再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

105 / 224
横浜騒乱編 防衛戦

 軍人の藤林達から交代する様に、千葉寿和を含めた数名の警察官が市民を護衛する事となった。その間、真由美と北山がヘリを手配する為の連絡をするも、流石にそんな早く到着しない。それまでは待つしか無かった。

 

 だが、それを敵が易々と見逃したりするほど馬鹿ではない。この近くで(レイとディーネによって)直立戦車が倒されたのは、既に奴等の耳に届いている筈だ。加えて地下通路に潜伏していた連中が服部達によって駆逐されたから、そろそろ応援を寄越してもおかしくない筈だ。そうなれば駅前広場は確実に戦場となってしまい、真由美と北山が手配したヘリが着陸出来ないどころか、撃ち落とされてしまうだろう。

 

 市民を避難させる為、今もヘリが着陸できるように警察が路面を整えてる駅前広場を、誰かが守らなければならないのは必然であった。

 

 それは本来警察がやるべきなんだが、肝心の彼等は路面を整えている他、市民の護衛をしなければいけないので無理だ。どちらも重要な役割である為に、防衛に割く事は到底出来ない。

 

 となれば、市民も防衛に参加してもらうしかなかった。その中には戦闘に多少自信がある魔法師候補の学生達がいるから。

 

 参加者は司波妹、エリカ、レオ、幹比古、柴田、壬生、桐原、千代田、五十里、警察の千葉寿和、そして俺の計十一名。

 

 防衛をするくらいなら俺一人だけでも充分なのだが、そうなると色々問題が起きてしまう為、敢えて出しゃばる事はしなかった。

 

 俺が唯一口出ししたのは、壬生についてだった。彼女に何かあれば弟分の修哉が悲しむ為、防衛に参加しないで欲しかったから。これには桐原も同意して、後ろに下がるよう言っていたが、当の本人が『自分も戦う』と言って一歩も譲らない状態で、結局参加する事となる。強制的に意識を失わせる手段を考えたが、壬生の覚悟を知った以上、それはやるにやれなかった。

 

 相手が侵攻する経路は三つとなってるから、三手に別れる事になる。人数を考えて平均的に4:4:3で数を分けるべきなのだろうが、此処で俺がある提案を出した。侵攻経路の一つは俺一人だけで請け負うから、残りの二つは五人で対応すると言う、1:5:5の分断案を。

 

 これを聞いて、皆から即座に反対された。特に真由美を筆頭に、警察の千葉寿和からも絶対駄目だと。

 

 そうなる事を既に予想していた俺は、納得させる為の理由を告げる。

 

「九校戦のピラーズ・ブレイクで披露した魔法を(チョッとばかり)本気で使おうと思っています。ですがそれだと皆さんが巻き添えになってしまうから、俺一人でやると言ったんです」

 

 俺があの時の試合で全く本気じゃなかった事を知った途端、真由美達は驚愕していた。アレが手加減していた威力だったと微塵も考えなかったのだろう。

 

 嘘じゃないと理解してくれるも、真由美はそれでも一人だけでやるのは認められないからと、摩利を急遽参加させる事にした。俺を誰かと一緒に同行させる為の妥協案として。

 

 本当は必要無いと反対したかったが、そうすれば俺の分断案を断じて受け入れてくれないから、俺は渋々従う事にした。

 

 

 

 

 

 

「リューセーくん、もし君が不利だと判断した場合、あたしが前に出るからな」

 

「分かってます」

 

 場所は変わって侵攻経路の一つ。

 

 此処には腕を組みながら敵を待ってる俺と、いつでも戦えるように武器を手にしてる摩利がいる。

 

 意気込んでる彼女に申し訳ないが、今回はあくまで見物に徹してもらう。出番など一切無く終わってしまうから。

 

 

 ――ご主人様、レイ達の出番はもう終わりなの~?

 

 ――主、よろしければ、私達も、手伝います。

 

 

 すると、透明化中のレイとディーネが傍にいながらも念話を送って来た。

 

 俺が戦闘すると知った途端、一緒に戦いたいと抗議しているのだ。

 

 気持ちは受け取っておくと俺が念話で送り返したら、レイ達は不承不承ながら言う事を聞いてくれた。明日以降になるが、この子達の時間を作っておくとしよう。

 

「――来たぞ」

 

 摩利の台詞を聞いた俺は意識を前方に向けると、直立戦車が姿を見せる。けど、レイ達が片付けたのと少し違っていた。

 

 直立戦車の右手にチェーンソー、左手に火薬式の杭打機を取り付けられ、更には右肩に榴弾砲、左肩に重機関銃が備わっている。

 

 まるで戦闘用ロボットみたいだと思いながらも、此方へ接近しようとする禍々しいフォルムの機動兵器を迎撃しようと、俺は左手でパチンッと指を鳴らした。

 

 直後、三両の機体は槍と形容すべき黄金の光――『光の槍』が無数に貫かれてる事によって足を止めた。

 

 倒れなかったのは、脚部に多くの光の槍が深く突き刺さってる為、動くに動けない状態となっている。

 

 それ以外にも、機体が装備してる武器も同様となっているから、機銃も榴弾砲も使用不能状態により撃てない。

 

 動きを止められ、更に火器も封じられた直立戦車は、最早木偶(でく)人形となっている。

 

 こんな物に時間を掛けるつもりなど無い俺は、上げている左手を下ろし、今度は右手を上げてパチンッと鳴らした。

 

 瞬間、直立戦車に突き刺さっていた光の槍が急に輝きだし、そして爆発した。まるで連鎖するかのように連続で鳴り響かせている。

 

 爆風や衝撃は相当なモノだが、距離が離れている為に俺と摩利には何の被害も無いので大丈夫だ。

 

 爆発によって発生した煙が段々消えていくと、先程まであった筈の直立戦車は原型を留めないほど無残な姿で倒れており、動けない状態なのは明々白々であった。

 

「……………………」

 

「ま、最初はこんなところか」

 

 三両の直立戦車が出現して早々、無数の光の槍で貫かれ、それが爆発し倒された。しかも十秒も満たない時間で。これではまるで、アイス・ピラーズ・ブレイク一回戦をやっているような気分だ。

 

 摩利もそれを思い出しているのかは分からないが、口を開けたまま呆然としている。

 

 まぁ俺としてはそんな事より気になる事がある。

 

 あの直立戦車の中にはパイロットと思わしき人間がいなかった。レイとディーネが倒した機体の方にはいた筈なのに、俺が倒したヤツには生命反応すらなかった為、遠慮無く破壊させてもらった。

 

 兵器については知らないが、自律起動型兵器にするほど進化、もしくは魔法による操作。他の可能性もあるかもしれないが、人間が入ってない直立戦車が来るのであれば、全く考慮せずに倒せるから却って好都合だ。

 

 そう考えていると、新たな直立戦車が数量現れた。しかもさっきと同じく、人間が搭乗していない方の。

 

 さて、今度は『トラップシューティング』で片付けるか。これでまた更に現れたら『キルビーム』の連続撃ちで穴だらけにしてやろう。

 

 未だに呆然状態の摩利には悪いけど、もう暫くアイス・ピラーズ・ブレイクの再現を見物してもらうか。

 

 

 

 

「こっちには大して来ませんねぇ、摩利さん」

 

「いや、もう充分すぎるほど倒しているんだが……」

 

 防衛が始まって時間がそれなりに経過しており、俺と摩利の目の前には、残骸と化した兵器の群れ、そしてゲリラ兵共が倒れていた。

 

 直立戦車が次々と俺によって倒されていくのを知ったのか、重火器を持ったゲリラ兵達が応援として駆け付けるも、俺が会場の出入り口で使った『シャイニングシャワーレイン』の光弾によって撃退。当然、あの時と同じく連中は死んでおらず、その代わり暫くまともに動く事が出来ない状態になっている。因みに俺の技を始めて見た摩利は、あっと言う間に倒されていく事に少しばかり顔を青褪めていた。

 

 ついでに言っておくと、俺の後ろにいる摩利は今も戦闘に参加せず、俺が使う魔法によって敵を倒すのを見届けているだけだ。それでも万が一と言う事も踏まえて、未だに警戒せず武器を手にしている。

 

 

 ――凄いの凄いの! さっすがご主人様なの!

 

 ――お見事です、主。

 

 

 俺が簡単に敵を駆逐してくのを見ているレイとディーネが、我が事のように喜んでいる。

 

 この子達には俺が敵を駆逐してる最中、他の侵攻経路で戦っているエリカ達の様子を見に行かせた。視覚共有して見たところ、俺みたいに一瞬で終わらせてはいないが、それでも苦戦は強いられておらず、相手を押しているので心配無用であった。

 

 そこでチョッとばかり焦る事が起きた。レイとディーネが透明化して視てるのにも拘わらず、柴田が気付いたように振り向いていたのだ。尤も、完全に捉えていた訳ではなく、偶々運良く微かに感じ取った程度である。それでも直ぐに俺の下へ戻るよう命じた。

 

 やはり柴田美月は俺にとって、司波一行の中で一番油断出来ない存在だ。僅かに感じ取っただけとは言え、聖書の神(わたし)能力(ちから)によって視えないはずのレイとディーネを捉えたのだ。充分に警戒する相手と言えよう。

 

 幹比古から聞いた話によれば、彼女は(すい)(しょう)(がん)の持ち主ではないかと予想してるようだ。水晶眼とは精霊の色が見分けられる眼のことを指す呼称であり、更には精霊の源である神霊を見ることが出来る眼とされているらしい。

 

 レイとディーネは(幹比古曰く)神霊の類に属するから、水晶眼を持ってる柴田が気付くのは当然かもしれない。

 

 尤も、彼女は司波と違って無垢な人間(こども)である為、手を出す気など微塵も無い。もしもレイとディーネの存在を本格的に気付いた場合、チョッとばかり能力(ちから)を使って忘れてもらう程度だ。勿論、身体に一切支障の無いものだと聖書の神(わたし)が保証する。

 

「クソぉ!」

 

 残り一人となったゲリラ兵がライフルを持って特攻を仕掛けるが、大して慌てた様子を見せてない俺が右の人差し指から放たれた『キルビーム』で左肩を貫かれた瞬間、すぐに倒れて動けなくなった。

 

「君の魔法は最早戦術級と言っても差し支えないな。しかも司波妹が使う冷凍魔法以上に」

 

 もう見慣れたのか、俺の魔法で相手が即行で倒される事に摩利が苦笑しながら言ってきた。

 

「誉め言葉として受け取っておきます」

 

 司波妹と比較されるのはどうかと思うが、それでも悪い気はしない。これで匹敵すると言われたら気分を害してるところだ。

 

 そんな事を考えている中、真上から風切り音が聞こえた。俺と摩利が見上げても、ヘリの姿は見えない。

 

 ……成程。レイとディーネと似たように透明化、いや、光学迷彩による魔法で見えなくしてるのか。使ってるのは恐らく光井だろう。

 

 改めて目を凝らして見ると、思った通り、音が発生してる所からヘリの姿を捉えた。

 

「待っていたぞ、真由美。ああ、頼む」

 

 直後、摩利が持っている携帯端末から着信があり、真由美と会話していたようだ。

 

 その会話が終わった途端、頭上からロープが二本下りてきた。

 

 摩利が揃ってロープを掴み、末端のステップに片足を置いたので、俺もそれに倣おうとする前に――

 

「隠れるなら気配を完全に消しておけ」

 

「ぐあっ!」

 

「うぐっ!」

 

 俺がパチンと指を鳴らした瞬間、兵器の残骸に隠れているゲリラ兵共の悲鳴が上がった。この位置からでは見えないが、奴等は俺の光の槍によって脚を刺された瞬間に昏倒している。

 

「リューセーくん、今のは……!」

 

 向こうの悲鳴を聞いた摩利が掴んでいたロープから離れて警戒するも、俺は気にせずロープを掴み、末端のステップに片足を置く。

 

「大丈夫です。もうアレで打ち止めみたいですから、早くヘリに乗りましょう」

 

「………」

 

 何事も無いように言い放つ俺に、摩利が何故か恐ろしいようなモノを見るような目となっていた。




今回は隆誠視点のみにより、殆どすっ飛ばし同然の内容です。

感想お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。