再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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短い内容ですが、今回で横浜騒乱編のエピローグになります。


横浜騒乱編 帰宅

 敵艦の総指揮官を半殺し状態にして無様に倒れてるのを余所に、俺は日本へ戻る様に進路を変更した。流石に港まで戻る必要は無いから、自動操縦する際に横浜港の手前で停止するよう設定しておいた。後は日本軍の艦隊が接近し、不審に思いながらも潜入して、今も眠ってる大亜連合の敵兵共を一気に捕縛するだろう。

 

 日本軍と鉢合わせしたくない俺は、操縦設定を終えて早々にレイとディーネを呼び戻し、即座に転移術で退散。そして分身の俺と合流して元に戻り帰宅していた。

 

 何事も無かったかのように自宅へ帰ると、ずっと俺の心配をしていた母さんからの抱擁を受ける事となった。近くにいたセージとセーラは事情を全く知らない為に、母さんがどうして泣いているのかが全く分からずに首を傾げてるばかりだったが。

 

 俺の無事を確認して安堵するも、今度はチョッとばかり怒られてしまった。あの電話の後、全然繋がらなかった事でかなり不安な気持ちになっていたと。

 

 それを聞いて俺が携帯端末を確認したら、電源をOFFにしていたと思い出した。避難の他、戦闘中に誰かから通信が入ったら困ると思って電源を切っていた事に。

 

 改めて端末の電源をONにした瞬間、いきなり着信音が鳴って思わず驚くも、相手が修哉だと分かった途端に電話に出た瞬間――

 

『リューセー!! 何で電源切ってたんだよ!?』

 

 病み上がりなのにも拘わらず、物凄い勢いで怒鳴ってくる修哉に俺は謝るしかなかった。

 

 まぁその後――

 

『こっちがどれだけ心配して何度電話したと思ってるの!!??』

 

 修哉と同じく病み上がりである紫苑からも怒鳴られてしまい、一切反論出来ない俺は只管謝り続けていたのは言うまでもない。

 

 親と友人達から物凄く怒られた事により、俺は少しばかり精神的に参っていた。それだけ俺を心配していたと言う事なので、甘んじて受け入れるしかない。

 

 ある程度の時間が経ち、自分の部屋にあるベッドで寛いでいる中、またしても携帯端末から着信音が鳴った。

 

 今度は誰だよと思いながらディスプレイを見た瞬間、思わず少しばかり目を見開いた。

 

 ベッドで横になっていた俺はすぐに身体を起こし、少しばかり気を引き締めるように椅子に座り、端末の通話をONにする。相手の顔が見えるようテレビ電話にしながら。

 

「先日振りですね、九島閣下」

 

『夜分にすまないね、兵藤君。今話しても大丈夫かな?』

 

「ええ、良いですよ」

 

 画面の中では、以前と同じくスーツ姿の九島烈が映っていた。

 

 先日は通話だけだったので、顔を合わせるのは九校戦以来だ。相も変わらず元気そうな姿である。

 

 俺が了承の返事をした途端、彼は少しばかり笑みを浮かべている。

 

『そう言ってくれるとありがたい。それにしても……今日は災厄と呼べる一日になってしまったな』

 

「全くですよ」

 

 災厄とは当然、数時間前に起きた横浜侵攻の件についてだ。軍関係者である九島は、魔法科高校が論文コンペ中に大亜連合に襲撃されたのは当然耳に入っている。

 

 苛立たしげに答えた俺に、彼は気分を害した様子は見受けられない。

 

『君のご家族もさぞや心配していただろう』

 

「ええ。親だけじゃなく、風邪を引いていた友人達からも、俺が端末の電源を切ってて連絡出来なった事に、物凄く怒られましたよ」

 

『そうであろうな』

 

 少しばかり愚痴る様に答えると、九島は苦笑しながらも当然だと頷いていた。

 

『私も君の無事な顔を見れて安心したよ。尤も、呂剛虎を倒した君には無用なものであろうが』

 

「……何処でそれを、というのは愚問ですね」

 

 まるで見ていたかのような九島の言い方に、俺はすぐに気付いた。少し前、俺が横浜ベイヒルズタワー前で呂剛虎と戦い、そして勝利した事を。

 

 俺が呂剛虎と戦っていたあの場所には街路カメラが設置されている。それは当然撮影され、映像記録として保存されるのは言うまでもない。襲撃してきたのが呂剛虎がいる大亜連合の特殊工作部隊だから、その映像記録は国防軍の目に留まるのは必然だ。

 

『いやはや、九校戦で見せた以上の実力だったではないか。君には本当に心底驚かされるばかりだよ。呂剛虎を圧倒した君を今の内にスカウトしてもいいかね?』

 

「生憎ですが、閣下から推薦状を渡されても、俺は軍に入る気などありませんから」

 

『それは残念だ。仕方ない、今は(・・)諦めておくとしよう』

 

 今は、ねぇ。また機会があれば勧誘する気満々だな。出来ればそのまま諦めて欲しい。

 

『だが今後は気を付けた方が良い。あの映像は私以外の軍関係者は勿論の事、警察上層部も見ている筈だ。呂剛虎を倒せる実力を持っている君を、彼等が放置するとは思わない方が良い』

 

「でしょうね」

 

 世界から注目されてる呂剛虎を、魔法科高校の学生である俺が倒したと知れば、何かしらの方法で接触して勧誘しようとするだろう。尤も、それが本格的に動くとなれば、俺が魔法科高校を卒業する頃だろうが。

 

『もし向こうの勧誘が余りにしつこいのであれば、私に連絡すると良い』

 

「そう上手い事を言って、本当は俺を閣下の部隊に引き込む気じゃないんですか?」

 

『ハッハッハッハ』

 

 俺がチョッとばかりジト目となって睨みながら問うと、九島は誤魔化す気も無ければ否定もしないような笑いをしてきた。

 

 本当に喰えない爺さんだ。油断出来ないったらありゃしない。

 

 けどまぁ、『トリックスター』と称された九島烈から高評価を出されれば、普通の魔法師からすれば大変な名誉なのだろうが。

 

『さて、そろそろ時間も迫って来たことだし、此処からはチョッとばかり真面目な話をさせてもらおう』

 

 すると、先程までとは打って変わる様に、九島が突然真面目な表情となった。

 

『兵藤君も知っての通り、今回横浜を侵攻してきたのは大亜連合の艦隊だ。我が軍の防衛によって敵艦が敗走してる最中、奇妙な事が起きたのだよ。敗走した筈の敵艦が急に引き返し、その中にいた敵兵も何故か全員意識を失っていた。重傷となっていた総指揮官も含めてな。この事に我が軍は第三者の仕業ではないかと思って敵艦を隈なく調べたが、手掛かりは何一つ掴めず、犯人も一切不明のまま、敵艦にいた大亜連合の敵兵全てを捕縛する事にした。ここまで聞いて、私が君に電話をしてきた理由は、もう分かったであろう?』

 

「………成程。つまり閣下は、その奇妙な出来事をやらかした犯人が俺じゃないかと考えたんですね。ですが生憎、呂剛虎と戦っていた俺は敵艦に乗る暇なんか――」

 

『君ではなく、「白般若」と言う若者の仕業であろう?』

 

 犯人は俺じゃないと否定しようとするも、分身拳で変装したもう一人の俺の事を言ってきた。

 

 因みに九島は白般若が俺である事を知らない。無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)の幹部と機密情報を彼に差し出す際、分身拳を使ったまま、分身の俺と『白般若』に変装した本体の俺と言う、チョッとばかり奇妙な出会い方をさせた。それを見た九島は『白般若』の俺を見て、自分と全く別人だと思っている。

 

 その為、大亜連合の敵艦が奇妙な行動をしたのは『白般若』かもしれないと考え、こうして俺に確認をしようと電話したのだろう。当然それは大当たりであり、そこに辿り着いた九島には恐れ入る。

 

「一応訊きたいんですが、どこらへんでソイツの仕業だと思ったんですか?」

 

 変装した『白般若(おれ)』と裏取引してる九島に隠す必要は無いが、それでも確認の意味も込めて訊く事にした。

 

『報告を聞いた直後だ。敵艦が突然引き返すどころか、敵兵全てが意識を失って捕縛しやすかったと言う、余りにも都合が良過ぎる展開だったのでな。それに加え犯人の痕跡が一切無いとなれば、そんな事を仕出かすのは私が知る限り、君と白般若君くらいしか思い浮かばないのだよ。君達が九校戦の時、とある部隊からの監視の目をすり抜けるように、有益な情報を私に提供してくれたからね』

 

「そうでしたか」

 

 俺がとある部隊――独立魔装大隊の目に引っかからなかった事が、九島にとって一番の決定打になったという事か。

 

「んで、それを確信した閣下は俺を重要参考人として軍に出頭しろと命令するつもりですか?」

 

『まさか』

 

 心外だと言わんばかりに、九島は途端に意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 

『そんなつもりは毛頭無い。敗走した敵艦ごと撃沈するより、捕縛してくれた方が此方としては好都合であるからな』

 

「撃沈、ですか。確か白般若から聞いた話ですと、あの敵艦にはヒドラジン燃料電池を使ってるから、撃沈するのは不味かったのでは?」

 

『それを回避する手段が我が軍にはあるのだよ』

 

 具体的な事を口にしなかったが、九島の言った手段が戦略級魔法であるのは何となく分かった。

 

 いくら内容を(ぼか)しているとは言え、そんな重要な軍の情報を一般人である俺に教えるのは普通に考えてあり得ない。まぁそれだけ俺に対する信用があると言う事なのだろう。まぁ知ったからと言って、俺が誰かに教えるなんて絶対に無いが。

 

 九島は白般若がやったと分かった後、もしも独立魔装大隊から疑いの目を向けられた場合、上手く誤魔化しておくと言った。俺としてもそれはありがたい。

 

『取り敢えず、私の確認は以上だ。後の事は我が軍の方で処理するから、呂剛虎を倒した君はゆっくり休むと良い』

 

「そうします」

 

 本当であれば九島にある事を訊きたかった。大亜連合が鎮海軍港で艦隊を集結させているが、問題無く対処出来るのかと。

 

 それを知ったのは、あの敵艦にいた総指揮官からだ。俺によって半殺しにされて気絶してる最中、能力(ちから)を使って調べた際、別の艦隊が翌日以降に再び日本へ侵攻してくると知った。

 

 当然、その情報は九島も知っている筈。けれど彼がこうして俺に電話してくる余裕があるのは、国防軍がその艦隊を退ける手段があるのだろう。もしかすれば戦略級魔法なのかもしれないが。

 

 九島と話を終えた俺は携帯端末の通話を切り、画面もブラックアウトした瞬間、少し疲れたかのように息を吐く。

 

 今日は色々な事があり過ぎてチョッとばかり疲れてしまった。

 

 多分だけど、明日に一高は――いや、全国にある九つの魔法科高校は一斉に休校状態となるだろう。論文コンペ中に大亜連合の襲撃で被害を被ったのだから。

 

 もしも休校の通知が来れば、修哉と紫苑に会って無事な姿を見せるか。電話した際に二人は殆ど治っていて、明日には完全回復すると言っていた。

 

 あ、そう言えば三高の一条や吉祥寺、そして一色と十七夜は無事に避難出来たかな? 恐らく一条は十文字と同様、十師族の責務として今も横浜に残っていると思われるが。

 

 沓子は留学してる事もあって論文コンペに不参加だったから運が良か……ん? また着信音が鳴り始めたな。

 

 もう勘弁してくれよと思いながらディスプレイを見た途端、俺は電話に出ざるを得なかった。

 

「あ~、もしもし?」

 

 すぐに通話をONにして話しかけた瞬間――

 

『やっと繋がったのじゃ! 隆誠殿、ご無事か!?』

 

 三高の友人である四十九院沓子が凄く心配そうな声で、俺の無事を確認してきたのであった。




横浜騒乱編はこれで終了です。

次回は幕間と言うオリジナルの番外編になります。と言っても短い内容ですが。

ついでにそれが終われば、暫く更新停止して、他の作品の更新をしようと思います。

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