアピールしようとテレビ電話に切り替え、無傷である事を証明させている。

 

「セージとセーラには、帰るのがチョッと遅くなるって伝えといて。うん、うん。大丈夫だよ、母さん」

 

 母さんの気持ちを理解してる為、俺は終始笑顔で対応している。これで下手に焦る気持ちを出してしまえば、母さんは危険を覚悟しても横浜へ足を運ぶだろう。絶対にそうすると断言出来る。

 

 嘗て父さんが事故で他界した事により、当初は悲嘆に暮れていた。その頃の俺は小学生でありながらも、部屋に引き籠もっていた母さんを励まし続けた結果、やっと立ち直る事が出来て今に至る。

 

 けれど、現在横浜で襲撃を受けている俺が、今度は父さんの次に失うのではないかと母さんは危惧していた。万が一にそうなったら、再び悲嘆にくれる事になるだろう。更にはセージとセーラも後になってから二度と俺に会えない事を知れば、母さんと一緒に哀哭(あいこく)するのが目に浮かぶ。

 

 生憎、俺は家族を悲しませる気は断じて無い。家に帰って無事な姿を見せようと安心させるつもりだ。たかが人間のテロリスト如きに殺される程、聖書の神(わたし)はそんなに弱くない。それどころか返り討ちだって容易に可能だ。

 

 本当なら転移術を使って自宅に戻りたいところだが、流石にソレは無理である。いくら家族が大事と言っても、真由美達を見捨てる気など毛頭無い。

 

 

「リューセーくん、もう行くわよー!」

 

 

 すると、少し離れた先から真由美から声が掛かった。どうやら打ち合わせが終わったようだ。

 

 それといつの間にか十文字が車に乗って、避難先とは違う方向へ向かっていた。行き先からして……魔法協会支部か。恐らく十師族の一員としての責任を果たす為に向かうのだろう。

 

 母さんに「これから避難する」と言って通話を切り、真由美達がいるところへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 軍人の藤林達に先導されて、地下シェルターが設置されている駅前広場へ向かっている最中だ。

 

 避難してるのは控え室にいた俺達以外にも、地下通路に逃げ遅れた一高生徒や市民も含まれている。

 

 予想以上の大人数である為、移動するには相応のリスクがあった。魔法科高校の生徒とは別に、魔法が使えない市民もいるので、もし兵器を使っての襲撃をされたら確実に死傷者が出るだろう。

 

 そうならないよう俺が襲撃してくる敵を事前に片付ける為に先行したいが、軍人の指示に従わなければならない立場だから、それを実行する事は叶わなかった。

 

 いくら護衛の軍人達や実力者揃いの真由美達がいるとは言え、急な不意打ちを仕掛けられたら防ぎようがない。もしも乱戦となれば、戸惑う市民達が我先にと勝手に飛び出してしまう可能性がある。

 

 故に俺が動けないとなれば、別の手段を使うしかなかった。本当は古式魔法師の幹比古や、特殊な目を持ってる柴田の前で使いたくはないが、そうも言ってられない。

 

 

 ――ご主人様、変な形した大きな人形みたいなのが来るの!

 

 ――ならバラバラにしておけ。但し、人間がいるなら殺すなよ。

 

 ――はいなの! 

 

 

 透明化中の神造精霊レイからの報告を聞いて、即座に命令を下した。

 

 

 ――主、レイ姉さまが、壊した人形の中に、人間が、いました。

 

 ――ならば眠らせておけ。

 

 ――了解、しました。

 

 

 今度はディーネからの報告に、別の命令を下す。

 

 もうお気付きだろうが、レイとディーネに先行させ、敵と遭遇したら無力化するよう命じていた。

 

 本格的な戦闘をする事に精霊(こども)達は俺の為に頑張ると張り切って、透明化状態のまま一足先に駅前広場へ向かっていた。

 

 その途中では予想通り、敵の兵器――直立戦車と遭遇した事によって、透明化を解除したレイが姿を現した直後、背後から(かま)(いたち)の如く風の刃を発動させ、直立戦車の脚と両腕を切断。突然の強襲で直立戦車の操縦者が出てきた事で、透明化を解除したディーネが真上から水の魔法を発動させて深い眠りへ誘わせた。

 

 並みの魔法師とは桁違いの魔法を繰り出す精霊(こども)達に、聖書の神(わたし)は少しばかり驚いた。風を操るレイと、水を操るディーネの能力(ちから)は予想以上である。もしも古式魔法師達が使役すれば、相当頼りになるだろう。

 

 けど、やはり力加減が未熟であった。生まれたばかりの子供だから仕方ない。知識と経験を積ませなければ、あの子達が進化する事はないだろう。今後の事も考えて、俺の方で戦闘指南も考慮しておく必要がありそうだ。

 

「え? 何、今の音は!?」

 

「もしかして、どこかで誰か戦ってるの!?」

 

 すると、避難してる最中に大きな音が聞こえた事で、同行してる市民から戸惑いの声が上がった。大きな音とは言うまでもなく、レイが風魔法で直立戦車を切り裂いた時に発生したものだ。

 

 当然これは市民だけでなく、俺達の耳にも入っていた。軍人の藤林達は勿論の事、真由美達もCADや武器を構えている。

 

「皆さん、今から確認してきますので、この場から動かないで下さい!」

 

 藤林がそう言って落ち着かせた後、数人の部下達に確認して来るよう命じた。その隙に俺はレイとディーネに透明化して去るよう念話を送っている。

 

「藤林少尉、音の発生場所を確認したところ、直立戦車と思わしき兵器が二機共に切り裂かれており、その操縦者二名が意識を失っていました」

 

「何ですって!」

 

 数分後、確認に向かわせた部下からの報告に、藤林が驚きの声を上げており、一緒に聞いていた真由美達も似たような反応を示していた。

 

 正体不明の第三者がやったのかと疑問に思われるも、今は避難を優先しようと後回しとなった。

 

 

 

 

 

 

「これは……!」

 

「地下のシェルターは無事なの……!?」

 

 レイとディーネのお陰で敵と遭遇する事無く駅前広場に辿り着くも、目の前の惨状に摩利と真由美が目を見開いていた。一緒に見ている俺や避難民達も含めて。

 

 これにより、地下のシェルターに避難するのが不可能となった。路面が陥没してる事で、出入り口が壊されているから。

 

 

 ――そう言えば、あの大きな人形が、此処で何かやってたの。

 

 ――地面に向かって、攻撃らしき事を、してました。

 

 

(アイツ等の仕業か!)

 

 念話による報告を聞いた途端、俺は直立戦車に乗っていた操縦者の方へ視線を向けた。ソイツ等は今も意識を失っており、藤林の部下達によって拘束されている。

 

 今すぐに能力(ちから)を使って奴等の記憶と情報を頂きたいが、周囲の目もある為に出来ない。

 

「……大丈夫です。会長達は無事で、地下のシェルターにいます」

 

 幹比古が目を閉じたまま、そう告げた。札を出して魔法を発動させていると言う事は、精霊魔法を使って地下の状況を確認してるのだろう。

 

 それを聞いた真由美達は安堵の息を吐くも、此方の状況が不味い事に変わりはない。

 

「この入り口が塞がれた以上、シェルターに避難するのは無理ですね」

 

 俺の台詞に、真由美達は深刻な表情となっていく。

 

 加えて、シェルターの入り口を潰され途方に暮れた市民が段々此方へ集まって来ている。

 

「如何されますか?」

 

 真由美が避難民の代表だからか、藤林が判断を仰ぐように尋ねてきた。

 

 此処に留まっては敵に狙われるのがオチだ。流石に避難民の人数を考えれば、周囲の目を無視してまで俺が頑張って撃退するしかない。

 

 状況が状況だから止むを得ないと決断してる中、真由美が答えようとする。

 

「父の会社のヘリを呼びます。逃げ遅れた人達を乗せて、空から避難しましょう」

 

 空から避難、か。確かにそれしかないだろう。

 

 だが、それは地下の避難以上に危険でもある。ヘリで移動中に敵が撃ち落とす可能性が充分高い。

 

 とは言え、その選択しかないのが実状だ。多少の危険を覚悟してでもやるしかない。

 

「私も父に連絡します」

 

 すると、北山もヘリを用意すると言ってきた。

 

 彼女はVIP会議室のアクセスコードを知ってる令嬢だ。真由美と同様、父親も相当な権力者である。

 

 ヘリを使っての避難に、藤林は反対する様子は無かった。

 

「それでは部下を置いていきますので」

 

「いえ、それには及びませんよ」

 

 すると、明らかに知らない声が突然割って入って来た。

 

「警部さん」

 

(かず)兄貴!?」

 

 どうやら藤林とエリカは知っているようだ。

 

 エリカの呼び方から察するに、兄妹と見て間違いないだろう。

 

「軍の仕事は外敵を排除することであり、市民の保護は警察の仕事です。我々が此処に残ります。藤林さんは……っと、藤林少尉は本隊と合流してください」

 

「了解しました。千葉警部、後はよろしくお願いします。」

 

 何だかタイミングが良過ぎる登場な上に、まるでリハーサルしてきたような台詞だな。

 

 俺がそう思ってると、藤林はピシッと敬礼して颯爽と去って行く。

 

「良い女だねぇ」

 

「あ、無理無理。和兄貴の手に負える女性(ヒト)じゃないって」

 

 しみじみと呟いた千葉の独り言に、エリカから容赦のない突っ込みを受けて、彼は打ちのめされた表情となる。

 

 見た感じ、随分仲が良さそうな兄妹だ。普段から呆れるほどイチャ付いてる司波兄妹とは全く異なり、こっちは微笑ましく見える。

 

「兵藤くん、今何か失礼な事を考えませんでしたか?」

 

「別に何にも」

 

 司波妹も兄と同様に鋭いな。と言っても顔には出さずにスルーさせてもらうが。

 

 その時、エリカに何かを渡していた千葉が俺を見た途端、急に近付いてきた。

 

「もしかして君、兵藤隆誠君かい?」

 

「ええ、そうですが」

 

 どうやら彼は俺の事を知ってるようだ。

 

 当然、警察に目を付けられる事をした憶えはないから、別の事で知ったのだろう。

 

「初めまして。俺は千葉寿和で、エリカの兄だ。この前の九校戦は見せてもらったよ。ピラーズ・ブレイクだけでなく、モノリス・コードで見せた剣技は本当に凄かった」

 

「ああ、成程」

 

 九校戦を通じて知ったのか。となると、俺が一条を倒した時に使った技――九頭龍撃も見ていた筈だ。

 

「もし良かったら千葉(ウチ)の道場に来ないかい? 君ほどの実力者であれば歓迎するよ。弟の修次も来て欲しいと願っててね」

 

 修次と言った途端、摩利がピクリと反応するも会話に参加する様子は無かった。

 

「あの、出来れば俺を勧誘する前に、仕事を優先して欲しいんですが」

 

「警部、彼の言う通りですよ」

 

 俺の指摘に、千葉の部下と思わしき男も言った事により勧誘は一先ず中断される。


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